ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回はVS魔人族のお話です。展開は、まぁまぁオリジナルです。

それと、今日から大学の夏休みが終わって後期が始まるので、
また投稿速度が落ちると思います。ご了承下さい。


第41話 深淵のエンカウント

~~~前回のあらすじ~~~

ハジメや司と別れ、ウルの町郊外の整地作業に

参加していた愛子と清水、園部たち。清水達は、

護衛隊のメンバーとして決意を新たにした事から

鍛錬を続けていた。そんな中、清水は魔人族が

動き出している可能性を考え、愛子達に自分の

考えを教える。魔人族が勇者である光輝とその

周囲にいる雫たちを狙っている可能性が高いと

考えた清水。その話を聞いた愛子は、彼等と

合流し安否確認をするために清水達7人を

伴って、ウルの町を出発するのだった。

 

 

清水たちがバジリスクで移動している頃、

彼等が合流を目指す光輝達は、ホルアド、

正確にはオルクス大迷宮の中にいた。

 

そして、薄暗い大迷宮の中で、戦闘が

行われていた。戦うのは、迷宮攻略組の

光輝や雫たちだ。

剣戟が。魔法が。いくつもの軌跡を描き

ながら交差する。

そんな中で……。

「ってぇ!」

『『『『ガガガガガガガッ!!!』』』』

ジョーカー、タイプCを纏った雫が指示を

出すと、側に控えていたガーディアン4機が

セーフガードライフルを撃ちまくる。

しかし、それだけで射殺す事は出来なかった。

 

既に90層を目前に控えた89層の魔物は、

ガーディアンのライフルの一斉射でも僅かに

血を流させ、動きを止める事しか出来ない。

しかし、それで十分だ。

「光輝!今よ!」

「おぉっ!『万象切り裂く光、吹きすさぶ

 断絶の風、舞い散る百花の如く渦巻き、

 光嵐となりて敵を刻め!≪天翔裂破!≫」

ガーディアン達の射撃が魔物を押しとどめ、その

隙に光輝達や後衛の者達が魔法を詠唱し、発動

する。

 

光輝の放った光の刃が。後衛組が放った魔法が。

次々と魔物に襲いかかる。

何とかそれを躱して前に出る魔物。だが……。

「遅いっ!」

居合い切りの姿勢のまま、スラスターを吹かして

飛び出した雫のヴィヴロブレード、青龍が魔物を

一瞬で切り裂く。

 

そして周囲を見回すが……。

≪各種レーダーに反応無し。敵影を認めず。

 もう大丈夫だぞ≫

『ありがとう司』

「みんな。レーダーに反応は無いみたい。

 とりあえず、戦闘終了よ」

と、雫が周囲に教えると何人かが息をついた。

同時に、構えていたセーフガードライフルの

銃口を下げるガーディアン達。

 

そして、雫は怪我をした檜山たちが治癒師の

女子に治癒されているのを傍目に確認すると、

ガーディアン達の方に視線を向けた。

敵は居ないとはいえ、ここは大迷宮。今の

ガーディアン達は、全部で8機になっており、

4機を一個小隊とし、第1小隊を前衛組の支援。

第2小隊を後衛組の護衛として、雫が指示を

飛ばしている。と言っても、実際には雫の

タイプCの中のAIの司が指示を出しているの

だが、この場では雫以外、その事実を知る者

は居ない。

 

≪大丈夫か雫?若干心拍数が高いぞ≫

その時、AIの司が声を掛けてきた。

『大丈夫よ。少し息が上がっただけだから。

 直に収まるわ』

≪そうか。だが、お前がこの攻略組の要だ。

 体調管理は、しっかりしておけ。雫が  

 倒れる事だけは、避けなければならない

 からな≫

『要って大げさじゃない?光輝たちだって

居るんだし』

≪大げさではないぞ。この集団の要は、

 間違い無く雫。お前だ。確かに、

勇者君は戦闘力で言えば十二分に強い。

 だが、ただ単に力を振るうだけが戦争

 ではない。そして、奴には自分を疑うと言う

事が無い。バカ丸出しで、自分の言葉を

信じているだけだ。……到底、リーダーの器

ではないぞ≫

『それは……』

≪かつて、日本の武将、上杉謙信は言った≫

そう言って、司は言葉を続ける。

 

≪人の上に立つ対象となるべき人間の一言は、

深き思慮をもってなすべきだ。軽率なことは

言ってはならぬ≫

 

その言葉の事が、逆説的に光輝の事を否定している

のだと雫は分かった。

光輝は、自分が正しいのだと思って居る。

そこに疑問や疑う事など無い。戦争に真っ先に

参加を表明したのも、光輝だ。

 

≪人の上に立つ、と言う事は自分の下に居る人間

 達の命を背負い、自らの選択にその者達の

 命までを賭けている、と言う事だ。それが、

 浅はかにも真っ先に戦争参加を言い出し、

 リーダーとはな。……はっきり言って、

危ういよ。彼等は≫

『……』

AI司の言葉に、雫は黙り込む。

 

≪浅慮なリーダーに付いていくなど、自殺行為も

 甚だしい。このまま行けば、あの勇者君には

 どうにも出来ない状況がやってくる。そして、

 彼に従っているだけ、と言う状況の『つけ』

を払わされる≫

『つけ?』

≪あぁ。それも、自分の命で払う事になる

 つけだ。つまり、全滅という事だよ≫

『ッ。それは……』

≪もしそれが嫌なら、今からでも遅くは無い。

 雫に、覚悟があるのならお前がリーダーに

 なれ。身内贔屓に聞こえるかも知れないが、

 あんな自己の正義に酔っ払った勇者など

 より、遙かにリーダーの器だ≫

『私、が?……重いね』

心の中でそう呟く雫。

≪……そうか。まぁ、無理にとは言わん。

 俺はお前をサポートする立場だ。お前は、

 お前の意思で選択しろ≫

『うん……』

そう頷き、雫は光輝の背中を見つめる。

 

かつて、幼い頃はかっこ良く見えたその背中が、

雫には、今はとても小さい物のように思えて

仕方が無かった。

 

 

その後、彼等は出発した。89層はマッピングが

殆ど終了していることもあり、彼等は10分程度

で90層に続く階段を発見した。

彼等はついに90層までやってきた。階段を

下りた一行は、慎重に90層の探索を開始する。

 

しかし、次第に彼等が怪訝そうな表情を浮かべ

始めた。

「……魔物が、居ない?」

周囲を警戒しながら呟く雫。

 

前方では、ガーディアン第1小隊がライフルを

構えたまま慎重にクリアリングをしながら

進んで居るが、ガーディアン達のレーダーにも、

ジョーカーのレーダーにも、敵影が映らない。

そして、後ろで支援組を警護しつつ後方を

警戒している第2小隊も同様だ。

 

今は大きな広間にたどり着いたが、相変わらず

魔物の気配はない。

「八重樫、レーダーの方はどうだ?」

「ダメ。今のところ、魔物らしき反応は無いわ」

雫に声を掛けたのは、龍太郎と並ぶ巨漢、

『永山重吾』だ。彼は柔道部主将で光輝達とは

別のパーティーのリーダー的存在だ。

そして、司曰く『勇者君よりリーダーに相応

しく、雫と並んでリーダーの素質がある男』。

そう語るほど思慮深い男だ。

 

「……嫌な静けさだな」

「えぇ」

永山の言葉に頷く雫。その時、周囲を警戒

していた幾人かが、壁に付着した血を見つけ、

永山がそれを確認している。

「……完全に乾いていない。まだ新しいな」

「ッ。ガーディアン全機、全周警戒。

警戒レベルマックス」

永山の言葉に雫が指示を出し、ガーディアン達

は彼等を守るように円を描いて展開。

ライフルを構え、引き金に指を掛けている。

≪雫≫

『分かってる。まさか、罠?』

≪かもしれん。チート級スペックを持つ

 俺達でようやくたどり着ける90層で

 罠を張る連中だ。尋常では無い。

 今すぐ撤退しろ≫

『分かったわ』

「光輝、今すぐ撤退するわよ」

「え?」

「何だか嫌な予感がするわ。みんなここに

 来るまで戦闘続きで若干とはいえ消耗

 してる。魔物がいないのも気になるし、

 今すぐ引くわよ」

AI司のアドバイスを聞き、すぐさま撤退を

進言する雫。

「俺も八重樫に賛成だ。今すぐ引き返す

 べきだ」

更に、雫の言葉に同意する永山。

「いや、でも、魔物の血がこれだけあるって事は、

 それを倒したもっと強い魔物がいるって事

 だろ?だったら、それを倒さないと前に

 進めないじゃないか。だったら今のうちに」

「違うわよ光輝」

彼の言葉を雫が遮った。

 

「この静けさ。何か作為的な、人為的な物を

 感じるわ。凄く頭の良い魔物にしても、

 これは罠の可能性が……」

言いかけた、その時。

 

雫のジョーカー、メット内部のディスプレイの

片隅にあるレーダーに、光点が浮かび上がった。

『ッ!!?』

その光点を見た瞬間、雫は青龍を抜き振り返った。

 

「レーダーに感あり!!」

咄嗟に叫ぶ雫。

その叫びに真っ先に対応出来たのは、

ガーディアン達と警戒していた永山だ。

そのガーディアン達はデータリンクを通して

レーダー情報を受け取ると、光点の居る方

へライフルを向け、それを見た永山も同じ

方向に拳を構える。

 

そしてそれに遅れて、光輝や龍太郎たちも

武器なり何なりを構える。

 

すると……。

『コツ……コツ……』

広間の奥、その暗闇の方から少しずつ、足音

のような物が近づいてきた。

「……魔物か?」

そう呟く龍太郎。だが……。

「違う」

それを雫が否定した。ジョーカーに内蔵されて

いるコンピューターは音を解析し、相手が

二足歩行である事を教える。

と、その時。

 

「やれやれ、まさか気づかれるとはね」

暗がりの奥から、声が聞こえてきた。ハスキー

な女の声だ。

しかし、雫は声を聞いた瞬間、直感した。

女が、どんな存在であるかを。そして、女は

光輝達に姿がはっきり見える場所まで近づいて

来た。

 

「まさか……!」

そして、女の体を見るなり、雫はジョーカー

のメットの下で表情を強ばらせた。

女は燃えるような赤い髪を揺らしながら、

彼等の前に姿を現した。しかし問題は、

その女の肌色と耳だ。浅黒い肌。尖った耳。

二つの特徴は、紛うこと無き、『魔人族』の

特徴だ。

 

「魔人、族……!?」

静かに、驚きを含んだ声色で呟く雫。

 

現れた女は、艶の無い黒いライダースーツを

身に纏い、胸の辺りを開けさせていた。

その色気溢れる姿に、男子の数人が顔を

赤く染めるが……。

「バカッ!何赤くなってんのよ!相手は

 魔人族よ!死にたいわけ!?」

雫に一喝され、皆慌てて武器を握り直す。

 

「ふむ。……勇者ってのは、アンタかい?

 青い鎧君」

女は、光輝と雫を交互に見やってから、

雫の方に声を掛けた。

「ち、違う!勇者は俺だ!」

それを真っ先に否定したのは光輝だ。

「へぇ?アンタが勇者?……てっきり、キラキラ

 してるだけの戦士かと思った。だって、

 そっちの方が明らかに勇者っぽいし」

「な、何だと!?」

「まぁ良い。そこのキラキラしている勇者君と、

 それに強そうな青い鎧のアンタにも聞いて

おく。あたしら魔人族の側に来ないかい?」

「な、何?来ないかって、どう言う意味だ!」

光輝が叫ぶと、女は心底気だるそうにため息を

ついた。

 

「やれやれ、こんな飲み込みの悪いガキが勇者

 とは。まぁ、命令だから仕方ないか」

気怠そうな態度が、光輝の怒りを煽る。

「おいっ!今のはどういう意味だ!」

「だからさ、勧誘だよ勧誘。勇者君を勧誘

 してるのさ。……それで、どうする?上は

 そこに居るお仲間が一緒でも良いって 

 言ってるけど?」

と言うと、光輝は、無論反発し、逆に投降を

呼びかけた。

 

しかし、内心雫と永山、AIの司はそんな

光輝の態度に舌打ちしていた。

≪あんのバカめ!魔人族の女が一人で来る

 訳ないだろうが!雫!周囲をレーダーで

 スキャンしたが、『居る』ぞ。恐らく、

 奴が指示を出した瞬間、襲ってくるぞ≫

『分かった。奴らの居場所は?』

≪左右と後方に1匹ずつ。ガーディアン達には

 データを転送済みだ。しかし、90層の

 魔物を殺るような魔物だ。はっきりいって

 ガーディアン部隊は、牽制と盾役くらい

 にしかならんぞ!もっと居る可能性もある!≫

『分かってる……!背中は預けたわよ、司!』 

≪あぁ、全力でサポートしてやるさ≫

 

静かに覚悟を決める雫。そして……。

 

「ルトス、ハベル、エンキ。餌の時間だよ!」

魔人族の女が叫んだ次の瞬間、光輝達の周囲の

空間が揺らめいた。かと思うとスキル、『縮地』

もかくやの速度で光輝と女のやり取りを

見守っていたパーティーメンバーに襲いかかった。

 

だが……。

「ぜやぁぁぁぁぁぁっ!」

次の瞬間、雫のタイプCが全身のスラスターから

爆炎を吹き出しながらそのうちに一体に突進。

右手の青龍にコネクターを通してエネルギーが

送られ、刀身が青白く輝く。

そして……。

『グサッ!!!』

プラズマブレードと化した青龍が魔物の

一体の腹部に突き刺さる。

 

悲鳴を上げる魔物。しかし雫は止まる事なく

スラスターを全開にして突き進み、そのまま

壁に魔物を叩き付けた。

「まだまだぁっ!」

雫は叫び、左手を横に広げる。

『司ッ!ブレイクソード!』

≪おうっ!≫

 

雫の声に応える司。すると、彼女の左手に

巨大な漆黒の大剣、『ブレイクソード』が

顕現した。

これは、雫が巨大な敵を、ジョーカーの

胆力を生かして一撃で殺す為にAIの

司が設計した物だ。

 

刀身には、司由来の物質、Gメタルで

出来ているため、ジョーカーの胆力が

あって初めてギリギリ扱えるレベルの

重さだ。だが、だからこそ、一撃で相手を

死に至らしめるのだ。

 

「おぉぉぉぉぉっ!!!!」

雫は雄叫びを上げながら、ギリギリ片手

でブレイクソードをキメラに似た魔物の

頭に叩き付けた。

グシャッ、と言う音と共に、頭が潰れた。

 

そして、永山が相手にした個体は、永山の

発生させたシールドで弾き飛ばされた。

 

永山が司から与えられた装備。それは一対の

メカニカルで巨大なグローブとブーツだ。

このグローブとブーツには、超小型核融合炉が

搭載されており、拳と蹴りの際、指先や指先

を発熱させて、ヒートナックルとして扱う事も

出来る。加えて、内部の制御コンピューターを

利用して、装着者である彼の全面にシールド

を展開する事も可能。これは、相応の防御力を

誇っていて、大抵の攻撃は防げるのだ。

4機の核融合炉を全て発動した状態ならば、

この世界において並ぶ者など無い程の鉄壁を

誇る防御力を彼に与える。そして、キメラは

その防御を突破出来ず、逆にシールドを

展開したまま繰り出されたタックルを喰らって、

思い切り吹き飛ばされたのだ。

 

更に、背後から襲いかかった個体も居たが、

これは咄嗟に展開した鈴の障壁を破壊。鈴を

吹き飛ばしてしまったが、それを咄嗟に恵里が

受け止め、ガーディアン4機が一斉射撃で

それを足止め。更に恵里が追撃の魔法、

『海炎』を放った。

 

だが、次の瞬間。

≪背後だっ!来るぞ!≫

魔物の咆哮が、3つ聞こえた。雫は、

咄嗟にレーダーに映った敵影の方に

ブレイクソードを振り抜いた。

 

次の瞬間、『ガキィィィィンッ』と

甲高い音と共に、メイスのような物が

ブレイクソードに弾かれた。

 

メイスを握っていたのは、以前司達が

ウル防衛戦で戦ったブルタールに似ていたが、

あれとは違い、ブルタールを極限まで

鍛えたかのような、スマートな体型をしていた。

 

そして、メイスを弾かれた魔物は拳を雫

目がけて放つ。

「くっ!?」

それを、体を捻って避け、更にスラスターを

使ってその場で回転。

「はぁぁぁぁぁっ!」

回転の勢いに乗せて青龍を横薙ぎに繰り出すが、

魔物はバックステップでそれを回避した。

更にもう一体の魔物は永山に襲いかかったが、

それも彼の防御を突破出来なかった。

 

だが、問題はもう一匹だ。それは6本足の

亀の魔物で、その亀は、大きく口を開けると、

何と恵里の海炎を吸い込んでしまったのだ。

更に一度は閉じたその大口を開く亀型魔物。

しかも口の中にはエネルギーがチャージ

されており、誰の目にも攻撃の前触れで

あった事が分かった。

 

「にゃめんな!守護の光は重なりて、意思

 ある限り蘇りる!『天絶』!」

鈴は咄嗟に、45度の角度を付けたシールドを

幾重にも形成し、亀型魔物から放たれた攻撃を

何とか上に逸らす事に成功した。

 

天井に攻撃が命中し、瓦礫が降り注ぐ中で

ようやく檜山や永山のパーティーメンバー

達が戦闘態勢に入る。

 

そして、雫はジョーカーに機動性を生かして

メイスを弾いたブルタールもどきに攻撃を

しかけていた。

モドキもその両腕から、ボクサーの如き鋭い

拳を放つ。が、ジョーカー内部のAI司に

よる未来予測が悉くその動きを見透かし、

雫は攻撃の合間を縫って突進。その腹部に

プラズマブレードを突き刺した。

 

悲鳴を上げる魔物。動きが止まった次の瞬間。

雫は思い切りその魔物の腹部を蹴り飛ばした。

肋骨が折れる音と共に吹き飛ぶ魔物。

 

『よしっ!このままっ!』

動けない魔物の首を飛ばそうと構える雫。

しかし……。

「キュワァァァァッ!」

「ッ!?」

不意に聞こえた、新たな魔物の声に足を止める

雫。すると、雫がぶっ刺して蹴っ飛ばした

ブルタールもどきが赤黒い光に包まれたかと

思うと、傷が見る間に治り、立ち上がったのだ。

 

雫は慌てて声のした方を向いた。見ると、

あの魔人族の女の肩に、白い双頭の鴉が

止まっていた。

「回復役!?」

≪ちっ!?あの女、ここで俺達を殺す為に

 万全の用意をしてきたって事か!≫

驚く雫と舌打ちをするAIの司。

 

周囲では、永山がもう一体のブルタール

もどきの攻撃を防いでいて、光輝と

龍太郎が2体目キメラと戦闘中だ。

ガーディアン部隊は8機全機で

3体目のキメラを何とか一斉射で

押しとどめている。鈴たちは、あの亀型の

攻撃を防ぐので手一杯だ。

 

「ふふっ。さてどうする勇者君?今なら、

 まだ止める事が出来るぞ?後は君が

 色よい返事をしてくれるだけだ」

「黙れ!俺はお前達のような悪には屈しない!

 俺達は絶対に負けない!それを証明

 してやる!行くぞっ!『限界突破』!」

使用後の倦怠感と戦闘力低下と引き換えに、

一時的なブースト技である限界突破を

発動し純白のオーラを纏う光輝。

 

「龍太郎!そいつは任せた!」

「おぉ!任せろ!」

龍太郎にキメラを任せ、光輝は魔人族

目がけて突進した。

 

限界突破した今の速度なら、行ける。

そう考えた光輝は魔人族に接近する。

後ろで戦っていた永山達もまた、行けると

思って居た。だが……。

 

雫のジョーカーのレーダーが、影を捕らえた。

その総数、5。

「ッ!?光輝ッ!気をつけて!」

まだ敵が居る。雫がそう叫ぼうとしたが、

遅かった。

 

「「「「「グルァァァァァァッ!」」」」」

「なっ!?」

5つの空間の揺らめきが、咆哮と共に光輝に

襲いかかった。咄嗟の事で、光輝が切り伏せ

られたのは、たった一匹だ。

 

だが……。

≪こなくそがぁっ!≫

真っ先に魔物の存在に気づいたのは雫だけ

ではない。AIの司は、咄嗟にガーディアンを

操作し、ガーディアンに持たせていたトールを

抜き、撃たせた。

 

『『『『『『『『ガガガァンッ!!』』』』』』』』

放たれた炸裂弾が、光輝を追い越しキメラの

体に命中する。それでキメラ達を殺す事は

出来なかったが、炸裂弾でキメラ達の体を

大きく抉り、その動きを止める事に成功した。

 

だが、代償は大きく、8機のガーディアン全て

が、光輝の支援に集中してしまった為、フリー

となった3体目のキメラの攻撃で破壊されて

しまった。

≪道は作った!行けっ!≫

「行きなさい!光輝っ!」

AIの司の叫びを代弁するかのように叫ぶ雫。

 

だが光輝は、この後に及んで聖剣を魔人族に

突き付けて『もう、お前を守るものは

何もないぞ!』などと叫んでいるだけだ。

 

≪何やってるあのバカッ!さっさと殺せよ!

 この期に及んで、躊躇ってんじゃねぇ

 だろうなぁ!何のためにガーディアン8機

 犠牲にしたと思ってやがる!≫

AIの司の憤りは、雫にも分かった。

 

そして、その憤りの通り、光輝の躊躇いは

魔人族の女のチャンスとなった。

「ッ!?危ないっ!」

永山のパーティーメンバーの一人に襲いかかった。

触手を放つ黒猫の、その触手を雫のプラズマ

ブレードが切り裂いた。

だが、それだけではない。

 

更に5体のブルタールもどきとキメラ、四つ目の

狼などが現れた。

それが、攻略組を逃がすまいと全周囲から包囲

する。

 

だが、それだけではなく、魔人族の女の背後

から、狼と黒猫の魔物が10匹ずつ現れた。

それと戦う光輝。

 

一方で……。

≪あの役立たず勇者!≫

AIの司は、憤っていた。だが状況が状況だ。

今の彼は、すぐさま雫を、引いては周囲の

メンバーを助けるために動き出した。

≪雫!聞いてくれ!今から2分!いや、

 1分半だけ未来予測の支援を切る!≫

『え!?どうして!?』

≪ロールアウト間近の新型ガーディアンが

用意出来てる!後はOSを完成させる

 だけの代物だ!それを今から高速で組み

上げる!1分半だ!それだけ粘ってくれ!≫

『分かった!……頼りにしてるわよ、司!』

≪あぁ!任せろ!≫

 

 

そして、AIの司は動き出す。高速で新型

ガーディアンのOSを組み上げていく。

その処理にコンピューターのキャパの大半を

消費しているため、処理速度に大きな負担の

かかる未来予測は使えない。

なので、雫はジョーカーの機動性だけで

攻撃を避け、反撃をする。

周囲では、永山のパーティーメンバー、治癒師

である『辻 綾子』が賢明に治癒魔法を行使

している事と、永山という鉄壁の防壁がある

事で何とか攻撃を凌いでいたが、もう皆

傷だらけだ。このまま血を流し続ければ、

戦えなくなるのは分かっていた。

 

『頼んだわよ、司。今は、貴方だけが

 頼りなんだから!』

雫の言葉に、AI司は答えない。

 

それでも、雫は信じる。自分以外には

見えも聞こえもしなくても、体なんか

無くても。時に辛い現実を彼女に突き付ける

存在だったとしても。それでも、ここまで

ずっと見守り、時には愚痴を聞いてくれて、

ガーディアン、守護者を通じて守ってくれた、

戦場における相棒の力を。

 

「そろそろ、潮時のようね」

そう言うと、魔人族の女は詠唱を始めた。

「地の底に眠りし金眼の蜥蜴、大地が生みし

 魔眼の主」

その詠唱が魔人族の女の参戦を示し、彼等の

中に絶望が広がっていく。

 

「物言わぬ冷たき彫刻」

そして、詠唱が終わりを迎えようとした。

 

その時。

 

≪完成したぜ!新型ぁ!≫

雫にだけ聞こえる吉報が届いた。そして……。

≪行けやぁ!『ハードガーディアン』!!≫

AI司の声が響いたと思った次の瞬間、彼等

と魔物の間に、合計10個の光が瞬いた。

 

「大地に、ッ!?何!?」

あと少しで詠唱が終わろうと言う所で、突然の

光に驚いて詠唱を止めてしまう魔人族の女。

 

そして、彼等の前に現れたのは……。

 

上下ともに、ガーディアン以上と見た目で分かる

重装甲。右手のガトリング砲。左手のシールド

クロー。両肩のミサイルポッド。緑と黄色の

上半身に、黒や灰色の下半身。

正しく歩く武器庫だ。そして……。

 

≪ぶっ放せぇぇぇっ!≫

AI司の叫びが響いた次の瞬間、10体の

ハードガーディアンは右手を掲げ、

ガトリング砲を撃つ。

『『『『『『『『ガガガガガガガガガッ!!』』』』』』』

放たれた銃弾が魔物達に襲いかかる。

 

魔法など比較にならないほどの速度と連射力を

持って雨の如き数で襲いかかる銃弾。

「な、何だあれは!?」

突然のハードガーディアン出現に、驚く魔人族

の女。そして、驚き咄嗟の判断が出来ないのは、

雫達にとってチャンスだ。

 

≪更に持ってけよっ!ミサイル発射ぁ!≫

AI司の指示に従い、ハードガーディアンの

両肩のポッドからミサイルがいくつも

発射され、魔物に襲いかかる。何十という

ミサイルを閉鎖空間で使ったのだ。逃げ場が

そう無い魔物達は、ミサイルを喰らって

吹き飛んだ。

 

≪今だ雫!逃げろ!このまま戦ってたら、

 いずれ誰か死ぬぞ!≫

『ッ!分かった!』

「みんなっ!撤退よ!早く!」

「なっ!?待て雫!俺達はまだ戦える!」

「何言ってんの!このまま戦ったってこっち

 が消耗して全滅よ!」

「し、しかしっ!」

雫の言葉に光輝は歯がみする。しかしその

姿勢に歯がみしているのはAI司も同じだ。

 

そして……。

「馬鹿野郎ッ!」

その時、ハードガーディアンの1体が光輝の方

を振り返って叫んだ。それは、まるでマイクを

通した司の声のようだった。

突如聞こえた司の声に、光輝だけではなく

周囲の者達も驚く。

 

「テメェもうちっと周囲を見ろ!ただでさえ

 後手後手に回ってるんだぞ!このまま

 戦ってたら、いずれ誰か死ぬぞ!

 それでお前、責任取れるのか!えぇ!?

 リーダーならもっと周囲をよく見ろ!

 テメェそれでもリーダーか!?」

「な、何で、新生の声が……」

しかし肝心の光輝は話を聞かず、その事に

驚いてばかりだ。

≪ちっ!?バカがっ!≫

「おら聞けお前等!!死にたくない奴は

 さっさと走れ!こっから出ろ!

 行け行け行けっ!」

魔物達に牽制のガトリング砲をぶっ放しながら

叫ぶAI司の声に真っ先に反応したのは……。

 

「分かった。……撤退するぞ!」

永山だった。

「ッ!?永山!何を勝手に!」

それに対し、咄嗟に反論しようとする光輝。

だが……。

「援護する!行け行け行けっ!」

それを遮るように、AI司が脱出を促す。

その声を聞いて、永山達は出口に向かって

駆け出す。

 

「ちっ!?逃がすと思うかい!?」

そう言って、魔人族の女が魔物をけしかける。

だが……。

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

その魔物を雫のプラズマブレードが切り裂いた。

「みんな先にっ!」

「すまん……!」

そう言って脱出を促す雫。

 

「皆も!早く!走って!」

雫の叫びに檜山たちが。鈴や恵里達が駆け出す。

そして、光輝は周囲の姿に戸惑いを覚えていた。

しかし……。

「バカッ!戦場でボサッとするな!死にてぇ

 のか!さっさと行け!」

AI司の声が聞こえ、光輝はハッとなった。

しばし考えてから、光輝は皆の後を追って

駆け出した。

 

「雫!行けっ!」

「えぇ!」

後退しながら濃密な弾幕を形成するハード

ガーディアン達。

そして、雫が部屋を出た次の瞬間。

 

ハードガーディアン達は肩のミサイルポッドを

切り離して部屋を飛び出た。それを追う魔物達。

と、次の瞬間……。

『『『『『カッ!』』』』』

それが瞬いた次の瞬間、爆発。

 

盛大な爆発音が逃げる雫達の背後で轟いた。

驚いた様子で振り返るメンバー達。

「振り返るな!とりあえず前だけ見て走れ!」

しかしすぐAI司に一喝され、彼等はすぐに

前に向き直った。

 

彼等は何とか生き延びた。しかしそこに喜びは

無かった。『負けた』、そんな感情が彼等の

心の中にあった。今の自分達は敗走しているの

だと言う認識が、彼等の背中に重くのしかかった。

 

だが、そんな中で光輝はただ、自分の前を走る

ハードガーディアンの背中を見つめながら、

密かに歯がみしていたのだった。

 

     第41話 END

 




次回はメルド達が活躍します。

感想や評価、お待ちしています。

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