ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

42 / 87
今回はウル防衛戦後のお話で、メッチャ長いです。
いつもの1.5倍はあります。


第36話 Another ending

~~~前回のあらすじ~~~

ウルの町に迫る5万の魔物と戦闘を開始する、

司たちG・フリートとパル達Gフォース

派遣艦隊の混成防衛部隊。司はヴァルチャーに

搭乗し空から。ハジメ達は防壁から砲撃を。

ユエ、シア、ティオは最前線で戦い、これを

殲滅。ウルの町は守られ、司達はこの騒動の

首謀者、清水幸利を捕らえるのだった。

 

 

 

清水幸利という男を良く言えば平凡。

悪く言えば、影が薄い、といった所だ。

それが原因で清水は中学時代にいじめを受け、

引きこもりになると、漫画やラノベと言った

物へと傾倒していき、オタクとなった。

そんな彼を煩わしく思う兄や弟の存在が、

清水を更に悪い方へと変えていった。

自分が主人公の物語を何度も夢想していた

清水にとって、トータス世界への召喚は、

一言で言えば『夢が叶った』、だ。

 

魔法が存在し、チートと言えるスペックが

最初からある。

その事実を知った清水の耳に、説明の場で

司が語った戦争という存在など、殆ど

入ってこなかった。

 

しかし、現実は非情だ。

清水は自分が勇者になるんだと、疑って

いなかった。だが、実際に勇者となったのは

光輝だ。更にそれすらも上回るパワーと

スペックを誇る司。その司に力を与えられ、

強くなっていくハジメ。

 

清水は、憤った。場違いな怒りだ、などとは

思わず光輝に、司に、ハジメに。

なぜ自分が勇者ではないのか?

なぜ司にあんなスペックがあるのか?

あのスペックは自分にこそ相応しい。

なぜハジメ如き無能がジョーカーを

持っている?

それは自分にこそ相応しい。

 

端から見れば、場違いも甚だしい怒りだ。

だが、清水の歪んだ心は、そんな事も

分からない程、汚れていた。

 

そして、彼の心をへし折った事件があった。

そう。オルクスでの強制転移事件だ。

どこかも分からぬ橋の上に投げ出され、

皆がパニックになるなか、司とハジメは

獅子奮迅の戦いで場を切り抜けた。

 

特に清水はあの時ハジメの背中を見つめていた

一人だ。その時、清水の心は折れた。

『自分はやっぱりモブだ』、と。

一度は現実逃避から戦いを拒否した清水。

そんな彼は時間を潰すために自分の適性、

闇魔法への知識を得ようと本を読んだ。

 

そんな中で清水がたどり着いたのが、

闇魔法を極めての、洗脳と支配の力だ。

とは言え、人間相手ではリスキーだ。

逆に魔物は人間よりも洗脳しやすい。

それが分かった清水は、夜な夜な王国の

郊外で雑魚の魔物を洗脳し支配する実験を

繰り返した後、強い魔物を求めた。

 

そこにやってきたのが、愛子がウルの町に

行くと言う話だ。

清水は、北の山脈の魔物を支配しようと

考え、それに同行した。そして、姿を消し、

本来なら2週間ほどしてから愛子達の前に

現れるはずだった。

 

しかし、ティオを支配した事と、とある助力

する『存在』。日々増えていく軍勢に、清水

の心の枷が砕け散った。

これまでの鬱屈した感情が解放されたかの

ようになり、とうとう町へ魔物の群れを

放った。

 

 

だが、結果はご覧の通りだ。

魔物の群れは司たちに倒され、自分は

囚われの身だ。

 

場所はウルの町の郊外。そこに、ハジメ達

と司、パル達数人のGフォースの兵士。

愛子と園部たち、ウィル、デビッド達。

後は町の重鎮が数人だ。

 

拘束はしていない。愛子からの進言の為だ。

ただし、ハジメ達も司もジョーカーを纏った

ままで、全員が最低限としてノルンを携帯し、

既に薬室に初弾を送り込んだ状態でホルスター

に収めていた。

 

やがて、愛子が近づき、清水を揺り起こした。

目が覚めた清水は、状況を理解すると

ズリズリと尻餅をついた体勢で後退った。

周囲を見回している清水に優しく語りかける

愛子。しかし、清水から帰ってきたのは、

不平不満だけで、その言葉に園部達が

反発する。

 

ハジメや司たちは、それを黙って聞いていた。

そして、愛子は、周囲を見返すため、と言う清水

の行動について問いただした。すると……。

 

「……示せるさ。……魔人族になら」

「なっ!?」

愛子が驚いた。その時。

 

 

「やはり、か」

これまで黙っていた司が口を開いた。

周囲の視線が彼に集まる。

「愛子先生は豊穣の女神と呼ばれる程の

 存在。生物は食べ物が無ければ生きては

 いけない。……人族にダメージを与えるのなら、

 人を殺す以外にもやりようはある。

 ……それは食料生産にダメージを与える事。

 その行動の中で、最もダメージを狙うの

 ならば、作農師としてのチートスキルを

 持つ、先生を殺す事。……それが

 魔人族の、そして貴様の狙いだろう?」

私の言葉に、清水は視線を逸らす。

図星か。魔人族にとって、先生は厄介だ。

あの勇者以上に。だから殺そうとしていた。

そこに、清水という存在を見つけた。

勇者として認められたい欲求があった

清水を上手く騙し、利用した、と言う所だろう。

 

 

その時、愛子先生が清水の片手を握り、優しく

語りかけた。

 

だが……。

「動くなぁ!ぶっさすぞ!」

どうやら先生の言葉だけでは届かなかったようだ。

清水は逆に先生を人質に取り、どこからか

針のような物を取り出した。恐らく、魔物か

何かの毒針だろう。だが……。

 

「無駄な事を」

パチンと、指を鳴らす私。次の瞬間、針が

消える。

「な、何っ!?」

驚く清水。次の瞬間。

『パンッ!』

「ッ!?ぎゃぁぁっ!」

私の放ったノルンの銃弾が、清水の右肩を

撃ち抜いた。

そして、その瞬間、踏み込んだハジメが

先生を抱えてすぐさま横に飛ぶ。

 

「ま、待って!南雲君!放して!」

それをチラ見してから、私は清水の元に

近づく。

逃げようというのか、清水が左手を

伸ばすが……。

『パンッッ!!』

「ぎゃぁっ!?」

私がその手の甲を撃ち抜いた。

 

「逃げられる、とでも思って居たのか?

 ……甘く見られた物だ」

私は、地面に蹲る清水に対し、ノルンを

突き付ける。

清水は、怒りと嫉妬、負の感情が交ざった

かのような目で私を見上げる。

「……畜生、何なんだよ。お前はぁ!

 何でお前が、こんな所にいるんだよ!

 あと少しで!あと少しで俺が勇者に

 なってたんだ!あと少しで!」

「勇者、だと?……笑わせるな。

 お前はただ、自分の事しか考えていない、

 ただのクズだ。

 現実を現実とも受け入れられない、

 歪んだ思考。他者を見下すだけの歪んだ

精神。……到底、勇者の器ではない」

「うるさい……。うるさいうるさい!

 俺は、俺は特別なんだ!俺ならあんな

 勇者よりも上手くやれる!お前達が

 邪魔しなけりゃ!」

「……。言いたい事はそれだけか?」

 

私は、ノルンの引き金に指を掛ける。

「……貴様のことだから、覚えていない

 かもしれないだろう。だからもう一度

 教えてやる。

 『撃って良いのは撃たれる覚悟のある奴

 だけだ』、とな。そして、お前は北の

 山脈で、既に5人、魔物を操り殺している。

 ……だから、ここで私に殺されたと

 しても、文句は言えない訳だ」

ゆっくりと、私は引き金を引き……。

 

「待って!待って下さい新生君!」

かけたが、先生の声に指を放した。

「お願いです!待って下さい!私が、

 私が清水君と話しますから!」

「……残念ですが、こいつにはもう、

 先生の言葉は届きません。今正に、

 それで殺され掛けた事をお忘れ

 ですか?」

「そ、それは……!でもっ!話し合いを

 重ねれば、きっと!」

「……この男の、清水の考えは変わる、と?

 些か、夢見が過ぎると思いますが?」

 

「分かっています!でも、私は先生

 なんです!だから、お願いします!」

先生は、ハジメに抑えられながらも必死に

そう叫んでいる。

「南雲君!放して下さい!」

「だ、ダメですよ!危ないですから!」

「じゃあ、清水君を見殺しにしろって

 言うんですか!?南雲君は!」

「ッ!そ、それは……」

愛子先生の言葉に、ハジメの拘束が一瞬

緩む。

先生はその隙にハジメから離れ、清水に

駆け寄る。

 

「清水君!大丈夫ですか!」

そして、先生は清水を起こすと、手の傷を

ポケットから取り出したハンカチで縛ろう

とした。

その時。

 

「ッ!危ない!避けて!」

シアが叫ぶのと、私が動くのは、ほぼ同時

だった。

どこからともなく、迫り来る水のレーザー。

「むぅんっ!」

だがそれは私が展開した多重エネルギー

シールドに阻まれた。

念のため幾重にも結界を張ったが、問題

無く1枚目で止められた。

 

今の攻撃は、清水の背後から放たれた物だ。

清水を見ていた先生をこいつ諸共葬ろうと

言う算段なのだろうが……。

すぐさまレーダーを最大出力で起動し、

ジョーカーのズーム機能で敵を見つけた。

敵は浅黒い肌からして魔人族だろう。

そいつが、鳥型の魔物に乗って逃げようと

している。

「逃がすかっ」

 

私は手元にミスラを2丁取りだし、発砲した。

『『ドドンッ!!』』

僅かな差で放たれた攻撃。

魔物は1発目の19ミリ団は避けたが、

2発目は避けられなかったようだ。

魔物の翼の片方と魔人族の男の片足が

吹き飛ぶのが見えた。魔物と男が地平線の

向こうに落下していく。

 

「野郎っ!!!」

それを見ていたパル達が落下地点の方に

行こうとするが……。

「良い。捨て置け。……どうせ、あの傷

 では戦えまい。それよりも、今は

 こっちだ」

「はっ。了解です元帥」

私はパルに命令をすると、改めて

先生と清水に目を向けた。清水は、

振り返ったまま、魔人族が居た方を

見つめている。

 

「お前は所詮、捨て駒だったようだな」

「捨て、駒」

清水は、私の言った単語を驚いたまま

繰り返している。

「全ては愛子先生を殺す為。先生を殺せれば、 

 それで良し。お前という存在も、利用し

 切り捨てられていた可能性もある。

 ……きっと奴らは嗤っているだろう。

 上手く懐柔出来た新しい駒だ、とな。

 お前はただ、その屈折した承認欲求を

 利用された、哀れな人形に過ぎない」

私の言葉に、清水はカタカタと体を

震わせる。

 

「自分が特別だと?魔人族なら認めてくれる?

 違うな。お前はただ、体よく利用された

 だけの、『バカ』に過ぎない」

「うっ、うぅぅっ!うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

次の瞬間、清水は目の前の先生の首元

に両手を伸ばし覆い被さろうとする。

 

だが……。

『ガッ!』

「ぐあぁっ!」

私がその額を蹴りつけてのけぞらせた。

背中から地面に倒れる清水。

……手加減はした。見ると額から血を

流しているだけで生きているし、意識も

あるようだ。

「先生ッ!」

咄嗟に香織が先生を庇い、私は清水の元に

歩みを進める。

 

「自分は特別だと?違うな。お前は特別 

 なんかじゃない。どこにでも居る普通の

 人間だ。……そして、現実はお前の夢じゃ

 ない。夢は所詮、幻想に過ぎない。

 現実に幻想を夢見るのは、愚か者の

 やる事だ」

私は、ノルンの銃口を清水の額に向ける。

 

その時。

『ガッ!』

「待って下さい!」

先生が、私の右手にしがみついた。

「お願いです!私が、私が清水君を

 説得します!だから!」

「……」

……言葉を重ねても無駄だ。

既に、この男の魂に、『言葉だけ』では

少なくとも届かない。

 

「……本当に、こんな男を助けたいの

 ですか?助けた所で、また同じ事をする

 可能性が、無いと言い切れるのですか?

 そして、もし仮にまた同じようなことを

 したとして、先生は本当に責任を

 取れるのですか?何より、こいつは

 貴方を殺そうとした」

「分かっています!それでも、私は先生

 なんです!私は、皆がもっと良い未来

 へ行く手助けがしたいんです!

 偽善かもしれないけれど、それでも

 私は先生なんです!」

 

「愛ちゃん……」

園部が静かに先生の名を呼ぶ。他の生徒達も、

何か思うところがあったのか、俯いている。

 

彼女は、どこまでも先生、と言う訳か。

……しかし、『言葉だけ』では届かない。

少し、『賭けて』みるか。

 

そう考えた私は、ノルンをホルスターに

収めると、先生から離れながら指を数回、

鳴らした。すると清水の怪我が消え、

代わりに彼の体をロープが縛り上げる。

そして、私は手元に大きめの、黒い

鋼鉄製のチョーカーを出現させると、それを

清水の首にセットした。

 

「新生君。何を……」

「……今、清水の首にセットしたチョーカー

 には、爆薬が入れてあります。人一人の

 首を切断するには、十分な量です」

「ッ!?」

私の言葉に先生の表情が強ばる。更に、私は

小さな長方形の、ライターのような形の

スイッチを創り出す。

 

「チョーカーは、今から20分後に爆発します。

 止める方法は、このスイッチの赤いボタンを

 制限時間内に押すだけです。そして……」

私は、更に魔力供給リングと魔力式

ハンドガン、『ティアマト』を創り出し、

先生の足下に放った。

 

「魔力を無限に供給する腕輪と、魔力を弾丸

 として打ち出すハンドガンです」

「こ、これで……。どうしろ、と?」

薄々感づいているのか、先生は戸惑いながら

私とティアマトの二つを交互に見つめている。

 

「20分以内に、このスイッチを私から

 奪えれば、清水は死なないでしょう。

 あとは、先生の好きにすれば良い。

 それ以降私は先生の清水に対するやり方

 に、一切口出しはしません」

「ちょ、ちょっと待ってよ新生!

 あんた自分が何してるのか

 分かってるの!?あんた、愛ちゃんに

 戦わせようって言うんじゃ!」

「半端物は黙っていろ!」

叫ぶ園部たちを、私は殺気を交えて

一括する。それだけで、園部たちは大人しく

なる。

 

「いつだか、私は先生に言いましたよね?

 意思だけでは、声だけでは、何も守れない。

 ……先生に自分の意思を貫く覚悟が

 あると言うのなら、戦う事でそれを

 示して下さい」

「ッ。私、が?」

「えぇ。……それとも、先生は戦う苦痛から

 逃げ、清水を見捨てますか?まぁ、それも

 構いません」

そう言うと、私は先生に背を向け、再び

ノルンを清水に向ける。

「ただ、こいつの死期が早まるだけですから」

後ろで先生が息を呑む音が聞こえる。

 

「あなたに守る意思があるのだとしても、力を

 持たなければ、奪われるだけですよ!」

清水に銃口を。そして先生には現実を

突き付ける。

私は、静かに引き金に指を掛ける。

 

と、その時。

「ダメェェェッ!」

『バシュッ!』

火薬の物とも違う破裂音が響いた。それは

ティアマトの物だ。

私は咄嗟に、左手にティアマトを生み出し、

振り返って相殺する一発を放った。

空中でぶつかり合い、消滅する魔力弾。

 

「ハァ、ハァ……!ッ!?」

やがて、先生は銃を撃った事を自覚した

のか、震えながらティアマトを落としそう

になるが……。

 

「落とすなっ!!」

私の叫びに、先生はティアマトをギリギリで

保持する。

「それはお前の力だ!お前の意思を貫き

 通すための物だ!」

私の叫びに、先生は呆然としている。

「選べ!ここで、清水を助けるために戦うか!

 それとも、見捨てるか!言っておくが、

 私を説得してチョーカーを外させよう

 等という考えがあるのなら捨てろ!

 私が貴方の言葉で簡単に納得しないのは

 貴方自身が知っているだろう!」

私はノルンをホルスターに収めるとティアマト

を先生に向けた。

「時には力を使わなければならない時が

 ある!そして、それが今だ!」

『バシュバシュッ!』

ティアマトから放たれた魔力弾が先生の

足下に着弾する。

 

「ッ!愛子っ!貴様ぁっ!」

その時、愛子を撃った事に怒った護衛の

デビッド達が向かってくるが……。

 

「邪魔だぁっ!」

私が強烈な殺気を放つと、泡を吹いて気絶

してしまった。これによって、デビッド達と

重役達は気絶。ウィルは呆然とし、園部達は

動こうとしない。ハジメ達はただじっと、

私のやろうとしている事を見守っている。

 

「弱ければ守れない!何も!誰も!

 力が無ければ、あなたの意思はただの

 妄言でしかない!その理想を貫く覚悟が

 あるのなら、示して見せろ!私に!

 その理想の為に戦う覚悟があるのなら、

 戦って見せろ!ここで!私と!」

私の言葉に、先生はティアマトを握る手

を震わせながら構える。

それに対し、私はジョーカーの装着を

解除する。

 

「……来い。あなたの覚悟を、私に

 見せてみろ!」

「ッ!うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」

先生は、叫びながらティアマトを連射し

私に向かってくる。

とは言え、素人の射撃。命中率は低い。

命中する物だけを、同じティアマトの

魔力弾で迎撃する。

距離が近づいた瞬間、先生は私の右手に

あるスイッチに手を伸ばす。

だが……。

 

私は、ティアマトを宙に放ると、突進してきた

先生の服を掴んで、背負い投げで投げ飛ばした。

『ドタンッ!』

「あぐっ!?」

背中から地面に落ちる先生。

「残り、16分ですよ。先生。実力を

 考えれば、諦めるのもまた選択の一つ

 だと思いますが?」

「そんな事、出来ませんっ!」

先生は、何とか体を起こし、立ち上がると

私に向かって来た。慣れないながらもパンチ

を放つが、素人のそれを避けるなど、私に

してみれば楽勝だ。

2発、3発、4発と避け、更に大ぶりの5発目

を避け、先生の指先に足を引っかける。

「あっ!?ぐっ!?」

それだけで先生は地面の上に倒れる。

 

先生は、しばし動かなかった。だが、震える手

で立ち上がり、振り向いたとき、ぶつけた

衝撃のせいか、鼻血を流していた。

しかし、その目に映る闘志に、衰えは無い。

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

血を流しながらも、先生は戦う。

私目がけて精一杯拳を振るい、ティアマトを

撃つ。しかしそれら全て、当らない。

私とて、当ってやる気も無い。

 

全ては、『試す』ためだ。先生を。

そして、奴を。

 

「何やってんの新生!あんた、先生に!」

「……半端物は黙っていろと言った。

 何だったら、先生に加勢するか?」

園部がまた性懲りも無く叫んできたので、

良い機会だ。彼等も、試す。

 

実際、今の奴らは、私との戦いを恐れて

萎縮している。……これで良く、護衛隊

などと言えた物だ。

「戦う気が無いのなら黙っていろ!」

「「「「「「ッ!!」」」」」」

私の叫びに、6人はビクッと体を震わせる。

「口先だけの存在など、いくらでも居る!

 お前達がそうだ!護衛隊とは、護る部隊!

 それがどうだ!まともに戦う事も出来ず、

 護衛隊など!聞いて呆れる!」

 

覚悟を、決意を、それを持てるのは彼等

次第だ。

「私はかつて言った!撃って良いのは、

 撃たれる覚悟がある者だけだと!

 だがお前達はどうだ!?覚悟も決意も

 無く、なのに武装し、護衛隊などと

 言う戦争ごっこをしている!完全に

 争いから逃げる訳でも、立ち向かう訳

 でもない!これを中途半端と言わず、

 何という!」

 

その時。

「だ、だって、怖いんだもん!」

女子の一人、菅原が叫ぶ。

「私は嫌だ!死にたくない!死にたくない!」

そう言って、その場に蹲る菅原。

他の5人も表情を青くしている。

だが……。

 

「そうだ!誰だって死にたくは無い!

 だが怖いと言うのなら、なぜお前達は

 護衛隊などをやっている!護衛する、

 と言う事は、戦う可能性があるとは

 考えなかったのか!」

私は、突進してきた先生をいなし、

叫ぶ。

「そ、それは……」

園部が言葉に詰まる。

 

「戦場!痛み!恐怖!お前達はそれらの

 事を知り、萎縮している!

 だがな!忘れたとは言わせんぞ!

 お前達はチート級のスペックを

 持っているはずだ!その力を極めて

 居たならば、お前達だけで魔物の群れを

 退けていた可能性だってある!」

「ッ!お、俺達、が?」

もちろん、半分は『はったり』だ。だが、

清水は闇魔法を極め、あれだけの魔物を

従えていた。成程、異世界から召喚

された彼等がチートだと言われる一端を

見たと私は思っている。

 

「そうだ!例えば、香織は今殆ど詠唱を

 無しで回復魔法を使える程に極めている!

 次にハジメ!お前達がかつて無能と罵った

 ハジメは、強くなるために日々格闘技を

極めている!

 だがお前達はどうだ!護衛隊という身分に

 驕り、高みを目指して等居ない!!」

彼等には、強くなるだけの伸びしろがある。

だが、彼等は力を伸ばす努力をしていない。

「例えば清水!確かに奴のした事は、到底

 許される事では無い!だが奴は、自らの

 力を理解し、極めようとした!その意味に

 限れば、清水はお前達よりも前進している!」

決して奴を褒めた訳ではない。だが、事実だ。

 

園部達が力を付けようとしない中、清水は

自らの力を研究し、実験し、伸ばした。

その動機も褒められた物ではないが、

力を伸ばした事実は変わらない。

 

「こいつは、闇術師として力を磨き、

 考えた。だがお前達はどうだ!

 武器を持っていても、力を極めよう

 とはしない!極めれば、大抵の存在に 

 太刀打ち出来る猛者になれると言う

 のに!」

 

その時、男子の一人、玉井が拳を握りしめる

のを見逃さなかった。

……もう一押し、か。

「お前達が愛ちゃん護衛隊を結成した目的は

 何だ!?少しでも働き、周囲からの批判を

 無くすためか!?それとも、本気で先生を

 護りたいと思ったからか!?」

その言葉に、園部が私の与えたヒートクナイ

を握りしめる。

 

「お前達の護衛隊などただのごっこ遊びだ!

 隊などとは言えない!中途半端な奴らの

 寄せ集めだ!実際、何の役にも立っていない!」

私の言葉に、他の男子二人、相川と仁村が

その瞳に怒りの炎を滾らせ始める。

「怒ったか?私に!だがな!私は事実を

 言っているだけだぞ!お前達は、実際に

 この町の防衛戦で何をした!何も

 していなかっただろう!はっきり言おう!

 役立たずだ!」

更に、女子の菅原と宮崎までもが、私を

涙目ながらも睨み付け始める。

 

……起爆剤の用意は出来た。後は、奴ら自身

が着火出来るかどうかだ。

「悔しいか!事実を言われて!まぁ、人間

 図星は頭にくるらしいからな!

 ぶっ飛ばしたいか!私を!やる気が

 あるのなら、好きに掛かってこい!

 理由ならいくらでもあるだろう!

 先生を助ける為でも良い!自分の怒りを

 発散するためでも良い!」

6人は、自分の装備を握りしめ、私を

睨んでいる。

 

ふふっ。乗ってきたな。さて、最後の

発破を掛けるとするか。

「もしお前達に戦う気があるのなら、

 その怒り!私にぶつけて見せろ!

 お前達が恐怖の壁を越えたとき、お前達の

前進が始まる!さぁ!踏み込んでこい!

 自分の意思で!お前達の未来は、

 お前達自身で決めろ!恐れ、踏みとどまるも

 良し!闘志を糧に、恐怖を超えて挑むも

 良し!さぁ!選べ!自分の道は、自分で

 決めろ!」

「ッ!うぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

その時、メカニカルな曲刀、ヒートシミター

を抜き、玉井が私に斬りかかった。

私は咄嗟に深紅の刀、アレースを抜きそれを

防ぐ。

「やってやるっ!やってやるよ畜生!」

玉井の顔には、恐怖と興奮が混ざり合った

ような表情が浮かんでいた。

「はっ!やる気になったか!ならば、その 

 闘志を、私にぶつけて見せろ!玉井淳史!」

「うぉぉぉぉぉぉぉっ!」

咆哮と共に玉井は連続でシミターを振る。

その連撃を、私はアレースで防ぐだけだ。

だがその速度は、どう見ても素人ではない。

 

「……玉井君」

そして、玉井の姿を、体を泥だらけにした

先生が見ている。

「お、俺だって!俺だって男だ!あそこまで

 言われて、黙ってられるか畜生がっ!」

「そうだろうなっ!だったら、どうする!」

「やってやるよ畜生がぁぁぁぁっ!」

シミターの連撃を防ぐ。次第に慣れ始めた

のか、玉井のヒートシミターの軌跡が

鋭い物になっていく。

 

そして、次の動き出した者は……。

「愛ちゃん」

園部だった。彼女は先生の隣に立つ。

「ッ。園部さん?」

「……私、私。……戦います。女子だって、

 あそこまで言われたらやっぱり癪だし」

そう語る園部もまた、恐怖を隠すような笑み

を浮かべていた。

 

「それに……。私達は、愛ちゃん護衛隊

 だから。……だからっ!」

次の瞬間、私が玉井のシミターを弾いた

一瞬を狙って園部はヒートダートを

投げつけてきた。

それを、体をひねって回避する。

「次は園部か。……良いだろう。まとめて

 掛かってこい!」

玉井の攻撃の合間を縫って、私にヒートダート

を投げつける園部。

 

更に……。

「こうなったら、やってやる!やってやる

 んだから!」

更に菅原が、電磁ウィップを放ってきた。

それをバックステップで避ける。

更に相川が、仁村が、宮崎が。

次々と魔法を放ってくる。

「やってやる!俺達だって!」

「先生を助けるんだから!」

 

どうやら、全員に火が付いたようだ。

……これで良い。

 

私は、呆然としている先生へと視線を

向けた。

「愛子先生!彼等もまた、立ち上がった!

 さぁどうしますか!あなたはここで

 諦めますか!それとも、生徒と一緒に、

 清水を助けるために戦いますか!

 どっちだ!?」

「ッ!」

「皆、自分の意思で私と戦っている。

 貴方は見ているだけか!」

6人の攻撃を捌きながら叫ぶ。

そして、先生はティアマトをギュッと

握りしめ……。

 

「皆、私に力を貸して下さい!私は、

 清水君を助けたいんです!」

ティアマトを構えながら叫んだ。

「「「「「「はいっ!!」」」」」」

そして6人も、気合いに満ちた返事を

返す。

 

今、私は先生を。そして清水を

試している。6人の覚醒は、無いと思っていた。

しかし、これはある意味嬉しい誤算だ。

先生と園部たち、7人が決意を宿した

目で私を睨み付けている。

 

「ほう?……いい目をするようになった

 ではないか。……さぁ!来い!

 お前達の意思とその力で、私の勝利

 出来る物なら、やってみるが良い!」

 

その叫びを合図に、7人は一斉に私に

襲いかかってきた。

 

 

『何でだよ……』

チョーカーのタイマーのカウントが10分を

切る中、清水は考えていた。

彼には理解出来なかった。愛子が、彼女自身を

殺そうとした清水を助けるために、一生懸命、

全身全霊で戦っている事を。

そして、清水は自然と視線で愛子を追っていた。

だがそれに気づいた清水は俯く。

 

しかし……。

「俯くな」

その時、声が聞こえてハッとなり視線を上げる

清水。彼の隣には、ジョーカーを解除した

ハジメが立っていた。

「視線を逸らすな。……先生は、他の誰でも

 無い。清水幸利!君のために戦っているんだ!

 だから、目を背けるな!」

「別に……。頼んでねぇよ」

ハジメの言葉に、反発心から呟く清水。

すると……。

「だったらここで死ぬか!」

「ひっ!?」

ハジメが清水にノルンを突き付けた。

突き付けられた銃口とハジメの気迫に

気圧され悲鳴を漏らす清水。

 

「よく聞け!清水幸利!愛子先生は、

 先生として、生徒を少しでもより良い

 未来へ導きたい!そう言っていた!

 それは君に対しても同じだ!」

「ふ、ふんっ!どうせ、どうせいい人

 ぶってるだけだろ!あんなの、ただの

 偽善だ!」

ハジメの言葉に反論する清水。

「だったら、前を見てみろ!先生を

 見てみろ!」

そう言って、ハジメは清水に、強引に

愛子の方を向かせた。

 

「見えるか!先生が!今の先生の姿が!」

清水の視線の先では、泥と擦り傷から流れる

血でスーツや顔を汚した愛子が、スイッチを

奪おうと司に掴みかかり、投げ飛ばされた。

 

「まだっ!まだですっ!」

投げ飛ばされ、泥と汗と血で顔を汚そうと、

その瞳の中で燃えさかる闘志は消えない。

 

「あれが、偽善に見えるのか!?

 血を流し、傷を作り、痛みに耐えて

 戦っているあの姿が!本当の偽善者

 って言うのは、口先だけの奴の事

 だろう!?あれのどこが、口先だけの

 偽善者なんだ!」

「ッ!」

口先だけの偽善者。それを、今愛子は体を

張って否定していた。

 

「目を背けるな!これは、お前の今後を

 賭けた戦いなんだ!」

ハジメの言葉に、清水は震えながら

愛子を見ている。

 

 

ハジメが清水に語りかけている。どうやら

私の意図を汲んでくれたようだ。

ありがたい。では……。

「先生。先生は何故奴を助けるのですか?

 あの男、清水は既に5人も人間を殺して

 います。そして更に虐殺の未遂犯。

 更に言えば、先生は直接狙われた

 被害者だ。なぜ被害者の先生が、

 加害者である清水を庇うのですか?

 私に言わせれば、あの男は死刑に

 なったとしても、仕方ないでしょう」

「確かに、そうなのかもしれないっ!」

先生は叫びながら掴みかかる。

私はそれを受け止め、腕をひねり上げる。

 

これで園部達は攻撃出来ず、二の足を踏む。

だが今はそれで良い。

「ぐっ!?確かに、清水君は許されない事を

 しましたっ!でも、でも、私は先生

 なんです!例え、誰もが清水君を悪だと

 糾弾しても、私は先生として、彼を!

 生徒を支えたいんです!」

「ならば、先生にはその決意を貫くために、

 戦う覚悟があると言うんですか!」

「ありますっ!」

即答だった。

一切の迷いは見えない。先生への認識を

改めなければならないな。

先生は、真っ直ぐなお人だ。

 

だが、なればこそ、私は手を抜かない。

ここでスイッチを簡単に渡したり等

しない。まだ、『奴』が定まっていない

からだ。

 

さぁ、どうする清水幸利。お前は、

変わるのか。変わらないのか。

見せて貰うぞ。

 

「残り、7分を切りましたよ」

「ゼェ、ハァ。ク、ソッ。7対1でも、

 ダメなのか」

最初から攻撃していた玉井は、既に荒い呼吸

を繰り返し、シミターを片方地面に突き刺し、

それに掴まるようにしながら地面に膝を

突いている。

「マジ、新生、人外」

菅原も荒い呼吸で地面にへたり込んでいる。

 

「み、皆……」

そして、先生も限界なのか、震える足で

立っているのがやっとだった。

 

 

『ダメ。届かない』

その時、愛子は半ば諦めかけていた。

7対1でも、掠りもしない攻撃。まして

全員が疲労困憊という有様。もうどう

足掻いてもスイッチを奪える気がしなかった。

 

ダメだ、もう無理だ。

そんな考えが、一瞬愛子の中で生まれる。

しかし、愛子は首を振ってそんな考えを

振り払う。

『諦めるな!私が、清水君を助ける!』

そう考え、愛子は清水に目を向けた時。

閃いた。

 

スイッチが奪えないのなら、一か八か、

力で引き剥がせば良いのだ、と。

『ダッ!』

そう思った瞬間、愛子は清水に向かって

もつれる足取りで駆け寄り、その首の

チョーカーを握る。

「な、何してんだよ!?」

それを見て叫ぶ清水。

「スイッチが奪えないのなら、力ずくです!」

愛子は彼に叫び返すと、既に疲労で余り

力の入らない腕に、それでも力を込める。

 

しかし、チョーカーは司が設計した物、

愛子の握力では、引き剥がす事は不可能だ。

彼女も、薄々分かっていた。司の創った

物が、早々簡単に外れるはずが無い。

 

だが、それでも彼女にはそれしか無かった。

スイッチはもう奪えそうにない。

だから……。必死にチョーカーを外そう

と力を込める愛子。

 

その時。

「何でだよ!?何で、アンタは、俺なんかに

 そこまで必死になれるんだよ!?」

理解出来ない。その思いがありありと浮かんだ

表情で、清水は叫ぶ。

「決まってます!私は、先生なんです!

 先生が生徒を助けて何が悪いんですか!」

「ッ!?何だよ、それ……」

「確かに、私の考えは偽善的かもしれません!

 これは私のエゴなのかもしれない!

 それでも!私は、絶対に生徒を見捨てない!

 最後の最後まで、絶対に諦めません!」

「ッ!……。何だよ、それ」

清水は、先生の言葉に体を震わせる。

 

 

先生は、必死にチョーカーを外そうと

奮闘している。私はそれをじっと見つめて

いる。

……そろそろか。

「……あと、3分を切りました」

私は静かにカウントを告げる。

 

「ッ!……。お、おいっ!」

その時、清水が震える声で叫んだ。

「もう良いっ!さっさと離れろ!

 アンタまで死ぬぞ!」

清水の言葉に、園部たちが息を呑む。

 

それは、先生を気遣う言葉だからだ。

「いいえっ!離れません!

 先生は、最後の最後まで、諦めません!」

「もう、良いって言ってるだろ!?」

清水は体を捻って先生から離れようとする。

しかし、先生は清水にしがみついて

離れない。

 

「俺は、結局、駒でしかなかった……!

 それで、最期がこんなのとか……!

 畜生!畜生!」

清水は、涙ながらに叫ぶ。

後悔と懺悔を滲ませながら。

 

「これが最期なんかじゃありません!

 死なせませんからね!絶対に!」

そして、なお諦めない先生に、清水は、

更に涙を流す。

 

「残り、1分。58、57……」

そして、奴は私を見る。

「おい新生っ!早く爆弾を止めろ!

 このままじゃ、こいつも死ぬぞ!」

「53、52……」

「止めろって言ってるだろ!おい!」

「49、48……」

「聞こえてるだろ!おい!新生!

 こいつまで、先生まで巻き込む気

 かよ!先生は、俺なんかよりも、

 価値があるんだろ!?だから止めろよ!

 新生!」

「36、35……」

「あぁ良く分かったよ!俺が、ただの

 人形で、クズでしか無かった!けど、

先生は、俺と助けようとしてくれた!

その人まで俺と一緒に死なせるのか!?

止めろ!止めて、くれ!新生!」

「24、23……」

 

「な、んで。何で止めねんだよ新生!

 もう良いだろっ!?俺の事は、俺の事は

 どうなっても良い!だから!だから!」

「16、15……」

 

「止めろ、止めろ!……やめて、

止めてくれぇぇぇっ!」

「8、9……」

「畜生ぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

次の瞬間、清水は先生に頭突きをして、

その場で体を丸め込んだ。

「4、3……」

「清水君ッ!?」

「来るなぁっ!」

絶望に暮れるような表情の先生と、

来るなと叫ぶ清水。

 

「2、1……」

「ダメェェェェェェッ!!!」

必死に手を伸ばす先生。

次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

『………………』

 

 

 

 

 

 

 

 

何も起らなかった。

 

「……え?」

園部が、呆けた声を漏らした。

「何も、起らない?」

玉井が、どうにかシミターを杖代わりに

して立ち上がる。

 

「……あ、れ?」

そして、硬く目を閉じていた清水も、自分が

生きている事に驚き、周囲を見回す。

「何、で……?」

「清水君!」

驚く清水。しかし、次の瞬間には、先生が

彼を抱きしめた。

 

「良かった……!無事で……!

 本当に、良かった……!」

先生は清水を抱きしめ、涙ながらに

その生を喜んでいる。

 

そして……。

「何で、アンタが、先生が泣くんだよ。

 俺は、先生を殺そうとしたんだぞ?」

「それでもいいです。私は、生徒達に、

 皆に、生きていて欲しいから……」

「ッ。……何だよ。それ。やっぱり、

 先生は、偽善者だろ。……そう、俺は、

 思ってるのに……。何で、だよ」

清水の目から、止めどない涙が溢れる。

 

「何で、俺、泣いてんだよ。畜生……!」

 

その後、清水の嗚咽が止まるまで、

数分を要したのだった。

 

そして、およそ10分後。

 

「まずは、先生たちを試すような事を

 して、申し訳ありませんでした」

まずは、私が8人に頭を下げた。

「あの、新生君はどうしてこのような事を?」

私に問いかける先生。その周囲では、

園部や清水達が説明して、と言いたげな

表情をしていた。

 

「はい。順を追って説明するのならば

 まず最初に。先ほどまでの清水には、

 先生の声は届かなかった」

と言う私の言葉に、先生と清水はバツの

悪そうな表情を浮かべる。

 

「先生の意思を、彼に届けるためには、

 先生自身が、行動で示す必要性を私は

 感じたのです。結果は、まぁご覧の

 通りです」

そう言って、私は指を鳴らす。すると、

清水を拘束していたロープとチョーカーが

外れる。

 

「その為に、あんな事を?」

「えぇ。……本音を言えば、五分五分

 でした。この結果にたどり着くために

 必要だったのは、先生の覚悟ある行動と、

 清水に少しでも変化がある事。

 そのどちらかが欠けていた場合、恐らく

 清水は死んでいたでしょう」

「……どうして、俺を助けた」

 

静かに、今度は清水が問いかけてきた。

「……言っておくが、お前を助けたのは

 私では無い。先生と、お前自身だ」

「え?」

「あのチョーカーには、本当に爆薬を

 封入していた。例えば一分前のあの

 行動の時、お前が先生を盾にして

 爆発の停止を要求したのなら、

 私がノルンで射殺していた。

 つまり、お前の行動が、お前自身を

 護ったのだ」

「……どうして、そんな……」

 

良い機会、か。色々指摘しておくとしよう。

 

「清水。これは私の主観によるアドバイスだ。

 聞くも聞き流すも、好きにしろ。

 ……お前は先ほど、自分をクズだと言った」

「ッ、それは……」

「だが、お前の最後の行動は、お前の

 良心が働いた結果なのだと、私は考えている」

「俺の、良心?」

「そうだ。……本当のクズというのは、

 一欠片の良心も持たない奴の事を言うのだと、

 私は考えている。そう言う意味では、お前は

 まだ完全に『堕ちて』は居なかった。

 そう言う事だ。私は、それを試した。

 お前が最底辺まで堕ちているのかどうかをな。

結果は、NOだった。そして、そんなお前を

先生が、堕ちるギリギリの所から引き上げた。

それだけの事だ」

 

「……。先生、が」

清水は、静かに先生の方に視線を向ける。

そして視線を向けられた先生は、清水に

笑みを向け返す。

 

 

清水から見て、今の愛子の顔は、泥と汗と

血でグチャグチャに汚れていた。

 

それでも、その笑顔が、とても輝いて

見えた気がしたのだった。

 

 

清水は、歯を食いしばるようにしながら

俯いた。

しかし、これで良いだろう。あとは、

私から8人に言っておきたい事がある。

 

「先生、そして、園部たち。清水。

 私から少し言っておきたい事がある。

 まずは、先生に」

「は、はいっ。何ですか?」

「先生の生徒を思いやる気持ちは、確かな

 物だと、今回の事で深く理解しました。

 しかし、時に力を使わなければ、戦う

 事でしか護る事の出来ない物もあると、

 せめて理解して欲しいのです」

「……。はい。分かってます。

 いざと言う時は、戦わなければ

 ならないのですね」

先生は、どこか決心したような表情を

浮かべる。

先生はこれで良いだろう。

 

「では、次に園部たち」

「お、おぅ?何だ?」

戸惑い気味に答える玉井。

 

「改めて問う。……お前達は、本気で

 護衛隊を続ける気があるのか?」

「「「「「「………………」」」」」」

「戦う気も無いのに護衛隊を名乗るなど、

 ごっこ遊びでしかない。だからこそ

 問う。時に戦う事があるかもしれない

 と理解し、護衛隊を続けるか。

 それとも、護衛隊も止めて引きこもるか。

 お前達は、どうする?」

 

私の問いかけに、真っ先に答えたのは、

園部だった。

 

「やる。私は護衛隊を続ける」

「……今回の襲撃で、魔人族がどれだけ

 先生を狙っているか分かったはずだ。 

 それでもか?」

「……確かに、戦う事は怖い。でも、何て

言うか。もう、逃げたくないの。現実から。

そして、一度は自分の意思で護衛隊を

作った。………今回の事で、愛ちゃん

がどれだけ私達の事を考えてくれている

のかも分かった。……だから、せめて

愛ちゃんの事を護りたい。今度は

しっかり、私達の力で……!」

園部は、闘志に燃える瞳で、グッと

ヒートダートを握りしめている。

そして更に、玉井、相川、仁村、菅原、

宮崎が園部の言葉に賛成し、決意を

新たにしている。

 

どうやら、彼女達も覚醒したようだ。

 

では……。最後は清水だ。

「最後に、清水」

「え?は、はい」

「……お前は、自分の価値を示したい、と

 言っていたな?ならば、それを示せ」

「え?……どうやって」

「先ほど言ったように、お前を助けたのは

 先生だ。そして、先生を狙った事への

 贖罪の意思があるのなら、先生を

 護れ。先生に助けられた命で、今度は

 お前が先生を護るんだ」

「ッ?!俺、が?」

 

「そうだ。お前の恩師を、お前自身の手で

 守り、価値を示せ。……どうする」

「……。俺で、良いのかよ?先生。

 俺なんかが、先生の護衛で」

「はい。……私は、そんなに強く

 ありませんし。……清水君や園部さんが

 側に居てくれるのなら、とても

 心強いですよ」

「……そう、か」

笑みを浮かべる先生の本心に、清水は

俯く。

 

やがて……。

「……やるよ。俺」

小さな声で頷き、私を見上げる清水。

しかし、その瞳には、先ほどまで浮かんで居た

濁りが消えていた。

「これで贖罪になるか、分かんないけど」

 

「そうか。……清水、最後にこれだけ

 言っておこう。人という漢字は、人と人が

 支え合っている、と言う表現がよくある。

 今回、先生の尽力でお前は生き延びた。

 先生が、お前を支えたんだ。

 ……今度は、お前が支える番だ」

「……あぁ。そうだな」

そう、清水は頷いた。

 

さて、では……。

「では、園部、菅原、宮崎、相川、仁村、

 玉井。……お前達の決意表明に対する

 祝電代わりだ。受け取れ」

そう言って、私は彼等に一つずつブレスレット、

待機状態のジョーカーを投げ渡した。

 

「こ、これって!?ジョーカー!?

 おまっ!?何で!?」

「……お前達は決意を示した。それを受け取る

 に足る存在だと私が判断した。

 ……餞別だ。好きに使え。そして……」

私はもう1つのブレスレットを創り出し……。

「先生にも」

と言って先生にも差し出した。が……。

 

「いいえ。私には、まだそれを受け取る資格

はありません」

「そう思われる根拠は?」

「確かに、今回の事で時に戦わなければ

 ならないという事は実感しました。ですが、

 今の私にはまだ、『力を振るう覚悟』が

 備わったわけではありません。どこかで、

 力を振るう事を躊躇う自分が、まだ居る

 んです。だから、そんな不完全な覚悟の

 ままでこれを受け取る事は出来ません」

そう言って先生は差し出した私の手を、

ゆっくりと押し返した。

 

「……そうですか。まぁ、大凡断られる

 とは思って居たので」

と言うと、私は別のブレスレットを

取り出した。

「清水。お前にも、護衛隊復帰の前祝いだ。

 受け取れ」

そう言って、ブレスレットを差し出した。

 

「い、良いのかよ?」

「あぁ。……お前は、今日から園部達と

 同じ護衛隊の一人になった。そう言う事だ。

 ……お前が先生を守る時、ジョーカーが

 役に立つだろう。好きに使え」

「……。ありがとう、新生」

 

そう言って、清水は受け取ったブレスレット

をギュッと握りしめ、必死に嗚咽を堪えていた。

 

 

そして、その様子をハジメ達はただ黙って

見つめていた。

「これで、大団円、って事なのかな」

「うん。きっと、そうだよ」

香織の言葉に頷くハジメ。

 

やがて、静かにハジメ達の方に歩みを進める

司の後ろでは、愛子が清水を抱きしめ、

その周りで園部達が笑っていたのだった。

 

 

     第36話 END

 




って事で、清水生存+護衛隊の面々覚醒、でした。
次回も続いてウル防衛戦後のお話です。

感想や評価、お待ちしています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。