ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回で、フューレンまで戻ってきます。
そして、あの子も登場しますよ。

ただ、あの子をハジメと司の、どっちの
ヒロイン(?)にするか悩んでます。


第38話 帰還と出会い

~~~前回のあらすじ~~~

無事にウル防衛戦を終え、清水も改心し、

皆が望む結果を迎えた司たちと愛子たち。

無事に戦いが終わった事で、パル達も

ハルツィナ・ベースへと引き上げ、

司たちは新たに仲間となったティオ。

依頼のターゲットであるウィルを連れ、

フューレンに向けて出発。愛子達とは

ウルの町で別れるのだった。

そんな中、司は今回の魔人族の関与が、

魔人族の攻勢の前触れではと考えるの

だった。

 

 

司たちが向かっている中立商業都市、

フューレンは相変わらずだった。そして、

そのフューレンに入場するためのゲートの

前では、相変わらずの長蛇の列だった。

その最後尾では、チャラい男が、ケバい女二人を

侍らせながら何やら偉そうに一人語っている。

 

その時、後ろから『ゴォォォォッ』という音が

聞こえてきた。チャラ男は最初その音を気にして

いなかったが、次第に大きくなる音に、周囲が

後ろを向き始めた事から、男も苛立ち気味に

振り返った。

 

すると、濃緑色の鉄の塊、バジリスクがこちら

に向かって来ていたのだ。

当然、装甲車など知らないトータス人は

新手の魔物か!?と警戒する。しかし、バジリスク

は次第に速度を落とすと、そのチャラ男達から

少し離れた所で停車、止まった。

 

誰もが驚き、動けない時。

パカッ、と言う音と共に助手席上部のハッチが

開き、そこからティオが身を乗り出した。

その動きだけで、彼女の持つ巨峰が僅かに揺れ、

それだけで男たちは彼女に釘付けだ。

もはや、バジリスクがなんなのか、と言う疑問

はどこへやら、だ。

 

「う~む。マスターよ。これは門を潜る

 まで1時間はかかりそうじゃぞ」

一方、周囲からの視線を気にする事なく門の

方を見ながら車内の方に声を掛けるティオ。

すると、運転席の天井ハッチも開き、そこ

から司が現れた。

「ふむ。……ここの長蛇の列は相変わらず

 ですか。……皆、しばらくは待機の

 ようですよ」

 

 

私が車内に向かって教えると、後ろの

ハッチが開き、そこからハジメや香織、

ユエ、シア、ルフェアが次々と下りて

きた。人々の視線は皆、女性陣に

釘付けだ。

「ん、ん~~。ずっと車の中だったから

 な~」

そう言ってのびをしながら体の骨をパキパキ

と鳴らすハジメ。

「ふぅ、肩こっちゃうね~」

香織もハジメに頷きながら肩を回す。

「これからどうしましょうか?

 確かにこの長さだと1時間くらいは

 待たされそうですぅ」

「う~ん。……トランプでもやって待つ?」

「……ん。賛成」

ハジメの提案にユエが頷く。

「ウィルさんも参加します?どうせこれじゃ

 結構待たされますし」

「え、え~っと。それじゃあ……」

という感じで、ハジメ達はバジリスクの屋根

の上に登って座ると、何やらトランプを

始めた。

一方の私は、運転席の上部に座り、遠くに

見えるフューレンに目を向けている。

そんな私に隣にルフェアが腰掛け、後ろでは

ティオが正座で控えている。

ちなみにバジリスクはジョーカーを介して

遠隔操作もできるので、細かい操作をしない

場合は離れていても大丈夫なのだ。

 

「ねぇお兄ちゃん」

「ん?何です?ルフェア」

「えっと、良かったの?バジリスクで普通に

 ここまで来ちゃったけど」

「えぇ。もう隠す必要もありません。私達は

 大々的に、ウルの町でG・フリートとして

 戦いました。その力のすさまじさが民衆に

 広まれば、むしろ我々がG・フリートだと

 周囲に喧伝した方が、返って下手に喧嘩を

 売ってくる輩を減らせるでしょうし」

「そっか。確かにね」

と頷くルフェア。

 

 

と、相も変わらず周囲のことなどお構いなしの

司たち。そしてようやく、人々は我に返った。

女達は、同性として嫉妬以前にユエや香織達に

見惚れている。それだけの魅力が香織達には

ある証拠だろう。……しかし、何人かが

私やハジメを見ている気がする。

まぁ私はともかく、ハジメは最近の旅の

おかげで、ボディは細マッチョ。元から

顔は悪く無いと思うし、最近では戦士として

の気迫やオーラのような物が身につき始めて

いる。それが理由だろう。

とは言え、私にはルフェアが。ハジメには

香織、ユエ、シアという至高と言っても良い

ほどの女性達が居る。悪いが、そこら辺の

まぁまぁ美しい女性に言い寄られた所で、

到底なびかない。

 

一方の野郎共は、女性陣に視線が釘付け、

&私とハジメに嫉妬丸出しの視線を向けていた。

一部にはバジリスクを未知のアーティファクト、

とでも思ったのか商人らしき男達が私達の

方を見ている。

正直、気持ち悪い視線ばかりだが、問題を

起こすのは避けたいので、じっとしながら

隣のルフェアを抱き寄せた。

 

その時、ちょうど私達の前に居たチャラい

見た目の男がこちらに近づいてきた。

私はホルスターのノルンに手を伸ばす。

「よぉ、レディ達。良かったら俺とお茶でも

 どうかな?」

すると男はバジリスクの上でトランプを

していたユエやシアに声を掛ける。流石に

高さがあるためか、いきなり触る等は

出来ないが……。

 

彼女達は一瞥しただけで、すぐに無視を

始めた。

しかし男は引き下がらない。

「な、なぁ?レディ達?良かったら俺と……」

「失せよ外道」

「ひっ!?」

 

更に何かを言おうとする男を、ティオが殺気

混じりに制する。

「態度を見て分からぬか?お前などお呼び

 ではないのじゃ。……疾く失せろ……!」

更に殺気を濃くするティオに、男は

とうとう失神してしまい、あの男の連れ

だった女達はガクガクと震え、商人達も

何やら萎縮している。

 

ふむ。これで不愉快な視線に晒されなく

なったな。

「すまんなティオ。手間が省けた」

「お褒めにあずかり、恐悦至極です」

そう言って僅かに頭を下げるティオ。

……本当に懐かれた物だ。

と考えながら、ノロノロと動く列。

ティオが殺気を放ったおかげで不愉快な

視線には晒されなかったが、やはり

退屈だ。

 

後ろではハジメ達とウィルが混ざり、

将棋大会をしている。……つまり、

将棋を知らないウィルに一通り

そのルールを教えられ、且つ試合が

出来る程、既に時間が経過している、

と言う事だ。

 

ちなみに今は準決勝。ユエVS香織だ。

「ふふ、香織。諦めなさい」

「くっ!?諦めないから!まだ、まだ

 手があるはず!」

と、何やら盛り上がっていた。肩越しに

振り返り後ろを見れば、成程、確かに

ユエが優勢だ。

 

その時。

「ん?マスター。前方から馬が来る

 ようじゃ」

「馬?」

ティオの言葉に視線を前に向けると、確かに

馬が三騎、こちらに向かっていた。

やがて、その三騎がバジリスクの側で

止まる。

 

「失礼。君たちに聞きたい事があるの

 だが……」

「何でしょう?」

3人の内の一人が質問してきたので私が

応じる。

「ッ。……無表情な黒い髪の少年。

 もしや君が新生司君、であってるのかな?」

「えぇ。確かに私が新生司ですが?何か」

「実はギルド支部から話が通っていてね。

 君たちが現れたら優先的に通すように

 言われているんだ」

成程。恐らく、イルワの指示だろう。

「そうですか。分かりました。皆、

 バジリスクの車内へ。移動しますよ」

「あぁうん分かった。ユエちゃん、香織。

 今回の勝負は持ち越しみたいだよ」

「……残念。香織をコテンパンに出来る

 チャンスだったのに」

「助かったような、けど悔しいような」

と会話をしつつ、彼等は車内へ戻り、私も

運転席に座る。

 

そして、私達は騎馬に続いて、長蛇の列の

脇を悠々と通り越し、フューレンの中へと

進んでいくのだった。

 

 

その後、私達は現在ギルドの応接室でウィルと

共に待っていた。

出されたお茶や菓子を食べつつ5分ほど

待っていると、依頼人でもあるこの街の

ギルド支部長、イルワ・チャングが慌てた

様子で現れ、ウィルと話し合っている。

 

何でもウィルの両親がフューレンに来ている

らしく、彼は私達に、『今度ちゃんとお礼を

させて下さい!』と言って、別れた。

そして、それを見送ると、イルワが私達の

前に腰を下ろした。

 

「ありがとう。司君。そして、ハジメ君

 たちも。無事にウィルを連れ帰ってくれた

 事、感謝してもしきれない」

「いえ。仕事ですから。やるからには

 最善を尽くしたまでです」

「最善、か。最善と言えば。聞いたよ。

 ウルの町を5万以上の魔物から守ったそう

 じゃないか?『漆黒の死神(ダークネスリーパ-)』君」

「……。はい?」

 

私はイルワの言葉に首をかしげた。ハジメも

同じように目をパチクリさせている。

何だその変な名前は。

「何です。その痛々しい名前は」

「ん?知らないのかい?ウル防衛戦の際、

 漆黒の鎧を纏った君が、大勢の部隊を

 率いて戦ったと聞いている。そして、

 君は更に空を飛ぶ鎧型アーティファクト

 で魔物の大半を撃破したとも聞く」

鎧型アーティファクト。ヴァルチャーの

事か。

「その時の君の動きは、とても常人の

 物とは思えなかった、と聞く。そして

 ウルの町の人々は、そんな君を漆黒の

 死神、ダークネスリーパーと呼び

 始めているらしい」

漆黒の死神、か。

………………。

 

「……。ちょっと今からこの名前考えた

 奴探し出してしばいてきます」

そう言って私が席を立つが……。

「お、落ち着いて司!」

「そ、そうだよ司君!折角守ったウルの

 町を壊しちゃダメだよ!?」

「司さんを行かせたらウルの町が無くなっちゃい

 ますよぉ!私達の戦いを無駄にする気

 ですかぁ!?」

と、ハジメ、香織、シアに羽交い締めにされて

止められた。

 

その後私が落ち着くまで、数分を要した。

 

「ふぅ。……それにしても、随分早いですね?

 どこで町の防衛戦の事を?」

まともな通信技術が無いこの世界で、これだけ早く

情報を仕入れるとは。

「ギルドの幹部専用だけど、長距離連絡用の

 アーティファクトがあるんだ」

 

聞くところによると、イルワは部下を監視役に

私達へ付けていたと言う。まぁ、実際には

バジリスクの移動速度のせいで後手後手に

回り泣き言を言っていたそうだが。

 

「もし良ければ、聞かせてくれないかい?

 北で何があったのか?」

「それは構いませんが、先に約束を

 果たして貰えませんか?」

「ん?あぁ、ステータスプレートの件、

 だったね。ユエ君、シア君、ルフェア君の

 3人のプレートだったね?」

「えぇ。それで……」

と、言いかけて気づく。ティオの事だ。

「あぁ、すみません。追加でもう一つ

 お願い出来ますか?いろいろ合って連れが

 増えたので」

「ん?……あぁ、そう言えばそうだね」

イルワも、前回の時は居なかったティオに

気づいて頷く。

 

その後、4枚のステータスプレートが用意

された。

ユエ、シア、ルフェア、ティオのステータス

プレートが作られた。

 

で、その内容というのが……。

 

 

~~~~~~

ユエ 323歳 女 レベル:75

天職:神子

筋力:120(4000)

体力:300(4000)

耐性:60(8000)

敏捷:120(6000)

魔力:∞(∞)

魔耐:7120(8000)

技能:自動再生[+痛覚操作]・全属性適性・複合

   魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮]

   [+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収]・想像

   構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時

   構成][+遅延発動]・血力変換[+身体強化]

   [+魔力変換][+体力変換][+魔力強化][+

   血盟契約]・高速魔力回復・生成魔法・

   重力魔法・王の祝福を受けた者・

   鋼鉄の戦士[+魔力増幅]

 

~~~~~

シア・ハウリア 16歳 女 レベル:40

天職:占術師

筋力:60 [+最大6100](7000)

体力:80 [+最大6120](8000)

耐性:60 [+最大6100](9000)

敏捷:85 [+最大6125](8500)

魔力:∞(∞)

魔耐:3180(9000)

技能:未来視[+自動発動][+仮定未来]・魔力操作

   [+身体強化][+部分強化][+変換効率

   上昇Ⅱ] [+集中強化]・重力魔法・王の

   祝福を受けた者・鋼鉄の戦士

 

~~~~~

ティオ・クラルス 563歳 女 レベル:89

天職:守護者

筋力:770  [+竜化状態4620]

体力:1100  [+竜化状態6600]

耐性:1100  [+竜化状態6600]

敏捷:580  [+竜化状態3480]

魔力:∞

魔耐:4220

技能:竜化[+竜鱗硬化][+魔力効率上昇][+身体

   能力上昇][+咆哮][+風纏][+痛覚変換]

   ・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮]・

   火属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇]

   [+持続時間上昇]・風属性適性[+魔力消費

   減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・

   複合魔法・王の祝福を受けた者

 

~~~~~

ルフェア・ホランド 15歳 女 レベル45

天職:覇王妃(ゴジラブライド)

筋力:55(8000)

体力:100(9000)

耐性:45(10000)

敏捷:150(9000)

魔力:0(0)

魔耐:40(10000)

技能:王の祝福を受けた者[+王の妃]・鋼鉄の戦士

 

 

とまぁ、こんな感じだ。中々に、いや、かなり

ぶっ飛んでいるなぁ、と思いながら私は

4人のステータスに目を通す。

そして、イルワは4人のステータスを見るなり、

開いた口が塞がらない、と言わんばかりに口を

大きく開けていた。

まぁ無理も無い。ティオとユエは滅んだはずの

種族の末裔で、シアも色々数値がヤバい。

ルフェアがまだまともに見えるレベルでだ。

しかし肝心のルフェアもジョーカー装着時の

数値が出ている以上、普通では無い。

 

と言うか、ルフェアの天職欄の『覇王妃』

とは一体なんだ?この場合の覇王は、私の

事か?ステータスプレートがルフェアを

私の妻と認めた?……おかしな話があった

ものだ。と考えながら、その後イルワに

私達の事情を(エヒトと解放者の事を隠しつつ)

色々話した。

 

その話を聞き終わると、イルワはとても

疲れたような表情をしていた。

「……正直、君たちが普通ではないと

 思って居たが、皆が皆、予想の斜め上を

 行っているよ。……まぁ、そのおかげで

 ウィルを無事連れ帰ってくれたとも

 思って居るがね」

 

「それで?イルワ支部長は私達の秘密を知った。

 ……どうしますか?」

「それは、最悪君たちを教会に突き出すの

 かと疑っているのかい?ははっ。悪い冗談だ。

 ……君たちなら、この街の住人全てが束に

 なって掛かったって余裕で蹴散らせる

 だろうに」

そう言ってイルワは苦笑を浮かべた。

 

「そんな強力な君たちを敵に回すなんて、

 御免被るよ。それで無くともウィルの

 恩人だ。それならいっそ君たちの

 後ろ盾になるよ」

「そうですか」

……どうやらイルワの言葉に嘘はなさそうだ。

 

 

その後、イルワとの話し合いで、私達

全員が、金ランクの冒険者へと一気に昇格

される事になった。7人全員、金ランク

冒険者とのパーティか。何とも目立ちそう

だと思いながら、私はイルワの話を

聞いていた。

 

その後もギルド直営の宿のVIPルームを

使わせてくれたりと、至れり尽くせりだ。

まぁ、どう見ても私達と繋がりを持って

おきたいのだろうと予想出来るし、何より

本人が開き直ってそう言ってきた。

 

そして、VIPルームで体を休めていると、

両親を連れたウィルがやってきて、私達は

彼のご両親に挨拶をすることになった。正直、

最初は貴族だからどんな人物かと思ったが、

王都の貴族とは異なり、中々に好感を持てる

二人だった。

少しばかりの雑談を交えた後、ウィルは

ご両親の私のすさまじさを語った。

……正直、恥ずかしいから止めて欲しかった。

 

他人から自分の行動を褒められて、凄まじい程

に恥ずかしかった。……恐らく、私は人生(?)で

初めて、羞恥心というものをしかと理解した

瞬間だっただろう。

 

その後、お礼として金品などを、と言われたが

報酬はイルワから貰っているので良い、と言う事

で、もし何かあって協力を要請したらその時、

少しでも力を貸して欲しい、と言う事で

納得して貰った。

 

 

その後、私達は話し合いの結果、2~3日この

フューレンの町で休む事にした。元々、

ここを経由してすぐ西に進むはずがウルに

行ったりして予定外の行動を取った為、

休息としてこの町に止まる事にしたのだ。

 

しかし、ここで問題が発生した。

私達に用意されたVIPルームが『2つだけ』

なのだ。

フューレンを訪れ、宿に泊る暇も無くここを

離れ、ウルの町で一泊した次の日には山狩り、

夕方頃にはティオと戦った後に急いで下山。

夜には町に戻り、報告と防衛ライン構築の

作戦会議などがあり、色々に忙しかった。

そして、当然、そうなれば皆溜まっている

のである。色々と。

 

しかし部屋割りの関係上、部屋は3人と4人

に別れるしかない。こうなると、当然

ティオは私達と同じ部屋になってしまう。

そして、どうやらティオも話をしていて

この事を察したのか……。

 

「マスター。マスターの床を守るも従者

 の努め。気にせずに姫と愛し合われよ」

との事だ。ちなみに、彼女の言う姫とは

ルフェアの事だ。

『王たるマスターの妻なのだから

 姫で何の問題もないじゃろ?』というのが

彼女の言い分だ。

まぁそれはさておき。ティオがそれで

良いなら、と言う事で、部屋割りは

一つが、ハジメ・香織・ユエ・シア。

もう一つが、私・ルフェア・ティオと

なった。

 

その時のティオは、まるで気にしてない、

と言わんばかりだったが……。

 

 

翌朝。皆で集まって朝食を取っている中に……。

「…………」

目の下の隈が凄いティオの姿があった。

「……ティオさん、全く眠れなかったみたい

 だね」

と、彼女の様子を見て呟くハジメ。香織、

ユエ、シアがティオの様子を見ながら頷く。

「う、うむ。ハジメ殿の言うとおり、昨夜は

 全くと言って良い程、眠れなかったのじゃ。

 ……はははっ、主の床を守るのも従者の

 努めと、未経験の癖に粋がるのでは

 無かったと、今とても後悔しておるのじゃ」

そう呟くティオを見て司は……。

 

「ふむ。では、今日の予定ですが、私は

ティオ、ルフェアと共に宿で休んでいます。

今後の計画の練り直しやらジョーカーの

改造の為に、アップデートプログラムの

用意などもありますので。ハジメ達は

町を楽しんできて下さい」

「そっか。分かった」

 

 

と言う事で、ハジメ達は町へ行き、私は

ルフェア、ティオと共に自室に戻った。

ティオは寝不足のため、戻ったら戻ったで

ベッドに飛び込み、二度寝を初めてしまった。

私は部屋に備え付けてあるデスクの上に

パソコンを置き、カタカタとプログラミング

なり何なりを始める。

 

そして、そんな私の様子を、隣に椅子を

持ってきたルフェアが見ている。

しばらくして……。

「良かったのですか?ルフェアは」

「ん?何が?」

「折角大きな町に来ているのですし、

 ハジメ達と町に行っても良かったの

 ですよ?」

「そう。……う~ん。でもいいや」

「何故です?」

と、私が問いかけると、ルフェアは私の

腕に抱きついた。

「だって、ツカサお兄ちゃんが一緒じゃないと

 楽しくないもん」

そう言って笑みを浮かべるルフェア。

 

……あぁ、全く。人生とは様々な事が起る物だ。

「私は今、ちょっとだけエヒトに感謝して

 います」

「え?何で?」

私は首をかしげるルフェアの手を取る。

「なぜなら、こんなにも美しいお嫁さん

 と出会えたのですから」

そう言って、私はルフェアの手の甲に

キスをする。

 

「んっ」

それだけで、ピクンと体を震わせる

ルフェア。そして……。

「それじゃあ、私もちょっとだけ

 エヒトに感謝しようかな?私も、

 こんな素敵な旦那様と出会えたんだし!」

そう言って、ルフェアは私の元に飛び込んだ。

突然飛び込んできたルフェアを受け止めると、

私は彼女の頭を優しく撫でる。

やがて、ルフェアは私と向かい合い、額や

鼻先を擦りつけ合う。

 

私もルフェアも、二人とも、笑みを浮かべ

じゃれ合っている。こんな時間が、私は

とても充実した時間なんだなと、心の底から

思う事が出来たのだった。

 

その後、お昼過ぎになって起きたティオと

共に、私達の合計3人で宿を出て、近くの

レストランに入り、そこで昼食を取っていた。

 

と、その時。

『『ブブブブッ!!』』

不意に、私とルフェアの手首のジョーカーが

震え、私達は互いに顔を見合わせ、頷いた。

これはハジメ達からの通信だ。

「マスター、何か?」

そしてその様子に気づいたのか、ティオも

真剣な表情になる。

私は即座にイヤホンを作り、それをジョーカー

に接続。これでジョーカーを持たないティオも

通信を聞ける。

 

「ティオ。これを耳に。ハジメ達からの

 通信です」

「承知した」

すぐさまイヤホンを耳に入れるティオ。

 

『もしもし司。聞こえる?』

「はい。聞こえています。どうしました?」

周囲に怪しまれないよう、小声で話す私。

『うん。実は司に渡されてた眼鏡を試してた

 んだけど……。歩いてたら下水道を

 流れる生体反応をキャッチして。何とか

 保護したんだけど……』

「それで?」

ハジメに渡した眼鏡、と言うのは待機状態の

ジョーカーと無線で接続し、レーダーとして

の機能をレンズに映し出す、新装備の事だ。

街中でも一応警戒する為、眼鏡に偽造した

物で、町へ出るハジメに頼んで試運転を

して貰ったのだ。

それが功を奏した、と言う事かもしれないな。

と、私は内心思っていた。

 

『その子、『海人族』の、それも幼い子供

 なんだ』

「海人族の子供?」

と私が呟くと、ルフェアが驚いた様子だ。

そして、私は嫌な予感がしていた。

 

海人族とは、亜人族でありながら、『唯一』

王国から保護の対象となっている。彼等は

海産物を人間に提供しているからだ。

彼等は、大陸の西。グリューエン大火山など

よりも更に西の海の沖合、そこに浮かぶ

海上の町、『エリセン』で生活している。

そんな海人族の子供が、内陸でしかも

下水を流れていたなど、どう考えても

悪い予感しかしない。

 

「それで、その子の様子は?」

『今、香織たちが神水のお風呂で汚れを

 落として、更に神水を飲ませてる。

 下水で流されて、それを飲んじゃってる

 可能性があったから。名前は、『ミュウ』

 ちゃん。お腹が空いたのか、今は

 串焼きを食べてる。……目立った外傷は、

 無いみたい。それで……』

「分かりました。今すぐ合流します」

『うん。……司、もしかしたら……』

「えぇ。厄介事、ですね。すぐに行きます。

 ハジメ達はそこを動かないように。

 それでは」

『うん。あとでね』

 

そう言って私達は通信を切った。私は

ティオのイヤホンを回収するとすぐさま

立ち上がった。

「二人とも、通信は聞いていましたね。

 急ぎますよ?」

「うん」

「御意」

 

私達は会計を済ませるとハジメ達が

待っている場所へと足早に進んだ。

 

そして、数分後。

 

「あっ!司!二人も!」

袋小路の奥にハジメ、香織、ユエ、シア。

そして海人族の子供、エメラルドグリーンの

髪色の幼女、『ミュウ』を発見した。

しかし……。少女どころではない。

幼女、と言うのが相応しいと思えるほど幼い。

奥では、香織とシアがミュウと言う名前の

少女の面倒を見ている。今は、二人に

見守られながら串焼きを食べていた。

 

「ハジメ、状況は?彼女から、何か聞くことは

 出来ましたか?」

「うん。順を追って話すよ」

 

 

ハジメによると、彼等4人は町歩きの傍らで

眼鏡型レーダーの試運転をしていた。しかし

レーダーが下水道を移動する生体反応を

キャッチした事で、慌てて救助したら、

それがミュウだったと言う。

念のため、今は体を洗い、神水を飲ませ、

香織達が買ってきた服を着せ、食べ物を

与えていた。

 

「あの子、相当お腹空いてたみたいだよ」

「……。あの子がそうなった経緯は?」

「あぁ、うん」

 

その後、更にハジメ達がミュウから聞いた話

をまとめると、ある日、海岸線近くを

母親と一緒に泳いでいた所、親とはぐれて

人間の男に捕まってここまで連れてこられた

と言う。そして、『人間の子供達』と共に

牢屋に押し込まれ、数日を過ごしたミュウ。

しかしある日、下水へ通じる穴が空いていた

事から、ミュウはそこへ飛び込み、海人族

としての泳ぎの速さを利用して何とか

逃げ出す事に成功する。

 

しかし、ストレスや疲労などが溜まりきっていた

ミュウはやがて気を失い、次に気づいた時

はハジメ達に救出され、ハジメの腕の中

だったと言う。

 

「そうですか。……ともあれ、まずは……」

そう言って、私はミュウの側に寄ると、彼女

も私を見上げる。

しかし、幼い子供を相手にするとき、

見下ろす(見上げる)と言う構図は些か

高圧的になってしまう。なので、私は

その場に胡座を掻いて座り、視線の高さを

同じにする。

 

「はじめまして。私は、新生司と言います。

 貴方を助けた、彼や彼女達の仲間です」

「仲、間?」

「えぇ。そうです。……貴方のことは、

 彼、ハジメから聞きました」

「……」

その言葉に、ミュウは側に居た香織の

元に身を寄せる。

 

香織は、よしよし、と言いながらミュウを

優しく撫でる。

その時。

「マスター、どうされますか?」

と、ティオが声を掛けてきた。

「……普通なら、公的機関の保安署に

 送り届ける程度でしょうが……」

私の言葉に、ミュウは一瞬息を呑む。

 

だが……。

「残念ながら、我々全員はトラブルメーカー

 のようだ。そして、ハジメ達はこのような

 手合いが大嫌いと見える」

「……もちろん」

と頷くハジメは、既に戦士としての気迫を

滲ませている。

香織も、表情を引き締めている。

ユエは、まるで準備運動のように無言で

指の骨を鳴らす。

シアとルフェアは、奴隷になりかけた

過去から来るのか、怒りと闘志を燃やしている。

ティオも、悪漢など見過ごさんぞ、と

言わんばかりの表情だ。

 

そして、私も……。

数日前、愛子先生に指摘された言葉を思い

出していた。

優しくなるのに、遅すぎるなんて無い、か。

 

どうせ、エリセンには大迷宮攻略の関係で行く

予定だった。ならば、一旦グリューエン大火山

を飛び越えてエリセンに行き、そこでミュウを

故郷に帰してから、東に戻る過程で大火山の

迷宮を攻略すると言う手もある。

 

「皆、聞いて下さい。……ミュウを誘拐した

 組織は、人間の子供さえも奴隷として

 売買している組織。所謂、裏の組織でしょう。

 名前は恐らく、『フリートホーフ』。この

 フューレンではびこる大規模な人身売買の

 組織です。私も名前くらいしか知りません

 が、恐らくそのフリートホーフが関わっている

 とみて、間違い無いでしょう」

「……それで、司はどうするの?」

 

どうする、か。決まっている。

 

「総員、第一種戦闘態勢」

「「「「「「了解」」」」」」

私の言葉に、皆が頷く。そしてティオ以外は、

皆ホルスターに装備していたノルンの初弾を

薬室に送り込み、いつでも撃てる体勢に

する。それを見て互いにうなずき合うと、

皆が私の方を向く。

 

「総員傾注。……私達はこれより、ミュウの

 護衛をしつつ、まずはギルド支部へ向かう。

 早速だが、後ろ盾になると言ってくれた

 イルワに協力を仰ぐ。……具体的には、

 我々でフリートホーフ殲滅作戦を行う

 為の依頼を、彼から出させる。ギルド

 支部長直々の依頼ならば、街中で派手に

 力を行使した所で問題無いだろう。

 ……ハジメと香織には、殆ど初めての

 対人戦闘となるだろう。だが、相手は

 他人の不幸と絶望で金を得て生活

 しているようなクズだ。手加減は要らない。

 殺せ。どうせ生かしておいても更正の

 余地も無いクズだ」

「あぁ。……分かってるよ。言っちゃ悪い

 けど、今の僕なら、完全な悪人くらいなら

 躊躇無く撃てる自信があるよ」

「……正義も持たない、悪人だもんね。

 私の方は自信無いけど。……でも、

 撃てると思うよ。多分」

 

二人とも、決意を宿した瞳で私を

見返す。

 

これならば良いだろう。

「では、まずギルド支部に向かう。

 行くぞ」

その言葉に従い、私が歩き出すと6人が

私の後に続いた。

ミュウはティオが抱きかかえ、そのティオ

を守るようにハジメ達が周囲を固め、

私が先頭を歩く。

 

 

「……お兄ちゃん」

その時、ミュウが不安からか、隣を歩く

ハジメに声を掛けた。

「大丈夫。ミュウちゃんの事は、僕達が

 必ず守るから」

そう言って、ハジメは優しい笑みと共に

ミュウの頭を優しく撫でる。

「うにゅ」

ミュウは、その優しく、温かい手に

撫でられ、可愛い声を漏らす。

 

そして、次にミュウは前を歩く司の

背中に目を向けた。その時、ミュウは

思った。彼の背中が、『大きい背中』

なのだと。

 

 

こうして、のちに『フューレンの大破壊』、

または『フューレンの大虐殺』と呼ばれる

事件の幕が上がった。

 

     第38話 END

 




次回は、フリートホーフが原作よりも酷い事に
なるかもしません。
何せ、司はこう言う手合いに一切手加減しませんから。

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