ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回から樹海に突入します。


第18話 濃霧の先へ

~~前回のあらすじ~~

兎人族の少女、シア・ハウリアを助けたハジメ達

5人は、彼女から危機に瀕するハウリア族

救出を懇願される。5人はその力を持ってハウリア

族を救出し、更に大峡谷の出口で待ち構えていた

帝国兵をガーディアン部隊が殲滅させて

しまうのだった。

 

 

今、私達はハルツィナ樹海を目指しバジリスクの

車列を走らせていた。

更にその周囲には、馬に騎乗できる者達を乗せた

馬が並走していた。

私やハジメ、香織達のバジリスク1号車

には、私達5人とシアだけが乗っていた。

 

その道中。

「あ、あの。司さん。さっきはその、ごめんなさい」

「?何のことです?」

何故謝られたのか分からず、私は聞き返した。

「いや、その……。さっき、皆が、司さんの事、

 怖がって……」

あぁ。あれか。

「お気になさらず。あぁ言う恐怖の念を

向けられるのには慣れているので。だから

気にする必要はありません」

「え?な、慣れてるって……」

私は真実を告げただけだが、シアは更に困惑

したようだ。まぁ良い。

 

やがて、しばらく黙り込んでいたシアだったが……。

 

「あ、あの、皆さんの事、もっと教えて

貰えませんか?」

「え?どうして?」

突然の言葉に首をかしげる香織。

「何て言うか、ただ、皆さんの事が知りたい

 んです。ユエさんみたいな、その、仲間って

 呼べるかもしれない人に出会ったのも

 ありますし、そんなユエさんと一緒の

 皆さんの事も、知りたくて……」

 

と、話すシア。ハウリア族救出に向かう際は、

細かい部分を端折って話していた為、彼女は

詳細を知らない。

 

彼女としては、同類とも思えるユエと、そんな

ユエの側に居る私達に興味があるのだろう。

魔法を使える人と魔族、魔物を忌諱する

亜人側から見れば、シアは敵の同類の

ような物。ずっと自分は周囲と違うと言う

考えから来る孤独感を埋める物として、

シアとユエの出会いは、シアから見れば

青天の霹靂、とも言えるだろう。

 

ハジメと香織、ユエ、ルフェアは4人で

話し合った後、私のゴジラとしての素性を

抜きにこれまでのことを語った。

 

ある日突然、戦闘のせの字も知らない学生

であった自分達が、いきなりこの世界に召喚

され、戦えと言われた事。帰る術は、エヒト

に頼るしかなく、そのために戦うしか無いと

考え、戦いはじめた事。特にハジメは、錬成師

と言う天職と能力の低さから、周囲に侮辱

されていた事。そんな彼を助けるため、私が

ジョーカーシリーズを創り出した事。

オルクスでベヒモスと戦い、特に私とハジメ

が活躍した事。更に香織との告白。

ルフェアとの邂逅とその成り行き、彼女を

手に掛けようとした教会へ、トータス

世界の人間を敵に回す覚悟で反発した事。

帰る術を探すため、ベヒモス戦で確認した

100層以降を探査するため、4人でそこへ

潜り、そして封印されていたユエを助け、

更に攻略を続け、最後のヒュドラの魔物を

退け、最深部へ到達した事。そこで元の世界

に帰還出来る可能性について、見つけた事。

今は更なる情報を得るために、迷宮を

巡る旅をしている事など。

 

ハジメが語り部となって、話をした。

そしてそれが終わった頃には、シアは

泣いていた。しかも号泣である。

どうやら、裏切られ封印されたユエの

話と、孤児であったルフェアの話が

彼女の琴線に触れたようだ。

 

「うぅ、ぐすっ、酷いですぅ。悲しいですぅ」

「し、シアちゃん。とりあえずこれ」

と、号泣するシアにタオルを差し出すハジメ。

「うぅ、すみません。……でも、

 ユエさんもルフェアちゃんも、色々

 大変だったんですね」

と、タオルで顔を拭いながら更に涙を

流すシア。

「ハジメさんと香織さんも、色々大変で。

 でも二人を助けてあげるなんて、

 私、感動しました!」

泣きながら、タオルをギュッと握りしめる

シアに苦笑するハジメと香織。

 

その後は、なぜだか「私は、甘ちゃんですぅ」

とか「もう、弱音は吐かないですぅ」などと

言っている。そして、彼女は何やらギュッと

拳を握りしめ、ハジメ達の方を見ている。

 

するとハジメが……。

「あ、この展開まさか……」などと呟いている。

まさか、とは何だろうか?

と考えていると……。

 

「私、決めました!皆さんの旅に着いて

いきます!」

と、突然シアがそんな事を言い出したのだ。

何やら彼女がそんな事を言っている。が……。

 

「却下」

「や、止めた方が良いよシアちゃん」

「うんうん」

「右に同じく、だね」

ユエ、ルフェア、香織、ハジメの順に

4人がすぐさま否定する。

 

「え、えぇ!?どうしてですか!?」

驚き声を荒らげるシア。

どうやら彼女の中では、承諾されるとでも

思って居たのだろうか?

まぁ良い。

「一言で言えば、覚悟と技量が足りないから、

 ですよ」

 

運転席で黙っていた私が口を開いた。

「か、覚悟と技量、ですか?」

「えぇ。我々G・フリートは、敵として現れた

 存在を力でねじ伏せ、倒して前に進みます。

 当然、魔物だろうが人間だろうが、亜人

 だろうが何だろうが。……ですがシア。

 あなたは自分達を害した帝国兵にまで、

 逃がしてやれば、などと言った。はっきり

 言って、そんな貴女が私達の旅に着いてきた

 所で、足手まといが関の山。ハジメと香織は、

 元の世界へ帰る為。ユエとルフェアは、

そんな私達と共に生きる道を選んだ。いや、

選ばざるを得ない状況だったと言っても良い。

無論、今の二人がその選択に後悔している

とは思って居ません。二人は自らの意思で、

私達と行動を共にしています。が、あなた

はどうなのですか?シア?」

「わ、私は……」

「あなたの選択肢は二つ。家族とともに北へ

 逃れるか。貴女が言うように、私達に

着いてくるか。そしてあなたは後者を

選んだとして、後悔しませんか?

あなたには、二人には無かった選ぶチャンス

が与えられているのですよ?

この際、戦うスキルは置いておいても、

私達についてきて、後悔しないだけの

理由、覚悟があなたにあるのですか?」

「そ、それは……」

「覚悟が無いのなら、止めておく事です。

 確固たる精神的支柱、覚悟が無ければ、

 人の意思など、簡単に折れ、自分の選択に

 後悔する。ましてや、そこが命のやり取り、

 殺し合いをする戦場を行くなら、尚更です」

「……」

シアは、何も言おうとはしない。

 

「シア。あなたの選択を否定する訳では

 ありませんが、私達はこの先、多くの血

 を見る事になるでしょう。危険もたくさん

 伴います。仮に、あなたが着いてきたと

 しても、覚悟が無ければすぐに折れて

 しまうかもしれません。なので、よく

 考える事です。私達の旅に、本当に

 着いてきたいのかを」

「……はい」

シアは頷くと、これまでの姦しさはなりを潜め、

しばし何かを考え込むような表情を

し始めた。

 

それから数時間後。馬に合わせて速度を

落としていた事もあり、ようやく平原と

樹海の境界線に到着した。

眼前に広がる樹海を前に、私達は

バジリスクから降車。ガーディアン部隊は

残し、バジリスクは私の宝物庫の中に

収納した。

 

改めて外から見たハルツィナ樹海はただの森

にしか見えないが、カム達の話では

入ってすぐ周囲を霧に包まれるらしい。

「それでは、皆さんは私達の輪の中から

 決して外に出ないで下さい。それと、

 あの兵士達も……」

「いや、その心配は無用です。ガーディアン達は

 ハウリア族の輪の外に、更に円形の陣を

 描くように配置します」

「で、ですが……」

と、カムは心配したように言うが……。

 

「心配は無用です。ガーディアンには、

人の五感を遙かに超えた力の索敵能力が

あります。この程度の霧で我々を見失う事

は無いでしょう。それに、仮にはぐれた

としても互いの位置関係は理解

出来るので。問題はないです」

「そ、そうですか。では、皆さん。気配

を出来る限り消してもらえますかな?」

「気配を消す、って。……どうしよう司」

「それなら、ハジメ達はこれを纏って下さい」

そう言って、私は3つのローブを渡した。

「司、これは?」

「これは『ステルスローブ』。纏った者の

 気配を遮断するローブです。ローブには、

光学迷彩のシステムも内蔵しており周囲の

景観と同化し視認性を低下させます。

また、これを纏う事でジョーカーが

自動的にアクティブステルスモードに移行、

 足音などを極力低くするため、足裏に

 特殊樹脂を展開します」

私の説明を聞きながら、ローブを鎖骨の辺り

に出現したフックに止めて纏い、

フードを被る3人。

私の方は、これを纏わずとも生まれながらの

技能で気配を消すことが出来るので

問題ない。

 

「それでは。ハジメ達3人は私とユエの後方を

 着いてきて下さい。円の中心は私とします。

 ハウリア族はその周囲に展開。更に外側

 にガーディアン部隊を配置します」

「「「「了解」」」」

「り、了解です!」

ハジメ達が頷くと、シアも咄嗟に返事をする。

 

「それでは、行きましょうか」

 

カムの言葉に私たちが頷く。

一行は、カムとシアを先頭に歩き出した。

 

樹海に入ってしばらくすると、周囲を霧に

包まれた。しかし、メットのサーモグラフィー

とレーダーの機能を使えば、互いを見失う

事は無い。

 

やがて、順調に歩いていたカム達が立ち止まり、

周囲を警戒する。そして私たちのレーダーも、

こちらへ接近する魔物の存在をキャッチした。

……撃退するのは簡単だが、銃声でこちらの

存在を亜人族側に知られるのは不味いか。

 

「総員、ノルンを装備の上でサプレッサー

 を装着」

その言葉を聞き、ガーディアン達がノルンを

取りだし、更に私が出現させたサプレッサー

を装着させていく。

「ハジメもノルンにサプレッサーを。

 それと、香織とルフェアは……」

「大丈夫、分かってるから」

 

後ろで香織が頷いた。かと思うと、彼女が

空中に新たな銃を召喚した。

それは、ボルトアクション式スナイパー

ライフル、『アルテミス』だ。

アルテミスは、破壊力を重視するミスラ

とは違い、標準的なサイズと重さの

スナイパーライフルだ。とは言え、

専用の8ミリ弾を使うので、威力は

それなりに高い。

 

香織はそのアルテミスを召喚し、10発入り

ボックスマガジンを装填。サプレッサーを

装着した後、ボルトを動かし初弾を装填

する香織。

 

「私も」

そして、ルフェアも頷く、空中に2丁の

バアルを出現させると、それを両手で

キャッチ。サプレッサーを装着すると、

タイプRにのみ実装した、ルフェアの

提案で備え付けた、両腰左右の自動

マガジン装填システムを使って、

ルフェアが両手のバアルに弾倉を装填する。

 

その様子を見ながら、私は改めて

3人の変化について考えていた。

 

銃器を使った戦いを経験する中で、

ハジメ、香織、ルフェアの3人はそれぞれ

異なった成長とバトルスタイルを獲得した。

 

ハジメは、一言で言えばオールラウンダーだ。

銃器に関して、トールやノルンなどの

ハンドガンを始め、タナトス、ミスラなど、

全ての銃器をそつなく扱いこなす。

本人の談だが、『ガン=カタに憧れたんだ!』

と言って、最近ではトールやノルンを使った

戦いが多く、相手の懐に飛び込み、トール

の炸裂弾を弱点や関節にたたき込む、

と言う働きをしていた。更にハジメは、

私の力で軍隊式の格闘術の知識もインプット

されており、戦いではその知識を生かした、

銃を使うインファイト、我流のガン=カタを

得意としている。また、その動きをよりよく

するため、タイプ0には改良を施し、

雫に渡したタイプCを参考に各部へスラスター

を増設。機動性を高めた。

 

次に香織は、アルテミスを召喚した事からも

分かるとおり、彼女は最近、後方支援に

特化し始めている。

彼女は最近タナトスをセミオートで使うように

なりはじめ、その際の命中率は3人の中でも

ダントツだったのだ。

それに伴い、香織のタイプQには新たに

センサー類の強化を施し、レーダーの

性能やメットのゴーグル機能。狙撃の際には

周囲の状況を感知し、弾道を計算する

スナイパーサポートシステム、通称、

SSS(トリプルエス)』を実装した。

 

そしてルフェアはと言うと、彼女はハジメに

似て、近接戦での戦いに慣れ始めた。

最初は魔物などを怖がっていた彼女も、

戦い慣れたのか最近では魔物を恐れなく

なった。彼女の戦い方は二丁のバアルを

装備しての攪乱を得意としていた。

ジョーカーの優れた脚力と重力制御装置を

生かし、ありとあらゆる状況で

三次元的機動を可能としていた。

周囲を飛び回り、バアルで弾丸を雨あられと

撃ち込むのが、彼女の戦い方だ。

そして、そんな彼女をサポートするため、

ルフェアのタイプRは右腿部分にも

マガジンスロットを装備。更に自動で

バアルの弾倉がせり上がる内部機構も

実装し、パイロットであるルフェアが

念じるだけで、弾倉が自動でせり上がり、

そこにマガジン導入口を当てるように

装填する、と言うハンズフリーの給弾

システムを備えていた。同様に、

タイプCやタイプ0と同じように

各部へスラスターを追加し機動性も

高めてある。

 

オールラウンダーなハジメ。

スナイパーの才能を目覚めさせつつある香織。

高い俊敏性を持つルフェア。

 

仲間達の成長に、私としては喜びを

感じていたが……。

 

事態が事態だ。私も意識を戻し、サプレッサー

装備のノルンを構える。周囲のハウリア族も、

私が渡していたマチェット型の中型ナイフを

取り出して構えて居るが、戦力として

使えるとは思って居ない。

そして……。

「そこか……!」

『パシュパシュパシュッ!』

横薙ぎに、連続でノルンから放たれた銃弾が

霧の奥へと消えていく。

 

すると、次の瞬間。ドサドサッと何かが

落下する音が聞こえてきた。

「「「「キィィィィィッ!?」」」」

次いで、魔物の悲鳴のような叫びが

聞こえたかと思うと、四本腕の猿の魔物が

合計5体、こちらに飛びかかってきた。

 

しかし……。

「『風刃』」

内1体をユエの風魔法が迎撃し、切り裂く。

「そこっ!」

『パシュッ!』

もう1体をハジメのノルンが撃ち抜く。

『パシュパシュッ!』

3体目を、ガーディアン達の射撃が射貫く。

残った2体は、それぞれが別れシアと子供に

向かっていく。

 

シアと子供は、突然の事に対応出来ない。

周囲の大人達が庇おうとするが、

問題無かった。

 

『スッ』

香織が、片手だけでアルテミスを動かし、

銃口を魔物に向けた。

『バスッ!!』

ノルンよりも大きな、乾いた音が響く。

放たれた8ミリ弾は、寸分違わず魔物の

頭部に命中し、男の子に向かっていた

魔物の頭を吹き飛ばした。

 

『『パパパパパッ!』』

そして、ルフェアのバアルからも銃弾の

雨が放たれ、シアに向かっていた魔物の

体をズタズタに引き裂いた。

 

ドシャッ、と言う音と共に、魔物達の死体

が地面に落下する。

レーダーを警戒するが、どうやらこれだけの

ようだ。

「君、大丈夫?」

「は、はい!ありがとうございます!」

香織に助けられた子供は、彼女のジョーカー

を、目をキラキラさせながら見つめていた。

 

「ありがとうございます。ルフェアちゃん」

「ううん。平気だよ。これくらいの相手なら

 もう慣れてるし。迷宮の魔物に比べたら

 全然雑魚だし」

「そ、そうですか」

同じ亜人でも、戦闘への慣れの差からか、

がっくりと肩を落とすシア。

そんな様子にカムは苦笑を浮かべていた。

 

その後も襲い来る魔物だが、その強さは

ガーディアン部隊で十分対応可能だった。

一部、ノルンやバアルでは威力が心許ない

魔物もでてきたが、全て香織のアルテミスが

一発で仕留めた。

やはり彼女は狙撃兵としての能力を開花

させつつあるようだ。

 

などと考えながら歩いていると、周囲を

相応の数の光点に囲まれた。

しかし、レーダーから得られるデータ

からしても、これは恐らく魔物では無い。

ハウリア族も皆、戸惑い、怯え、カムは

苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべ、

シアに至ってはその表情を青くしていた。

 

そして……。

 

「お前達……何故人間といる!種族と部族名を

 名乗れ!」

 

私達の前に、筋骨隆々とした、虎縞の

耳と尻尾を備えた亜人が立ち塞がった。

 

 

恐らく、虎人族の警備部隊か何かだろう。

そして、その部隊長と思われる虎人族の男は

シアを見ただけで、ハウリア族の事を理解し、

今にも襲いかかってきそうだった。

なので……。

 

「ガーディアン全隊、方円陣形、展開」

私が静かに右手を掲げ命令を下せば、

ガーディアン達がハウリア族の円の外に、

更に円形の陣を取る。

「ッ!?何だっ!?」

突如として動き出したガーディアンに、

虎人族の男は戸惑った様子を見せる。

 

そして、その一瞬の戸惑いが隙を生む。

「敵兵力を、鎮圧せよ」

右手を振り下ろし、命令を下した次の

瞬間。

『パスパスッ!』

周囲からサプレッサー越しの軽い発砲音が

響いた。直後。

『バチィッ!』

「ぐあぁっ!」

「ぎゃぁぁっ!」

 

霧の中で、雷鳴のような音が響いた直後、

男の悲鳴がいくつも聞こえてきた。そして、

恐らく地面に落下したのだろう。ドサドサッ、

と何かが地面に落下する音が響く。

 

「なっ!?」

これに驚いたのは、虎人族の隊長だ。

そして、私はその男にノルンを突き付けた。

「殺しに来るのは別に構わんが、ならば

 こちらも貴様等を皆殺しにしよう。

 今は特殊な攻撃で貴様の部下の半数を

痺れさせただけだが、その気になれば、

貴様等を殺す事など造作も無い。

……死にたくなければ、失せろ」

 

私は、久々に絶望の王の力で虎人族の

男と、生き残っている部下達に強烈な

『殺気』を叩き付けた。

 

それだけで、何人かの男達が気絶していく

のが分かった。

 

『こ、こんな殺気を放てるのが、人間だと!?

 違う!奴は人間じゃない!何だ!?

 何なんだ『あれ』は!?』

その男、『ギル』は司を前に恐怖、等という言葉

では到底表すことの出来ない感情を覚えていた。

 

畏怖、恐れ、絶望、そして、死。

 

ギルは、そんな感情を叩き付けられたような

感覚に陥っていた。

もし、彼がもっと若かったなら、その殺気の

前に彼は泡を吹いて倒れていただろうが、

幸いにして彼はその殺気に耐えた。

しかし彼は心のどこかで、いっそ気絶して

しまった方が楽だと考えていた。

 

眠ってしまえば、その怪物じみた殺気と

向き合う必要が無いからだ。

 

しかし司は、そんな感情など一切知らず、

彼らを睨み付けている。

 

「さぁ、選べ。戦って全滅か。

 今すぐここから逃げ出すか」

私がそう呟けば、ガーディアン達が

ノルンの弾倉を非致死性の電撃弾から

致死性のAP弾へとマガジンをチェンジ

していた。

 

そして……。

「……その前に、一つ聞きたい」

「……何だ?」

隊長の虎人族は、私に声を掛けた。

「……何が目的だ?」

 

目的か。まぁ隠す必要も無い。ここは

普通に伝えるとしよう。

「我々の目的は、この樹海の最深部に

 ある大樹。お前達亜人が

 『ウーア・アルト』と呼ぶ樹。そこを

 訪れる事だ」

私はそう答えたが、虎人族の男はまるで

予想外、と言わんばかりに驚いた様子

だった。

 

「な、何?大樹へ、だと?

……何のために?」

「我々は各地に点在する七つの大迷宮の

 攻略を目指して旅をしている。その入り口の

 可能性が高い大樹へ行くためにハウリア族を、

 彼らを雇った。それだけだ」

チラッとカム達の方を見ながらそう言えば、

虎人族の男は怪訝そうな表情を浮かべた。

 

「迷宮の、入り口だと?何を言っている。

 このハルツィナ樹海そのものが迷宮だ。

 現に、亜人以外は不用意に立ち入る事さえ

 自殺行為と呼べるこの樹海こそが、

 本物の迷宮だ」

「いや。違う。……私達は既にオルクス

 大迷宮をクリアした。そして、そこは

 世間一般には100層まで、とされていたが、

 実際にはその下に更に100層もの階層が

 続いていた。つまり、最初の100層は

 言わばダミー。101層目からが本物の

 大迷宮だ。……そして、その定義を

 この樹海にも当てはめるのなら、お前

 の言う樹海の迷宮もまた、真の迷宮を

 隠すためのカバーに過ぎない」

「なん、だと……?」

「それに、オルクスの大迷宮、その

 最下層部において出現した魔物は、

 かつて最強と言われた冒険者でさえ

 勝てなかったベヒモスを、更に

 上回る程の力を持っていた。

 迷宮毎に配置される魔物の強さに

 若干のばらつきがあったとしても、

 最深部に居る魔物は、間違い無く

 ベヒモスよりも格上。だが、そんな

 魔物と出会う事無く行き着ける場所

 が大樹だとしたら、それはダミー。

 真の迷宮の入り口にしか過ぎない」

 

私が答えると、虎人族の男はしばし

考え込むような表情を浮かべる。

 

やがて……。

「……お前達が、国や同胞に危害を加えない

 と言うのなら、大樹の元へ行くくらいは

 構わないと、俺は判断する。俺には、部下を

 守る義務がある」

彼の言葉に、周囲の部下達が驚く。

「ほう?それで?」

私は、構えていたノルンの銃口を下げ、

殺気の濃度を幾ばくか落とす。

 

「しかしこの判断は、私のような一警備隊長が

 下して良い物ではない。本国へ指示を仰ぐ。

 長老方なら何か知っておられるかもしれない。

 お前達に本当に含むところが無いのなら、

 これから行かせる伝令を見逃して欲しい」

 

「……良いだろう」

私は頷き、ノルンをホルスターに戻すと

右手を横に振った。

それを合図として、ハジメ達やガーディアン

達が上げていた銃口を静かに下ろした。

 

すると、ザムと呼ばれた彼の部下が

走り去っていく。

 

さて、周囲からの視線はあるが暇になって

しまった。

しかし、周囲には今にも襲ってきそうな

雰囲気の奴らが数人。

仕方ない。

 

私は、メカニカルな杭。シールド発生装置を

取りだし、地面に突き刺す。すると、紫色の

半透明なシールドが私達、シア達ハウリア族、

ガーディアンを包み込む。

 

「ふぇっ!?司さん!これって!?」

「安心して下さい。ただの結界です。 

 さて、待っている間ずっと立っている

 のも辛いでしょうし」

そう言いながらパチンと指を鳴らせば、

ガーディアンの人数を除いた、四十数個

の椅子といくつかのテーブルが現れた。

「え!?えぇ!?司さん、これって!?」

何も無い所からいきなり椅子と丸いテーブルが

現れた事に驚くシア。しかしそれは彼女

だけでは無く、他のハウリア族や虎人族の

連中も同じだった。

 

「とりあえず座って下さい。周囲は

 ガーディアン達が警戒していますし、

 シールドもあるから大丈夫ですよ」

と私が言うと……。

 

「それじゃあ休憩にしよっか」

「賛成~!」

「んっ」

「は~い」

ハジメの言葉に、香織、ユエ、ルフェアが

頷き4人はステルスローブを脱ぐとそれぞれ

が好きな場所に座り、ヘルメットを取って

それをテーブルの上に置いた。

 

「折角なのでお茶にしますか。

 何か飲み物と軽食でも創りましょうか?」

「そう?じゃあ僕はファ○タのグレープ

 とホットドッグ」

「あ、じゃあ私は紅茶とイチゴの

 ショートケーキ」

「んっ。……私は、チョコバナナクレープ

 とカフェオレ」

「う~んと、え~っと。

 あ、じゃあ私はミルクとフルーツサンド!」

 

「分かりました。では……」

パチンと指を鳴らせば、各々の前に

注文の品が創られる。

「「「いただきま~す」」」

「いただきます……」

皆、そう言うと各々の品を食べ始めた。

 

敵とも判断出来そうな亜人達を前にこの

余裕である。まぁ、あのシールドの

耐久力は第4形態の私の外皮硬度以上だ。

並大抵の攻撃では傷一つ付かないから、

心配ない。

 

そして私は、未だにポカ~ンとしている

シア達の方ヘを向き直った。

 

「シア、カム。あなた達も好きな席へ

 どうぞ。何か振る舞います」

「え?あ、え、えっと、良いんですか?」

チラッと、周囲を見ながら呟くシア。

「えぇ。大丈夫です。この結界は

 並大抵の攻撃では傷一つ付きません。

 それこそ、樹海全てを消し去るほどの

 攻撃でも無い限り、傷など付きませんよ。

 さぁ、好きな席へ」

「は、はいですぅ」

戸惑いながらも、シアはハジメ達と同じ

テーブルにちょこんと座り、カム達も

各々好きな席へ腰を下ろした。

 

「何か食べますか?色々用意出来ますよ」

「え、え~っと」

『と言われても』と言わんばかりに

視線をハジメ達の手元に動かすシア。

やがてその視線がルフェアの手元で止まる。

「あの、司さん。ルフェアちゃんが

 食べてるあれって……」

「あぁ。あれはフルーツサンド。果実を

 クリームと一緒にパンで挟んだ物です。

 あれにしますか?」

「は、はい。じゃあ、そのフルーツサンドと

ミルクで」

おずおずとした形でシアが言うと、周囲の

カム達も同じ物をと言ってきた。

 

まぁ、それ以外の料理は彼らになじみの無い物だ。

無理もないだろう。

「では」

私は指を鳴らし、彼らの前にフルーツサンドを

盛り付けた皿とミルク入りのコップを

創り出した。

 

そして、それを食べた彼らの感想はと言うと……。

「お、美味しいですぅ!」

シアを始め、皆がウサ耳をぴんっと

起立させながら美味しそうにフルーツサンドを

食べ始めた。

 

私も空いている席に腰を下ろし、メットを取ると

コーヒーを創り出しそれを口にする。

 

一方で、今になって事態が飲み込めたのか

虎人族の男達は憎たらしげにこちらを

睨んでいる。

どうやら、今の我々の行動を舐めている、

と考えたのだろう。

 

しかし……。

『ジャキッ!』

こちらに矢を射ろうとした虎人族の男に向かって

ガーディアンがノルンを構える。

 

私はその男の方に目を向けた。

「撃っても良いが、撃たれる覚悟は

 あるんだろうな?お前が弓を射た瞬間、

 私の兵士の弾が矢より速く貴様の

 頭を吹き飛ばす。……試して見るか?」

殺気をその一方向に向けると、霧の向こうで

弓を下ろす様子をレーダーが捉えた。

 

それを確認した私は、タブレットを取りだし、

コーヒーを飲みながらそこに今後の新兵器の

図面に目を通し、今考えている『案』に

ついてを思案していた。

 

ちなみに、私のすぐ側ではハジメが、香織と

ユエに、所謂『あ~ん』を迫られていた。

最初に香織の方が仕掛け、次いでユエが

仕掛けたのだ。ハジメは戸惑いながらも

これに答え、それを見たシアまでもが

混ざろうとしたが、ユエに思いっきり

足蹴にされていた。

ちなみにこの時、『これ位じゃへこたれない

ですぅ!』と言っていた。

地味に逞しいなシア。

 

等と思って居ると、ルフェアも『あ~ん』

をしてきたので私も答えたのだった。

 

その後、私が教えたオセロなどをしながら

暇を潰していた。そして約1時間程度、

オセロなり何なりで遊んでいた。

 

 

『ピッ』

その時、私の体内のレーダーが、こちらに

接近する動きを捉えた。

「皆、どうやら休憩は終わりです。

 誰か来た様子です」

と、私が言うと、ハジメ達4人は今までの

笑みが嘘のように表情を引き締め、

メットを被り直すとノルンやバアル、

アルテミスを取りだし警戒態勢を

取る。

 

その、あまりの変わりように近くで見ていた

シアが一番驚く中、皆が立ち上がったので

机とテーブル、玩具の類いを一旦消滅

させる。

子供達が残念そうにしていたが、今は

遊んでいる時では無い。

 

私は、地面に刺さっていたシールド

発生装置を抜き、シールドを解除した。

 

そして、再び周囲に緊張が走ると、霧の奥から

数人の亜人が現れた。その中でも特に目を引くのが、

細い体の森人族、エルフの老人だ。

しかしその老人の知性を感じさせる碧眼と皺が

生み出す威厳は、紛れもなく本物だ。

 

「ッ。ハイピスト、様」

そして、私達だけに聞こえる小さな声で呟く

ルフェア。

「ルフェア、あの老人を知っているの

 ですか?」

「う、うん。あの人は、『アルフレリック

 ・ハイピスト』様。森人族の族長だよ」

族長、か。

 

アルフレリック、と言うエルフの族長が

私達の前に立つと、一人一人を見回すように

視線を向けていく。そして、その視線が

私で止まった。

 

「お前さんが、リーダーか?」

「そうだ」

「ふむ。お前さんの名は?」

「……新生司。逆に問う。貴様は?」

ルフェアからの情報があるとはいえ、

一応聞くが、どうやら態度が癪に障った

のか周囲の亜人共が騒ぎ出す。

 

しかし、当のアルフレリックがそれを宥めた。

「私はアルフレリック・ハイピスト。

 フェアベルゲンの長老の座を一つ

預からせて貰っている。

……それで、報告より聞いておるが、

ウーア・アルト、大樹の元へ行きたい

そうだな?そして、聞けばオルクス大迷宮を

突破したと。それを証明出来る物は

あるか?」

「……何故解放者の迷宮の事を聞く?」

そこを質問してくるアルフレリックを訝しみ

そう問い返すが、その言葉に奴の眉毛が

僅かに動いた。

 

「……お前さんは、どこで解放者の名を

 しった?」

「……質問に質問を返すな。……オルクス

 大迷宮の最下層部に、オスカー・オルクスの

 隠れ家があった。そこにおいてあった手記を

 読んだだけだ。証拠が欲しいのなら、

 これでどうだ」

私は、保管庫の中からオスカーの指輪を取りだし、

それをアルフレリックに投げ渡した。

指輪をキャッチしたアルフレリックは、それを

確認すると僅かに目を見開き、深呼吸をした。

 

「確かに、お前さん達はあの迷宮を攻略し、

 オスカー・オルクスの隠れ家へとたどり着いた

 ようだな。……よかろう。とりあえず

 フェアベルゲンに来るが良い。私の名で

 滞在を許そう。ハウリア族も一緒にな」

 

と、アルフレリックが言うと周囲の亜人達が

猛抗議をする。

まぁ、人を嫌う亜人が、人である私達と

裏切り者であるハウリア族を自分達の

土地に入れるのには抵抗があるの

だろう。

 

が……。

「何を勝手に話を進めている。我々の

 目的はウーア・アルトだ。フェアベルゲン

 になど興味は無い。我々はこのまま

 大樹へと向かう」

「いや、お前さん。それは無理だ」

「何?」

 

反論しようとしたが、行くのは無理だと

否定されてしまった。

「無理とはどう言う意味だ?」

「大樹の周囲は特に霧が濃くてな。亜人でも

 方角を見失う。一定周期で霧が弱まるから、

 大樹の元へ行くにはその時でなければ

 ならん。次にいけるのは十日後だ。

……亜人なら誰でも知っているはずだが……」

とアルフレリックが言うと……。

 

「あっ」

 

後ろでカムの呆けた声が聞こえた。

 

彼らの前に居た、私達4人はカムの方に

視線を向けた。

「……カム。まさかお前……」

「あっ、いや、その……。色々な事が

 あったので、ど忘れしていたと

 言いますか、私もそこまで大樹に行った

 経験が無いので、その……」

 

どうやら、カムは周期の事をすっかり

忘れていたようだ。

ハジメ、香織とルフェアは深く深く、

ため息を吐き出した。

一方で……。

 

「………」

無言でジト目なユエと私。その視線が、

『このドジ』と言わんばかりだった。

いやまぁ、私自身若干そう思って居たが……。

そしてそれに耐えきれなくなったのか

カムが逆ギレを始めた。

 

「ええい!シア!それにお前達も!

 なぜ、途中で教えてくれなかったのだ!

 お前達も周期のことは知っているだろう!」

「なっ!?父様!逆ギレですか!?私は、

 父様が自信たっぷりに請け負うから、てっきり

 ちょうど周期だったのかな?って思って……

 つまり父様が悪いですぅ!」

カムがキレ、シアをキレて他のハウリア達

もカムに責任をなすりつけ始めた。

 

家族のためなら祖国を捨てたはずのハウリア族

が、何ともまぁ情けない事だ。

「ハァ」

これには私もため息が出る。

……そうか、これが『呆れ』という感情が。

何というか、肩の力が悪い意味で抜ける。

そして更に私のため息にビクッと体を

震わせるカムは……。

「お前達!それでも家族か!これは、あれだ!

 そう!連帯責任だ!連帯責任!

 なので司殿!罰するなら私だけでなく

 一族皆にお願いします!」

「あっ!?汚い!お父様汚いですよぉ!!

 一人でお仕置きされるのが怖いからって、

 道連れなんてぇ!」

「族長!私達まで巻き込まないで下さい!」

「あんたそれでも族長か!」

 

「やれやれ。ユエ、どうします?」

私が声を掛けるとユエは……。

「ん。……お仕置きタイム」

そう言って、一歩一歩、ハウリア達に

向かっていく。

 

「ま、待って下さいユエさん!やるなら、

 殺るなら父様だけを!」

「はっはっは!怖い事言うなシア!

 私達はいつも一緒だぞ!」

「何が一緒だぁ!フザケルナ!」

「ウゾダドンドコドーン!」

 

「あっ。何かオンドゥル語混ざってる」

と、後ろで呟くハジメ。しかしユエは

止まらない。

そして、ユエは微笑を浮かべながら呟く。

 

「『嵐帝』」

「「「「あ~~~~~~~~!!!!」」」」

 

ユエの発動した魔法で天高く舞い上がる

ハウリア族。

私達だけではなく、アルフレリック達も

その姿を見上げながらため息をついてきた。

 

「ハウリア族は、残念な一族ですね」

「……うん」

そして、私の一言に隣に居たハジメが

頷くのだった。

 

ちなみに、ハウリア族は落下してきた所を

ガーディアン達が残らずキャッチした。

 

そして、私達の大樹行きは少しばかり

延期になったのだった。

 

     第18話 END

 




次回はフェアベルゲン編です。

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