ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回は、山脈でのお話です。


第31話 大規模捜索網

~~~前回のあらすじ~~~

ウィル・クデタ捜索のために、北の山脈に近い

湖畔の町、ウルへとやってきたハジメと司たち。

彼等はそこで、訳あってウルを訪れて居た

畑山愛子や数人のクラスメイトと再会する。

最初は再会を喜んでいた愛子だったが、

彼女の護衛の神殿騎士の隊長、デビッドが

シアとルフェアを侮辱した事で司が激怒。

デビッドは愛子が止めなければ殺される寸前

だった。

そして、その日の夜。司は念のためにと愛子

にエヒトの真実を語る。そんな中で、躊躇い

無く力を振るう司を止めようとする愛子

だったが、二人の認識は平行線のまま

だった。

 

 

夜明け。正確には東の空が白み始めた頃、

ハジメ、香織、シア、ユエ、私、ルフェア

の6人は水妖精の宿の前に集まっていた。

その手には、オーナーのフォスが作って

くれた握り飯があった。嫌な顔一つせず

彼が作ってくれたのだ。昨日の時も、かなり

騒ぎを起こしたので宿をたたき出される

かもしれないと、ハジメ達と話し合って

いたが、実際にはそんな事も無かった。

高級宿とはいえ、破格の対応だ。

 

さて、オーナーフォスに感謝しつつ、

私は気を引き締める。

「皆、聞いて下さい。捜索対象のウィル

 ・クデタが失踪してから既に5日。

 基本的に、人間が飲まず食わずで

 生存できるのは長くとも3日。

 既に生存は絶望的ですが、何らかの

 形で食料と水を確保していれば 

 生存している可能性は多いに

 高いでしょう。……可能であれば、

 生きているウィル・クデタの救出したい」

私の言葉に、5人が無言で頷く。

 

「では、まずは北門の方へ」

そして、私達は北門へと向かったのだが……。

 

ん?レーダーに人影が映った。7人か?

いま、まさか……。

私のレーダーに映った人影にまさかと思って

いたが、その予想は当った。

 

「え?先生!?それにみんなも!」

朝霧を超えて、門の前にたどり着いた時、

そこには愛子先生と護衛隊の6人の生徒達が

屯していた。

それに驚く香織。

「え?ど、どうして先生達が?」

ハジメの方もだ。驚いた様子で目を

パチクリさせている。

 

すると、愛子先生が私の前に立った。

「私達も行きます。行方不明者の捜索ですよね?

 人数は多い方がいいです」

「……。先生たちがこの捜索に加わる意図が

 理解できないのですが?あなた方には、

 私の知る限り、参加する理由が無い。」

「あります。単純に、人助けがしたいと言う

 私の意思です。それと、私も北の山脈に

 行くだけの理由があります」

「だから、私達に同行すると?はっきり

 言っておきますが、山脈では魔物の集団が

 目撃されています。当然、それとの戦闘も

 考慮にいれなければなりませんが、

 それでも、ですか?」

「はい。それでも、です」

……どうやら、先生の決意は固いようだ。

「それで、園部さん達はどうして?」

「それは当然、私達は愛ちゃん護衛隊だからね!

 愛ちゃんが行くのなら、私達だって

 付いていくだけよ!」

……成程。しかし……。

「愛ちゃん?」

なにげに先生をちゃん付けである。

その名を呟きながら先生の方を向くと、肝心の

先生は顔を赤くして私から視線を逸らした。

 

しかし、先生を含めて彼等は行く気のようだ。

下手に断って、強引に後から馬で付いて

来られて、その道中魔物の襲われて全滅、

と言うのは最悪のシナリオだろう。

だったら、いっそ近くに居てくれた方が

守りやすい。

 

「ハァ。良いでしょう。同行を許可します」

「え?良いんですか?」

「後から無理に馬で付いてこられて、山の

 中で魔物と遭遇、全滅というシナリオも

 考えられます。だったら、いっそ近くに

 居てくれた方が守りやすい。皆も、

 それで構いませんか?」

「うん。僕は大丈夫」

「私もOKだよ」

「んっ。司の指示に従う」

「私もです」

「うん。大丈夫だよお兄ちゃん」

どうやら、OKなようだ。

 

「では、足を用意します」

私は、宝物庫の中から装甲車、バジリスク

を召喚した。

「うぉっ!?これって、装甲車か!?」

そう言って驚くのは、男子の一人、仁村だ。

「園部さん達は後部のベンチシートへ。

 愛子先生は同行の理由を聞きたいので

 助手席へ。ハジメ達は後列シートと

 ベンチシートに分かれて下さい」

「「「「「了解っ」」」」」

ハジメ達が頷くと、5人は慣れた動きで

バジリスクに乗り込んでいく。

「さぁ。園部さん達も」

私は、バジリスクの後部ランプを

開いて促す。

 

「す、すげぇ。俺、軍用車乗るの

 初めてだわ」

「お、俺もだぜ」

タラップから中に入りつつも興奮を

隠せない様子の相川と玉井。

「こ、これ、新生君が作ったの?」

「えぇ。私のオリジナルです」

「す、凄すぎ」

乗りながらも問いかける園部に答えると、

更に驚いた様子のまま乗り込む菅原。

「お、お邪魔しま~す」

そして、最後に宮崎が萎縮しながらも

乗り込むのを確認すると、ランプを閉じて

運転席に乗り込んだ。

 

慣れた手つきでエンジンを始動する。

「総員、傾注。これより我々は北の

 山脈に向かう。道中、戦闘が予想

 される。なのでハジメ達はジョーカーを

 纏って戦闘の用意を」

「「「「「了解っ」」」」」

と頷くと、ハジメ達と私は左手首の

ジョーカーのスイッチを押し、ジョーカーを

起動。瞬く間にそれを纏った。

 

「あれ?何だろ?俺達いつの間にSFの世界

 に迷い込んだ?」

「心配するな淳。それは俺も思った事だ。

 ……ここはミリタリーテイストの世界

 なのさ」

「……あぁ、そうか。これが『リアル

 地球なめんなファンタジー』か」

後ろで何やら男子達が話し始めたが……。

 

「では、出発」

それを無視して私はバジリスクを

発車させた。

 

ちなみにしばらくして。

「そう言えば、新生君免許は?」

「……持ってると思いますか?」

「そうですよね」

と言うやり取りが先生と私の間で

されたのだった。

 

 

その後、バジリスクを走らせながら私は

愛子先生から同行を申し出た理由を

聞いていた。

先生の話によると、護衛隊として一緒に行動

していた男子、清水幸利が行方不明になった

そうだ。……清水と言えば、普段から影の

薄かったあの男か。大人しい、と言うか

余り目立つような男では無かったが……。

彼の居た部屋で争ったような様子は無く、

『闇術師』という天職を持つ清水が、その辺

のチンピラに簡単にやられた、とは

考えていないようだ。園部たちは、

自主的な失踪とも考えているらしい。

 

そして、彼女達はウルの町などで情報収集を

行っていたが、清水を発見する手がかりは

見つからなかった。しかし、北の山脈には、

魔物の一件で人が寄りつかない。そして、

最近の山脈の情報は禄に入ってこない。

愛子先生達は、当初そんな所に清水が

行くはずが無いと思っていた。しかし、

それが100%か?と言われるとそうでは無い

ようだ。なので、自分達もウィル捜索の

傍らで、清水に繋がる手がかりを探したい

ようだ。

 

 

「成程。そう言う事でしたか」

私は先生の話に頷きながらバジリスクを

走らせていた。

そして、チラリと先生の目元に目をやれば、

化粧で隠しているつもりかもしれないが、

私にはその目元にある濃い隈がはっきり

見えていた。

恐らく、昨日私と話した後、殆ど

眠れなかったのだろう。

「……寝てて構いませんよ」

「え?」

「運転しているのは私です。……化粧で

 隠しているつもりでしょうが、凄い

 ですよ。隈」

そう言って、私は左の人差し指で、

ジョーカーのメット越しに目元をトントンと

叩く。

 

「いや、でも……」

「寝不足で山を歩かれる方が危険です。

 だから少しでも寝て、山歩きに備えて

 下さい」

「うっ。……で、では、お言葉に甘えて」

私の言ってる事が正論だと思ったのか、シート

に体を預けた先生は、物の数秒で寝息を立て

始めた。

 

ちなみにその頃、後ろでは男子がハジメを

問い詰めているし、女子達はシアとルフェア

の恋バナに興味津々で話しかけている。

何とも、平和と言うか。緊張感が無いと

言うか。

 

そんな事を考えながら、私はバジリスクを

走らせていた。

 

しかし、闇術師、か。闇系統の魔法ならば、

以前戦ったヒュドラの黒頭のように、精神攻撃

をしてくる可能性が高いか。

聞けば、清水の失踪時期と魔物の集団の出現

時期が、妙に重なる。精神への攻撃を得意と

するのならば、洗脳なども可能かもしれない。

……まさか、とは思うが。警戒はしておくか。

 

そう考えながら、私はバジリスクを走らせる。

 

やがて、しばらくすると北の山脈の麓に

到着した。

 

北の山脈は、標高千メートルから八千メートル

級の山々が連なっている。

そしてここは、エリア毎に季節や状況が異なる。

秋のような景色の場所もあれば、夏のような

景色の場所。枯れ木だけの場所など、実に

様々だ。

 

加えて、今見える山脈を越えても、更に向こう

には山脈があり、現在において確認されて

いるのは、4つ目までだ。

また、第1の山脈で一番標高が高いのが、

あの『神山』だ。今私達がいるのは、神山の

東1600キロメートル程の地点だ。

 

そして今、バジリスクはその鮮やかな景色の

中に停車した。

ランプを開けて降りた女子達が、周囲の

景色に見とれている。

「先生、着きましたよ。先生」

「ん、ん~?」

私は、愛子先生の肩を揺すって起こした。

コシコシと手の甲で目元を擦った先生は、

ぼ~っとした表情で私を見つめる。

「新生、君?」

「はい。新生司です。起きて下さい。

 山脈に着きましたよ」

私は、先生の瞳がのぞき込めそうな距離

まで顔を近づけ、肩を揺する。

 

すると……。

「あぁ、おはようございま……ッ!?」

若干寝ぼけていた先生の顔が、見る間に

赤くなっていった。

「つつ、着いたんですね!それじゃあ

 早速探索開始ですね!」

そして、先生は顔を赤くしたまま、

バジリスクを降りていった。

 

「何なのだ?一体?」

と私は首をかしげながら、バジリスクを

降り、それを宝物庫の中に収納。そして

昨日の段階で製作していたドローン、

『サイファー』を取り出した。

 

小さな円盤のような無人機サイファーを

合計10機を召喚。私のジョーカーZの

前にディスプレイが表示され、操作して

いくと、ジョーカーZとサイファー10機の

リンクが確立されて行く。

 

これで良し。エンジン始動

私が命令を下すと、サイファーが

『フィァァァァァッ!』という甲高い

回転音と共に浮上。四方へと散っていった。

これで空の目は良いだろう。次は……。

 

パチンと指を鳴らす私。すると、私達の

眼前に、1000体にも及ぶガーディアンが

出現した。これに驚く先生達。しかし

無視して私は命令を下す。

 

「第1から第9までの各大隊100人は

 山脈を進行。ウィル・クデタを捜索。

 本人だけでなく、彼に繋がると思われる

 痕跡を探せ。第10大隊は私達と共に

 移動。最優先目標は愛子先生たち7人の

 警護だ」

私が命令すれば、ザッと一糸乱れぬ敬礼を

するガーディアンたち。

「よし、行けっ」

そして、最後にそれだけ言えば、900人の

ガーディアン達が足早に山へと入って行った。

 

「さて、彼等の報告を待ちつつ我々も

 進みましょう。行きますよ」

「「「「「了解」」」」」

タナトスを構えた私が歩き出すと、

同じようにタナトスを構えたハジメ。

アルテミス装備の香織。バアル装備の

ルフェア。両手のビーム砲をスタンバイ

させるユエ。ハンドアックスモードの

アータルを手にするシア。5人が

続いて歩き出し、ガーディアン達も

周囲に広がりながら歩き出した。

それに一拍遅れて慌てて歩き出す先生達。

 

こうして、私達のウィル・クデタ捜索が

始まった。

 

「魔物の目撃情報があったのは、山脈の

 中腹。六合目から七合目辺りです。

 恐らく、ウィル・クデタのパーティも

 その辺りを調査したでしょうから、

 まずは六合目辺りを目指して前進します」

私は移動しながら目的地を話す。

 

本当は全速力で六合目に向かいたい所だが、

ガーディアン達が先行しているし、いざと

なれば、ガーディアンの信号を頼りに

空間ゲートを繋げれば良い。

なので、私達は歩きながら山を移動していた。

 

その最中。

「……何だか、南雲たちの動きって

 まるで軍隊だよな?」

「うん。白崎さんも、あのシアちゃんとかも。

 まるで本物の軍人みたい」

後ろの護衛隊6人の話声が聞こえてきた。

私に聞こえないようにしているのだろうが、

ジョーカーの集音機能を持ってすれば、

これくらい聞こえる。

「何がどうなってあんな風になったん

 だろうな」

と、相川が呟く。

 

何が、か。簡単な事だ。決意と覚悟を胸に、

共に戦った。それだけの事。

しかし、あの6人には決意も覚悟も無い。

聞いた話では、引きこもっていた生徒の

中で、愛子先生の姿勢に感銘を受けて、

その中の彼等6人が護衛隊として先生と

共に行動していると聞いたが。

 

私に言わせれば、それは所詮『逃げた』

だけだ。

愛子先生の天職は『作農師』。つまり

非戦闘職だ。戦闘にかり出される事はまず無い

だろう。その先生と一緒にいれば、

働いていると言う自己満足と共に、何も

していないと言う周囲からの批判に対する

『否定材料』にもなる。

 

とどのつまり、彼等は戦いたくは無い、

もっと言えば危険なことはしたくないが、

だからといって批判されたままでは嫌だ、

と言う考えから愛子先生のところに居る

とも考えられる。

 

無論、この選択が彼等、或いは彼女らの

意識しての事かは分からない。しかし、私に

してみれば、6人は……。

 

『戦いたくは無いが、それを理由に責められる

のも嫌だ。だから先生の護衛をしよう』という

思いに、意識してるにせよ、無意識にせよ、

動かされているように私は思える。

 

まぁ、つまり何が言いたいのかと言うと、

彼等は中途半端なのだ。

護衛隊、それは護る部隊。つまり、目標を

敵から護る隊だ。護衛隊、と大層な名前を

付けた所で、戦える訳がない。

名ばかりの集まりだ。

 

そう言う意味では、6人は戦力として

換算など出来るはずもない。

戦闘になった時、足を引っ張らないで

欲しいものだ。

 

人は変わる。極限の状況などを経験する事で、

変質する。より強くなる事もあれば、より

弱くなる事も。だが彼等6人は前者でも後者

でも無い。まだその二つの間に立っている

だけだ。

 

……能力はある。後は、覚悟と決意があれば、

彼等だって強くなれるだろうに。

 

そう、私は考えながら山道を歩いていた。

 

やがて、1時間と少しした頃。

 

「ッ、これは……」

斥候のガーディアン部隊から送られてきた

映像に、私は左手を掲げてグッと手を

握りしめる。止まれの合図だ。

その合図にハジメ達と護衛のガーディアン隊

が足を止める。

 

「新生君?どうかしました?」

その様子を訝しんだのか、先生が私に声を

かけてきた。

「斥候で出したガーディアン部隊が川辺で

 散乱した防具と鞄を発見しました。

 これから、そことここを繋ぐ空間ゲートを

 開きます」

そう言うと、私は眼前の空間を歪め、ゲート

を開いた。

 

その時。

「えぇ!?し、新生君ってこんな事も

 出来たんですか!?」

空間を歪めるのを見るのが何気に初めてな

先生はとても驚いた様子だった。

「えぇ。と言っても、正確な座標が

 分かっていて初めて空間を接続

 出来るので、万能という訳では

 ありませんが」

「いやお前万能の使い方間違ってねぇか?

 普通空間を繋げるなんてSFの

 技術だぞ?それを個人で出来てるお前が

 万能じゃないなら、万能=神様並みの

 力使えないといけなくなるからな?」

「「「「「確かに」」」」」

相川がツッコみ、他の5人がうんうんと

頷いている。

 

……まぁ良い。

「それより、行きますよ」

そう呟きつつ、私達に促されるまま、私達6人、

先生達7人、ガーディアン隊がゲートを

通り抜けた。

 

通り抜けた場所は、六合目にある、中規模の

川辺だった。

そこで周囲を警戒するガーディアンの一個大隊

と合流した。円を描くように周囲を警戒する

ガーディアン達。その円の中心には、

ラウンドシールドと鞄が落ちていた。

 

ただし、シールドはひしゃげ。

鞄は紐が半ばから千切れていた。

 

「……どう見ても、ただ捨てた。

 と言うより、戦闘中に紛失した、

 と見るべきでしょうね」

「と言う事は、この辺りで戦闘があった

 のかな?」

「恐らくは」

ハジメの疑問に私が答えると、先生達の

顔に緊張が走る。その時。

 

「あ。司くん、あそこ」

アルテミスを手に周囲を警戒していた香織が、

何かに気づいて木の一部を指さした。見ると、

木の皮が剥がれていた。場所は、地上から

二メートルの位置だ。

「高い場所ですね。人間、なわけ無い

 ですよねぇ」

と、剥がれた場所を見上げながら呟くシア。

「……何かが擦れたのでしょう。しかし、

 最低でもあの高さに頭か肩が来ると

 すれば、身長は3、4メートル。それも

 恐らく、二足歩行タイプの魔物でしょう。

 そう考えれば……。総員、警戒レベルを

 上げるように。今後、戦闘が予測されます」

 

「「「「「了解」」」」」

私の言葉に頷き、ハジメ達の声が、真剣さを

帯びていく。

「先生。先生と園部さん達は、ガーディアン

 部隊に護衛されながら付いて来て下さい。

 それと、戦闘経験は我々の方が上です。

 できる限り、我々の指示に従って

 下さい。良いですね?」

「は、はいっ!分かりました!」

緊張しながらも頷く先生。他の6人も、

同じような表情のままに頷いた。

 

「では、前衛は私、ハジメ、シア。

 後衛に香織、ユエ、ルフェア。

 ガーディアン第10大隊は後方を警戒

 しつつ、愛子先生達7人の護衛を」

「「「「「了解」」」」」

「では、出発」

 

タナトスを構え先頭を歩き出す私に、

同じくタナトスを構えるハジメ。

通常サイズのアックスモードのアータルを

構えたシアが続く。

更に魔力ビーム砲をスタンバイさせるユエ。

アルテミス装備の香織。バアルを2丁持つ

ルフェアが後衛として続く。その後ろを

付いてくる先生達。それを護衛する

ガーディアン達。

 

 

木の擦れた場所から、移動した跡を追って

行くと、その先で戦闘の痕跡を発見した。

折れた木々。踏み荒らされた草木。

そして、血痕と折れた剣。

特に血痕を前にした先生達は、表情を

強ばらせていた。

 

「……。彼等は、魔物に追われ逃げていたのか」

痕跡から察するに、さっきの川辺かどこかで

魔物と遭遇。戦闘は不利と悟ったのか、逃走を

図るが、それを後ろから魔物が追撃したように

思える痕跡の数々。

「……高ランク冒険者たちが逃げ出した魔物

 って一体?」

「分かりません。とにかく、進みましょう」

周囲を警戒しながらもハジメの言葉に、

今はそれだけ言うと、再び歩き出した。

 

その途中。女性の写真が入ったロケットや

遺品を発見。身元の特定に使えそうな物だけ

をとりあえず回収しつつ、私達は進んだ。

 

その後、どれくらい探索したのかは分からない

が、既に日が沈みかけている。

このままでは野営をするしかない。

 

しかし気がかりだ。私達は既に八合目と

九合目の間くらいに位置している。しかし

一向に魔物と遭遇しないのだ。別行動を

しているガーディアン達も合流させ、

ある程度範囲を絞って捜索しているが、

魔物と遭遇しないのだ。

 

「……妙ですね。これだけの人数で捜索

 しているのに、野生動物しか遭遇

 していない。魔物はどこに?」

「ん。返って不気味」

ユエの言葉に、ハジメ達が頷く。

 

しかし、時間が時間だ。やむを得ないが、

今日はこの辺りで野営をしなければ

ならないだろう。

私がそう思っていた時。

 

これまでよりも、大きな破壊の跡を

発見した。

そこは大きな川だった。しかしその一部が

大きく抉れていたのだ。

周囲では木々や地面が焦げ、横倒しに

なっている木々も多い。

「これって……。まさかビーム攻撃?」

周囲の惨状からして、まさかの単語を口に

する香織。しかし、そう思うのも無理は

無い。どう見ても簡易な魔法と物理攻撃で

このような芸当が出来るとは思えない。

「ん。香織、覚えてる?あのヒュドラの

 銀色頭」

「ッ。それって、確か口から光を放った」

「ん。……あいつクラスなら、多分これくらい

 出来て当たり前」

 

 

香織とユエの脳裏に浮かぶのは、オルクス

大迷宮最後の敵、7つの首を持ったヒュドラ。

その銀色頭の攻撃だ。

「あの、白崎さん。ヒュドラ、って?」

それが気になったのか声を掛ける愛子。

「……私が、シアちゃんと出会う前に

 ハジメくん達と戦った魔物です。

 その魔物は、7つの頭があって、

 そのうちの一つ、銀色頭は口から

 ビームみたいな攻撃を放ってくるん

 です。それこそ、アニメとか特撮の

 怪獣みたいに。……そして、多分

 あいつの強さは、ベヒモス以上」

「……攻撃の感じからして、この攻撃の主は

あのヒュドラと同格か、それを少し

下回っている程度。……でも、ベヒモス

より強いのは間違いない」

 

「そ、そんな……!」

「口からビームとか、もはや魔物って

 レベルじゃねぇだろ……!」

ユエと香織の言葉に、驚く園部。

同じように驚きながらもそう吐き捨てる玉井。

 

「……どうやら、冒険者たちはここで

 挟まれたようですね」

そんな中、そう呟くのは、川辺をハジメと

調べていた司だ。

「ど、どう言う意味なんだ新生?」

その意味が気になって問いかける仁村。

 

 

「ここにある足跡。これは恐らく、ブルタール

 と言う魔物の物です」

「ブルタール?」

「はい。簡単に言うと、オークやオーガ、

 もっと分かりやすく言うと、日本の

 鬼みたいな魔物の事です。二足歩行の

 人型で、防御力を底上げする金剛って言う

 魔法の劣化版、『剛壁』という固有

 の魔法を持ってるんです。それと、

 僕が呼んだ書物によると、本来ブルタール

 は二つ目の山脈の、更に向こう側の魔物の

 はずなんですが……」

と、愛子先生に説明するハジメ。

 

「あくまで推察の域を出ませんが……」

と、私は前置きをしてから状況の

説明を始めた。

「恐らく、あの川かどこかでウィル・

 クデタの一行はブルタールの群れか

 何かに遭遇。不利を悟った彼等は

 逃走を図るも、追撃するブルタール

 に追われ、ここまでやってきた。

 しかしそこで、ブルタールとは

 違う別の『何か』が出現。

 挟撃される結果になったと思われます」

「その、何か、って?」

恐る恐る、という感じで私に問う

先生。

 

「流石にその正体までは私でも。

 しかし、ブルタールにこのような

 攻撃が出来るとは考えられません。

 まず間違い無く、ベヒモスなどよりも

 格上と考えるべきでしょう」

「それで司。その『後』は?」

「……同じく推察ですが。彼等の逃げ道は

 二つ。前と後ろを挟まれたのならば、

 咄嗟に左右のどちらかに逃げるはず。

 つまり、この川の上流か下流方向にです。

 しかし、私自身上流は考えにくい

 と思って居ます」

「どうして?」

「一つは、ウルの町とは逆方向である事

 です。もう一つは、山を越えればその先に

待ち受けているのは、こちら側より

強力な魔物の可能性が高いですし。

もう一つ。ブルタールの足跡は川辺

ギリギリにありました。もし仮に

彼等が上流へ行こうとしたなら、川の前で

北方向へ方向転換し、ブルタールも

それを追うように体を北へ向ける。つまり、

足跡は北側を向いていなければなりません。

が、足跡は川の方を向いている。

……可能性として考えられるのは、川に

潜り下流へ流された、と言う事です」

「となると、優先して探すべきは下流方向か」

川の下流の方を見つめながら呟くハジメ。

 

「念のため、第1から第5までのガーディアン隊

 は上流方向の探索を行わせます。

 第6から第10までの大隊は我々と共に

 下流へ。行きましょう」

 

と言う事で、私達は下流へと下っていった。

そして……。

 

「ッ。……レーダーに感あり」

先頭を歩いていた私が呟くと、後ろの

皆が驚いた様子だった。

しかし……。これは……。

「司、数は?」

「……数は、一人です」

「ッ。……そっか」

私の言葉に、一瞬息を呑むハジメ。

 

「でも、一人でも生きているのなら

 まだ望みはあるし、その人もきっと

 心細い思いをしているかもしれない。

 だから、行こう。ハジメくん」

「そうだね。早く助けてあげないと」

香織に励まされたハジメ。

その様子を横目に見つつ、私達は急いだ。

 

レーダーが感知した場所は、大きな

滝の裏にある洞窟だった。

「この滝の裏に、洞窟が?」

「えぇ。恐らく」

先生の言葉に頷く私。

「ユエ、お願いします」

「ん、任せて」

頷き、一歩前に出るユエ。

 

「『波城』、『風壁』」

水と風の魔法を使い、滝を左右に割るユエ。

私達は外にガーディアン達を残し、先生たち

と中へ入っていった。

 

洞窟は、入ってすぐ上に向かって上り坂

になっていた。その坂を上るとそこには

それなりの広さの空洞があった。

天井からは水が流れ、光が差し込んでいた。

そして空洞の一角に、青年が横たわっていた。

 

すぐに側に寄って容態を確認する香織。

彼女のジョーカー・スカウトには、人や

物をスキャンする装備があるのだ。

「香織、その青年の容態はどうですか?」

「目立った外傷も無し。餓死の方も、

 食料が残ってるから大丈夫みたい」

チラリと彼の側に視線をやれば、そこには

まだ少し食料の入っている鞄があった。

「ただ眠っているだけですか。起こしても

 大丈夫そうですか?」

「うん。顔色が悪いけど、多分精神的な物が

 原因だと思うから、起きれば会話が出来ると

 思う」

 

「そうですか。では……」

私は青年の前に膝を突き、ゆさゆさと体を

揺すった。

「起きて下さい。あなたを助けに来た者

 です。起きて下さい」

そうやって、肩を揺すったり頬をペチペチと

叩いていると……。

「ん?だ、誰?」

ゆっくりと青年の瞼が開いた。それを確認

した私は、メットを取りそれを脇に置いた。

 

「失礼ですが、あなたの名前は?私達は、

 フューレンのギルド支部長、イルワ・ 

 チャング氏から、この山脈の調査に来た

 あなた達を捜索する為、依頼を受けた

 冒険者です」

「イルワ、さん?……ッ!」

イルワの名前を聞くと、数秒して目を見開いた

青年は、体をガバッと勢いよく起こした。

 

「そうだ。僕は……!」

やがて、ガタガタと震え出す青年。

そんな青年の肩に、私は手を置いた。

「辛いでしょうが、あなたは誰で、

 何があったのか、私達に話して下さい。

 あなたは、ウィル・クデタさん

 ですか?」

「え?どうして、僕の名前を……?」

どうやら、彼がウィルで間違い無いようだ。

 

「先ほど私達は依頼を受けてきた、と

 言いました。依頼主は、あなたの実家、

 クデタ家です。内容は、息子である

 貴方の捜索です」

「ッ!そう、だったんですか」

何か、思う所があったのか驚いてから

俯くウィル。

 

「何があったのか、詳しく教えていただけ

 ませんか?」

彼には悪いが、彼の感傷に付き合う気は無い。

情報が必要だ。

 

「はい。お話、します」

そう言って彼が話し始めたのは、内容は、

殆ど私の推察通りだった。

 

彼等は五合目辺りでブルタールの群れ、10匹

と遭遇。不利を悟って逃走するも、

逃げる中であの六合目の川の所で盾役と

軽戦士がやられ、何とかあの大きな川まで

逃げるも、ウィル曰く『漆黒の竜』が現れ、その

ブレスでウィルは吹き飛ばされ、川へ転落。

流される中に見たのは、何とか竜のブレスから

生き残った二人が、ブルタールと竜に

挟撃される所だった。

 

そして、ウィルは何とかこの洞窟を発見し、

ここに身を潜めていた、と言うのが事の

顛末のようだ。

 

やがて、ウィルは慟哭と共に自分を最低だと

罵り始めた。

これには誰も何も言えない。が、彼の感傷に

付き合っている暇はない。

 

『ガッ!』

私は、無言で彼の胸ぐらを掴み上げた。

 

「今ここで貴様が倒れたら、5人の死は

 どうなる……!」

「え?」

「5人の死を、自分の責任だと感じるのなら、

 生き残った者として、使命を果たせ……!

 彼等の死を、無駄にするな」

「それは、どう、いう……?」

「お前達は、ここに調査へ来たはずだ……!

 そして得た物を、お前が自分で持ち帰れ……!

 それすら出来なければ、5人は本当に

 犬死にだぞ……!もし、彼等に報いる気が

 あるのなら、フューレンに戻って、彼等に

 先立たれた者たちに伝えろ……!

 彼等のおかげで、自分は依頼を全うしたと。

 彼等のおかげで、自分は今生きていると」

そう言って、私はウィルを放した。

 

地面に尻餅をつくウィル。

「彼等を犬死ににするな……!それが、

 残されたお前に出来る、彼等に報いる

 と言う事だ……!」

「僕に、出来る事……」

 

その後、しばらくウィルは自己と向き合っていた。

しかし……。

「悪いが、深く考えるのは後です。もう

 日の入りまで時間が無い。可能ならば、私達

は日が沈む前に山を下りたい。

すぐに移動します」

「……分かりました」

静かに頷くと、立ち上がるウィル。

 

「そういうわけです。我々はすぐに下山

 します」

私としてはすぐに下山したい。夜の山岳部

での戦闘経験が、私達には無い。ましてや

黒い竜という、不確定要素が存在する

以上、夜間戦闘は避けたい。

彼等(お荷物)』もいるからな。

そう考えながら、私は園部たちを見る。

ハジメ達もそれを理解してか、5人とも頷いた。

しかし……。

「ち、ちょっと待てよ新生。調べなくて

 良いのか?魔物達の事」

「そ、そうだよね。町の人達もそれで

 困ってるみたいだし」

肝心のお荷物が、そんな事を言い出したのだ。

 

「却下です」

「ど、どうして!?」

「どうして、ですか?理由を説明するので

 あれば、我々の第1目標はウィル・クデタ

 の発見及び保護と護衛。確かに魔物の

 集団についても、謎は残っていますが、

 物事には優先順位があります。それに、

 夜に、強さが全く分からない黒い竜。

 戦力として換算出来ない、護衛対象も

 数人。これで戦闘などすれば、戦う

 こちら側にどれだけ負担がかかると

 思ってるんですか?」

「……それ、まるで私達を戦力として

 見てないみたいに聞こえるけど?」

園部が、私を睨み付けながらそう言う。

しかし……。

 

「えぇ。事実です。……私はあなた方を

 戦力として到底見ていません」

「ッ!?舐めてるの新生!?私たちだって、

 あなたが作った武器があるんだよ!

 魔物くらい!」

「武器が使える=戦えると考えているの

 なら、死ぬぞ!」

 

叫ぶ園部と、それに同調しようとする5人。

しかし、私のその言葉に、彼等は

黙り込んだ。

 

「言ったはずです。戦闘経験は我々の方が

 上だと。可能な限り指示に従え、と」

その言葉に、5人は黙り込むが、どう見ても

納得出来ている様子ではない。

まぁ良い。

 

「急いで下山しますよ?」

それだけ言うと、私はウィルを促し

歩き出した。

ハジメ達がそれに続き、先生も園部達を

励ましながら続いていた。

 

そして、出口に近づいたとき。

 

私のレーダーに引っかかる存在が居た。

それは間違い無い。『奴』だ。

 

奴の存在を近くした瞬間、私は叫んだ。

 

「総員戦闘態勢!」

「え?」

突然の言葉に、先生達が反応出来ない。

 

「上空に飛行物体を確認!恐らくは!」

 

私が相手の正体を叫ぼうとした瞬間、

滝壺の外で黒色の光が瞬いた。

 

     第31話 END

 




次回は、黒竜との戦いです。

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