ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回は帝国兵との戦闘です。司は、マジで敵に容赦しません。
若干グロ、注意、かな?


第17話 壁上の殺戮

~~~前回のあらすじ~~~

オルクス大迷宮から魔法陣を使い脱出した

ハジメや司達5人。その後、襲ってきた魔物を

退けた彼らは、魔法陣の転移先であった

『ライセン大峡谷』を東へ向かう事に。装甲車

バジリスクで魔物を撃退しつつ走る5人。

しかし、そんな彼らの前に兎人族の少女、

『シア・ハウリア』が現れた。魔物に

襲われていたシアを助けた5人。しかし、直後

に彼女からハウリア族の事情を聞かされ、

助けて欲しいと懇願される。ハジメは、彼女の

涙を前に、ハウリア族を助ける事を提案する。

司たちはそれに賛成し、5人はシアと共に

ハウリア族の救出に向かう。

 

 

ハウリア族が居るであろう地点を目指す

バジリスク。その車内で、私達は改めて

シアと自分達の詳細を話した。

自分達が魔族と戦う為にエヒトによって

召喚された、人類側の切札、異世界から

の転移者である事。王国で訓練をしていたが、

ルフェアを助けた事をきっかけに、教会

のやり方に反発。G・フリートを結成し

元の世界への帰還を目指し、その情報を

集める為、オルクス大迷宮に潜った事。

その途中で300年前から封印されていた

ユエを救出し、仲間とした事。などなどだ。

一応、エヒトが狂っている事は伏せた。

 

「す、凄いんですね皆さん。……でも、

 皆さんが着ているそれって……」

と、シアはユエ以外が纏っているジョーカー

に興味を示した。

「あぁ。これはね、ジョーカーって言うんだ。

 司が創り出した物なんだよ」

「司さんが?」

「うん。司は所謂天才でね。何でも創れちゃう

 んだ。このジョーカーって言うのは、纏った

 人の力を何十倍にも強化出来るんだ」

「元々、私やハジメくん、ルフェアちゃん

 とかは戦闘向きじゃないし、経験も

 無くてね。それで、身の安全を守るために

 司くんが創ってくれたのがこの

 ジョーカーなの」

と、説明をしているハジメと香織。

しかしどうやら、その説明を聞いたシアは

ユエに目を向けた。

 

「あの、じゃあどうしてユエさんは

 そのジョーカーを着てないんですか?」

「あぁ、それはね。ユエちゃんがそれを

 着なくても良いくらい強いからなんだよ」

「ほぇ?」

ハジメの言葉に、首をかしげるシア。

 

「ユエちゃんはね、魔力を直接操れる

 んだ。だから魔法を使うのに詠唱も

 陣も要らないんだよ。それに、今は

 司から無限の魔力を供給されてるから

 最上級魔法をバンバン連発出来るん

 だよ」

そう教えるハジメの横でどや顔を

しているユエ。

 

しかし、直後に何故か涙を浮かべるシア。

「あ、あれ!?シアちゃんどうしたの!?

 まさかどっか怪我してるとか!?」

突然泣き出したので、やはり驚いている

のか戸惑うハジメ。

しかしシアはフルフルと首を左右に振ると、

静かに話し始めた。

 

彼女曰く『同胞に会えて嬉しくて』、との事

だった。シアは自らの特異性ゆえに、周囲とは

『違う』という事を認識に、そこから来る

『孤独感』を感じていたのだと言う。だから

その涙は、同胞とも言うべきユエに出会えた

事への嬉し涙なのだと。

しかし、その言葉に若干表情を曇らせた

者が居た。ユエだ。

 

その心中を、ある程度察する事が出来た。

ユエとシアの境遇、特異な力を持つと言う点

は似ている。だが、それによって

もたらされた結果は違う。シアは、その力

を持っていたにもかかわらず、家族に

見捨てられる事は無かった。対して

ユエは、散々利用され、封印されたのだ。

そしてシアは16年の人生の中で初めて

同胞に出会った。だがユエは、300年以上

同胞に出会う事も無く、幽閉されていた。

 

そう言う意味では、ユエも思う所がある

のは理解出来た。

 

そして、それを理解したのか、ハジメも

ユエの頭を撫でる。

彼女は、ハジメの肩に寄りかかるように

体を預けた。

 

「あ、あれ?え~っと?」

そんな二人のやり取りに戸惑うシア。

その時。

「ごめんねシアちゃん。ユエちゃんもその、

 色々あったから、とりあえずその話題は

 無しで、ね?」

香織がシアの肩に手を置き、そう呟く。

「あ、ご、ごめんなさい。私、勝手に

 舞い上がっちゃって……。

 ごめんなさいユエさん」

と、シュンとしながら謝るシア。

「……んっ。別に気にしてない」

ハジメに体を預けながらも、静かに

呟くユエ。

 

そんなやり取りを聞きつつ、バジリスク

を走らせていると、音響センサーが魔物の

物と思われる羽ばたき音や声を拾う。

 

「音響センサーに感あり」

私がそう言うと、ユエ以外の皆が近くに

おいていたメットを素早く装着する。

「総員戦闘配置。……羽の羽ばたき音が

 感知されているため、敵性魔物は

 ハイベリアだと思われる。香織、

 ルフェア、ユエはバジリスクから

 対空射撃。私とハジメもEジョーカー

 形態となり、ハウリア族を防衛する」

「「「「了解っ!」」」」

 

そして、バジリスクが大きな岩を避けた先

に、見つけた。

 

シアと同じようにウサ耳を持ち、岩陰に必死

に隠れるハウリア族の人影。更にその

ハウリア族に襲いかかろうとしている

ハイベリア。その総数は6匹。

 

『ギャギャギャギャッ!』

私はバジリスクを急停車させる。

「総員、戦闘開始……!」

 

そして、私とハジメは横の扉から

飛び降り、直後にEジョーカー形態

へと変化する。

そして、足のローラーを使って地面を

疾走する。

 

 

ハイベリアとハウリア族は、まだこちらに

気づいていない。どうやら、お互いそれ

どころでは無いようだ。そして、ハイベリア

のモーニングスターのように肥大化した

尻尾が、ハウリア族の隠れていた岩に

叩き付けられ、わらわらと外に出てしまう

ハウリア族。

 

そして、出てきたところに襲いかかる

1頭のハイベリア。その狙いは、動けなく

なった少年とそれを庇う男の二人を

狙っていた。

ハウリア族はそちらに注視していて、

更に襲いかかろうとしているもう一匹

に気づいていない。

 

やらせん……!

私は両肩の搭載型ミスラを稼働させ、

狙いを定める。そして……。

『『ドドンッ!!』』

両肩のミスラがほぼ同時に火を噴いた。

 

放たれた19ミリ弾は寸分違わずハイベリア

を貫き、胴体を吹き飛ばす。

そして発砲の爆音と落下するハイベリア

の悲鳴に驚いたのか、ハウリア族は

驚きながら、次いで爆音を響かせた

私の方へと視線を向け、戸惑い、

驚き、困惑し、逃げだそうとした。

 

「待って!君たちハウリア族でしょ!?

 君たちの家族、シア・ハウリアちゃん

 に頼まれて助けに来たんだ!」

その様子に、咄嗟にスピーカーをON

にして叫ぶハジメ。

すると、シアという名前に引かれたのか

背を向けようとしていたハウリア族が

再びこちらを向いた。

 

ハウリア族たちは、『シア!?』と驚き

を露わにしながら足を止める。

その時、香織やルフェアの射撃を掻い潜って

一体のハイベリアがハウリア族へ向かって

行った。

 

だが……。

「させるかっ!」

ハジメが右手に召喚したミスラを構え、

撃った。放たれた19ミリ弾は、大口を

開けていたハイベリアの口に飛び込み、

その体を内側から爆発させた。

更に残っていた最後の一体を、私の

搭載型ミスラの射撃が貫き、ハイベリアの

掃討は完了した。

 

ダイヘドアと並んで凶悪なハイベリア

6匹が瞬殺。その事実に、ハウリア族は

驚き、ハジメの白いEジョーカー0と

司の黒いEジョーカーZを見つめる。

 

「……クリア。周囲に敵影を認めず」

「了解」

ハジメの言葉に私が頷く。そして視線を

バジリスクの方に向けると……。

「みんな~~!お~~~い!」

 

バジリスクの方からシアがこっちへ駆けて

来ていた。更にジョーカーを纏ったままの

香織とルフェア、ユエも歩いてそれに

続いていた。

「シア!?」

「おぉ!シアだ!シアが帰って来たぞ!」

彼女に気づくと、他のハウリア族は皆喜び、

そして彼女を囲って笑みを浮かべ何かを

話し始めた。

 

皆、涙ながらにシアの帰還を喜んでいる

ようだ。

やがて、シアに父様、と呼ばれていた

ハウリア族の、初老の男性が私達5人

の前にやってきた。

 

「まずは、我らの窮地を救ってくれた事、

 深く感謝申し上げます。あなた方の

 事は、今娘より聞きました」

「娘?」

「はい。あぁ、申し遅れました。

 私はシアの父、カム・ハウリアと

 申します」

と、甲斐甲斐しく頭を下げるカム。

 

「いえ、お気になさらず。我々は彼女の

 願いを聞き届けただけです。それに

 しても、人族に頭を下げるのですか?

 この状況を作り出したのもまた、 

 人族ですよ?」

その言葉に戸惑うハジメと香織。しかし

それが事実だからだ。

 

「確かに、そうですがあなた方は違う

 と理解しています。なにせ、シアが 

 信頼した相手なのですから。ならば

 我らも信頼しなくてどうします。

 我らは家族なのですから……」

苦笑いと共にそう言うカム。

 

家族が信じたから信じる、とは。

些か危うい考え方のようだが……。

まぁ良い。

 

その後、改めて軽く自己紹介をした。

「改めて、ハウリア族を代表して皆様には

 感謝します。特に、ハジメ殿は真っ先に

 我々の救出の意思を示していただいたとか」

カムがそう言うと、ハウリア族は皆ハジメに

視線を向けた。

「い、いや、そんな。僕は別に何も。それに

 僕一人じゃ何も出来なかったですし」

ハジメは、戸惑いながらもそう言う。

「そんな事無いですよぉ。あの時のハジメ

 さん、とてもかっこ良かったですぅ。

 あの時のカッコいいハジメさんを

 思い出すだけで、私はキュンキュン

 しちゃいますぅ」

あの時。……ハジメが彼女達を助けたいと

言ったときの事だろうか?

シアは頬を赤く染め、くねくねと体を

くねらせている。

 

「「ん?」」

そして、私とハジメの背後で膨大な量の

殺気が放たれた。

その殺気にハジメとルフェアが体を

ガクガクと震わせているが、シアは

顔を赤くし、ハウリア達は、『シアに

春が来たな』などと言ってシアを

微笑ましそうに見守っている。

 

ふぅむ。ハジメはどうやらモテる人間

のようだ。シアはどうやら、既にハジメ

に好意を抱いてる様子だ。

……はっきり言って、ちょろ過ぎない

だろうか?

まぁ良い。他人の恋路にとやかく言う気

はない。……もっとも香織とユエを相手

にどこまで食らいついて行けるのか、

甚だ疑問だが。

 

そう考えながら、私はオーラを纏った

二人を横目に、ハジメはこれからも

大変な事になりそうだ、と考えるの

だった。

 

 

「シア」

「え?はい」

しかしここでは魔物の問題もあるので、

とりあえずここを移動したい。

「あなたからの依頼はハウリア族の

 救出でしたが、あなた達はこれから

 どこへ?やはり北ですか?」

私はそう問いかけると、カムが答えた。

「はい。我々は北の山脈地帯を

 目指そうと考えています」

「であれば、我々の仕事はあなた達を

 全員そこに無事に送り届ければ終わり、

 と言う事ですね」

「はい」

「では、移動の準備を。まずは峡谷を

 出て、北へ向かいましょう」

この人数の移動。念のため護衛の

ガーディアンを召喚しておくか。

 

そう思った時。

「あの、司殿」

「ん?何です?」

カムが話しかけてきた。

「このたびの助力。何とお礼を言って 

 良いか。しかし、我々には謝礼として

 何ら、司殿達に差し上げる物が無く……」

と、すまなさそうに謝るカム。

 

「我々は別に報酬が欲しくてあなた方を

 助けたわけではありません。

 お気になさらずに」

「しかし、ただ助けられてばかりでは……。

 それではハウリア族の名折れです」

今はそんな事を言ってる場合では無い

と思うが?

などと思って居ると……。

 

「……司」

不意に、ユエが何かを考えついたのか

私の方に歩み寄って来た。

「ユエ?どうかしましたか?」

「ん。……ハウリア族のお礼に、

 良い事思いついた」

そう言ったユエは、カムに話し始めた。

 

ユエの提案は、我々5人、もっと言えば

G・フリートが彼らを守る見返りとして、

ハルツィナ樹海の案内役をさせる事だった。

樹海を覆う霧は、亜人以外では必ず迷う

と言われているからだ。

 

私のアクティブソナーなどの探知技能も

使えばさして問題では無いと思っていたし、

亜人であるルフェアも居るので問題無い

と思って居たのだが、その提案を聞いた

カム達は、是非にと言うので私は皆に

聞いたが、ハジメ達からの反対意見も

無かったので、彼らを樹海の案内役として

雇用する事になった。

 

 

「さて。ではまず、峡谷の出口を

 目指すための足を用意するとしますか」

私が指を鳴らすと、5台のバジリスクが

現れた。これで、私達のと合わせて6台だ。

更に指を鳴らせば、30人規模のガーディアン

部隊が出現する。

 

その出現に驚くハウリア族達。

「お、おぉ……!司殿、これは一体……」

「あの箱形の物体は、人を乗せて移動

 する、まぁ分かりやすく言えば私達の

 世界で作られる、鉄の馬車です。

 その前に並ぶのは、言わばゴーレム。

 鉄で出来た、命を持たない兵士です。

 これからハウリア族、あなた方を

 この鉄の馬車、バジリスクと

 兵士、ガーディアンで峡谷の

 入り口まで警護します。さぁ、

 乗って下さい」

「大丈夫です父様!私も同じ物に

乗りましたけど、馬車より速くて

快適なんですよ!」

「そ、そうか。では……」

 

戸惑いながらも、シアがそう言うのなら、

と言う事で私達に言われるがまま、

バジリスクへ9人の班に分かれて乗り込んで

貰った。

バジリスクの各運転席と助手席には

ガーディアンが1名ずつ。後方のベンチ

シートにも二体のガーディアンを配置。

ハウリア族には運転席後方の3席と

ベンチシートの残り6席に座って

貰った。

 

私達5人の1号車には、シアとカム、

数名のハウリア族を乗せ、車列の先頭を

努める。ちなみに、1号車のドライバー

はハジメが努める事に。私は

助手席に内蔵されていたキーボード型

端末を引き出し、ヘッドフォン型の

通信端末も装備していた。

 

「ハウリア族の皆さんへ、聞こえていますか」

通信機に向かって呼びかけると、向こう側

から残り5台に乗っていたハウリア族の

驚く声が聞こえてきた。

「これから我々は峡谷の出口を目指して

 移動します。道中、魔物が襲ってくる

 可能性がありますが、我々G・フリート

 のメンバーが対応しますので、

 どうかご安心下さい。それでは、

 出発します」

そう言うと、一旦通信を切る。

「ハジメ」

 

「うん。分かった。1号車、発進」

ハジメがサイドブレーキを解除し、アクセル

を踏み込むと1号車が発進。2号車以降は、

一定の間隔を空けながら1号車に続く。

 

「お、おぉ。何とこれは……」

走り出したバジリスクの中で、馬車とは

比較にならない速度で流れていく景色に

驚いているカム。1号車に乗り合わせた

子供達も、バジリスクの乗り心地と

速さに驚きはしゃいでいた。

 

その様子を後目に、私は助手席から

レーダー各種を確認しつつ、周囲を

警戒していた。

 

それからしばらくして、車列は峡谷の出口、

ジグザグに作られた階段の前に到着した。

道中では、確かに魔物の襲撃もあったが、

6台のバジリスクの武装を、私のジョーカー

の制御下に置き、操作する事で特に

問題無くこれを撃退した。

 

出口の前に停車した私は、バジリスクの

レーダーを確認するが……。

「壁上に生体反応あり。数は30人ほど。

 どうやら、帝国兵はまだ諦めていない

 ようですね」

「そ、そんな……」

カムは、絶望にも似た表情を浮かべ、

シアも俯いている。

 

このままでは出られない。そう考えていた

のだろう。

しかし、問題無い。

「安心して下さい。帝国兵はこちらで排除 

 します」

「え?」

私の言葉に、シアが驚いた表情を浮かべる。

こちらとしては、ガーディアンの実戦での

評価試験が出来る。丁度良い機会だ。

 

そして、外に出ようとしたとき。

「ま、待って下さい!排除するって、

 それは!……殺す、って事なんですか?」

戸惑った表情で私の肩を掴み問いかけてくる

シア。

 

「……その通りですが、何か?」

「な、何かって。……人ですよ?ハジメさん

 達の同胞なんですよ?それを、殺すって」

「……シア。あなたに言っておきたいの

 ですが、同胞=殺さない、なんて言うのは

 ただの理想論ですよ」

「え?」

「それに、奴らは十中八九あなた方が

 狙いだ。上がっていった所で、どうせ

戦闘になるのがオチです。戦いとは、

殺すか殺されるか、ですよ」

そう言うと、私はバジリスクから降りる。

 

ハジメと香織達。シアやカム達ハウリア族。

ガーディアン達も降車した後、私は

6台のバジリスクを宝物庫に保管し、

整列するガーディアンの方へ向き直る。

 

「ガーディアン隊へ。半数は階段を上がり、

 待ち構えている帝国兵を殲滅。全員は

 殺すな。隊長クラスと他数名を捕縛せよ。

 行け」

 

私が命令を下すと、半数、15体ほどの

ガーディアンがセーフガードライフルを手

に階段を駆け足で上がっていく。

これで良いだろう。

 

「残りのガーディアン隊は我々と共に

 ハウリア族へ同行。彼らを警護せよ。

 ……では、行きます。私達について

 来て下さい」

「は、はい」

緊張した表情のカムが頷き、私が歩き出す

とシアやカム達が続き、その周囲を

ハジメ達やガーディアン達が固める。

 

攻撃隊とは異なり、こちらはゆっくりとした

速度で階段を上がっていた。その時。

『ダダダダ……!』

頭上で銃声がし、ハウリア族がビクつく。

次いで、帝国兵の物と思われる怒号と

悲鳴が響き渡った。

 

「大丈夫です。先遣隊が帝国兵と戦っている

 だけです。行きましょう」

私は淡々とそう告げ、彼らを促す。

 

そして、階段を上りきった時には……。

 

死屍累々。

まさにその言葉が似合う状況だった。

 

野営地だったと思われる場所で

兵士の死体がいくつも倒れていた。

頭のない物、足の無い物、手の無い物。

顔半分が吹き飛んでいる物、

胴体部から上下に千切れている物などなど。

死体が周囲に散乱していた。

 

しかし、やはりガーディアンのレベルなら

この世界の人種族の軍隊はさして問題も

なさそうだ。これなら、1個師団クラスの

戦力があれば、国を落とす事も出来る

だろう。

 

等と考えながら、後ろに目をやると、

ここの様子に、ハウリア族だけではなく、

ハジメや香織も息をのむ。

そんな中で、私はガーディアンに

拘束され喚く男達を見つけ、そちらに

歩き出した。

 

「……貴様がこの部隊の隊長か?」

「テメェ誰だ!?このゴーレムは、

 テメェの差し金か!俺たちにこんな事

 して、ただで済むと」

 

『ゴッ!』

何やら喚いていた隊長の頭を私が

踏みつけた。

「喚く元気があるのなら質問に答えろ。

 自分の立場を弁えてな。捕らえた兎人

 族はどうした?」

そう言って、私は足を退かす。

「ゲホッ!ゲホッゲホッ!き、貴様ぁっ!

 こんな事をして、ただで済むと思うなよ!?

 殺す!殺してやる!」

駄目だこれは。会話が成立していない。

 

やむを得ないか。

私は足を振り上げ……。

『グシャッ!!』

男の頭を踏み潰した。

飛び散った脳漿と血が、隣で拘束されていた

兵士の顔や体に付着する。

「ひ、ひぃぃっ!?」

それだけで、捕らえられていた3人の兵士が

狼狽し、股間を濡らす。

 

「さて、では次の者に質問するとしよう。

 樹海から出てきた兎人族はどうした?

 どこに居る」

「ま、待ってくれ!話す!話すから!

 殺さないでくれ!」

そう呟く兵士の前に立つ私。それだけで

兵士は怯える。

「さっさと話せ」

「と、捕らえた兎人族は、数を絞って

 移送した。多分、もう帝国にたどり着いた

 頃、だと、思う」

数を絞った、と言うのは、間引いた、と言う

事か。恐らく、老人などは殺されたと

思われる。

 

後ろにチラッと目をやれば、シアやカム達が

悲痛な面持ちをしていた。

私は、兵士達に背を向け歩き出す。

どうやらそれに安心したのか、兵士達が

ホッと息をつく声が聞こえたが。

……生かしておく理由は無い。

 

「ガーディアン。適当に始末しておけ」

そう言うと、兵士達の表情が青くなる。

「待てっ!話した!話しただろう!

 だから命だけは!」

兎人族について話した兵士が叫ぶ。

私は足を止め振り返るが……。

 

「命だけは?何をのたまっている」

私は殺気を滲ませながらそう呟く。

「ここは戦場だ。生きるか死ぬかの、

 それだけの場所。死ぬ覚悟も無く

 戦場に出てきたのか?だとしたら、

 滑稽だな」

そう一蹴し、再び皆の元へ歩き出す。

 

「殺しておけ」

 

そう言い残して。

 

そして直後、助けを求める兵士達の

声をかき消すように、数発の銃声が

鳴り響いた。

 

 

「悪い報告です。残念ながら他の兎人族

 は、皆既に帝国へと移送が完了

 しているようです」

「……そう、ですか」

そう答えるカム。しかし彼を始めとした

ハウリア族は、皆私を恐れているような

表情を浮かべた。

そんな中、おずおずと一歩前に出るシア。

 

「あ、あの。あの人達は、見逃してあげても

 良かったんじゃ……」

 

そう言って私を見るシアの目には恐怖が

見えた。他のハウリア族達にもだ。

……しかし、何とも思わない。

私がオリジナルの一部であった頃など、

もっと濃密な負の感情をぶつけられて

来たのだ。この程度、どうという事は無い。

「……」

その言葉に私は黙り込み、やがて静かに

口を開いた。

 

「一つ、私の世界の言葉を教えておこう」

「え?」

突然の事で疑問符を浮かべるシア。

「『撃って良いのは撃たれる覚悟のある

 奴だけだ』。意味は分かるはずです。

 戦争や戦闘で敵を、或いは誰かを殺す

 のなら、自分もまた殺される覚悟を持て

 と言う事だ。……争い、他者の命を

 嗤いながら奪った者が、命乞いをして

 少ない情報を与えたから許して貰う

 など、虫が良すぎて反吐が出ます」

そして、私は近くにあった兵士の

死骸の一つの、頭を踏み砕いた。

飛び散った血が、ジョーカーZの

体を赤黒く染め上げる。

 

それだけで、シアを始めとした

数人がひっと悲鳴を漏らす。

すると、数歩前に出たルフェアがシア達

ハウリア族に睨み付けるような視線

を向けた。

 

「……何それ?あなた達はお兄ちゃんに

 助けられたくせに、そんな風に

 お兄ちゃんを見るの?

 はっきり言って、凄い不愉快

 なんだけど」

どうやらルフェアは、私のために怒って

くれたらしい。ハウリア族は皆俯き、

ばつの悪そうな表情を浮かべる。

 

まぁ良い。私は、何かを言おうとした

カムを制した。

「構わないよルフェア。どうせ、北の

 山脈に送り届けるまでの関係だ。 

 それが終われば、もう二度と会うこと

 も無いだろう。どんな感情を

 抱かれようと、痛くもかゆくも無い」

 

そう言うと、ガーディアン達に指示を出し、

帝国兵の死骸と物資を一箇所に集めて燃やす

事にした。

馬と馬車は使えそうなのでこちらで使う

としよう。

 

そして、その準備をしていた時。

 

「……みんな、聞いてほしい」

ハジメが、後ろでハウリア族に向かって

何かを言い出した。

「ここでの戦いは、避けられなかった物だ。

 だから、多分ガーディアンがやらなくて

 も僕達と戦ってあの兵士達は死んでいた。

 司は前に言った。この世界は弱肉強食

 なんだって。だから、分かって欲しい。

 あの兵士達は君たちを狙っていたし、

 僕達がいたとしても、襲ってきた。

 だからこれは、君たちを守る為に

 『必要な戦い』だったんだ。だから、

 その事だけは、分かってあげて欲しい」

 

ハジメの言葉に、カムが一歩前に出た。

 

「こちらこそ、申し訳ない。司殿に

 含んだ物があるわけではないのだ。

 ただ、こういった事には慣れていない

 のでな。驚いたのだ。どうか、

 許して欲しい」

「わ、私も。ごめんなさいハジメさん」

「……なら良いよ。それに、謝るのは

 僕じゃなくて司だよ。まぁ、司が

 気にしてるかどうかは分からないけど」

そう言って、ハジメは死骸を焼き払う

ジョーカーZの背中を見つめた。

 

 

そしてハジメは、そんな背中に、かつて

司が見せたゴジラ第4形態の面影を

幻視するのだった。更に……。

 

『これが、司の言ってた汚れ役の意味、か』

彼は、静かにそんな事を考えていた。

そして考える。人々から忌諱される存在で

ある事の、その辛さを。

そこへ……。

「ハジメくん」

メットを取った香織が近づいてきて、

声を掛けた。

「香織さん」

「大丈夫?何だか、少し考えてるのかな

 って思って」

「……うん。司がさ、言ってたんだ。

 自分は汚れ役になるから、僕には

 甘さと紙一重の優しさを、捨てないで

 欲しい。僕達には、このチームの中での

 良き心、良心であって欲しいって」

ハジメは、ギュッと右手を握りしめた。

「……。そう」

そして香織は、頷き、静かに彼の右手に、

左手を重ねた。スーツ越しに触れあう

二人の手。不思議と、二人は互いの

温もりを感じている気がした。

 

「結局、私達はそう言うの、司くんに

 押しつける形になってるんだね」

「……そうなのかもしれない。でも、

 だからこそ……」

ハジメは、空いている左手を眼前まで

持ってくると、それを握りしめる。

 

「僕は、このチームの中で良心を、

 司の言う甘さと紙一重の優しさを

 絶対に失わないって決めたんだ。

 そして、司の親友である事も。

 その隣で、一緒に戦う事も」

彼は、改めてその決意を固めていた。

 

そして、香織も……。

「じゃあ、私も」

「え?」

疑問符を浮かべ、香織の方を向くハジメ。

すると香織の両手がハジメのジョーカー

のメットを取った。

そして、彼女の右手がハジメの鼻先に触れた。

「忘れたの?私はあなたの恋人

 なんだからね?」

「あ、あぁうん。わ、忘れてないよ」

と、顔を真っ赤にしながら頷くハジメ。

「だから、ね。私は、司くんの隣に立つ

 ハジメくんの隣に立つ。隣で、一緒に

 戦う。……それくらいの決心、もう出来てる

 から」

「香織さ」

さん付けで呼ぼうとしたが……。

「ダ~メ」

遮られるハジメ。

「もう。恋人なんだからさん付けは無し

 だよ。それに、やっぱり恋人なんだし。

 そう言うのは無しで呼んでくれた方が

 良いかな~、なんて?」

と、香織も顔を赤くしながらそう呟いた。

 

これには、更に顔が赤くなるハジメ。

やがて……。

「わ、分かったよ。……香織」

ハジメは顔を真っ赤にしながら彼女の

名前を呼んだ。

「うん。……えへへ」

初めて名前呼びに、香織はニヤけた笑みを

浮かべ始めたが……。

 

『ギュッ!』

「うわっ!え!?ユエちゃん!?」

次の瞬間、ユエがハジメの左腕を抱くように

抱きついた。

「……ハジメの隣は、譲らない」

「ッ!?ユエ!」

「……私だって、ハジメの隣で戦う覚悟は、

 出来てる。今の私は、魔法が無限に

 使える無敵キャラ。私なら、どんな

 敵からでもハジメを守れる」

「なっ!?そ、それを言ったら私だって

 ジョーカーのモードGがあるし!」

「でもそれは、借り物の力」

「うっ!?で、でもユエだって!司くん

 から腕輪で魔力を供給されてるからこそ

 魔法をバンバン使えるんでしょ?

 ユエの無敵っぷりだって司くんの

 借り物じゃない」

「ッ!……それは……。でも、実力

 なら香織に負けない」

「ふ、ふ~~ん。言うじゃないユエ。

 でも、私は負けないからね?」

「こっちの台詞」

 

と、二人は互いに睨み合い圧倒的なオーラを

滲ませながら、不敵な笑みを浮かべ

合っていた。そしてその二人に挟まれ、

戦々恐々なハジメと。

 

殆ど空気なシアとハウリア族の面々。

 

「あ、あの~?皆さん?」

シアが声を掛けるが、その声は届かず。

更に何度か声を掛けるが………。

 

「「ちょっと黙ってて」」

オーラを滲ませるユエと香織にそう言われ、

シアは涙ながらに下がる。

 

「う、うぅ。可笑しいですよぉ。何だか

 シリアス展開だったのに、気づいたら

 3人の甘々バトル展開になってました。

 ……あぁ、これがシリアスブレイカー

 なのでしょうか」

 

いつの間にかシリアス展開から3人の

甘々展開へ。そして更に二人から雑な

対応を受け、涙目のシア。

 

しかし……。

不意に彼女は思い出した。

先ほどの司の言葉を。

 

『どうせ、北の山脈に送り届けるまでの

 関係だ。それが終われば、もう二度と

 会うことも無いだろう』

 

そう。それは、ハウリア族と司達は

一時的に、一緒になって行動しているだけ

に過ぎない。つまりハウリア族が

目的地に到着すれば、それでさよならだ。

 

事前の話し合いで、まず最初にハルツィナ

樹海の最深部にある、大樹と呼ばれる場所

に向かう事になっている。司は、オルクス

での経験から、公になっている迷宮は

ダミーの可能性を指摘した。オルクスの

100層までは、言わばそのダミー。

101層以降が、真のオルクス大迷宮である

と考えたのだ。そして、その考えを

当てはめた結果、迷宮とされている

ハルツィナ樹海もまた、ただの表に

過ぎず、その裏側に真の迷宮があると

司は考えたのだ。そしてその手がかりと

思われる大樹へと向かう事になった。

 

大樹へは、カム達ハウリア族の案内で、

と言う事になっている。しかしこれは、

言わばマッピングだ。司の持つ、

近未来の装備によって地形をスキャンし、

地形データを取得。それによって

地図を作成し、更に大樹の付近に

マーカーを設置する事が目的だ。

 

RPGゲーム風に言うのなら、転移先の

登録、と言った所だ。なので、一度

大樹にたどり着いたならば、彼らは

ハウリア族を連れて一旦樹海を出た後、

北へと彼らを送り届け別れた後、

再度樹海へ戻る、と言う事になった。

 

そして、北へと向かえば、ハウリア族と

ハジメや司たちの関係はそれまでだ。

 

シアは、その事について考えていた。

 

『私は、私は……』

彼女の願いと目的の為の最善策は、

『ハジメ達に付いていく事』だ。

 

しかし、その願いを彼らがどう捉え

何を促すのか、それはまだ、誰にも

分からない。

 

     第17話 END

 




次回は樹海でのお話です。

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