ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回、前半はハジメ達ですが、中盤と後半は雫達に
スポットを当てた作品です。


第15話 帝国の使者・雫の受難

~~前回のあらすじ~~

オルクス大迷宮の最下層に到達したハジメ達

5人。一行は、そこで迷宮を創り出した

オスカー・オルクスの残した記録映像を見て、

この世界を弄ぶ狂神、エヒトの真実を聞くの

だった。

ハジメ達は、これまでの目的である地球帰還を

第1目標としつつも、エヒトが仕掛けてきた

場合にはこれを倒す、と言う事で一致。

オスカーの隠れ家で甘々な生活をしつつ、

旅立ちへの準備を進めるのだった。

 

 

その日、私達は出発を目前に控えていた。

そして、その前に私が開発した新装備を

皆の前で説明していた。

「ユエと香織、ハジメに。まずはこれを」

「んっ。……これは?」

3人が受け取ったのは、以前渡した

シールドジェネレーターと似た腕輪だ。

「それは3人に魔力を供給する装置です。

 私は魔力が無限にあるのですが、私は

 基本魔法を使いません。これでは魔力の

 持ち腐れです。なので、その腕輪を

 通して常時私から魔力を供給します」

「……それって僕達がバンバン魔法

 使えるって事だよね?」

「はい。最上級魔法をバンバン連発

 する事も出来ます。距離などの制約など

 は一切ありません。それこそ別次元に

 でも行かない限り、この魔力供給は

 続きます」

と言うと……。

「……これで私は無敵」

と、どや顔をするユエ。

 

そんな彼女に苦笑するハジメ達を後目に

私は説明を続ける。

 

「次に、ハジメ達のジョーカー3機

 ですが、ジェネレーターを新型に

 換装し、新しい形態も実装しました」

「それって、新フォーム?どんなの?」

首をかしげるハジメ。

「この形態の名前は、モードG。

 言わば、『ゴジラ形態』です」

「ご、ゴジラ形態?……何か

 危険そうな名前だね」

と、引きつった笑みを浮かべる香織。

 

「このゴジラ形態、モードGについて

 ですが、新型ジェネレーターには

 私の細胞組織を使って居ます。

 言わば、『生体ジェネレーター』と

 呼べる物です。これまでは機械的な

 ジェネレーターを使って居ましたが、

 エヒトとの戦闘を見据え、より高出力

 の物を、と言う事で、私の細胞を

 取り入れた、機械と生物の力を

 宿した、複合ジェネレーターを

 開発しました。計算上では、これまで

 の50倍のエネルギー出力を得ています」

「こ、これまでの50倍って……。

 ……司の細胞凄すぎ」

と、引きつった笑みを浮かべるハジメ。

 

「そして、モードGについてですが。

 この形態になるとジョーカー内部の

 全エネルギーを放出しながら戦う事

 になります。パワー、防御力、機動性、

 全てにおいて、通常のジョーカーの

 数百倍のスペックを引き出すことが

 可能です」

「す、数百倍か。ホント凄すぎだって司」

「念のため言っておくと。その拳は一撃で

 山を砕き、一瞬で数キロの距離を詰め、

 山より高く跳躍する事も可能です」

「……。もはや勇者の天ノ河君も

 目じゃないね」

「ちなみにこれでも私の本気の5%にも

 及びませんよ?」

「………」

何故か遠い目をするハジメ。

 

まぁ良い。

「ただ、欠点としてモードGは内在する

 エネルギーをほぼ使い切るので、

 モードGの活動限界は5分。

 新型の複合ジェネレーターの出力でも

 これが限界でした。5分以上モードG

 を維持すると、エネルギーが枯渇し、

 ジョーカーの装着が強制的に解除され

 てしまいます。以降、ジョーカーは

 内部エネルギーのチャージに入るため、

 一度使い切ったら30分はジョーカーを

 使えないと思って下さい」

「じゃあ、もし仮にモードGを使うような

 状況になったら……」

「えぇ。5分以内に戦闘を終え、即座に

 モードGを解除して下さい。まぁ、

 危険になった時の奥の手、として

 覚えておいて下さい」

「「「はい」」」

と、頷く3人。

 

さて、と……。

 

「皆、聞いて欲しい。私とハジメ、香織は

 一度聖教教会の、それも教皇である

 イシュタルに反発した。よって、

 このトータスにおいて人族そのものを

 敵に回した可能性は高い。

 また、我々が持つ武器もしかり。

 王国には、私が創る武器の性能の高さを

 知っている者も居る。なので、この武器

 を奪おうと刺客を派遣してくる可能性も

 高い。また、私、ハジメ、香織は

 エヒトが遊びで呼び出したとは言え、

 魔族側から見れば、魔族にとって驚異的

 な存在である。中でも私達は飛び抜けて

 居る。なので、最優先の排除対象として

 狙われる可能性もある。そして……。

 一度は人々を操り解放者達を倒した

 神、エヒトを敵に回す以上、また

 同じ事。……最悪、この世界そのものを

 敵に回す可能性もあるだろう」

 

私は、真実を伝える。

 

しかしハジメ達は……。

「それで?司はこの世界が敵になったら

 どうするの?」

「知れたことです。世界が敵になるのなら、

 その世界を踏み潰してでも前に進みます」

「だってさ」

と言って、ハジメは笑った。

「出来れば、無関係な人はあんまり

傷付けないで欲しいけどね」

と、苦笑する香織。

「大丈夫だって!ツカサお兄ちゃんが

 居れば無敵だから!」

「んっ。全部鎧袖一触」

笑みを浮かべるルフェアと、彼女の言い分に

頷くユエ。

 

そして……。

「つまりさ、僕達は何の心配も

 してないって事だよ。司」

ハジメが、私の前に立つ。

「司が隣に居てくれたら、怖い物なんて

 何も無いよ」

 

そんなハジメの言葉に、彼からの信頼を

感じていた。

信頼、か。私がオリジナルの一部であった

頃には、縁遠い、などと言う言葉では

表せない程に無関係な言葉だったな。

 

ならば……。

 

「分かりました。ならば、皆の命は、

 私が必ず守りましょう。

 そして、共に帰るのです。地球へ」

私の言葉に、4人が頷く。

 

そして私達は改めて、地球帰還への

旅の決意を新たにするのだった。

 

 

 

~~~~

場所と時間は少しばかり巻き戻り、

ハジメや司たちがヒュドラを倒した頃。

雫達はホルアドの町から王都へと戻る

途中だった。

雫達は現在、完全に謎とされていた65層

以降の攻略を行っていたが、これまでの

マッピングが行われていた階層と

違い、完全に雫達が攻略しなければ

ならず、更に魔物の強さも上がり攻略

のペースが落ちていった。彼らの疲労も

溜まっていたことと、別の案件が発生

した事もあって、彼らは今王都に戻る

途中なのだ。

 

そして別の案件というのは、『ヘルシャー帝国』

と言う国から勇者達に会う為使者が

来ているから、と言う物だった。

 

何故光輝達が召喚されてからこれほど間が

開いたのか、と言うと帝国の実情ゆえだった。

帝国は、かつて名をはせた傭兵が建国した

完全実力主義の社会で、文字通り弱肉強食の

社会体制だ。

そんな彼らからしてみれば、ド素人の光輝達

など眼中に無いと言った所だった。

 

しかし、そんな彼らがオルクスの65層を

突破した、と言う話題が帝国にも届いた為、

帝国の皇帝の関心を引いたので、今になって

使者を送ると言ってきた、と言う事だ。

 

 

そして、王都に戻った光輝達は王女である

『リリアーナ・S・B・ハインリヒ』に

出迎えられた。そんな時。

 

「あの、リリィ」

雫がリリアーナに声を掛けた。ちなみに、

光輝や雫は彼女の事を愛称でリリィと

読んでいた。

「何ですか?雫」

「いや、その……。ランデル殿下、

 まだ落ち込んでる?」

と雫が聞くと、リリアーナは苦笑交じり

に頷いた。

 

「えぇ。今もまだ。どうやら香織が

 ハジメさん達と一緒に去っていたことが

 相当堪えたようで」

そう呟くリリアーナ。

 

ランデルは、初めて香織を見たときから

彼女に一目惚れをし、猛アプローチを

していた。そしてそんな彼女の側に

居る光輝やハジメを(勝手に)ライバルと

定めアプローチをし続けていた。

しかし肝心の本人には、懐かれている

程度の認識しかなく、そしてルフェアの

一件で香織が、ランデルの手の届かない

所へ行ってしまった事にショックを

受けて、今も寝込んでいるのだ。

「我が弟ながら、情けないです」

「あ、アハハハ……」

リリアーナの言葉に、苦笑いを浮かべる

雫だった。

 

そして、王都帰還から3日後。

帝国からの使者がやってきた。

光輝達攻略組に、王国の重鎮たち。

イシュタルら神官数名が集まり、

彼らの前に5人ほどの使者が

立ち向かい合っていた。

 

≪あれが帝国の使者か≫

『そうみたいね』

と、密かに会話をする雫のAIの司。

≪しかし……。あの男は……≫

『ん?どうしたの司?』

≪あぁ。あの平凡そうな護衛だ≫

AI司の言う男へと視線を向ける雫。

『あの人がどうかしたの?』

≪あぁ。奴の身につけているイヤリング

 から不思議な力を感じる。恐らく、 

 あれはアーティファクトの類いだろう≫

『それってどういうこと?正体を

 隠してる、とか?』

≪分からん。恐らく雫の言うとおり

だろうが狙いは分からん。いつでも

ジョーカーをまとえるようにしておけ≫

『……うん』

 

ちなみに……。

『と言うか何で光輝が護衛の人と

 戦う話に?』

二人が話している内に、そんな話が

進行していた。

≪使者側からの提案だ。言葉より

 その目で実力をみたいそうだ。

 成程、実力主義の国らしい考え方だ≫

『えぇ……?』

一瞬、雫の頭に『脳筋』という単語が

よぎるのだった。

 

その後、光輝はAI司が警戒していた護衛

の男と試合を行った。

のだが……。

 

その正体は、ヘルシャー帝国皇帝、

『ガハルド・D・ヘルシャー』だった。

結果的にガハルドと光輝の戦いは

イシュタルが止めに入った事で中途半端な

形で終わりを迎えた。

≪……。話にならんな≫

『……どっちが?』

≪勇者が、だ。聞いていただろう?

 彼と皇帝のやり取り。傷つく事も、

 傷付ける事も恐れていては……。

 何も倒せないし何も守れない。

 奴には、その覚悟が無い≫

『覚悟、か』

内心、小さく呟くと、雫は手元の

青龍に目を向けた。

 

一方で……。

「それにしても、本当にお前が

 ベヒモスを倒したのか?

 その程度で?」

「ッ!?」

その程度、と言うガハルドの言葉に

表情を歪める光輝。しかし、実際に

ベヒモスを倒したのは雫だ。故に、

何も言えない。

 

「……どうやら、やっぱりお前じゃ

 ないらしいな?どいつだ?」

そう言うと、ガハルドは攻略組の面々を

静かに見回す。

すると、光輝以外の面々が雫に視線を

向け、ガハルドもそれを追い、雫に

目を向けた。

周囲から無数の視線を受けた雫は……。

 

「ハァ。私ですよ」

ため息をつくと静かに一歩前に出る雫。

「私が、単独でベヒモスを倒しました」

「……お前が、単独でか?」

静かに、しかし鋭い視線を交差させる

雫とガハルド。

すると、数秒の間を置いた後ガハルドは

笑みを浮かべた。

「嘘をついている目じゃねぇな。

 それにその目。据わってる目だ。

 ……出来れば手合わせをお願いしたい

が……」

そう言って、ガハルドはエリヒド王や

イシュタル達の方をチラ見する。

 

「私は、別に構いませんよ」

肝心の雫はやる気のようだ。

そして……。

 

「分かった」

エリヒド王がそう頷いた事で雫とガハルド

が戦う事になった。

 

雫は青龍を手に。ガハルドは先ほどと同じ

大剣を手に、向かい合った。

「それで、確か雫、だったか?

 お前がベヒモスを倒したのか?

 それも一人で?」

ガハルドは雫のあちこちを観察するように

視線を向ける。

その視線に不快感を感じる雫。

≪落ち着け雫。相手は模擬戦だろうが

 殺し合いをする男だ。怒りは判断を

 鈍らせる≫

『うん、分かってる』

雫は、内心AI司に頷きながら深呼吸をして

心を落ち着ける。

 

「私一人で、と言うと語弊がありました。

 正確には、神の使徒と呼ばれる友人の

 力を借りて、と言うべきでした」

「ほぉ?友人?」

ガハルドは、チラッと光輝達に視線を

向けた、が……。

 

「既にここには居ません。今も仲間数人を

 率いてどこかを旅している最中です。

 ……先ほどの試合を見て、単純な

実力的なら私達よりも皇帝陛下の

方が強いのは理解出来ました。……ですが」

雫は、その時不敵な笑み浮かべた。

 

「私には、あなたにない物がある」

「ほう?」

そう言うと、雫は左袖をまくる。

驚く光輝達と、何を?と訝しむガハルド。

そして……。

 

『READY?』

「アクティベート!」

『START UP』

 

ジョーカー・タイプCを起動し纏う雫。

そして、ジョーカーを初めて見るガハルド達

はその顔を驚愕に染めた。

「な、何だそりゃぁっ!?アーティファクト

 か!?」

「……残念ながら違います。ここを去る

 前に友人が残してくれた、最強の鎧です。

 これを纏う事で、私は誰よりも強く

 なれる」

『そうだ。もうここに、『彼』は居ないんだ。

 私がしっかりしなきゃ、私が……!」

 

静かに、雫は青龍を抜く。

 

今の彼女は、戦わなければと言う思いが

あった。

それは、この中で自分だけがジョーカーを

持っているから、と言う思いから来ていた。

切札を持つ者としての責任が、彼女を

圧迫していた。

 

だが……。

≪落ち着け雫。またいつものように、

 責任について考え込んでいるぞ≫

それを止める者が居た。AIの司だ。

『ッ。……ごめん、司』

≪謝らなくて良い。……お前の

 誰かを思いやる心は、良い物

 だとは思うが、それで自分を疎か

 にするのは、関心出来ないぞ≫

『うん。ごめん』

≪気をつけろよ?……さて、

 向こうさんも驚いているが、

 そろそろ始めるぞ雫。お前は、あの

 男を倒すなり切り伏せるなり、

 今やるべき事を考えろ≫

『うん。……って、切り伏せたら

 不味いでしょ!?』

≪そうか?さっきも皇帝は天ノ河を

 殺す気で剣を振るっていた。

 こっちが同じ事もしても、文句を

 言われる筋合いは無いぞ。

 それより、やるぞ≫

『う、うん!』

 

「では、行きますよ!皇帝陛下!」

「ッ!?お、おぉ!」

驚き、雫のタイプCに目を奪われていた

ガハルドも正気に戻って剣を握り直す。

 

そして……。

『ドウッ!!!』

雫のタイプCが一瞬で距離を詰めた。

「はぁ!」

雫はガハルド目がけて横薙ぎに青龍を振り抜く。

「ッ!?」

普通ならこれで終わりだが、ガハルドが

反応出来たのは、実力主義国の皇帝と言う

だけの事はあった。

 

振り下ろされる青龍を、大剣を縦に構えて

防ぐガハルド。

しかしそんな彼の表情はすぐに青くなった。

なぜなら、青龍が大剣を徐々に切り裂いて

進んで居るからだ。

 

「おぉぉぉっ!」

更にジョーカーの胆力を生かして青龍が

ガハルドの大剣を真っ二つに切り裂いた。

「ちっ!?」

剣を捨て後ろに跳ぶガハルド。

『ドウッ!!!』

しかし、それを逃がす雫では無かった。

 

後ろに跳んだガハルドが着地すると同時に、

雫がその前に現れた。

「なっ!?」

距離を取ったと思った瞬間に詰められたのだ。

驚くのも無理は無い。

そして、ガハルドの対応が遅れた、その一瞬

を突き……。

 

『ガッ!!』

「いあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

雫はガハルドの服を掴むと、ジョーカーの

胆力を生かして一切の抵抗を許さず、

ガハルドを背負い投げで投げ飛ばした。

 

「ぐあぁっ!?」

背中から固い地面に叩き付けられたガハルド。

≪手を止めるな!押さえ込め!≫

『うん!』

しかしそれだけに止まらず、雫はAI司に

言われた通り、彼をひっくり返すと

その上に跨がるようにして更に関節を決め、

ガハルドを拘束してしまった。

 

「皇帝陛下ッ!貴様ぁっ!」

咄嗟に護衛の者がガハルドを助けようと

するが……。

「止めろバカが!こいつは試合だ!

 手を出すなっ!」

肝心のガハルドに怒鳴られ、すぐに

下がった。

 

「いっつつ。まさか、皇帝の俺が負ける

 とはなぁ。……なぁ、そろそろ退いて

 くれないか?」

「はい」

頷くと、雫は手を離し立ち上がると

ガハルドから離れた。

「まさか、そんな力を持った奴が

 居たなんてなぁ。驚きだぜ全く」

「ですが、私が勝てたのはジョーカー

 を使い、尚且つ皇帝陛下がこの

 ジョーカーについて何も知らなかった

 からです。これが無ければ、私の

 方が負けていました」

 

そう、自虐気味に語る雫。

 

彼女は、ここ最近ジョーカーを使う事が

多かった。そして故に、理解してしまう。

司の頼もしさと、規格外さを。

 

ジョーカーを纏った雫は、もはや超人だ。

この鎧は、雫が努力して上げたステータス

以上のパワーを彼女に与える。しかも

このタイプC、実は司とリンクしており、

不定期ながらもアップデートを繰り返して

いるのだ。しかも、雫に合わせた

アップデートであり、速度面で言えば

既にベヒモス戦時より強化されている。

雫が使わない、と言うのもあるが、

彼女のタイプCもバアルやミスラ、

そしてG・ブラスターなどの装備を

既に実装していて、使おうと思えば使える

のだ。また、青龍も既にアップデートされ、

プラズマブレードとしての機能も実装済み。

とどのつまり、彼女がいくら強くなっても、

ジョーカー以上の力は手に入らず、人と鎧

の差は縮まるどころかドンドン開いていくのだ。

『こんな装備をポンポン創れて、

 しかも更に強いとか。もうホント、

 敵わないなぁ』

そんな事を考えていた雫。

 

 

しかし、ガハルドの言葉でそんな

悩みは一瞬にして吹き飛んだ。

 

「なぁ雫。一つ提案なんだが……」

「あ、はい。何ですか?」

声を掛けられた彼女は、意識を戻した。

のだが……。

 

「お前、俺の愛人になる気は無いか?」

 

「は?」

 

「「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?!」」」」」

 

雫が呆けた声を出した直後、光輝達や

帝国の使者達が一緒になって叫んだ。

 

「は?……いや、はぁっ!?」

そして、数秒おいて言葉の意味を理解

したのか、雫は被っていたメットを

慌てて脱いだ。

「いやいやいやっ!なんで試合した流れ

 でそんな口説かれてるんですか私!?」

「いやぁ、何というかお前が

気に入ったのさ。その凜とした

佇まい。実に俺好みだ?

どうだ?俺の愛人になる気は無いか?

そうすれば一生遊んで暮らせるぞ?」

わりかし本気で口説きに掛かるガハルド。

「いやです!なんでいきなりそんな話

 になるんですか!お断りです!」

しかしすぐに断固として拒否する雫。

 

≪雫、帝国は実力主義の国だ。

 だから、愛人にしたければ本気の

 私を倒せ、と言うんだ≫

『あっ!そっか!ナイス司!』

「そう言えば、帝国って実力主義ですよね!?

 じゃあ私を愛人にしたいなら、私を

 倒してから言って下さい!私、

 自分より弱い男に興味なんてありません!」

と、AI司のアドバイスから咄嗟にそんな

事を叫ぶ雫。

 

「くく、こりゃ痛いところを突かれたな。

 ……確かに雫の言葉にも一理ある」

そう言うと、雫に背を向けて歩き出す

ガハルド。雫は内心ホッとして息を吐いた。

しかし……。

「だが、諦めた訳じゃないぞ雫。

 いずれお前を倒し、俺の愛人に

 してみせる」

肩越しに振り返り、そう呟くと彼らの

前から去って行った。

 

「だ、大丈夫か雫!?」

すると、入れ替わるように光輝が雫に

駆け寄る。

「あ、あぁ。うん。いきなりだったから

 驚いただけ。ハァ、何なのよもぉ」

「しかし、よくあんな事を言えるなんて、

 流石は雫だな」

「え?そ、そうかな。いきなりだったから、

 とりあえず適当な事を言ったん

 だけど、効果があって良かったよ~。

 あ、アハハハ……」

と、咄嗟に呟く雫。

 

『ありがとう司。助かったわ』

≪咄嗟のアドバイスが役に立った 

 のなら良い。しかし、お前も問題が

 多いな≫

『うん。ホント、泣きたいわよ。

 光輝と龍太郎は色々暴走気味だし、

 檜山達の問題もあるし。そして

 ここに来てあんな肉食系の人に

 目を付けられるとか…………。

もう……。もう……』

プルプルと震え始める雫。

そして……。

≪ん?お、おい?雫?どうした?≫

『もうやだぁ。お家帰りたいよぉ~』

心の中で泣き出してしまった。

 

まぁ、周囲の状況を考え、それを

一人で引っ張っていかなくては

いけない状況だ。泣きたくなるのも

最もだろう。

≪お、落ち着け雫。愚痴なら俺がいくらでも

 聞くから≫

『グスッ、ホント?』

≪あぁ。もちろんだ。何なら夜通しでも

 お前の愚痴に付き合ってやる≫

『うん、ありがとう、司』

≪気にするな。俺にはこれくらいしか……。

 いや、待てよ≫

『ん?どうしたの司?』

≪……喜べ雫。もしかしたらお前の

 負担を少しだけだが、軽減してやれる

 かもしれん≫

『え?』

と、雫は内心疑問符を浮かべるの

だった。

 

 

そして、数日後。

迷宮攻略組は、休養を終えて再び

オルクス大迷宮へ潜る事になった。

そして、ホルアドに出発する日。

「ん?なぁ、雫を知らないか?姿が

 見えないが……」

出発の時間帯になった時、光輝は

雫が居ない事に気づいた。

 

「ん?そういや、居ねぇな」

言われて気づいたのか龍太郎が周囲を

見回し始める。その時。

 

「お、おはよう、皆」

そこへ雫の声が聞こえた。

「あ。おはよう雫。今朝は遅、い……」

遅いな、と言おうとした光輝だが、

振り返った瞬間、言葉を失った。

 

他の面々も雫の周りを見て、驚いていた。

「え?し、雫?そ、『それ』って」

驚きながら、雫の周りに居る『ガーディアン』

6体を指さす鈴。

 

「そ、それって新生君が創ってた、兵士、

 でしょ?どうして、雫が?」

と、問いかける恵里。

「あ~、えっとね。実は今朝、ジョーカー

 の中にある武器のリストをね、

 色々見てたの。そしたら、リスト 

 の中に、この、兵士で良いのかな?

 ガーディアンがね、入ってたの。

 それで、呼び出してみたんだけど……」

「も、もしかしてそいつら、連れて行く

 のか?」

と、檜山が問う。

すると……。

 

「……一応、そのつもりよ」

と言うと、途端に檜山達4人と光輝、龍太郎

が表情を歪めた。

「雫、そんな奴らに頼らなくたって、

 俺たちは強い」

「……確かにそうかもしれない。……でも、

 この先どんな事が起こるか分からない

 以上、油断は出来ない。だから

 連れて行く。人手は多いに越したことは

 無いし。少なくとも私の命令は

 ちゃんと聞いてくれるから」

 

そう言うと、雫はガーディアン達と

向かい合う。

 

「整列!」

『ザッ!』

雫が声を張り上げると、6体のガーディアン

が横一列に並ぶ。

「休め!」

『ザッ!』

足を開き、後ろで手を組むガーディアン達。

「気をつけ!」

『ザッ!』

今度は、そこから気をつけ、の体勢を取った。

そして最後は……。

「敬礼!」

『バッ!』

まるで軍人のように右手を額に当てる

敬礼をして見せた。

 

その姿は、まるで訓練された軍人のそれだ。

「ね?」

そして、雫は振り返り後ろの光輝達に

そう呟いた。

だが光輝たちは納得していないのか、更に

反論しようとしたが……。

 

「確かに、雫の言うとおり手は多い方が

 いざと言う時対処しやすい」

「め、メルドさん!?」

メルドが雫に協調した。

「連れて行くのは構わん。馬車を

 もう一台、そいつらの為に用意

 させよう」

「ありがとうございます、メルドさん」

 

その後、雫は光輝達と離れ、ガーディアン

達と同じ馬車に乗っていた。

『……まさか、これ全部AIの司が操作

 してるなんてね。流石に皆には

 言えないか』

≪あぁ。特に、檜山辺りから反感を買う。

 一応、お前の指揮下という事にしておけ。

 細かい指示は俺がジョーカーを通して

 行うから、心配するな≫

そう、数日前にAIの司が雫の負担を軽減する、

と言って居たが、その役目を負うのが

AI司が操作する一個小隊のガーディアン達だ。

 

『ありがとう司。サポートしてくれるのは

 ホントに助かるわ。……助かるんだけど』

≪ん?何か不服か?≫

『いや、その……。ガーディアン達の胸に

 ある紋章って』

雫は、ガーディアン達の胸にある紋章に

目を向けた。

 

そこには、青い盾の前で黒いライフルが交差する

マークが描かれていた。

≪こいつらは雫隷下の、そうだな。

 『近衛小隊』とでも呼べる小隊だ。

 これは小隊のエンブレム、と言った所だ≫

『それって、親衛隊、みたいな?』

≪そうだ。こいつらはお前直属の

 兵士だ。……お前の負担が低減出来れば

 それで御の字だ。露払いは任せろ。

 確かにお前は肉体面では強い。だが、

 その心はまだ幼い少女のそれだ。無理を

 すれば、簡単に壊れる。だからもっと

 俺を頼れ。……こんな事しか出来んがな≫

『ううん。心強いよ。……ありがとう司』

 

彼女は、静かに笑みを浮かべながら左手首の

ジョーカーをそっと撫でるのだった。

 

雫は今、ジョーカーを持つ者としての責任

を背負っていた。しかしそんな彼女を

支えていたのは、幼なじみの光輝や龍太郎

ではない。

姿は見えずとも、こうして力を貸してくれる

存在だった。

 

そして雫の中で、司と言う存在が大きく

なっているのだが、その思いに、彼女自身は

まだ気づいていないのだった。

 

     第15話 END

 




次回は、あの残念ウサギが登場するので、お楽しみに!
扱いは、本編より良い、と思います。
あと、今更ですが、『ガーディアン』は仮面ライダービルド
の敵兵の『ガーディアン』まんまです。

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