ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~ 作:ユウキ003
~~~前回までのあらすじ~~~
大陸の西にあるグリューエン大砂漠を目指す
ハジメと司たち。彼等一行は西に行く過程で
商業都市フューレンに向かう事に。そして、
そこへ向かう商隊の護衛依頼を受けた一行。
その道中では司とシアが料理を振る舞ったり
ユエの超必殺技で冒険者たちの度肝を抜いたり
していたのだった。
中立商業都市、フューレン。
そこを一言で言えば、物流の要衝だ。
周囲を高さ20メートルもある外壁に囲まれた
フューレンの中では、日々商いをする
人々がしのぎを削っていた。観光で
訪れる者も多いここは、人の出入りも激しい。
そんなフューレンは大まかに4つの区画に
分けられる。
フューレンでの手続き関係の施設が
集まっている『中央区』。
娯楽施設が集まった『観光区』。
武器や道具を職人が生産・直接販売している
『職人区』。
あらゆる業種の店が並ぶ『商業区』の4つだ。
東西南北、四方から中央区へ続くメイン
ストリートが存在し、中央に行くほど信用が
ある店が多く、逆にそれから遠いほど、
所謂『闇市』、『ブラックマーケット』のような
状況のようだ。
そうなると、あまり中央から離れるのは良く
ないな。ルフェア達の精神衛生上を考えれば、
そう言った所には行かない方が良い。
そして、私達はそんな説明を、フューレン
ギルド支部のカフェで、軽食を食べながら
ガイドの女性から受けていた。
この大きさの都市であるフューレンでは、彼女
のようなガイドの仕事が存在している。
元々はモットー達と別れた後、ギルドに報酬を
取りに来たのだ。その際、街の情報を得ようと
した所、今私達の前にいるガイドの女性、
リシーのような案内を仕事にしている人達
の事を教えられたのだ。
リシー曰く、宿を取るなら観光区の方が
良いと言う。中央区の宿よりも、サービス
が良いらしい。中央区の宿は、聞いた分
では私達の世界のカプセルホテルのようだ。
「ふむ。では素直に観光区で宿を取ると
しましょう。皆も構いませんか?」
「うん。僕は大丈夫」
「私も大丈夫だよ。あ、でもやっぱり、
大きい部屋のある宿が良いかな?じゃないと
私達だけで何部屋も借りる事に
なっちゃうし」
「ん。私も香織に賛成。無駄な出費は
抑えたい」
「そうですね。私は、やっぱり二人と同じで、
あとはご飯が美味しければ問題無いですぅ」
と言うのが、香織、ユエ、シアの意見だ。
……まぁ、実際には『夜の為』なのだろうが、
そこは気にしていても始まらない。
「あとは、やっぱりお風呂は必要かな?」
「そうですね。……リシー、この街で、
3人から4人で止まれる大部屋があり、
料理が美味しい、風呂がある宿、と言う
のはありますか?あぁ後、出来れば警備が
厳重な所で。……何分、連れは目立ちます
から」
と私が説明すると、リシーは苦笑しながら
頷いた。
実際、先ほどから私達、正確には香織や
ユエ、シア、ルフェアに視線が集まっている
のだ。それを察するリシー。
実際、市街に入ってから何度か香織達に
男達が近づこうと声を掛けてきたが、
全て私の『絶望の王』の殺気をぶつけて
気絶させるなりしてきた。なので、
襲いかかってきたら面倒なので、殺気で
気絶させる。誤って物を壊して、後から
賠償責任を問われても厄介だ。
まぁ、払えない訳では無いが。
と、内心私は考えていた。
「ちょっと待って下さいね~」
と言うと、リシーは紙に候補になりそうな
宿の名前と場所を書き出し始めた。
私たちはその様子を見ながら食事を
していたのだが……。
不意に、これまで以上に下卑た視線を
感じた。
特に、女性陣4人に向けられた視線に、
皆顔を僅かながらしかめている。
そして、その視線の主の方へ顔を
向けると、豚が居た。
どうやら良いとこの子息か何かなのか、
良い服を来ていたが、色々台無しだ。
100キロはありそうな肥満体。
脂ぎった顔。
その豚みたいな男が、香織達に視線を
向けている。
はっきり言って不愉快だ。
すると、その男がその肥満体の体を
ユッサユッサと揺らしながらこっちへ
向かってくる。
「……。どうする?殺ります?」
「……時と場合においては」
私の言葉に、ハジメも何だか据わった表情
で静かに答える。
……最近、ハジメの表情が以前より軍人
っぽくなってきたな。と私は思っていた。
そして、そんな事を考えていると、豚が
私達の側までやってきた。
豚に気づいたのか、リシーは営業スマイル
も忘れて、げっ、と唸っている。
「お、おい、ガキ共。ひゃ、百万ルタ
やる。そ、その4人を、わ、渡せ。
その兎と森人族を貰うぞ。あ、後の
二人は、め、妾にしてやる」
そう言うと、こちらの了承も無しに
豚はユエに手を伸ばした。
だが……。
『ドッ!!!!!』
「ッ!?ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」
私は、その手に銀のナイフを突き刺し、
豚の手を机に縫い付けた。
そして、私は静かに殺気を放ち始める。
その殺気に当てられ、周囲の男達が萎縮
していく。
「……気安く私の仲間と恋人を見るな、豚。
彼女達は貴様のような金持ちしか
取り柄のないゴミとは、比べものに
ならない気高い存在だ。……彼女達を
買うだと?だったら百万程度じゃ
とても足らんな」
と言うと、私はナイフを抜き取り、豚
の腹を蹴っ飛ばした。
「ちっ。……汚れてしまった。あとで
丹念に洗わなければ……」
私は、ブーツに視線を落としながら
そう呟いた。
豚男は、地面に蹲り傷口を押さえている。
「殺しはしない。面倒だからな。
皆、行くぞ」
私が立ち上がると、5人も特に驚いた
様子もなく立ち上がった。
殺人への忌諱感を拭えていないハジメと
香織でも、こんな豚には同情などしない。
する意味が無い。
「え?あ、あの……」
戸惑うリシー。私は、彼女の手元にあった
紙に目を向けた。どうやらリストアップ
は終わったようだ。
私はその紙を取る。
「すまない。こちらのゴタゴタに
巻き込んでしまったな。これはチップだ」
と言って、私は銀硬貨、つまり5千ルタ
コインを3枚ほどリシーの前に置いた。
「では。皆、行くぞ」
リシーに軽く会釈をして、私達はギルドを
出ようとした。
しかし、その行く手を突如大男が塞いだ。
あの豚男とは逆に、筋肉で100キロは
ありそうな巨漢だ。
すると、後ろで蹲っていた豚男が何やら
わめき始めた。
「れ、レガニド!殺せ!ガ、ガキ共を殺して、
女を捕らえろ!」
どうやらこの巨漢はあの豚男に雇われた
護衛らしい。
「つ~わけだ。ガキ共。安心しな。殺しは
しねぇ。が、嬢ちゃん達4人は、諦めな」
……そう言うと、パキポキと指の骨を
ならす、レガニドと呼ばれた冒険者。
そして周囲のひそひそ話の内容を聞くところに
よると、こいつは『暴風』のあだ名を持つ
黒のランクの冒険者。つまり、第3位の
高位冒険者。……だが、それがどうした?
「……失せろ」
「あぁ?」
「聞こえないのかでくの坊。失せろと
言ったんだ。……あの豚のように、
痛い目に遭いたくなければ……」
次の瞬間、私は殺気を込めて呟く。
「『とっとと失せろ雑魚が』」
そして、ギルドの中に、濃密な殺気が
満ち始めた。
レガニドと呼ばれた冒険者は冷や汗をかき、
殺気になれていないのだろうか、
何人かの人間が泡を吹いて気絶していく。
「……何度も言わせるなよ、でくの坊。
死にたくなければ、そこをどけ」
更に殺気を滲ませ、威圧する。
「面倒だから殺しはしない。だが……。
腕の二、三本は、へし折るぞ」
『な、何だこの殺気は!?こいつは
一体!?』
これまで経験した事の無い、膨大な殺気に
冷や汗を流すレガニド。司はどけと
言った。だが……。
『い、いや!きっとはったりだ!そうに
違いない!』
黒の冒険者としての、ちっぽけなプライドが
引く事を拒否した。
咄嗟に剣へ手を伸ばすレガニド。だが……。
『ビュッ!!』
手を伸ばそうとしたその時には、レガニドの
首筋に司の取り出したアレースの刃が、
僅か数ミリの所で止められていた。
「うっ!?」
「……剣を抜いても別に構わんぞ?但し、
手加減無しの殺し合いと言うのなら、死ぬ
覚悟は出来ていような?それと、付け加えて
言っておこう。お前はさっきから、私の
キルゾーンの中に居たんだぞ?」
「ッ!?」
私の言葉を聞いて、後ろへと飛ぶレガニド。
『折角黒の冒険者がいるんだ。せいぜい私の力を
周囲に知らしめる踏み台になってもらうと
しよう』
「さて?どうする?ここで無様に死ぬか?
それとも道を空けるか?
死ぬか生きるか。どっちが良い?」
私の言葉に、レガニドは迷っているのか
表情を歪ませる。
その時。
「何の騒ぎですか?これは」
凜とした声が響いた。見ると、ギルドの奥
からメガネを掛けた細身の男性が現れた。
見ると、その男性の側に顔面蒼白の
ギルド職員がいた。
恐らく、私の殺気に恐怖し、上司か何かを
呼んできたのだろう。
そして……。
「司、これ以上の面倒事は避けよう。彼奴らは
気にくわないけど、人殺しをして今後
フューレンに出入り禁止、なんてのも
馬鹿らしいでしょ?」
「……。分かりました」
ハジメに促され、私はアレースを鞘に収めた。
正直、この男とあの豚男は殺しておきたいが、
ハジメの言葉には賛成だ。なので殺気と
共にアレースを収めた。
それを見て息をつくレガニドという冒険者。
だが……。
「今日は見逃す」
「ッ!?」
私はレガニドに聞こえるように、小さく
呟いた。
「だが、次敵となった時は、一切容赦
せず、その体を切り裂く。
それがイヤなら、二度と私達に近づくな。
分かったか?」
私が殺気を滲ませながらそう言うと、レガニド
は顔を真っ青にして、数歩後退った。
その後、私達はメガネの男性、『ドット秘書長』
と言う男性とカフェの一角で話をしていた。
一応、こちらの言い分としては、
『私達の奴隷(嘘だが)であるシアとルフェアを
奪おうとしたので、警告の意味でナイフを
突き刺した』と言っておいた。
ちなみにあの豚男は、私の殺気に当てられ
泡を吹いて気絶していた。
幸い、やった事と言えばナイフで豚男の手を
刺したことだけなので、大して問題には
ならなかった。証人としては、リシーを
始めとした大勢の冒険者達が居たので、
問題無かった。
ちなみにあの豚男の名前は『プーム・ミン』
と言うらしい。
「あの豚野郎。なんて名前してるんだよ」
と、ハジメが隣でため息交じりにそんな事を
呟いていた。
その後、身分証明と連絡先について教えろ、
と言われたので、とりあえず代表として
私のステータスプレートを提示した。
「連絡先は、まだありません。宿も決めていない
状態でしたから」
「そうですか。……にしても、青、ですか」
私のプレートを見ながら、ドットは驚いた
ような表情を浮かべる。
「確かに冒険者ランクでは青です。が、
潜ってきた修羅場の数ならば、金ランク
相当だと、我々全員は誇りを持って
言えるでしょう。……これでも、樹海の
魔物数十匹狩るのは余裕な程なので」
「……。成程、冒険者になる前から、
既に黒ランク以上の力をお持ちだったと」
ドットは、ため息交じりにそう呟いた。
「ところで、一応全員分の提示をお願い
したいのですが?」
「ふむ。ではハジメ、香織」
「うん」
「どうぞ」
ハジメと香織が自分のプレートをドットの
前に差し出した。
「……全員分とお願いしたはずですが?」
差し出された3枚に視線を落としてから、
鋭い視線を私達の方に向けるドット。
「生憎、ユエ、シア、ルフェアの3人は
プレートを持っていません。持っている
のは、私とハジメ、香織だけです」
「それは困りましたね。では今すぐ
発行していただけませんか?正確な
記録を取るためには、あなた方全員の
身元を正確に記録する必要がありますから」
との事だ。
何でも、問題の多い者はブラックリストに
載せられるらしい。
それを考えれば、全員のプレート提示は
必要だ。
しかし……。問題がある。3人とも
プレートを作った直後を第3者に覗かれる
のは非常に不味い。
ユエの力を察するに、技能欄は数多の技能で
溢れかえっているだろう。神代魔法もだ。
むしろあれが一番不味い。
そしてシア。彼女の馬鹿力はプレートで
表記されでもしたら……。基本的な値など、
優に超えているだろう。
そして更に問題なのは、プレートはジョーカー
装着時の力も表示する。そうなれば、
ルフェアのプレートですら色々と大変な
数字が表示されてしまうだろう。
それを見られるのだけは避けたいが……。
第3者の立ち会いを拒否する?いや、
返って怪しまれそうだ。どうする?
と、考えていた時。
「あ、そうだ司!あの手紙!」
思い出したかのように叫び、手を叩くハジメ。
ッ、そうだ。その手があった。
私は懐から、ブルックの町の受付嬢キャサリン
さんから受け取っていた手紙を取りだし、
ドットに差し出した。
「それは?」
「これはブルックの町のギルド支部に勤める
女性から、万が一ギルドで揉めたときは
位の高い人間に見せろ、と言われて
渡された手紙です」
「ブルック、女性……?」
と、戸惑いながらも手紙を受け取るドット。
「彼女の名前は、キャサリンと名乗って
いました」
「ッ!?そ、それは本当に……!?」
ん?何だ急に。キャサリンさんの名前を
出した途端、驚いたドット。
「えぇ。彼女は間違い無くキャサリンと
名乗っていました」
と、私が言うと、ドットは驚いた表情のまま
手紙を取りだし、文章を目で追い始めた。
その後、支部長に確認すると言って、ドット
は奥へと行ってしまった。そして私達は
何やら応接室のような場所へと通された。
「キャサリンさん、何者なんでしょうね?」
と首をかしげるシア。
「さっきの人の様子からしても、ただ者
じゃないよね」
「ん。……きっと、昔は偉かったんだと思う」
「あの手紙、凄い役に立ったね」
そう語る香織とユエ、ルフェア。
「ある意味、彼女とあそこで出会って居た
事も、吉と出た訳ですか」
私はため息交じりにそう呟いた。
「案外、どっかで何かが繋がってるもん
だね~」
ハジメも感心するようにそう呟いた。
やがて、15分後。ドットが一人の男性を
連れてきた。
金髪のオールバック、30代、鋭い目つき。
支部長に確認を、と言って居た辺りから
察するに、この男が支部長なのだろう。
「初めまして、冒険者ギルド、フューレン
支部支部長イルワ・チャングだ。
司君、ハジメ君、香織君、ユエ君、
シア君、ルフェア君……で良いのかな?」
そう言って握手の手を差し出されたので、
答えながら問い返した。
「えぇ。構いませんが。名前は手紙に?」
「その通りだ。先生の手紙に書いてあったよ」
「先生?それは、キャサリンさんのことですか?」
「あぁそうだ。先生曰く、将来有望なれど
トラブル気質なので、出来れば目を掛けて
やって欲しい、とね」
トラブル気質。……まぁ否定出来ないが。
まぁ良い。
「それで、身分証明の件はどうなりました?
手紙で十分、なのですか?」
「あぁ。手紙には皆問題ない、良い子達だ、と
書かれていた。先生の人を見る目は
確かだ」
「そうですか」
と、頷くが……。
「あの~。さっきからキャサリンさんのことを
先生って呼んでますけど、一体どういうこと
なんですか?」
と、香織が挙手をしながら問う。
「ん?本人から聞いていないのかい?彼女は、
かつて王都のギルド本部でギルドマスター
の秘書長をしていたんだよ」
「……思いっきりトップの人じゃん。
キャサリンさん」
と呟くハジメ。
その後のイルワの話によれば、今の支部長
の5~6割は彼女の教え子で、結婚後に子供を
育てるために田舎、つまりブルックへと
移ったらしい。
「ただ者ではない、と思って居ましたが」
「ん。キャサリンすごい」
「そんな凄い人に目を掛けられたなんて、
ある意味強運ですね」
ため息交じりに呟く私に頷くユエと
同じくため息交じりに呟くシア。
「しかし、ならば身分証明の件は
問題無いのですか?」
「あぁ。もちろん。……そして、そんな先生
が見込んだ君たちだからこそ、頼みが
ある」
次の瞬間、イルワの雰囲気が変わった。
私は皆の方を見ると、5人とも頷いた。
「とりあえず、聞くだけ聞きましょう。
頼み、と言うのは?」
「君たちにある依頼を受けて欲しい。無論、
こちらから報酬として出来る限りの
事をしよう。例えば、今回の事を不問
にする、とかね」
……。その事を交渉材料にして出す辺り、
抜け目ない男だ。
「……依頼の内容は?」
「内容は、行方不明者の捜索だ。場所は
北方の山脈地帯。その山脈地帯へ調査に
向かった冒険者の一団が予定を過ぎても
戻ってこなかった。そして、それを
知った冒険者の一人の実家が捜索願を
出した、と言う訳さ」
イルワの話によれば、最近北の山脈地帯で
魔物の集団が何度か目撃されたようだ。
山脈地帯は一つ山を越えただけでその先は
未開の地。しかも強力な魔物が出現する
らしい。そこで調査には高ランクの
冒険者パーティーが向かう事になったが、
そこでそのパーティーに飛び入りで参加
した人物がいた。
その飛び入りの人物、と言うのが
クデタ伯爵家の三男、『ウィル・クデタ』という
男性だ。依頼の下はこのクデタ伯爵家だ。
伯爵は行方不明の事を知り、すぐに独自の捜索隊
を出したそうだが、手数は多い方が良い
と言う事で、ギルドに依頼を出したそうだ。
そして、高ランクの冒険者が一人も帰って
来なかった、と言う事は半端物を送り込んだ
所で調査隊の二の舞になる、と言う事だ。
しかも今はその高ランク冒険者が出払っている
状態のようだ。
「……そこで、我々ですか?」
「そうだ。手紙には、司君とハジメ君は
並み居る暴漢数十人を素手で圧倒し、
更には、樹海の魔物を容易くねじ伏せる程の
実力有り、と書いてあったのでね。
……どうだろうか?ウィルの捜索をお願い
出来ないだろうか?」
イルワは、懇願するような視線を私達に
向ける。
その視線から考えて、ウィルとイルワは知人
関係か何かなのだろう。
「……皆の意見を聞きたい。ハジメ達は
どうですか?」
「僕は、行くべきだと思う。生存している
可能性は低いけど、探してみない事には
始まらないし。それに、個人的にも魔物
の集団ってのが気になるから」
「私も受けたいと思ってる。困っている人を
見捨てられないから」
「ハジメが行くなら、私も」
「私もですぅ!」
「……私も行くべきだと思う」
ハジメ、香織、ユエ、シア、ルフェアは行く
気のようだ。
ここで、私が反対したとしても、
賛成5・反対1。……言うまでも無い。
それに、我々の目的は帰還方法を探す事。
タイムリミットがあるわけでもなし。
特に急ぐ旅でもない。
「……との事だ。我々の総意としては、
依頼を受けるつもりだ。しかし、では
聞くが、依頼を受けたとして、フューレン
支部長の貴方が私達に与えられる報酬は
何だ?私達は慈善家などではない。
流石に、報酬無しで依頼を受ける気は
無いぞ」
「分かっている。依頼の賞金に、更に私
からも色を付けよう。君たちのランクを
黒に上げる事も、検討しておこう。
後は、君たちの後ろ盾になる事くらいかな」
……はっきり言って、大盤振る舞いだ。
「随分出しますね?そこまでウィル・クデタ
の為に動く理由は何です?」
「………彼に、ウィルに今回の依頼を勧めたの
は私なんだ。ウィルとは、昔からの付き合い
で、良く懐いてくれていた。ウィルは貴族
は肌に合わない、と言って冒険者になった。
しかし、素質は無かった。だから悟らせよう
と思って居たのだ。今回の依頼で、冒険者
は無理だと」
静かに独白するイルワ。
つまり、彼の行動が結果的にこの事態を
招いた、とも言える訳か。
しかしならばちょうど良い。シアやユエ達
3人のステータスプレートの事は、前々から
どうにかしようと思って居たが、折角だ。
この状況を利用させてもらうとしよう。
「報酬に支部長から色を付ける必要は
無い。ランクもだ。しかし、代わりに
頼みを一つ聞いて欲しい」
「頼み、と言うのは?」
「ここに居る、ユエ、シア、ルフェアの
3人のステータスプレートを作りたい。
出来るだけ周囲には内密にだ。
そして仮に、あなた方がそのプレートの
数値を見たとしても、それを一切
口外しない事。……この条件が守られる
のなら、私は依頼を受けても良いと
考えるが?」
「……。分かった。その提案を受けよう」
静かに呟くイルワ。その後ろでは、ドットが
戸惑うような表情を僅かに浮かべていた。
「では、交渉成立だ」
その後、支度金や北の山脈の麓にある
ウルの町への、イルワ名義の紹介状。
更に行方不明の冒険者達が受けた依頼の
資料などを貰う。
「司、今日中にはフューレンを出発した方が
良いんじゃないかな?仮に生きていた
としても、身動きが取れずに餓死、
なんて可能性も0じゃないし」
「……。ハジメの言うとおり、今すぐに
でもフューレンを出るべき、ですね」
刻一刻と状況は変化する。捜索と、場合によって
は救出作戦をしなければならない。となれば、
尚更だ。
「と言う訳です。我々はすぐにでも
フューレンを発ちますが、何か問題は?」
「ない。……ウィルの事、くれぐれも頼む」
「……了解しました。皆、行きましょう」
私の言葉に皆が頷き、私達6人はギルドを
後にした。
そして、6人が部屋を出た後。
「……彼等は一体、何者なのでしょうね。
報酬として提示したステータスプレートの
一件から考えると、何やら厄介事を抱えている
ようですが」
と呟くドット。
「……ドット君。君は、少し前に王国が召喚
した神の使徒の中から離反者が出たのは
知っているか?」
「は?い、いえ。そんな話、私は
初めて聞きました」
「そうか。……今から三ヶ月と少し前の事だ。
偶然にも神の使徒の数人が亜人を保護。
しかしその亜人を大罪人として処刑しようと
した所、その数人が教会側に反発。
亜人の少女と共に、空飛ぶ箱で王国から
出て行ったらしい」
「……空飛ぶ箱、ですか?」
「あぁ。私も最初、王都で騎士をしている
友人から偶々聞いたときは何かの冗談かと
思ったが、使徒数人が離反したのは事実
だったようだ。実際、直後にこの話題には
箝口令が出された」
「……我々の救世主である神の使徒が、
人よりも亜人を守ったから、ですか?」
「恐らくな。そして、私の聞いた限り、
その使徒の人数は3人だそうだ」
「3人?……ッ!まさか、あの3人
ですか?」
驚くドットの脳裏に浮かぶのは、ハジメ、
香織、そして司の顔。
「あくまでも推察だが、恐らくな。
……そして、これも騎士の友人から
聞いた話なんだが、ドット君はオルクス
大迷宮の65層突破の話は知っているかな?」
「え、えぇ。神の使徒一行が65層を超え、
なお下へと足を踏み入れた話は私も。
確かその際、使徒の一人がベヒモスを
倒し、ベヒモススレイヤーと呼ばれる
ようになったとか……」
「あぁ。そうだ。……しかし、その一人、
と言うのは、二人目のベヒモススレイヤー
だそうだ」
「二人目?」
「公にはその人物がベヒモススレイヤーと
されているが、実際には、彼等はそれ以前
の訓練でベヒモスと遭遇しているらしい。
そして……。友人は言った。その少年は
ベヒモスさえも歯牙に掛けない程の猛者
であると」
「ッ!それは……」
ドットは驚きながら、その額に冷や汗を
浮かべていた。
「この話を聞いたとき、私も驚いたよ。
恐らく、その一人目は離反した3人の内
の一人と思われる。しかしその人物を
ベヒモススレイヤーとしておくには、
些かよろしくない。そこに来て二人目の
ベヒモススレイヤーたる人物が現れた。
これは噂を操作する意味でも好都合だった
のだろう。……結果的に、ベヒモススレイヤー
の噂話は混同され、二人目に集約されて行った、
と言う訳さ」
「な、成程。……しかし、かつて最強の冒険者
をして勝てなかったベヒモスを、歯牙にも
掛けないなど。……一体どれほどの
猛者なのか」
「そうだな。……いや、もはや猛者などという
ものではない。表現とするのなら、
『王』か」
「王、ですか?」
「そう。……強さにおいて、何人も歯牙に掛けず
葬り去る、唯一無二にして絶対の覇者。
文字通り、比肩する者など居ない。
無敵という言葉の体現者。……それを
『王』と呼ばずして、なんと呼ぶ?」
「……。彼は、一体何者なのでしょうか?」
小さく、微かな声で呟くドット。
そんな彼の表情は疲れ切っていた。
イルワの言う『王』を先ほどまで自分は
前にしていたのか。
そう思うと、ドットは気疲れを起こしていた。
「何者、か。……不敬に聞こえるかも
しれないが。……敢えて言うのなら、
『この世界で最も神という存在に近い男』、
だろうな」
「神、ですか。……果たして、彼等に依頼を
頼んだ事は、吉と出るのでしょうか?
それとも……」
「そればっかりは分からんよ」
ドットの言葉を遮り呟くイルワ。
「それこそ、神のみぞ知る、かな?」
イルワは最後にそう呟きながらソファに
背中を預け、天井を見上げるのだった。
「願わくば、吉であって欲しい物だ」
そして、彼は小さくそう呟くのだった。
第29話 END
次回、ウルの町での再会の話です。
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