ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~ 作:ユウキ003
~~~前回のあらすじ~~~
ウィル・クデタ探索の為に山脈に向かう司たち。
しかし町を出た所で待っていた愛子達7人も
一緒に行くことになり、司は仕方なく彼等の
同行を許可する。山脈に到着した司は、
ガーディアンとドローンを放ち捜索を開始。
戦闘の跡を追っていき、ついに唯一の
生存者、ウィル・クデタを滝壺裏の洞窟で
発見する。しかし、そこを出ようとした直後、
彼等は何者かの攻撃を受けるのだった。
『ドドドォォォォォォンッ!』
外で何かが光ったかと思った次の瞬間、
爆音が響き渡った。
「「「きゃぁぁぁぁぁっ!」」」
突然の爆発に、園部たちが悲鳴を上げる。
咄嗟に外の状況に目を向けるが、今の攻撃は、
どうやら外のガーディアン隊を狙った物の
ようだ。しかし、今の一撃で外に居た500体
のガーディアンの、3分の1ほどが撃破された。
既に、ガーディアン達が応戦を開始しているが、
並みの鎧ならば簡単に貫通するAP弾も、
敵には効果が無いようだ。
「すぐに外に出る!敵がガーディアンと
戦っている今のうちだ!」
そう叫んだ次の瞬間、再びブレスと思われる
攻撃の爆音が響く。
レーダーで確認すれば、ガーディアンはもう
一個大隊程度しか残っていない。
「ユエ!」
「んっ!」
私が名を呼ぶと、意図を察したのか、先ほどと
同じように波城と風壁で滝を左右に
割り、私達は滝の外に出た。
直後、私達の頭上を影が横切った。
私達全員、空を見上げる。
そこに居たのは、確かに竜だった。
体長は七メートル程度。長く鋭い爪を
持った前足。背中から生えた大きな翼。
その翼を見るに、魔力を纏っているよう
にも見える。そして、その漆黒の鱗を持つ
竜の、金色の双眸が、私達を空の上から
見下ろしていた。
そしてその体から放たれるプレッシャーに、
愛子先生や園部たち、ウィルは戸惑い、
震えている。
周囲に目をやれば、ガーディアン達は
生き残っているが、どう見てもあの竜に
攻撃が有効とは思えない。
攻撃を中止。各自その場で待機。
咄嗟に命令をジョーカーから発し、動きを
止める。
そして、改めて竜への警戒を強める。
と、その時。
気づいた。奴の視線は、この中に一人に
向けられていると……。
それは、ウィルだ。
ウィルへ視線を向けていた奴は、その顎を
開き、口内にエネルギー、魔力を溜めていく。
「ッ!ブレスだ!」
それに気づいたハジメが叫ぶ。
「総員退避!」
私が叫ぶと、私、ハジメ、香織、ユエ、シア、
ルフェアが四方へと散る。
しかし、これに対応出来ない者たちが
居た。愛子先生と園部達、ウィルだ。
8人は驚き、怯え、硬直したままだ。
「やはりかっ!」
私は叫びながら空間を蹴って反転。彼等の
前に着地する。
「お兄ちゃん!」
「来るなっ!私だけで大丈夫だ!」
戻ってこようとするルフェアに叫び、止める。
と、次の瞬間。
黒竜からレーザーの如きブレスが放たれた。
空間を曲げて逸らす!?いや、間に合わない!
少しでも後ろに攻撃を行かせるわけには
行かない……!ならば……!
体内リミッター、フルリリース!!!
次の瞬間、黒竜の放ったブレスが跡形も
無く、音も無く、消えた。
強烈な閃光に、視線を逸らしていた愛子達は、
自分の前に立つ少年の背中を見つめている。
それは、全身から無色のオーラを放つ司だ。
「し、新生、君?」
恐る恐る、と言った感じで彼に声を掛ける愛子。
しかし彼は返事を返さない。
と、次の瞬間。再び黒竜がブレスを放ってきた。
しかしそのブレスは、ある程度司に近づいた
瞬間、まるでテレポートでもしたかのように
消滅した。
これには、驚きと警戒を含んだかのように
うなり声を発する黒竜。
しかし、司のオーラは霧散してしまった。
それは、彼が体にリミッターをかけ直したからに
他ならない。
一瞬とは言え、体内のリミッターを全て
解放してしまった。正直、これは危険だ。
私の体内リミッターを全て外す、と言う事は、
体の中に宇宙を宿している私の力を、
現実世界に顕現させる、と言う事だ。
そして、うぬぼれているように聞こえるかも
しれないが、それは膨大なエネルギーが、
いや、膨大、等という言葉では言い表せない
程に高純度、且つ、無限のエネルギーが
現実世界に現れる事になる。
そしてそれは、『世界』そのものを破壊出来る
だけの力がある。
いや正確には、私の力に『世界が耐えられない』
と言うべきだろう。
下手をすれば、この世界が崩壊する。
だから私は、全力で戦う事が出来ない。
しかし、全力は必要無い。全力でなくとも、
あの黒竜は倒せるからだ。
「……先生達はここから動かないように。
奴は私達が倒します」
肩越しに振り返り、そう言うと私は歩き出す。
後ろでは、あの黒竜の殺気が籠もったブレス
を前にしたせいか、皆顔を青くし震えていた。
「ハジメ達は出来るだけ高火力の武装で支援を。
奴の鱗は、バアル程度では貫徹出来ない。
ミスラなどで支援をお願いします」
「「「「「了解っ!」」」」」
私の指示に従い、5人が動き出す。
「そこだっ!」
ハジメのタナトスが、炸裂弾を撃ちまくる。
黒竜は、その炸裂弾を避ける。だが……。
「ふぅっ……。そこっ……!」
しかし、それを避けるために翼をはためかせた
直後、胴体に香織の放ったミスラの19ミリ弾
が命中する。
19ミリ弾は、どうやら奴の防御をも超えて
ダメージを与えられるようだ。
黒竜は悲鳴を上げながら空中でバランスを
崩した。
「『禍天』」
そこに、ユエの重力魔法、禍天が襲いかかる。
禍天は重力を発生させる球型の物体で
相手を押しつぶす技だ。
バランスを崩した所への攻撃のため、黒竜は
避ける事が出来ず、禍天に押しつぶされる
ように地面に叩き付けられた。
「そこですぅっ!」
そして、禍天で動けない黒竜にハンマーモード
のアータルを掲げ跳躍するシア。
彼女はタイプSCの背部ブースター、
更にアータルの内蔵スラスターを推進力
にして黒竜へ突撃。動けない奴の頭に、
アータルを振り下ろした。
そして、命中と同時に周囲に爆音が響き渡る。
視界が砂煙で遮られるが、問題ではない。
問題なのは、奴がすんでの所でアータルの
一撃を回避した事だ。
『グンッ!』
「はえ!?」
私は咄嗟に空間を歪め、シアの肩を掴んで
引き寄せる。次の瞬間、砂煙の中からユエ
目がけて火炎弾が発射される。
しかし、私は火球に対し空間を歪め、黒竜へ
と返した。
放ったはずの火球が自分に戻ってきた事に
驚いた黒竜は、炎に体を焼かれながら咆哮を
上げる。
すると今度は、黒竜はブレスを吐こうと
口を開き、魔力を溜める。しかし狙いは私達
ではない。ウィルだ。
途中には障害物があるが、それを撃ち抜いて
もウィルに届く威力は、あのブレスには十分に
ある。
「僕達ガン無視!?させないけどさっ!」
その時、ハジメがアンカーランチャーを
打ち出し、黒竜の口を塞ぐように巻き付けた。
これに驚き、何とか顎の力だけで口を
開けようとする黒竜。
「させないっ!」
更に香織もアンカーを発射し、二重に
口を塞ぐ。
これで更に口が開かなくなる黒竜。
ブレスが吐けないのなら、今のうちか。
一気呵成に、畳みかける。
「ユエ!奴を空中に磔にして下さい!
シア!奴を更に上空へ打ち上げて下さい!
最後は、私がやります!」
「んっ!任せて!」
「おっしゃぁ!やったるですぅ!」
ユエが次の魔法の準備に入る。結果的に、
禍天は消滅する。それを好機とみたのか、
体を起こそうとする黒竜。
だが……。
「まだ、寝てなさいっ!」
次の瞬間、ジョーカーのパワーを生かした
ルフェアの踵落としが、黒竜の頭に
突き刺さり、顔が地面に埋まる。
「ルフェア……!離れて……!」
そして、術が完成したユエが叫び、
ルフェアが黒竜の頭を蹴って離脱。
次の瞬間。
「『重縛』」
ユエの生み出した、禍天と同時期に開発した、
オリジナルの技『重縛(じゅうばく)』が発動した。
禍天と同じ、重力を放つ球体が黒竜を中心
にいくつも出現。そして次の瞬間、無数の
球体から重力が発せられ、黒竜は重力に
流されるまま、空中へと『上げられた』。
そして、ある程度の高さまで上がると、
今度は黒竜の周囲に円を描くように
球体が並び、全方位から重力を浴びせる。
これで黒竜は、空中に磔にされたのだ。
禍天は、重力を持って相手を押しつぶす攻撃だ。
しかしこの重縛は、重力で相手を縛る技だ。
原理は、ユエの超必殺技、八岐大蛇と
同じだ。
魔力で出来た球体を生成し、その魔力を
使って重力魔法を行使。球体から重力を
放つ事で、相手を縛るのだ。
最も、これも私と言う魔力タンクが
あってこそ放てる技だ。
重力に縛られ動けない黒竜。
「っしゃぁ!行くですぅ!」
そして、その黒竜目がけてブースター
から白煙を吹き出しつつ迫るシア。
彼女と黒竜が近づく瞬間、ユエが
シアに干渉しないように重縛を解除
する。体が動くようになる黒竜。
しかし、その時既に遅かった。
「どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
『ドゴォォォォォンッ!』
黒竜の顎を、アータル・ハンマーモード
の一撃が捉えた。
口内を切ったのか、口から血を流しつつ
上に打ち上げられる黒竜。
「司さんっ!」
そして、後は任せた、と言わんばかりの
スマイルで私の方を見ながらサムズアップ
するシア。
「上出来です、シア」
私は、足腰に力を込める。そして……。
ボゴォッと言う音と共に地面が砕ける
程の速度とパワーで跳躍。瞬く間に
黒竜に接近し、その腹に深々と拳を
突き刺した。
砕け散る鱗。黒竜は口から大量の血を吐いた。
しかし、この程度では止まらない。
勢いを殺さず、私は黒竜を更に上に
殴り飛ばす。だが、それだけではない。
更に空間を蹴って黒竜を追い越し、その背
を殴りつけた。
再び地面の方に向かって、音速並みの速度
で落下していく黒竜。
が、終わらない。
私はその先に回り込み、更に殴る。
吹き飛ぶ黒竜。私はその先へ回り込み、殴る。
もしくは蹴飛ばす。
それを繰り返す。やがて……。
同じ事を繰り返す内に、司の攻撃を第3者の
視点から見ていたハジメ達の目には、
こう映った。
それは、空中の黒竜が、一箇所に止まりながら、
四方八方から殴られているようだった。
実際、司は殴ったすぐ後、それもコンマ1秒
にも満たない僅かな時間で反転し、殴る。
それを繰り返している今、黒竜は物理的
攻撃で一つの場所に固定されていた。
しかし黒竜は幸運とも言えた。
今の司は、速度面を重視した連続攻撃を
していた。これがもし、一撃必殺の威力を
持った拳だったなら……。
黒竜は肉塊と化していただろう。
そして………。
「これでっ」
司は、天然の鎧たる鱗が砕け散り、
ボロボロ、且つ、大量の血を流している
黒竜に向けて突進する。
もはや意識が飛びかけているのか、
何とか動こうとする黒竜。しかし、
無理だった。
「トドメッ!」
司の踵落としが、黒竜の脳天を直撃した
からだ。
ガコォンという音と共に、砲弾の如きスピード
で地表に叩き付けられた黒竜。もうもうと
砂煙が上がり、司は黒竜とウィル達の間に
着地した。
黒竜を倒し着地した私の元に、ハジメ達、
先生達とウィルが集まってくる。
ハジメ達は、まだ警戒しているのか、
タナトスやアルテミスを構えている。
そんな中。
「ねぇ司。このドラゴン、なんか変じゃ
無かった?まるで、僕達の事なんか、
眼中じゃないみたいに……」
「えぇ。動けない状態でなお、敵
である私達よりも、ウィルの殺害を
優先しているようでした」
「……まさか、操られていた、とか?」
香織が彼女なりの推察を呟くが、恐らくは
その通りなのだろう。
まぁ、どちらにせよ言葉が通じる相手
ではない。
その時、僅かながらも黒竜が動こうと
した。それに驚き、青ざめた表情で
後退る園部たちとウィル。咄嗟に彼等を
庇う愛子先生。そして、ハジメ達は武器を
構える。
しかしどうやら、ダメージのせいでまともに
動けないようだ。
「トドメを刺しておきますか」
私は、アレースを召喚しコネクタと
接続。プラズマソードと化したアレース
を構え、黒竜の前に立った。
逆手持ちでアレースを黒竜の頭に突き刺す
べく振り上げた。
と、その時。
≪ご、後生じゃ。待って欲しいのじゃ≫
不意に、声が聞こえた。
声と言っても、口から発せられ耳によって
聞く声とは違い、頭の中に直接響く声だ。
それを一言で表せば、テレパスのような
物だろう。そして、不思議と分かる。
その声の主は、目の前の黒竜だ。
「……お前、言葉が分かるのか?」
アレースを構えたまま、私は問いかける。
「まさか……。竜人族?」
そしてその問いかけに答えたのは、ユエ
だった。
「りゅ、竜人、族?って何ですか?ユエさん」
話しについて行けないのか、愛子先生は
ユエに質問する。
「竜人族って言うのは、今から500年前に
滅んだとされる種族の事です。彼等は
竜、つまりドラゴンとしての姿と、
僕達のような人の姿を持つ存在です」
そして、ユエに変わってハジメが先生達に
質問する。
≪如何にも。妾は誇り高き竜人族の一人じゃ≫
「やっぱり……」
と頷くユエ。しかし……。
「その誇り高き竜人族が、何故ウィルを
襲った。敢えて言わせて貰うが、誇り高い
と言う割には、自分より弱い相手を随分
しつこく狙っていたようだが?」
誇り高いと言うにしては、やった事と
かみ合っていない気がした。
そして私と同じ疑問を感じていたのか、
ハジメも頷く。
「どうしてウィルさん達の一行を襲った?
理由を話して欲しいんだけど?」
そう言いつつ、タナトスのグリップを
握り直すハジメ。
≪分かった。全てを話そう。しかし、その
前に竜化を解いても良いかの。もう、
魔力が殆ど残っておらんのでな≫
「竜化?解く、って?」
と首をかしげる愛子先生。
「えっと、竜人族は竜の姿を、魔力を消費
して維持してるんです。なので、魔力が
無くなると竜の姿を維持出来ないんですよ」
そんな先生に説明するハジメ。
で、どうするかだが……。
「良いだろう。ただし、妙な真似をすれば
容赦なく切る。分かったな」
≪承知したのじゃ。では……≫
黒竜が呟くと、彼女の体を黒い魔力で出来た
繭のような物が包み込む。そして、それが
人間と同じくらいのサイズに縮小すると、
それが霧散。
中から人間が、いや、人型になった竜人現れた。
見た所、人で言えば20代前半。身長は170センチ
程度。ロングヘアで艶のある黒髪。金色の瞳。
プロポーションも大した物だが、別に興味は
無い。
傍目からは、美女と呼ぶに相応しい女性だ。
それのせいか、男子が何故か前屈みになって
いる。しかし今はそんな事どうでも良い。
私はアレースを収める代わりに、トールを
抜いた。
「さて、では話を戻すとしよう。お前は
何者で、なぜウィル・クデタの一行を
襲った。全てを話せ」
「うむ。話す。妾がその者たちを襲った訳を。
じゃが、その前に名を名乗っておく。
妾の名は、『ティオ・クラルス』。
最後の竜人族、クラルス族の一人じゃ」
やがて、黒竜改め、ティオ・クラルスは
事の次第を話し始めた。
クラルス族は、人の手が届かない場所で
ひっそりと暮していた。だがある日、膨大な
魔力の放出と、何者かがこの世界に現れた事を
感じた竜人族は、人間に関わらないと言う
掟があったが、何も知らないままなのは、
些か不味い、と言う結論から調査をする事に
なった。
そして、調査のために派遣されたのが、
ティオ、つまり彼女だ。
彼女は、本来なら山脈を越えてきた後、人
の姿になって人間社会に紛れて調査を
行うはずだったが、その前に体力を
蓄える意味で、一つ目と二つ目の山脈の
間で休んでいた、つまり眠ってしまった
らしい。
そこへローブ姿の男が現れ、洗脳や暗示の
魔法を何度も使い、彼女を丸1日かけて
洗脳してしまったと言う。
ティオ曰く、『天才』と言って良いレベル
だったと言う。
「け、けど。なんでそんな丸1日も
寝たままだったんだよ」
「そ、それは……」
玉井の指摘に、言葉を詰まらせるティオ。
「その理由は、竜人族の性質のせい
です」
「性質?」
と首をかしげる園部。
「えぇ。竜人族の事を使った諺に、寝ている
竜のお尻を蹴ると、烈火の如く暴れると
あります。しかし、それは逆に、それ以外
の事では起きない。つまり、無害なのです。
その男が諺を知っていたのかどうかは
知りませんが、その眠りの深さを突かれ、
彼女は洗脳されたのだと考えられます」
そう、私が説明する。
「……その通りじゃ。竜人族として、まさか
人に操られるなど、一生の不覚……!」
ギュッと拳を握りしめるクラルス。
そして話を続けて聞いていると、洗脳された
あとは他の魔物の洗脳を手伝わされていた
らしく、ウィル達を襲ったのも、彼等に
魔物の集団を見られた男が、目撃者を
抹殺するために放ったのだと言う。
「……ふざけるな」
すると、どうやら余裕が生まれたからなのか、
ウィルは怒りに燃えた瞳でティオを
睨み付けている。
「操られていたから、ゲイルさんを、ナバル
さんを、レントさんを、ワスリーさんを
クルトさんを!殺したのは仕方ない
とでも言うのか!」
怒声を張り上げるウィル。
「……」
それに対し、ティオは何も反論しない。
恐らく、その通りだと分かっているのだろう。
「大体、今の話だって本当かどうかなんて
分からないだろう!それに!」
「嘘だと言い切る確証も無い」
私がウィルの言葉を遮り、そのままユエの
方へと視線を向けた。
「ユエ、恐らくこの中で竜人族に詳しい
のは貴方だ。貴方の考えを聞かせて
欲しい」
「ん。じゃあ」
ユエは、頷くとティオの正面に立つ。
「貴方は、今の話が本当であると、あなた
自身の誇りに賭けて言える?」
「うむ。言える」
ティオは、ユエの質問に対し何ら臆する
事無く、真っ直ぐに彼女を見つめながら
頷いた。
「……そう」
そして、頷くと振り返るユエ。
「彼女は、嘘は言ってない」
「ど、どうしてそれだけで言い切れる
んですか!?」
「……竜人族は高潔にして清廉。私は皆より
ずっと昔を生きた。だから、竜人族の伝説も
より身近な物。それに……。嘘つきが
どんな目をするかは、知ってる」
それは、彼女の経験から言える事だ。
ティオは、そんなユエの言葉に驚きつつも、
どこか安堵しているようだった。
そして私もフォローしよう。
「確かに。先ほどクラルスは操られた、
と言っていた。だが、一日中眠っていて
術を掛けられた、と言うのは些か間抜け
だと私は思う」
ドストレートに間抜け、と言われて若干
悔しそうなティオだが、事実だと分かって
か、拳を握りしめるだけだ。
「それに、嘘を考えるのなら、例えば、
身内を人質に取られ、やむなく支配下に
下った。こう言った方がより同情を
引ける。だが逆に、彼女の熟睡ぶりを
わざわざ話してしまうと、それは
同情を引かず、むしろ彼女にも責任が
ある事を自分で言っているようなものだ」
「そ、それは……」
何かを言いかけて、しかし何を言えば
分からないのか、言葉に詰まるウィル。
そしてティオは、ユエに向き直る。
「かたじけない。しかし、まさかこの時代にも
竜人族のあり方を知るものがいたとは……」
「ん。私は吸血鬼族の生き残り。300年前は、
王族のあり方の見本に竜人族のあり方を
聞かされた」
「そうだったか。……妾の言葉を信じてくれた事、
感謝する」
そう言って、ティオはユエに頭を下げた。
「けど、けどそいつはゲイルさん達を殺した
事は事実なんですよ!?」
やがて、言う事が思いついたのか叫ぶウィル。
そしてティオもその言葉に表情を引き締める。
「ゲイルさんは、この仕事が終わったら
プロポーズするんだって、それを……!」
ハァ、何とも人の心は難しい。ウィルは、
ティオの言葉を理解しているが、心では
納得していない、と言う事か。
「そこまで言うのなら、あなたがゲイルさん
の遺品をその相手や彼の遺族に
渡してあげたらどうです」
「え?」
「この中に、彼の物はあるのですか?」
そう言って、私は道中で拾った遺品の
ような物をごしょっと取り出す。
正直、最初はウィルの怒りを静めるつもり
でこの話題を出したのだが……。
「あぁ!これは僕のロケット!」
結果的に彼のロケットが発見された事で
ウィルも少しは落ち着いた。
しかし、その際のやりとりで、彼が
マザコンだというのが周囲にバレて、
シリアスな空気が若干消えた。
やがて……。
「確かに。妾が罪無き人々の命を奪ったのも
事実。操られていた、と言うのは良い訳には
ならん。しかし、どうか今しばらく妾に
猶予をくれまいか?せめて、あの男を
止めるまでで良い。あの男は、魔物の群れ
を生み出そうとしていた。このままでは、
どんな被害が出るか、想像も付かん。
そして、妾のその一助をしていたのじゃ」
そう言うと、ティオはその場で土下座を
し始めた。
これには先生やウィル、ハジメ達も驚いている。
「償えと言うのなら裁きを受け入れよう。
しかしどうか。あの男を止めるために今は
見逃してはくれまいか?」
地面に額を擦りつけ、土下座をする姿勢に
ウィルも戸惑う。
成程。確かにユエの言うとおり、高潔と言う
言葉が似合いそうな態度だ。
では、私も少しサポートをしよう。
「私は彼女をここで殺す事には反対だ」
私は頭を下げる彼女の側に立ち、そう主張する。
後ろから、僅かにティオの視線を感じる。
「ッ!?新生さん!どうしてですか!?」
「彼女は魔物の洗脳を手伝っていた。ならば
集団の構成もある程度分かるはずだ。
この中で集団に一番詳しいのは彼女です。
加えて、もしその男の魔物軍団を阻止
するのだとしたら、一人でも強い人材は
必要です」
「そ、それは……」
言いかけ、再び押し黙るウィル。まぁ良い。
私はティオの方に振り返った。
「それで、ローブの男について何か知りません
か?特徴などは?」
「うむ。確か、あの男は黒髪に黒い瞳。
見た目からして人族の少年のようじゃった。
後は、何やらしきりに、『これで自分は
勇者より上だ』、などと呟いていた」
ティオの話を聞く度に、愛子先生の表情が
戸惑いに変わっていく。
しかし、黒髪、黒い目。人族の少年。
勇者に対する嫉妬を持ち、闇属性への
天才と呼ぶに値する才能。清水幸利の
天職は、闇属性の『闇術師』。
ここまでカードが出れば、誰が犯人なのか
子供でも分かる。
「今回の騒動の原因。まさか清水幸利
だったとは」
「ッ!?ま、待って下さい!そ、それは
早計な判断では無いですか!?」
私の呟きに、咄嗟に反論する先生。
「証拠は提示されています先生。
洗脳や暗示は、闇属性の分野。そして
清水の天職は、闇術師。彼の失踪
した時期と、我々がフューレンで閲覧
した資料に記載された魔物の集団の
目撃時期も、殆ど重なっています」
「それは偶然かもしれないでしょう!?」
「信じたくないのは先生として当然
でしょう。ですが、現実は受け入れて
いただきたい」
互いに水掛け論状態だ。私と先生の
視線が無言で交差している。
しかし……。
「……話に割り込むようですまぬが、出来る事
なら急いだ方が良いのじゃ」
「え?どういうこと?」
ティオの言葉に首をかしげるハジメ。
「あのローブの男、彼奴は既に4000近くの
魔物を配下としておる。加えて、近々
町を襲うような事も話しておった」
「町、ここから一番近いのは、やっぱり
ウルの町か」
考え、吐き捨てるように呟くハジメ。
……やむを得ないか。私は体内のレーダー
の索敵範囲を広げ、そして……。
「見つけた。魔物の集団です」
私のレーダーが魔物の大群を見つけた。
「ッ!?ホントに!?司くん!」
「はい。数は……。多いな。4万に届く勢いです」
「よ、四万!?」
数字に驚いたのはルフェアだ。
「くっ!?彼奴め、あの数から更に増やしおった
のか!?」
忌々しげに吐き捨てるティオ。
ハジメや愛子先生、ウィル達も驚いている。
「えぇ。しかも既にウルの町方向へ移動を
開始していますね。この速度と地形
のデータから考えるに……。半日で山を
下りますね。1日あれば、ウルに
たどり着くでしょう」
「い、1日!?」
「そ、そんな!?」
驚く玉井と菅原。
しかし、ここに居ても始まらない。
「とにかく、このままでは埒が開きません。
今すぐ町に戻りましょう」
「なっ。待てよ新生。お前なら、今からでも
魔物の群れをどうにか出来るんじゃないのか?」
と、そう聞いてくる相川。他の5人も、
うんうんと頷いている。
「不可能ではありませんが、いきなり仕掛ける
のは愚策です。敵の規模は分かっても、
まともな経験の無い山岳部での戦闘。
それも、相手は4万超え。いくら私達でも、
あなた達全員を完全に守り切れる可能性
は低いですが、それでも構いませんか?」
「っ!そ、それは……」
途端に言い淀む相川。他の5人も、やっぱり
止めよう、などと言い出している。やはり、
自分の身の安全が低下すると、言った事に
さえ責任を負えなくなるのか。
「とにかく、今は山脈を下りてウルへ
向かいます。この場でじっとしていても、
何も出来る事はありません」
「「「「「了解っ」」」」」
ハジメ達は、私の言葉に素直に頷く。
しかし先生は、やはりローブの男の正体が
気になるようだ。遂には、ここに残り、
ローブ男の正体を確かめると言い出した。
園部達が説得しようとするが、迷っている
様子だ。
えぇい、仕方ない!
『グッ!』
私は園部たちを押しのけ、愛子の胸ぐらを
掴み上げる。
「いい加減にしろ!まともな戦闘経験の
無い貴様が残った所で何が出来る!
魔物のランチにされて終わりだ!」
「で、でもっ!」
「言ったはずだ!意思だけでは何も
守れない!言葉だけでは何も守れない!
自分自身さえも!貴様がここに残った
所で、むざむざ死ぬだけだ!何の役にも
立たない!そんなに死にたいかっ!?」
「ッ!」
最後の言葉を聞いて、先生は顔を青くする。
それを見て、私は手を放した。
「おい新生!お前先生になんて事!」
すると相川が肩に手を置くが……。
「五月蠅い。半端者にどうこう言われる
筋合いはない」
「な、何を!?」
「半端物って、どう言う意味新生君!
私達だって!」
園部や相川が文句を言おうとしたとき、
私から殺気が放たれ、6人は顔を
青ざめさせた。
「この程度の殺気、私達は何度も浴びてきた。
しかしお前達は、この程度で怯える。
……戦う決意も、覚悟も無く。
それが半端者で無くて、何だと言うんだ!」
園部達は、震える足で後退る。
その時。
「司。いい加減移動しないと……」
「……そうですね」
私はハジメの言葉に頷く。
いい加減動き出さなければ。
「……死にたくない者は、一緒に来い。
死んだとしても残る理由があるのなら、
勝手に残れ。ただし、助けには来ないし、
死んだ所で我々は一切責任を取らない。
……自分の意思でここに残ると言ったんだ。
行動の結果は、全て『自己責任』だ。良いな?」
いい加減、お荷物の世話をするのが嫌に
なり始めていた。
なので、私はそれだけ言うと、動けない
と言うティオをおんぶして、ハジメ達と
共に歩き出した。そして、まるで迷子の
子供のように、怯えるような表情と
共に、愛子先生と園部達は私達の
後を付いて来た。
ただの捜索のはずが、まさかこんな事態に
なるとは。
思っても居なかった。
……しかし、4万の軍勢だろうが何だろうが、
向かってくるのなら排除するまで。
そして、清水幸利が敵となって立ち塞がった
その時は……。
ただ敵として、殺すだけだ。
第32話 END
って事で、ティオも(変態に)未覚醒です。
次回はウルの町の攻防戦の準備の話になると思います。
これも、結構オリジナルな展開になると思います。
感想や評価、お待ちしています。