ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回はライセン迷宮での最後と、ブルックの町での話です。


第27話 ブルックの町再び

~~~前回のあらすじ~~~

ライセン大迷宮に挑んだハジメ達。しかし、

生みの親、ミレディ・ライセンの仕掛けた

トラップによってスタート地点に戻されて

しまった一行は、司の熱線で道を切り開き、

ミレディ・ライセンの巨大ゴーレムが

ラスボスとして存在する部屋へと突入。

しかし、迷宮で散々煽られていた司が

怒りを爆発させ、更にドSとして覚醒し、

ミレディをめっためたに調教してしまう

のだった。その後、合格となった一行は、

巨大なミレディゴーレムを残し、先へと

進むのだった。

 

 

私達は今白い通路を歩いていた。そして前方には

オルクスの大迷宮で見た事のある、7つの

文様が刻まれた扉が見える。恐らく、あの扉の

向こうに神代魔法を与える魔法陣があるのだろう。

そして、私達が近づくとその扉がひとりでに

スライドし、私達は中へと足を踏み入れた

のだが……。

 

 

 

 

「やっほー、さっきぶり!ミレディちゃんだよ!」

 

「「「「「は?」」」」」

そこに待っていたのは、小さいゴーレムの

ミレディだった。

彼女を見た途端、ハジメ達5人がそう呟いた。

しかしまぁ、何というか……。

「先ほどの巨大ゴーレム、お前がここから

操っていたのだな?ミレディ」

「そうそう!その通り!」

とテンション高めに頷くミレディ。そして、

私の横では……。

 

「さっきの真面目なミレディは一体どこに……」

「私、さん付けで呼んだ事若干後悔してる」

「私は再び好感度が急転直下で下落したですぅ」

項垂れ、ため息をつくハジメ、香織、シア。

「……さっきの感動は、幻だったんだよ」

「「「あぁ、そっか。幻か」」」

そして3人はルフェアの言葉に遠い目で

頷くのだった。

 

「それで?ミレディ・ライセン。一応聞いておく

 が、ここで手に入る神代魔法は何だ?

 私の予想では重力魔法だと思うのだが?」

「そうそう!大正解!そして、正解した君

 には、もれなく重力魔法をプレゼント!」

……やたらにテンションの高いミレディの

ミニゴーレム。

後ろでは、ハジメ達がげんなりしている。

 

「………では、神代魔法を得たらすぐに

 ここを出る。ハジメ、皆も」

「あぁ、うん」

その後、ルフェア以外の私達5人が魔法陣の

上に立つと、それが光を放ち始めた。

今回はオルクスの時とは違い、記憶を探るような

事は無く、神代魔法の知識などが頭の中に

送り込まれるだけだった。

私達4人は一度経験しただけなので普通だが、

シアの方は初めての経験なので、驚いて体を

ビクつかせていた。

 

 

「さ~てと、これで君たちは神代魔法が

 使える訳だけど~。ラスボス君と金髪ちゃん

 以外は殆ど適性無いね~」

「……やっぱりか」

「私も適性、無いんだ」

「しょうが無いですよハジメさん香織さん」

項垂れる二人を宥めるシア。

 

「え~っと、この中で一番適性が無いのは

 白い君だね。次いでマゼンタのお姉ちゃん

 とウサ耳ちゃん。ウサ耳ちゃん達なら、

 まぁ自分の体重の増減くらいは出来るん

 じゃないかな?んで、ラスボス君を

 除くと一番適正値が大きいのが金髪ちゃん

 だね」

やはり、この中で私を除けば、一番

適正値が高いのはユエか。

今後、一番神代魔法を覚える可能性が

高いのは彼女だろう。

……ある意味、彼女が仲間として

加わってくれた事は吉なのかも

しれないな、と私は考えていた。

 

さて、と。

「ミレディ。ここの迷宮の攻略の証を

 出してくれ。それが無ければ

 ハルツィナの樹海の迷宮へ入れん」

「あぁ、証ね。ちょっと待って」

懐から何かを取りだし、私に投げる

ミニミレディ。受け取ったそれは、指輪

だった。

 

しばし指輪を見つめる私。これで、この

ライセン大迷宮は攻略した事になるの

だろう。

「……では、我々はそろそろ失礼する。

 出口はどこだ?」

「あぁ、それなら」

出口の場所を聞くと、ミレディが床の一点を

指さした。

すると天井のブロックが移動して穴が空き、

そこから半透明の水滴型のカプセルが

降りてきた。

「そうそう。出口は近くの泉の中なんだよね。

 だから悪いけど、それに乗って貰うよ」

「……成程。分かった」

私達がそのカプセルに乗り込もうとした時。

 

「あぁ、そうだ。ホントのホントに、最後

 だけどこれだけ言っておくよ」

「ん?何です?」

カプセルに乗り込みかけた私達に声を

掛けるミレディ。

 

「これからの君たちが、自由な意思の下に

 あらん事を」

 

「……。ありがとう」

 

私は、小さくそう呟いてカプセルに乗り込んだ。

そして、扉が閉まると、床が動き出し、

私達を乗せたカプセルが地下水脈と思われる

水の中へと落下していった。

 

その後カプセルはただただ水脈の中を

流れていた。そしてどうやら水脈は

川や湖と繋がっているのか、数多の魚が

泳いでいた。

「あ、魚だ」

その光景を見つつ、私達は流されていた。

 

「いやぁ、それにしても、最後の方は

 私達の出番、ありませんでしたね」

「ん。司が立派にミレディを躾けたおかげ」

「おかげで楽に攻略出来ちゃったけど、

 良いのかなぁ」

シアの言葉に頷くユエと若干首をかしげている

ルフェア。

「ま、まぁそこは結果オーライという事で。

 ……それにしても、司くん、完全に

 目覚めたよね?あれ」

「ん。司は正真正銘のS。一切容赦

 してなかった」

香織の言葉に頷くユエ。

「けどまぁ、あれって司さんを怒らせた

 ミレディの自業自得ですよね?」

「「「うんうん」」」

そして、香織達3人はシアの言葉に

頷くのだった。

 

 

その時。

「ん?」

シアが何かに気づいて、視線を外に向けた。

そして、目が合った。

人面魚とだ。他の面々はその人面魚に気づいて

居ない。

その人面魚が何に似ているかと聞かれたら、

シーマ○と答えるのが妥当だろう。

 

そのシー○ン似の人面魚としばし

見つめ合うシア。

すると……。

 

≪何見てんだよ≫

舌打ち付きで、人面魚から念話がシアに

飛んできた。

「ッ!?げほっ!げほっ!」

その不意打ちの言葉に驚き咳き込むシア。

「ん?シア、どうかしましたか?」

それに気づいて、司やハジメ達が彼女の

方に視線を向けた。

 

「あ、あれ!あれですあれ!」

シアは、咳き込みながらも先ほどまで

人面魚が居た場所を指さすが……。

「あれ?……どれの事です?」

「えぇ!?」

司の言葉に、視線を上げるシア。

見ると、そこにはもう既に人面魚の

姿は無かった。

 

 

その後、私の側ではシアがハジメ達に

喋る人面魚を見たと言ったりしていた。

が……。どうやら出口のようだ。

「皆、そろそろ準備を。出口のようですよ」

前方に、僅かながらに光が見え始めた。

 

 

 

一方その頃。

ブルックの町へと向かう街道を1台の馬車が

移動していた。馬車を動かしているのは

男3人に女一人の冒険者だ。そして荷台

には、ブルックの町で司たちが世話に

なったマサカの宿の看板娘、ソーナ・マサカと、

シアとユエが遭遇した化け物……。

もとい、筋骨隆々とした漢女の服飾店

店長、『クリスタベル』が座っていた。

 

クリスタベルはその見た目の通り、

バリバリの武闘派なので、服の素材の

入手などは自分で行っているのだ。

ソーナの方は、親戚にあたる人が怪我

をしたというので、店を空けられない

両親に代わって、見舞いの品を届けた

帰りだった。彼女は外へ出る用事があった

クリスタベルに同行した形だ。

馬車を操る冒険者たちも、ブルックへの

帰り道、と言う事もあって一応二人を

護衛となっている。

 

 

そして、彼等はブルックの町まであと1日、

と言う所で、側にある泉の畔で昼食にする

事になった。そして、ソーナが泉の

水を汲もうと近づいていった時。

『ゴポゴポゴポッ!!ボバァァァンッ!』

不意に水面が白く泡立ったかと思うと、

巨大な水柱が上がったのだ。

 

「きゃぁぁぁっ!」

悲鳴と共に尻餅をつくソーナ。

「ソーナちゃん!?」

驚きながらもクリスタベルはソーナを

抱えて他の冒険者達の所へと下がる。

この辺りは休憩所として有名で、こんな

現象を彼等は聞いたことが無かった。

故に驚き、水柱を見上げていた。

その時。

 

『ボバッ!』

水柱の中から、司たちを乗せたカプセルが

飛び出した。

この事態には、目が飛び出さんばかりに

驚くクリスタベル達。

 

やがて、宙に飛び上がったカプセルは、

重力に従って落下。ドボォンと言う音と

共に泉へと落下したのだった。

あまりのことに、驚き開いた口が塞がらない

クリスタベル達。

「な、何なの一体」

そして、彼等の心の内を代弁するように、

ソーナは一人呟くのだった。

 

 

地上に出た私達は、水中から盛大に

打ち上げられたものの、何とか着水

した。

 

「イタタタ。最後の最後で酷い目に

 あったよ」

放出と着水の際の衝撃はかなりの物で、

重力制御をしたものの、カプセルの中は

多いにゆれ、ジョーカーを纏っていなかった

ハジメ達が壁に頭なり肩なりを打ち付けて

しまったのだ。

「う、うぅ。ここ、外ですか?」

「みたいだね。でも、どこ?」

シアは、ハッチを押しのけ外を見回す。

彼女の言葉に頷きつつも、周囲を

同じように見回す香織。

 

その時。

「あっ。シア、あれ」

「ふぇ?あっ!あの人は!」

ユエが何かに気づいて岸の方を指さした。

そしてシアも彼女に続いて視線を移し、何かに

気づいたようだった。

「クリスタベルさん!?」

「ん。やっぱり」

どうやら、知り合いの人が側に居たよう

なので、私も二人の視線の先。岸の

方に目を向けたのだが……。

 

 

「……。は?」

何だ?彼(彼女?)は。……何というか、

この距離に居ても感じるのだ。

圧倒的な、『戦闘力』と『プレッシャー』を。

そして、額から汗が一滴、したたり落ちた。

気圧された?私が?

……これほどの力、人間から感じたのは

初めてだ。

もしかしたら、彼はあのバカ勇者などよりも

十分に戦力になるかもしれないな。

 

そう思いながら、私は水面にエネルギーで

道を創ると岸まで歩いて行った。

その後、私達はクリスタベル店長や

マサカの宿の時世話になった少女、

ソーナの所へ行き、話し合いをした。

 

どうやらここは、ブルックの町から馬車で

1日の距離にあると言う事なので、

ブルックの町へ向かう事にした。加えて

クリスタベル店長の厚意で馬車に便乗

させてもらう事になった。

一応、護衛の冒険者に僅かだが金を

渡した後、私達は店長達と荷台で話を

しながら、ブルックの町へ向かって

揺られていた。

 

 

そして、私達は数日ぶりにブルックの町

へと戻ってきた。

顔見知りの宿、と言う事もあり、再び

マサカの宿で宿泊をする事になった。

とはいえ、最近はずっと戦いなり何なり

の連続だった。オルクスを出た後、シア

を助け、更にハウリア族を助け、そのまま

フェアベルゲンでの対立、カム達の訓練、

そしてGフォース設立と樹海を後に

して僅かばかりの休憩としてブルックの

町に立ち寄り、すぐにここを出て大峡谷、

ライセン大迷宮の攻略と、私から見ても

かなりめまぐるしく事態が動いていた。

 

なので、1週間ほどはブルックの町で休む事に

した。金の方は、まだ売っていない魔物

の素材もあるし、貯金の方もたくさんある

ので金には困らない。

 

まぁ、いくつか問題を挙げるとすれば……。

宿の娘、ソーナが毎度毎度覗きをしようと

しているのだ。しかも、プロの軍人顔負け

のスニーキングスキルを駆使して、だ。

幸い部屋では私のシールドジェネレーターを

展開しているから痴態を見られる心配は

無いが、風呂ではそうも行かない。

シュノーケルを付けて潜っていた彼女を

捕らえた時は、何が彼女をここまで

かき立てるのか疑問に思ったほどだ。

 

また、今の私達6人はすっかり町の有名人だ。

数日と経たず、美女・美少女を連れる私達は

有名になった。

初日などはシアやユエ、香織などにアタック

する猛者たちも居たが、皆等しくユエに

股間を撲殺され、それを見た後で彼女達

へ強引に迫ろうと言う勇気のある奴は居ない。

ならば外堀でも埋めよう、と言うのか、

私やハジメに決闘を申し込んできた男たち

が居た。

 

私はともかくとして。ハジメも結構強いのだ。

この前など、剣を手に斬りかかってきた男を

相手に、クラヴ・マガの技で剣を奪い、

地面に倒した後、その男の喉元に剣を

突き付け返す、と言う、常人離れした

流れ技をやってのけた。

ちなみに私の方はノルンの電撃弾で一発だ。

 

しかし、この町には変態が大勢居た。

その最もなのが、『ユエちゃんに踏まれ隊』

等というグループだ。なぜそうなった?と

内心私は頭を抱えている。他にも、

『香織お姉様に甘やかされ隊』だとか、

『シアちゃんの奴隷になり隊』だとか、

『ルフェアちゃんを妹にし隊』だとか、

『お姉様たちと姉妹になり隊』だとか。

何が何だか、という感じだ。

 

一番変態なのは、やはり踏まれ隊、だろう。

何せ、いきなり街中でユエに対して

『踏んで下さい』と叫ぶのだ。ユエなど、

その度に嫌そうな顔をしていた。

甘やかされ隊や、奴隷になり隊、妹にし隊

などは、名前の通りだ。

 

香織の優しさに甘やかされたい。

シアの奴隷になりたい。

ルフェアを妹にしたい。

そんな願望の連中ばかりが集まったのだ。

と言うか、最初の方はシアを奴隷にしたい

と言っていたはずだが?

何時逆転したのやら。

 

そして、一番厄介なのは、最後の姉妹に

なり隊の連中だ。

男女比で言えば、・踏まれ隊・奴隷になり隊

・甘やかされ隊の3つの構成員の殆どは男だ。

妹にし隊は、男女比五分五分、といった所。

そして姉妹になり隊は全員が女の集団で、

チームの女性メンバー、香織、ユエ、

シアを(勝手に)お姉様と慕い、ルフェアを

妹として(勝手に影で)愛でているのが

現状だ。そしてどうやら、彼女達の側に居る

私達をよく思っていないらしい。ナイフを手に、

どう考えても少女が発してはならない単語を

叫びながら突進してきた事もある。

その時はノルン(電撃弾)で迎撃したが。

 

しかし、まだまともと言える物もあった。

それが『師範たちに鍛えられ隊』だ。

何ともドストレートなネーミングなのは

変わらないが、まともではある。

ここで言う師範は私とハジメの事だ。事の発端は

ハジメが見事な流れ技で相手を何度も

撃退していった事に始まる。

 

この世界では、当然クラヴ・マガなど

存在しない。軍隊で使われるような

近接格闘術もだ。

戦闘は基本的に剣や盾。最低でもナイフ

を使う。素手でやり合うのは、喧嘩くらい

のものだ。そして武装した相手を素手で簡単に

制圧するハジメの強さは、見た者を驚かせる

のには十分だった。

そして更に、人々の目を引いたことが

あった。

 

それが、私とハジメの共闘だ。

ある日、香織やユエ、ルフェア、シア達

4人と町を歩いていると、大勢の男達が

襲いかかってきたのだ。

当然、私とハジメを倒す為だ。

 

しかし、私とハジメは空手、柔道などの

メジャーな格闘技から始まり、クラヴ・マガ

やコンバットサンボ、システマ、シラット等の

マイナーな格闘技の技を全て駆使し、50人

は居たであろう男達を、僅か数分で

ぶちのめしてしまったのだ。

 

これらの戦闘技術は、魔物などの獣相手

ではあまり意味をなさない。

しかし、対人戦闘となれば、話は別だ。

格闘技術は、人、敵となる人を倒す為に

生み出されたのだ。そして、トータス人の

体のつくりも動きも、ハジメ達地球人と

何ら変わりは無い。

 

だから、ハジメでも戦えたのだ。

私に言わせて貰えば、今のハジメに

近接格闘で勝てるのは、私くらいだろう。

それくらいまで、ハジメの動きは洗練

されていた。

 

元々は檜山たちに絡まれた時の護身用として

教え始めた意味合いもあった。しかし、香織

と言う護るべき存在が出来た事。そして、

いざと言う時、ジョーカーや私が用意する

武器に頼らずとも、暴漢数人をぶちのめす

為に。と言うハジメの決意が、彼の格闘技を

極める意思を後押しした。

結果、ハジメは近接戦において、素手でも

相手を秒殺、いや、瞬殺出来る程の

インファイターとなった。

 

そして、気がつけば私とハジメは日課の

格闘訓練を、それもハジメから自主的に

するようになった。

 

そしてある日の早朝も。

私とハジメは、マサカの宿近くの空き地で

トレーニングをしていた。

今では、護身術と言う枠組みを取り払い、

ありとあらゆる格闘技をハジメに教え

込んでいる。

ちなみに最近では、武器を使った高速での

戦い、フィリピンの武術、『エスクリマ』

の修行も始めている。

そして最近では、ハジメ自身我流の

マーシャルアーツを生み出しつつある。

何とも強くなったものだと、感心

しているものだ。

 

そして、話を戻すと、早朝のそのトレーニング

を幾人もの人が目撃していたのだ。

その日は、何でもありの、言わば試合形式

での組み手を行っていた。

そして、私とハジメの戦いは苛烈を極めた。

戦いは、日の出の時まで続いた。

この時はハジメの体力切れで私の勝ち

となったが、問題は試合が終わった直後、

気がつくと周囲に大勢の人々が集まって

おり、直後……。

『弟子にして下さい!』と大勢の人々が、

少年から大人まで頼み込んできたのだ。

 

ちなみにと言うか、もちろん断っているが。

 

そして更に、この鍛えられ隊の派生として、

『お兄様に守られ隊』などと言うのも出来た。

これは全員が年頃の少女で、50人の暴漢に

襲われた時、アクション映画ばりの動きで

バッタバッタと敵をなぎ倒す私とハジメに

惚れた、らしい。

 

と、そんなこんなで休暇のつもりが、

気がつけば騒がしい毎日だった。

そしてブルックでの町での1週間後。私達は

6人全員でギルド支部に向かった。

 

「おや?今日はお揃いで?どうかしたのかい?」

受付には、いつも通りキャサリンさんが居た。

「用、と言う訳ではないのですが。

 明日にはブルックの町を出ます。キャサリン

 さんにはお世話になったので、せめてもの

 挨拶を、と言う事で」

世話になった、と言うのは素材買い取りの事や

色々アドバイス(主に各地の情勢や国の状況の

情報提供)をして貰った事だ。

 

「そうかい。行っちまうのかい。

 あんた達が居ると賑やかで良かったん

 だけどね~」

「アハハ、それはそうですけど、結構大変

 なんですよ?いきなり襲われたり」

「襲ってきた暴漢3人を一瞬で倒した

 奴が何言ってんだかねぇ?」

苦笑を浮かべるハジメに苦笑を返す

キャサリンさん。

 

「それで、我々はこれからフューレン

 方面に向かおうと思って居ます。

 そちらの方角へ向かう依頼などが

 あれば受けようと思ってきたのですが」

「フューレンの方だね。ちょ~っと 

 待ってな」

と言うと、依頼書を探すキャサリンさん。

 

ちなみに、『フューレン』と言うのは

中立商業都市の事だ。大迷宮の一つ、

グリューエン大火山は、グリューエン砂漠に

ある。

砂漠に向かうには、ここブルックから西へ

向かう。その道中にあるのがフューレンだ。

私達は砂漠へ行く為の中継点として

フューレンに寄るつもりだ。

 

「う~んと。あぁ、これなんてどうだい?

 商隊の護衛依頼。これ、空きが一人分

 だけだったんだけど、この前の騒ぎで

 数人やられちゃってねぇ」

あぁ。ハジメと一緒に大多数をぶちのめした

時のか。大半の人間は、病院送りだったな。

「あと3人分、空きがあるよ」

つまり、冒険者登録している私、ハジメ、

香織の全員分がある、と言う事か。

しかし……。

「ルフェアとシア、ユエの方は良いの

 ですか?数にカウントしなくて」

「あんまり大人数だと苦情が来るけど、

 荷物持ちとかで人を雇ったり奴隷を

 連れてる冒険者もいるからね。

 ましてや、あんた達の強さは

 折紙付きだからね。特に文句は

 無いと思うよ」

そう言いつつ、私に依頼書を差し出す

キャサリンさん。

 

私達にはバジリスクという足がある。

バジリスクなら、馬車の数倍の移動速度

で移動出来るが……。

チラリと皆の方を向くと……。

「僕は別に参加しても良いと思うよ。

 急いでる旅じゃないし」

私の考えている事が理解出来ていたのか

呟くハジメ。他の4人も首を縦に振っている。

 

彼等は受けてもOKなようだし。私としても

拒む理由もない、か。

「分かりました。ではこの依頼、受けます」

「あいよ。先方には伝えとくから、

 明日の朝一で正面門に行っとくれ」

「分かりました」

私は頷き、私とハジメ、香織が依頼書を受け取った。

 

そしてキャサリンさんは、香織たち女性陣の

方へと目を向けた。

「あんた達も体に気をつけて元気におやりよ?

 この男共に泣かされたら何時でも家においで。

 あたしがぶん殴ってやるからね」

「ありがとうございます、キャサリンさん。

 でも、きっと大丈夫ですよ」

そう言って、ハジメの腕に抱きつく香織。

「ん。世話になった。ありがとう」

「キャサリンさん、色々良くしてくれて

 有り難うございました!」

「ありがとうございました!」

ユエは香織のようにハジメの腕を抱き、

シアとルフェアは満面の笑みを浮かべながら

頭を下げた。

 

亜人は人族にとって差別されてきたが、

思いのほか、ブルックの町ではそこまで酷い

差別を受けなかった。二人にとっては、

それだけで居心地が良かったのだろう。

 

「あんた達。こんな良い子達、泣かせるん

 じゃないよ?泣かせたらあたしが承知しない

 からね」

「アハハ。……もちろん、分かってますよ」

苦笑を浮かべながらも、確固たる信念を

宿した表情で頷くハジメ。

「共に旅をし、深い絆で我々は結ばれて

 います。……彼女達を泣かせるような

 愚行は、侵しませんよ」

そして、私も同じ。

護ると誓ったハジメ達という友人。

そして、私を好きだと言ってくれた

ルフェア。……必ず、守り抜いて見せる。

 

「そうかい。なら、こいつは餞別だよ」

そう言って、キャサリンさんはデスクから

封筒を取り出し、私に差し出した。

「これは?」

「まぁ、町の連中が迷惑をかけた詫び

 みたいなもんだよ。もし他の町で

 ギルドと揉めたら、お偉いさんにそれを

 見せな。あんた達、色々と問題起こしそう

 だからねぇ」

と言って、笑みを浮かべるキャサリンさん。

 

「そんな人をトラブルメーカーみたいに……

 って、僕達結構トラブル起こしてるか」

否定しようとして自覚が芽生えたのか、

がっくりと肩を落とすハジメ。

そんなハジメを一瞥しつつ、私は封筒

をしばし見つめてからキャサリンさんの

方へと視線を戻す。

 

「ありがとうございます。いざと言う時

 に使わせて貰います」

「あぁ。……それじゃぁ、道中色々ある

 だろうけど死なないようにね」

「はい。ありがとうございました」

私が礼を言って頭を下げると、ハジメ達も

同じように頭を下げる。

そして、私達は彼女に見送られながらギルドを

後にした。

 

その後、クリスタベル店長のところに

シアとユエが行きたいと言うので行ったら、

襲われた。物理的に。

どうやら私とハジメは彼にとって獲物だった

らしい。あの時は本気で熱線を使おうとして

皆に止められた。

そして、ソーナも相変わらず私達の痴態を

覗こうと必死だったが全ては私の技術が

生み出したジェネレーターに阻まれ

未遂に終わっている。……しかし彼女も

隠密スキルがバカみたいに高い。

……将来、彼女に覗かれる被害者が

増えない事を祈るばかりだ。

 

そして、翌朝。

私達はキャサリンさんに言われた通り、

門の前にやってきた。

どうやら私達が最後のようで、まとめ役

らしき人物と12人ほどの冒険者が

集まっていた。そんな彼等は私達6人を

見るなり、驚いた様子だった。

 

「お、おいおい!まさか彼奴ら、

 『パニッシャーズ』なのか!?」

その時聞こえてきたパニッシャーズという名称。

これは、私達を指す言葉だ。

ユエは襲ってきた男の股間を撲殺し

男を漢女に生まれ変わらせる事から、

股間スマッシャーと言うあだ名が付いている。

更にそれ以外の面々も強く、しかも

最近ではハジメと同じように格闘技の

訓練もしている。理由はハジメと同じ。

街中で戦う時、やたらめったらに

ジョーカーを使えない状況でも、暴漢

数人くらい素手で倒す為だ。

熟練度で言えば、まだまだハジメの

半分程度だが、それでも成人男性冒険者一人

くらいなら、簡単に投げ倒したり、気絶

させたり出来る。

 

つまり、香織達も既に、その見目麗しい

美貌に似合わない武闘派なのだ。

ちなみに、姉妹になり隊創設の原因の

一つとして、悪漢を香織やユエが一瞬で

投げ飛ばしたりねじ伏せている姿を

見ていた少女達が居たから、と言う事

らしい。

 

やがて、全員見た目は強そうではないのに、

実はかなり強い実力者揃い、と言う噂が

広がり、いつからか『罰する者達』、

『パニッシャーズ』と呼ばれるようになった

のだ。

ちなみにハジメはこの名で呼ばれる事を

恥ずかしがっている。

本人曰く、『中二病で痛すぎるから』らしい。

 

やがて、私達が近づくと商隊のまとめ役と

思われる人物が歩み寄って来た。

「君たちが最後の護衛かね?」

「えぇ。依頼書はここに」

頷き、事前に預かっていたハジメ達の分と

合わせて3枚の依頼書を見せる。

それを見た男は頷き自己紹介を始めた。

 

「私の名はモットー・ユンケル。この商隊の

 リーダーをしている。君たちのランクは

 未だ青だそうだが、キャサリンさんからは

 大変優秀な冒険者だと聞いている。道中の

 護衛は期待させてもらうよ」

「ご期待に添えるよう、全力を尽くします」

何か、某栄養ドリンクみたいな名前だなぁ。

と思いつつ、私は返事を返した。

 

「私は新生司。一応6人組のリーダー的存在

 です。そして隣から、南雲ハジメ、白崎香織、

 ユエ、シア・ハウリア、ルフェア・フォランド。

 以上です」

「頼もしいですな。……所で」

その時、モットーは値踏みするような目で

シアとルフェアを見始めた。

 

「その兎人族と森人族、売る気はありませんか?」

やはりその事か。

と私は思い内心ため息をついた。

シアとルフェアは、身内贔屓の目で見ても、

美女・美少女だ。特にシアの青みがかった

白髪は珍しいのだろう。

 

そして、人間の間で亜人は奴隷。そして

(そんなつもりはないし表面上だが)二人は

私達の奴隷という風に見えるのだろう。

モットーにしてみれば、珍しい商品を

前に商人として手にしたい、と言う事

なのだろうが……。

 

「断る。二人は私達のチームに必要不可欠で

 あり、且つ、家族同然の仲間だ。例え、

 国一つ、いや。世界を買える程の金を

積まれても彼女達は絶対に売らない。

……理解していただけたか?」

私は、若干モットーを睨み付けながら

語る。後ろでは、私の言い分にハジメ達

がうんうん、と頷いている。

彼女達を金に換えるだと?言語道断も

良いところ。

やがて、モットーは小さく頷いた。

「えぇ。それはもう。仕方がありませんな。

 ここは引き下がりましょう。ですが、

 その気になった時は是非、我が

 ユンケル商会をご贔屓に願いますよ」

「……了解しました。最も、そんな気

 など、天地がひっくり返っても起きない

 でしょう、とだけ予言しておきます」

その後、モットーは護衛の説明について

リーダーから聞い欲しい、とだけ

言って私達から離れていった。

 

そしてその様子を見ていた冒険者達からは、

どこか尊敬や驚嘆のような視線を

受けていた。

 

……一人、漢女の逆鱗に触れて襲われていたが。

 

その後、リーダーの男性から色々と説明を

受けた後、私達も馬車に乗り込み、商隊は

ブルックの町を出発した。

 

目指す場所は、商業都市フューレン。

私は、フューレンで何もなければ良いが。

と考えながら、馬車に揺られはじめた。

そして、私達の冒険者としての最初の依頼が

始まった。

 

     第27話 END

 




次回は、フューレンでのお話です。

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