ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回は、対熊人族戦などです。


第21話 新生ハウリア族

~~~前回のあらすじ~~~

フェアベルゲンより追放される形となったハジメ

と司達、シアやカム達ハウリア族は、樹海の

一角にベースキャンプを設立。そして司は、

弱小種族と見下されてきたハウリア族を、

理不尽な世界で生き残る為に鍛え直すと

宣言。彼らはこれに同意し、シアはユエや

香織と魔法の特訓を。カム達はハジメと司

の元で地獄の訓練をそれぞれ受けた。

十日後には力を付けたシアと、兵士として

覚醒したカム達ハウリア族。

そんな中、族長ジンを再起不能にされた

熊人族の集団が、大樹へと続くルート上に

現れ、彼らの妨害を画策。

司の指示で、生まれ変わったハウリア族は

この熊人族を撃破するために動き出した

のだった。

 

 

私、ハジメ達4人にシア、カム。

10人ほどのハウリア族の集団が樹海の

中を進んで居た。

実戦形式という事もあり、10人の

イプシロン小隊の面々が、バアルを構えながら

周囲を警戒している。

その時。

 

『こちら、アルファ小隊。目標集団から500

 メートルの距離にて待機中』

『ベータ小隊。目標より450メートル

 の距離にて射撃体制のまま待機中』

『こちらガンマ小隊。目標より550

 メートルの位置にて待機中。

 いつでもやれます』

と、3つの小隊から連絡が入った。

 

私は後ろのカムの方を向き頷く。

事前に作戦は伝えてある。

「こちらハウリアリーダー。アルファ、

 ベータ、ガンマの各小隊に伝達。

 任意で射撃開始。但し、20人ほど

 敵兵を残せ。それ以外の30人を

 無作為に狙撃。殺傷、無力化。

 どちらでも構わん。それと、元帥から

再度お達しだ。これはあくまでも戦闘行為だ。

無駄な殺傷は避けるように、との事だ。

初めての対人戦だ。箍が外れて暴走など

するなよ。You Copy?」

『『『『『I Copy』』』』』

 

カムの言葉に、答えるハウリア族の声が

通信機越しに聞こえる。

この『You copy?』『I copy』は、

『分かったか?』『分かりました』という

やり取りだ。

 

そして、直後の樹海に、熊人族の

悲鳴が響き始めたのだった。

 

 

少し時間を遡り、数分前。

 

大樹へと続くルート上に、レギン・バントン

に率いられた熊人族の集団が待ち構えていた。

レギンを始め、その熊人族の者達はジンを

心酔していたと言っても良いほど慕っていた。

しかし、そのジンが再起不能になった

と言う知らせを受け、彼らは最初それを

何かの冗談だと笑った。しかし、現に右腕を

切り飛ばされ、顎の骨を砕かれ意気消沈と

しているジンを見た彼らは、それが現実

だと理解したのだ。

 

そしてレギン達はすぐさま他の長老達を

問い詰め事情を聞き出し、ジンの仇討ちとして

大樹へ向かうハジメや司達を迎え撃とうと

こうして出張ってきたのだ。

 

彼らは、復讐の機会を今か今かと待ちわび、

殺気立っていた。

「来るなら来い……!人間共め!

 ここで血祭りにしてくれる!」

憎悪を滾らせ、霧の向こう側に居るであろう

ハジメ達を睨むように、レギンは霧を

睨み付けていた。

 

と、その時。

 

 

『ボッ!』

レギンから少し離れた場所に居た熊人族の

胴体を、何かが貫いた。

血飛沫が飛び散り、その熊人族の男は

目を見開いたまま後ろに倒れた。

「ッ!?何だ!?」

音も無く、いきなり胴体を抉られ死んだ

仲間を見て驚くレギン。直後。

『ボッ!』

同じように幾人もの熊人族の男達が

胸部から赤い血飛沫を飛び散らせながら

倒れ始めた。

 

「何だこれは!?こうげっ」

『ドバンッ!』

何かを言おうとした熊人族の男の頭が

吹き飛んだ。

そこでようやく、彼らは理解した。

『今自分達は攻撃されているのだ』と。

「ッ!そ、総員密集隊形!」

「集まれぇ!集まれぇっ!」

レギンやその部下、トントが指示を出し

熊人族は何とか円陣を組んだ。

 

しかし、それは愚の骨頂だ。

 

「……バカな奴らだ。そんな風に

 集まったら、デカい的になる

 だけだ。……指揮官が無能なのか、

 まぁ良い」

円陣を組む姿を、メットのスコープ越しに

確認しそう呟いているのは、パルだ。

「俺はお前達に同情なんてしないぞ。

 戦場は殺し合いの場所。そこに

 出てきたんだ。死ぬ覚悟は出来てる

 んだろうな?」

パルは、狙いを付け……。

「ふぅぅぅぅ……」

そして、彼は冷静に狙撃銃、アルテミスの

引き金を引いた。

『バスッ!』

サプレッサー装備のアルテミスから放たれた

弾丸は、寸分違わずトントと呼ばれた

熊人族の頭を吹き飛ばした。

「4人目撃破。次」

彼は冷静にボルトを前後させ、次弾を

装填すると次の目標に狙いを付けるの

だった。

 

「と、トントォッ!」

頭の無くなった部下を見て叫ぶレギン。

その後も、数秒に渡って霧の向こう側から

狙撃が行われた。

彼らは銃という存在を知らない。ゆえに、

対処のしようなど無い。訳が分からないまま、

30人以上の熊人族が胸を穿たれ、頭を

吹き飛ばされ、死んでいった。

 

しかし、不意に銃撃が止み、周囲が

静寂に包まれた。

「な、何だ?攻撃が、止まった?」

一箇所に纏まっていたレギン達は、

突如として止んだ攻撃を訝しみながら

周囲を警戒していた。

 

その時。

霧のカーテンを踏み越えて、レギン達

の前に司やハジメ、カム達が現れた。

 

そして、レギンは司のジョーカーZを

見るなり、その表情を歪めた。

「ッ。漆黒の鎧に、一人だけ細長い

 尻尾を付けた奴!貴様か!?

 貴様がジンを!我らの族長を!」

「あぁ。確かにあの男を再起不能にした

のはこの私だ。……で?それがどうした?」

「ッ!?貴様ァァァッ!」

その時、一人の熊人族の男が司に

突進していった。

 

「ジン殿の仇ィィィッ!」

向かってくる熊人族の男。だが……。

『『『バババババッ!!』』』

側に控えていたイプシロン小隊からの

バアルの掃射を受け、男は手足を

ギクシャクと振りながら倒れた。

 

自らの体から溢れ出た血の海に沈む

熊人族の男。

「……クリア。元帥、お怪我は?」

「大丈夫だ」

私はそう呟くと、一歩前に出る。

 

すると……。

周囲の霧を越えて、周辺に分散していた

3個小隊の面々が現れた。

全員がアルテミスやバアルを構え、殺気を

滲ませながら熊人族を半円状に包囲する。

 

そして、それを確認したカムは、メットを

取り素顔を晒した。

「無様な物だな。熊人族の者達よ」

「貴様はっ!?ハウリアの族長!?

 この、亜人の恥さらしめ!忌み子を 

 匿い、この地に人間を連れ込んだ大罪、

 万死に値するぞっ!」

「……。言いたいことはそれだけか、

 若造」

相手の罵詈雑言にも、大して動揺する

そぶりも見せず、カムはそう呟く。

「何っ!?」

 

「大罪?万死に値する?……大いに結構。

 私たちハウリアにとって、部族は家族。

 そして、シアは我が娘!娘一人、

 大罪を背負っても守らずして何が父親か!

 笑わせるな!」

「父様……」

シアは、熊人族に向かって吼えるカムの

背中を見つめている。

 

「そして、私たちは元帥によって生まれ

 変わったのだ!この世界に満ちる悪意と

 理不尽から、家族を守るため!貧弱な

 肉体を鋼の如く鍛え!脆弱な魂は新たな

決意を宿したのだ!」

カムはそう叫ぶと背中に携えていた、

カム専用のヴィヴロブレード、『白虎』を

抜き放った。

 

純白の刀身が映える白虎を右手で握り、

カムはそれを天に掲げる。

「聞けっ!ハウリアの戦士たちよ!

 私は今日ここに、元帥より賜ったこの

一振りの太刀、『白虎』にかけて誓う!

我がハウリアに仇為すは、何人も

許さず、武力をもってこれを排除し、

必ずや家族を守り切ると!」

「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」」」」

 

カムの宣誓に呼応するように、ハウリアたちが

樹海を揺るがすほどの大音量で叫ぶ。

その声に、最強種と言われたはずの熊人族

たちは慄いていた。

 

そして、その叫びが収まると、私は

熊人族の方へと歩みを進めた。

すでに、周囲の3個小隊のマークスマン達

がアルテミスの狙いをつけている。

 

「熊人族よ。見るがいい。これが、貴様らが

 見下してきたハウリア族の生まれ変わった

 姿だ。さて、では諸君らに問おう。

 諸君らの選択肢は二つ。ここで更に戦って

 全滅するか。それともここで大人しく

 引き下がるか。……どっちが良い?」

「な、何だとぉ!?人間の分際で、偉そっ」

熊人族の一人が、私に襲い掛かろうと

したが……。

『バスッ!』

『ドバンッ!』

 

その手が届く前に、パルのアルテミスの一撃が

男の頭を吹き飛ばした。

「分を弁えろ。熊人族。……元帥の

 御前であるぞ」

 

パルの言葉に同意するように、周囲の

ハウリアたちが各々の武装の引き金に

指をかける。

「くっ!?」

『こ、このままでは、全滅だ!

 俺には、部下を生き永らえさせる

 責任がある!』

圧倒的な戦力差を見せつけられたレギンは、

幾ばくかの冷静さを取り戻していた。

 

 

「さぁ。どうする。戦って全滅か。

 こちらの条件を一つ飲む形でここから

 立ち去るか。どちらが良い」

「……。その、条件とは何だ」

「ッ!レギン殿!何を言うのですか!

 まさか人間の言う事を聞くという

 のですか!」

「そうだっ!俺には、この事態を招いた

 責任がある!……人間、貴様の条件

 とは何だ」

「何。大して難しい事ではない。お前たちは

 フェアベルゲンに戻り次第、カムたちの

 武力を亜人達に喧伝するだけで良い。

 ……お前たち以外にも、ハウリア族を

 根に持つものは多いだろう。だからこそ、

 お前たちが伝えるのだ。その武力の高さを。

 自分たちが、どれだけ無様に負けたのかを」

「ッ!」

 

私の言葉に、ぎゅっと拳を握りしめる熊人族の

指揮官。そう、こいつらには、生きた広告塔

になってもらうのだ。そして、その脅威度が

結果的にハウリアに対抗する事への抑止力

となる。

亜人族の中でも武に長けた熊人族の大半が

死んだ、とあっては奴らもさぞ驚き、

攻撃を躊躇うだろう。

「嫌なら、ここで死ね」

そして、司はホルスターからノルンを取り出し

レギンの頭に銃口を向けた。

「50人以上の熊人族が全滅、というのも

 宣伝材料としては事欠かない。……結局、

 お前たちに残されたのは、死してハウリア

 の強さを推し量る物差しになるか、

 生きてフェアベルゲンでハウリアの強さを

 周囲に知らせるメッセンジャーになるかの、

 どちらか一つを選ぶことだけだ」

 

「……。分かった、伝えよう」

「そうか。ならば失せよ」

 

そうして、熊人族の男たちは、戦闘らしい

戦闘をする事もなく、一方的に蹂躙され、

半数を殺された上、更に討とうとした

ハウリア族の力を広く伝えよ、というのだ。

これに勝る生き恥はそうそう無いだろう。

 

そう考えながら、私は霧の向こうへ消えていく

熊人族を見送った。

 

「よろしかったのですか?私としては、

 全滅させても良かったのですが」

カムが私の傍に立ち、そう問いかけてきた。

「まぁ確かにな。しかし、全滅させて

 しまっては、ハウリア族の今の強さを

 語る者がいなくなってしまう。

 全滅させただけならば、私がやったと

 思われ、私が去ったあと別の者たちが

 お前たちを襲う可能性もある。

 だから奴らを生かしたのだよ。

 ハウリア族の強さを語る、語り部として」

「成程。流石は元帥です」

 

「よせ、世辞は良い。それより……」

私が目をやると、傍にいた香織とハジメが、

胸部を大きく抉られた熊人族の男の遺体を

前にしていた。

二人とも、ジョーカーを震わせ手をギュッと

握りしめていた。

 

「ハジメ、香織」

そして、私が声を掛けると二人が振り返った。

「……慣れろ、とは言いませんが」

「うん。分かってるよ司」

「私もね」

フォローしようとしたが、二人が私の言葉を

遮った。

 

「これは、僕たちが望んで選んだ道なんだ。

 今更後悔はしないよ。ただ、これから自分も

 こういう事をするかもしれないんだなって、

 確認しておきたくて」

「うん。私も、もっとちゃんとした決意を

 しておきたいの。だから、見ておきたい

 んだ。人が死ぬのが、どう言う事なのかを」

「……そうですか」

 

それから数分後。遺体の前で手を合わせて

戻ってきた二人。そして私たちは

改めて樹海へ向けて移動を開始した。

 

40人あまりのハウリア族が周囲を警戒

しながら進む事、約15分。

私たちはついに大樹の元へとたどり着いた。

 

のだが……。

「これが、大樹?」

「……枯れてる」

大樹を見上げながら呟くハジメと香織。

 

そう、大樹は確かに巨大な樹であった。

しかし、その大樹は枯れていた。

「……カム」

「はっ。何でしょうか?」

「ここの大樹は、ずっと前から枯れている

 のか?」

「はい。私の聞いた所によると、大樹は

 フェアベルゲン建国以前から枯れていた

 そうです。しかし、枯れていながらも

 朽ちる事の無い大樹と、ある周期を

 待たなければたどり着けないと言う

 霧の性質からいつしか神聖視される

 ようになったと、聞き及んでいます」

「そうか」

 

と、頷いていると……。

「司~!石板があったよ~!」

大樹の根本を調べていたハジメ達が私たちの

方を見ながら叫んだ。

 

私が近づいて確認すると、石板にはオスカー

の指輪と同じ文様が刻まれていた。

「どうやら、この大樹が入り口と言う

 のは間違いなさそうですが……」

私は、石板の文様の部分に指輪を近づけて

みたが反応はしない。

「この石板が関係してるのは間違いない

 ようですが……」

「何か仕掛けがあるだよね?」

「えぇ、おそらく」

と、ハジメと話し合っていると……。

 

「あっ。皆、こっち見て」

石板の後ろに回り込んだユエが何かに

気づいた。

私たちが裏に回ると、そこには7つの

文様に対応した窪みがあった。

「これは……。もしかして」

私は、オスカーの指輪の文様に対応した

窪みに指輪を嵌めた。

 

すると、石板が光を放ち始めた。

そして光が弱まると、それと変わるように

文字が浮かび上がった。

そこに書いてあったのは……。

 

『四つの証』

『再生の力』

『紡がれた絆の道標』

『全てを有する者に新たな試練の道は

 開かれるだろう』

 

そう綴られていた。

「司、これって……」

「おそらく、ですが。証とは迷宮攻略の

 証。オスカーの指輪のような物なのでしょう。

 そして再生の力、というのは神代魔法の

 中に、再生魔法、とでも呼べる物が

 あるのではないかと思います」

「じゃあ、最後の絆の道標って?」

と、首をかしげる香織。

「あっ。それって私たちの事じゃない

 ですか?ほら、樹海って亜人以外は

 迷っちゃいますし。それに亜人と人は

 普通仲悪いですから」

それに答えるシア。おそらく彼女の

推察通りなのだろう。

 

が、という事は……。

 

「今の私たちでは、少なくとも樹海の迷宮

 に入る資格が無い、という事ですね」

「みたいだね。……それで、どうするの司?」

「そうですね。が、まずは彼らでしょう」

 

私は、シアとカムたちの方へと視線を向けた。

 

「全員、聞いての通りだ。どうやら今の私たち

 では樹海の迷宮に入れないようだ。なので

 我々はこれから他の迷宮へ向かう事に

 なるだろう。そこで、今後についてだが……」

と言うと……。

 

「元帥!発言してもよろしいでしょうか!」

と、カムが一歩前に出て叫んだ。

「何だ?言ってみろ」

「はっ!元帥!願わくば我々ハウリアも、元帥

 の旅にご同行したく、許可をいただきたい

 所存であります!」

「え?えぇぇぇっ!?そ、それって父様たちも

 司さんやハジメさんの旅に付いてくるって

 事ですか!?十日前、私が許可もらえたら

 ちゃんと送り出してくれるって父様

 言ってたじゃないですかぁ!どうしちゃった

 んですかぁ!」

「ぶっちゃけシアが羨ましいのだ!」

「ぶっちゃけちゃった!ほんとにぶっちゃけちゃい

 ましたよ父様!?」

ギャーギャーと騒ぐシア。一方で、カムたちは

まっすぐに私を見つめている。

 

 

そして……。

私は静かにパチンと指を鳴らした。

すると……。

『……ウゥゥン』

遠くで地響きのような音が聞こえ、大地が

僅かに揺れる。

 

「げ、元帥?今何を?」

「……お前たちの意思は分かった」

私は静かに呟く。

「だが、ここでの話もなんだ。ベースキャンプ

 に戻るぞ。その道中、話がしたい」

「は、はいっ。分かりました」

と、カムが頷くと、私たちは一旦

ベースキャンプに戻るべく歩き出した。

 

 

そして、しばらく無言で歩いていたが……。

「私達に付いて行きたい、との事だったな?

カム」

「はいっ。これはハウリア族全員の総意で

 あります」

「……理由を言え。なぜそうなった」

「はっ。……我々はこれまで、弱小種族と

 よばれ蔑まれてきました。力も技能も無い

 のだから、仕方ない。心のどこかでそう

 諦めている自分が居ました。ですが、

 元帥と出会い、元帥に鍛えていただく事で、

 私は自分で家族を守れる強さを手にする事

 が出来ました。この御恩、生涯の忠義を

 元帥に誓い、返していく所存であります。

 そして、それは皆も同じ。そうだろう!」

「はいっ!元帥に鍛えていただいたこの

 力、是非元帥のお傍で役立てる物なら

 如何様にもお使いください!」

「私たちは元帥に忠誠を誓います!」

「俺たちを旅に連れて行ってください!

 元帥!足手まといにはなりません!」

ハウリアたちは、口々に連れて行ってほしい

と告げるが……。

 

「ダメだ」

「な、なぜですか元帥!理由を、理由を

 お聞かせください!」

「分かっている。……まず、第1の理由

 として私は大人数を連れて動きたく

 ないのだ。以前話したが、私たち、

 私、ハジメ、香織、ルフェアの4人は

 聖教教会に反発したため、指名手配

 されている可能性がある。そこで更に

 40人もの亜人を連れていては、まず

 間違いなく目立つ。これが第1の理由だ。

 分かるな?」

「た、確かに」

不満そうながらも頷くカム。

 

「次に、第2の理由だが……。今私は

 目立ちたくないと言った。しかしハジメ

 の予想では、エヒトはまず間違いなく

 私たちの敵になるとの事だ。そこで、

 兵力を整えておきたいのだ」

「兵力、ですか?」

「そうだ。人型機械兵士、ガーディアンを

 始め、お前たちに見せたバジリスク、

 多脚戦車、ホバーバイク、それらを

 搭載し長距離を移動する揚陸艇。

 それらの装備は多いに越した事は無い。

 いずれエヒトと戦うかもしれない、と

 考えればな」

「はぁ。それで、私たちとどういった

 関係が?」

「諸君らに関するのはここからだ。

 まぁ、見てもらった方が早いだろう」

「は?」

 

見る、とはどういうことだろうか?

 

という疑問がカムやハウリアたちの脳内に

浮かんだ。

 

と、その時、彼らの視界の先、霧の向こう

にいくつもの光点がある事に気づいた。

更に、レーダー上に『巨大な何か』が

ある事に気づいたハウリアやハジメ達。

 

そして、霧を超えた場所にあったのは……。

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?

 何て物創ったんだよ~司~~~!」

『それ』を見るなり叫ぶハジメ。

「こ、これって……」

「な、何、これ?」

「……大きい」

更に戸惑った表情でポツリと呟く香織、

ルフェア、ユエ。

 

そのすぐそばでシアやカムたちが

ポカ~ンと口を開けていた。

 

彼らの前に現れたのは、黒い鋼鉄の壁

だった。その壁の前には、歩哨のガーディアン

数体が歩き回り、壁、『防壁』の上にも

ガーディアンが立ち、そのすぐそばには

自立式のセントリーガンが稼働している。

防壁の高さは、軽く5メートルはある。

 

「皆、こっちですよ」

そして驚く彼らに声をかけ、促す。

慌てて付いてきたハジメやカムたちと共に、

鋼鉄の扉の前に立つと、扉が音を立てて

上下に開いていく。

そして扉を超えた先には、いくつもの

鉄製の建物が並んでおり、歩哨のガーディアン

が武装した状態で巡回していた。

 

「げ、元帥!ここは一体!?」

「ベースキャンプの上に、新たな施設を

 作った。ここは、さっき言った戦力と

 なるガーディアンや武装を生産する

 『製造プラント』だ。地表にはあまり

 建物が無いが、プラントは敵からの

 攻撃を考え地下に建設してある。

 ……さて、それではここからが

 諸君らに関係する事だ」

 

その言葉に、カムたちはメットを取って

整列し背筋を伸ばしながら直立不動の

姿勢を取った。

 

「私は、諸君らハウリア族にこの施設、

 第1プラントの防衛を頼みたい。

 どうだ?」

と、私が問うと……。

 

「はっ!その命令、しかと拝命いたします!

 みんなはどうだ!」

「やります!やらせてください!」

「必ずや守り抜いて見せます!元帥!」

ハウリア族の全員がやる気を示した。

 

この分なら、大丈夫だろう。

彼らに、『あれ』の事を伝えるとしよう。

 

「では、諸君らにもう一つ、聞いておきたい

 事がある。私は、王国から反発する際に

 独立武装艦隊G・フリートを結成した。

 しかし、その所属メンバーは、私、

 ハジメ、香織、ユエ、ルフェアと、

 シアを入れても6人しかいない。そこで、

 私はG・フリート傘下の実働部隊を

 編成しようと考えていた。そこで、

 諸君らに聞きたい。その実働部隊に、

 参加する気はあるか?」

と、私が問うと……。

 

「是非っ!是非参加させてください!」

「私も!」

「俺もです元帥!」

皆、そう言って参加する意欲を見せた。

 

その姿勢に、若干苦笑を浮かべている

ハジメと香織。

……今更だが、私も随分と信頼された物だ。

まぁ、悪い気はしない。

 

「そうか。……では、その実働部隊に

 名を与えるとしよう。

 ≪Gフォース≫。それが今日から

 諸君らの部隊の名前だ」

 

私が名を呟けば、皆がGフォースと言う

部隊名を繰り返す。

 

「さて、次いで。カム・ハウリア!」

「は、はっ!」

私の声に、驚きながらも一歩前に出る

カム。

 

「今日より、この製造プラントを

 G・フリート及びGフォースの第1

 前線基地!『ハルツィナ・ベース』と

 する!また、それに先立って、

 カム・ハウリア!貴官をGフォース

 総司令としての立場と、このハルツィナ

 ベースの基地司令の立場を与える物と

 する!そしてハウリア族の皆を

 ハルツィナ・ベース所属の『第1師団』

 へと編成!総司令カム・ハウリアの指揮下に

 入る物とする!」

 

その言葉に、彼らは皆目を見開く。

すると……。

 

「不肖!カム・ハウリアッ!ッ、ッ!

 謹んで、その任務を拝命、うっ、

 ぐっ!拝命いたしますっ!!!」

カムは、今にも、男泣きをしそうな表情で、

見事な敬礼をしていた。

 

そして、彼は振り返った。

「皆!聞いていたか!今日より我々は、

 元帥の元で働くのだぞ!」

その言葉を聞くと、茫然としていた

ハウリアたちの中から涙を浮かべる

者たちが続出した。

 

「お、俺たちが、元帥、直属の、

 部下。ッ!俺たち、が。

 俺たちが!」

「元帥!俺は一生元帥に付いて行きます!」

「私もです!」

「俺も、俺も一生付いて行きます!」

皆、嗚咽を漏らしながらも敬礼を

止めない。

 

そんな姿を見てハジメ達は……。

「す、すごい。司がたった十日間で

 ハウリア族の人心を掌握している」

「さすがは王様、で良いのかな?」

驚いているハジメと苦笑している香織。

「……んっ。王の名は伊達じゃない」

「あぁ。父様たちがなんだか凄い事に」

さも同然のように頷いているユエ。

どこか遠い目でカムたちを見つめている

シア。

「お兄ちゃんの周囲に人が集まってくる。

 ……さすがはお兄ちゃんだね!」

ブレないルフェアの反応。

 

 

そんな5人の反応を横目に見つつ、私は

もう一度カムたちの方を向いた。

「諸君、まだすべてを伝え終わった訳

 ではないぞ」

と言うと、カムたちがすぐさま整列

しなおす。

 

「今しがた、諸君はハルツィナ・ベース

所属の第1師団に編入した訳だが、その

第1師団の中に、更にもう一つ部隊を

創る。この部隊、戦闘の際にG・フリート、

つまり私たちの援護と護衛を目的と

している。その部隊の名は、『近衛大隊』。

その大隊長として……。

パル・ハウリア!」

「はいっ!……ん?……えぇぇぇっ!?」

パルは、返事をしてから事の重大さを

理解したのか驚き叫ぶ。

 

「お、俺が、近衛大隊の隊長、ですか!?」

「そうだ。パルの狙撃技術は磨けば光る 

 物があると私は考えている。そこで、

 パル・ハウリアを近衛大隊長にしたいと

 思う?不服か?」

「いえ!滅相もありません!ご期待に

 答えられるように、今後も鍛錬を

 続けたいと思います!」

 

「よし。……では、改めてここに宣言

 したいと思う。諸君は、本日をもって

 G・フリート傘下の実働部隊、

 Gフォース所属の兵士となった!

 そして、諸君らに私が下す最初の命令は、

 このハルツィナ・ベースを防衛し、

 更にこの設備を拡充し、大いなる戦いに

 備える事だ。同時に、諸君らは独自に

 樹海を防衛し、帝国兵を倒しフェア

 ベルゲンの亜人達を、『守ってやる』のだ。

 これは、フェアベルゲンの亜人達を

 見返すチャンスでもあるのだ!

 戦え!ハウリア族の戦士たちよ!」

「「「「「「はっ!」」」」」」

 

総勢40名あまり。その全員が、一糸乱れぬ

敬礼をする。

その姿は、とても頼もしい物だった。

 

そして、私はシアの方に歩み寄る。

「シア、私たちは出来れば今日中に樹海を

 出ます。……カムたちに、しばしの別れを」

「ッ。……はい」

一瞬驚きながらも、シアはギュッと握りこぶし

を作りながらカムたちの元へと歩み寄る。

 

「……父様」

「行くのか?シア」

「……はい」

彼女は、頷きながらも服のすそを

ギュッと握りしめる。

すると、娘の想いに気づいたのか……。

 

『ポンッ』

優しく、俯く彼女の頭を撫でるカム。

「大丈夫だシア。……私たちの新しい

 家も、元帥にこうして建てて

 いただいた。私たちは、ずっと

 ここに居る。それに、元帥や

 ハジメ殿に付いて行くと決めたの

 だろう?」

「ッ!はい」

「ならば、行けシア。お前の行きたい所へ

 行き、共に歩むと決めた、彼らと共に。

 そして、もし辛い事があったのなら、

 ここへ帰ってこい。父と仲間たちは、

 いつでもここでお前を待っている」

 

そう言って、カムは以前の優しい笑みを、

シアに向けた。

そして家族同然の仲間たちも、シアに

温かい言葉をかけていく。

 

如何に強くなったとしても、彼らが戦う理由

の根底は、家族同然の仲間を守るため。

だからこそ、彼らの一族に対する愛情は

失われて等いない。

 

そして、シアはその目に涙を浮かべる。

「はい。それじゃあ、私、行ってきます!」

彼女は、涙を浮かべながらもそう、

力強く微笑んだ。

 

そしてシアは私たちの元へと歩み寄る。

「もう、良いのですか?」

「はいっ!これが、今生の別れ、って訳

 じゃありませんから。……だから、

 もう大丈夫です」

「そうですか」

 

シアの言葉に頷き、私はハジメや香織たち

の方へと視線を向ける。4人とも、頷く。

 

「では、これから我々は他の大迷宮攻略に 

 向けて出発します。行きましょう」

5人にそう告げた私は、カムたちに二、三

基地の説明をしてから、彼らと共に

ハルツィナ・ベースを後にした。

 

そして、ベースを出た直後。

シアは涙を浮かべながら振り返る。

ゲートのところには、カムたちが

立っていた。

 

「みんな~~~!行ってきま~~す!」

シアが涙ながらに叫ぶと、カムたちも

叫びながら手を振る。

そしてシアは、涙をぬぐうとハジメの

元へと駆け寄る。

「行きましょうハジメさん!迷宮が

 私たちを待ってます!」

「うん。……司」

「えぇ。行きましょう。私たちの旅は、

 まだまだ始まったばかりなのですから」

 

私の言葉に、ルフェアや香織、ユエ達が

頷く。

 

そして私たちは、シア・ハウリアと言う新たな

仲間を加えて6人となり、ハルツィナ樹海を

後にするのだった。

 

     第21話 END

 




次回はブルックの街でのお話です。

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