ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回は長いです。途中で区切らなかったんで、普段の
1.5倍くらいあります。
あと、バトル要素はちょっと微妙です。
まぁ読んでみて下さい。


第26話 決着

~~~前回のあらすじ~~~

ライセン大迷宮へと突入した司たちを待っていた

のは、いじめと言わんばかりに陰湿なトラップの

数々だった。しかし、司という存在の力で

これらを乗り越えていく一行。しかし、まるで

その道中を嘲笑うかのように、一行は最初の

スタート地点に戻されてしまうのだった。

 

 

今、皆がミレディへの呪詛を叫んでいる。

……殆ど放送禁止用語のオンパレードだ。

数分、私が待っていると皆ようやく

落ち着いたのか、ゼェゼェと肩で息をしていた。

「……皆、落ち着きましたか?」

「ハァ、ハァ。落ち着いた、けど、落ち着けて

 無いと言うか。……正直、今すぐこの迷宮

 を全部吹っ飛ばしたい……!」

「私も。正直、バカにされてて、頭に、

 血が上ってるよ」

ハジメと香織は、怒り心頭、という感じだ。

他の3人も、大なり小なり似たような感じで、

殺気を滲ませている。

 

しかし、怒り心頭のまま迷宮を移動するのは

危険だ。そういう時は、得てして判断力が

鈍っている可能性がある。

 

ここは……。

 

「皆、聞いて下さい」

私は5人の方へ呼びかける。5人が私の方へと

視線を集める。

「最初の地点まで戻された事は実に腹立たしい

 事態ですが、せめてもの救いとして、この

 迷宮が、『どんな迷宮』なのかは理解

 出来ました。……トラップが多く、油断

 出来ない迷宮だと分かった事だけでも、

 収穫としましょう」

「……確かに、司の言うとおりだね」

と、静かに頷くハジメ。

他の面々も、小さく頷く。

 

「なので、今日はこれ以上動かず、

 ここでキャンプをしましょう。

 それと、折角なので怒りを発散

 させる意味でも、飲んで食べて

 ヤりましょう」

「うん。そう……。待って司?」

頷きかけ、首をかしげるハジメ。

「ヤるって何?」

「何、ですか?当然、S○Xですが?」

と言った瞬間、ハジメ達4人が驚き、

ルフェアは顔を赤くしている。

 

「な、ななななっ!?何言ってるの

 司!?」

「いえ、別に他意はありませんが。

 どうせここで怒りを燻らせていても

 発散出来ないのなら、別の欲求、

 つまり食欲や性欲を、怒りを忘れるくらい

 貪れば良いのでは?と思いまして。

 ……安全圏は私の力で創れますし、

 今更寝込みを襲われた程度で対応

 出来ないほど、皆は弱くは無いでしょう?」

「そ、それはそうだけど……」

狼狽するハジメに説明すると、香織は顔を

赤くした。

 

「まぁ、とりあえず食事にしましょう。

 今日はここで休みましょう。部屋も

 二つ創るので、後はお互いの自由と

 言う事で」

と言うと、5人は顔を赤くしながら頷いた。

 

その後は、私達はジョーカーを解除し夕食の

用意を始めた。私とシアで調理をし、各々

が食べたい料理を創り出した。

食欲を見たし怒りを発散する、と言う目的も

あったので、普段の食事の風景から見ても、

量も豪華さも二割増し、と言った所だ。

 

そして、それを6人で見事に平らげて

しまった。

「ふぅ~。美味しかった~」

そう呟きながら、満足げに息をつくハジメ。

他の皆も、満足したのか笑みを浮かべながら

お腹をさすっている。

どうやら、食欲を満たし怒りを宥める作戦は

上手くいったようだ。

 

その後、ハジメと協力して壁に穴を開け、そこ

に部屋を二つ造った。一つは私とルフェアの。

もう一つはハジメ、香織、ユエ、シアの物だ。

出口は二つあり、中にはトイレ、風呂や冷蔵庫、

もちろん飲み物なども常備してある。

今日は早めの夕食だったので、明日の朝、

外で合流するまで12時間以上時間がある。

 

「では、明日の朝8時に外で」

「うん」

と頷くハジメ。

あぁ、そうだ。

「忘れる所でしたが、ハジメにこれを」

と言って、私はいつもの栄養ドリンクと

精力剤を、いつもの2倍渡した。

「今夜は長い夜になるでしょうから。

 念のため倍は渡しておきます」

「ア、アハハ……。ありがとう、司」

ハジメは、引きつった笑みを浮かべていた。

 

さて……。

「では、私達はこれで」

そう言って、私はルフェアをお姫様抱っこした。

「お、お兄ちゃん」

彼女は、顔を赤くし私を見上げている。

「ルフェア、今日は寝かせませんよ」

「うん。いっぱい、愛して?」

そんなやり取りをしつつ、私達は部屋に

入って行く。

 

ちなみにその時、シアが……。

「ハートが。ハートの嵐が見えるですぅ」

とか言っていた。

 

ちなみに、ハジメ達の方はどうなったかと

言うと……。

「ちょっ!?やっぱりこうなるの!?

 あっ!あ~~~~~!」

やっぱりハジメが食べられたようだ。

 

 

そして、翌朝。朝食を終えた私達は再び

迷宮へと挑むための用意をしていた。

「よっしゃぁ!殺る気十分ですぅっ!」

「んっ。昨日の借り、100倍にして

 返してやる……!」

「やったるぞ~!」

シア、ユエ、香織の順番でやる気を示す。

どうやら、やる気は十分なようだ。

心なしか、昨日より肌が艶々している。

一方ハジメは……。

 

「お、お~~」

若干元気が無く、げっそりしていた。

そしてルフェアは……。

「あっ」

私の顔を見るなり、頬を赤く染めてしまう。

……昨日の夜は、彼女に求められる余り、

普段より若干激しくしてしまったなぁ。

 

などと思いつつ、私はこの迷宮を攻略する

方法を皆に話した。

「では、この迷宮を抜けて最深部まで行く

 方法ですが、まぁ小細工は無しにして、

 私の『熱線』で迷宮をぶち抜いてゴール

 までの道を創ります」

「ふむふむ。……じゃあ、司。

 いっちょやってくれ」

頷き、グッとサムズアップするハジメの

顔には、悪い笑みが浮かんでいた。

「……この大迷宮、ぶっ壊しちゃえ」

「うん。一発お願いね、司くん」

「やったれぇですぅ!」

「私達の怒り、思いっきりぶつけちゃえ

 お兄ちゃん!」

更に、ユエ、香織、シア、ルフェアも、

やれやれ!と言わんばかりの表情だ。

 

「では……」

そう言って皆に背を向けた私は、服を

宝物庫の中に収納し、上半身裸の状態

になった。

「え、えぇ!?司さん何を!?」

それに戸惑っているシア。

 

しかし私はそれを無視して、体内にある

力を『引き出す』。

 

背面に背鰭及び尻尾を展開。

 

そう考えた次の瞬間、私の背中が盛り上がり、

皮膚を突き破りながら背鰭が展開された。

更に、腰元からも長い尻尾が生えた。

 

これが、私の第9形態における熱線を使用

する形態だ。第9形態では人間への擬態を

前提としていた為、不必要だったり、

目立つパーツを体内に格納していた。その為、

第9形態そのままでは熱線は使えないのだ。

だからこその、部分的な身体変化をする

必要がある。

 

そして、この姿こそが、部分的身体変化を

した姿、と言う訳だ。

 

後ろでは、初めての光景にシアがあんぐりと

口を開けていた。

 

「背鰭及び尻尾の展開を確認。

 砲撃用意」

私が呟くと、尻尾が肩に担がれるような

体勢になる。

背鰭が発光し、尻尾の先端、骨が組み合わさった

かのような先端部分にエネルギーが収束して

行く。

 

そして……。

「発射」

『ドゥゥゥゥゥンッ!!!!!!!』

私が呟き、力を解放した瞬間、世界が

揺れた。

 

膨大な、計り知れない熱量を持つ紫色の光線、

『熱線』が放たれた。

熱線はいとも容易く壁を貫き続ける。

そして、数十秒に及ぶ熱線の照射が終わると、

私は尻尾を後ろへと戻した。

 

前方には、あの鉄球が何個も同時に通れそう

な程巨大なトンネルが出来ていた。

壁は融解し、一直線にトンネルが奥まで

続いている。

しかし、熱線の影響か周囲はとてつもない

高温に包まれている。今のハジメ達は、

私の結界で保護しているから無事だ。

 

「さて、これで道が出来ました。皆、

 ジョーカーを纏ってから結界を出て

 下さい。外は、生身のままでは危険

 ですから」

「うん。分かったよ司」

頷くハジメ達。そしてその表情は皆、

『ざまぁ!』と言いたげな物で、

トンネルの奥を見つめていた。

 

その後、私はジョーカー纏った5人と共に

熱線で開けた、緩やかな坂道を下っていた。

ちなみに私の方はジョーカーを纏っておらず、

尻尾と背鰭を展開したままだ。

 

あの、最初の部屋へと戻る仕掛けは、恐らく

ゴール目前で作動するものだろうとハジメは

言っていた。そして、ミレディの性格を

考えれば、確かにその考え方は正しいの

だろう。

ならば、あのゴーレム達の居る部屋の所まで

道を開ければ良し。そしてその方向について、

大まかな予想は出来る。

 

奴は迷宮の構造が変わると言っていた。しかし

スタート地点とゴールは変わらない。間が

変わるだけだ。

ならば、その間を壊して、一直線の道を

創れば良いだけのことだ。

微調整は後からでも出来る。……極論を

言えば、ゴールを壊さなければ良いのだ。

……それ以外は、全部壊す気で行く。

 

そう考えながら歩いていた時だった。

 

「あ、あの~。司さんその姿は一体?」

「ん?何ですかシア」

「いや、何、と言うか。司さんどうして

 尻尾と背鰭があるんですか?と言うか、

 さっき思いっきり背中を突き破って

 背鰭生えてきましたけど……」

……そろそろ、話しておくべきか。シアも

今では立派な仲間だ。隠す必要も無いだろう。

 

「シア。折角ですから、これまで貴女に

 話していなかった、私の真実を伝えます」

「し、真実?」

「はい。ハジメ、香織、ユエ、ルフェアの

 4人は知っている事です。そして、遅く

 なりましたが、この事実を伝えると言う

 事は、仲間として認めた信頼の証、

 とでも思って下さい。これは、私が

 教えても構わないと思った人達にだけ

 教えている事ですから」

 

そう、前置きをした私は、話し始めた。

 

かつてハジメ達に教えたように、自分が

そもそも人では無い事。異世界の怪獣

であった事。人に擬態していた事。オリジナル

が凍結された事を、全て。

 

すると……。

「うぇ~~。酷い、酷いですぅ~」

シアが号泣しはじめた。幸い、周囲はもう

大丈夫な温度になっていたので、シアは

メットを取り泣いていた。

 

「何ですかぁ、それぇ。人間のゴミでゴジラ

 になって、それで生きてただけなのに、

 いきなり攻撃されてしかも凍らされる

 とか、あんまりですぅ。ゴジラさんは

 別に悪い事なんてしてない、ただ

 生きていただけなのにぃ」

 

そう言ってシアは泣いていた。

「……そう、だよな。司は、ゴジラはただ

 普通に生きていただけなんだよな」

「……ただ、人の住んでいる場所に上陸して、

 明確に攻撃した訳でもないのに、害獣

 として認定して。……ッ!」

改めて、私の事を考えてくれたのか、ハジメ

と香織は表情を歪ませていた。

「……人は、自分より強い存在を恐れる。

 ……ゴジラも、私も」

そしてユエも、自らの過去とゴジラ、私の

過去を重ねていた。

 

別に大罪を犯した訳でもないのに、危険だなんだ

と言われて封印された過去と、ただ生きていた

だけなのに攻撃された私のオリジナルの事を

重ねているのだろう。

 

「……人は、自分と違う存在を恐れる、

 って事なのかな。人と、魔人と、亜人が

 仲悪いみたいに」

そして、そう呟くルフェア。

「……人間同士でさえ、欲望やなんだと

 言って争ってるような物だからね。

 種族が違えば、どこもやることは

 同じ、なのかな」

「ましてや、言葉も交わせないから、

 って事?ハジメくん」

ハジメの言葉に、そう問いかける香織。

 

「……何かが違っていたら、ゴジラと人が

 手を取り合う未来だって、あったのかも

 しれないな」

そうどこか悲しそうに呟くハジメに、他の

4人も俯く。

しかし……。

 

「……ハジメ、それは既に実現している

 未来ですよ」

「え?」

彼は私の言葉に首をかしげた。

「ゴジラである私と、人であるハジメ達。

 ゴジラ()(ハジメ達)が手を取り合う未来は、

 既に実現しています」

そう言って、私は笑みを浮かべた。

 

「そっか。……そうだよな。僕達は

 これまで、ゴジラと一緒に戦って

 来たんだよな」

ハジメも静かに笑みを浮かべ、他の

4人も笑みを浮かべた。

「そして、司の真名、ゴジラって

 言う名前を知る事は、司の仲間として

 認められてる、って事なんだよな」

「はい。その通りです」

「そっか。……やっぱ司は凄いよな~。

 こんなジョーカーまで創って。

 周りの僕達を無敵にしたり、色々

 やって。ふふっ」

笑みを浮かべるハジメに、周りの4人が

うんうん、と頷く。

 

「……改めて、誓うよ。僕達は司に

 付いていく。自分達の望んだ未来を

 実現させるために」

その言葉に、私は立ち止まり振り返る。

 

「……それが、ゴジラたる我の友の

 願いならば、私はこの身に宿す

 神の如き力に賭けて約束しましょう。

 皆の望む未来を、我が命を賭けて

 叶えてみせると」

そう言って、私は笑みを浮かべた。

 

 

そうだ。私達には、望み叶えたい未来が

ある。……そして、私の願いは……。

ハジメ達を護りぬく事。

エヒトだろうがなんだろうが、彼等に害を

成す者を、私は決して許さない。

 

私は、そんな事を考えながらトンネルを

下っていった。

 

 

そして、たどり着いたのは、あの50体ほどの

騎士甲冑と戦った部屋だ。しかし以前とは差異が

あった。奥の方にある扉が開いていたのだ。

そしてそこが部屋では無く通路になっていたのだ。

もしや、あの通路の奥が?

そう考えると、時間が惜しい。

 

「総員、私とハジメ、香織はEジョーカー

 形態へ移行。残りの3人はそれぞれの背中に

 掴まって下さい。恐らく、再び騎士甲冑たちが

 襲いかかってくるでしょうが、無視して

 突破します……!」

「「「「「了解っ!!」」」」」

 

皆が頷くと、私とハジメ、香織が即座に

Eジョーカーへと形態移行し、それぞれの

背中に、ルフェア、ユエ、シアがしがみついた。

「突入、開始ッ」

私が指示を下すと、私達は足裏のローラーを

使って走り出した。

 

案の定、中程まで来れば騎士甲冑達が動き出す。

それを、背中のルフェア、ユエ、シアが

迎撃しつつ、私達は足を止めず走る。

前方を塞ぐ騎士甲冑は、Eジョーカーの

シールドを展開したまま突進し、弾き飛ばす。

 

そして、速度をそのまま、私達は開いていた

扉を越え、通路の中に入った。

しかし……。

「ま、まだ追ってきますぅ!」

後ろを警戒していたシアが叫ぶ。確かに、

騎士甲冑達が扉を越えて追ってきた。

しかも……。

 

「な、なんか壁とか天井走ってるよ!?

 お兄ちゃん!」

私の背に居るルフェアが叫んだ。後部カメラ

からの映像を見れば、確かに騎士甲冑達が

天井や壁を走っている。

「重力さん仕事してくださ~~い!」

「何でもありだなぁ!ホントここはぁ~!」

叫ぶシアとハジメ。

その時、走っていた騎士甲冑の一体が、

まるでミサイルのように、こちらに向かって

突進してきた。

 

「この……!」

咄嗟にビーム砲で迎撃するユエ。ビームは

寸分違わず騎士甲冑の頭から股下まで

を貫いた。

しかし、無事だった剣や盾、腕や足などが

そのままこちらに突進してきたのだ。

「危ないっ!」

シールドが展開されているとはいえ、貫通

の危険がある。

それを理解したハジメは、右へ左へ、機体を

動かし攻撃を躱した。

 

「何あれ!?あれじゃ、撃ち落としても

 意味ないよ!」

ビームで貫かれる様子を見ていた香織が

叫ぶ。

しかし……。

「3人とも、プラズマグレネードです……!

 それなら、跡形も無く奴らを消滅

 させられます……!」

「了解ですぅ!」

私の指示にシアが頷き、左腰部のスロットから

プラズマグレネードを騎士甲冑の群れの先頭

目がけて投げつけた。

 

甲冑に命中すると同時にプラズマが広がり、

2、3体の甲冑をまとめて呑み込んだ。

「やったですぅっ!」

「まだ来るよ!気を抜かないでシアちゃん!」

片手でガッツポーズを取るシアと

それをたしなめる香織。

 

その後も、プラズマグレネードで向かってくる

騎士甲冑を迎撃しながら疾走する事、約3分。

 

「ッ!出口だ!」

通路の終わりが見え、ハジメが叫んだ。

私は指を鳴らしてエコーロケーションの

力を使い、前方の空間を認識する。

どうやら、球形の巨大な部屋のようだ。

「各員に通達。前方は球形の部屋のようです。

 床などが無く、浮遊物がいくつも

 浮いているだけのようです。各自、このまま

 速度を維持して出口より跳躍。

 各々臨機応変に判断し安全を確保せよ」

「「「「「了解っ!」」」」」

 

私が指示を飛ばし、皆が頷く。そのやりとり

をしている間に、既に出口は目と鼻の先だ。

「突入……!」

そして、私達は出口へと飛び込んだ。

 

飛び込んだ先は、やはりいくつもの物体が

浮かぶ部屋だった。

視界の端に収めていた正方形の物体に、

皆で飛び移ろうとするが……。

 

「嘘だろぉ!?」

ハジメが叫んだ。それもそのはず。

突然正方形の物体が一人でに動き出した

からだ。

 

「ハジメ!香織!重力制御装置

 最大出力!シア!ユエ!スラスター

 全開!二人を運ぶんです!」

私は咄嗟に声を張り上げ、指示を飛ばす。

そして、私は両腕にアンカーランチャーを

展開し、正方形に打ち出した。

音を立てて突き刺さるアンカー。

そして、振り子の要領で私は正方形の壁に

両足で接地。そのままローラーを動かし

上へと壁を上った。

「大丈夫ですか?ルフェア」

「う、うん。何とか」

私の首に抱きついていたルフェアは、

何とか頷いた。

 

そして、上に登り切るのと同時に、

シアに抱えられた香織と、ユエに

抱えられたハジメが着地してきた。

 

「ハジメ達も、大丈夫ですか?」

「うん。何とかね。ありがとうユエちゃん」

「ん。これくらい朝飯前。……それで、

 どうする?」

周囲を見回しながら呟くユエ。

その言葉に従うように、私達は互いに

背中合わせの状態で円陣を作る。

 

周囲には、様々なサイズの物体が浮かび、

不規則な動きで浮遊している。あの騎士甲冑

たちもだ。こちらの攻撃を警戒してか、

絶えず動き回っている。いや、

飛び回っていると言うべきか。

 

「……まさか、ここって……」

「ラスボスの、部屋?」

周囲を警戒しながら呟くハジメと香織。

二人の言葉に、私も納得していた。

如何にもなこの部屋は、あの時オルクス

で最後に戦ったヒュドラを思い出させる。

「……居るのかな?ボスが」

ルフェアの呟きに、皆が警戒心を高める。

 

そして、周囲を警戒していた時。

『ッ!!!』

感づいた。私は。人の感覚を遙かに超越した

私の五感が、その存在を訴える。

『居る』、と。

 

「逃げてぇ!」

そして、私が知覚した一瞬にコンマ数秒

遅れて、シアが叫んだ。

 

その瞬間、私はジョーカーを解除し、

上へと跳躍した。

『奴』は上から巨大な右腕を振り下ろそう

としていた。

 

「させんっ!」

私は、人間として生きていく為に、肉体に

掛けていたリミッターの内の5割を

解除した。

 

力が体の中に満ちていく。強度も、パワーも、

何もかもがこれまでの比では無くなる。

力を解放した証として、瞳が紫色の

輝き始める。

 

そして……。

 

『ドゴォォォォォンッ!!!!!!!!!』

 

『奴』の右手と私の右手が激突した。

とてつもない爆音と衝撃波が周囲に

広がる。私は重力制御能力で、衝撃波を

出来るだけハジメ達の居ない方へ散らす。

そして、その一撃で『奴』の右腕が砕け散った。

 

『奴』は、巨大な騎士甲冑だった。

全長は、20メートル程はあるか。それが宙に

浮いていた。

その右腕は、今正に私に砕かれ、肩の部分まで

ごっそり無くなっている。左腕には大きな

鎖が巻かれ、手には巨大なフレイル型の

モーニングスターが握られている。

 

だが……。

「それがどうした?」

私は即座に背鰭と尻尾を展開し、

エネルギーのチャージを完了させた。

第9形態の私なら、インターバルなど

無い。連射も出来る。そして今の

チャージ量は、この迷宮に大穴を開けた

時の10倍。尻尾の先端が、紫色に輝く。

いつでも撃てる状況だ。

 

「塵一つ残さず、消し飛べ……!」

 

そして、熱線を発射しようとした次の瞬間。

 

 

 

 

 

「わ~!!わ~わ~!ストップ!

 ストップ!待って待って待って!」

 

突如として、巨大甲冑が残った左手を

ブンブンと左右に振り始めたのだ。

「ッ?何だ?」

その予想外の行動に、私も驚き、臨界点

だったエネルギーを霧散させてしまった。

 

「い、いや~。君強いね~。まさかあの一撃

 を真っ正面から相殺するなんて、

 思いのほかやるね~」

急に、巨大甲冑は人間くさい話し方で

しゃべり始めた。

そして左手でいそいそと周囲のブロックを

引き寄せ、それで無くなった右腕の再構築を

始めた。

 

「……。貴様、誰だ?」

私は、ハジメ達の元へと戻り巨大甲冑を

見上げながら問いかけた。

 

「んんっ!やぁみんな!私はみんな大好き

 ミレディ・ライセンだよ~!」

咳払いをしたあと、巨大甲冑はそう

名乗った。……しかし。

「ミレディ・ライセンだと?」

「そんな!?ミレディ・ライセンは

 大昔の人!それがどうして……!」

「ふっふっふ~!凡人の君たちには

 分からないだろうね~。まぁ、

 強いて言えばぁ、私が天才だから

 かなぁ~?ぷぷ~♪」

 

奴は修復された右手を口元にあてる動作を

している。

 

成程、この人を食ったような態度。間違い無い。

あの文字板の生みの親、ミレディ・ライセン……!

それが今、目の前に居る。

「く、くくくっ、アハハハハハハッ!」

私は、こみ上げる笑いを抑えられなかった。

「つ、司?どったの?」

「ありゃりゃ~?もしかして、壊れちゃったの

 かにゃ~?」

戸惑うハジメと、未だに態度を崩さない

ミレディ。

 

「くくっ。……壊れた?バカを言うな

 ミレディ・ライセン。……私はただ、

 この状況を僥倖だと感じ、笑ったの

 だよ」

「はい?何を言って」

彼女が何かを言い切る前。

 

『『ズババンッ!!!』』

何かがその両腕を、肩の部分から切り飛ばした。

「え?」

これにはミレディも戸惑い、左右の腕を見る。

今私は、両手からエネルギーを放ち、奴の

両腕を切り裂いたのだ。

 

「まさか、この迷宮の生みの親が存命

 だったとは。正直、攻略したら用済み

 なので跡形も無く吹き飛ばそうと

 考えていたのだが……。正しく

 僥倖だ!」

私は、凶暴な笑みを浮かべながらミレディを

睨み付ける。

「この迷宮での怒り、存分に貴様にぶつけて

 やれるとは。これを僥倖と言わずして

 なんと言おうか!くく、ふははははははっ!」

 

ダメだ。抑えが効かない。笑みが止まらない。

溢れ出る喜びと殺意が、私の中で飽和している。

 

ちなみに……。

「……司が、魔王っぽくなってる」

「「「「うんうん」」」」

ハジメの呟きに、皆が頷いていた。

 

「さぁ、覚悟せよミレディ・ライセン。

 貴様のそのボディ。完膚なきまでにたたき壊して

 くれるわぁ!」

叫び、私は飛び出した。

 

 

「ちょっ!?何キレてんの!?あ~もう!」

ミレディは、司の事に理解が及ばない状況だった。

彼女はすでに接続し直していた腕でモーニング

スターを振り下ろそうとした。

 

が……。

『ガキッ!』

「ッ!?何っ!?」

振り下ろそうとした腕が動かなくなった。

「な、何これ!?どうなってっ!?ッ!!」

振り返ったミレディは気づいた。

見ると、彼女の背後に巨大な紫色の、

エネルギーで出来た腕がいくつも

浮いており、それが彼女のゴーレムの

四肢や関節をガッチリ押さえ込んでいるのだ。

「な、なんのぉ!これくらい!」

 

彼女は、周囲にいる等身大サイズの騎士甲冑を

使って腕を破壊しようと考えた。

だが……。

「騎士達でぇ!ってあらぁ!?」

しかしその騎士達も、全て巨大な腕に握り

つぶされたまま、身動きが取れない状態に

されていた。

 

 

「こうなったらぁっ!」

突如として、ミレディのゴーレムが右へ

スライドしようと僅かに動き出した。

この空間の物体にこれまでの騎士甲冑の

動きからして、奴には重力に干渉出来る

力があるようだ。

だが……。

「重力に干渉出来るのが、自分だけだと

 思うなよ!」

ミレディが自分に掛けたであろう横への

重力と反対方向に、同じだけの重力を

掛ける。これによって、奴の重力は

打ち消された。

「はぁぁぁぁぁっ!」

再びエネルギーの斬撃波を、4つ放つ。

これによって奴の四肢を根元から断ち切る。

「あぎゃ~!手足が千切れた~!?

 ……な~んてね!」

しかし、それも周囲のブロックを取り込んで

再生してしまう。

 

しかし、私にとって問題はそこではない。

 

「ちぃっ!?やはり痛覚器官は無いのか!

 どうにかして、奴に痛みを与える方法は

 無い物か!」

「……ねぇ君?さっきから物騒な事言ってる

 けどさぁ?君、自分が何でここに居るのか

 分かってる?」

奴のゴーレムの特徴に怒りを覚えていると、

ミレディが何かを聞いてきた。

「理由だと?分かっている!

 貴様を出来るだけ痛めつけて殺す為だ!」

「神代魔法!神代魔法でしょ!?違うの!?」

「神代魔法だと!?そんなの後で良い!

 まずは貴様を出来るだけ残虐に殺す事の

 方が重要だ!」

さて、痛覚の無い奴にどうやって痛みや

恐怖を与えた物か?

 

ん?待てよ?……そうだ。

『無い』なら『創れば』良いのだ。

そう考えていると、自然と笑みがこぼれる。

 

「ねぇ?ちょっと?君ぃ?もしも~し?

 君今、とてつもない位悪い笑みを

 浮かべてるよ?ねぇ!?聞いてる!?

 それ絶対シャバの人間がしちゃいけない

 笑みだからね!?完全に悪魔の笑みだよ!?」

ミレディが何かを言っているが、無視する。

 

そして、私は再び四肢を再生したミレディに

向けて突進する。

「喜べミレディ!貴様に痛みと絶望を与えて

 やろう!」

「そんなプレゼント死んでも要らないん

 ですけど!?」

叫びながら、ミレディはモーニングスターを

予備動作無しで投げてきた。いや、

重力を操って射出したと言った方が良いか。

「そう拒むな!五感は世界を感じるツールだ!

 あって困る物でも無かろうに!」

「怖いよ!?君ホントに何なのさ!?」

「今の私はミレディ・ライセン絶対殺すマン

 となっている!」

「何その名前!?」

 

 

ちなみに、この話を聞いていたハジメは……。

「あ、アハハ。つ、司が、壊れ……」

『バターン!!』

乾いた笑みを浮かべ、遠い目をしながら

倒れたのだった。

「は、ハジメく~ん!?」

「メディック!メディィィィック!

 ですぅ!」

「ハジメお兄ちゃん!しっかりして!

 ダメ!眠っちゃダメ!」

倒れたハジメの元に駆け寄り香織、

シア、ルフェア。

「……。みんな、結構余裕?」

そして、その状況にただ一人ユエは

ツッコみを入れていた。

 

 

私は、ミレディのゴーレムに取り付くと、

その頭を右手で掴んで、内部構造を解析し、

更に強引に進化させた。紫色の光が

ミレディのゴーレムを一瞬だけ包み込んだ。

「な、何を!?」

「今に分かる!」

驚くミレディのゴーレムに対し、私は

その頭、正確には額の部分を、軽く

蹴り飛ばした。

 

「ッ!?イッタ~~~!?

 って、あれ?!嘘嘘!?なんで

 私痛みを感じてるの!?」

「くくっ。上手くいったようだな。

 ……人が感じる感覚は、電気信号を

 利用したものだ。特に触覚や痛覚はな。

 あとは、痛みを知覚する器官を増設

 すれば良いだけの事。これで、貴様は

 痛みを感じると言う訳だ」

私は、ゆっくりと右手を掲げ、親指を

立てると……。

 

「さぁ、地獄を楽しみな……!」

ミレディに向けてサムズダウンをした。

 

ちなみに……。

「う~ん。司~。それ、エ○ーナル

 だよ~」

と、ハジメが唸っていた。

 

 

私は、ミレディに向かって右手を突き出した。

次の瞬間、再び巨大な腕がいくつも現れ

ミレディゴーレムの動きを封じる。

「くっ!?このっ!?」

咄嗟に振り払おうとするミレディ。

 

しかし、遅い!

「まずは、挨拶代わりだ!」

私が掲げた左腕を振り下ろした次の瞬間、

無数の巨大な腕がミレディゴーレムを掴んで

逆さまにし、両足を限界まで広げる。

これはプロレス技で言う、『恥ずかし固め』だ。

 

「い、いやぁぁっ!乙女になんてポーズを

 させるのぉ!?」

「……いや貴様はゴーレムだろう」

「中身は乙女なの!?」

「……。あんな陰険なダンジョンを創る

 奴がよくもまぁ恥ずかしげも無く

 乙女と言えた物だ。次だ次」

そう言って、右手を振る。

 

すると、新しい腕が二つ現れた。そして……。

『バシィィィィンッ!!!!』

ミレディゴーレムの尻を思いっきり

引っぱたいた。

「イッタァァァァァァッ!?!??!?

 ちょっ!?何すんの!?」

「何だと?尻叩きだ。……とりあえず、

 千発くらい行くか」

「ちょっ!?何すんの!?そんなに

 したら『バシィィィンッ!』

 イッタァァァァァイ!!!」

 

そこからは、怒濤のラッシュだ。

バシンバシンッと連続で尻を叩かれ、

ミレディのゴーレムは泣いて(鳴いて)いた。

しかし……。

 

何だろう?この感情は?内に滾る、

情熱?いや違う。何というか、荒ぶる思いが

こみ上げて来る。

……と言うか、楽しいぞ!

あれだけ偉そうだったミレディを私は

痛めつけている!

そうか、分かったぞ!これが、『ドS』と

言う物か!

 

「そらそらぁ!どうした天才!身動きも

 取れず痛めつけられる気分は!

 私は迷宮での鬱憤が晴らせてとても

 良い気分だ!!最初は痛みと恐怖を

 植え付けようと思って居たが、やめだ!

 もっと楽しくやらせて貰うとしよう!

 ふはははははっ!」

こみ上げる笑みを止められず、私は

高笑いを上げる。

 

 

ちなみに……。

「う~~ん。司~、お願いだから

 いつもの司に戻って~」

と、ハジメは気絶しながらもそんな事を

呟いていた。

 

 

「こ、このぉ~!調子に乗って~!」

ミレディは、逆さまで尻を叩かれながらも

反抗的な態度は改めなかった。

すると、次の瞬間、天井に敷き詰められていた

ブロックが雨の如くこちらに降ってきた。

 

「ふふっ!これを躱すためには、私の拘束を!」

ミレディが何かを言おうとしていたが……。

「邪魔だっ!」

私が右手を横に振ると、私達の頭上に

『ブラックホール』が出現し、降ってくる

ブロックの雨を呑み込んだ。

 

ついでだ。周囲に浮遊したままだった

騎士甲冑とハジメ達が足場にしている以外の

ブロックもブラックホールに吸い込ませた。

「「「「「………」」」」」

これには、ミレディや香織達もポカ~ン

とした表情で頭上を見上げていた。

 

「ふぅ。……で?」

私はブラックホールを消滅させると、ミレディ

の方に振り返った。

それだけで、ミレディはビクッと体を

震わせる。

 

「この状況で私に刃向かうとは良い度胸じゃ

 無いか?ん?」

「あ、いや、その、こ、これは……」

「そんなに激しいのが好きかミレディ」

「え?い、いや~。そんな事は~」

「そうかそうか。まだまだ足りないんだなぁ。

 ……では、尻叩きの回数追加だ!

 プラス一万回!存分に楽しめ!

 ふははははははっ!」

「鬼ぃ!悪魔ぁ!鬼畜!

 あっ!?う、嘘ですすいません!

 ごめんなさい!今のは言葉の綾で!」

『バチィィィィィンッ!!』

「イッタァァァァァァァァイッ!!!!!」

 

ブロックも騎士甲冑も無くなった空間に、

ミレディの悲鳴が木霊するのだった。

 

 

 

う、う~~ん。

あれ?僕は……。

ふと気がつくと、僕は目を覚ました。

って言うか……。

「あれ?僕、気絶してた?」

「あっ。ハジメくん、目が覚めた?」

声が聞こえたのでそちらを向くと、香織、

ユエちゃん、シアちゃん、ルフェアちゃん

の4人がトランプゲームをしていた。

そして、僕が起きたのに気づいたのか

香織が近づいてきた。

「香織。……僕は、どうして?」

と、僕が聞くと彼女はどこか遠い目を

し始めた。

「あ~~。え~~っと。なんて言うべきか。

 ……親友の豹変ぶりに耐えられなくなった、

 からかな?」

「え?何を言って……」

と、疑問符を口にしたとき、僕の耳に何かを

叩く音が聞こえてきた。

 

それは、鞭で何かを叩くかのような音で……。

 

 

「どうだ!気持ちいいか雌豚!」

「ぜ、全然、気持ちよくなんかぁ、

 ん、ぐぅ!」

そこでは、あのミレディゴーレムが亀甲縛り

をされ、巨大な三角木馬の上に跨がっていた。

そして、そのゴーレムを巨大な鞭で

ぶっ叩いている親友。

 

え?何これ?……あぁ、そうか。僕はまだ

夢を見ているだ。

そうかそうか。きっとそうだ。

と言う訳で……。

 

「じゃあ僕、現実に帰ります」

とだけ言ってすぐその場に横になった。

「ち、違うよハジメくん!これが

 現実なの!お願い受け入れて!」

「何を言うんですか香織。司が

 あんなサディスティックの塊みたいな

 事する訳無いじゃないですか?

 ねぇ?ユエ」

「……ハジメ。現実逃避はダメ」

「……。これが、現実?」

「うん。現実」

 

これが、リアル?あそこでラスボスを

調教しているのが、僕の親友?

は、はは、ハハハハ。ハハハハハハ。

ハハハハハハハ……。

……………………。…………………。

……………。

 

「なん、だと?」

僕は、がっくりとその場に項垂れた。

その後。

「ハジメ。……人は誰しもアブノーマルな物。

 一つや二つ、持ってるもの。それに、司が

 本気で暴れてたら、もっと酷い事になってた」

「うぅ、言われてみれば、確かに」

そう。司がブチ切れてたら、むしろ迷宮なんか

簡単に消滅してたかもしれない。

そう言う意味では、現状はまだ良い方なのかも

しれないが……。

 

 

「ほら!どうした!もっと啼けこの雌豚がぁ!」

見たくなかった。嬉々とした表情で鞭を振るう

親友の姿なんて、見たくなかった!!!

 

そして、ハジメが目覚めてから1時間後。

 

 

「ふぅ。何だか、とてもすっきりしました」

私は、亀甲縛りで三角木馬に跨がったまま

のミレディを放置してハジメ達の元へ戻った。

「……司?いつもの司、だよね?」

「ん?ハジメはおかしな事を聞きますね。

 私はいつでも私ですよ?」

なぜハジメはこんな事を聞くのだろうか?

 

「そ、そう。所で、ミレディは?」

「あぁ。彼女なら既に開は、んんっ!

 調きょ、んんっ!失礼。躾は済んで

 います」

「今言いかけた!?開発とか調教って

 言いかけた!?」

「……。そんな事はありませんよ?」

「……司、それは僕の目を見て言って欲しい

 んだけど?」

 

私はハジメから90度視線を逸らしていた。

 

その時。

「あ、あの~?」

後ろから声が聞こえたので、振り返ると、

そこには縛られたままのミレディの

ゴーレムが浮いていた。

「あのさぁ。こんな事言うのあれだけど、

 私としては一応迷宮の生みの親として

 皆の実力を見ておきたいんだよねぇ?

 けど、殆ど戦わずにこうなっちゃった

 じゃない?それでなんだけど」

 

「仕切り直し、なんてほざいたら。

 また1から躾直しですよ。

 この駄犬」

「さーせん!まじさーせんしたぁ!」

必死に頭を下げるミレディのゴーレム。

 

すると後ろで……。

「ハハハ、司が、ドSに、覚醒して……」

と、何やらハジメが壊れたようにハハハ、

と笑っていた。

まぁ良い。

 

「それで?私は結果的に一人で貴様を圧倒

 した。これでも不服か?」

そろそろ真面目な話に戻るとしよう。

「いや、でもぉ。君一人が強いのは

 良く分かったけど、それだけじゃぁねぇ」

と、渋るミレディ。

しょうが無い。

 

「ミレディ。貴様のゴーレムには核と

 なる部分があるな?そしてそれは

 人間で言う心臓の部分にある」

「ッ!」

「お前はそこを守る為にその鎧の

 下に、アザンチウムという鉱石で

 更に壁を作って居る。違うか?」

「ど、どうしてそれを!?」

「伊達に貴様の体をいたぶっていた

 訳ではない。同時進行で、色々と

 調べさせて貰っただけだ」

 

そして、私は指を鳴らすと空中にその

アザンチウム鉱石が出現した。

「この鉱石を破壊出来れば、少なくとも

 私達には貴様の防御を突破する力が

 ある事の証明になるな?これを証明

 すれば、認めるか?」

「え?そ、そりゃぁ、まぁ」

何とも歯切れが悪いが頷くミレディ。

 

ならば……。

「ハジメ、G・ブラスターの用意を」

「あ、うんっ」

私がそう言うと、ハジメのジョーカー0

の右腕が変形し、G・ブラスターとなる。

「このアザンチウム鉱石を指定したポイントに

投げるので、ハジメはそれをブラスターで

 狙撃して下さい。出力は、60%ほどで

 良いでしょう」

「うん、分かった」

 

と、話をしている内にブラスターのエネルギー

チャージが完了した。

「それでは。ふっ」

私が投げたアザンチウム鉱石は、放物線を

描いて飛んでいく。

「G・ブラスター、発射!」

そして、そのアザンチウム鉱石を、ハジメの

発射したブラスターの熱線が捉え、一瞬で

消滅させてしまった。

 

「………これと同じ物を、彼を始めとして

 彼女達も使える。加えて、今のが

 フルパワーではないし、私は

 あれの数億倍の熱線を放てるが?

 これでも不服か?」

 

と、私が言うと……。

 

「分かった分かった。分かりました。

 ……貴方達を通しますよ」

若干、苛立ちと後悔混じりにそう

呟くミレディ。

 

すると、上方の壁の一部が光り輝き始めた。

恐らくあそこが出口なのだろう。

「では、私の重力制御能力で運びますから。 

 皆、私の側に」

と言うと、ハジメ達5人が私の側に

集まった。

 

のだが……。

「あ、待って」

それをミレディが止めた。

「何か?」

「いや、殆ど挨拶も無しにあんな事に

 なっちゃったから聞きそびれてたん

 だけど。……君たちは、何故ここへ?

 神の真実とかは?」

「……既にエヒトの暴虐の事は知っています。

 我々は、既にオスカー・オルクスの

 大迷宮をクリアしましたから。

 そこで全てを聞きました」

「そう。オーちゃんの迷宮を」

オスカーの名前を出すと、ミレディはどこか

懐かしむように彼の略称を呟いた。

 

「……けど、なら何故神代魔法を求める?」

「我々は、元々異世界から来ました。

 エヒトが我々を呼び寄せたのです。

 恐らくは、『新しい駒』として」

「……あのクズ野郎らしいよ。ホント」

エヒトの名が出ると、吐き捨てるように

呟くミレディ。

 

「私達の目的は、元の世界への帰還です。

 今はその手がかりとして、神代魔法を 

 手にするために迷宮を回っています」

「そうか。……なら、君たちは神殺しを

 積極的にやる気は無い、のかな?」

「えぇ。ありません」

と言うと、ミレディは僅かに俯く。が……。

 

「しかし、向こうから仕掛けてきた場合、

 或いは私達の帰還を邪魔した場合は、

 抹殺します」

「……。そう」

私の言葉に、彼女は静かに頷いた。

 

やがて……。

「……今更だけど、ごめんね。結構酷い事

 したのは謝るよ。……エヒトは、あの

 クソ野郎共は、嫌らしい事なんて平気で

 やってくるから、慣れて欲しかったん

 だよ」

……やはり、か。

 

「けどまぁ、おかげで私も酷い目にあった

 けど。……あのさぁ、これ、そろそろ

 解いてくれない?」

っと、そうだ。ずっと縛ったままだった。

私が指を鳴らすと、ゴーレムを縛っていた

縄と三角木馬が消滅する。

 

「ふぅ、ようやく自由になれたよ。

 ……じゃあ、多分最後だから皆にこれだけ

 言っておくね。……もし、仮に君たちへの

 世界へ戻りたいのなら、全ての神代魔法を

 手に入れるんだ。全てをね」

全ての神代魔法を、か。

 

「ならば聞いておきたい。今私達が

 知っているのは、オルクス、このライセン、

 そしてハルツィナ樹海とシュネー雪原、

 グリューエン大火山の5つだけだ。

 他の二つはどこにあるのか、知って

 いたら教えて欲しい」

「そうなんだ。……分かった。あとの二つはね」

 

 

その後、私達は残り二つの迷宮の場所を

聞き出した後、ミレディを残し、出口へ

向かって跳躍した。

 

その去り際。

 

「こんなお願い、無粋だと思うけど、

 頼みがあるんだ。もし、君たちがエヒトと

 戦う事になったらで構わない。積極的に

 あいつと戦えとは言わない。でも、

 もし出来たら、あのクソ野郎をぶっ殺して

 欲しい。……そして、人類の未来を。

 奴の呪縛から解放してあげて欲しい」

 

ミレディのゴーレムは、ギュッと拳を

握りしめている。

「……確約は出来ない。だが、エヒトが

 私達の障害となった時は、奴の全てを

 消し去るつもりだ」

「……ありがとう」

 

私達は、その言葉を背に、出口へと

向かった。

シアや香織、ルフェアが遠ざかって行く

ミレディのゴーレムの背中を見つめている。

 

「……ミレディさんも、色々大変だった

 のかな?」

「……私、ちょっとあの人への認識が

 変わりました」

「うん。私も」

呟く香織とシア。そして、シアの言葉に

頷くルフェア。

3人の言葉に、ハジメとユエも僅かに俯く。

 

やがて私達は白い通路にたどり着いた。

そして、既に遠くなったミレディの

ゴーレムの背中に視線を送った後、私達は

前へと歩みを進めた。

 

 

その時は知らなかった。この先で、あんな物

が待ち構えていた事を。

 

     第26話 END

 




って事で、ミレディ、ある意味本編より酷い目に
あってます。

次回でライセン大迷宮の話は終わると思います。
感想や評価、お待ちしています。

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