ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回はウル戦の準備の話です。


第34話 防衛ライン構築

~~~前回のあらすじ~~~

ウルの町へ迫る魔物の群れ。それを知らせる

為に急いでウルへと戻ってきた司たちと

愛子たちの一行。そんな中、ウィルの提案

から司たちG・フリートがウルの町を

防衛する事に。司は部下であるGフォース

の総司令であるシアの父、カムに連絡を

取り、援軍を派遣させた。

一方、愛子は他人への関心が薄い司を

心配し、彼に彼女の考えを話す。

司は、彼女の言う優しさを全て受け入れた

訳では無いが、それでも少しなら、と、

愛子に約束するのだった。

 

 

翌朝。朝早く、町の広い場所には大勢の人々が

集められた。町の重鎮たちから発表されたのは、

魔物の集団が向かっている事。早ければ、

夕方になる前には先陣が到着する事が告げられた。

途端に、人々はパニックを起こした。

 

重鎮達に罵詈雑言をぶつける者。泣き崩れる者。

親や恋人と抱き合う者などなど。実に様々だ。

だが、そんなパニックを鎮めた者が居た。

 

愛子先生だ。

高台で、良く通る声で民衆を説得した。

これのおかげで民衆はひとまず落ち着いた。

「……これがハジメ達の先生。結構やる」

そして、高台のすぐ側、先生の近くで、

ジョーカーを纏ったまま演説を見守っていた私達。

そんな中でユエがポツリと呟いた。

 

「流石は、豊穣の女神と呼ばれてる先生、

 なのかな」

「なんか、本物の女神みたい」

と呟くハジメと香織。

「ハジメさん達の先生、中々凄いですぅ」

「うん。ちょっと驚いてる」

驚くシアと頷くルフェア。

 

私は黙ったまま演説を聴いていた。

その時、レーダーに光点が映った。

『援軍』がたどり着いたようだ。

今は雲の上を飛行中だが、町の

郊外に降下するため、徐々に高度を

下げている。あと数分もすれば、雲を割って

艦隊が現れるだろう。

 

私は静かに先生の側に近づき、耳打ちをする。

「援軍の艦隊があと少しで到着します。

 直に目視でも見えるはずです」

「分かりました」

と、頷くと、先生は民衆の方へ向く。

 

「皆さん!聞いて下さい!今、この町に

 危機が迫っています!でも、どうか

 安心して下さい!ここには、私の

 教え子がいます!彼は、かつて最強と

 言われた冒険者でさえ敵わなかった

 ベヒモスを倒す程の強さを持っています!

 彼は、こう呼ばれています!

 ベヒモススレイヤーと!そして、その彼と

 仲間たちが、ここに居ます!」

 

出番だな。

そう感じた私は、皆に合図を出す。

 

その合図に従って、私達6人が、愛子先生の

左右に3人ずつ並ぶ。

私は先生の右隣だ。

 

「この鎧を、アーティファクトを纏った

 彼等なら、必ず魔物を倒してくれるはず

 です!」

彼等のパニックを抑える意味でも、愛子先生

は必死に叫ぶ。

 

しかし、民衆は懐疑的だ。その半数は、

『高々6人で何が出来るんだ』と良いだけだ。

だが、その感情は予想済みだ。

 

「今、皆さんの多くは、たった6人で何が

 出来るんだ、と。そうお思いでしょう。

 ですが、彼等は更に多くの仲間を

 呼び寄せてくれたのです!」

 

そう先生が叫んだ時。誰かが空を

見上げた。そして、空を指さし

ながら叫んだ

「おいっ!何だあれ!?」

誰かが叫ぶと、民衆を始め、町の重鎮達や

デビッド達、園部達も空を見上げる。

 

空に、雲を割いて降下してきた揚陸艇

6隻が現れた。

誰もが正体不明の揚陸艇に驚き、あれを

魔物ではと勘違いし出す者までいた。

 

「心配しないで下さい!あれが、私の

 教え子の援軍です!」

そして、それを宥めようと高らかに叫ぶ先生。

そうこうしている内に、揚陸艇6隻は

ウルの町の郊外へと次々にランディングコースに

入っている。

 

民衆は、愛子先生の言葉が本当か確かめる

術が無いため、戸惑い気味だ。

まぁ良い。

「皆。我々は派遣艦隊の方へ」

私の言葉に5人が頷き、私達は愛子先生の

側を離れて、ホバーバイク3台に、二人に

別れてに跨がり、民衆の頭上を飛び越して

行った。

 

艦隊の6隻がピンクの炎を吐き出しながら

ゆっくりと着地していく。

そして私達もその側にホバーバイクを

着地させた。

 

6隻の揚陸艇が全て着地し終えると、すぐさま

コンテナハッチや乗降用のスロープが展開

され、ガーディアン達による物資の荷下ろしが

始まった。

 

そして、代表としてパルと5名のジョーカー、

タイプHCを纏った兵士と、後ろから

デビッド達を連れた愛子先生と園部達が

私達の側にやってくるのは、ほぼ同タイミング

だった。

 

パル達は、私の前に立つとメットを取り、それ

を左手で脇に抱えると敬礼をする。

私がその敬礼に答礼をする。

 

「元帥!ウル防衛戦派遣艦隊、ただいま

 到着しました!」

そして、掲げていた右手を下げると、子供

とは思えないハキハキとした声で報告するパル。

「うむ。よく来てくれた、パル」

「いえ。元帥の命とあれば、いずこでも

 駆けつけるのが、元帥たちの護衛を至上

 の命題とする近衛大隊の努め」

「そうか。ともかく、大至急防衛ライン

 の構築を頼みたい。私の力で防壁を 

 構築し、その壁際に多脚戦車を中心と

 する砲兵部隊を編成する」

「了解です元帥!それと、余計かと思われ

 ましたが、物資の中に、設置式の

 ミサイルランチャー、ルドラ改を

 持ってきました」

「ほう?ルドラをお前達で改修したのか」

「はい。今回の敵は圧倒的な物量で

 来るとの事でしたので、少しでも

 弾幕を張るためにとお持ちしました。

 余計な事だったでしょうか?」

「いや、逆だ。よく考えて行動したと

 賞賛したい所だ。良い判断だ、パル」

そう言って、私はパルの左肩に手を置く。

 

「ッ!ありがとうございます、元帥!」

バッ!と再び敬礼をするパル。

その時。

 

「あ、あの~新生君?」

後ろから愛子先生の声が掛かった。見ると、

先生と園部達が戸惑った表情でこちらを

見ている。

「えっと、その、亜人の方々は一体?」

「彼等は私の部下とも呼べる兵士達です。

 パル、こちらの女性は私やハジメ、

 香織の先生だ。訳あって今は一緒に

 いる」

「げ、元帥やハジメさんの先生ですか!?」

 

と、パルは驚いた様子で、今度は先生の方に

向かって敬礼をする。

 

「お初にお目に掛かります!自分は、

 G・フリート隷下の実動部隊、Gフォース

 ハルツィナ・ベース、第1師団所属、

 第1近衛大隊。その大隊長の任を元帥より

賜ったパル・ハウリアであります!」

「こ、近衛大隊とか、第1師団って……。

 新生君、あなた一体何をしたんですか?」

と、疲れ気味にジト目で私を見る先生。

 

「ものすごく簡単に説明しますと、彼等が

 自分達の力だけで生きていけるように

 地獄の特訓をして鍛えたのですが、結果

 とても心酔されたので、仲間にしました」

「……あとでもっとちゃんと説明して

 貰いますからね」

と、ジト目の先生。その後ろでは……。

 

「あれ?変だな。俺達ファンタジー世界に

 来たはずなのに。段々ミリタリーテイスト

 が濃くなってきたぞ?俺は幻覚でも

 見てるのか?」

「いや、可笑しくねぇよ昇。俺にも同じ

 光景が見えてるぜ」

「……ファンタジー世界が、SF世界に

 作り替えられていく」

と、男子3人がそんな話をしていた。

 

 

と、その時。

「ふざけるなっ!」

ズカズカと怒りの表情で近づいてきたのは

デビッド達神殿騎士だ。

「援軍が来ると聞いていれば、亜人共だと!?

 こんな奴らに町を守れるとでも言う気か!?」

「……元帥、何ですかこのクソ野郎は」

「……先生の護衛の、教会から派遣

 されている騎士だ。気にするな」

「……元帥の指示とあらば」

今にもホルスターのノルンを抜いて

デビッド達を殺しかねないパル達を

宥めるためにそう言う。が、しかし

これが逆にデビッドを調子づかせて

しまった。

 

「ふんっ!元帥とおだてられている

 ようだが、所詮は薄汚い獣の主。

 程度が知れると言う物だな!」

 

「「「「「あ?」」」」」

次の瞬間。

 

『ドッ!』

パルがデビッド目がけて飛びかかり、

押し倒すとその口にノルンの銃口を

ねじ込んだ。

「ッ!隊長!」

それを助けようと剣を抜くチェイス達。

『バババンッ』

しかし、その足下に数発の銃弾が叩き込まれた。

パルの後ろにいた兵士達の物だ。

 

「おいクズ野郎。良いかよく聞け。本来

 元帥の前では、部下である我々とて

 地面に膝を突き接するのが道理。それを、

 部下でも無い貴様がのうのうと立ち、

 剰え侮辱するだと?……それも我々の

 前で。……我ら近衛が、それを見逃すと

 思うか!」

そして、パルがノルンの引き金に指を

掛けようとしたとき。

 

「よせ、パル」

私自身がそれを止める。

「しかしっ!こいつは我々の大恩人である

 元帥を侮辱したのですよ!?

 それだけで、我々にはこのクズ共を

 殺す理由になります!」

 

何とも、心酔という言葉が似合う動機だ。

しかし、それ故に私の中では、侮辱された

怒りよりも嬉しさが湧き上がる。

「良い。……その怒りが、お前達の私に 

 対する信頼の証であると、良く分かって

 いる」

そう言って、私はパルの肩に手を置く。

「げ、元帥ッ!」

すると、パルは今にもうれし泣きをしそう

な表情を浮かべる。

 

「それに、今は時間も弾も惜しい。

 悪いが、防衛ライン構築を急ぎたい。

 その程度の雑魚に構っている暇は

 無いぞ?」

「はっ!そ、そうでありました!

 これはとんだ失態を!」

慌ててデビッドの上から退き、私の

前で敬礼をするパル。

 

すると……。

「こ、この!獣風情がっ!」

起き上がったデビッドが剣を抜きかけた。

その時。

「いい加減にして下さいデビッドさん!

 今は私達が揉めてる場合じゃない

 んですから!これでパル君達が怒って

帰っちゃったらどうするんですか!

もうっ!あっち行ってて下さい!邪魔です!」

 

そう叫ぶ愛子先生。すると、騎士たち5人の

顔色が真っ青になり、絶望したかのような

表情で町の方にトボトボと歩いて行った。

 

それを見送る先生の後ろでは、何やら園部達

がざまぁ!と言いたげな表情をしていた。

まぁ良い。

 

「パル。私が防壁を構築する。お前達は

 ガーディアン隊の半数と共に塹壕を掘れ。

 それと、残りのガーディアン隊は前方

 に地雷原を敷設だ。多脚戦車の配置などは

 ハジメから聞いてくれ。ハジメはパル達を

 指揮して防衛ラインを構築。香織やシア、

 ルフェアは塹壕堀りを手伝って下さい。

 ユエは重力魔法が使えるので、物資を

 下ろすのを手伝って下さい」

「「「「「「了解っ!」」」」」」

私が指示を出し、皆が動き出す。

 

 

司が指示を出し、テキパキと皆が動き出す。

まず、司が指を鳴らし、漆黒の防壁を

創り出す。その上部には、40mm対空機関砲。

20mm機関砲。90mm高射砲。

それぞれを5門、10門、2門を設置。

これらはコンピューター制御なので、

私達やガーディアンが操る必要は無い。

更にガーディアン隊が使うために、固定式

ルドラを設置。

念のため、防壁にはシールド発生装置も

搭載しておく。

 

防壁そのものの防御機構はこれで十分だろう。

そう考え、チラリと下を見ると、ユエが

重力魔法を使って、6番艦のクレーンと

協力し巨大な長方形のコンテナを

下ろしていた。

6番艦は本来多脚戦車を搭載する場所を改修し、

コンテナ搭載用のクレーンを設置。

これを使って物資の積み替えなどを行う、

殆ど輸送艦となっている。

 

そして、よく見るとユエの少し離れた場所

に愛子先生と園部たちの姿があった。

あんな所で何を?そう考えながら、私は

防壁を飛び降り、6番艦の方へと向かった。

 

「……先生、園部たちも。何をしているの

 ですか?」

「あ、新生君」

振り返り私の名を呼ぶ先生。

「実は、その、先生達も何か出来る事が無い

 かな~って思って。でも、特に出来る事も

 無くて。それで気づいたらここに」

 

「そうでしたか」

と、頷いたとき。

「な、なぁ新生。このコンテナの中身って、

 何なんだ?」

男子の玉井が疑問符を浮かべながら質問

してきた。

「あぁ。このコンテナの中身は新型の

 機動兵器が搭載されています」

「き、機動、兵器?」

首をかしげる園部。他の女子二人もだ。

 

「元々、私が設計開発した物をパル達の

 基地、ハルツィナ・ベースで量産しよう

 としていたのです。今回投入出来たのは、

 先行試作機10機の内、飛行テストが

 終わっていた3機だけでした」

「ひ、飛行テスト?つまり飛べるのか?

 ……お前、一体どんな物創ったん

 だよ」

「どんな、と言われましても」

まぁ、見て貰った方が早いか。私自身、

新型の完成の度合いが見たい。

 

「パル」

私は、側に居たパルに声を掛けた。

「はい、お呼びでしょうか元帥」

「あぁ。新型の事を今のうちに見ておきたい。

 出来るか?」

「はい。お任せを」

そう言うと、パルはコンテナの側に居た

ジョーカーを装備した兵士達と何か話を

している。

 

 

そして……。

「1号コンテナ!ハッチ開放!リフトアップ!」

「同じく2号コンテナも!ハッチ開放!

 リフトアップ!」

「3号コンテナ!ハッチ開放!リフトアップ!」

ガコォンと言う音と共に、天井部分を覆っていた

ハッチが観音開きの扉のように左右に割れる。

そして、中から現れたのを見た男子達は……。

 

 

「か……」

「「「カッケェェェェェッ!!!!!」」」

とても目を輝かせていた。

 

 

リフトアップして現れたのは、黒い人型の

ロボットだった。

漆黒の機体は、スラリと長い手足、鳥類を

思わせる頭と背中の羽のようなパーツが

特徴的だ。

「なぁなぁ新生!あれ何なんだよ!名前は!

 武器は!?」

「お、おう」

やけにテンションの高い男子達。先ほど

まで私を恐れていた感じが、一時的とは

言え消えている。

以前ハジメが……。

 

『戦うロボットは男の夢』とか言っていた

が、これの事か?まぁ良い。

 

「これは私の開発した、高機動人型有人兵器だ。

コードネームはヴァルチャー。コンドルの俗称

から取った物だ」

「お~!確かに顔とか翼とか鳥っぽい

 もんな~!」

「装備は両腕の改良型レールガンを1門ずつ。

 背面の翼は、速度に合わせて可変する

 ヴァリアブルウィングを採用。急旋回や

 急停止を可能にしているが、反面、

 パイロットに凄まじいGがかかる。

 そこが数少ない欠点だ。乗るにしても、

 前提条件として重力制御装置を

 内蔵したジョーカーを装着した状態で

 なければな」

と、私が説明している隣では、男子達が

キラキラした目でヴァルチャーを見上げて

いるのだった。

 

 

そして、防衛ラインが構築されている中で、

ティオは一人、防壁の上から周囲にテキパキと

指示を飛ばす司を、ジッと見つめていたのだった。

 

その後、防衛ラインの構築は着々と進んで

いた。

昼頃には防衛ライン構築も一通り終了し、

その時パルは、戦闘の邪魔になるからと

南側に移動させた揚陸艇の側で軽い

昼食を取っていた。

 

そこへ。

「あっ。隊長」

「ん?」

近くで同じように軽食を取っていた部下が

パルに声を掛けた。首をかしげながらパルが

部下と同じ方を向くと、町の方から

ティオがやってきた。

 

「あなたは確か、ティオさんでしたね」

「うむ。昼時にすまぬな」

「いえ。大丈夫ですけど。元帥や

 ハジメさん達なら町のはずですけど、

 何か用ですか?」

「用、と言う程の物ではないのじゃが、

 少々話を聞きたくて来たのじゃ」

「話、ですか?」

 

その後、パル達が地面にシートを敷き、

パルや数人の兵士、そしてティオが円を

描くように座る。

「それで、話とは?」

「うむ。大した事ではないが、いや、

 お主達にしてみれば大した話かも

 しれぬが。……聞きたいのじゃ。

 新生司という男について」

「元帥について?……なぜ?」

パルは、訝しむような視線をティオに

向ける。

 

「待つのじゃ。こちらにあの男、いや、

 彼の弱点などを探ろう等という

 意図は無い。むしろ逆じゃ。

 お主達が彼に救われ、今のように

 なったと、お主達の同胞、シア殿より

 聞き及んでおる。そして妾は、お主達

 から直接聞きたいのじゃ。彼が、

 お主達の目にどう映っておるのか」

 

「そうですか。……じゃあまぁ、簡単な

 出会いの話から始めますが、シア姉から

 聞いた通りですよ。生まれながらに

 特異体質だったシア姉の存在がフェア

 ベルゲンにバレた事で、俺達は樹海を

 出ざるを得なくなった。そして、

 出たら出たで帝国兵に襲われて。

 そんな散々な事があったけど、そんな中

 で元帥と出会った。そして、俺達は

 元帥達が目指していた樹海の中心に

 ある大樹への案内を、助けてくれた事に

 対する礼としてする事になった。

 けど、樹海に入ったら入ったで、

 伝承だとか周期の関係で、何の因果か

 フェアベルゲンに戻る事になって。

 ……元々兎人族は弱小部族として

 周りから見下されていた。それが

 亜人の天敵、人間を連れ込んだってんで、

 周囲から殺気と侮蔑、憎悪の嵐さ。

 幸い、元帥が俺達を助けるために

 フェアベルゲンとの戦争も辞さない

 姿勢のおかげで、俺達は無事

 フェアベルゲンを出る事が出来た

 わけだが」

 

「彼は、お主達を守る為に戦争まで辞さない

覚悟だったのか?」

「あぁ。あの人は、ある意味真っ直ぐな

 人さ。敵となって立ち塞がるなら、

 選択肢は二つ。脅して退かすか、

 殺して退かすか。そのどっちかさ」

「何とも物騒な説得の仕方じゃのぉ」

と、若干呆れ気味に頷くティオ。

 

「それは確かにな。……けど、だからかも

 しれないなぁ。あの人は、仲間にも

 真っ直ぐなのさ」

「と言うと?」

「俺達はフェアベルゲンから出た後、元帥

 に鍛えられた。その中で元帥は、俺達に

 世界の理、弱肉強食の理を教えた。

 そして、争いが嫌いだった兎人族の

 心を、一度壊して作り直したのさ。

 俺は、そんな訓練の中で教わった事が

 ある」

「教わった事?」

 

 

「世の中には理不尽な事なんていくらでもある。

 例えば、俺が弱けりゃ家族を守れない。

 誰も守れない。だったらどうするかって

 問いかけに、元帥はこう答えた。

 『強くなれ』ってな。シンプルな答えだ。

 シンプルすぎるくらいだ。……けど、

 だからこそ分かる。強くなきゃ、

 家族も仲間も、何も守れねぇ。

 だったら、強くなるしかねぇだろ?」

パルは、かつての花と虫を愛でていた過去が

まるで嘘のように、獰猛な笑みを浮かべる。

他の兵士達も、うんうんと頷く。

 

「……そして、俺達は強くなった。

 どんな時でも決して諦めない強靱な

 精神を授かった。そして、同様に

 あの人から切札を、ジョーカーを

 授かった。もう殆どアーティファクト

 を授かったようなもんさ。俺達は、

 自分自身と、自分にとって大切な物や

 人を守る為の戦いにおける意思と

 技術を教わった。世界は残酷だ。

 だからこそ、強者だけが生き残ると。

 そして、俺達はあの人に鍛えられた事で、

 強者になった。今の俺達がこうして

 いられるのも、全てあの人のおかげだ」

 

「そうか。……弱肉強食の理。

 そうじゃな。それが世界の理か」

そう、ティオは静かに頷く。

「んで、元帥が俺等にとってどんな人か、

 だったな。あの人の事を一言で言うの

 なら、『王』だ」

「王?」

「あぁ。俺達は、あの人から力を授かった。

 家を授かった。戦う理由を授かった。

 俺達は……。あの人に導かれたからこそ、

 今ここに居る。……だから、あの人は、

 元帥は、俺達を導いてくれる『王』なのさ。

 俺達はその王に使える。力を与えられた

 者として。良くして貰った恩義を返す

 ために、絶対の忠誠を誓っている」

 

「絶対の忠誠、か。……そうか。

 それほどまでに、器の大きい男で

 あったか、彼は」

「あぁ。あの人ほどデッカい男は、

 早々居ないと思うけどな」

そう言って、パルやハウリアの兵士達は

笑みを浮かべる。

 

そして、ティオも。

「王、か」

と、どこか決意したような表情を浮かべながら

ポツリと呟いていた。

 

 

既に昼を過ぎた頃。防壁の上では仮設テントの

中でハジメと私たちが作戦の最終確認をしていた。

周囲には愛子先生たちとパル達の姿もある。

護衛騎士どもは、愛子先生に邪魔と呼ばれた

のが相当ショックだったのかここには

居ない。そこへ。

 

「失礼するのじゃ」

ティオがやってきた。

「ティオさん?ちょうど良かった。今迎撃

 作戦の確認をしていたんです」

「……そうじゃったか」

ハジメの言葉に応えるティオ。しかし、

視線はすぐに私の方に向けられた。

 

「……何か?」

それに気づいて私も声を掛ける。

しかし、数秒押し黙るティオ。もう一度

声を掛けようとしたとき。

 

「新生司殿に、頼み事があります」

何かを決意したような表情を浮かべながら、

彼女は話し始めた。

 

「……頼み、と言うのは?」

「妾を、司殿たちの旅に同行させて

 欲しいのじゃ」

「私達の旅に?しかし、貴方には来訪者、

 つまり今ここに居る私達や先生、園部たち。

 更には王都に居るである勇者たちを

 調べると言う目的があるはずでは?」

「そのことは、重々承知しているのじゃ。

 ……妾は、これでも里では一番の強者

 であった。それが、司殿との戦いでは、

 反撃らしい反撃など出来ず、一方的に

 攻撃され、落とされた。……あの時

 思ったのじゃ。『あぁ、自分はただ、

 本当に強い者に出会った事が無い

 だけの、弱者なのだな』、と。

 正直に申せば、その強さをもっと知りたい

 と願ったのじゃ」

「だから、私達に同行したい、と?」

「はい。……調査のことを忘れた訳では

 ありませぬ。しかしそれは、新生殿

 たちと共に在っても出来る事。

 だからこそ……」

彼女はそう言うと……。

 

『スッ』

その場に片膝を突いた。

「どうかあなた様の旅路に同行する

 許可を頂きたいのです」

彼女の姿勢に、ハジメ達や先生達が

驚いている。

 

その姿は、まるで新たな主を見つけた

家臣のようだったからだ。

「……険しい旅だぞ。私達の旅は」

「はい」

「猛者と呼ばれる者であっても、下手を

 すれば命を落とす程、過酷で危険な旅

 になるかもしれない」

「承知しております」

「それでも、付いて来たいと言うのか?」

死ぬ可能性を提示してもなお、彼女は

迷うそぶりすら見せない。

そして……。

 

「はい。私は、今よりも強くなりたいの

 です。……不敬かと思われますが、

 あなた様のように」

そう言って、ティオは僅かに頭を下げる。

 

しかし、まぁ。

「良いだろう」

「ッ!」

ティオは、私の言葉に、反射的に顔を

上げる。

「私には、別にお前を拒む理由は無い。

 付いて来たいと言うのなら、好きに

 すれば良い」

「はいっ。ありがとうございます」

そう、ティオは嬉しそうに頭を下げるの

だった。

 

 

ちなみに……。

「なんか、新生君王様みたいね」

「「うんうん」」

その近くでは園部たち3人がそんな

やり取りをしていた。

 

その時。

『元帥!こちら斥候班!魔物の集団を

 確認しました!』

近くに置いていた無線機から、ホバーバイクで

北方を監視していた兵士達の声が聞こえてきた。

「よし。お前達はすぐさま帰還しろ」

さて、では、始めるとするか。

 

私は大きく息を吸い込む。そして……

 

「総員戦闘態勢!サイレンを鳴らせ!」

『ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!』

次の瞬間、防壁に設置されていた

スピーカーからサイレンが鳴り響く。

私は斥候班からの情報を聞きながら

テントを出る。

 

「砲兵部隊は多脚戦車の用意を!敵は

 あと30分弱でこちらの攻撃可能

 エリアに接近する!壁上砲撃部隊は

 ルドラ改の最終チェックだ!急げ!

 航空攻撃部隊も同様のホバーバイクの

 チェックを済ませておけ!」

周囲では、ガーディアン達とハウリア

の兵士達の手で準備が進んでいく。

 

私は、防壁の淵まで歩いて行き、立ち止まる

とハジメやパル達、先生達の方へ振り返る。

「皆、聞いての通りだ。……これより我々

 G・フリートとGフォースは、この

 ウルの町を防衛する。斥候班の連絡では、

 魔物の軍勢は5万を超えるとの事だ」

「……5万超え、か」

ハジメは、ごくりと唾を飲み込み呟く。

 

「これほどの大規模戦闘は、私も前例が

 無い。……だが、我々は勝利するべくして

 勝利するだろう。……我々は決して

 負けない。理由は、ハジメ達やパル

 ならば分かるだろう。……いつも通りだ、

 諸君。……いつも通り、立ちはだかる物

 をなぎ倒して進む。それだけだ」

 

私の言葉に、ハジメ達は笑みを浮かべながら

頷く。

「確かに。司が居ればあれくらい。ねぇ?」

「うんうん。どうにかなるよ」

笑みを浮かべるハジメと頷く香織。

「いっちょやったるかぁ!ですぅ!」

「ん。消し飛ばしてやる」

アータルを肩に担ぎ、トントンと肩を叩くシア。

ユエもサムズアップをしてやる気十分だ。

 

「うん。……仲間が、大切な人が側に

 居るんだもん。負ける理由なんか無い」

そして、ルフェアも私を見上げながら

呟く。

「そうだ。我々に、負ける理由は無い」

 

奴らを倒し、生き残るのは私達だ。

 

「行くぞ。戦いの時だ」

私は北の方を睨みながら呟く。私の

左右に、ハジメ達6人が並ぶ。そして……。

 

『『『『『『READY?』』』』』』

「「「「「アクティベート(!!!)」」」」」

『『『『『『START UP』』』』』』

 

私達6人が、それぞれのジョーカーを

纏う。

「では、作戦通りに。ハジメ、香織、

 ルフェアの3人はパル達と共に

 壁上からミスラなど長距離兵器を

 用いた援護射撃を。ユエ、シア、

 ティオの3人は砲兵部隊の前方に

 展開。地雷原を突破してきた敵の

 殲滅を。私はヴァルチャー1番機に

 搭乗し、2番機、3番機と共に

 空の魔物を殲滅後、地上への攻撃を

 行います」

「「「「「了解っ!」」」」」

「ホバーバイクの航空攻撃部隊は制空権を

 私達が確保した段階で出撃。左右から

 集団を挟み込め」

「「「「「はっ!」」」」」

私が指示を出していく。

 

そんな中、遠くに土煙が見え始める。

同様に、空にはいくつかの、プテラノドン

のような魔物の姿もある。

「来たか」

それを睨み付けながら私は呟く。

と、その時。

「新生君。……あの、ローブの男性の事

 なんですけど」

「殺さず、捕らえれば良いのですね?」

「はい。……勝手で無茶なお願いとは

 思いますが、お願いします」

「……分かりました」

先生にしてみれば、ローブの男の正体が

清水であるかどうかを確かめる手段は、

今はもう捕まえてローブの下の顔を

確かめるしか無い。

 

それに、それくらいなら大した問題にも

ならないだろう。

 

「では、ティオ」

「ん?何じゃ?マスター」

と、私の事をマスターと呼ぶティオ。

それだけで周囲の園部たちの視線が痛い。

が、今は気にしても始まらない。

 

「これを渡しておく」

「これは?」

私は腕輪型の魔力供給リングを彼女に渡す。

「それは私から無限の魔力をお前に供給する。

 腕輪を身につけていれば、魔力切れを

 起こす心配は無い。好きに使え」

「それはありがたいのじゃ。遠慮無く、

 使わせて貰うぞマスター」

そう言って、ティオは腕輪を巻くと、壁上

から飛び降りていった。

 

「じゃぁハジメさん!行ってきます!」

「ハジメ、援護よろしく」

「うん。任せて。二人の背中は、僕が 

 守るよ」

シアとユエの言葉に、ハジメはサムズアップを

する。

二人は、それを確認するとティオを追って

飛び降りていった。

 

さて、と。

「ではパル、ハジメ。防壁の事は二人に

 任せます」

「はっ!お任せ下さい!元帥!」

「うん。何が何でも、防壁は僕達が

 守り抜いて見せる。だから司は、

 安心して行ってきなよ」

そう言って、ハジメは私にもサムズアップ

をする。

 

……改めて、ハジメが頼もしくなった物だと、

私は実感していた。

「では、背中は任せましたよ?ハジメ」

私は、そう言って壁際のヴァルチャーの前へ

と飛び降り、着地する。

 

ヴァルチャーは自動でハッチを開き、私は

そこに飛び乗った。

シートに体を収め、計器をチェックしながら

システムを立ち上げていく。

『元帥、2番機はいつでもいけます』

『同じく3番機!こちらも準備完了!

 お供出来て光栄です元帥!』

そこへ、2番機と3番機のハウリアパイロット

から通信が届く。

「うむ。説明するまでも無いだろうが、

 我々3機の目的は、まず何よりも

 ホバーバイクの航空攻撃部隊が

 安全に攻撃出来るよう、制空権を

 確保する事だ。そして制空権の確保が

 完了次第、そのまま地上攻撃を

 行う。数は多いが、我らのヴァルチャー 

 の敵ではない。気を引き締めてかかれば、 

 どうという事は無い。落とされるなよ、

 二人とも」

『『了解っ!』』

 

二人に指示を出し、私はモニター越しに

見える空に目を向ける。

プテラノドン似の魔物が、こちらに接近

している。

そして、その魔物の主と思われる一回り

大きな個体の背中に、ローブの男の姿が

あるのを、ヴァルチャーのカメラからの

映像で確認する。

先生との約束だ。殺さずに捕らえる為に

尽力するとしよう。

 

「よし。1番機も準備完了だ。

 ヴァルチャー全機、発進スタンバイ!」

 

私の号令に従い、3機のヴァルチャーが

背面のウィングからピンク色の炎を

吹き出し、その場に浮かび上がる。

そして……。

「発進ッ!」

『『『ドウッ!!!』』』

 

3機のヴァルチャーは、凄まじい風と共に

その場から飛び上がった。

 

 

3機のヴァルチャーが飛び上がっていく中、

愛子は園部達やデビッド達と共に、それを

見送っていた。

『どうか、どうか、皆、無事に……』 

そして愛子は、自然と手を合わせ、祈る。

彼等が皆、無事に戻ってくる事を。

 

そんな彼女の側に居た男の子が、

空を見上げポツリと呟いた。

 

「黒い、天使?」、と。

 

今正にウルの町の防衛戦が始まろうと

していた。

 

     第34話 END

 




次回はウル防衛戦のお話です。

読んでて思ったと思いますが、ティオ、
メッチャ原作より変わってます。ご容赦下さい。

感想や評価、お待ちしています。

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