ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回の司、ある意味原作のハジメより言ってる事過激で理不尽かも
しれないなぁ、と思ってる作者です。




第19話 Dead or Alive

~~~前回のあらすじ~~~

助けた礼として、ハウリア族をハルツィナ樹海

の中心部にある大樹、ウーア・アルトへの

案内として雇ったハジメと司たちは、

ついに樹海へと足を踏み入れた。襲い来る

魔物を撃退していた彼らの前に、フェアベルゲン

の警備部隊が現れる。戦闘になりかけたが、

部隊の隊長であるギルがハジメ達の目的を

聞いたことで戦いは回避された。そして、

ハジメ達の前にフェアベルゲンの長老の

一人、アルフレリック・ハイピストが

現れ、霧の周期の事を知った彼らは、一旦

大樹行きを延期するのだった。

 

 

お仕置きタイムの後、私達はアルフレリック

の案内でフェアベルゲンへと向かうことに

なった。

あの虎人族の部隊長、ギルの先導で

小一時間ほど歩いていた時、不意に濃霧が

無い場所が現れた。まるで、霧の中を

突っ切るトンネルだ。

「何でここだけ霧が」

「それはあれのおかげだ」

ハジメが呟くと、アルフレリックがトンネルの

左右にある、道に半分埋め込まれている青い

鉱石を指さした。

 

「あれはフェアドレン水晶と言う物だ。

 あれの周囲には、なぜか霧や魔物が

 寄りつかない。フェアベルゲンも近辺の

 集落も、この水晶で囲んでいる」

との事だ。

霧や魔物を寄せ付けない鉱物、か。

まるで魔除けのようだ。

 

などと思いつつ、私達はそのトンネルの中を

歩いた。

そしてそのトンネルの中を歩いていると、前方

に木製の大きな門が見えてきた。

絡み合った樹と樹を使った門は、荘厳な物

だった。

 

しかし、周囲の樹上からこちらへと視線が

向けられていた。

ギルが合図を送ると、樹上の亜人達が戸惑い

ながらも門を開けた。

私達は、アルフレリックに続いて門を潜った。

 

門の先は、まるで別世界だった。

巨大な樹が乱立し、その中に家を作っている

のか樹に窓がいくつも見える。その樹同士を

結ぶ巨大な枝は、さながら空中回廊だ。

同様に、空中には木製の水路もある。

 

コンクリートジャングルや、トータス世界の

中世にも似た街並みとも違う絶景。そして

2ヶ月ぶりに見る都市とも呼べる景色に、

ハジメ、香織、ユエの3人は驚き、ルフェアは

目をそらすように俯いた。

 

「ハジメ、香織、ユエ」

そして、私は立ち止まり呆けていた3人に

声を掛けた。ハッとなる3人。

「どうしました?行きますよ」

「ご、ごめんごめん。あんまりにも綺麗だった

から見とれちゃって」

「わ、私も、です」

「んっ。……綺麗」

ハジメ、香織は恥ずかしそうに呟きユエは

二人に同意した。

 

そして、その言葉を聞いていたのか、周囲の

亜人達は皆耳や尻尾を振っていた。

どうやら故郷が褒められたのが嬉しいらしい。

 

とは言え……。

 

周囲からは、好奇、戸惑い、憎悪などの

感情が交じった視線を向けられている。

念のため、ガーディアン部隊を展開

したままにしていたが、どうなる事やら。

 

 

その後、私達は案内された場所で改めて

解放者について、知った経緯を話した。

迷宮攻略について。神代魔法について。

神エヒトの狂乱的な行動について。その全てを。

 

ちなみにシア達は側には居ない。私達が居る

のは最上階。彼女達は下の階に居て

待機中だ。念のためガーディアン部隊

を護衛に付けてある。

 

また、ルフェアはエルフだとはバレていない。

彼女はフェアベルゲンに入る前から今まで

メットを取ろうとはしていない。

 

そして、肝心の話だが、彼はその話を聞いても

はさして驚きもしなかった。

曰く、『この世界は亜人に優しくはない。

今更だ』と。

 

そして今度は、アルフレリックから解放者

について知っていた訳を聞いた。

彼の言葉によれば、この樹海の迷宮の

創設者、『リューティリス・ハルツィナ』が

解放者やその仲間であったオスカー達の

名前も、言い伝えとして残していたのだ。

そしてその中に、資格を持つ者とは敵対

してはならない、と言う物があったそうだ。

まぁ、迷宮を攻略出来る者など、この世界

の最強と言っても良い。

 

その強さを図で簡単に表せば……。

 

迷宮攻略者>迷宮の深部の魔物>ベヒモス>最強と言われた冒険者

 

と、こうなる。つまり、敵に回せば

それこそ国を滅ぼしかねない敵となる。

加えて、彼がオスカーの紋章を知っていたのは、

大樹の元にある石碑に同じ物が刻まれていた、

との事だ。恐らく、その石碑が真の迷宮へと

続く鍵だろう。

 

そう考えていた時。

 

『パンパンッ!』

下の階から乾いた発砲音が聞こえてきた。

そして同時に、私の元にガーディアンからの

状況報告が送られてきた。

……。攻撃的人物を確認。防衛対象

ハウリア族防衛の為、緊急措置として

威嚇射撃を実行。か

「銃声!?」

メットを取っていたハジメは、それを被る事

無くノルンを抜く。香織とユエ、ルフェアも

表情を引き締め、銃声が聞こえた

下の階へと飛び降りていった。

「どうやら、問題が発生したよう

 ですね」

「な、何だと?」

私の言葉に戸惑うアルフレリック。私も

立ち上がり、彼と共に下の様子を

のぞき込んだ。

 

見ると、そこには熊、虎、狐、更に

鳥(?)やドワーフのような亜人達が

ガーディアンやハジメ達と睨み合っていた。

「貴様ら……!人間如きがどうしてここに居る!?

 それも、忌み子を匿った亜人の面汚し共と

 共に!」

先頭の熊の亜人は、特に攻撃的だ。成程、

あれがその攻撃的人物か。

ガーディアンの一人がノルンを上に向けている。

恐らく威嚇射撃で空に向けて放ったのだろう。

それ以外は、銃剣を装備した遠近両用の

装備であるセーフガードライフルを構えている。

 

ハジメ達も、その手にノルンを持っているが、

ユエ以外ではまだ対人戦は無理だろう。

 

「私達がここに居る理由を知りたいか、

 亜人」

そして、私は亜人族を睨み付けながら

ゆっくりと、アルフレリックと共に下へと

降りていく。

私の声に気づいたのか、こちらを睨む

亜人達。

 

「まだ居たか、人間!いや、それよりも……。

 アルフレリック。貴様どう言うつもりだ。

 人間共をこのフェアベルゲンに入れるなど!」

「……フェアベルゲンの族長のみに伝わる掟、

とやらがあるそうだな?彼はそれに従った

までだ」

「掟だと!?まさかアルフレリック!あの

 眉唾物の戯れ言を信じていると言うのか!

 建国以来一度も実行されたことなどない

 アレを!」

面倒なので私が簡潔に答えれば、熊の亜人は

アルフレリックを睨み叫ぶ。

 

私は熊の亜人とアルフレリックのやり取りを

無視してシア達の方へと歩み寄る。

 

「シア、カム。それに皆も。怪我は

 ありませんか?」

「は、はい。ガーディアン達が、守ってくれた

 ので」

と、怯えながらも答えるカム。そしてシアは、

震えながらハジメの背中に隠れるように

縋り付いている。

「……シアちゃん」

 

そんな彼女を肩越しに振り返りながら

見ているハジメ。

その時。

 

「こんな人間族の小僧共が資格者だと!?

 敵対してはならない強者だと言うのか!」

「そうだ」

「……ならば、今、この場で試してやろう!」

 

等と叫び、熊の亜人が私に向かって

その豪腕を振るってきた。

 

 

その場に居た者の中で、亜人達は司の

死ぬ姿を、肉塊になる姿を幻視した。

熊人族の腕力は太い木々をへし折るほど。

そんな中の族長クラスの攻撃。

人間が食らえば肉塊になるのは間違い無い。

 

しかし、相手が悪かった。

 

『ザシュッ!!』

 

そして、肉が切れる嫌な音がその場に

響いた。

一拍の間を置き……。

「ぐっ!?ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

熊の亜人、『ジン』の悲鳴が響き渡る。

次いで、ドサッ、と言う音と共に、ジンの右腕、

肘から先が床に落ち、赤い血だまりを

生み出した。

 

切り裂かれた腕を押さえ付けながら

後退り、床に膝を突くジン。

そして、司の周囲では、ジンの腕を切り裂いた

ジョーカーZのテールスピアが、血に濡れた

状態でユラユラと揺れていた。

 

「……族長というが、所詮この程度か」

更に、私は膝を突いているジンの顎を

軽く蹴り上げ、気絶させた。……蹴ったとき、

顎の骨が砕ける感触があったが、まぁ

どうでも良い。

私は、無表情で気絶した熊の亜人を睨みながら、

どうするか考えていた。

アルフレリック以外の族長は、敵対心を

むき出しにしている。

……まぁ、敵になるのなら滅ぼせば良い。

「……皆の意見が聞きたいのですが、

良いですか?」

「何?司」

「私的には、最悪このフェアベルゲンが敵に

なった場合、ここを滅ぼしても構わないと

思って居ますが?皆の意見を聞きたいのです」

私が言うと、亜人達は驚き、次いで殺気を

滲ませてきた。

やろう、と言うのならこの場で全員、

テールスピアの餌食にしてやろうかとも

思って居たのだが……。

 

「何危ない事言ってるんだよ司。

 後々の事を考えてよ。司らしく

 無いよ」

「……事前に最悪、と言いましたよね?」

「だからってそんな事言うのは駄目だよ

 司くん。私、言ったよね?出来れば

 無関係な人は傷付けて欲しくないって」

「……そうでしたね」

「ん。それに、邪魔したらその時殺せば

 良い。私達はどんな奴にも負けない」

「そうですね」

ハジメ、香織、ユエの意見を聞き、私は

テールスピアを収める。

 

まぁ、私の言った事は半分冗談で半分

本気だ。

私としては、戦争に時間を割くくらいなら

自己進化に時間を割きたい。それに、

虐殺はハジメや香織への精神的ダメージ

を考えると止めた方が良いだろう。

が、向こうが争う意思を見せたのなら、

私は全力で叩き潰すだけ。

それが私の考えだ。

 

しかしそんな中……。

「……………」

ずっと黙っていたルフェア。

「?ルフェア?」

「え?あ、うん。何?」

「あなたの意見はどうですか?今後の

 方針について」

「あ、えっと、その。……ツカサお兄ちゃん 

 達に任せるよ」

 

ふぅむ。ここに来てからのルフェアの

元気が無いが、とにかく今は……。

 

「こちら側の総意を伝える。簡潔に

 言えば、『邪魔をするな。邪魔を

 する敵となれば殺す。でなければ

 こちらから手出しはしない』。

 と言う事だ。……で?貴様らは

 どうする?言っておくが、今度

 攻撃してきてら、それをフェア

 ベルゲン全体の意思と捉え、

 ここを滅ぼす事も辞さない。

 ……とだけ言っておく」

 

その言葉に、亜人達は黙り込む。

 

「アルフレリック。さっさと話を

 詰めるぞ。我々はここに長居

 するつもりは無いのでな」

「……分かった」

 

その後、改めて話をすることになったが、

部屋には私達、シアやカムのハウリア族、

護衛として数体のガーディアンが居て、

相手側にはさっきぶちのめしたジンと

呼ばれる亜人以外の族長が座っていた。

 

ちなみに、あのジンという亜人は右腕を

失い、殆ど抵抗も攻撃も出来ずに

ボッコボコにされた事から、PTSDを

発病させたようだ。どうやら二度と

戦士として復帰出来ないほど、心が

ボロボロになったようだ。

まぁ、そんな事はどうでも良い。

 

「こちらの目的は一貫している。我々は

 大樹を調べ、真の大迷宮を攻略する。

 それが成されれば我々は樹海を 

 離れるし、ハウリア族は我々がこことは

 別の場所に送り届ける。……そちらは、

 こちらの邪魔さえしなければそれで

 良い。敵対すれば滅ぼす。しなければ

 何もしない。これがこちら側の総意だ」

「……ジンを傷付け、再起不能にしておいて

 それか。……我々が、黙っているとでも?」

 

私の言葉に反論したのは、土人族、

ドワーフの『グゼ』だ。しかし……。

「戦う気があるのなら別に構わないぞ。

 ここを滅ぼすだけだ」

そんな私の言葉に、族長達は私を

睨み付けている。

 

「この、悪魔め……!」

そして、グゼは私を睨みながら呪詛のように

そう呟いた。

悪魔。悪魔か。

「悪魔で結構。……私には貴様等の命など何の

 価値もない。死んでいようが、生きていようが。

 どちらでも構わない。阻む者、拒む者、

 挑む者、抗う者。……皆全て等しく踏み潰し、

 私は前に進む。……潰されたくなければ、

 道を開けろ」

 

私は、亜人たちを見回しながら、冷徹に

そう告げた。

 

次の瞬間。

 

 

 

『『スッパァァァァァァァンッ!』』

 

後ろから私の頭に衝撃が襲いかかった。

ハリセンの衝撃が。

そして……。

 

「も~~!司って何でたまにそう言う

 物騒な事言うかな~!後先考えてる!?」

「考えてますよ。中立なら関わらない。

 敵なら滅ぼすだけです」

「極端!極端過ぎるよ司くん!」

ハジメと香織が、私の頭をハリセンで

何度も叩く。

 

「も~!司に交渉役やらせてると物騒な事

 言いそうだから変わるから!司は

 隅っこでじっとしてて!香織は 

 ちょっと司を抑えてて!」

「了解!任せて!」

ビシッと敬礼した香織が、私をどこからか

取り出したロープでグルグル巻きにした。

 

先ほどまで、悪魔と呼ばれた私が縛られる

と言うシュールな絵面に、シア達ハウリア族、

更にアルフレリック達も戸惑いポカ~ン

とした表情を浮かべていた。

 

「んんっ!」

しかしハジメが咳払いをすると、彼らに

緊張感が戻る。

「……僕達のリーダーの交渉が物騒

 なので、代わりに僕が改めて交渉役を

 させていただきます。

 ……改めて、こちらの要望を言うのなら、

 僕達が大樹へ行くことを見逃して

 下さい。迷宮を攻略出来れば、僕達に

フェアベルゲンを訪れる理由はなくなります。

だから二度とここには来ないし、亜人に

関わる事は無い。あくまでも僕達、いや、

僕は平和的に事が解決する事を望んでいます。

ですが司の言うように、敵となるのなら

容赦はしません」

「……だから、ジンを傷付けたことを

 許せと?」

「最初に攻撃してきたのはそのジンさん

 です。試すと言って。結果司はそれに

 勝利した。って言うか司。なんであの時

 腕切り飛ばしたのさ!司ならあそこまで

 しないで手加減して倒せたでしょ!? 

 気絶させるとか!」

と、振り返って私の方に叫ぶハジメ。

「……あの男が殺す気だったので、殺すと

 面倒だから半殺しに止めただけです。

 むしろ、殺気を持って望んだのだから、

 殺されても文句は言えない。と私は

 常々言っているはずですが?」

「まぁそりゃそうだけど……。ハァ。

 とにかく、皆さん司の力は目にした

 はずです。それでも司を敵にしますか?

 あと、司は言った事は守る男ですから。

 滅ぼすって言ったら確実にやりますよ。

 けど僕や香織、ユエちゃんはそんな

 状況を望んでません。なので、

 今回の一回限り、僕達がウーア・アルト

 へ行く事を見逃しては貰えませんか?

 あなた達だって、戦争がしたいわけじゃ

 無いでしょう?」

 

ハジメの言葉に、族長達は押し黙る。

そんな中で、真っ先に口を開いたのは、

狐人族の『ルア』だった。

 

「確かに、僕達だって戦争がしたい訳

 じゃない。それに、彼の実力を考えれば、

 少なくない被害が出るのは間違い無い。

 それに、彼はオスカー・オルクスの指輪を

 持っている。迷宮を攻略している証だ。

 だから僕は、彼らを口伝の資格者と

 認めるよ」

と、ルアが言うと、他の族長である、

翼人族の『マオ』、虎人族の『ゼル』も

渋々、と言う感じで同意した。

 

「では。新生司。我々フェアベルゲンはお前さん

達を資格者と認め、敵対しない。と言うのが

総意だ。……これで、構わんか?」

その言葉に、私は縛っていたロープを引きちぎり

座り直す。隣で香織が何か文句を

言っているが無視する。

「問題無い。こちらはそれで良い」

 

「分かった。可能な限り、末端の者にも

 お前さん達を攻撃しないように伝えておく。

 しかし……」

ん?

「しかし、何だ?」

「……知っての通り亜人たちの中には人間を

 相当恨んでいる者が居る。なので、絶対

 と言う訳には行かない。ましてや、今回

 深手を負わされ再起不能になったジンの

 熊人族は、お前さん達に復讐をするかも

 しれん。奴は人望があったからな」

「……それで?何だというんだ?」

 

「お前さんを襲った者を殺さないで欲しい」

「……断る」

 

私の言葉に、族長やシア達が息をのみ、

ハジメと香織が何かを言おうとしたが……。

 

「戦場に出て戦うと言うのなら、私は

 向かってくる敵を、戦闘で死ぬ覚悟が

 ある者と見なし扱っている。

 殺す覚悟はあっても、殺される覚悟は

 無いだと?そんな甘い考えが戦闘で

 通用する物か。……殺す気でそっちが

 来ると言うのなら、こちらも殺す気で行く。

 手加減などしてやらん。それが戦闘という

 物だ。死なせたくないのなら、お前達で

 止めて見せろ」

 

ハジメ達を制し、私は言葉を紡ぐ。

こればっかりは、譲れない考えだ。

 

撃って良いのは撃たれる覚悟のある奴だけ。

 

それが私の考えだ。

すると……

「ならば、我々は、大樹の元への案内を

 拒否させて貰う。口伝にも、気に入らない

 相手を案内する必要は無いとあるからな」

「……端から貴様等を頼る気など無い。

 案内役として既にハウリア族を雇っている」

「それは無理だ」

「……ほう?」

無理?この虎人族の男はそう言ったのか?

何故だ?

「その理由は?」

 

「そいつらは罪人だ。フェアベルゲンの掟に

 基づいて捌きを与える。お前達に雇われた

 経緯は知らんが、ここまでだ。忌まわしき

 魔物の性質を持つ子とそれを匿った罪。

 フェアベルゲンを危険に晒したも同然

 なのだ。既に長老会議で処刑処分が

 決まっている」

成程。そう言う事か。

 

すると……。

「長老様方!どうか、どうか一族だけは

 ご寛恕を!どうか!」

床に額を擦りつけ、一族だけでもと許しを請う

シア。カムはそんな彼女を宥めている。

 

「既に決定したことだ。ハウリア族は

 全員処刑する」

その言葉にシアは泣き出し、ハジメが

彼女の肩に優しく手を置く。カム達が

シアの背中を撫で、自分達も涙を

浮かべていた。

 

「そう言う事だ。これで貴様らが大樹に

 行く方法が途絶えた訳だが?どうする?

 運良くたどり着く可能性に賭けてみるか?」

そう、勝ち誇ったような表情を浮かべるゼル。

 

 

あぁしかし。おかげで今後の方針が決まった。

 

私は、立ち上がり、そしてホルスター

からトールを抜くと、息を吸い込んだ。

そして……。

 

 

「ガーディアン全機に告ぐ!」

外の、下の階で待機しているガーディアン達にも

命令が聞こえるように、そして族長達を

威圧する意味でも、声を張り上げる。

 

「全機、武装展開!」

「なっ!?」

私の言葉にゼルが驚愕する。側に居た

ガーディアン達が、セーフガードライフルを

構える。

「防衛目標、シア・ハウリアを含めた

 全ハウリア族!」

そして、更に続く言葉に、シアやカム達が

私の背中を見ている。

「攻撃目標、ハウリア族以外の亜人族

 全て!現時刻をもって、我々G・フリートは

 フェアベルゲンとの戦争を開始する!

 捕虜は一切不要!戦士、女、子供、老人。

 全ての亜人族を射殺せよ! 

 攻撃用意!」

 

私が左手を掲げれば、側に居たガーディアン

達がライフルで族長達を狙う。

 

「き、貴様!?これはどういうつもりだ!?

 敵対しなければ攻撃は……!」

戸惑い声を荒らげるゼル。

「だから、したであろう?敵対を?

 ……ハウリア族は、案内が終わった後、

 我々が彼らの望む場所へ連れて行くと

 約束した。それまで我々が防衛するともな。

 ……そんな彼らへの処刑行為は、

 我々への敵対行動も同じ。よって、

 我々はフェアベルゲンに対し攻撃を

 開始する用意をした。それだけの事」

 

「それで、戦争をしようと言うのか!?」

今度はドワーフのグゼが立ち上がる。

「それに、女子供、老人まで殺すだと!?

 血も涙のないのか、貴様は!?」

 

「だから、言ったであろう?

 『貴様等の命など、私には無価値だ』。

 どうなろうと、知った事では無いと。

 亜人族が滅ぼうと、フェアベルゲンが

 焦土となろうと、私にはどうでも良い。

 敵ならば、滅ぼすだけだ。それが、

 『戦争』だ」

 

恐らく、こいつらは今の私の瞳が、

とても黒く濁っている物に見えるだろう。

 

そして、今回ばかりはハジメ達も私に

反論しない。二人はメットを被り、ホルスター

からノルンを抜く。

二人としても、みすみすシア達を見捨てる

気など無いのだろう。

ルフェアも、静かに立ち上がるとバアルを

取り出す。

ユエも立ち上がり、周囲を睨み付けている。

「ハジメ、さん」

「……。守るって、約束したから」

シアは、ハジメの背中を見つめる。ハジメは、

ノルンの銃口を族長達に向ける。

「……シアちゃん達を殺すって言うなら、

 僕達も容赦はしない……!」

ギュッとノルンのグリップを握りしめ、

ハジメは銃口を奴らに向ける。

 

その視線と、ガーディアン達の威圧感。

そして私の放つ殺気に、族長達は体を

震わせていた。

 

「さぁ、選べ。大量虐殺か、見逃すか。

 どっちだ」

 

「本気かね?」

私の問いかけに、アルフレリックは鋭い

眼光を放ちながら私を見ている。

「……私の意思、伊達や酔狂だと思うか?」

「……。いや」

首を振るアルフレリック。そうだ。これは

嘘偽りやはったりではない。

私は滅ぼすと言ったのだ。そこに、偽りなど無い。

「ならば、そう言う事だ」

 

「フェアベルゲンから案内を出すと言ってもか?」

「……くどい。案内人としてハウリア族を

 雇っている。そして……。私は彼らの案内を

 受けた後、安全な場所まで護衛すると

 約束している。それを覆すつもりはない。

 彼女達を害すると言うのなら、やってみろ。

 全力でこの国を滅ぼしてやる」

そう言って、私はトールの銃口をアルフレリックに

向けた。

「司、さん」

 

シアは、彼の背中を見つめていた。

更に……。

「大丈夫」

ハジメが、シアに向かってそう呟いた。

「絶対に、見捨てないから」

その言葉と共に、シアは彼がマスクの下で

笑みを浮かべている顔を、幻視した。

「ハジメ、さん」

そして、彼女は再び涙を浮かべる。

 

「さぁ。選べ。お前達自身の運命を。

 虐殺か、見逃すか」

「……。分かった」

やがて、深々とため息を吐いたアルフレリック

は静かに頷いた。

「ならばハウリア族はお前さん達の奴隷

 と言う事にしておこう。奴隷である事が

 確定した者は、死亡扱いとなる。

 死んだものを処刑など出来るはずがない」

「アルフレリック!それでは!」

他の族長達が立ち上がり抗議をするが……。

 

「一族諸共死にたいのなら私に言え。

 今すぐ、お前等全員を殺してやる」

私が絶望の王の力で、膨大な殺気を放てば、

アルフレリック以外の族長達が顔を青くし

身震いしている。

 

「……では、ハウリア族は忌み子シア・

ハウリアを含め新生司以下、G・フリートの

 メンバーの奴隷とす。口伝により、

 G・フリートの面々を資格者と認め対立は

 しない。但し、フェアベルゲン及び近辺の

 集落への出入りを禁ずる。また、お前さん達

 と敵対した者については、全て自己責任

 とする。……これで良いな?」

「あぁ。十分だ。……総員、戦闘態勢を

 解除せよ」

私が命令を下せば、ガーディアン達がライフル

を下ろし、ハジメ達もノルンをホルスターに

収めた。

 

「行くぞ。もうここに居る意味は無い」

そう言うと、ハジメ達が未だに呆然と

しているシアやカムに、立つように

促していた。

 

その時。

「……お前さんには、本当に血も涙も

 無いのだな」

アルフレリックは、私を見つめながら

そう呟いた。

「……。自覚はしている。……生憎と、

 私は身近な人間が幸せならそれで

 満足だ。……それ以外の生命が

 どうなろうと、知ったことでは無い。

 ……私には、そんな柔な精神構造など

 持ち合わせていない」

「他者への優しさや慈悲を柔な精神構造と

 言うのか、お前さんは」

「……あぁ。少なくとも、私達の敵に

 なる者に、そんな物は持ち合わせて

 いない」

 

それだけ言うと、私達はシアやカム達、

ガーディアン達と共に部屋を後にした。

しかし、何故か付いてくる長老たち。どうやら

門の辺りまでは見送るようだ。

 

そんな中。

「あ、あの。司さん。私達は、助かった

 んですか?」

「えぇ。……何か不満でも?」

「い、いえ。不満とかじゃなくて。……

 いきなり戦争とか司さんが言った時には

 驚いたし、何だかトントン拍子で色々 

 話が進んで、ついて行けなくて……」

戸惑いを浮かべるシア。他の面々も、どこか

現状に半信半疑、と言う感じだ。

 

その時。

「……あなた達は、『王』に守られた」

「王?」

ユエがシアの隣に並び、疑問符を浮かべる。

「……そう。……司の天職は、『全ての理の上に

 座す王』。つまり、万能の王。……あなた達は

 その王に助けられた。その事実を、素直に

 喜べば良い」

「ユエさん」

シアは、そう呟くと私の背中に視線を向ける。

 

「……確かに、私はあなた達を助ける為に

 動いた。しかし、最初にあなた達を助けたい

 と強く思ったのは、ハジメです。礼を言うの

 なら、彼に」

私は所詮、汚れ役だ。こう言うのは、ハジメの

役目だ。

彼女の、その想いを受け止めるのは。

 

そして、シアはハジメの方を向く。

「……助けるって、決めたし、約束

 したから。……それだけだよ」

そう言って、ハジメはメットの下で

笑みを浮かべ、シアもそんな彼を幻視した。

 

「ッ!」

そして、それだけでシアは大粒の涙を

浮かべる。

 

 

彼女の固有魔法、『未来視』は未来を見る事が

出来る。しかし、その未来は絶対ではない。

シアには、ハジメや司が自分達を助ける未来が

見えていた。しかし、その未来は確定された物

では無い以上、違った未来が待っていたかも

しれない。それは『不安』、『恐怖』となって

彼女の背中にのしかかっていた。

そして、結果はシアの望む方へと動いた。

ハジメの言葉で司たちはハウリア族救出に

動き出した。

 

しかし、ここに来てフェアベルゲン側が

彼らの大樹行きを妨害するような事を

言い出し、更にハウリア族を処刑する事まで

決定している事実に、彼女の中で消え

かかっていた絶望と不安、恐怖が

ぶり返した。

 

そして、何よりシアには、司がどこか

利己的な人物に見えていたのだ。

彼は敵となる者、自らの道を阻む者には

容赦しない。

だからシアは考えてしまった。

『彼には、そこまでして私達を護る理由が

 無いのではないか?ならば自分達を

 見捨てるのではないか?』と。

 

しかし、事態は彼女の真逆に動いた。

司はシア達を守る為に戦争を辞さず、

ハジメ達もシア達を守ってくれた。

 

『辿り、付いたんだ。あの未来に……』

そう考えただけで、シアは大粒の涙を流し、

目の前のハジメを見つめている。

 

今のハジメは、鋼鉄の鎧、ジョーカー0を

纏っていた。白く輝く純白の装甲と、

情熱を表す赤のライン。そして首元で

たなびく深紅のマフラー。その姿は、まるで

英雄のようだ。

 

シアは、そんな彼の姿を見るだけで胸の内が

高鳴った。家族とともに生き延びた喜び。

しかしそれだけではない。

そして、彼女は……。

「ッ!」

バッとハジメに抱きついた。

 

「ふぇ!?シアちゃん!?」

突然の事に戸惑うハジメ。

「ハジメさ~ん!ありがとうございまずぅ~!」

シアは、彼に抱きつくなり、その鋼鉄の体に

額を押しつけながら涙を流した。

 

それにムッとしたユエだったが……。

「駄目だよユエ。……今だけは、ね?」

「……しょうがない」

香織に言われ、ため息交じりに、今だけは

見逃すことにしたユエ。

 

 

シアがハジメに抱きつく姿を見て、ハウリア

達も生存の実感が沸いたのか皆が喜びを

分かち合っていた。

 

しかし、一方でそれを複雑な表情で見つめる

長老たち。更に、周囲にはそんなハウリア族に

不快感や憎悪を宿している視線が

周囲にいくつもある。

 

……どうやら、追放だけでは済まなさそう

だな、と。

私は一人想いながら、後ろを歩くハジメ達。

ハウリア族、ガーディアン達を連れ、

フェアベルゲンを後にした。

 

そんな中で私は、ここに来てから元気の無い

ルフェアの横顔を伺うが、メットに隠された

その表情を伺う事は出来なかったのだった。

 

    第19話 END

 




司は、阻む者が何であれ倒します。組織なら
壊滅させます。国なら滅ぼします。
ある意味、究極のパワープレイヤー。

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