ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回は、駄目ウサギことシアとエンカウントします。
扱いは、本編より格段に、上がってるのかなぁ?


第16話 新たな出会い

~~~前回のあらすじ~~~

オスカーの邸宅に1週間ほど滞在した

ハジメ達5人。そしてハジメ達は、改めて

今後の旅が危険である事を司の口から

聞かされるも、その決意が揺らぐ事は

無かった。

一方、王国に残っている光輝達の元に

ヘルシャー帝国から使者がやってきた。

光輝は、護衛に化けていた帝国皇帝、

ガハルドとの試合をするが、殆ど負けと

言える戦績を残した。そんな中、雫は

AIの司をパートナーとしつつ

ジョーカーを使ってガハルドを撃破。

彼に愛人にならないかと誘われ、

頭の痛い案件が増えてしまった雫。

しかし、そんな彼女を支えるためAIの

司は、ガーディアンで雫の近衛小隊を

編成。彼女のサポートをより本格的に

始めるのだった。

 

 

私達は今、オスカーの邸宅にあった魔法陣

を使って外に向かおうとしていた。

魔法陣から閃光が放たれ、ハジメ達が

目を瞑る。

そして、閃光が収まり、私達が転移していた

場所は……。

 

洞窟だった。

「なんでやねん」

隣に居たハジメが、即座にこの状況に

ツッコむ。

どうやら、魔法陣で転移したらそこは

太陽の下、とでも思って居たのでしょう。

「ハジメ、一応は反逆者と言われ世界の

 敵と言われたオスカー達の隠れ家に

 関する道ですよ?早々日の当るところ

 に創るとは思えません」

「んっ。司の言うとおり」

「あ、あぁ。うん。そっか。そうだよね」

「大丈夫だってハジメお兄ちゃん。

 きっと少し歩けば出口だよ」

「うん。元気出して。行こっ」

「そうだね。行こう」

若干落ち込むハジメだが、ルフェアや

香織に励まされると、すぐに気分を

戻し、私達は歩き出した。

 

途中、トラップや封印された扉があったが、

どうやらオスカーの指輪はそれらを解除する

鍵の役割があったようで、普通に通り抜ける

事が出来た。

 

しばらく歩いていると、前方に

光が見えてきた。

そして、その光を見てユエはハジメと顔を

見合わせる。すると二人は何を思ったのか

一緒に駆け出した。

「あっ!ちょっと~二人とも

 待ってよ~!」

慌てて二人を追いかける香織。

私とルフェアは、そんな3人に苦笑しながら

歩いて後を追った。

 

 

洞窟を抜けたそこは、谷底だった。

人の処刑場としても使われるそこは、

崖下では魔法が殆ど使えず、且つ強力な

魔物が出現する、一般人などにしてみれば

地獄のような場所だ。

そこは、西の『グリューエン大砂漠』と

東の『ハルツィナ樹海』の間を走り、

大陸を南北に分断する大きな峡谷だ。

 

この世界の人々は、ここを、

『ライセン大峡谷』と呼ぶ。

 

普通に考えれば、地獄のような場所。

しかしハジメ達にとってはおよそ2ヶ月

ぶりの。ユエに至っては300年ぶりの、

本当の太陽を拝んだのだ。テンションが

高いのも分かる。

外に出れば、ジョーカーのヘルメットを

取ったハジメとユエが並んで空を

見上げていた。

 

「やったぁぁぁぁぁ!

 地上、来たぁぁぁぁぁっ!」

「ん~~~!!!!」

外に出るなり、『宇○キタァァァッ』と

言わんばかりに叫ぶハジメと、真似るユエ。

「全くもう。はしゃぎすぎだよ

 二人とも」

そんな二人に、やれやれと言わんばかり

の香織。しかし彼女も、メットを取り

深呼吸をして、地上の空気を

懐かしんでいるようだった。

 

そんな3人を、私とルフェアは

笑みを浮かべながら見守っていた。

 

のだが……。

 

「さて、皆。そろそろ準備して

 下さい。……敵ですよ?」

周囲を見回せば、無数の魔物が私達5人を

囲んでいた。

「……囲まれましたね」

周囲を見ながら呟く私。

 

「あ~もう。もうちょっと太陽の光を

 浴びてたかったけど……」

ハジメは、周囲からぶつけられる殺気に、

特にひるむこと無くメットを被ると

トールを取り出した。

「やるしか、ないね」

香織もメットを被り、バアルを取り出す。

彼女も、魔物達の殺気を前にしても

全くひるんでいない。

 

二人とも、逞しく育ったようだ。

友人として、良かったと思って居た

私だった。

 

「ん。この一週間、練習した銃の

 腕前、見せてやる」

一方ユエも、右大腿側面に装着した

ホルスターからノルンを取り出した。

 

彼女曰く、自分もハジメ達と同じ物を

使いたい。との事で、万が一にも魔法が

使えない状況への対応策として、生身でも

問題無く使えるノルンを持たせている。

ちなみに、右腿にノルンのホルスター。

左腿にはノルンのマガジンを入れた

マガジンポーチを装備していた。

 

そしてどうやら、ここで練習した腕前を

披露する気のようだ。

「私だって、もう一人でも戦える

 んだから!」

ルフェアも、香織と同じでバアルを

取りだし構える。

私も周囲を警戒しながら、タナトスを

召喚する。

 

そして……。

 

「戦闘、開始……!」

私が呟くと、5人がそれぞれの方向へ

飛び出す。

 

「はぁっ!」

『ドンッ!』

一番に火を噴いたのは、ハジメのトール

だった。

迷宮での戦いで強くなったハジメ、香織、

ルフェアの中でも、銃の扱いが一番

上手いのはハジメだった。そのハジメの

銃弾は、寸分違わず魔物の胴体に

命中した。……のだが……。

 

『ドバンッ!!!』

盛大な音と共に、魔物の上半身が

吹っ飛んだ。

「……。あっれぇぇ?」

ハジメは、変な声と共に首をかしげた。

 

そして香織も……。

『バババババッ!!!』

横薙ぎに放たれる銃弾の雨。魔物達は

体をバラバラにしていく。

「あ、あれ?」

その様子に、香織も首をかしげた。

 

ルフェアもバアルで撃ちまくっているが……。

「う、うん?」

魔物を倒しながら首をかしげた。

 

その様子を見つつ、タナトスで魔物を

撃ち殺していく私。

チラッと側を見れば、ユエも普通にノルンで

魔物を撃ち殺していった。

 

5人という数もあってか、魔物を殲滅

するのに2分も必要なかった。

 

無かったのだが、ハジメ、香織、ルフェア

の3人は何やら戸惑っている様子だった。

そして……。

「ねぇ司。ひょっとしてトールとかバアル、

 ノルンの銃弾の威力、凄い上がってる?」

「ん?いえ。凄い、と言われる程は。弾薬

 と弾芯を強化して貫徹能力は以前より

 強化していますが、そこまでは……。

 何か問題でもありましたか?」

「あぁううん。違うの。問題とかじゃ

 無くてね。何て言うか、魔物がすっごい

 弱いなって思って」

私が首をかしげると、香織が答えた。

 

「うんうん。迷宮の魔物って、下の方

 だとバアルとかの銃弾普通に

 弾いてたから」

「うん。トールも6発全部撃ち込まないと

 負傷させられない位硬かったりしたから。

 なんて言うか、弱すぎ、って言うか」

頷くルフェア。彼女に続くハジメ。

 

「恐らく、ですが、オルクスの魔物、

 それも200層近くの魔物は並の

 魔物より強い者なのでしょう。

 戦ってみて思ったのですが、ここの

 魔物はどれもベヒモス以下です。

 しかし、そんなベヒモスも、恐らく

 迷宮では100層より前の、中級くらい

 の強さの魔物だと考えられます」

「……かつて最強と言われた冒険者が

 敵わない魔物が、あの迷宮で中堅

 クラス、か」

ため息交じりに呟くハジメ。

「えぇ。恐らくは。なので、ここの

 魔物など、今の私達から見れば、

 雑魚中の雑魚レベルです」

「普通の人にとってはここって地獄

 なのにね」

「私達がそれだけ強くなったって事

 だよ、カオリお姉ちゃん」

苦笑交じりの香織に笑みを浮かべるルフェア。

 

「ん。私達全員、既に最強」

「うん。ユエちゃんの言うとおり、

 僕達が強くなったのかもね。

 もっとも、大半は司からの借り物、

 だけど……」

そう言いつつ、皆がこちらを向くが……。

 

「力、いえ、武器や防具は与えられたから

 強くなると言う物ではありません。

 それを扱い、かつ武器に振り回される

 事の無い技術が必要です。そして

 特にハジメ達3人はそのスキルを

 身につけていますよ」

「そ、そうかな」

私が皆に言って聞かせると、ハジメ達は

褒められたと思ったのか、顔を赤くする。

 

「とは言え、如何に武器と防具が優れて

 居ても、油断は禁物ですよ。

 戦場では一瞬の油断が命取りになります。

 各員、その事は絶対忘れないように」

「「「「了解っ」」」」

と、私が隊長らしい事をした後。

 

「それで、司としてはこれからどっちへ

 行くつもり?」

今後、この大峡谷を東と西、どちら側

へ抜けるかの話になった。

「私としては、東、ハルツィナ樹海側へ

 抜けようかと思います」

「ッ。……どうして?」

やはり思う所があるのか、一瞬だけ

息をのんでからルフェアが問いかけてきた。

「理由としては、出来れば人の町や村

 などに行きたいと言う理由があります」

「町とかに?どうして?」

「我々が異端者として指名手配

 されていないか、確認する為です」

私はハジメの疑問に答えながら話す。

 

「以前言ったように、私達は教会側を

 敵に回している恐れがあります。

 その確認の為です。西の大砂漠の

 方では、早々人里があるとは

 思えませんから」

「そっか。確かにそうだね」

と、頷く香織。

 

「あの。……もしかしてお兄ちゃん達は

 ハルツィナ樹海にこのまま行く、の?」

そう、問いかけてくるルフェア。

 

彼女としても、一度は捨てたも同然の

故郷へ戻る事に、抵抗があるのだろう。

まして、亜人が人族を連れて樹海に来たと、

亜人達にバレたら、何と言われるか。

「まずは、東側に向かいながらこの大峡谷

 にあるとされている迷宮を探索

 しようと思って居ます。……ですが、

 いつかは樹海を訪れなければなりません

 あそこにも、迷宮はあるようですから」

「そっか。うん、そうだよね」

そう呟くルフェア。しかし、その声色から

戸惑いが感じられる。

 

だから私は、ルフェアを優しく抱きしめた。

「え?お兄ちゃん?」

「大丈夫です。貴女のことは、私が

 守ります。私はゴジラですよ?

 そこいらの有象無象など、一瞬で

 塵にして見せましょう」

「お兄ちゃん」

ルフェアは、戸惑いながら私を見上げる。

 

「司、言ってる事は男らしいんだけど

 所々まずい単語が入ってるよね」

「うんうん」

「……司に喧嘩を売る。=死亡」

何やら後ろで3人が私について言っているが、

まぁ良いだろう。

 

すると、ハジメが何かを思いついたような

顔をした。

「ねぇ司。仮の話だけど、僕達4人の

 幸せと、この世界。司にとって

 どっちが重い?」

「は?何ですかその質問?

 当然、4人の幸せです」

ハジメは何を聞いているのだろうか?

そんなの、考えるまでも無い。

 

などと考えていると、ルフェアは

何やら微動だにせず、それこそ

『ぽか~ん』という感じで私を

見上げていた。そして……。

 

「ふ、ふふっ。そっかぁ」

ルフェアが唐突に笑みを浮かべた。

「うん。ごめんお兄ちゃん。ちょっと

 色々、昔の事を思い出してネガティブ

 になっちゃってた」

「いえ、良いのですよ。人は誰しも

 悩む事はあります。しかし、

 ルフェアには出来れば笑っていて欲しい。

 あなたは、笑っていた方が美しいの

 ですから。だから、一人で余り

 抱え込まず、辛くなったら言って下さい」

と、言ったのだが……。

 

「う、美しいってそんな……!

 もう、お兄ちゃんってば!

 恥ずかしいよ~」

頬を真っ赤にして、そこに両手を

当てて首を左右に振るルフェア。

 

ちなみにその後ろでは……。

チラッチラと香織とユエが、自分にも

あんな事言って欲しいなぁ、的な視線を

ハジメに送り続けていて、

肝心のハジメは……。

『こ、今度機会があったら言ってあげよう』

と心に誓っていたのだった。

 

「さて、では改めて。我々はこの大峡谷

 にあると思われる迷宮を探索しつつ

 東側へと移動。まずは町や村などへ

 行き、聖教教会側が我々をどう判断

 したかを確認する。異端者認定を

 受けていた場合、今後人里への

 出入りが不可能となる可能性と、

 村や町に近づいた瞬間攻撃される

 可能性もあるので、近づく時は

 十分警戒するように」

「「「「了解っ」」」」

 

「さて、では。『足』を用意しましょう」

 

そう言って、私は指を鳴らした。

 

すると私達の前に、巨大な鉄の塊、

『装輪式兵員輸送車』が現れた。

 

オリーブドラブの色に箱のような形。

形を例えるのなら、陸上自衛隊の

『96式装輪装甲車』に似ている。

と言っても、形が似ているだけで

性能は別物だ。運転席と隣の

助手席を合わせて、まず2席。

その後ろに3席。更に後ろには

合計で8人が向かい合って座る

ベンチシートを備えている。

搭乗は、後部ハッチと左右の

扉、上部ハッチから行える。

武装として車体上部にバルカン砲、

所謂『ミニガン』を1門。

その隣に重機関銃のM2を装備。

ミニガンもM2も、車内からでも、

手動でも操作可能だ。

他にも車体各部に発煙弾を周囲にバラ撒く

スモークディスチャージャーを装備。

レーダー面でも、アクティブソナー、

音響レーダーや振動レーダーなども

装備しており、索敵能力も高い。

車体後部に格納式の小型スクリューも

装備しており、水陸両用車としても

運用可能だ。

 

この装輪式兵員輸送車、『バジリスク』が

これからの私達の足になる。

「お~~。凄いね司。ひょっとして

 これを使って移動するの?」

「はい。装輪式兵員輸送車バジリスク。

 今後、陸路での私達の足になる装甲車

 です。さて、では乗りましょう」

 

私が乗車を促すと、香織、ルフェア、ユエ

の3人が後部の3つのシートの所へ。

私が運転席に座り、ハジメが助手席だ。

 

「って言うか、司くん免許持ってるの?」

「……異世界に来てそれを聞きますか?」

「つまり、持ってないんだね」

「……はい」

香織の言葉に頷きながらも、私は

バジリスクを発進させた。

 

 

ライセン大峡谷は東西にほぼ真っ直ぐ

伸びる谷であるため、脇道などは

殆ど無く。念のため周囲の地形を

スキャンしながら私達はバジリスクを

走らせた。

ハジメは助手席上部のハッチを開け、

身を乗り出しながら周囲を観察し、

初めて車に乗るユエとルフェアは、

流れていく車窓の景色を楽しんでいた。

 

とはいえ、魔物は普通に襲ってくる。

まぁそれも、警戒に当るハジメの

タナトスで撃ち落とされたり、

香織が操るバルカン砲に蜂の巣に

されたりと、さして驚異になっては

居なかった。

 

その時。

「……ォォォン……」

 

遠くから魔物の遠吠えが聞こえてきた。

皆が咄嗟に身構える。

同時に、音響レーダーが距離を測定する。

「音響レーダーに感あり。続いて

 振動感知のレーダーにも感あり。

 このサイズ。……以前アルラウネと

 戦った時のティラノサウルス並か」

聞こえてくる音と、僅かに伝わる振動を

センサーで魔物の存在を察知する。

 

だが……。センサーが妙な反応も拾った。

「……妙だな?」

「司?どうかした?」

「はい。データによると、魔物が

 数体、こちらに接近中。恐らく

 大型陸上歩行タイプと、中型飛行

 タイプですね。しかし、それらに

 混じって僅かですが、人型と思われる

 足音や息づかいらしき音も検知

 しました」

「それって、襲われてるって事!?」

驚いた様子の香織。

「状況証拠からして、その可能性は

 高いですね」

私の言葉に、ハジメ達4人は顔を見合わせ、

ハジメ、香織、ルフェアがうなずき合う。

 

「……救助、しますか?」

大凡の検討は付いていたので、私が聞くと

3人が頷いた。

「ここは、人間の罪人を処刑する場所。

 助けたからといって、感謝される

 可能性は低いですし、むしろ我々に

 襲いかかり、返り討ちにするだけかも

 しれませんが?」

「それでも、別に良いよ。その時は

 その時だ。敵となるなら倒す。

 じゃないなら助ける。……とりあえずは、

 助けてから考えるよ」

ハジメがそう言うと、他の二人が頷く。

ならば……。

「では、行きましょう」

私は更にアクセルを踏み込み、バジリスクを

加速させた。

 

そして、突き出した崖の側を通り抜けると、

向こう側に魔物が無数いるのを確認した。

その種類数は、2種類。双頭のティラノサウルス

型魔物、ダイヘドア。もう一方は、ワイバーン

型の魔物、ハイベリアの群れだった。

 

その二種が、まるで争うようにしていた。

その理由は、ダイヘドアの足下にあった。

ダイヘドアの足下を、泣きながら逃げ回る、

ウサ耳の少女の姿があった。

その姿を確認すると、私はすぐさま

バジリスクを停車させた。

「あれは、兎人族?」

ハッチを開け、身を乗り出したルフェアが

呟く。

 

「なんでこんな所に……」

亜人は本来、樹海で生活している。しかし

そんな亜人がこんな所にいるのは、確かに

疑問だ。ハジメの呟きも分かる。

だが……。

「その疑問は彼女に直接聞きましょう」

今はそれどころではない。

 

そして、どうやら向こうの少女も、こちらに

気づいてバジリスクから身を乗り出す人影

に気づいて、人とでも思ったのだろう。

 

「だずげでぐだざ~い!ひーっ!死んじゃう!

 死んじゃうよ~!だずげでぇ~!

 おねがいじますぅ~!」

涙を流しながら、こちらにSOSを発してきた。

 

「総員戦闘配置。香織、ユエ、ルフェアは

 バジリスクより援護射撃。上空の 

 ハイベリアを掃討。ハジメは少女の

 確保を。ダイヘドアは私が仕留めます」

 

「「「「了解っ!」」」」

私が指示を出し、皆が動き出す。

香織とルフェアがハッチから身を乗り出し、

ミニガンと重機関銃を手動で操作する。

ユエもハッチから顔を出し、ノルンを

抜いている。

私とハジメは、バジリスクより降車。

私はミスラを。ハジメはタナトスを構え

走り出す。

 

「グオォォォォォォッ!!」

「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!?」

ダイヘドアの口が逃げる少女に迫る。

させん……!

『ドンッッッ!』

『ドバンッ!』

 

ミスラの19ミリ弾が、ダイヘドアの

頭一つを吹き飛ばす。その衝撃で、

ダイヘドアが倒れたが……。

「ぶへっ!」

しかし、着弾の衝撃と転倒の衝撃で

少女も倒れてしまった。

そこへ一匹のハイベリアが迫る。

「も、もうダメですぅ~~!」

咄嗟に頭を抱える少女。

しかし……。

 

『ダダダダダダッ!』

『ガガガガガガッ!!』

後方からの、バルカン砲と重機関銃の

掃射がハイベリアを貫き、撃ち落とす。

 

そして、その隙に私とハジメが少女の側に

到達する。

「君、大丈夫!?」

少女が倒れている少女の肩に手を置き、

声を掛けた

「ふぇ?」

すると、うずくまっていた少女が視線を

上げ、ハジメを見上げた。

「逃げるよ!さぁ!」

ハジメはタナトスを消滅させると左手を

差し出した。

少女は、驚きから抜けるとすぐハッとなって

その手を取った。

 

「司!要救助者確保!」

「ハジメはそのままバジリスクへ後退。

 殿は私が」

「了解っ!行くよ!」

「あ、は、はいっ!」

訳が分からない様子の少女だが、彼女は

ハジメの言葉に頷き、彼に腕を引かれながら

駆け出した。

 

私はそれを後目に、目の前のダイヘドアを

睨み付ける。

ダイヘドアの残った頭は、打ち砕かれた頭を

見つめていたが、何とそれを自分で食って

しまった。

 

ダイヘドアが私を睨み付けながら叫ぶが……。

「既にチェックメイトだ」

『ドンッッッ!』

もう一度、ミスラでダイヘドアの頭を

粉砕した。

 

念のため、復活を警戒したがそんな事は

無かったので、上空に目をやるが、ハイベリア

の大半は香織とルフェアの弾幕で落とされ、

残存ハイベリアは敗走していった。

 

それを確認した私は、ミスラを収納すると

バジリスクの元まで戻った。

私が戻る頃には、車体の側で座り込む少女

とハジメが向かい合っていた。

 

「君、大丈夫?怪我とかしてない?」

「う、うぅっ。あ、ありがどうございますぅ。

 おかげで助かりました~」

涙と鼻水でグチャグチャの顔をしていた

少女。

「あ、よかったらこれ……」

そう言ってハジメは車内からタオルを

取って彼女に渡した。

 

「あ、ありがとうございますぅ」

少女は、そのタオルで顔を拭き、

涙や鼻水を拭う。

そして、彼女がそれを拭うと、

車体上部から香織とルフェア、ユエ

飛び降りてきて、私も歩いて彼女の

側に近づく。

 

しかし、少女としては、メカニカルな

鎧、ジョーカーを纏った私達4人に

驚いて怯えているのか、体が震えている。

「皆、ヘルメットを。彼女が怯えている

 ようなので」

「あっ。そうだね」

私の言葉に香織が頷き、私達4人は

メットを外す。

 

「え?えぇ?ひ、人?」

少女は目をパチクリさせながら、私達

4人を見回している。

ここは、一応こちらか自己紹介しておく

べきだな。

「はじめまして。私の名前は、新生司。

 この5人チームを率いている者

 です。そして、私の左隣から

 順に。南雲ハジメ、白崎香織、

 ルフェア・フォランド、ユエ。

 と言います」

「ど、どうもですぅ」

私達を見回しながらぺこりと頭を

下げる兎人族の少女。

 

「それで、質問なのですが、貴女の

 名前は?」

「私は、『シア・ハウリア』と言います」

「では、ハウリアさん。あなたは何故ここに?」

と、私が問うと、シア・ハウリアはすぐさま

ハッとなってすぐ前にいたハジメの

両腕にすがりついた。

 

「お願いします!私の家族を助けて下さい!」

「え、えぇ!?ちょ、ちょっと落ち着いて!」

腕を掴まれたハジメは、ハウリアの前に

跪いて彼女を宥める。

「家族を助けてって、どういうこと?

 出来れば詳しく聞かせてくれない?」

 

「はい。実は……」

 

静かに話し始めるハウリア。

 

彼女は、兎人族の中のハウリア族、

と言う集団に生まれた子供だった。

ハウリア族は数百人の規模だと言う。

兎人族は聴覚と隠密行動に優れているが、

それ以外のスペックは低く、争いを好まない

性格ゆえに他の亜人達からも格下と

見られているらしい。兎人族は社会集団を

一つの家族のように捉えており、仲間意識

は高いらしい。

また、兎人族は総じて『可愛らしい』という

ような容姿をしている為、愛玩奴隷

として、悪い意味で人気があるらしい。

 

そして、そんな前提条件の後に彼女は、

自分や自分の家族の事を話し始めた。

 

彼女は、そんなハウリア族の中でも特異な

存在だと言う。本来、ハウリア族の髪色は

大抵濃紺らしいが、彼女は青みがかった白髪。

更に亜人には無いはずの魔力までも持ち、

直接魔力を操る力と、特殊な固有魔法を

持っていたとの事だ。

 

亜人も人族や魔族に漏れず、他の人型種族

や魔物を忌諱しており、発見されれば、

最悪の場合死刑もあり得る話だった。

彼女にとって幸運だったのが、仲間意識

の強いハウリア族に生まれた事だった。

彼らは彼女の存在を16年間隠し通した

との事だった。

しかし、ついに彼女の存在がフェアベルゲン

にバレてしまい、彼らハウリア族は

やむなく樹海を脱出。

 

最初は北を目指していた彼らだが、運悪く

帝国兵と遭遇。男たちが足止めを行うが、

ろくな戦闘訓練も経験も無い彼らと戦闘

のプロである兵士では雲泥の差があり、

気がつけば半数が帝国兵に捕らえられて

しまったと言う。

彼女達は何とか南へ逃げ、苦肉の策として

このライセン大峡谷へと逃げ込んだ。

 

魔法が使えないここなら、帝国兵も追って

来ないと踏んでのことだ。

それは間違い無かった。が、帝国兵達は

階段状になっている大峡谷の出入り口に

陣取り、退こうとはしなかった。これでは

峡谷を出られないハウリア族。

そしてそんなハウリア族に峡谷の魔物が

襲いかかった。

 

逃げ道には帝国兵。前には魔物の、

正しく『前門の虎、後門の狼』な状況

になってしまった、と言うのが現状のようだ。

 

「気がつけば、60人いた家族も、今は

 40人程度しか居ません。このままでは

 全滅です。どうか助けて下さい!」

彼女は、その目から大量の涙を流し、

ハジメに縋り付く。

「私に出来る事なら何でもします!

 奴隷でも何でも良いです!だから、

 だから、どうか、どうかぁ。

 お願い、しますぅ」

 

「……」

『グッ!!』

涙を流し、必死に縋り付く彼女に手を

貸しながら、ハジメはハウリアを

立たせた。

 

「……。司」

「助けたいのですか?ハウリア族を」

「……うん」

ハジメは、真剣な表情で真っ直ぐに私を

見つめる。

ハウリアは、ハジメの後ろから彼の横顔

を見つめている。

 

「であれば、最悪帝国兵を敵に回し、

 『人間を殺す事』になる可能性も

 ありますが、それでも?」

「……。うん。引き金を、人に向けて

 躊躇いなく引く自信は、まだ無い。

 でも僕は、シアちゃんや彼女の

 家族を助けてあげたい。

 ……我が儘、なのは分かってる」

やがて、ハジメは静かに、自虐的な

笑みを浮かべ始めた。

 

「覚悟がちゃんとあるわけでも無い

 のに、助けたいだとか、甘ちゃんな

 事を言っている自覚はあるよ。

 ……でも、シアちゃんは泣いてた。

 だから、助けたいって思ってる。

 そのために、戦う必要があるのなら、

 僕は戦う。血に汚れる事を、完全に

 恐れてないとは言えないけど、それでも……」

「ハジメ、さん」

ハジメの毅然とした態度に、ハウリア

はハジメに見惚れていた。

 

泣いている人を助けたいと言う

願いは、実にハジメらしい。そして、

彼は理解している。自分の意思の『重さ』を。

「ただ単純に、助けると言う言葉なら、

 誰でも言える事でしょう。

 しかし、その言葉に載せた、『意思』に

 よって起こるである事象。例えば、

 殺人。その事象の『重さ』を理解

 していなければ、『戦う事の重さ』を

 理解していなければ、その言葉は

 とても軽く、脆い物なのです。

 ……しかし、ハジメはその言葉の、

 自らの意思の『重さ』を理解している。

 ならば私は止めません」

「ッ、じゃあ」

 

「良いでしょう。ハウリア族の救助。

 私は賛成します」

私がそう言うと、彼女は更に涙を

流し始めた。私は、他の3人の方

へと視線を向ける。

「皆は、どうですか?」

「うん。お兄ちゃん達がそれで良い

 なら、私は良いよ」

「私も、ハジメくんと同じで

 ハウリア族を助けたい」

「んっ。……私も」

ルフェア、香織、ユエも賛成して

くれた。

 

「皆さん、ありがとう、ございます」

そして、兎人族の少女、シア・ハウリア

は大粒の涙を流していた。

 

その後、彼女をバジリスクに乗せた

私達はすぐさま彼女の家族が居るであろう

場所に向かった。

 

その道中。

「ハジメ、少し良いですか?」

「ん?何?」

「あなたは先ほど、自分の考えを

 甘ちゃんだと言っていました」

「……うん」

「確かに、私もハジメの思考は、甘さと

 紙一重の優しい物だと思って居ます」

「……」

 

私の言葉に、僅かに俯くハジメ。しかし、私は

彼のそんな思考を否定するために言っている

のではない。

 

「だからこそハジメ。その甘さと紙一重

 の優しさを、捨てないで下さい」

「え?」

視線を上げ、私の横顔を見つめるハジメ。

「私は、あなたや香織ほど、人に優しくは

 なれない。身内が幸せなら、それで良い

 と思って居るからです。そのためなら、

 恐らく私は万単位の人間でさえ、殺せる

 でしょう。……私には、そんな非情な考え

 が出来てしまう。慈悲などと言う心は、

 持ち合わせていません。だからこそ、

 ハジメは、その優しさを捨てないで

 下さい」

「司……」

 

「あなたが、あなたや香織が、このチーム

 の中の良き心、『良心』であって下さい。

 私は、時にその正反対の、『汚れ役』に

 なります」

「そんなっ!?司は十分優しいし!

 それに!」

「そう言う問題では無いのですよ。

 ハジメ」

私はハジメの言葉を制し、前を

見つめながら呟く。

 

「現実は残酷であり、時に人々に非情の

 決断を迫る時が来ます。その時、

 汚れるのは私一人で良い」

「司……」

「……だから、ハジメはその優しい心を

 持ち続けて下さい。優しき心を持てない 

 哀れな私の代わりに」

 

「……分かったよ司。なら、僕は

 約束する。自分が正しいと思う、この

優しさを絶対に捨てない。そして、

例えどれだけ司が汚れていても、司は

僕の無二の親友だ。その事を、絶対に

忘れたりしない……!」

 

そう言って、ハジメは右手をギュッと

握りしめた。

 

親友。そう言ってくれるハジメの存在を、

私は改めて、如何に大切な存在であるかを

再認識していた。

そして、香織やルフェア、ユエの存在も、

同じように……。

 

既にこの手は血で汚れている。今更

躊躇いなど無い。例え幾星霜の命を

奪う事になろうと、後悔などしない。

この力で、ハジメ達を守れるのなら。

彼らの願いを叶える、一助になれる

のなら。

 

私は悪魔と蔑まれようと構わない。

 

そんな覚悟を再認識しながら、私は

ハウリア族救出の為、大峡谷の底で、

バジリスクを走らせるのだった。

 

     第16話 END

 




次回はカム達を助けるお話です。

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