ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回はブルックの町の話ですが、後半はかなりオリジナルな
物になっています。


第23話 町と電脳

~~~前回のあらすじ~~~

ハルツィナ樹海を後にした司たち一行は、

バジリスクを走らせてオルクスを出た後、

行くつもりだった街を目指すのだった。

そして町、『ブルック』にたどり着いた

一行はそこで冒険者登録をした後、宿を

取り、一夜を過ごすのだった。

 

 

ブルックの町に着いた翌朝。朝食後。

今、私達は食堂で話をしていた。

幸い、傍に他の客はいない。

「それでは、今日の予定ですが、素材の

 換金、という目的は達成しました。

 が、入り口で食料の調達が目的だ、と

 言ってしまっているので、念のため

 食料の調達をしましょう。あと、

 シアの服も必要ですね」

「そうだね。……ところで司。あっちの

 方は大丈夫?教会関係の方は」

頷きつつも、小声で話すハジメ。

 

「その件に関してですが、実は今朝、この

 町の教会の前を少し歩いてみました。

 何人かの教会関係者の前で会釈したので、

 向こうが私の事を知っていればある程度

 動揺なり敵意なりを見せたでしょうが……」

「が?どうだったの?」

と、先を促す香織。

「はい。敵意や悪意などの類は感じ取れません

 でした。……率直に私の意見を言うのなら、

 指名手配はされていないのかもしれません」

「それって、町に入ってもセーフ、って

事ですか?」

と首をかしげるシア。

 

「えぇ。ただ、油断はできません。どこの誰に

まで私達の情報が流れているかは

分かりません。例えば、情報を知る者の

上限が、教会の司祭のみで、それより下

には情報が流れていないだけの可能性も

あります。なので、私はもう少し、一人で

教会の方を探ってみます。香織たちは、

念のため周囲を警戒しつつ、動くように」

「「「「「了解っ(ですっ)」」」」」

 

という事で、私はハジメや香織たちと

別れた。

5人はまとまって行動し、買い出しへ。

私は彼らと別れ、一人歩く。

念のため、周囲にレーダーを張り巡らせるが、

敵意やこちらを探るような視線は感じられない。

が、分からない。

念のため、私は人気のない路地裏に入ると、

誰もいない事を確認し、ジョーカーを

纏うと光学迷彩を展開。更に念のため、

体を隠すステルスローブを纏った。

そこから跳躍し、家屋の上に着地。

少し離れた所に見える教会を確認すると、私

は家屋の屋根伝いに教会へと目指す。

 

そして、あと少しと言う所で教会の

開かれている窓を見つけた。念のため

レーダーを使い調べるが、窓の周辺に

人影は無い。

 

行けるか。

そう思い、私は加速したまま屋根から

跳躍し、その窓の中に飛び込んだ。

しかし、勢いに反してその着地の際はとても

柔らかい物だった。

重力制御装置で瞬間的に自重を操作したのだ。

そして、着地をした衝撃で僅かにローブが

揺らめき、同時に表面の光学迷彩にも若干

のノイズが入る。

だが、それだけだ。問題は無い。私は膝立ちの

態勢で周囲を見回した後、立ち上がると

すぐさま動き出した。

念のため、サプレッサー装備・電撃弾装填の、

ノルンを召喚してホルスターに収めておく。

 

そして、私は行動を開始した。目指すべきは、

司祭の執務室か、寝室。

私は、光学迷彩で姿を隠しながら、その二つ

を探した。

 

おそらく、この世界の連絡に使われる手段は、

二種類。魔法などを元にした、ファンタジー

世界なりの、通信技術。或いは、中世の

頃と同じ、手紙などにより文章のやり取り。

神山から王国へ降りる際に乗った、魔力式の

エレベーターの前例を考えれば、前者の

存在もあり得る。そうなると、書類の類は

無いかもしれない。しかし、紙媒体が無いの

なら、魔法式の通信に使う装置か何かが

あるはずだ。それを探す。

 

やがて、私は司祭の部屋を見つけた。周囲を

警戒しながら、中に踏み込む。

ノルンを構えながら素早くクリアリングを

し、扉を閉める。

レーダーに、生命体の反応は無かったが、

相手側にレーダーを欺ける力が無い、とは

言い切れないが故だ。

 

私はフードを外す。すると、それが切り替え

スイッチとなり、光学迷彩が解ける。

部屋の中を見回すが、通信装置の類は

発見できなかった。ここには無いのか、

或いは別の部屋か。

そう考えつつ、私は引き出しなどの中を

探った。

そして、見つけた。手紙だ。

ある引き出しの中に、手紙が大量に入っていた。

 

中身を素早く精査し、内容を確認するが、

どれも司祭とその知人のやり取りのようだ。

聖教教会の総本山、神山から送られてきた

物は一つとして無い。

もしかしたら、人相書きのような物を

送られてきているのでは?と思って探したが

それらしき書類も発見できなかった。

 

……こうなってくると、私達は指名手配を

受けていない可能性も出てきたが……。

やむを得ない。今日は一旦退こう。

 

私は再びローブとジョーカーの光学迷彩を

起動すると、部屋の窓から外へと出て、

人気のない場所でジョーカーの装着を解除。

何食わぬ顔で大通りに出た。

 

時間的には、ハジメ達も宿に戻っている頃

だろう。

 

そう思って、道を歩いていたが、何やら色々

騒がしかった。

 

なぜか股間を抑えて悶えている数十人の男たち。

恍惚とした表情で『ユエお姉さま』と呟いている

少女たち。

血(涙)の海に沈んでいる男たち。

 

何気にこの町はいろいろカオスだな~、程度

に思いつつ、私は街を歩いていた。

その時、ふとポニーテールの少女が私の

傍を通り過ぎて行った。

 

それを見た時、脳裏に雫の顔が浮かんだ。

……雫は、大丈夫だろうか?

そう思っていた。

 

私は、戦争への参加、或いは人を殺す事を、

究極的に言って、個人の選択だと言ってきた。

選ぶのは全て自分だ、と。

だから、例え戦いの中でクラスメイトが

命を落としたとしても、それは彼らの

選択の『結果』でしかない。私としては、

『そうか』と納得する以上の感情は持たない

だろう。

しかし、雫は違う。彼女は、あのバカ勇者や

脳筋よりは現実を理解している。それに、

彼女は優しい。向こうが私をどう思っているか

は知らないが、香織とハジメを除けば、

クラスの中で一番好感を持てるのは彼女だけ

だった。

 

だから、だろうか。彼女の事が内心心配

だった。あのバカと脳筋、それに檜山達が

何かをしでかして、雫の負担になって

居なければ良いが……。

と、私は考えてしまう。

 

彼女には特別製のジョーカーを与えている。

少し前に、搭載AIから護衛として

ガーディアンの派遣要請があったので、

送っておいた。

……そういえば、AIからの報告によると

雫は苦労しているそうだな。

あのバカ共が好き放題やっていて、雫は

常々、オリジナル、つまり私本人に帰って

来て欲しいと、AIに愚痴を……。

 

「あっ」

 

そして、その時になって私はある事を

思い出した。

 

そうだ。AIだ。AIはずっと雫の傍にいた。

ならば神山側の動向もある程度知っているはず。

……私とした事が。AIからの報告は聞く

一方ですっかり忘れていた。

とにかく、忘れていたのは仕方ない。

 

AIに通信をつなぐか。

 

 

そして、私はAIに通信をつなぎ、王国と

教会、神山の動きを教えてもらいながら

宿へと戻った。午後には町を出る予定

だったので、チェックアウト後、昼食を

しながらいろいろあった事を互いに報告

した。

 

まずは私の調べた結果だ。

「さて、指名手配の一件ですが、どうやら

 大丈夫なようでした」

「え?ほんとに?」

と首をかしげるハジメ。

「はい。私は王国を去る前、王国に残った

 友人にジョーカーを渡していました」

「あ、雫ちゃんの事だね」

ポンと手を叩き頷く香織。

「えぇ。そして、彼女のジョーカーには、

 それをサポートするAIを組み込んで

 おいたのです。そのAIから、向こうの

 事の顛末を聞く事が出来ました。

 どうやら、愛子先生が頑張ってくれた

 ようです」

と言うと……。

「あのあの。ハジメさん香織さん、今の話に

 出てきた、シズクさんとかアイコ先生って

 一体どなたなんです?」

「雫ちゃんは、私の幼馴染なの。私達は

こうして旅をしてるけど、王国には私達の

クライメイト、友人が残ってて。雫ちゃんは 

その一人で、尚且つ司くんからジョーカーを

貰ってるの」

「愛子先生は、転移の時僕たちと一緒にこっちへ

 来た年長者の女性の事だよ。作農師、っていう

 天職持ちでね。確か豊穣の女神、なんて

 呼ばれてたよ」

と、雫と愛子先生の事を話す二人。

「愛子先生は、最初から戦争に反対していました。

 そして、どうやらあの裁判の際の教会側の、

 一方的な死刑宣告が納得できなかったようで、

 かなりイシュタルらに食って掛かったよう

 です。加えて、メルド団長たちが私達の

 強さを称える形で、私達を敵に回すのは

 危険だ、と進言したようです」

「成程。まぁ司を敵に回したらヤバイ、

 ってのはあの中じゃメルドさんが一番

 よく分かってるか。実際、司はベヒモス

 スレイヤー、なんて言われてたし」

「えぇ。そんな二人の発言が功を奏し、

 私達は指名手配、という状況を免れた

 ようです。これで、当面は問題なく町に

 出入り出来るようです」

と、言っていた時。

 

「あっ。そういえば戻ってくるとき、大量の

 股間を抑えた男性や血涙を流している

 男たちを見ましたが、皆は何か知って

 いますか?」

と、聞くと、ユエやルフェアからいろいろと

情報が伝わってきた。

 

ユエ曰く、シアと2人で服を買いに行った

帰り、彼女たちと付き合いたい(or奴隷にしたい)

男たちが現れ、告白を拒否されると実力行使

に出る男が出たらしい。しかし最初の男は、

ユエにカチンコチンに凍らされ動けなくなった

所を、股間に集中攻撃を受け、男を

止めたらしい。

 

一方血涙の方は、ハジメ、香織、ルフェアの3人

が街中を散策していたのだが、殆どハジメと

香織のデートとなり、ルフェアは二人から

若干離れて付いて行ったのだが、二人の甘々

デートを目撃した男たちが、嫉妬から血涙を

流したのだとか。

 

成程。そういう経緯だったのか。

と、私は納得しながらお茶を飲んだ。

 

その時。

「ねぇ、今雫ちゃんには司くんが作った

 AIの司くんが付いてるんだよね?

 その、どう?雫ちゃんの様子は?」

と、香織が私に聞いてきた。まぁ、二人は

幼馴染の関係だ。おそらく雫の事が心配

なのだろう。

 

「雫の様子、ですが。まぁ、その何と言うか。

 彼女自身は健康で順調にオルクスの大迷宮を

 攻略しながらレベルを上げ、ジョーカーの

 扱いも慣れてきたようなのですが……」

「ですが?どうしたの?」

「……彼女の周囲に問題があるようです」

「周囲?」

と、首をかしげるハジメ。

「えぇ。何といいますか。私がいた頃は私が

 結果的に暴走しがちなメンバーを抑止する

 抑止力だったようですが、私が居ない今、

 脳筋の坂上や勇者、それにあの檜山たちが

 いろいろ好き放題やっているようで……。

 雫は常々、AIの私に、オリジナルである

 私に帰って来て欲しい、と愚痴っている

 そうです」

 

 

その言葉を聞いたハジメは、暴走して雫を

困らせる坂上や光輝たちの姿を、容易に

想像し、苦笑いを浮かべた。

 

 

「八重樫さん、心労で胃に穴が開かないと

 良いけど……」

「雫ちゃん。頑張ってるんだね」

苦笑を浮かべるハジメと、目元の涙を

指先で払う香織。

と、話をしていると……。

 

「あのぉ。皆さんがさっきから話してる

 人たちって一体」

「ん。気になる」

と、若干チンプンカンプンな二人が

会話に混じろうと質問してきた。

 

「ふむ。そうですね。一言で言うと……。

 勇者、天之河光輝は、現実を見ない夢想家

 ですね」

「え?それって勇者としてアウトなんじゃ……」

え~~?っと言いたげなシア。

「坂上龍太郎の方は、脳筋ですね。つまり

 考えなしです。戦争への参加理由が、

 親友の手助け、ですから」

「……。その人、大丈夫?」

更にユエも、憐れむような眼をしだした。

 

「まぁ、つまり雫は苦労人なのです」

「「成程」」

そして私が一言いえば、二人はうんうん、と

頷いた。

 

「ねぇ、司くん。もしできれば、何だけど。

 雫ちゃんに会いに行くのって、ダメかな?

 何だか話を聞いてると、雫ちゃん相当

 疲れてるみたいだし、癒してあげたいな~、

 なんて思うんだけど……」

「ふむ。……今は、ライセンの大迷宮攻略を

 優先したいので、今すぐに、というのは

 無理ですが、構いませんか?」

「うん。ごめんね、急な事言って」

「いえ。大丈夫です。その辺りは、皆で

 話し合って決めましょう。皆も

 構いませんか?」

と、私が聞けば、皆がうなずいた。

 

そして、更に少し雑談を交えつつ色々話を

した私達は、店を出て歩き出した。

私達は、そのままブルックの町を出る。

そのままある程度歩けば、すでにブルックの

町は見えない。……ここまでくれば良い

だろう。

先頭を歩いていた私が足を止めて振り返れば、

他の5人も足を止める。

「さて、ここまで来れば問題だろう。 

 ……我々、G・フリートはこれより

 ライセン大峡谷へと戻り、そこにあると

 されている迷宮を発見。内部に突入し、

 神代魔法を手に入れる。……シア、

 君にとっては初めての迷宮攻略になる。

 迷宮においては、樹海や峡谷で遭遇した

 ハイベリアなどが雑魚と思えるレベルの

 魔物が出現する可能性がある。

 決して、迷宮の中では気を抜かないように」

「はいっ!皆さんの足を引っ張らないように

 頑張ります!」

 

「よし。では……」

私が宝物庫の中からバジリスクを取り出すと、

皆がそれに乗り込む。

私は運転席に座り、エンジンを始動する。

後ろと左の助手席を見れば、皆が私を見て

頷く。

私も彼らに頷き返し、前方を見据える。

 

「これより、ライセン大峡谷の迷宮攻略に

 向かう。出発」

「「「「「了解っ」」」」」

 

そして、私達は次なる迷宮を攻略するために、

ライセン大峡谷へと向かうのだった。

 

 

 

一方。その頃、先ほど話題に上がった雫はと

言うと……。

 

ある日の夜。ホルアド。

 

「うぅ~~。もうやだ~~。お家帰りたい~!

 戦いたくない~!ゆっくりしたい~~!」

いつもの凛とした姿が嘘のように、雫がバーの

カウンターに突っ伏すような体勢で愚痴っていた。

「今日も荒れてるな雫」

そして、そんな彼女の前に立つのは、

バーテンの恰好をした司だ。ただし、

『オリジナル』の彼と比較して、その髪色

は青かった。

「ほら」

そして、彼が雫の前にグラスを置いた。

 

中身はカクテル、カシス・オレンジという度数

の低い物だ。

とはいえ、お酒はお酒。それを未成年の雫が

飲むのは、元の世界で考えれば御法度だ。

最も、『現実世界で』の話だが。

 

「ありがとう司」

そう言うと、雫はグラスの中身を飲む。

「あっ。結構フルーティで美味しい。

 あ~~でも、『こっち』でお酒の味知ったら、

 リアルでも飲みたくなっちゃうよ~~」

「ははっ、その時は俺がリアルで作ってやるよ。

まぁ、みんなには内緒だぞ?」

そう言って笑みを浮かべる司。

 

そう、ここは、現実世界では無い。

 

ここは、いわば電脳空間、VR空間、もっと

言えば明晰夢、のような場所だ。

 

「にしても、ほんと凄いわね~ここ。

 まるでリアルみたいにお酒の味がするし、

 物だって食べられるし」

そう言いながら、雫はクッキーを食べつつ、

カシオレを飲み干す。

「ジョーカー内部の超小型量子コンピューター

 を使えば、人一人くらい、現実と見まがう

 電脳空間に送る事自体、造作も無い事さ。

 それに、人の感覚は全て電気信号でやり取り

 をしている。それを模倣すれば、これくらい

 訳など無いさ」

と言うと、この空間の主、AIの司は

雫の前にカシオレのお替りを置く。

 

「それに、ある物、出来る事は有効活用

 しないとな。……しかし、お前の幼馴染は

 何なんだ?もうちょっと理解力と言うか、

 気配りが出来んのかあいつらは」

「その願いは、向こうの世界に居た時から

 とっくに諦めてるわ」

「成程。……どうやらこっちに来る前から、

 色々苦労していたようだな、雫は」

「えぇ。それがこっちに来てもっと

 ひどくなって。……ハァ。頭痛い」

そう言いながら、雫はカシオレを飲む。

「ハァ。……お酒におぼれる訳じゃないけど、

 飲んで酔わないとやってられないわ」

「……現実で色々苦労してるんだ。ここで

 お前の行動に文句を言うやつはいない。

 好きに飲んで愚痴って、すっきりすると

 良い。ここは、そのための空間なんだからな」

そう言って、AIの司は笑みを浮かべた。

 

すると……。

「あのさ」

「ん?どうした?」

「前々から思ってたんだけど、AIの司って

 本物の司君と、結構雰囲気違うよね。

 戦闘の時とかは、クールって言うか冷静

 って言うか。そういう所はほんと同じ

 なのに、ここに居る時は良く笑ったり

 するって言うか……」

「あぁ。その事か。……確かに俺の思考

 ルーチン、まぁ考え方の元になったのは

 オリジナルの俺だが、それはあくまでも

 ベースの話だ。その上に取り付けられた

 オプション、つぅか設定っつぅか。

 なんて説明したら良いか分からんが、

 まぁ要はオリジナルと若干考え方が

 違うって事だ」

「違う、って、どういう事?」

「ん~~?そうだな~。まぁ一言で言えば、

 俺の存在意義は雫のフォロー、バックアップ、

 サポートな訳だが、それに差し当たって、 

 性格の設定をより活発な物にしてあるのさ。

 だから一人称が俺で、オリジナルより所々

 違うのさ。……っと」

AIの司は、雫がカシオレを飲み終えている事に

気づいて、次の酒を造った。

 

「カシスグレープフルーツだ」

新しい酒のグラスを雫の前に置く司。

「あぁ、ありがとう。……ねぇ、あんたはさ、

 自分が作られた存在な訳だけど、私の

 サポートしている事に、不満とかは無いの?

 結果的に、オリジナルの司君に命令

 されてる訳だし」

「不満、か~。別に無いな」

「どうして?自分でやりたい事とか無いの?」

「無い、と言えば無いな。俺は自分の存在

 意義があるし、確かに命令を受けて雫を

 サポートしている。けどそこに不平不満は

 一切無いのが現状だ。それに、俺には

 お前以上に優先したい欲望なんて無いのさ」

「え!?」

 

ボッと、音がしそうな程一瞬で顔を赤くする雫。

「俺は別に、お前とこうして話をしたりする

 時間に不満があるわけでも無いし、別に

 雫から離れてまでやりたい事なんて無い。

 だから別に、不満なんて無いんだよ」

「そ、そう!そうなんだ!へ、へ~~!」

顔を真っ赤にしながら酒を飲む雫。

 

そして雫は、今の言葉の意味を、『雫と共に

居る以外、やる事が無いから』という解釈で

落ち着かせようとしていた。

『そそそ、そうよ!きっとそう!そりゃぁ、

 AIの司君はすごい頼りになるし優しいし、

 厳しいけど、でも優しいし!で、でも相手は

 機械なのよ!ここで仮に恋したって、

 実らない恋だし……。ってぇ!?私ってば

 何を考えて~~~!』

内心、そんな事を考えているが、その考えは、

実はAIの司に筒抜けだった。

 

 

しかし、そこは聞かぬふりをしているAI司。

そして彼も考えていた。

『実らない恋、か。まぁおそらく、オリジナルの

 俺に頼めば、俺の肉体を作ってそこに俺を

 ダウンロードして、俺と言う存在に

 受肉する事なんて容易いんだろうが……。

 まぁ、そんな未来が来るかどうかは、今後

 次第って事だな』

 

そう考えながら、AIの司は雫の愚痴に

付き合い、彼女の確かな支えとなりつつあるの

だった。

 

     第23話 END

 




雫の相手にAIの司が有力候補となりつつあります。
そして更に、今後AIの司が実体化する可能性もあります。
次回からは、ミレディの迷宮の話です。

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