ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回から、ライセン大迷宮攻略が始まります。


第24話 二つ目の大迷宮 

~~~前回のあらすじ~~~

ブルックの町に訪れていたハジメや司たち。

そしてマサカの宿で一泊した翌朝。司は、自分達

が指名手配をされていないかを調査するために

町の教会を調べるが、指名手配に関する情報は

得られなかった。その帰り道で、王国に居る

雫を補佐しているAIの自分の存在を

思い出した司は、連絡を取り、愛子やメルドの

活躍で自分達が指名手配を免れていた事を

知る。そして、その日の昼には町を出て、

彼ら6人はライセン大峡谷に向かった。

一方、今もオルクスで訓練をしている雫は、

電脳空間でAIの司に愚痴ったりしながらも

戦い続けていた。そんな中で、彼女はより

司と言う存在を強く意識始めていた。

 

 

その日のライセン大峡谷は、騒がしかった。

爆音と雷鳴が鳴り響き、その度に無数の

魔物が駆逐されていく。

『ドドドドドドドッ!』

司のジョーカーZが持つタナトスが横薙ぎに

炸裂弾を撃ち、的確に魔物の頭だけを

吹き飛ばしていく。

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!」

『ガガガガガガガガガッ!』

司のすぐそばでは、ハジメのジョーカー0が

新武装で戦っていた。

それは、司が以前開発した、MASに

加えられた装備だ。

見た目は、ピストルグリップの持ち手がついて

チェーンソーの上にガトリングガンが

付いている、という感じだ。

(※ 元ネタは仮面ライダーアマゾンズの

  アマゾンネオアルファの武装)

 

この装備の名は、『グリムリーパー』。

つまり『死神』だ。

近づいてきた敵はチェーンソーで挽肉に。

逃げようと背中を見せてもガトリングで

蜂の巣。という、遠近両方に対応した武装だ。

そのグリムリーパーを両手に装備したハジメ。

ガトリングが火を噴いて、魔物を蜂の巣に

している。

と、その時ハジメの背後から魔物が迫った。

だが……。

 

「そこっ!」

『ドウッ!』

後方にいた、香織のアルテミスの一撃がその

魔物の頭を吹き飛ばした。

アルテミスを構えている香織が纏っている

ジョーカーは、スカウトモデル。少し前に

司が完成させた、遠距離支援などを目的

にしたモデルだ。

そんな香織へと向かってくる魔物の群れ。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉっ!」

だが、それを阻むようにルフェアの両手

に握られた2丁のバアルから繰り出される

銃弾の雨が降り注ぎ、撃ち殺していく。

 

 

ハジメ達の様子を見ながら、私はタナトスで

魔物を撃ち殺していた。

そして、そのまま視線を動かすと……。

 

「うりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」

シアのジョーカー、青い体に白いラインの

入ったタイプSCが跳躍。かと思うと、

背面のブースターを点火し、魔物へと

向かって行く。

「喰らえぇぇぇ!ですぅっ!

 ラ〇ダーキック!ですぅぅぅっ!」

右足を前に突き出し、シアのジョーカーが

魔物の群れに突進していく。

シアの要望で取り入れた、ピンポイント

のシールド発生装置が作動し、右足を覆う。

そして、シアのキックを喰らった魔物の群れは

ボーリングのピンよろしくなぎ倒された。

 

一方ユエはと言うと……。

「喰らえ……!リ〇ルサーレイ……!」

赤いカラーに、金のラインが走る、

ユエ専用のジョーカー・ウィザード、

タイプUの両掌から放たれた、魔力を変換

したビームが魔物を薙ぎ払う。

 

ちなみにこのカラーを見た時、ハジメから……。

「やっぱアイ〇ンマンじゃん」

と言われてしまった。

 

この大峡谷は、魔力を分解する厄介な

場所だ。しかし、魔力を変換して生み出した

エネルギーは別だ。それは既に魔力

ではないからだ。

 

ちなみに、そんな二人を見てハジメが……。

「だから何で二人とも色々ネタ知ってるの!?」

と、ツッコミながらグリムリーパーの

ガトリングで魔物をミンチにしていた。

 

そして戦闘終了後。

「……これで全部か。……各自、現状報告」

「あっ。僕は問題なし」

「んっ、私も」

「私も大丈夫だよ司くん」

「ばっちし!絶好調ですぅっ!」

「私も大丈夫だよお兄ちゃん」

三者三様の返事だが、皆問題ないようだ。

 

「周囲の掃討完了。再び移動を開始します」

「「「「「了解(ですっ)」」」」」

私達は、近くに停車していたバジリスクに

乗り込み、再び移動を開始した。

 

 

既に、大峡谷に突入してから3日。

私達はバジリスクを低速で走らせながら

大峡谷の内部を進んでいた。

そして、三日目の今日もすでに日暮れ時だ。

私達はバジリスクを停車させ、野営の

準備を始めた。

 

半径13メートルほどの円形ドームを形成

する設置型ジェネレーターを設置して、

安全圏を確保。加えて、光学迷彩による

偽装と念のためセントリーガンをセット。

そして夕方。私はシアと一緒に夕食の

準備をしていた。

 

「ハァ。今日もダメだったね~」

そう言いつつ、ハジメはノルンを取り出し、

それのクリーニングをしている。

ちなみに、今ではハジメ、香織、ルフェアの

3人は生身でも使えるノルンを携帯している。

この世界には、銃と言う概念が無いので、

大体がヒップホルスターやレッグホルスター

で、人目に付く装備の仕方をしても、

それが何なのか、大体の人間は分からないのだ。

加えて、3人は腰元背面に私の細胞から

培養して作り出したナイフ、『オシリス』を

装備している。

これは、以前メルド団長たちにプレゼントした

マルスのナイフ版、と言った方が良いだろう。

 

「まぁしょうがないよハジメくん。

 この大峡谷に大迷宮がある、って事しか

 知らないんだし」

そう言いつつ、香織もノルンの手入れをしている。

「んっ。今は地道に探すしかない」

ユエは香織の言葉に頷きながら、ハジメが

ノルンを手入れしている姿に見とれていた。

「とはいえ、もう今日で3日だからねぇ。

 これで、峡谷の外れ行っちゃったら

 どうするんだろう?お兄ちゃん」

と、ルフェアもまた、ノルンの手入れを

しながら呟く。

「そりゃ、まぁ一旦引き返してもう一度

 探しなおすか、そのまま西に向かって

 『グリューエン大砂漠』の先の、

 『グリューエン大火山』、かな?」

「えっと、確か今分かってるのって、

 オルクス、ハルツィナ、ライセン、

 グリューエン、あとは確か、魔人族の

 いる大陸南側のシュネー雪原、だっけ?」

「うん。今分かってるのはね。とはいえ、

 シュネー平原は魔人族の領土に近いから、

 色々大変だと思うけど」

 

 

と、4人が話をしていると……。

「皆さ~ん!お食事の用意が出来ましたよ~!」

と言って、シアが料理を乗せたお盆を手に

やってきて、ハジメ達の前のテーブルの上に

料理を並べていく。

「さぁさぁ、銃なんてしまって食事に

 しましょう!早く食べないと冷めちゃい

 ますよ」

「うん。そうだね」

と、シアの言葉にハジメがうなずき、3人は

一旦ノルンを片付ける。

そして更に、司も残りの料理の皿を持ってきて

机の上に並べた。

 

 

シアを旅の仲間にして数日。これまでは

私がチームの調理担当だったが、少し前から

シアも調理を担当するようになった。

どうやら、チームの女性陣の中では、シアが

一番料理上手なようだ。

私としても手があってくれるのはありがたい

ので、最近は二人で分担して料理を作っていた。

 

「「「「「「いただきます」」」」」」

そして、皆で手を合わせ、私達は食事を

した。

 

ちなみに、先ほどのハジメ達の声は私達にも

聞こえていたので、改めて今後の予定を

説明した。

 

まずはライセン大峡谷を調査しつつ、西に

向かう事。ここを出るまでに大峡谷の迷宮を

発見できなかった場合は、そのままグリューエン

大火山の迷宮を目指すこと。そのあと、大峡谷

に戻ってくるが今後の予定である事を、

食事をしながら5人に話した。

皆はそれに賛成してくれたので、特に想定外の

事が起こらない限りは、これが当面の予定だ。

 

そして、食事を終えた私達は少しばかり

雑談をした後、テントを作り出し就寝する

事に。

そんな時。

 

「あっ、私ちょっと……」

と言って、シアがシールドの外に出た。

シールドには、敵味方識別装置、IFFの

機能が入れてあり、今は全員がジョーカー

身に着けている事から、それを利用して

シールドを透過できるように設計してあるのだ。

 

しかし、女性がそう言って出ていく、という

事はおそらくトイレだろう。そういえば、

今は作ってなかったな。言ってくれれば

創ったのだが……。

などと思いつつ、皆がテントの中にしいた

布団に入るのを見ていた時。

 

「み、みなさ~~ん!ちょっと来て下さ~い!」

不意にシアの叫びが聞こえ、私はすぐさま

ノルンを取り出し、外へと出た。

ハジメ達も、眠ろうとしていたが飛び起きて

それぞれのノルンを構え、私に少し遅れて

シールドの外へと飛び出し、シアの声の

した方へとかけて出した。

 

シアの声がしたところへ行くと、壁面に

もたれ掛る一枚岩。シアがその二つの隙間

の間で手をブンブンと振っていた。

「シア……!どうしましたか……!?」

私はノルンを構えながら周囲を警戒する。

「司さん司さん!私、見つけちゃいました!

 迷宮の入り口ですぅっ!」

「……え?」

彼女の言葉に、私が疑問符を漏らした時、

ハジメ達も追いついてきた。

 

「こっち!こっちです!中にあるんです!

 大迷宮の入り口が!」

「わわっ!?ちょっ!?シアちゃん引っ張ら

 ないでってっ!?」

そう言って、シアはハジメの服の袖を

引っ張る。

私は、香織やルフェア達と顔を見合わせた後、

隙間に入っていく二人に続いた。

 

中は、壁際の岩が中の方へ窪んでいたため、

予想よりも広い空間だった。

「ほら、これですこれ!」

そして、中に入ると、何かを指さすシア。

 

そこにあったのは……。

 

≪おいでませ!ミレディ・ライセンの

ドキワク大迷宮へ♪≫

 

「「「「「………」」」」」

私を含め、シア以外の5人が黙り込んだ。

ハジメは、自分の目を疑っているのか、

目頭を指先で揉んでいる。

香織も、自分の頬を抓っている。どうやら

夢だと疑ってるようだ。

 

「……。皆、どう思う?」

そんな中、静かに問いかける私。

「……誰かの悪ふざけ、と思いたいけど、

 本物、かもしれないしなぁ」

「……根拠は、やはり?」

かもしれない、というハジメの言葉に私も

問いかける。

 

そう、私達はミレディ・ライセンと言う名前を

知っている。それは、オスカーの手記にも

出て来たファーストネームだ。

「現代のトータス人は、反逆者について

 殆ど知りません。当然、ミレディなど

 というファーストネームも、です。

 そう簡単に出来る悪戯、では無い

 のでしょうが……」

「じゃあ、やっぱりここがそうなの?

 お兄ちゃん」

「……そう考えるのが妥当だと私は

 考えます」

 

そして、そんな話をしていると……。

「でも、入り口らしい場所は見当たりませんね」

そう言って、奥へ踏み込もうとするシア。

しかし、私が彼女の肩を掴んでそれを止めた。

「え?司さん?」

「シア、さすがに今ここを調べるのは

 危険です。我々は今から休む所だった

 んですよ?見つかっただけでも収穫です。

 とにかく今日は休みましょう。大迷宮に

 入るのは、明日から、です」

「つ、司さんがそう言うのなら……」

と言って、後ろに下がるシア。

 

「皆も、それでいいですか?ここを調べ、

 迷宮に突入するのは、明日からです」

と言うと、ハジメ達は頷いた。

 

こうして、私達は明日の朝からここを調べ、

ライセン大峡谷の大迷宮へ潜る事になり、

一旦洞窟の外へと出た。

 

「そう言えば、シアはお花を摘みに行こうと

 していたのでは?」

「あっ」

 

そう言うと、シアは顔を赤くして私達から

離れて行った。

 

 

 

そして、私達はテントに戻り、就寝した。

 

 

数時間後。朝。

私達は、目覚めて朝食を取った後、

あの一枚岩の前に集まっていた。

 

「それでは、これより我々G・フリートは

 このライセン大峡谷の大迷宮へと突入する。

 オルクスの大迷宮では、多数の魔物が

 出現し、あまたの戦闘を繰り広げた。

 しかし、大迷宮が解放者の試練に挑戦

 する場所だとするのなら、同じような

 コンセプトや設定ではない可能性もある。

 なので、何が起こるかは、入ってみない

 事には分からない。なので、各自

 絶対に気を抜かないように」

「「「「「了解っ」」」」」

5人が、私の声に頷く。

 

「では……」

そして、私が左手首の、待機状態の

ジョーカーを眼前にかざすと、皆も同じ

ように構える。そして……。

 

『READY?』

「「「「「「アクティベート(!!)」」」」」」

『START UP』

 

私達全員が、ジョーカーを纏う。

私はタナトスを。

ハジメはトールを。

香織がアルテミスを。

ルフェアがバアルを2丁。

シアがハンドアックスモードのアータルを。

ユエは、両手をニギニギと動かし感触を

確かめている。

 

これで準備は完了だ。

 

「行きましょう」

 

タナトスを構える私を先頭に、私達は

中へと進んだ。

 

昨日来た通り、中は行き止まりだった。

「ん~?やっぱり行き止まりですねぇ」

そう言いながら、シアは右手でアータルを

持ちつつ、左手で壁を触っていた。

 

ちなみに、ハンドアックスモードはアータル

の携行用の形だ。大きさは、一般的な

手斧サイズだ。使わないときは、腰部背面の

ラックに固定する事も出来る。

もちろんこのままでも武器としては使えるが、

通常のアックスモードほどの力は無い。

 

そして、シアはアータルでコンコンと壁を

叩き始めた。

すると……。

『ガコンッ!』

「ふきゅ!?」

突如として壁が回転し、シアの姿が消えた。

「仕掛け扉!?」

驚き叫ぶハジメ。

「シアちゃん!」

更に香織も続いて叫ぶ。

 

すぐにレーダーを見るが、シアは壁の向こう側に

移動しただけのようだ。

しかし、そんな彼女のタイプSCのレーダーが

シア目掛けて飛来する物体を検知する。

その攻撃を検知したジョーカーが

自動防御プログラムでシールドを展開し、

これを防いだ。

 

私は壁を叩いて、もう一度壁を回転させた。

するとシアのタイプSCが現れ、その周囲には

矢がいくつか転がっていた。

「大丈夫シアちゃん!?」

すぐに声をかける香織。

「は、はい。いきなりでびっくりしましたけど、

 ジョーカーが護ってくれました」

戸惑いながらも頷くシア。

 

「今度は全員で行きますよ?皆、壁の

 前に」

「うん」

今度は、私達全員が壁の前に立ち、壁に

触れた。すると、再び音がして壁が回転。

回転した先は、真っ暗だった。そして、

矢継ぎ早に放たれる矢の雨。しかし……。

 

『カカカカカンッ!』

矢は、全て私の展開したシールドに阻まれ

地面に転がった。

 

「入って早々、矢の雨ですか」

「何て言うか、物理的に嫌らしい迷宮

 みたいだね、ここ」

私が足元の矢を見つめながら呟くと、

ハジメもそう呟いた。

 

そして、矢の掃射が終わると、周囲の壁が

ぼんやりと光を帯びた。どうやらここは

10メートル四方の部屋だったようだ。

中央に整備された道があり、奥へと

続いている。そして中央には石板があり、

そこに文字が浮かび上がったのだが……。

 

≪ビビった?ねぇ、ビビっちゃった?

チビってたりして、ニヤニヤ≫

≪もしかして怪我した?もしかして

 誰か死んじゃった?……ぶふっ≫

 

何と言うか、煽ってくる文章が浮かび上がった。

どうやら、その事に怒りを覚えているのか、

ハジメや香織、ルフェア達の肩がカタカタと

震えている。

まぁ良い。

「皆、行きますよ。まだまだ、攻略は

 始まったばかりです」

私の言葉に、皆気を引き締めた様子だ。

そして、私達は石板のわきを通り、奥へと

向かって歩き出した。

 

 

次に私達が出たのは、まるで絵画に描かれた

迷宮のようだ。

重力を無視したかのようなつくりの部屋は、

ハジメ曰く、『無規則に繋げられたレゴブロック』

のようだ、と言っていた。

 

こんな場所では、自分がどこをどう歩いたのか

忘れそうだったので、マーカーとなるメカニカル

な杭をあちこちに刺しながら、更にジョーカーの

カメラに地形データを採取し、それを私の脳内で

各種データと組み合わせてマッピングを

行っていった。

 

そして、進んでいた時。

「ッ」

『バッ!』

『それ』に気づいた私は、咄嗟に左手を掲げ、

それをグッと閉じた。

これは『止まれ』のハンドサインだ。

そのサインの意味を知っていた5人が

止まり、武装を構えて周囲を警戒する。

 

「司?どうしたの?」

「……物理的なトラップです」

私は慎重にタナトスを床に置き、トラップの

作動スイッチになっている床の一部を注視

した後、指を鳴らした。

 

エコーロケーションのデータを活用し、

罠がある場所を見つけていく。

私は、すぐさまデータリンクを通して

確認した罠の場所を全員に伝える。

「今示した場所は、絶対に踏まないように。

 罠のスイッチの可能性が高いので」

私の言葉に、5人が頷く。

そして、私はタナトスを構え、僅かに腰を

落とした姿勢のまま、ゆっくりと歩き出した。

 

そのまま、私達はゆっくりと進んだ。

 

十字路に差し掛かれば、私とハジメで左右の

道を警戒。その間に香織、ユエ、シアが

通り過ぎ、最後尾のルフェアが私とハジメの

肩を叩く。それを合図に、私達は移動する。

 

その動きは、まさしく軍隊のそれだ。

ハジメと香織、ルフェアにとってこの動きは

散々オルクスの大迷宮で使ってきた動きだ。

彼女たちも、もう動きのキレは本物の軍人と

大差無い。全く、頼もしい物だ。

 

そう考えながらも、周囲への警戒をしながら

私達は進んだ。

 

事前に罠の存在を確かめて進んだため、

トラップに引っかかる事無く、私達は

その迷路のような空間から出た。

 

そこから三方に伸びる道が続いていた。

念のため、この地点にもマーカーを刺した

あと、一番左の通路に進んだ。

左の通路は、下方向へと続く階段だった。

慎重に前後を警戒しながら進む私達。

その時。

「うぅ~。なんだか嫌な予感がしますぅ。

 こう、私のウサミミにビンビンと来るん

 ですよぉ」

突然そんな事を言い出すシア。

するとハジメが……。

「し、シアちゃん?そう言うのは、フラグって

 言ってね。禁句『ガコンッ!』ほら

やっぱりぃ!」

ハジメが喋っていると、不意に何かの仕掛けが

作動するような音が響いた。

 

一拍の間を置き、階段の段が無くなり、坂となる。

一瞬の浮遊感。しかし、問題無い。

 

エネルギーフィールド、形成。

 

私は、咄嗟にその場に、エネルギーフィールドを

元にした足場を形成した。

そこに着地する私達6人。

「お、おぉ。私達、空中に立ってるですぅ」

「ふぅ。ありがとう司くん。助かったよ」

驚くシアと息をつく香織。

「流石お兄ちゃん。ナイスだね」

「いえ。それほどでも。……しかし」

ルフェアの言葉に謙遜しつつ私は、前後に

目を配る。

 

「このまま降りてみるべきか、一度戻る

 べきか」

「なら、進んでみない?司の力があれば

 戻るのも楽だしさ」

「ん。私もハジメに賛成」

と、私の言葉に提案するハジメと彼に賛成

するユエ。他の皆にも聞いて、OKだったので

私達は、私の創ったエネルギーの階段を降り、

下方へと向かった。

 

そして、たどり着いたそこは、崖。

先ほど確認していたが、変形し坂になった

床は、まるで油かローションのような液体を

流し始めていた。

そして私は崖の下に目を向けたが……。

これは……。

「……随分と、意地の悪い滑り台ですね」

「司?どうかした?」

私が呟くと、ハジメ達も私の視線を追うが、

直後にハジメが、うげっと呻くのが

聞こえた。

 

崖の下でうごめく、無数のサソリの群れ。

その光景の嫌悪感からか、5人ともブルリと

体を震わせている。

もし、何らかの方法で落下を阻止出来なければ、

サソリの海にダイブ、ですか。

本当に意地の悪い物だ。

 

と、考えていた時。

「あっ。お兄ちゃん!あそこ!」

サソリから目を背け、周囲を観察していた

ルフェアが何かを見つけ指さした。

私達は、彼女の指さす方に目を向けたが……。

 

≪彼等に致死性の毒はありません≫

≪でも麻痺はします≫

≪存分に可愛いこの子達との添い寝を堪能

 してください。プギャー!≫

 

「「「「「……」」」」」

相変わらずのあおり文句に、ハジメ達の

オーラが濃密になる。しかし……。

 

「あのクソ生意気な煽り文句がある、と言う

 事は、道はあっている、と言う事でしょう」

「え?どういうこと司」

首をかしげるハジメ。

「あくまでも推察ですが、この迷宮の

 コンセプトは、理不尽な状況に対しても

 屈しない意思なのでは?」

「どういうことです?」

更に首をかしげるシア。

「かつて解放者たちが戦ったエヒトは、

 彼等が守ろうとした人類を彼等の敵

 として差し向けた。その腐った性根

 と、世界を自分のゲームの盤上のように

 考えているクソエヒトならば、口にするのも

 憚られるような、クズで下劣な理不尽を

 私達に突き付けてくるかもしれません」

「ねぇ、司?怒ってる?ねぇ怒ってる?

 さっきからちょいちょい過激な発言が

 続いてるけど?」

何やら戸惑っているハジメの言葉。

しかし私はスルーする。

 

「つまり、この迷宮の攻略に必要なのは、

 どのような理不尽にも屈しない、強い

 意思ではないかと思います。そして、

 あの煽りのメッセージとは、その

 意思を試す物であると同時に、

 ルートが合っていると言う証拠だと

 思うのです」

そう言って、私は崖の反対側を指さす。

そこには……。

「あれって。……横穴?」

と呟くユエ。 

 

「恐らく、あそこが次へと続く入り口なの

 でしょう。……行きましょう」

私の言葉に、皆が頷く。私は足場を

伸ばし、崖と横穴を繋げる。

 

ちなみに、渡り終わった直後、私は巨大な

焼夷爆弾を取りだし、崖下に投げておいた。

爆音に次いで、爆炎が広がり、サソリたちを

燃やし尽くしていく。

「さぁ。行きましょう」

後ろで呆然としている5人の横を通り過ぎ

ながら私は歩く。

 

そして、呆然としつつも私についてくる

5人。そんな中で……。

 

「不安だ」

と、呟くハジメ。

「何が不安なの?ハジメくん」

それが気になって声を掛ける香織。

「大丈夫ですよハジメさん!今の私達は

 無敵ですぅ!な~んにも、怖い物なんて

 無いですよぉ!」

「んっ。……私達は最強」

と、フォローするシアとユエ。しかし……。

 

「いや、あのね。不安なのは、司が

 この迷宮にキレて世界を滅ぼさないかな~。

 と言う不安であって……」

と、ハジメが言うと……。

「「「あぁ、確かに」」」

3人は一転して納得したように頷いた。

 

 

その後、私達はある場所で昼食にしていた。

もちろん、場所が場所なので、ジョーカーを

纏いメットを取った状態でだ。一応周囲には

シールドを展開している。

ちなみに昼食はサンドイッチと、簡単な物だ。

 

「んぐんぐ。……それにしても、鎧を纏った

 ままの食事って何かシュールですねぇ」

と、食事をしながら呟くシア。

「まぁ、場所が場所だからね」

そんな彼女の言葉に頷くハジメ。

しかし……。

 

シアはサンドイッチを食べ終えると、スポーツ

ドリンクを飲んでいる私達を見回している。

「ん?シア、どうかしましたか?」

その視線に気づいた私は彼女に問いかけた。

「あ、いやぁその。改めてジョーカーの

 事を考えてたんですけど、私ってジョーカー

 の事色々知らないなぁって思って」

「そうですか。では、食後の休憩がてら、

 少し話しますが、聞きますか?」

「え?良いんですか?じゃあ聞きたいですぅ!」

 

と、言う事なので、私は改めてジョーカーの

事を話す事にした。

 

「まず、私が一番最初に創ったのは、ハジメの

 纏っている白と赤のプロトタイプジョーカー、

 或いはジョーカー0と呼ぶ物です」

「プロトタイプ?」

「試作品、って意味だよ」

首をかしげるシアに説明するハジメ。

 

「元々、僕は錬成師って言う非戦闘職で、

 周りから馬鹿にされてたのは話したよね?

 そんな僕を助けるために司が創ろうって

 言い出したのが、ジョーカーシリーズ

 なんだ」

「ジョーカーシリーズの製造目的は、

 言うまでも無く装着者の戦闘能力の向上です。

 ハジメが、錬成師としての天職を身につけて

 しまった以上、普通に考えれば錬成師として

 鍛えた所で、戦闘職のクラスメイト達との

 差は歴然です。そこで、ジョーカーを設計

 開発したのです。その1号機が、ハジメの

 ジョーカー0です」

「へ~~。じゃあハジメさんのジョーカーが

 一番最初のなんですね」

「うん。まぁ最も、今では僕の専用機

 みたいになっちゃったけど」

「ハジメ、みたい、ではなくジョーカー0

 は間違い無くあなたの専用機です。

 ジョーカーの全ては、個人を認証する装置が

 あるので、例えハジメのジョーカー0を

 仲間であるユエやシアが装着し起動しようと

 しても不可能ですから。ジョーカー0は、

 あなただけの力です」

「っと、そうだったね」

ハジメは、若干顔を赤くしながらそう呟いた。

 

「それから、香織のタイプQ。ここには

居ませんが、今も王国騎士団の元で鍛錬を

続けている、雫のタイプC。まぁあくまでも

便宜上ですが、この3機は、最初期に

生み出された、第1世代と呼べる物です」

「へ~~」

と、頷くシア。

「ねぇ司くん。どうして私達の分類が、

 便宜上なの?」

「確かに、今の3機と私のタイプZは初期に

 ロールアウトしましたが、今は他の

 機体と共にアップデートを繰り返している

ので、タイプZを除いた5機は、

世代の差が性能の差にならないんですよ」

「あぁ、成程」

と、納得する香織。

 

「一応、世代別に分けると……。

 ルフェアのタイプRや、ユエのタイプUは、

これまでの汎用性を重視した第1世代とは

異なり、Eジョーカーのような別形態へ変化

し状況に応じて戦う、即応性を持たせた為、

便宜上、第2世代とします」

「へ~~。じゃあ私のも第2世代、ってのに

 なるんですか?」

「えぇ。シアのタイプSCは、見た目こそ

 普通のジョーカーですが、内部は格闘戦を

 行うシアの為の専用のカスタマイズを行って

 いますから。

 まぁ、短くまとめると、豊富な武装によって

 状況に対応しようとしたのが第1世代。

 そこから更に、ジョーカーにも特化した

 性能を加え、形態変化能力を付与したのが

 第2世代、と言った所ですかね」

 

と、改めて私は皆に色々説明していた。

 

 

 

 

落下しようとしている天井を、私が

生み出した巨大な円柱で支えたまま。

 

 

「……しっかし、ホント司の創った

 物質は凄いね~」

食後のお茶を飲みながら、私が創り出した

柱状の物体、『Gメタル』を見つめるハジメ。

このGメタルは、第9形態の私の細胞を培養し、

本来地球上には存在しない、超高硬度物質を

粒子状にして塗布しコーティングする事で

生み出した。

理論状は、大きさにもよるが、光速で動く物体

すら放さないブラックホールの中でも、

最低数秒は原型を保っていられる程の

強度を持つ物質だ。

Gメタル自体は、最強の物理的シールドの

素材に、と生み出した物だ。

故にその硬度は折紙付き。何者にも

壊すことはおろか、傷付ける事さえ出来ない。

 

「この大質量の天井が落ちてきてる、ってのに

 こうやってのんびり昼食をしてるなんて。

 普通は命からがら天井が落下してくる

前に~って感じなのに。何だか、

余裕綽々だね~」

と、何故か遠い目で、天井を見上げるハジメ。

 

「……危機一髪って、何だっけ?」

そして、何故かハジメがそんな事を呟いた。

「ハジメ。……司が居る=万事余裕綽々。

 OK?」

「あぁ、うん。何だろう、凄い納得

 出来るよユエちゃん」

二人は、そんな会話をしながら遠い目で

私を見ている。

「そうだよね~。司の神チートの前には、

 理不尽な事が司の理不尽な力で跳ね

返されちゃうもんね。いや~~。

司も十分理不尽な存在だねぇ」

「……司=理不尽の権化。いや理不尽の神」

「あ~。確かに~」

 

のんびりしながらも、そんな会話をしている

ハジメとユエ。……何だか、不名誉な称号が

追加されたような気がするが……。

まぁ良いか。

と、私は内心首をかしげる。

 

「さて、と。ではそろそろ行きましょうか」

後片付けを終えた私達は立ち上がり、

メットを被るとGメタルの柱の側を

通って、外へと出た。

Gメタルの柱を回収すると、ようやく動き出した

天井が通路を押しつぶすが、そこには

誰も居ない。

 

「行きましょう。……この先、どんな理不尽

 が待っていようと、私達の力で、それを

 粉砕し、撃滅し、我々は進む。進み続ける」

私の言葉に、5人が無言で頷く。

 

「それでは。出発っ」

そして、私達6人は奥へと進んでいく。

 

この先にある、神代魔法を手に入れるために、

私達のライセン大迷宮攻略が始まった。

 

    第24話 END

 




次と更に次は、ミレディとの戦いになると思います。

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