ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回は、ウルでの戦いの前夜のお話です。
結構オリジナルになっています。


第33話 ウル防衛戦前夜

~~~前回のあらすじ~~~

ウィル・クデタを発見したのも束の間。

黒竜に襲撃されるハジメと司たち。司たち

は連携した動きで黒竜と戦い、これを

撃破する。

しかし、黒竜は実際には操られていただけで、

黒竜は過去に滅んだとされる竜人族の生き残り

だった。黒竜改め、ティオ・クラルスから事情を

聞いた司達は、魔物を集めているのが失踪した

クラスメイト、清水幸利ではと考える。

そして、山脈で議論しているだけでは何も

出来ないとし、彼等は急いで山を下りるの

だった。

 

 

今、草原の上を、バジリスクが行き以上の

速度で疾走していた。

運転席に座るのは私。助手席には愛子先生。

後ろの3人シートには、ユエ、シア、ルフェア

が座り、更に後ろのベンチシートには

園部たち6人と、ティオ、ウィルが

座っている。

そしてチラッと外に目を向ければ、バジリスク

の左右を、ジョーカーを纏ったままのハジメと

香織を乗せた2台のホバーバイクが並走している。

流石にバジリスクも定員オーバーだから

仕方ない。しかし……。

 

「……ごめんなさい、新生君。私」

「謝るくらいなら、自分の力量を直視して

 下さい。先ほどの残る、と言う選択。

 戦う力も無いのにあんな事を。自殺行為

 です」

「……ごめんなさい」

俯き、悲しそうな表情をする先生。

 

……少し、言い過ぎたか?

「……貴方が死んだら、誰が彼等の面倒を

 見ると言うのですか?」

「え?」

俯いていた視線を上げ、私を見る先生。

「今ここで貴方が死んだら、王国は

 まず間違い無く、護衛隊であった

 園部たちを役立たずと糾弾するでしょう。

 同時に、あなたと言う盾を失った

 生徒達に、再び戦いを迫るかも 

 しれない。……生徒を心配する姿は

 尊敬に値します。しかし、だからといって

 蛮勇で何かが解決出来る訳でもない。

 勇気と蛮勇を、はき違えないで

 下さい」

「新生、君」

「……先ほどは、すみませんでした。

 失礼な態度を取ってしまい、申し訳

 ありませんでした。ですが、あなたの

 存在が、今の彼等には必要だ。

 ……その命を、大切にして下さい」

私は、前を向きながらも頭を下げる。

 

「い、いえ。私の方こそ、ごめんなさい。

 力も無いのに、出しゃばって……」

一応、フォローしたつもりだが、先生は

まだどこか暗い。

もう少し、フォローしておくか。

 

「先生、私が以前引用した言葉を覚えて

 いますか?」

「え?それって、確か英国の人の」

「えぇ。……しかし、こんな言葉もあります。

 『世の中で最も良い組み合わせは力と慈悲。

  最も悪い組み合わせは、弱さと争い』。

 かの英国首相、ウィンストン・チャーチル氏

 の言葉です」

「力と、慈悲」

 

「……チャーチル氏の言う組み合わせを

 当てはめるのなら、私は最高であり、

 最悪です。或いは、そのどちらでもない」

「え?」

「私には『力があり』ますが、『慈悲はない』。

 『弱く』はありませんが、『争い』を生む。

 言わば、どっちつかずです」

「……。新生君は、分かっているのですか?

 自分が、最悪な事をしていると」

「自覚はあります。……私は、直接間接を

 問わず、人を殺しました」

その言葉に、先生と後ろの園部たちが目を

見開く。

 

「それが、人間社会における悪だとも

 分かっています。しかし、慈悲だけ

 では誰かを守れない。……そして、

 私には力があっても慈悲が欠如している。

 最高の組み合わせは、生まれない」

「……」

私の言葉に俯く先生。教え子が人を

殺した、と言う事にショックを受けている

のだろう。

 

「……私の人殺しの罪を正当化する

 つもりはありません。しかし、私一人では、

 チャーチル氏の言う最高にはなれない。

 ですが、ハジメや香織が居れば違う」

「え?」

「二人は、私の何万倍も優しい。私が

 G・フリートの力の部分とするのなら、

 二人が『慈悲』の部分とも言える

 でしょう」

「二人が、慈悲?」

「えぇ。……互いに無い物を補い合い、

 今の私達は戦っている。そして、慈悲を

 持たない、欠陥品の私だからこそ、先生に

 言える事があります。……先生は、

 慈悲の心を既に持っています。つまり、

 先生はまだ半分とは言え、最高と言われるに

 足る素質がある訳です」

「……私、が?」

「えぇ。そして、だからこそ、その慈悲の心

 を無くさないで下さい。ハジメ達のように」

 

愛子先生は、外を走るホバーバイクの、

ハジメ達へと目を向ける。

そして……。

「ハジメ達の手も、先生の手も、まだ血で

 汚れている訳ではない。もしも、力が

 必要なときは、私に言って下さい」

「え?」

私の言葉に、振り返る先生。

 

「既に私は汚れている。汚れる人間は、

 少ない方が良い」

「新生、君」

 

愛子先生は、戸惑うような視線を私に

向けている。若干、フォローになったかは

分からないが、とりあえず。

 

「それと、園部たちにも言っておく事がある」

私が前を向いたまま声を掛けると、僅かに

6人が息を呑むのが聞こえた。

 

「護衛隊という大層な名前を付けた所で、

 戦えなければ意味が無い。戦う気が無い

 のなら、武器を置き、後ろで怯えていろ。

 生半可な気持ちで戦うなど、言語道断

 だからな。……本当に先生を護る気持ち

 と決意があるのなら、覚悟の一つでも

 決めて見せろ。それが無いのなら、

 武器をおけ。お前達に持たせていても

 仕方ない。無意味だ」

私の言葉に園部たちが何かを言おうとする。

 

しかしどうやら、先ほど私にぶつけられた

殺気のせいか、すぐに口を塞いで黙り込んで

しまった。

 

その時。

「失礼、お主、名を聞いても良いだろうか?」

後ろのシートから体を乗り出し、声を掛けてきた

のはティオだ。

「新生。新生司。新生でも司でも、好きに

 呼べば良い」

「成程。では改めて、新生殿は、魔物の大群を

 どうされるおつもりじゃ?操られていた

 とは言え、妾にも意識があった。故に、

 新生殿の常軌を逸した強さは承知しておる。

 が、相手は4万じゃ。如何に一騎当千の

 力とは言え、一人で4万の群れを止める

 のは、些か無理があると思うのじゃが?」

「……確かに。それは一理ある。が、手は

 既に考えてある」

 

まぁ、手は考えてあるが、まだあの町を

助けると決めたわけではない。そこは

ハジメ達の意見を聞いてからだ。

 

「……魔物4万の軍勢じゃ。止められると言う

 確証は、あるのか?」

「ある。伊達に修羅場を潜ってきた訳ではない。

 戦いは、パワーだけではない。ここも

 使う」

そう言って、私は左の人差し指でこめかみを

トントンと叩く。

「……そうか」

そして、それだけ言うと、ティオは自分の

席に戻っていった。

 

何だったんだ?まぁ良い。

私はバジリスクを走らせる。

 

 

ちなみに途中、ウルの方向からデビッド達5人

が馬で爆走しているのが見えたが、止まって

説明している時間も無いし、なんか愛子先生

に気づいて彼女に向ける5人の顔が

キモかったから、思いっきりその脇を

素通りした。

 

その後、ウルの門の前まで到達した

バジリスクを、ギャギャギャッと音がする

程ドリフトを決めながら停車させる。流石に

街中の道を行くわけには行かない。

バジリスクから下りる私達。

しかし急いだ方が良い。

 

「ハジメ、香織。二人はホバーで

 愛子先生と、ウィルを連れて町長の

 所へ。歩いて行くよりも、ホバーの

 方が早い」

「分かった!じゃあウィルさんは僕の

 後ろに!」

「先生!早く私の後ろに!」

そう言って促すハジメと香織。

「は、はい!」

「白崎さん、お願いします!」

そして、二人が後ろに乗ると、ホバーは

浮上し飛んでいった。

 

「私達も行きましょう」

「んっ」

「はい」

「うん」

「了解じゃ」

私の言葉に、ユエ、シア、ルフェア、ティオが

頷き、私はバジリスクを宝物庫に収納すると

歩き出した。

数秒遅れてそれに続く園部たち。

 

明日、魔物集団が来るなどとは思わず、町は

賑わっていた。

その様子を後目に、私達が町の役場にたどり

着いた時には、町長とギルド支部長、町の

重鎮、教会の司祭たちが、愛子先生とウィルに

掴みかからんばかりの勢いで問い詰めていて、

ハジメと香織がそれを庇っていた。

 

その事に二人がおののいていたとき。

「あっ!新生殿!良いところに!」

私に気づいたウィルが、私の前に駆け寄って

来た。

かと思うと、私の腕を引いて重鎮達の

所まで引っ張っていった。

「聞いて下さい!彼なら、いえ、彼とその

 仲間たちなら、迫り来る魔物を撃退

 出来るはずです!」

「何だと!?相手は4万を超す魔物の群れ

 だぞ!?それを、たかが数人で何が

 出来ると言うんだ!」

と、もっともな事を叫ぶ町長に、周囲の

重鎮がそうだと頷く。

 

その時。

「新生君」

愛子先生が私に声を掛けた。

「何でしょう?」

「新生君なら、魔物の群れをどうにか

 出来ますか?出来るとして、具体的な

 策は、あるのですか?」

と、問いかけてくる先生。そしてその

表情は、町を救って、と言わんばかりだ。

 

「……不可能ではありませんよ。町の

 周囲は平原です。障害物の多い山岳部と

 違って、遠くまで目視による攻撃が

 行えます。今回において必要なのは、

 点や線の攻撃では無く、面の攻撃です。

 つまり、大地を覆い尽くす程の攻撃を

 雨の如く降らせるのです」

「それを、あなた達なら出来るんですよね?」

「えぇ。何なら、『援軍』を呼び寄せ、攻撃を

 より濃密にする事も可能です」

「つまり、魔物の集団、4万を撃退する

 可能性が、貴方にはあるんですね?」

「えぇ。もちろん」

先生の言葉に、私は自信たっぷりに

頷く。

 

「じ、じゃあ決まりです!新生殿!」

「待って下さい。確かに出来るとは

 言いましたが、まずは仲間に聞いてみない

 事には」

そうだ。G・フリートは私の一存で動いている

訳では無い。皆の意見を聞かなければ、そうそう

決定を下せない。

 

まぁ、しかし……。

「僕は構わないよ。戦闘に参加するよ」

「私も。同じく」

「んっ。ハジメが戦うなら、私も」

「右に同じく、ですぅ」

「やれるよ、お兄ちゃん」

5人はやる気のようだ。

 

「皆さん!有り難うございます!」

そう言ってウィルは5人の方に頭を下げた。

「しかし、本当に出来るのか?たった6人で

 魔物の軍団を。相手は4万だぞ?」

今だに、無理だと言わんばかりの町長。

それも最もだ。だが……。

 

「私は、出来ない事を出来ると言うつもりは

 ありません。それに、援軍も呼び寄せます。

 我々には、この町を防衛するに足るだけ

 の軍事力がありますので」

「それじゃあ……」

と、期待に満ちた目で私を見ているウィル。

 

「良いでしょう。ウルの町の防衛。

 我々G・フリートが請け負いましょう」

 

ここに、私達の大規模戦闘が始まろうと

していた。

 

 

その後、司は町の重鎮達に対し、魔物の

集団の事は、彼の言う『援軍』が到着する

まで発表を控えるようにと言っておいた。

少しでもパニックを抑えるためだ。

念のため、住民には山脈付近で魔物が

目撃されたため、北の山脈には絶対に

近づくな、と言う指示を重鎮達に出させた。

もちろん司の指示だ。

 

しかし、そんな中で愛子は一つ、ある疑問に

至った。

『そう言えば、新生君は、南雲君達5人に

 意見を求めた後、自分の意見は言って

 無かったような……』

ふとしたきっかけで、彼女は司が自分の

言葉で、『町を護りたい』と言っていない事を

思い出した。

 

その後、司たちは夜の内に『援軍』を頼むため、

役場の空き部屋を借り、そこに通信機材を

くみ上げていた。

「これで良し。では……」

私は席に着き、ヘッドフォンをかけると計器を

操作する。

「……南雲殿、あれは一体……」

その時、同じ部屋に居たティオがハジメに

声を掛けた。

「あぁ、あれは僕達の世界の機械、アイテム

 です。遠く離れた場所と会話が出来るん

 ですよ」

「何と。そのような物が」

驚くティオ。ちなみに、ハジメ達が異世界

から転生してきた事は、既に話してあるので

問題無い。

 

「と言っても、司が居ないと創れない

 し使えないんですけどね」

「ん?どういうことじゃ?」

「司は、何も無い所から物を生み出すん

 だよ。どれだけ巨大で、どれだけ精密な

 物でもね」

「……もっと正確に言えば、私の体内の

 エネルギーと体内で生成される物質を

 使って、ですよ。ハジメ」

と、一応補足説明をしておきながら、

次々と機器を立ち上げていく。

 

「僕達が使ってる装備も全部、司が

 僕達の為に創ってくれたんだ。

 装着者を守り、力を引き上げる鎧、

 ジョーカー。そしてそのジョーカーが

 装備する武器の数々。更にさっき

 乗ってきた装甲車、バジリスクや

 僕達が使ったホバーバイク」

「あれら全て、新生殿が創ったのか?」

「うん。けど、それだけじゃないんだ。

 例えば、ユエちゃんとシアちゃんなら、

 腕にしている魔力供給リング。

 司は無限の魔力を持ってるんだ」

「む、無限!?それは、つまり底なし

 と言う事かの!?」

「うん。けど、司って魔法使わないから。

 それだと魔力が無駄になるから、って事で

 実質司は二人の生きた魔力タンクでも

 あるんだよね」

驚くティオに説明するハジメ。

 

「しかし、魔力が無限という事は……」

「ん。この腕輪貰ってから、魔力切れとは

 無縁。……おかげで、やりたくても魔力が

 足りなくて出来なかった事が出来る

 ようになった」

「私なんか、これのおかげで常時肉体強化

 していても全然疲れないんですよぉ。

 文字通り、底なしですぅ」

と、笑みを浮かべながら語る二人。

 

私としては、私が創った物がそこまで二人の

役に立っているのなら嬉しい。

 

「……個人の武力もさることながら、

 圧倒的なアイテムを生み出す力。そして

 状況を冷静に判断する知性。いやはや、

 恐れ入ったのじゃ。と言うか、お主に

 喧嘩を売って良く生き残った者じゃな、

 妾も」

「「「「「確かに」」」」」

と、ティオの言葉に頷いているハジメ達。

 

まぁ良い。

「それより、通信が繋がりますよ」

と、私が言うと、真っ黒だった大画面に

人の、いや、正確には亜人の男の顔が

映し出された。

 

「元帥!元帥でいらっしゃいますか!」

「父様!」

映し出された男、と言うのが。

 

ここに居るシアの実の父親にして、私が

G・フリート隷下の実動部隊、『Gフォース』の

総司令。そして、第1前線基地『ハルツィナ・

ベース』の基地司令を任せている男、

『カム・ハウリア』だ。

「久しいなカム」

「はい!こちらこそ、お久しぶりにございます、

 元帥!」

「その様子では、特に問題無くやって

いるようだな」

「はい、それはもう。元帥より賜った地位と

 このハルツィナ・ベース。日々拡張を

 続けつつも、憎き帝国兵どもをぶちのめして

 いる所であります」

「そうか。……では、世間話はここまでに

 して。カム、私から頼みがある」

「ッ!?元帥自らですか!?一体何が

 あったのですか!?」

「あぁ。それを今から順番に話す」

そして私は、カムに現状の説明を始めた。

 

 

そのすぐ近くでは……。

「のぉシア殿。あそこに映っている精強な

御仁は、お主の父親なのか?」

「はい。そうです」

「何と。いやしかし、あの御仁の姿勢を

 見るに、新生殿に絶対の忠誠を誓ってる

 ようにも見えるが……?」

「いや、まぁうん。ように、って言うか

 実際忠誠を誓ってるんだけどね」

「そうか。しかし、一体何の経緯が

 あって?」

「あぁ、それはですね」

 

と、司とカムが色々話をしている間に、

更に話をするシア。

「成程。それで……」

「はい。おかげで父も仲間も兵士に変貌。

 しかも司さんを心酔してて。仲間と言うか、

 部下として受け入れられただけで号泣

 しだすか、って位に喜んでた程ですから。

 まぁ司さん自身、カリスマが凄い

 ですからねぇ」

「カリスマ?どんな風にじゃ?」

「まぁまず、何よりも強い事です。無敵です。

 次に冷静な判断力とかですね。たま~に

 ルフェアちゃんをバカにされると

 キレたりしますけど、でもリーダーに

 相応しい器だと私は思います。実際、

 ちゃんと私達の意見とかも聞いて

 くれますし」

「うんうん。まぁ、司は、何て言えば

 良いのか分からないけど、『王』だと

 思うんだ。僕は」

「王?」

 

「うん。力と知識を備え、時に非情だけど、

 でも時には優しい。実際、司はカム達を

 叱責しつつも鍛えに鍛えて、彼等に家族を

 護る『力』を与えた。僕達にも戦う為の

 『力』をくれた。戦う事の『意味』を

教えてくれた。そう言う意味では、

司は僕達を導く、正真正銘の『王』なのかも

しれない」

そう言って、ハジメは司の背中に視線を向ける。

他の4人も、頷きながら司を見ている。

 

「……王、か」

ティオは静かに呟きながら、司の背中を

見つめていた。

 

 

何やら視線を感じるが、私はカムと最終的な

話をしていた。

 

「それでは元帥。我々の方からパルを隊長

 とした近衛大隊を向かわせます」

「うむ。そちらから派遣出来る人員の

 資料を受け取ったが、兵士が総数50人を

 超えていた。まさかあの後部下が増えた

 のか?」

「えぇ。詳しい話はパルにお聞き下さい。

 それよりも、例の『新型』、ここで

 投入されるおつもりですか?」

「あぁ。報告はベースの開発データを

 閲覧したから分かっている。先行試作機

 10機を生産中。内、5機が完成。

 3機が飛行テストをクリアしているとある。

 なので、その3機を運んできて貰いたい」

「元帥の事ですから、大丈夫だとは

 思って居るのですが、よろしいの

 ですか?」

「構わん。その時はこちらで対処する。

 ……良い機会だカム。これまで散々

 亜人を獣だなんだと見下してきた人間共を、

 お前達亜人が『護ってやる』のだ。

 私が鍛えたお前達の力、人間共に

 見せつけてやる、良い機会だ。もう

 二度と、兎人族を侮らせない意味でもな」

「ッ!流石は元帥!こちらもすぐに準備に

 取りかかります!」

「うむ。宜しく頼む。ではまたな。

 カム総司令」

「ッ!はいっ!」

私が最後に敬礼をすれば、カムもビシッと

敬礼を決め、通信を終える。

 

「それで司。援軍の方は?」

「明日の朝にはここにたどり着くでしょう。

 動員できるのは、パルが率いる近衛大隊

 の内の兵士50名。更に機械歩兵、まぁ

 ガーディアンの事ですが、これが2000名。

 ホバーバイク50台。多脚戦車15台。これ

 を搭載した揚陸艇5隻。

 それと、先ほど話していた新型を3機

 搭載した揚陸艇を1隻。

 合計で揚陸艇6隻からなる派遣艦隊が

 やってきます」

「それだけ?よく知らぬ妾が言えた義理

 では無いかもせぬが、それだけで

 町を守れる確証がお有りか?」

「彼等は防衛戦をより強固にする意味での

 援軍です。実際に、最前線で戦うのは、

 私達6人と、ティオ、あなたになる

 でしょう」

「ふむ。つまり後詰めの部隊、と言う

 訳じゃな」

「えぇ」

そう言って頷くと、私は立ち上がった。

 

「私は援軍の都合が付いたことを重鎮や

 愛子先生達に報告して来ます。

 皆は休んでいて下さい」

とだけ言うと、部屋を後にした。

 

その後、私は重鎮たちが集まっていた部屋

で援軍のめどが付いた事を説明したが、

殆ど信じては貰えなかった。まぁ無理も

無いと思いつつ、言うべき事は言ったので

すぐに部屋を出た。

 

その後、先生の部屋に行って説明をした。

「……と言う訳で、援軍の都合は付きました。

 これで町の防衛ラインをより強固な物に

 出来るはずです」

「……」

「……先生?」

説明したものの、何やら無言な先生に私は

首をかしげた。

 

やがて……。

「新生君。……あなたは、本気でこの町を

 守りたいと、思って居るんですか?」

「……その質問の意図は、どう言う意味

でしょうか?」

「新生君は、南雲君達に意見を聞いたとき、

 自分の口から『守るべきだ』という意見

 を言っていませんでした」

「……それが何か?」

「それはつまり、新生君には町を守る気が

 無い、と言う事では無い。そう言う事

 なんじゃ無いですか?」

 

先生の言う言葉は、正しい。

「……確かに。私個人には、積極的に町を

 守る理由はありません。ですが、私は

 G・フリートのリーダーであり、仲間

 であるハジメ達の意思を汲んで防衛戦を

 行う事にした。……町を守るのに、

 この理由で何か不満なのですか?」

「……町を守ってくれると言うのなら、

 不満はありません。でも、それはつまり、

 もしここに居たのが新生君だけなら、

 あなたは町を見捨てていた可能性も

 ある、と言う事ですよね?」

「えぇ。そうですね」

「……どうして、そんな……。困っている

 人を見捨てる事が出来るんですか?」

「私にしてみれば、彼等の命など、

 どうでも良いのですよ。私が守るべきは、

 ハジメや、香織、ルフェアと言った

 仲間だけです。私には、第三者以上に、

 優先し守らなければならない人が居ます」

 

それだけの事だ。第三者よりもハジメ達を。

たったそれだけの事だ。ましてや、第三者

など、どうなろうと知ったことではない。

 

すると……。

「新生君。……それは、そんな風に他人を

 切り捨てる事は、とても、寂しい事では

 ありませんか?」

「寂しい?」

「大切な人以外、全てを切り捨てる生き方を、

 先生はそう思います。力で何かをねじ伏せて

生きていくつもりですか?地球に戻っても?

このトータスで続けてきた生き方を、日本に

戻ったとして、変えられますか?そして多分、

力で物事を解決し、優しさを捨てたその

生き方、は新生君や周りの人に幸せを

もたらさない。だから……」

「……少しは周囲に優しくなれ、と?」

私の言葉に、先生は静かに首を縦に振る。

「はい。もちろん、強制するつもりはありません。

 あなたの未来は、常に貴方が選ぶ物。そこに

 口出しをするつもりはありません。でも……。

 今の貴方の生き方は、とても寂しい物だと、

 私は思います」

 

 

そうか。それが先生の意見か。

だが……。

「今更、ですね」

「え?」

「私は既に、直接、間接を問わず人を殺して

 来ました。今更優しさなどを身につけた

 所で、遅すぎると思いますが?」

「そ、それは……」

「それに、バジリスクの車内で言った事を、

 覚えていますか?私は、欠陥品だと。 

 それに、私は生まれた時から感情が

 希薄です。今更、優しさを説かれた

 所で優しくなれるとは思えませんね。

 そして……」

私は、静かに先生の方に振り返る。

その顔に、決意の表情を浮かべながら。

 

「『優しい』だけでは解決出来ない事も、

 必ず存在します。……先生からしたら、

 私の考えが非情と思えるでしょう。

 ですが、時に非情な決断をしなければ

 ならないとき、全ての人間が優しいだけ

 では超えられない物が存在します」

「だから、自分は非情であるべきだ、と?」

「はい。……ルフェアは、以前私を

 優しいと言ってくれました。だが

 それは身内だけの話。……私は、

 身近な存在には優しく出来ても、

 それ以上は無理です。そして、

 その役目は、既にハジメ達が

 担っています。ハジメと香織が、

 G・フリートの良き心であれば、

 それで良いと考えています。

 二人が人々に優しくいられれば、

 それで良い。私は既に、この手を 

 血で汚した、汚れ役の裏方です」

そして、私は自虐的に呟く。

 

「今更、人に優しくなるには、この体は

 真っ黒に汚れすぎているのですよ」

「……新生君」

「私はただ、二人が人に優しいままで

 居られるように、支え助けていれば、

 それで良いと考えています。二人が

 人を助ければ、十分だと。ずっと

 考えていました。汚れた自分には、そもそも

 優しい資格など無い。優しさも分からない

 自分には、資格など無いのだと」

 

そうだ。今更優しくなれと言われても、

時既に遅し。

この体は、既に、何万と言う人間の血で

真っ黒に染まっている。

 

しかし……。

「新生君。……確かに、あなたの言うとおり

 なのかもしれません。時には非情な

 決断をしなければならない人が、必要

 なのかもしれません。でも、誰かに

 優しくなるのに、遅すぎるなんて事は

 ありません。資格が無いなんて事も

 ありません」

「……この体が、幾千、幾万の人間の

 血で汚れているとしても。

 私が、怪物であるとしても、ですか」

「それでも、です」

 

先生は、真っ直ぐに私を見つめながら語る。

 

「優しさと強さが、最高の組み合わせだと

 教えてくれたのは、貴方ですよ。

 新生君。だから、どうか」

「……優しくあれ、と?」

「もちろん、強制する気はありません。

 でも、どうか。覚えておいて下さい。

 優しさという、尊い気持ちを」

 

「先生は、覚えていますか?昨日の

 夜、私が言った言葉を」

 

「何も傷付けず、自分の手も汚さない。

 優しい生き方だけど、何の役にも立たない、

 ですか?」

「はい。……その考えを変えるつもりは

 ありません。これからも、私は敵となる

 者を力で排除し、時には命を奪う

 でしょう。……それでも良いと言うの

 ですか?」

 

「……力が無ければ、何も守れない。それは

 分かります。本当なら、誰かを殺す事も

 止めたい。でも、それは生徒の生き方、選択に

 介入する事。先生のやることではありません。

 それでも、どうか……」

 

……優しさ、か。

私は、先生に背を向ける。そして、扉の

ドアノブに手を掛けながら……。

「……確約は出来ません」

「え?」

「でも、先生の言葉を思い出したときは、

 出来るだけ優しい事が出来るよう、

 心がけます。……これで、良いですか?」

 

「ッ!はいっ!」

すると、先生は笑みを浮かべながら頷いた。

 

しかし……。

「あ、でも、ごめんなさい。私、結局

 生徒に頼ってばかりで……」

どうやら、防衛戦を私達に任せっきり

にしているのが情けないのか、そんな事を

呟く先生。

 

しかし……。

「バジリスクの車内で言ったはずです。

 力が必要なら、頼って欲しいと。

 ……先生の言うとおり、優しさという

 ものが無い、怪物ですが。

 それでも誰かの力になれるくらいは

 強いのですから」

「新生君」

先生は、私を見上げている。

 

「先生の事ですから、生徒に戦わせる事を

 悩んでいるのでしょうが、見くびって

 貰っては困ります。これでも、ベヒモスを

 一撃で倒した実績があります。そして、

 町を守りたいどうこうはさておいても、

 私は自分の意思で戦うと決めています。

 言い方はあれですが、先生が私達の

 戦う決意について色々悩むのは、

 余計なお節介です。だから、気にしない

 で下さい」

「新生、君」

確かに、私は別にこの町を守りたい訳

ではない。だが戦う決意は自分で決めた物だ。

 

「それでは、防衛作戦の構築などが

 ありますので、これで失礼します」

そう言って、私は先生の部屋を後にした。

 

 

そして、残された部屋で愛子は……。

「ふふ、確かに言い方はひどいですけど、

 でも、それも優しさだと思いますよ。 

 新生君」

悩む自分にかけられた言葉に、愛子は

司の優しさの一端を見た気がして、笑みを

漏らすのだった。

 

 

一方、その頃。遠く離れたハルツィナ樹海

の一角。

 

普通は霧に覆われている樹海。しかし、

その一角は霧に覆われておらず、

逆にこの世界には無い機械のライトの

光で、夜だと言うのに爛々と輝きを放っていた。

 

ここは、ハルツィナ・ベース。

司が創設したG・フリート隷下の

実動部隊、Gフォースの基地だ。

このハルツィナ・ベースは地表にいくつか

施設があるが、本当の中枢は地下に

創られていた。

 

そして、地下の施設では……。

「急げぇ!物資とガーディアン!

 ロングレッグとホバーバイクの

 積み込み急げぇ!」

以前の、争いを嫌い温和だった兎人とは

思えない野太い声で叫ぶ兵士の一人。

 

ちなみに、ロングレッグとは多脚戦車の

愛称だ。

 

そして、現場監督の兵士の指示に従って、

次々と物資が揚陸艇に積み込まれていく。

「1番艦、物資積載完了」

「2番艦も完了です!」

「3番4番艦、後数分で積み込み完了!」

「5番艦、後は燃料の補給だけです!」

「6番艦には例の新型を搭載する!

 間違えるなよ!」

 

その近くでは……。

 

「良いかっ!今回、我々は元帥直々の命

 により部隊を派遣する!」

総司令であるカムが、派遣艦隊の兵士50人

を前に演説をしていた。

「目標は人の里を守る事だ!諸君等の

 中には、人間に良い感情を持たない

 者も少なくない、いや、多いだろう。

 だがっ!我々はこの作戦で、元帥と

 共に戦うのだ!我々に、家族を守る力を

 与えて下さった元帥の為に戦える事は、 

 Gフォースの兵士として、最高の誉れ

 である!そして、作戦の勝利を持って、

 我々の忠誠を元帥にお見せするのだ!

 良いな!」

「「「「「了解っ!!!!!!」」」」」

 

カムの演説に、兵士達が叫ぶ。

「よしっ!総員揚陸艇に搭乗!」

そして、今回の派遣艦隊の隊長であるパルが

叫ぶと、兵士達がそれぞれの艦に乗艦

していく。

 

「パル」

「はい。総司令」

そんな中で、残っていたパルがカムと

向き合う。

「今回、元帥は人間に亜人の力を知らしめる

 機会を下さった。遠慮は無用だ。

 元帥より授かった、Gフォースの力。

 とくと人間共に見せつけてこい」

「はっ!了解しました!

 4万越えの魔物の軍勢だか知りませんが、

 元帥と仲間の名誉に賭けて、ぶっ潰して

 来ます!」

「よしっ。行ってこい!パル・ハウリア大隊長!」

「了解っ!」

 

ビシッと敬礼をすると、パルは装備をまとめ、

1番艦に乗り込んでいった。

 

そして、派遣艦隊の準備は整っていく。

 

『こちらハルツィナ・コントロール。

 各艦の準備完了』

『こちら基地防空隊、ホバーバイク

 第5小隊。基地周辺の上空の制空権を

 確保中』

『こちら基地管制塔。エレベーターの

 準備完了。地上要員の退避を確認』

次々と現状報告の通信がパルの耳に届く。

『準備完了だ。パル』

そして、カムの声が通信機から聞こえる。

 

パルは、その声を1番艦の艦長席で

聞いていた。

そして……。

「……この作戦に参加する、全ての兵士に

 告げる」

彼は静かに語り始めた。

「今回の作戦は、普段俺達がやっている

 樹海の防衛とは訳が違う。敵も4万を

 超える魔物の群れ。しかも基地から

 離れた場所での戦闘だ。初めての遠征。

 初めての大規模戦闘。緊張している

 者も居るだろうが……。これは俺達が

 元帥に恩返しをするチャンスでも 

 ある。……家族を守る為の力を、俺は

 あの人から授かった。その恩義に

 報いる為に、俺は全力で戦う。そして、 

 何よりも。あそこには元帥がいるん

 だぞ?負ける理由が無い。むしろ、

 頑張らないと俺等が行った意味が

 無くなりそうだ」

と、パルが言うと、通信機の向こうから

笑みと共に『確かに』と言う呟きが

聞こえてくる。

 

そして……。

「だから、元帥に良いところ見せたきゃ

 頑張るしかないって事だ!

 皆気合い入れろ!行くぞ!」

「「「「「了解っ!!!」」」」」

パルの叫びに、怒号にも似た大きな返事が

返ってくる。

 

「『ウル防衛線派遣艦隊』、発進!」

『ハルツィナ・コントロール了解!

 エレベーター、始動!』

 

オペレーターからの声が聞こえると、

ガコンッという音がして、揚陸艇を

乗せた床がスライドしていき、上に伸びる

エレベーターの乗り、停止する。

『1番エレベーター、始動!』

更にエレベーターが起動し、揚陸艦を

乗せて上へ上へと上がっていく。

 

『1番ゲート、解放!』

そして、天井部分の円形のハッチが左右に

割れるように開いていく。

エレベーターが登り切った時、揚陸艇が

夜空の下に現れた。

 

更に同じように、2番ゲートと3番ゲートから

2番艦、3番艦が現れる。

『コントロールより1番艦へ。

 進路オールグリーン。発進、どうぞ』

「了解!派遣艦隊旗艦、1番艦『LS-01』、

 発進!」

パルのかけ声に従い、制御を担当する

ガーディアンの操縦を受けて1番艦、

LS-01がピンクの炎をスラスターから

吐き出しながら、夜の空へと浮かび上がっていく。

 

更にそれに続いて、2番艦、LS-02、3番艦、

LS-03が浮上。更に続いて現れた4番艦、

5番艦、6番艦がエレベーターを使って地上へ。

そして同じように浮上していき、

空中で待機していた3隻と合流する。

 

≪艦長、全艦準備完了です≫

艦隊副長を担当していたガーディアンから

中性的な電子音声で報告が上がる。

「よし。全艦!進路を北西へ!目標、

 湖畔の町、ウル!全艦、第1戦速にて

 前進!旗艦に続け!」

パルが指令を発し、旗艦が動き出し、

僅かに遅れるように他の5隻が続く。

 

 

ここに、トータス世界最強の軍隊が

動き出した。

 

     第33話 END

 




って事でGフォースが出てきました。
次回で、バトル……にいけるかちょっと微妙な所です。
パルや愛子たち、ティオとの絡みを考えているので。

感想や評価、お待ちしています。

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