ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回はヒュドラとの戦闘回です。


第13話 VSガーディアン

~~前回までのあらすじ~~

順調に迷宮攻略を進めていたハジメと司たち。

新たにユエを加えた事で戦術の幅が広がり、

5人は迷宮の奥へ奥へと潜っていく。

そんな中で、アルラウネ似の魔物に操られた

魔物の群れと戦う一行。しかしユエの力と

彼ら4人の連帯、銃火器の前に群れは

倒され、本体の魔物も司の力の前に

呆気なく倒されたのだった。

 

 

アルラウネ型の魔物との戦いから既に数日。

今となっては、私達は大迷宮に潜ってから

2ヶ月近くが経過していた。

そして今、私達は最後の200層目を前に

していた。

 

しかし、ハジメの指摘通り、最後の200層

にはラスボスと呼べる強力な魔物が

待ち構えている可能性は否定出来ない。

なので、この迷宮での決戦の為に私達は

装備の強化、ジョーカーの強化を、

199層の拠点に止まりながら行った。

 

「んで、それで司が作ったのがこれか」

「はい」

今、私は部屋にスクリーンを作り出して

製作した兵器のデータを映し出しながら

色々と説明していた。

「まずは、ユエにこれを」

そう言って、メカニカルな腕輪を渡した。

 

「……これは?」

「それは腕輪型のシールドジェネレーター

 です。内部には超小型コンピューターが

内蔵されており、装着者が回避不可能。

もしくは、反応不可能な攻撃を感知

するとシールドを強制的に展開し

装着者を守ります。言わば、自動で

動く盾です」

「ん、ありがとう」

ユエはそれを受け取り、左二の腕の辺りに

セットする。

 

「続いて、現時点でのジョーカーの

最大火力ですが、これは以前香織が

召喚して見せた対物ライフルのミスラ

です」

「あぁ、あの馬鹿でかいの」

と、頷くハジメ。

「私はそのミスラを、Eジョーカーの

背面装備としても装備可能なように

 再設計しました。Eジョーカーの

 背面装備ラックに合計2門搭載

 可能です」

更に、私はアレースの改良型を取り出す。

「次に、このアレースです。アレースは

 振動の力で敵を切り裂き、ジョーカー

 本体とコネクタを接続する事で

 ヒートソードになりますが、更に

 機構を強化し、刀身にプラズマを

 纏うプラズマブレードとしての力を

 持たせました。今まで以上の切断力が

 期待出来るでしょう」

これまでは、既存の兵器の改良だ。

それと平行して、ジョーカー4機も既に

可能な限りアップグレードしている。

 

だが、更に私は切札を作った。

「そしてこれが、私がベヒモス戦で

 使用したG・キャノンの発展量産型

 高エネルギー兵器、『G・ブラスター』

 です」

スクリーンに映し出されたそれは、

あのG・キャノンより、二回りほど

大きかった。

 

「じ、G・キャノンって。あのベヒモスを

 一瞬で消滅させた奴でしょ?その

 強化型って……」

「このG・ブラスターはG・キャノンの

 数倍の威力を誇ります」

と、ハジメの言葉に応えると、G・キャノン

の威力を間近で見ていた香織が引きつった

笑みを浮かべる。

 

「しかし、このG・ブラスターにも欠点

 があります。私が使った場合ならば、

 私自身をエネルギー源とする事で連射が

 可能です。しかしハジメ達が使う場合には、

 ジョーカーのエネルギーを吸収しなければ

 なりません。そしてそのチャージ時間は、

 一回につき30秒は必要です。威力は

 大きいですが、チャージ時間も長く、

 また一回使用すると排熱や余剰エネルギー

 を放出するためにジョーカーが数秒、

 行動不能になる恐れがあります」

「……つまり、諸刃の剣、って訳だね」

「えぇ。ハジメの言うとおりです」

 

ハジメの言葉に応え、私は密かに

目を瞑る。

 

装備とは整えた。今創れる物は創った。

いざとなれば私の力を解放して敵を

倒す。

これまで、多くの敵を打ち倒してきた。

そう、これまでと同じだ。

彼らがこれまで私を信じて付いてきてくれた

ように、私も彼らを信じ、共に戦うだけだ。

 

「行きましょう。最後の場所へ。

 前に進むために」

私の言葉に、4人全員が静かに頷いた。

 

そして、私達のオルクス大迷宮での、

最後の戦いが始まろうとしていた。

 

 

事前に見つけていた200層目へと続く階段を、

私達は降り、その空間へと出た。

 

そこは、直径5メートルはあろうかと言う

柱が規則正しく並ぶ、広大な空間だった。

見事なレリーフの柱が並ぶ様は、まるで

神殿のようだ。

そしてまるで、訪れる者を待っていたかの

ように柱が、全て同時に輝き始めた。

 

その様子に4人が戸惑う中、私を先頭に

歩く。そして200メートルほど歩くと、

私達の前に巨大な扉が現れた。それを

見上げる私達。

 

そして、分かる。

『ここから先に進んでは行けない』。

本能がそう告げる。柱の列と扉の間には、

僅かな開きがある。恐らく、柱の最後の

間を通り抜けた時、『何か』が現れる。

そんな感じがする。

ハジメ達もそれを肌で感じているのか、

皆震えていた。ユエも真剣な表情のまま、

汗を流している。

 

「皆、聞いて下さい」

私は、4人の方に振り返りながら優しい

声色で語りかける。

「考えるまでも無く、この先には強敵が

 いる事だろう。しかし、『恐れるな』」

その言葉に、不思議と3人の震えが止まる。

 

「恐れ立ちすくむ者に、未来は無い。

 未来は、『勝ち取る物』だ。

 動物が生存競争を勝ち抜こうと必死に

 あがくように、どんなに絶望的な

 状況でも、あがくのも止めれば

 そこまでだ。だからこそ、足掻け。

 戦え。戦わぬ者に未来は無い」

そう言うと、ハジメ達はギュッと

手にしたタナトスを握りしめる。

 

「……怖いだろう。戦う覚悟を持つのは、

 容易ではない。恐怖を超える事も、

 またしかり。……しかし、隣を見ろ。

 誰がいる」

私の言葉に、4人は隣に居る『仲間』に

視線を向ける。

 

「そうだ。仲間だ。戦いを共にして

 来た、家族同然の仲間だ。

 皆は、一人では無い。絶望に

 挫けそうになった時は、隣を見ろ。

 絶望に立ち向かうのは、一人だけ

 ではない。共に戦う仲間と共に、

 それを乗り越えるのだ。

 そして、私を見ろ」

 

私は、メットを取り、皆を見る。

「私達は負けない。なぜならゴジラたる

 私が居るからだ。私が創り上げた、

 最強の武器と防具を皆が持っている

 からだ。負ける要素など無い。

 我々の勝利は、既に約束されている。

 後はただ、拒む敵を粉砕し前に進む。

 それだけだ。……この目が、嘘を

 言っているように見えるか?」

 

私は、真っ直ぐに4人を見つめる。

すると……。

 

「確かに、司がいたら負ける気なんて

 しなくなるよ。ふふっ」

ハジメが、笑みを浮かべた。

「そうだね。ここまで来たんだから。

 行こう。この先に」

香織も、タナトスのグリップを

握りしめながら笑みを浮かべる。

「うん。確かに怖いけど。でも、ツカサ

 お兄ちゃんが隣に居てくれるなら。

 私は何も怖く無いよ」

ルフェアも、笑みを浮かべる。

「……私も、ハジメを。皆を守る

 為に戦う。……覚悟は、とっくに

 出来てる」

ユエも、決意を宿した瞳で私を

見つめ返す。

 

私は、ヘルメットを被り直すと、

改めて4人を見つめる。

「ならば行くぞ。我々を阻む者を

 なぎ倒し、望む未来へたどり着く為。

 それこそが、我々の『戦う理由』

 なのだから」

 

そして、私達は最後の柱の間を

超えた。

 

次の瞬間、私達と扉の間に、べヒモスが

出現した時と同じように、しかしその3倍

はある巨大な魔法陣が現れた。

そして、魔法陣が強烈な光を放つ。

私以外の4人が一瞬目を背ける。

 

そして、4人が視線を戻すと、そこには

神話の怪物、ヒュドラのような6つの

頭と長い首を持つ怪物が居た。

その怪物が、こちらを睨み付けている。

 

「「「「「「クルァァァァァァンッ!!」」」」」」

ヒュドラは、私達を睨みながらまるで

開戦の狼煙のように叫ぶ。

 

だが、良いだろう。ならばこちらも、

決戦に相応しい雄叫びを上げると

しよう。

 

息を吸い込み、人間には到底出す事の

出来ない音を、今ここに響かせよう。

 

 

『ゴァァァァァァァァァッ!!!!!!』

 

 

次の瞬間、部屋に、いや、迷宮全体に

神の名を持つ獣の咆哮が響き渡った。

 

それは、神にして王者の叫び。

聞く者全てを恐れさせる、絶対的強者の声。

圧倒的な殺気と共に放たれた咆哮だけで、

ヒュドラは僅かに後退る。

 

そして、その叫びはハジメ達の鼓膜と、

魂をも震わせた。

しかし、それは悪い意味で、ではない。

 

ハジメ達4人は、司、シンゴジラ第9形態

と言う『王』の祝福を受けた者達だ。

司の、ゴジラの叫びは等しく敵を恐れ

おののかせる。しかし、ハジメ達に

とってその咆哮は逆の意味を持つ。

言わば、鼓舞の叫び。魂を奮い立たせ

戦う意識を高める。ゲームに例えるなら

言えば、最上級の応援スキルである。

 

その叫びは、敵にとっては死神の死刑宣告。

しかし味方にとっては、味方を鼓舞する

角笛の音の如し。

 

 

そして……。

「各員。戦闘、開始……!」

「「「了解っ!!!」」」

「んっ!!」

私が右手を掲げ、振り下ろせば、4人が

叫ぶように頷く。

次の瞬間、4人が左右に分かれて跳ぶ。

私の咆哮で萎縮していたヒュドラは、今に

なって戦闘が始まっている事を想いだした

かのように、首を左右に巡らせる。

しかしまだ恐れから抜け切れていないのか、

対処は目に見えて遅い。

 

「当たれっ!」

「そこっ!」

「行っけぇぇぇぇぇっ!」

「喰らえ……!」

左右から一斉に攻撃する4人。タナトスの

炸裂弾とユエの氷弾が赤、青、緑の模様の頭

に命中し、赤と青の頭は炸裂弾でボロボロに。

ユエの攻撃を食らった青の頭は、一瞬で

吹っ飛んだ。

黄色の頭は、その頭を肥大化させ、盾の

ようにしてハジメの炸裂弾をほぼ無力化した。

 

「クルゥアン!」

更に白い頭が叫ぶと、3つの頭が再生する。

そして反撃とばかりに、炎、氷、風の属性の

攻撃を放ってきた。それを飛び、転がったり

する事で避ける4人。

「あの白頭!回復役か!それにあの

 黄色頭も!炸裂弾がほぼ効かない!」

「攻撃と盾に回復。厄介ですね。

 ですが……」

 

私は武器リストの中からミスラを取り出す。

と、その時。

「いやぁぁぁぁぁぁっ!」

 

突如として私より少し離れた所にいる

ユエが叫んだ。そちらに視線を向けると、

彼女が顔面蒼白の状態で震えていた。

そこを狙い、赤、青、緑の頭がユエ

目がけて攻撃を放った。

 

「させん……!」

だがそれを許す私では無い。ヒュドラと

ユエの間に飛び込み、結界を創り

その攻撃を防ぐ。

「ハジメ……!ユエを……!」

「うん!」

そしてその隙にユエの元へ駆け寄りハジメ。

「ユエちゃん!ユエちゃんしっかり!

 ユエちゃん!」

ハジメは彼女の肩を掴み、必死に揺する。

しかしユエは反応せず、震えている。

 

その時私は、先ほどからユエに視線を向けて

居る黒い頭に気づいた。もし、奴らの

頭の色が司る属性を示すのだとしたら、

白は回復、或いは光。赤は炎、青は氷。

ならば黒は?……闇魔法。精神的な攻撃か。

 

「各自。あの黒い頭は恐らく精神的な

 攻撃を仕掛けてきます。奴の視線に

 気をつけて下さい………!」

警告を発しながら、私はミスラを黒い

頭に向けて発砲した。

 

『ドンッッッ!!!!』

大気が震え、砲声にも似た銃声と共に

放たれた19ミリ弾。黄色の頭がそれを

防ごうとするが、黒い頭諸共、吹き飛んだ。

すると、今度は私に攻撃を集中する

赤、青、緑の3匹。

そして攻撃の間に白頭が黒と黄色の頭を

再生させている。

 

「ハジメ……!あなたと香織はユエの

 治療を……!恐らく、精神攻撃を

 受けた可能性が……!柱の陰

 に一旦下がって下さい……!」

「「了解っ!」」

「ルフェアは私と共に奴らの注意を

 引きます……!」

「うん!任せて!」

 

「ユエちゃん!ユエちゃん!」

必死に呼びかけるハジメ。

「ハジメくん!私に任せて!」

その時、香織が二人の元に駆け寄り、ユエ

の前に膝立ちで立つと光系の

中級回復魔法、『万天』を発動した。

この万天は状態異常を解除する魔法だ。

 

 

「これでダメなら、神水を飲ませる

 しかないけど……!」

万天をユエに掛け終えると、神水の

ボトルを背後のバックパックから

取り出す香織。

しかしどうやら万天の効果が効いた

のか、徐々のユエの瞳に色が戻った。

 

「……あ、あれ?ハジメ?香織?」

そしてユエは、未だに青い顔をしながら

も、ハジメと香織のジョーカーに

触れた。

「大丈夫ユエちゃん?」

「一体何があったの?」

ハジメ、香織の順で問いかけると、

ユエは震えながら答えた。

 

「……分から、ない。気づいたら、

 頭の中、不安でいっぱいで……。

 ……そしたら、ハジメ達に、

 見捨てられて、また、封印される

 イメージが……」

「くっ。やっぱり司の言った通り

 精神攻撃を……!嫌な攻撃してくる

 なあのヒュドラモドキ!」

吐き捨てるように呟くハジメ。

 

そして、彼は改めて震えるユエを

見つめ、次の瞬間。

『ギュッ』

「……え?ハジ、メ?」

彼女を優しく抱きしめた。

いきなりの抱擁に戸惑うユエ。

 

「大丈夫だよ。ユエちゃん。僕は、

 いや、僕達は君を封印なんてしない。

 見捨てたりしない」

「……ハジメ」

「司がさっき言ってたじゃない。

 僕達は、もう家族同然の仲間だ。

 だから絶対、ユエちゃんを見捨てたり

 なんかしない」

「ハジメ……!……う、うぅ」

優しく抱きしめられながらの、

そんな言葉にユエは涙を流す。

 

「ずっと、君の側に居る。司も、

 香織さんも、ルフェアちゃんも。

 みんなずっとユエちゃんの側に

 居る」

「……本当?」

聞き返すユエに、ハジメはヘルメットを

取った。

 

「あぁ、もちろんだよ。だって僕達は、

 家族同然の仲間なんだから」

そう言って、彼は笑みを浮かべた。

 

ユエは、その笑みに、数秒頬を赤く染め

ながら見入っていた。そして、数秒

してから、ユエは服の袖で涙を

ゴシゴシと拭い、立ち上がる。

 

「んっ。もう、大丈夫」

「そっか」

ハジメも、頷きながら立ち上がり

メットを被り直す。

「じゃあ、行こうか!あのヒュドラを

 ぶっ飛ばして、僕達は先に進む!」

「んっ!叩き潰してやる……!」

「うんっ!」

ハジメの言葉に、ユエと香織が力強く頷く。

 

そして3人が柱の陰から飛び出す。

この時、ヒュドラは完全に司のことしか

見ていなかった。

それだけ司が驚異的だったのだ。黒頭が

精神攻撃を仕掛けても、一切動じず。

他の3つの頭が攻撃を仕掛けても

分厚い結界に阻まれる。仕方なくルフェア

を狙おうとすれば、容赦なく正確無比な

射撃が白頭と黒頭を狙う。

故に、ヒュドラがまず真っ先に倒すべき

と判断したのが司だ。だから司を最初に

倒そうと集中的に狙った。

そして、それが仇となった。

 

「『緋槍』!『砲皇』!『凍雨』!」

ユエが、緋槍の他に真空の刃を纏った竜巻

の砲皇。鋭い針状の氷の雨を降らせる凍雨。

この二つで攻撃を放った。

 

 

私が主に戦い、ルフェアがそれをサポート

していた時、ユエの叫びと共に攻撃が

ヒュドラに襲いかかった。

どうやら私しか見ていなかった為に、

完全に意識外から攻撃を食らう形になった

ようだ。その攻撃に対応出来ず、黒、赤、

青の頭が吹き飛ぶ。

 

「今だ……!」

私は、右手にミスラを召喚し構える。

狙うは白頭。しかしそれは向こうも

お見通し。黄色頭がカバーに入る。

だが……。

 

「忘れたか……!このミスラの

 威力を……!」

それは無駄なあがきに終わった。

『ドンッッッ!!!』

放たれたミスラの19ミリ弾が、黄頭と

白頭を、容赦なく撃ち貫いた。

 

これで残ったのは、緑頭だけ。奴は

必死に風刃を飛ばすが、私に防がれ、

ハジメ達に避けられた。

そして……。

「『蒼天』」

ユエが呟くと、ヒュドラの頭上に青白い

火球が出現した。それはさながら太陽の

ようだった。そしてユエが指をタクトの

ように振ると、青白い火球は一直線に

ヒュドラの青頭に命中した。

 

その温度に耐えられず、青頭は断末魔を

上げながらドロリと溶けていった。

 

全ての首を無くしたヒュドラの胴体が、

音を立てて地面に横たわる。

 

それを見て、ハジメ達は安堵の息を

付いていた。

「やったね」

「うん」

「んっ。ハジメ達と一緒だから、

 楽勝」

「うん!そうだね!」

4人はそれぞれ笑みを浮かべていた。

 

そして私も笑みを浮かべようとした。

 

 

その時。

感じた。奴はまだ、死んでいないと。

私の中の本能がそう告げた。

 

そして、一旦は背を向けた私が振り返る

のと、奴の胴体から7本目の銀色の頭が

生えたのは、ほぼ同タイミングだった。

そして、銀色頭はほぼノータイムで

極光を放ってきた。そしてそのタイミング

で、4人はヒュドラが死んでいない事に

気がつき驚いていた。だが……。

 

「甘いっ!」

私は咄嗟に、空間をねじ曲げた。空間の

歪みに飛び込む極光。その出口は……。

 

ヒュドラの頭上。

次の瞬間、ヒュドラの放った極光は

ヒュドラに帰った。

頭上から降り注いだ極光に飲まれ、叫ぶ

ヒュドラ。

そして降り注いだ光が消えると、そこには

皮膚を所々爛れさせたヒュドラの姿が

露わになる。

 

「まさか7本目の頭があるとは……」

「司!ごめん!ちょっと油断してた!」

私に駆け寄り咄嗟に謝るハジメ。

「いえ。そのことは良いです。それより、

 あの攻撃は不味いですね。ジョーカー

 なら耐えられるかもしれませんが、

 中破はさせられる物と考えます」

そう話している間に、ヒュドラは、

今度は光線では無く光弾の雨を放ってきた。

咄嗟に紫色の結界を張って自分と

皆を守る。

 

「私がこのまま攻撃を防ぐので、皆で

 トドメを」

「うん!皆、僕達で終わらせよう!」

「任せて!」

「はいっ!」

「んっ!」

ハジメの声に頷く香織、ルフェア、ユエ。

 

そして、ハジメ達3人はミスラを一丁ずつ

取りだし、ユエも魔法の容易をしている。

 

その気配を感じたのか、ヒュドラは再び

極光を放つ。しかし、その攻撃は私達には

届かない。再び時空を歪め、それを奴の

元へと撃ち返す。

 

「確かにお前は強い。それは間違い無い

 だろう」

一人、ヒュドラに向かって私は呟く。

「だが、私達は更にその上を行くのだ。

 この言葉が、貴様にはお似合いだろう」

 

「『蒼天』!」

先ほどと同じく、蒼天が放たれそれが銀頭の

体を融解させていく。

「グルァァァァァァッ!!??!?」

悲鳴を上げ、のたうち回るヒュドラ。

 

しかし、ユエも炎属性の最上級魔法を

短時間で連発したため、残存魔力が

少なかったのだろう。先ほどよりも

早く、火球が消えてしまった。

 

「ご、めん。……もう、無理」

その場に膝を突くユエ。しかし……。

 

「十分だよユエちゃん。トドメは、

 任せて」

彼女の肩に手を置き、ハジメは

ミスラを構える。

 

ヒュドラは、何とか動く体で

こちらに視線を向けたが、その目が

最後に見たのは、3丁のミスラの

銃口だ。

そして、その耳が最後に聞いたのは……。

 

「相手が悪かったな」

そんな私の言葉と……。

『『『ドドドンッッッ!!!!』』』

3発の19ミリ弾の発射音だった。

 

 

ヒュドラの頭が吹っ飛び、首と胴体が

千切れ、胴体も半分が消し飛んだ。

残った僅かな肉片が床に飛び散る。

 

3人はすぐにボルトを動かし次弾を装填。

また復活するのではと疑っている

のか、狙いを肉片に向けたまま逸らさない。

 

その時。

『ゴゴゴゴッ』

一人でに奥の扉が開いた。私は咄嗟に

ノルンを抜き構え、ハジメもユエを庇う

ようにしながら、ミスラの銃口を扉の

方へと向ける。

 

私達は新手を警戒したが、扉の奥からは

一分以上待っても、何も出てこなかった。

「……。もしかして、あの蛇の魔物を

 倒したから、通れ。って事なのかな?」

「そうである、と思いたいですが、罠の

 可能性が0ではありません」

香織の言葉に私は応えた。チラッと

横を見れば、ユエはまだ動けそうにない。

 

「ハジメ。ユエに吸血を。連戦も無い

 とは言えないので、念のため」

「う、うん。分かった」

頷くと、ハジメはジョーカーの装着を

解除し首元を開けさせた。

「ユエちゃん」

「ん。いただきます」

『カプッ』

ユエはハジメに抱きつくようにしながらも

首筋に噛みつきその血を吸った。

 

数秒して口を離し、更に数十秒もすれば

ユエが立ち上がる。

「大丈夫ユエちゃん?」

「んっ。ハジメの血、飲んだから大丈夫」

心配する彼に答えながら笑みを浮かべるユエ。

 

では……。

「総員傾注。今からあの扉の奥に向かう。

 あのヒュドラモドキがラスボス、であると

 確証が無い為、総員警戒を怠らないように」

「「「了解っ」」」

「んっ」

ハジメが再びジョーカーを纏うと、彼ら

はミスラを収納しバアルを取り出す。

私もノルンを取り出し、残弾を確認する。

 

「では、出発」

 

そして私達は慎重に扉の奥へと進んでいった。

 

 

慎重に進んでいた私達。そして、その扉を

超えた先にあったのは……。

 

「嘘、でしょ?」

 

『光溢れる』その空間を見回しながら呟く

香織。そのすぐ側のハジメとルフェア、

ユエも、文字通り「嘘でしょ?」と言いたげ

な表情を浮かべていた。

 

そこは、まるで楽園のようだった。

まず天井。そこには円錐状の物体が浮かび、

まるで太陽のように光を放っていた。

「あれって……」

「恐らくは、この世界の技術で創られた

 人工太陽の類いでしょう」

額の上に手を翳しながら天井の太陽を

見上げるハジメに、答えるように私が

答える。

視線を太陽から周囲に向けると、その空間の

奥に滝があった。天井近くから落ちる大量

の水は、川となって洞窟へと流れている。

川から少し離れた所には畑もあり、更に

その側には家畜小屋と思われる物が

立てられていた。最も、動物の姿は

無かったが。

しかし……。

 

「すごいなここ。何て言うか、楽園、

 みたいだね」

「えぇ」

ハジメの言葉に相槌を打つ私。

やがて私達は、この大きな部屋の一角

にある建物の内の一つを調べた。そこは

どうやらベッドルームのようで、そこには

豪華な天蓋付きのベッドが置かれていた。

 

「……。どうやら、ここが反逆者の一人

 の生活拠点だった、と言うのは間違い

 なさそうですね」

ベッドの周囲を見て回りながら私は

呟く。

「けど、それって相当昔の話なんでしょ?

 それがどうしてこんな綺麗な形で?」

そう。反逆者が存在したのは、ユエが

生まれる前の話。そんな過去の物が、

こうも綺麗な形で残っているのは、

些か不自然だ。

 

「何か特殊な魔法か何かが掛けられて

 居るのか。……或いは……」

「或いは?」

と、首をかしげるルフェア。

 

「ここを管理している『者』が居るのか」

「「「「ッ」」」」

私の一言で4人に緊張が走る。

「ともかく、まずはこの部屋全体の

 安全を確保しましょう。次は、この

 ベッドルームの隣です」

私の言葉に、4人が無言で頷く。

 

そして私達は、まるで岩壁を加工して

創ったかのような住居の入り口の前に

立つ。

「私とハジメで中のクリアリングを

 行います。香織、ルフェア、ユエは

 合図をしたら付いてきて下さい」

「うん」

私とハジメは、ノルンを構え、入り口から

中に入る。

すぐさまノルンを構えながら周囲を警戒する。

「……クリア」

「クリア」

ハジメが呟き、私も呟く。

「3人とも」

外に声を掛けると、同じくノルンを

構えた香織とルフェア、ユエが入ってくる。

 

「……やっぱり、ここもちゃんと掃除

 されてる。でも、人の気配って言えば

 良いのかな?それが全然感じられない」

「……。とにかく、警戒しながら全ての

 部屋を確認します」

 

その後、私達は3階建ての建物の中を

確認した。1階にはキッチンやリビング、

トイレに風呂を発見。

2階は書斎や工房のようだが、扉が開かず、

強引に入るのも危険なので諦め、3階へと

向かった。

3階には一つの部屋しか無かった。

 

そして扉を開けて中に入ると、ハジメ達が

息をのんだ。

 

まず目に飛び込んでくるのは、床に描かれた

精巧な魔法陣。これまで見てきた物よりも、

ずっと精巧な幾何学模様が刻まれていた。

そしてもう一つ目を引くのが、魔法陣を

挟んで扉の反対側に位置する骸だった。

 

豪華な椅子に座り、黒に金の刺繍が入った

ローブを纏った骸骨。

「司、あの骸骨って……」

「……恐らく、この隠れ家に住んでいた

 反逆者の一人なのでしょう。誰彼の

 判別は出来ませんが……」

「それにしても、なんでこの人は

 この部屋で亡くなってるんだろうね?」

ハジメの言葉に答えると、今度は香織が

首をかしげた。

 

確かに彼女の言葉も最もだ。

「その理由があるにしろ、調べなければ

 なりませんね。ハジメ達は外で待機を。

 私が調べます」

「うん。気をつけてね」

ハジメ達が部屋の外に出ると、私は慎重に

部屋の中へ踏み込み、そして魔法陣の

中央へ踏み込んだ次の瞬間。

 

『カッ!』

魔法陣から眩い閃光が放たれ、部屋を

真っ白に染め上げる。

 

するとその時、私の脳内に何かが

流れ込んできた。これは……。

まさか、この魔法陣はデータか何かを

インプットする為の物か?

いや、何だ。これは……。

考えても居ないのに迷宮での日々の

記憶が再生される。

まさか、私の記憶を確認しているのか?

 

私はすぐさま周囲を見回し、正面を

向いた時、僅かに身構えた。

なぜなら、私の目の前に、骸のローブと

同じ物を纏った青年の姿があったからだ。

 

 

この時、私はまだ知らなかった。

この世界の、狂った神について。

そして、望む望まないに関わらず、

私達がその神と戦っていくのだと

言う事を。

 

     第13話 END

 




次回は世界の真実を知る時です。

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