ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回はブルックの町の前編です。


第22話 ブルックの町

~~~前回のあらすじ~~~

樹海へと向かった司やハジメ達。そんな中、

司に鍛えられたカム達ハウリア族は待ち

構えていた熊人族を撃退。大樹ウーア・アルト

へとたどり着く。しかし、樹海の迷宮へ入る

為には、いくつかの条件があり、司たちは現時点

でそれを満たす者ではなかった。

そのため、彼らは樹海を離れ別の迷宮攻略へ

向かう事に。そんな中、自分たちも司たちに

付いて行こうとするカム達。しかし司は、

樹海に基地を作り、彼らに基地を守る事を

命令。と同時に、G・フリートの実働部隊

Gフォースを結成。カム達をその所属とした。

そして司たちは、新たなに仲間となった

シアを連れ、樹海を後にした。

 

 

今、樹海を出た私たちは草原の上をバジリスク

で移動していた。

運転は私。助手席にはハジメが座っており、

後部座席には香織たちが居る。

そんな中で……。

 

「ほぇ~~。これがジョーカーですかぁ」

「んっ。思ったより着心地良い」

後ろのベンチシートに座っているユエとシア。

今二人は、ジョーカーを纏っていた。

 

 

事の発端は数時間前。バジリスクを走らせ

始めた時だ。

「む~~~」

何か、難しい顔をしながら私たちの方を

見ているシア。

「あ、あの?シアちゃん?どうかしたの?」

その視線に耐えかねたのか、振り返って

問いかけるハジメ。

「はい。実は私、改めて思ったんですけど、

 ハジメさんたちだけジョーカーを使ってる

のを見ると、なんか私とユエさんだけ

仲間外れにされてるみたいだなぁ、って

今ユエさんと話してたんですっ」

「んっ」

シアの言葉に頷くユエ。

 

「い、いや、仲間外れとかそういう意味

 は無いんだけど……。ほら、僕たちは

 ジョーカーを使ってた方が強いから

 使っている訳で……」

「それでも仲間外れにされてるみたいで

 嫌ですぅ!私は皆さんと一緒が

 良いですぅ!」

「ん。私も……」

と、抗議するシアとユエ。

 

ふむ。ならば……。

私は宝物庫の中から二つのブレスレットを

取り出し、左手だけを後ろに回した。

「二人とも、これを」

「つ、司さん!これってもしかして……!」

二人は、そのブレスレット、待機状態の

ジョーカーを受け取った。

 

「えぇ。二人用のジョーカーシリーズです。

 元々、ジョーカーは鎧、装着者を守る側面

 もあります。なので、二人を守る意味でも、

 と用意しておきました。腕輪、ブレスレット

 という事で携帯性も高く、持っておけば

 何かの役には立つだろうと開発して

 おいたのです」

「そうだったんですか!ありがとう

ございますぅ!」

「ん。流石司。仕事が早い」

 

そして、時間は冒頭へと戻る。

 

二人はさっそくジョーカーを纏って、

着心地を確かめていた。

 

まず、シアの濃い青色のジョーカー、

『タイプSC』、『シアカスタム』は、頭部を

HC、ハウリアカスタムと同じものにして、

アンテナ型の耳保護パーツを装備。これも

レーダーとして機能しており、更に私たち

の機体全てにデータリンクシステムを装備。

これで、敵を誰かが発見した際に全員に

データが送られるなど、集団としての

戦闘力を高めるのにも役立っている。

一方、首から下の内部構造は、ハジメの

0やルフェアのタイプRとは異なる。

内部のパワーアシスト機構を通常の物より

強化し、より腕力と脚力を強化。更に

背中にタイプCの物より大型のブースター

を装備。タイプCのスラスターが半内蔵式

なのに対し、こちらは完全な外付けの

ブースターだ。

雫のタイプCのような複雑な三次元機動は

出来ないが、突進力ではタイプSCの方に

分がある。

 

次いで、ユエのジョーカーだが。

シアの物を既存のジョーカーのカスタムメイド

機体とするのなら、ユエのジョーカーは

スカウトモデルと同時期に開発していた

最新鋭モデルだ。

機体コードは『ジョーカー・ウィザード』。

私が開発した、『魔力増幅ジェネレーター』を

実装した、ユエや香織のような、魔法を使う者

の装着を前提として開発した新たな

ジョーカーだ。

幸か不幸か、これまで私たちの中で魔法を

使うのは殆ど香織だけだった。ハジメの

錬成魔法も実戦ではあまり使えない。

更に香織の魔法は治癒系統が多いが、そもそも

戦闘で治癒してもらうほどの怪我を

した事も無いのも事実だ。私も、魔力は

あるが使わないし、わざわざブーストする

意味もない。

が、ユエがジョーカーを欲しいと言い出した

のだ。ならば、という事でこれを渡した。

 

ウィザードモデルは機体の関節部や胸部中央

にクリスタルのような輝きを放つ、魔力増幅

ジェネレーターを搭載しており、装着者の

魔力量を50倍にまで引き上げる。

これで、ユエは万が一にも私からの魔力

供給を受ける事が出来なくても、かなりの

量の魔力を保有する事が出来る。

また、ウィザードモデルだけの機能として、

魔力をエネルギーに変換し、ビームとして

発射するビーム砲を掌の部分に搭載。

これはアータルに搭載したバスターモードを

小型に改良した物だ。

それだけではなく、同様の機構を改良して

魔力エネルギーを推進力に変換して空を

飛ぶことも可能。

 

その事をハジメに話したら……。

「それ、完全にア〇アンマンじゃん」

と言われてしまった。

 

まぁ、ユエの基本的な戦闘力を考えれば、

あまり必要な機能とは思えないが、

念には念を、という所だ。

 

その後、ジョーカーの装着を解除した

シアが運転席と助手席の間から顔を出した。

「所で、私たちは今どこに向かってる

 んですか?」

「今はとりあえず、以前地図に確認した

 町へと向かっています」

「町、ですか?」

「えぇ。一応、当面攻略を目指す迷宮

 としてはライセン大峡谷を考えて

 いますが、そもそも私たちはオルクス

 を出た後、人里で私たちが指名手配

 されていないかどうかを確認する

 予定でした」

「けど、そんな矢先にシアちゃんと出会って

 いろいろあった、って事なんだよ」

と、私の言葉に続くハジメ。

 

「えぇ。なので、今はまず、当初の目的

 通り町へ行き、私たちがどうなっている

 のかを確認し、あとは樹海や峡谷で

 倒した魔物の素材をお金に換えます」

「成程~」

と、頷いているシア。

 

そして、バジリスクを走らせる事

数時間。あと少しで夕暮れ、と言う所で

町が見えてきた。

「皆、町が見えてきましたよ」

と、私が声をかけると助手席でうたた寝

していたハジメと、後ろの席でトランプを

使い遊んでいた4人の視線がこちらに

向いた。

 

私は前方に町を確認するとバジリスクを

停車させた。

「あれ?どうして止まるんですか司さん」

「バジリスクは、この世界において完全な

 異物です。こんなのに乗って近づけば

 驚かれてしまいます。なので、ここからは

 徒歩で向かいます。あと、ジョーカー

 も解除したままにしておいてください。

街中では悪目立ちしますから」

「はいですぅ」

「んっ」

「分かったよお兄ちゃん」

と、3人が返事をする。

 

「あっ。そうだ司。僕と司と香織は、

 ステータスプレートの数値を隠蔽しておいた

 方が良いよね?」

「あぁ、そうですね。おそらく、入り口で

 提示を要求されそうですし……。

 シアとルフェアは、心苦しいですが

 奴隷、という扱いで構いませんか?」

「う~~ん。まぁ、演技なだけなら」

「そうだね。仕方ないよシアちゃん」

若干嫌そうだが、一応頷いてくれたシアと

励ますルフェア。

 

「あと、ユエに関してはプレートを戦闘で

 破壊されてしまい、破棄した、という事で」

「んっ、分かった」

そうやって、口裏を合わせた私たちは

バジリスクを降りてそれを宝物庫にしまった後、

徒歩で街へと向かった。

 

ちなみに、シアとルフェアには首元にチョーカー

を付けてもらっている。

一応、奴隷を現す首輪代わりだ。黒いチョーカー

の全面には、純白のクリスタルをあしらってる。

傍目にはアクセサリーだが、一応彼女たちが

奴隷の『ふり』をするために用意したのだ。

 

そして、私たちは『ブルック』の町へと

たどり着いた。

ブルックの町は、周囲を堀と柵に囲まれており、

入り口には門番の物らしい詰め所の小屋が

あった。

 

どうやら、規模で言えば中規模のようだ。

私たちは門番の青年にステータスプレートを

提示。ユエのは少し前の戦闘で壊れたので

破棄した、と伝えた。シアとルフェアは、

名目上奴隷なので提示を要求はされなかった。

私とハジメ、香織のプレートは既に隠蔽済みだ。

 

まぁ、流石に美女・美少女と呼ぶに相応しい

香織、ユエ、ルフェア、シアを連れているので、

門番の青年はかなり驚いていたが。

 

町へ入る理由を聞かれたので、とりあえず

食料の補給と、倒した魔物の素材の換金だと

伝えた。素材の換金については、この町の

ギルドで聞けと言われたので、私たちはまず

そのギルドへ向かう事にした。

 

 

その道中。シアとルフェアが首元を

しきりに掻いている。

やはりチョーカーが慣れないのだろう。

「う~~ん。これしてると首元がなんだか

 ムズ痒いですぅ」

「ん~~。私も~~」

「ごめんね二人とも。けど、二人は亜人

 だし、それに、その、可愛いから。

 少しでも人さらいとかに狙われないよう……

 って、どうしたのシアちゃん?」

ハジメがそう言うと、途中から顔を赤く

するシア。

「そ、そんな~。可愛いだなんて~」

彼女は頬を赤く染め、両手を添えながら

いやんいやん、としていた。

「も~~ハジメさんってば、もしかして 

 私を堕とす気ですか~?でも私~

 既にハジメさんの事、す、へぶっ!!」

何やら顔を赤くしていたシア。しかし

次の瞬間、思いっきり香織にビンタされて

倒れた。

 

シアは倒れたままビックンビックンと体を

震わせている。

う~む、脳震盪でも起こしたか?

「あっ、ごめんシア。ちょっとほっぺに

 虫がいたから叩いちゃった」

と言いつつ、香織の背後には般若の

オーラが浮かんでいた。

それだけでハジメとルフェアはガクブルだ。

ハァ、やれやれ。とりあえず、私が指を

鳴らすと、何事も無かったかのように

立ち上がるシア。

「うぅ、香織さん酷いですよ。いきなり

 ぶつなんて。……父様にぶたれたことも

 無いのに」

とシアが言うと……。

「なぜにシアちゃんがそのネタ知ってんの」

と、ハジメが呟いていた。

 

更に……。

「シア、良い事教えてあげる」

「ほぇ?何ですかユエさん」

「……ハジメは私の婚約者。正妻ポジは

 すでに私の物」

「なん……だと……」

そう言ってハジメの右腕を取るユエ。

そしてシアは、そう呟くとその場に

崩れ落ちた。

「何言ってるのユエちゃん?って言うか

 シアちゃんもホントネタ知ってるよね?

 君たち、もしかして僕たちの世界来た事

 あるんじゃないの?ねぇ?」

それに首をかしげ、いろいろ突っ込むハジメ。

しかし誰も何も言わない。更に……。

「ねぇユエ。何度言ったら分かるの

 かなぁ。ハジメくんはぁ、私の

 彼氏なんだよぉ?」

ユエの言い分に、般若を鬼神にパワーアップ

させ、ハジメの左腕を取る香織。

「言ったはず。これは戦争。私は

 負けない」

「ふ~~ん」

バチバチと、ハジメを挟んで火花を散らす

二人。

その二人に両手を取られながらも、滝の

ように冷や汗を流すハジメ。

更に……。

 

「ま、まさかお二人が、ハジメさんと

 そんな仲だったなんて……!」

がっくりと、地面に膝と手を付き項垂れるシア。

しかし……。

「う、う~~~!で、でもでも!私も

 負けませ~~ん!」

すると今度はシアがハジメの腰元に抱き着いた。

それも正面からである。

 

「ちょっ!?さ、三人ともそろそろ離れて!

 特にシアちゃん!」

「嫌です!私だって負けません!」

「いやっ!?け、けどこの状況は

 不味いって!」

顔を真っ赤にしながら叫ぶハジメ。今、ハジメの

腿の部分にシアの一部が押し付けられていた。

どこが、とは言わないが……。

 

火花を散らす二人に、まるで縋るように

抱き着くシア。戸惑っているハジメ。

 

これだけ騒げば、周囲からの視線が嫌でも

集まる。

ハァ。仕方ない。

私は内心ため息をつきながら、『あれ』を

取り出した。

 

そして、それで4人の頭を叩いた。

『パパパパンっ!』

「んっ!?」

「あいたっ!」

「はきゅっ!?」

「何でぇ!?」

ユエ、香織、シア、ハジメの順に悲鳴を

上げる。

ハジメは、それ、ハリセンを取り出した

私に抗議の視線を向けている。

 

「皆、あまり往来で騒ぐものでは

ありませんよ。それより、まずはギルド

 です。もう日も暮れ始めてますし、

 宿も確保したいので、急ぎますよ」

そういって促すと、ユエとシア、香織が

ハジメから離れた。

 

そして私たちは再びギルドを目指して

歩き出した。

 

 

やがてメインストリートを歩いていると、

一本の大剣が描かれた看板を見つけた。

あれはギルドを示す看板だ。

ホルアドの物より二回りほど小さいその

ギルドへ、私たちは足を踏み入れた。

 

重厚な扉を開けて中に入れば、そこは意外にも

清潔感が保たれていた。一度ホルアドの

冒険者ギルドへ足を運んだ事があったが、

あそこは随分と汚れていた。あそことは

良い意味で大違いだ。

 

出入口の正面にカウンターがあり、そこに

恰幅の言い女性が居た。ちなみに彼女を見る

なり、ハジメが……。

「ハハ、美人受付嬢なんて、幻想だよな。

 やっぱり」

と、何やら遠い目でどこかを見つめながら

そう呟いていた。

その変なつぶやきを聞きつつ、周囲を

見回す。

入って左手は飲食店のようだ。冒険者たちと

思われる者たちが食事をしていたが、

やはりと言うべきか。

 

香織やユエ、シアにルフェアを見ると4人に

視線が釘付けだ。元の世界で、女神と

称されていた香織に、それに勝るとも劣らない

ユエ達3人。目立つのは当然か、と考え

つつ、何やら恋人らしい女性に殴られている

冒険者たちから視線を反らし、前方の

カウンターの方へと歩みを進めた。

 

「いらっしゃい。見ない顔だけど、この町は

 初めてかい?」

「えぇ。ここに来るのは今日が初めてです」

「そうかい。あたしはこのブルック支部の

 受付、キャサリンだよ。それで、今日は

 どういった御用で?」

「実は魔物の素材の換金をしたいのですが、 

 それができるところを知りませんか?

 何分、先ほど町に入ったばかりなので、どこに

 何があるか皆目見当がつかないのです」

「そうかい。ならここで買い取るよ。あたしは

 査定資格を持ってるんだ。んじゃ、まずは

 ステータスプレートを提示してくれるかい?」

「はい」

 

私は頷き、プレートを渡したのだが……。

「ん?もしかしてあんた達、冒険者じゃ

 無いのかい?」

プレートを見るなり、キャサリンさんは

首を傾げた。

「ん?何か不都合が?」

「あぁいや。冒険者なら買取金額を一割増

 に出来るからプレートを出して貰った

 んだけど、登録してないみたい

 だからねぇ」

あぁ。だからプレートを要求したのか。

 

私としては、誰が何を持ち込んだのか、記録

するため、と思っていたが、違ったようだ。

「どうせなら、ここで登録して行くかい?

 冒険者ギルドと提携している宿の値引きや

 移動馬車の料金を無料にしてくれるっていう

 特典もあるけど、どうする?料金は

 一人千ルタだよ」

「ふむ」

 

ちなみに、『ルタ』というのはこの世界の貨幣

の名前だ。このトータス世界では、お札

という概念は無く、ザカルタ鉱石に他の鉱石

を混ぜ、別々の色の硬貨を作り出しており、

それで支払いをする。

ルタは……。

 

青、赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金の9段階に

分けられ、それが……。

 

1、5、10、50、100、500、千、五千、万。

と言う、何とも日本円のような基準なのだ。

まぁおかげで金銭感覚は日本と余り変わりないが。

 

さて、冒険者の登録だが……。

「では、私と連れの内二人の登録を。

 ハジメ、香織」

「うん」

「分かった」

ハジメと香織がうなずき、二人もプレートを

提出した。

そして私は、ポケットの中から黒い硬貨、

千ルタ硬貨を3枚取り出し、テーブルの上に

置いた。

 

そして、戻ってきたプレートの変化として、

天職欄の横に、職業欄が追加され、そこに

『冒険者』の文字も追加されていた。また、

更にその横には青い点がついている。これは

冒険者のランクを示しており、その色は

ルタ硬貨と同じ。つまり最高位の冒険者の

ランクは金、と言う訳だ。

また、戦闘系天職を持たないものは黒まで

しか上がれないらしい。

 

ちなみに、私はそもそも天職が普通では

無いので、ステータスプレートに細工を

して、『拳闘士』と言う事にしておいた。

なので、一応金は目指せる立場にある。

「この中じゃ、あんたは金に行けそうだし、

 頑張って出世するんだね」

「えぇ。行ける所まで行くつもりです」

と、言いつつ、私は頷く。

 

そして、改めて査定をお願いする事にした。

「ハジメ」

「うん」

私が声をかけると、ハジメが回れ右を

して背負ったバッグを私の方に向けた。

まさか白昼堂々、宝物庫を使う訳にも

行かないので、町の外の段階である程度

このバッグに入れてあった。

 

そして私はバッグの中身をキャサリンさんの

前に置いて行ったのだが……。

 

「こ、これは……!」

彼女はとても驚いた様子だった。

私たちが出したのは樹海と峡谷の魔物の

素材だ。最初はオルクスのも売ろう

と考えたが、そもそも世間一般では

『存在しない』101層以降の物だったと

思い出し、やめたのだ。

 

「これは、峡谷に樹海の魔物の

 素材だね?」

「えぇ」

「よくもまぁ、あんな場所の素材なんて

 持ってきてくれたもんだよ」

驚嘆の意味を込めて、ため息をつく

キャサリンさん。

「冒険者としては、今日登録したばかり

 ですが、ある程度の戦闘経験が

 あるので」

「ハハ、ある程度、で狩れるかねぇ。

 あんな化け物どもを」

そう言って苦笑を浮かべるキャサリンさん。

そして彼女は、まるで探るように私を

まっすぐ見つめる。

 

が、彼女はすぐに笑みを浮かべ、手元の

素材へ目をやった。

どうやら余計な詮索をするつもりはないようだ。

「さて、それじゃあ査定してみたけど、

 全部で50万ルタ、って所だね。これで 

 良いかい?」

「えぇ。十分です」

額がぴったりだったので、金のルタ硬貨を

50枚を入手したが、これだけ持っていても

しょうがないので、内の10枚を

両替して貰った。

 

と、そうだ。

「そういえば、門番をしていた青年にここで

 地図を貰えると聞いたのですが……」

「あぁ。ちょっと待っといで。……ほら、

 これだよ」

と言って手渡された地図、なのだが……。

「うわっ、これが無料?」

私の手元の地図を見ながら驚くハジメ。

「これが無料って。ほんとに良いん 

 ですかキャサリンさん?これ、確実に 

 売れるレベルだと思いますけど……」

そう呟く香織に、私も内心同意していた。

 

なかなか精巧、かつ色々な情報が載っていた。

もはやガイドブックレベルだ。簡易などと

いう物ではない。香織の言う通り、

売れるレベルの品だ。

「アハハ、誉め言葉として受け取っておくよ。

 これはあたしが趣味で描いてるもん

 だからね。書士の天職を持つあたしには

 落書きみたいなもんだよ」

趣味とは言え、これほど精巧な地図を

描くとは、彼女は中々優秀な女性のようだ。

 

「ありがとうございます。助かります」

そう言って私は軽く頭を下げた。

「良いって事よ。あ、それよりあんた達。

 少しは良い所に泊まりなよ?治安が悪い

 訳じゃないけど、キレイどこを4人も

 連れてちゃ、男どもが何しでかすか

 分からないからね」

そう言って笑みを浮かべるキャサリンさん。

 

まぁ、確かに、と私は思っていた。

香織たちほどの美少女だ。男ならだれでも

『お近づき』になりたいだろう。

それを考えれば、防犯がしっかりした宿を

探すか。

 

「では、私たちはこれで。失礼します」

「あぁ。何かあったら、来るといいよ。

 相談に乗るからさ」

「はい。ではこれで」

と、私が言うと、ハジメ達も頭を下げ、私達

はギルドを後にした。

 

その後、ハジメ達と話し合って、私達は

地図に記された『マサカの宿』という所に

行くことにした。防犯もしっかりしていて

食事も美味しい。風呂もあるとの事だ。

風呂付、というのは私達としてもありがたい

ので、ここに決まった。

 

「ここですね」

そして、私達6人はたどり着いたマサカの宿に

入った。1階は食堂を兼ねているのか、大勢の

宿泊客が集まっていた。

そして、ギルドと同様に香織たち4人に

見ほれる男たちを無視して、私達はカウンター

へと向かう。

受付に行くと、15歳くらいの少女が

現れて応対してくれた。

 

「いらっしゃいませー。ようこそ

 マサカの宿へ!本日はお泊りですか?

 それとも食事だけですか?」

「宿泊の方で。……ギルドでもらった

 ガイドブックを見て来たのですが」

と、あの地図を見せながら言うと、成程、

と言いたげに頷く少女。

「あぁ。キャサリンさんの紹介ですね。

 では、宿泊、という事ですが何泊の

 ご予定ですか?」

「とりあえず一泊で。食事と風呂も頼みたい

 のですが」

「そうですか。お風呂は15分百ルタです。

 空いている時間はこちらになります」

と言って、時間表を見せてくれた。

 

30分で200ルタ、1時間で400ルタか。

うぅむ。男女別にして、女性は結構長い

風呂に入るだろうから……。

「では、二時間ほど風呂をお借りしたい」

幸い2時間分空いている時間帯があった

ので、すぐさま予約した。

受付の少女が驚いていたが、すぐに部屋

の方の話になった。

 

「それで、お部屋の方はどうされますか?

 ここは最大が4人部屋となってまして。皆さんが

 一緒に入れるほどの物はないのです。申し訳

 ありません。一応4人部屋、3人部屋、2人部屋

 のどれもいくつか空いていますが」

そうか。であれば、3人部屋が二つ、で良い

だろう。

「では、3人部屋を二つ」

と、頼んだのだが……。

 

「ダメ」

と、ユエがそう呟いた。

「部屋は、3人部屋が1つと、二人部屋が二つ」

と、彼女が呟くと周囲の客たちが、『ざまぁ』

と言いたげな表情を浮かべた。

大方、私達が男女で部屋を分けたと思ったの

だろうが、それは勘違いだった。

 

「3人部屋には、私とハジメと香織。

 二人部屋の一つには司とルフェア。

 あと一つにシア」

という風に割り振られた。

 

「えぇ!?ユエさん何ですかそれ!?

 それなら4人部屋にみんな一緒で良い

じゃないですか!何で私だけ

仲間外れなんですかぁ!ひどいですぅ!」

一人だけのけ者のような扱いに抗議する

シア。

「……。シアが居ると、夜の決闘の邪魔」

「け、決闘って!?何してるんですか

 お二人とも!?」

「う~~ん。何て言うか、ハジメくんの彼女に

 相応しいかをかけての、ベッドの上での

 対決、かな?」

との香織の言葉に、周囲の客たちは絶望し、

更にハジメに嫉妬の視線を向けてきた。

その視線にいたたまれなくなるハジメ。

 

しかし、それだけではなかった。

「じ、じゃあ私もそのバトルロワイヤル

 に参加しますぅ!は、ハジメさんが好き

 なら、良いですよねぇ!?」

「へぇ?」

「……ほぅ?」

シアの言葉に、香織とユエのオーラが

濃密になっていく。そして、ルフェアは

とうとう現実逃避を始めたのか、笑みを

浮かべながら私の腕を抱き、香織たちの方

を見ないようにしている。

「まぁ、私は別に良いけど?でもシアちゃん。

 あなたに何ができるっていうの?

 少なくとも、経験はシアちゃんより有るし、

 ハジメくんのツボは心得てるよ?私」

「んっ。それは私も同じ。……ハジメを

 鳴かせる方法は、いっぱい知ってる」

何やら、ハジメにとって死ぬほど

恥ずかしい話に発展していた。

「う、うぅ!それでも負けないですぅ!

 頑張って、ハジメさんを鳴かせて、

 私にメロメロにするため頑張るですぅ!

 そ、そして出来れば今日の夜には

 処女を貰ってもらうですぅ!」」

どうやらシアはやる気のようだ。

そして、彼女の発言で周囲がシンとなる。

 

するとハジメが……。

「もう、殺して」

羞恥心で顔を真っ赤にし、床に膝と手を

付きながらそんな事を言っていた。

 

周囲が静まり返り、受付の少女は……。

「ま、まま、まさかの4P!?」と言って

驚き、顔を真っ赤にしてまともに対応できなく

なっていた。なので母親らしき女性が

少女を引っ張って行って、代わりに父親らしき

男性が対応した。

 

ちなみに、部屋は4人部屋1つと2人部屋1つだ。

 

……ハジメは明日の朝、大丈夫だろうか?

 

と思いつつ、私はハジメに精力剤と栄養ドリンク

を渡すべきだな、と考えていた。

 

その後、部屋で一休みをした後に私達は

揃って夕食にした。のだが、なぜかあの時

周囲に居た客がまだいて、ハジメは終始

俯き顔を赤くしていた。

 

更に男女別に風呂の時間を分けたつもりが、

私達二人の時間なのに、4人が突撃してきて

結局一緒に入るはめになった。

ちなみに、その時受付の少女が覗きに

来たのだが、母親の女性に連れていかれた。

去り際に尻叩き100回とか聞こえたな。

 

そして、それぞれの部屋に分かれる時。

「では、4人にはこれを」

と言って、私は中くらいの箱を渡した。

「ん?司、これって……」

と、首をかしげるハジメに私は耳打ちした。

「ハジメ用の薬とドリンク。あと、周囲に

結界を張るジェネレーターが入っています。

宿とはいえ、防音などが完璧とは

思えませんから。……それに、赤の他人に

痴態を見られる訳にはいかないでしょう?」

「あぁ、うん。そうだね」

と、遠い目で頷くハジメ。

 

そして私は……。

「では……。グッドラック」

そう言って、サムズアップをした。

「あ、アハハ……。ぐ、グッドラック」

ハジメは、どこか諦めたような表情で

そう言うと、香織、ユエ、シアと共に

4人部屋に入っていった。

 

そして、私達も二人だけの部屋に入り……。

互いに肌を重ねあったのだった。

 

 

ちなみに翌日の朝。廊下で合流したとき、

ハジメはどこかやつれており、逆に

香織、ユエ、シアの三人は肌が艶々に

なっていた。

そう言えば、樹海に居た時は周囲にハウリア

の皆が居たのでやる機会など無かったな。

……いろいろ溜まっていたのだろう。

 

とか思いながら、とりあえず朝食をとる

為に私達6人は食堂に降りたが、

またそこであの少女が『やっぱり4P

したんだっ!』って叫んで母親に

思いっきり殴られる一幕があったのだった。

 

     第22話 END

 




次回は後編です。お楽しみに。

感想や評価、お待ちしています。

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