ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回でウルの町でのお話は終わりです。
前回が長かったので、今回は逆にちょっと
短めです。


第37話 ウル防衛戦後

~~~前回のあらすじ~~~

ウル防衛戦を制し、主犯である清水幸利を捕らえた

ハジメと司たち。清水は当初、愛子の言葉が

届かない程、歪んだ精神状態だったが、愛子の

本気の度合いを見せるために司が一芝居打ち、

それが功を奏して清水は死なずに済んだだけ

ではなく、愛子の言葉に応える形で改心。

更に覚醒した園部たちと同じく、司から

ジョーカーを与えられ、愛子の護衛をする事を

決心するのだった。

 

 

「で、めでたく大団円、だったんだけど……。

 どうする?これ?」

と、ハジメは近くで伸びているデビッド達と

重役に目を向けるハジメ。

今は、私とハジメ達の6人、ティオ、ウィル。

愛子先生、園部たち、清水。

合計16人が円を描くように、地面に腰を

下ろしていた。ちなみに、愛子先生や

園部たちの傷や体力は、私と香織の力で

回復させた。

 

「僕的には、まぁ清水君も改心したみたいだから

 今回の件について言う気は無いけど、

 多分問題になるよね?これ」

「えぇ。ハジメの言うとおりです。……教会

 としては、魔人族に協力した清水を、

 放っておく事はしないでしょう」

「そ、そんなっ!?」

私の言葉に愛子先生が驚き、清水と園部たち

の7人が俯く。

 

しかし、手が無い訳でもない。

「まぁ、そういうわけなので、サクッと

 こいつらの記憶を弄っておきます」

「はいっ!?」

私の言葉に、園部が素っ頓狂な声を上げる。

「私の力で、こいつらの記憶を弄っておきます。

 ハジメ、設定として良い案はあります?」

「あぁ。うん。それなら、清水君は魔人族に

 よって特殊なお香か何かを嗅がされて、

 一種の催眠術状態にあり、操られていた。

 なんてどうかな?」

「成程。それは良い作り話ですね。では早速」

 

私は、気絶していたデビッド達の頭に手を当て、

偽りの記憶をダウンロードし、清水が

捕縛されてからの記憶を消した。

 

「ふむ。……これでOKです」

「「「「「「「いやいや!待て待て!」」」」」」」

すると、園部に清水達7人が何やらツッコみ

を入れてきた。

「何ですか?」

「おまっ!?今ので記憶操作できたのか!?

 って言うかお前能力どんだけあんの!?」

「……やっぱ菅原の言うとおり人外だよな。

 新生って」

首をかしげる私にまくし立てる玉井と

ため息をつく相川。

「俺、あんなのに喧嘩売ったのか。

 ……良く生き残ったな、俺」

「確かに」

どこか遠い目の清水と彼の肩を叩き頷く仁村。

 

まぁ良い。

「皆、聞いて下さい。……こんな時の

 諺があります」

「……何?」

と首をかしげる園部。

私の言葉は……。

 

「『嘘も方便』、です」

「「「「「「「それで良いのか!?」」」」」」」

「いや、まぁ言葉としては合ってるけど……」

ツッコむ7人に、苦笑を浮かべながら

呟くハジメ。

「って言うか白崎さんとかに聞くけど、

 いっつもこんな感じなの!?」

「うん。司くん居ると、大抵の事はどうにか

 なっちゃうから」

香織に話題を振る園部。当の香織は、苦笑

気味に頷く。

 

「……気にするだけ無駄。司=万能。

 OK?」

「え~?……そんなんで納得出来るの?」

ユエの言葉に、菅原が戸惑っている。

「ま、まぁそれが事実ですし」

と、シアも苦笑気味だ。

そしてトドメはいつもの……。

 

「だってツカサお兄ちゃん、あんな艦隊を

 創れるんだよ?ツカサお兄ちゃんに

 常識が通じるわけ無いと思うけど?」

と言って、遠くに見える派遣艦隊の

揚陸艇を指さすルフェア。

「「「「「「「あぁ、確かに」」」」」」」

そして、ルフェアの言葉に7人は遠い目を

したまま納得したのか頷いた。

 

……ルフェアの言葉には人を納得させる

だけの力があるのだろうか。

 

しかし……。

「んんっ!」

その時、咳払いをした愛子先生。

「……正直、人の記憶を改ざんするなんて、

 余り許される行為ではありません。

 ……なのですが。ハァ、正直、私は

 疲れて怒る気力がありません」

「そういや、なんかドッと疲れたな」

「そりゃお前、一世一代の決心をした

 からじゃねぇの?」

先生の言葉に同意する玉井と相川。

 

「まぁ、とにかく。……この戦いは

 終わった。それだけは確実だ」

と、私が事実を告げる。

「それにしても……。魔人族は神の使徒

 である清水君まで利用して先生を

 狙うなんて……」

「……そうですね。……清水。それに

 園部たちも。一応言っておくが、

 これは魔人族の攻勢の前触れの可能性が

 ある。恐らく、私達とはここで別れる

 事になるだろうが、くれぐれも油断 

 だけはしないように」

私はハジメの言葉に頷き、園部達に

一応忠告しておく。

「あぁ、分かってるよ」

そう頷く玉井の表情には、先生を守る

と言う決意が浮かんで居た。

他の6人もだ。

 

何だか、彼等の方がよっぽど勇ましいな。

……と言うか、あのバカより勇者

出来そうな雰囲気である。

まぁ、それはさておき。

私達の行動は結果的に、最良の未来に

たどり着いたのだろう。ウィルから

すれば、微妙な心境かもしれないが、

清水も愛子先生も、園部たちも無事

なのだ。ハジメが言っていた、

大団円には十分だろう。

 

 

その後、ある程度話をしていると、デビッド

達が起きてきた。

ちなみに、気絶の理由は、清水と先生を狙った

無数の水のレーザーが近くに着弾して、

吹っ飛んだ事が原因、と言う事にしておいたが、

無事に記憶の改竄が出来ていたようだ。

 

デビッド達は、清水が魔人族の催眠術にかかり

利用されていた、と言う記憶を信じ切って、

清水を心配していた。

……若干後ろめたいのか、清水と先生が

終始微妙な顔をしつつ私に視線を送っていた。

 

その後、私達はウルの町へと戻った。

後ろにパル達も連れ、私達はジョーカーを

纏っている。

そして防壁のゲートを潜るなり、周囲からは

大歓声で迎えられた。

先頭の歩くのは、愛子先生だ。彼女が

笑みを浮かべて手を振れば、ワーワーと

周囲が騒ぎ立てる。

しかしこれは嬉しい誤算だ。

先生に注意が集中していれば、清水のこと

に気が行く人間は少ないだろうからな。

一応、念のため清水にはジョーカーを

纏って貰っている。

 

ちなみに、清水に渡したジョーカーは

新型だ。清水専用のジョーカー、

それは新型の『ジョーカー・コマンド』、

その『タイプG/07』だ。

ジョーカー・コマンドは、元々指揮官機、

つまりカムや私と言った、指揮官が使う

為に設計したものだ。頭部に一本の

通信用アンテナを装備しており、

戦闘時には、無数のガーディアンを召喚し、

それに指示を出して戦闘を行う。

通常のガーディアンとは異なり、指揮官機

として装甲、通信機能、索敵機能を強化

している。

更に、7人に渡したタイプGの共通点

として、彼等のジョーカーにはシールド

発生装置となるメカニカルな杭を

標準装備している。これは非常時、

自分や先生の足下に撃ち込む事で起動し、

彼等を守る。同様に、7機も装甲を

強化している。機動性は若干落ちるが、

防衛戦闘を前提としている彼等には

そこまで必要ないだろうと判断しての

事だ。

 

ちなみに、07の数字は護衛隊のナンバーだ。

園部が01、菅原が02、宮崎が03、

相川が04、仁村が05、玉井が06、

そして清水が07だ。

園部、菅原、玉井は近中距離戦闘を考慮し、

雫のタイプCと同じスラスターを内蔵した

高機動型。

相川、仁村、宮崎は魔法の使用を考慮した

ユエと同じウィザードモデルだ。

 

で、話を戻すと、町に入った私達は、さながら

戦勝パレードの如く人々に迎え入れられた。

しかし時間が時間、と言う事もあり、私達は

水妖精の宿へ。パル達は、亜人差別の考えに

考慮し、揚陸艇の方に戻って野営して

貰う事になった。

 

夜になったと言うのに、宿の外では戦勝ムード

で皆が騒いでいたが、私達(正確には私以外)は

疲れ気味だ。なので、夕食を食べ終えると、皆

それぞれの部屋に戻っていってしまった。

私の方は、相変わらずの無尽蔵の体力の

おかげで疲れ知らずだが、皆も眠ってしまった

事だし、私も普通に眠りについた。

 

そして、翌朝。パル達は撤収の準備を進めて

おり、私はパルと共にその様子を見ながら、

Gフォースの兵士が増えた理由を聞いていた。

 

パルによると、私達が去ったあと、彼等は

私の命令通り、亜人たちを帝国兵から

守ってやっていたらしい。そんなある日、

同胞である、別の兎人族の集落が襲われて

いるのをカム達が発見。中隊規模の帝国兵

を1分程度で殲滅してしまったのだ。

その兎人族は、長であった男性が死んで

しまった事や、現場に居たカム達が彼等

と同じ兎人族であった事。その兎人族達

が途方に暮れていた事から、カムの

提案で、Gフォースに入ることになった

のだと言う。

その後、どこからか常人離れしたハウリア族

の話を聞きつけたのか、いくつかの兎人族の

部族がGフォースの元を訪れ、吸収合併

されていったらしい。今では、300人を

超える部隊に成長しているという。

 

「これも、全て元帥のおかげです。元帥の

 おかげで、俺達は成長し続けています」

「そうか。……では、帰ったらカムに

 伝えておいてくれ。良くやっているな、と」

「はい。必ず伝えます。元帥」

パルは、私に向かい合うと敬礼をした。

それに対し答礼をする私。

そして……。

 

「今回は、よく来てくれた」

そう言って、右手を差し出した。

「ッ!元帥……!」

「また、次があるかもしれない。その時は、

 よろしく頼む」

「ッ!!はいっ!お任せ下さいっ!元帥!」

パルは、感無量と言った表情で私の差し出した

手を握り返した。

 

その後、パルは泣きそうになるのを堪え

ながら、揚陸艇の方へと去って行った。

と同時に、町の方からティオがやってきた。

 

「ティオか?」

「はい」

頷き、私の後ろに立つティオ。やがて……。

 

「改めて、感服致しました。マスター」

普段の口調から外れ、丁寧口調で話すティオ。

「まさかあそこまで汚れていた男を、

 改心させるとは」

「……改心させたのは私では無い。先生だ。

 私は、そのきっかけを作っただけに

 過ぎない」

私はティオの方を向くこと無く答える。

「されど、そのチャンスを与えたのも、

 マスターです」

そう言うと、物音がしたので肩越しに振り返ると、

ティオが地面に片膝を突いていた。

 

「ウィルは、町の防衛に尽力した私を許す、

 との事でした。これで、心置きなくマスター

 の旅に同行出来ます。……改めて、これから

 よろしくお願いします」

「あぁ。……宜しく頼むぞ、ティオ」

「御意」

私は振り返り、ティオを見下ろしていた。

その時、後ろでスラスターが点火する

爆音が聞こえていた。

振り返ると、揚陸艇が次々と浮上していく。

 

その様子を見ながら、ふと少し離れた所に

目をやると、ウルの町の子供達が揚陸艇に

向かって、笑みを浮かべながらブンブンと

手を振り、口々にありがとうと叫んでいた。

 

その様子に、私は自然と笑みがこぼれた。

……これは、私が町を見捨てていたら

見られない光景だっただろう。

そう言う意味では、戦った事が間違いでは

無いのだと、私は認識していた。

 

 

その後、私は宿に戻った。今は先生達と

再会したときと同じVIP席に愛子先生達

8人と、私達とティオ、ウィルの8人。

合計16人が集まっている。

デビッド達は、愛子先生の言葉で退散

させた。

「さて、まぁ無事に戦いが終わった事

 ですし。私とハジメ達は今日中に

 ウィルを連れて町を出ます。

 先生達は、どうされますか?」

「私達は、数日この町で休んでから

 王都に戻ります。色々大変でしたし、

 ちょっと町の外が凄い事になって

 ますから。後片付けを少しでも手伝う

 つもりです」

と言う愛子先生の言葉に、7人が頷く。

 

その後は、色々と雑談を交えて、今後の

方針などを教え合った。

私達はこれまで通り、帰還に向けた方法を

探す事。

先生も引き続き、豊穣の女神として各地を

回る事。清水を始め、園部たち7人は、

今度こそ護衛隊の名に恥じない決意を

固めていた。

 

そして、昼前に私達はウルの町の防壁の

外に集まる。

 

ちなみに、防壁はウルの町の新たな防衛の

要として残すことになった。

現在は30体ほどのガーディアン1個中隊が

駐屯し、命令権を持つ者としてウルの町の

ギルド長や町長を設定してある。

 

バジリスクを前にする私達8人。私達と

向かい合う愛子先生達8人。

 

「新生君。今回は、大変お世話になりました。

 先生として、情けないですが、とても

 感謝しています」

「いえ。お気になさらず。……これで良かった

 のだと、私も思っています」

そう言うと、私は7人の方へ視線を向けた。

 

「幸利、優花、妙子、奈々、昇、

 明人、淳史」

そして名前で彼等を呼ぶと、とても驚いた

ようだった。私は親しい人以外は名字か

フルネームでしか呼ばないからだ。

 

「先生の事を頼むぞ」

しかし、彼等は私の言葉にすぐさま表情を

引き締めた。

そして、清水が……。

「あぁ。……守ってみせるさ」

決意を宿した瞳のままに頷いた。

 

「それじゃあ、みんな。またどこかで

 会おうね」

「雫ちゃん達によろしくね」

「ん。またね」

「また会える日を楽しみにしてるですぅ」

「それじゃあね。またどこかで会おうね」

ハジメ、香織、ユエ、シア、ルフェアが

口々に別れの挨拶をする。

 

そして、私達6人とティオ、ウィルが

バジリスクに乗り込む。

 

「それでは。……またどこかで再会

 出来る日まで。しばしの別れです」

「はい。……新生君、南雲君、白崎さん。

 それにユエさん、シアさん、ルフェア

 ちゃん。ティオさんとウィルさんも。

 どうか、お体には気をつけて」

「はい」

 

私が静かに頷くと、私はバジリスクを発車

させた。ハジメと香織は、ハッチから身を

乗り出し、見えなくなるまで愛子先生達に

手を振り、先生達も、私達が見えなく

なるまで手を振り続けていたのだった。

 

 

こうして、私達はウルの町での戦いを終え、

先生達と別れたのだった。

 

 

今、私達を乗せたバジリスクが、北の

山脈を背にして南下していた。

「まぁそれにしても、清水君も結果的に

 改心して、護衛隊のみんなもしっかり

 したみたいだし」

「目立った死傷者は殆ど居なかったもんね。

 まぁ、万々歳、って事なのかな」

と呟くハジメと香織。

二人の言葉に、シアやルフェアも頷いている。

しかし……。

 

「マスターは、何やら考え込むような表情を

 しておるが?如何された?」

助手席に座っていたティオが私に声を

かけた。

するとシアやウィル達が私の方に視線を

向ける。

 

「……少し、考えていた。今回の攻撃は

 魔人族が裏で手を引いていた。その

 目的は、作農師として、農業の改善、

 もっと言えば食料生産量を向上させる

 術を持っている先生の暗殺だ」

「ふむ。それは分かっておるが、そこが

 何か?」

「私は、今回の暗殺事件。奴らの本格的な

 攻勢の前触れではないかと睨んでいる」

「えっ!?」

私の言葉に、一番驚いたのはウィルだ。

まぁ無理も無い。

「ど、どうしてそうなるんですか!?

 根拠は!?」

「落ち着けウィル坊。……マスター。

 マスターがそう考える根拠を妾

 達にも教えてくれぬか?」

「あぁ。……まず、生物は物を食べられ

 なければ、活力が出ないし、最悪の

 場合餓死する。ここで重要なのは、

 需要と供給。つまり、食料を消費する

 側と生産する側の仕組みだ。……愛子

 先生を暗殺すれば、供給。つまり生産量が

 低下する。つまり、満足に食事を出来る

 人の数が減る、と言う訳だ。

 ……これがもし、兵士の間で起ったら、

 どうなると思う?」

「ッ。……兵士達は食事にありつけず、

 本来の力を発揮出来ない?」

と、呟くウィル。

「あぁ。そして、そんな状況で魔人族に 

 攻め込まれれば、本来の力を発揮出来る

 可能性は低い」

「まさか、魔人族はそれが狙いで?」

と、驚きの表情を浮かべるウィル。

だが私の予想はこれだけではない。

 

「かもしれない。しかし食料の低下によって

 発生する問題はまだある。食料は生産され、

 市場で売られる。ここで再び需要と供給の

 関係だ。もし、売れる野菜が少なく、逆に

 それを買いたい人が多い場合、売られる

 野菜の価格は必然的に高騰する。そうなれば、

 市民はどうなると思う?」

「そ、そんなの。買えなくて困って、最悪の

 場合、買える人に対して不満が溜まって、

あっ!」

「気づいたか?もし食料の価格が高騰すれば、

 それを買えるのは一部の金持ちだけ。

 当然食料を買えない者達の間に不満が

 溜まっていく。貧しさは人々に不満と

怒りを抱かせる。そしてその不満が

 解決出来ずに溜まり続けた場合……」

 

「それがどこかで爆発する。マスターは

 そう言いたいのじゃな?」

「あぁ。そうなると発生するのが暴動だ。

 民衆は怒り、暴れる。これが結果的に

 国を疲弊させる。……魔人族にとっては

 正に狙い目だろう?敵が勝手に内輪もめ

 して弱体化してくれるのなら、国を落とす

 チャンスが生まれるのだからな。それに、

 国が魔人族に目を向けていなければ、

 軍備を蓄えたり、或いはスパイを送り込む

 事をする余裕を魔人族側に与える可能性も

 ある。」

「まさか、それだけの大事の準備として、

愛子さんを!?」

「無論、私の予想に過ぎない。だから確証も

 無い。しかし兵糧攻めは戦争において

 有効な手段の一つだ。私自身、この 

 考えを深読みだとは思って居ない。

 食糧不足による士気の低下。もっと

 言えばそれに端を発する民衆の暴動。

 奴らがそれを狙っていたとしても、

 可笑しくは無いと私は考えている」

ウィルの言葉に私はそう呟く。

 

肝心のウィル。そしてティオは、とても

驚いている様子だった。

「……確かに、マスターの言った事は

 戦争をするのなら、とても理にかなった

 戦法じゃ。……それを受ける側は、

 たまったものではないがの」

ティオはそう呟いている。ウィルは

まだ驚きが抜けきっていない様子だ。

 

「戦争とは、手の読み合いだ。相手が

 何をしようとしているのかを考え、

 それに対する対策を打ち立てる。

 1手、2手、先を見据える。

 戦争とは、そう言った先読みの

 戦いでもある。……単純に力を

 振るう事が戦争では無い」

 

この時、私は後ろから何やら尊敬にも

似た表情でウィルが私を見ているのに

気づいたが、無視した。

 

「しかし、そこまで分かっていたのなら、 

 マスターは手を打ったのじゃろう?

 もしや、あの7人に鎧を渡したのも、

 手の一つかの?」

「あぁ。ジョーカーは一機でも数千の

 兵士に匹敵する働きをする。

 並みの兵力では、あの7人の防御を

 突破して先生を殺すには無理だろう。

 ……先ほど言った食料生産へのダメージ

 を狙うのなら、愛子先生は一番に

 倒しておきたい存在だ。そうなれば、

 護衛として相応の戦力を配置しておきたい。

 しかし、覚醒前の園部たちと神殿騎士

 数人程度では、不安でしかなかった」

「じゃから、あの時に覚醒を促した、

 と言う事なのかの?マスターよ」

 

「あぁ。先生を守るためには、ジョーカー

 が必要だ。しかしジョーカーを身につける

 ためには、覚悟が必要だ。だから

 あぁやって6人に発破を掛けたのだ。

 この先、魔人族が表立って先生を

 狙う可能性がある以上、生半可は許されない

 からな。そして彼等6人、いや、清水を

 含めて7人は覚醒した。だからジョーカー

 を与えたのだ。彼等が自分自身と、先生を

 守り切れるようにな」

「成程のぉ。……しかし、理由はそれだけ

 かの?」

と、問いかけてくるティオ。無論、それだけ

ではない。

 

「いいや。理由はまだある。もう一つは、彼等

 を目立たせる為だ」

「成程。しかし何故そのような事を?」

「例えばの話だが、もし仮に魔物の軍勢が 

 先生を襲撃したとして、それを彼等7人が

 撃ち倒せば、どうなると思う?女神とさえ

 呼ばれる彼女を守った7人。まして 

 アーティファクトと言っても過言では

 ない、この世界の常識から外れた力を

 使って、だ。当然目立つだろう。

 しかしそこが狙い目だ」

「成程。士気高揚の為、じゃな?」

 

「そうだ。女神と呼ばれる先生の存在は

 農業に従事する人々にとってとても

 重要だ。そんな先生を守る、超常的な

 力を持った7人。ましてやその7人が

 魔人族を退けたとあっては……」

「まず間違い無く人族の士気は上がる。

 そう言う事じゃの」

「あぁ。そう言う事だ。民衆は常に英雄を

 求める。そして英雄とは、人知を越えた存在。

 その力が神懸かり的な物なら、尚更人々は

 英雄を信じる」

 

私の予想が正しければ、これは魔人族の

攻勢の前触れだろう。そして、万が一にも

戦いになった時、人々は勝利を確信

出来るだけの明確な根拠を欲する。

 

その根拠たり得るのが、先生と、

護衛隊の7人だ。勇者の方は、正直

当てにならない。先生と7人以外で、

勝利の根拠となりそうなのは、雫

くらいだろう。

その根拠、つまり、英雄が必要なのだ。

『勇者』などよりも、常人を超えた力を

持つ存在、『英雄』が。

 

と、そんな事を考えていると、何やら

後ろからウィルの視線を感じる。

チラリと振り返れば、何やらキラキラした

目で私を見ている。

 

「ど、どうかしましたか?」

正直、羨望の眼差しは向けられた事があまり

無いので戸惑ってしまう。

「新生殿!お見それしました!」

「お、おぅ?」

「個人の武力と統率力もさることながら、

 魔人族の狙いを見抜く観察眼!そして

 更に人々の為に策を弄する軍師として

 の才能!素晴らしいですっ!」

「そ、そうか?」

「うむ。ウィル坊の言うとおりじゃ」

私が首をかしげると、今度はティオが

尊敬を宿した瞳で私を見ている。

 

「正しく文武両道。武人としての才も

 さることながら、人を導く才能。

 そして何よりも相手の先を読み

 素早く対応する思慮深さ。

 ……やはり、マスターは妾が

 マスターと慕うに足る豪傑じゃった

 と言う事じゃの」

 

……。何やら、二人からの視線がとても

眩しい気がして、私は運転に集中する

事にした。

 

まぁ、ウルの町での戦いは最善の結果を迎えた

とは思うので、戦いは無駄では無かったとは

思うが……。

 

二人からの視線が若干辛い。

 

「ハァ」

余り尊敬される事に慣れていない私は、

バジリスクをフューレンに向けて走らせ

ながら、ため息をつくのだった。

 

     第37話 END

 




次回はフューレンに戻った時の話です。

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