ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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前回メルド達が活躍するとか言ってましたけど、思ったほど
書けませんでした、すいません。



第42話 リーダーの資格

~~~前回のあらすじ~~~

引き続きオルクス大迷宮攻略を続けていた勇者

一行。彼等はついに90層までたどり着いたが、

そこでは魔人族の女が罠を張り待ち構えていた。

魔人族の女、カトレアは光輝達に魔人族側へ

来るように語るが、光輝はこれを一蹴。

戦闘が始まってしまう。一度はカトレアを

追い詰めるも、彼女の従える無数の魔物に

よって彼等は絶体絶命になってしまう。しかし、

雫のジョーカー、タイプCの中に居たAIの

司の尽力によって、新型ガーディアン、

『ハードガーディアン』が戦線に投入され、

彼等は何とか逃げる事に成功するのだった。

 

 

今、場所は89層の最奥付近。そこの隠し部屋に

光輝達は隠れていた。入り口は、『土術師』の

天職を持つ永山のパーティーメンバー、『野村

健太郎』の手でカモフラージュされていた。

 

「ど、どうだ?」

「……即興でここまで出来れば十分だろう。

 すまんな。もう休んでくれて良いぞ」

野村は、側に立つハードガーディアンに

声を掛け、そのハードガーディアンは司の

声で答えた。

そう言って、ハードガーディアンは周囲を

見回す。

 

光輝は限界突破を使ったせいで既にヘロヘロだ。

前衛の龍太郎と、装備で劣る檜山たちの負傷も

目立つ。

他の面々も傷は少なくても体力的、精神的に

疲弊しているのは目に見えて分かる。

 

『もう一度戦闘は無理だな。実際、かなり

 追い詰められていた。今の精神状態の

 まま戦わせるのは危険だ』

そう考えるAI司の視線の先では、新たに

召喚したガーディアン達が、ハードガーディアン

のパージされた肩部武装の装着作業を

行っていた。今回のはミサイルポッド装備の

他にも、バルカン砲、キャノン砲、高精度

レーダー装備に、シールド発生装置など、

機体ごとに装備を変えている。

 

AI司のボディとなっているハードガーディアン

は右腕をマニュピレーターに変更し、左腕の

シールドクローも今は取り外している。

そして、ハードガーディアン(司)は、目の前の

端末から映し出されている戦闘映像を食い入る

ように見つめていた。

 

そこへ。

「司?何をしてるの?」

ジョーカーを纏ったままの雫が声を掛けてきた。

「ちょっとな。敵の情報収集だ。連中、随分と

 戦力を用意してやがったからな。

 ありゃ、ガチでお前等を仕留めるために誂えた、

 言わば魔物の精鋭部隊だよ」

「……。説明では、魔物の脅威は『数』って話

 だったのに」

「『人間との数的不利を補うために、魔人族が

魔物を使役している』ってあれか。

けど、奴らだってバカじゃない。早々切札を

使うとは思えないがな」

「切札?」

「あぁ」

雫の言葉に頷くハードガーディアン(司)。そして

彼が周囲を見回せば、皆が皆、黙って彼の事を

聞いていた。と言っても、何故ガーディアンから

彼の声がするのか、聞きたそうだったが。

 

それをチラッと一瞥しつつ、AI司は更に

語る。

「例えば、魔人族が普段使役している、 

 低級、つまり弱い魔物を歩兵。今日俺等が

 戦った強い奴らを騎士に例えるとして、だ。

 歩兵級の魔物は量産、つまり数は揃えられるが

 強さは大したことない。逆に、騎士級の

 魔物は強さこそ凄いが、数は揃えられないと

 仮定する。そして、指揮官の立場から

 考えれば、強い奴は攻める事よりも守る事に

 使いたい訳さ」

「そっか。強ければそれだけ、強固な守りが

 出来るから」

「あぁ。強い奴は、優先的に守備に回したい。

 或いは、実際守備に回しているとも

 考えられる。実戦に参加させて、死んだら

 むしろ魔人族側の戦力も低下する。

 要は、そう簡単に補充が出来ないから、

 早々前線には投入しなかった、って所

 だろうな。……だが、魔人族側には

 このエリートクラスの魔物を使ってでも、

 倒したい存在が現れた」

「……私達ね」

「あぁ。だから奴らは、あの魔物達を投入

 したのさ。奇襲に特化したキメラ。 

 前衛職のオーガモドキ。敵の魔法攻撃を

 無力化し反射する亀型。回避能力が

 ずば抜けた四つ目の狼。同じく回避能力

 と攻撃速度に優れた黒猫。回復役の鴉。

 投入された魔物の数と種類からも見ても、

 奴らは確実にこちらの息の根を止める

 ために、可能な限り戦力をかき集めた

 って事だろうな」

「ッ。……それで、どうするの?」

 

「……撤退するしか無いだろ。敵の魔物が

 あれだけとは限らない。天之河だって

 限界突破を使っちまったし、他も

 大なり小なり消耗してる。どう考えても

 引くべきだろ?」

「……そう」

「ふざけるなっ!」

 

そうね、と言いかけた雫の言葉を遮り

光輝が騒ぎ始めた。

「逃げるって、彼奴らに背を向けるのか!

 こんな事されて、黙って逃げ帰るって言う

 のか!大体、どうしてガーディアンから

 新生の声が聞こえるんだ!」

そう叫ぶ光輝の後ろでは龍太郎を始めとして

鈴や恵里が頷いている。

「……ハァ。今はそこを議論してる場合じゃ

 ねぇと思うが。……俺は人工知能、

 Artificial intelligence。つまり、AIだよ。

 本体、って言って良いのか分からんが、

 それは雫のジョーカー内部の超小型

 量子コンピューターだよ」

そう言って、右手の親指で雫を指さす

ハードガーディアン(司)。

「え、AIだって?」

予想外の答えだったのか、戸惑った様子の光輝。

「そうだよ。……雫にはオリジナルの俺が

 ジョーカーについて教えたりする暇が

 無かったからな。そんな雫と、延いては

 お前達のサポート役として、オリジナル

 の俺は自分の思考ルーチンをベースに

 AIを開発。それを雫のタイプCに

 入れておいたのさ。ガーディアンも

 元々はお前等を支援するためにタイプC

 から俺が操っていたんだよ」

「それが、今の新生君、なの?」

「あぁ」

首をかしげる鈴に頷くハードガーディアン(司)

 

「それより、俺の事は良い。今はここから

 どうやって脱出するか、だろ?」

「ッ!?い、いや待て!逃げるって本気で

 言ってるのか!?」

「当たり前だろ?逆に聞くが、じゃあお前は

 逃げないのか?」

「あ、当たり前だ!もう魔物の特性は分かってる

 し不意打ちは通じない!だから!」

 

「だから?さっき俺は言ったよな?奴らは

 本気でお前達を殺しに来てる。あの女が

 抱えてる魔物があれだけだって言う保障は

 どこにも無いぜ?」

「だ、だったら最初から神威で!」

「あのクソ長い詠唱を、あんな用意周到な

 敵の前で詠うつもりか?仮に放てたと

 して、あの亀も気になる。奴は中村の

 魔法を苦も無く呑み込んで反射して

 見せた。神威で同じ事が出来ない保障

 は無い。仮に、放てたとしても命中しなきゃ

 お前の魔力が一気に枯渇してこっちの

 不利になる」

「そ、そんな事言ったって、やってみなきゃ

 分からないだろう!」

 

「あぁ、分からないね。だが、やるって言う

 なら、そこにはお前だけじゃない。ここに

 居る全員の命を賭ける事になるぜ?」

「え?」

「おいおい、何を呆けてる?仮にここにいる

 全員、一致団結して挑んだとして、仮に

 神威が不発だったらどうなると思う?

 ダメだったと言う絶望と魔物が俺達に

 襲いかかってくる。そこまで来たら

 もう逃げるなんて出来ない。殺されるか

 捕まるかのどっちかだ」

 

この時、司は捕まった場合の事を敢えて

言わなかった。AI司の考えが正しければ、

男は捕まって公開処刑。女の方は、考えたく

は無いが、最悪の場合、慰み者にされる

可能性をAI司は考えていた。

 

「テメェに、ここにいる全員の命を賭けて

 勝利できると言い切れる算段があるのかよ?」

AI司は、ドスの利いた声で光輝に問う。

「そ、それは……。で、出来るさきっと!

 俺は勇者だ!それに、皆の力を合わせれば、

 きっと!」

「『きっと』だぁ?俺はそんな根性論の話を

 聞いてるんじゃねよバカが。もっと

 具体的な話をしろっつってんだ」

「な、なら!新生達が協力すれば良いだろ!?

 その新型なら、彼奴らを倒せるだろ!?」

「……確かに奴らとはやりあえる。だが、

 ここじゃハードガーディアンの性能を

 100%引き出すのは無理だ」

「え?ど、どうして?」

恐る恐る問いかけたのは、永山パーティー

の女子、辻 綾子だ。

 

「ハードガーディアンは重武装で、

 後方支援と広域殲滅の為に遠距離武装、

 ミサイルやキャノン砲を搭載しているが、 

 奴らは俊敏な上にここは密閉空間だ。

 あん時は逃げるためにミサイルを使ったが、

 また同じようにミサイル乱射して、天井が

 崩れてこない確証は無い。だから重火器の

使用はNG。それに、数で押し込まれたら

終わりだ。近接戦用の武器もあるにはある

が、ハードガーディアンは雫達ほど早くは

動けないんでね」

 

そう言うと、ハードガーディアン(司)は

周囲を見回す。

「勝率が無い訳じゃぁ無い。だが、敵の

 規模も不明。まだ控えている魔物もいる

 かもしれないし、お前達も消耗している。

 はっきり言って、不安材料が多すぎる。

 犠牲を覚悟の上で戦いたい、って言う

 のならもう止めないが?」

その言葉に、鈴や恵里、永山たち、更に檜山

たちも視線を落とす。

 

「み、みんなっ!そんな顔するなよ!

 俺達は神の使徒なんだ!だからっ!」

「止めなさい光輝」

何かを言おうとする光輝を雫が宥めよう

とするが……。

「大丈夫だ雫!皆がいれば負けない!

 だから!」

しかし逆に、雫の両肩を掴む光輝。

傍目には、負けず嫌いの子供が駄々をこねて

いるようにしか見えなかった。

 

「おい」

未だに戦おうとする光輝。しかし、その肩に

ハードガーディアン(司)が手を置いた。

「え?がッ!?」

そして、振り返った光輝の頬を思い切り

殴り飛ばした。派手に光輝は吹っ飛んだが、

もちろんハードガーディアン(司)は

そこそこ手加減した。

 

「ッ!?光輝!テメェ!何しやがる!」

咄嗟に殴りかかる龍太郎。しかしそれを

他のハードガーディアン達が取り押さえた。

それを一瞥してから、ハードガーディアン(司)

は光輝に目を向ける。

 

「いい加減にしろよこの野郎。お前には、

 この集団のリーダーだっつう自覚が

 なさ過ぎる」

「ッ?な、何?」

頬を抑えながら立ち上がる光輝。

「まだ分かんねぇのかボンクラ!ここに

 居るお前以外の13人の命、全部テメェの

 決断に掛かってるって自覚はあんのか!

 テメェが間違った時、その間違いの

 代償で死ぬのは、テメェだけじゃねぇ!

 こいつらもだ!」

「ッ!お、俺が間違ってるって言うのか!」

「あぁ間違ってるね!根拠の無い根性論で

 こいつら率いて戻ったって、今度こそ

 殺されて終わりだよ!そんな事も

 分からねぇ奴がリーダーなんて、

 洒落にならねぇんだよ!お前は 

 もう少し、自分の背中にこいつら

 全員の命を背負ってる事を自覚しやがれ!

 リーダーやるなら、万が一自分が間違った

 時、死ぬのが自分だけじゃねぇって理解しろ!

 それが出来ねぇなら、リーダーなんて

 止めちまえ!」

 

その言葉を最後に、しばし睨み合う光輝と

ハードガーディアン(司)。

やがて……。

 

「どうせだ。一応俺から、俺の考えてる

 脱出プランを話しておく」

そう、静かにAIの司が話し始めた。

「ここでしばらく休憩し、ある程度体力が

 戻ったら、上に戻る為に出発。

 階層を上がった時点で、階段を爆薬で

 破壊。少しでもあの女と魔物を足止め

 しつつ、出来ればメルド団長達や先に

行かせた遠藤と合流。

魔法陣で30層に移動し、奴らが追って

これないように魔法陣も破壊。

更に騎士団の連中も連れて脱出。

そして、可能であれば出口で、こっちが

用意出来る最大戦力を用意し、真っ正面

から奴らを叩き潰す」

「ッ!それって……」

驚いたように問い返す雫。

「外ならハードガーディアンの火力を、落盤

なんか気にせず使えるし、出口はあそこ

だけだ。出口付近で半円状に包囲網を

展開。魔法を使える奴らもかき集めて、

集中砲火を浴びせるんだよ」

「……その作戦なら、行けるかもしれないな」

「けど、そうしたら大迷宮の攻略は……」

永山は司のプランに賛成の意見を示す。

光輝は、驚きに満ちた目で永山を一瞥する。

その永山に隣に居た野村は、攻略についてを

口にするが……。

 

「攻略は出来なくなるだろう。だが、お前等

 全員の生還に比べれば些事、小さい事だ。

 物なら作り直せば替えは効く。だが命は

 そうは行かない。ここはゲームの世界じゃ

 無いんだ。死んだ時点で終了。リアル

 ゲームオーバーなんて、洒落にもならん。

 ……リーダーなら、全員が生き残る確率の

 最も高い行動を選択するべきだ。

 生きてれば次がある。だが、死ねばそれ

 までだ」

そう言って、ハードガーディアン(司)は

光輝を一瞥する。光輝は、キッと

ハードガーディアンを睨み付けている。

「……何だ?負けるのが、敗走するのが

 そんなに悔しいか?」

「当たり前だっ!俺は勇者なんだ!

 それが……!」

「勇者、ねぇ。ならば勇者君。一つ

 言っておく。勇者のプライドだか何だか

 知らないが、そんなので敵は倒せないし

 仲間は守れない。そんな物、実戦では

 クソの役にも立たない。覚えておけ。

 戦場でリーダーに求められるのは、

 味方全員を可能な限り生かし、無事に

 連れ帰るために合理的判断が下せる

 頭だ。リーダーにプライドは必要無い。

 プライドなんざ、合理的判断を鈍らせる

 足かせにしかならねぇ。良く覚えておけ」

その言葉に、光輝は自分を否定された事実に

怒りを覚えていた。

 

何時だって正しいのは自分。

 

その歪んだ思い上がりが、彼に場違いな怒りを

抱かせていた。

 

やがてAIの司は龍太郎を解放させ、彼等を

見回す。

「さて、では多数決と行こうか」

「多数決?」

そう首をかしげる鈴。

「そうだ。元のリーダーであるそこの勇者君の

 根性論か。俺の脱出計画か。お前等は

 どっちに従う」

「な、何を?」

驚く光輝。

「何って、民主主義の多数決に決まってるだろ。

 こいつらには、自分で選ぶ権利がある。

 違うのか?」

「ッ、そ、それは……」

何かを言いかけ、言い淀む光輝。

 

「さて、つ~訳だ。そんじゃあ」

「待てよ」

と、挙手を募ろうとしたら今度は小悪党組の

一人、近藤がAI司を制した。

「あ?何だよ?」

「何だよじゃねぇよ!何なんだよお前!

 急に現れてしゃしゃり出て来たかと思えば、

 今度はてめぇがリーダー気取りかよ!」

「悪いか?この勇者君がこんなポンコツじゃ

 なきゃ、俺が出張ってくる必要なんて

 無かったんだが……。まぁ、最も、こんな

 お飾り勇者をリーダーにしたまま、何一つ

 文句を言ってないおまえらも大概バカだがな」

「な、何だと!?」

司の言い分を、バカにされていると感じた為か

更に中野が怒声を上げながら立ち上がる。

後ろでは凄い形相で光輝がハードガーディアン

(司)を睨んでいたが、当の本人は無視している。

 

「お前等今までどれだけ勇者と冒険して

 来たんだよ。その道中、このポンコツ君を

 窘める雫を何十回と見てきたはずだ。

 それでも、ず~っと勇者君をリーダーに

 したまま。俺なら、思慮深い永山をリーダー

に推薦したね。周囲が何と言おうがな。

 けどお前等は、このポンコツ君がリーダーで

 ある事を享受し続けた。その結果が、この

 状況だ。……つまり、この状況を原因は、

 お前達にあると言っても良い」

「ふ、ふざけんなっ!俺等は何も悪くねぇ!

 悪いのは負けた天之河や、ずっと隠れてた

 お前じゃねぇか!」

 

「そいつはどうかな?……事前にこいつが

 リーダー向きじゃないと感じる瞬間は

 幾度もあった。その場にお前達も居た。

 だったら普通気づくだろ?

 『こいつにリーダーの資格は無い』ってな」

そう言って、司は光輝を見る。

 

そして……。

「資格の無い物をリーダーにし続けるなんざ、 

 咄嗟の判断が生死を分ける戦場じゃ、

 命取りだぜ?……お前等、揃いも揃って

 能なしか?」

司の、ドスの利いた声が場を満たす。

「な、何だと!?」

それでも何とか怒鳴り返す近藤。

 

やがて、ハードガーディアン(司)は、部屋の

壁際にあった岩に腰を下ろした。

「リーダーを選んでのは、テメェ等全員

 だろうが。そして勇者君がその資格の無い

 者だと分かる場面もあった訳だ。

 ……分かっていて、こいつをヘッドに

 し続けた。そう言う意味では、この危機的

 状況はお前等全員が招いた事だと言っても

 良い」

 

しばしの沈黙。そして再び……。

「ここは戦場だ。たった一つのミスでも、

簡単に命を落とす。戦争に参加するって事は、

自分の命を賭ける事だ。勝てば生存の権利。

負ければ地獄への片道切符。こんないかれた

ゲームに勇んで参加するようなバカを

リーダーにしてるんだよ。お前等は。

 ……もうちっと、自分の頭で考える事

 だな。でなけりゃ、本当の脳無しだぞ」

 

そう言って、ハードガーディアン(司)は

立ち上がった。

「良いか。お前等の命は、お前等だけの物だ。

 これから決を採る。俺の作戦に賛成し

 協力するか。そこの勇者君に従うか。

 全部自分で決めろ。周りの言葉は、

 ただのアドバイスだ。……自分の意思で

 決められないのなら、そいつに戦場で

 戦う資格は無い。咄嗟に、自分で判断

 出来ない、ただの指示待ち人間だからな。

 そう言う奴は、大抵戦場でパニクって死ぬ」

 

司に言葉に、項垂れる者や歯がみする者、

彼を睨む者などに別れた。

やがて……。

 

「じゃあまずは、勇者君に従う者は

 挙手を」

そう言うと、手を上げたのはただ一人、

龍太郎だけだった。

「龍太郎……」

「へっ。俺はお前に付いていくぜ光輝」

僅かに表情を明るくする光輝と笑みを

浮かべる龍太郎。

 

≪それが指示待ち人間の典型例なんだがな≫

と、AIの司は雫にも聞こえるように愚痴った。

「……それが坂上の選択だと言うのなら、

 俺は止めん。では次に、俺の作戦に

 協力する者は挙手を」

 

と言うと、最初は誰も手を上げなかった。

だが……。

『スッ』

真っ先に手を上げた者が居た。永山だ。

「永山か。理由を聞いても良いか?」

「……お前の作戦は論理的だ。だから、ただ

 無謀に戦うよりは生き残る確率が

 高いと思っただけだ。出来れば、俺は

 野村達と一緒に脱出したいが……」

そう言って、永山はパーティーメンバーである

3人に目を向けた。

 

「決めるのはお前達自身だ。どうする?」

そう問いかけるAIの司。

「……俺も、新生に協力する」

そう言って、野村が挙手し、更に女子の辻と

吉野も手を上げた。

 

次いで手を上げたのは雫だ。

「私も司に協力する。今は、生き残る事を

 優先すべきだと思うから」

そう言って手を上げたのだ。更に、渋々

と言う感じで檜山達も手を上げ、更に

鈴と恵里も、それに続いた。

 

「1対11。……これで文句は無いだろう。

 天之河。皆、ここから生きて生還したい

 って事だ」

「……。あぁ、分かったよ」

そして、光輝は俯いたままで頷いた。

「しょうが無いよ天之河君!今は状況が

 状況だし!」

そんな彼を、咄嗟にフォローする鈴。

「そ、そうだよ。今は、みんなで生き残る

 事を考えよ?ね?」

同じように、恵里も彼をフォローする。

「そうだぜ光輝!生きてりゃ次がある!

 そん時あの野郎をぶっ飛ばせば良いさ!」

 

「あぁ、そうだな。ありがとう、龍太郎、

 鈴、恵里」

そう言って、薄く笑みを浮かべる光輝。

 

 

だが、AI司は見逃さなかった。光輝の瞳が、

一瞬とても濁っていた事を。

 

 

だが、状況が状況な為にそれを確認し、正す

余裕が、彼には無かった。

 

 

一方その頃、永山パーティーで暗殺者の

天職を持つ、影の薄さでは右に出る者が

居ないとまで言われている男、『遠藤 浩介』

がメルド達と合流するために走っていた。

当初、光輝達は自分達の現状と例の魔物の

データを生きて報告するために遠藤を

連絡要員として派遣したのだ。

 

場所は90層。メルド達は疎か、自分達で

ようやくたどり着けたこの場所に、救援隊を

送ることなど不可能なのだ。だから、遠藤に

救助の要請、と言う任務は与えられて

居なかった。

 

だが、あの部屋を出る際。

「遠藤、メルド団長にだけは、救援を求めろ。

 あの人達は、切札を持っている」

そう、AIの司が遠藤に耳打ちしたのだ。

 

遠藤はまさかと思った。切札、つまりは

ジョーカーをメルド達が持っている。

そんな事、遠藤はもちろん周囲の人間も

知らなかった事だ。だから彼は半信半疑

だった。

 

『いや、考えるな!今はとにかく走れ!』

しかし、遠藤は頭をかぶり振ると、急いで

上層を目指した。

 

メルド達は今、70層にある部屋に待機していた。

その部屋には転移の為の魔法陣があり、その

転移陣を利用することで、一気に30層まで

戻れるのだ。

 

そして、遠藤はついにメルド達と合流した。

最初は、声を掛けるまで気づいて貰えず遠藤は

別の意味で泣きたくなったが、そんな事を

言ってられる状況では無く、遠藤はすぐさま

事の次第をメルド達6人に報告した。

 

「そうか。良くここまでたどり着き、伝えて

 くれた。よくやったぞ浩介」

そう言って、笑みを浮かべ彼の肩に手を置く

メルド。

そして、彼は真剣な表情を浮かべ、通路の方を

見据えている。

 

「司からのプレゼント、どうやら使う時が

 来たようだな」

真剣な彼の言葉に、周囲の5人は一瞬驚くも、

すぐに気を引き締めた。

「ぷ、プレゼント?メルドさん、一体

 何のことで」

 

と、その時。

「浩介ッ!」

「え?」

不意に、メルドが浩介を突き飛ばした。

かと思うと、咄嗟に左腕に装備していた、

司設計の盾、エアに何かがぶつかった。

「吹き飛べっ!」

叫び、エアの持ち手部分にあるスイッチを

押すメルド。すると、シールド中央にあった

クリスタルのような衝撃波発生装置が

赤く輝き、今の攻撃を受けて吸収した

攻撃エネルギーを、衝撃波に変換して放射。

 

魔物、キメラを弾き飛ばした。

「ま、まさか……」

遠藤はあの戦いで遭遇したキメラをすぐに

思い浮かべた。

そして、それを証明するかのように、ゾロゾロ

と魔物達が部屋に侵入してくる。

 

そして、その最後に現れたのは、四つ目狼に

跨がった魔人族の女、カトレアが姿を見せ、

舌打ちをした。

「ちっ。一人だけか。逃げるなら転移陣のある

 ここに向かうと思ったんだけどね」

忌々しそうに呟くカトレア。しかし、その

視線が遠藤に向けられた。そして、カトレアは

冷たい笑みを浮かべる。

 

「まぁ良い。知ってそうな奴を捕らえて尋問

して、吐かせるだけの事」

「ひっ!?」

再び絶望的な状況に、遠藤は小さく悲鳴を

漏らした。

 

だが、そんな彼を守るように、メルド達6人が

立ち塞がる。

「浩介、下がっていろ」

「へぇ?やるかい?けど、こいつらは90層

 の魔物なんざ軽く捻るくらい強いよ?

 ここまでしかこれないアンタ達じゃ、

 相手にならないと思うけどね?」

「……確かに、『素』の私達なら敵わない

だろうが。舐めるなよ魔人族。こっちにも

切札ってもんがあるんだ。総員、抜剣

用意!」

「「「「「おぉっ!」」」」」

メルドの言葉に従い、騎士アラン達5人が

司から送られた剣、マルスの柄を握る。

 

「驕るな人間共め!行けっ!」

カトレアの叫びに呼応し、魔物達が6人に

向かって突進する。

「メルドさんっ!」

後ろで遠藤が叫んだ。その時。

 

「抜剣ッ!!!」

メルド達6人が、剣を抜いた。刹那。

『『『『『『カァァァァァァァッ!!!』』』』』』

彼等の左手首から強烈な光が放たれた。

突然離れた光に、魔物達は目を背ける。

「これって、もしかして!?」

驚き、自分も腕で顔を庇う遠藤。

 

 

そして光が止んだ時、そこには『鋼鉄の騎士』

と呼ぶに相応しい6人が並んでいた。

 

輝きを放つ銀色のボディと、その上を走る、

6人それぞれが違う赤や黒、黄色、青に

緑、橙色のライン。

更に6人の内5人は、左肩全体を純白の

肩マントで覆っている。

対して残りの一人、メルドの機体は

背中に純白のマントを纏い、そのマント

には円形のラウンドシールドの前で

Xを描くように一対の大剣が交差する

マーク、部隊章とでも言うような物が

描かれていた。

 

そして、メルドの機体、ジョーカーと

それ以外の5機の差異として、メルド機

には一本の角が頭頂部より生えていた。

 

「め、メルドさん達、なのか?」

「すまんな浩介、黙っていて。実は、

 私達も切札を受け取っていたのだよ。

 あの日にな」

前を見つめながら語るメルド。

すると、彼等の長剣マルスが、手元から

溢れ出した液状ナノメタルに覆われ、

二回りも大きい大剣、『マルス・バスター』

となった。

 

普通なら、両手で扱うサイズだが、ジョーカー

のパワーなら軽い物だ。

「さて、では皆。行くとするか。……光輝達が、

 子供達が待っている」

そう言うと、5人がマルス・バスターを

構える。突然の変化に、魔物達とカトレアが

警戒を強め、一歩後退る。

 

そんな中で、メルドはある事を考えていた。

『俺には、力が無かった。騎士団長なんぞを

 やっていても、戦争を知らない子供達を、

 光輝達を頼る事しか出来なかった。

 ……これを悔しいと言わずして何という!

 罪の無い子供達を修羅の場、戦場へと

 俺は引きずり込んだ。その罪は一生消える

 事はないだろう。だが、その思いが

 あれど、日々彼等に力で差を付けられた。

 ……本来なら、戦場に立つのは大人の

 役目だ。天地がひっくり返っても、

 子供が戦場に立つなど在ってはならない!』

メルドは、ギュッと拳を握りしめる。

 

そして……。

『司、感謝しているぞ。切札を与えて

 くれた事。こんな私にも、子供達を守る

 力を、ジョーカーを授けてくれた事!』

メルドは、大剣となったマルス・バスター

の柄を深く握り直す。

『今こそ、大人として、騎士として使命を

果たそう!』

「大人として、子供達を守るぞ!!!」

「「「「「おぉっ!!!」」」」」

 

メルドの叫びに答える騎士達。

「突撃ィィィィッ!!!」

「「「「「おぉぉぉぉぉぉっ!」」」」」」

マルス・バスターを構え突進するメルドと

それに続く騎士アラン達の5人。

その気迫に、魔物達は一瞬怯む。それが

命取りとなった。

「オォォォォォォォッ!!!」

騎士アランは、ブルタールモドキに

マルス・バスターを構えたまま突進した。

咄嗟にメイスでそれを受け止めるモドキ。

だが、次の瞬間。

 

『ズンッ!』

受け止めた、そう思った刹那。マルス・

バスターはメイスを破壊。そのままモドキ

の腹部を貫いた。

だが騎士アランは止まらず、そのまま魔物の

群れの中を一直線に突き進んだ。狙いは

魔人族の女、カトレアだ。

「ちぃっ!?」

カトレアは、狼に攻撃を避けさせる事で

回避したが、数体のブルタールモドキは

そうはいかなかった。反応に遅れ、

まるで団子が串に刺さっていくように、

次々とマルス・バスターに突き刺さっていった。

そのまま一直線に魔物群れの中を横切る

騎士アラン。

そんなアラン目がけて、キメラ数体が襲い

掛かるが……。

「見えているぞ!!」

そんなキメラに、更に騎士達が襲いかかる。

キメラは襲ってくる騎士に気づいて振り

下ろされるマルス・バスターを回避した。

 

かと思った次の瞬間、まるでバスターの刀身

から棘が高速で生えるかのように、ナノメタル

の針が伸び、キメラの体を貫いた。

キメラは、苦悶の声を漏らしながら

ナノメタルに取り込まれた。

 

その後方では、騎士二人がシールド、エアで

黒猫の触手の群れを防いでいた。

そして……。

「団長!」

「ッ!おぉっ!」

そんな中、攻撃を凌いでいた騎士の言葉を

聞き、メルド達は後ろへ飛んだ。

「ッ!?逃げる気か!?逃がすな!」

彼等が逃げると思ったのか、カトレアは

魔物達と突進させた。だが……。

 

「逃げる、だと?違うな。倒す為さ!

 貴様等をな!」

そう、メルドに逃げる気など無い。そして……。

「やれっ!」

「はいっ!喰らえっ!」

攻撃を受けていた一人が、エアのスイッチを

押した。

 

この時、カトレアは幸運だった。なぜなら

未来予測系の固有魔法を持つ四つ目狼に

跨がったままだったからだ。狼型魔物は、

未来を予測し、咄嗟に身を翻した。

「ッ!?何!?」

カトレアはその行動に驚いたが、彼女は

この狼に感謝するべきだった。

なぜなら……。

 

『『ドンッ!!!!!!!』』

次の瞬間、エアから強烈な衝撃波が放たれ、

その衝撃波は魔物達の内蔵を破裂させた。

そして、カトレアはその魔物達と同じような

末路を辿らずに済んだのだから。

 

「ちっ!?どうなってるんだこれは!?」

カトレアは驚き、戸惑いながらも下層へ向かって

狼型魔物を走らせた。

「だが、まだだ。奴らはここには居ない。

 残っている手持ちを全て使って、勇者を

 潰す……!」

カトレアは現状に歯がみしつつも、光輝達を

探すために戻っていった。

 

 

一方、カトレアの逃げた転移陣の部屋では、

死屍累々だった。魔物たちは、エアから

放たれた衝撃波で内蔵をやられ、口や目、

鼻、耳など、あちこちから血を流しつつ

死んでいた。

「……逃げたか」

死体の中にカトレアが無い事を確認すると、

メルドはそう呟いた。

「メルドさん」

そんなメルドに遠藤が声を掛けた。

「浩介、大丈夫だったか?」

「は、はい。大丈夫ですけど……」

改めて、遠藤はメルド達をマジマジと

見つめる。

 

「メルドさん、それって……」

「あぁ。……司達が王国を去った日、私が

 自室に戻ると机の上に置かれていたのさ。

 この、ジョーカータイプKがな」

「タイプ、K?」

 

タイプK。これが、司がメルド達にプレゼント

として送ったジョーカーだった。タイプKの

Kは、Knightの頭文字をもじった物だ。

この6機は、最初からメルド達の使用を

想定して開発していた物だ。

司のタイプZやハジメの0と違い、騎士らしさ

を出す為の装飾などを施しつつも剣を

扱う事から出力と防御性能を強化した、

接近戦用のジョーカーだ。

 

「まぁ詳しい話は後だ。今は光輝達だ」

「ッ!そうだった!」

現状を思い出し、慌て出す遠藤。

「落ち着け浩介。……光輝達の救出には

 俺達が行く」

「え?め、メルドさん達が?」

「あぁ。……もし、私達にジョーカーが

 無ければ、お前達に何もしてやれなかった

 かもしれん。だが、お前達の級友が

 私達に力を与えてくれた。そして、

 ジョーカーを受け取った時、添えられていた

 手紙には、こう書かれていた。

 『クラスメイト達を頼む』、とな」

「ッ、新生、あいつ……」

「浩介。お前は今から地上に戻り、30層の

 騎士達やギルドにこの事を報告してくれ。

 俺達はこれから、光輝達の救出に向かう」

「……分かりました」

 

遠藤は、本当なら自分もメルド達に付いて

行きたかった。しかし、与えられた使命、

現状と魔物の情報を伝えると言う使命が

ある以上、それを投げ出す事は出来ない。

 

「心配するな」

すると、遠藤の心の内を察したのか、メルドが

彼の肩に優しく手を置いた。

「私達が、必ず光輝達を助け出す。

 ……信じてくれ」

そう言って、優しさ溢れる声色で語りかける

メルド。

「ッ。分かり、ました。皆のこと、

 宜しく、お願いします」

遠藤は、震える声でそう言うと、転移陣で

30層へと向かった。

 

それを見送ったメルド達は、通路の先の闇

へと目を向ける。

 

「行くぞ。この先で、子供達が待っている。

 大人として、彼等を助けに行くぞ!」

「「「「「おぉっ!」」」」」

大人として、騎士として。メルド達は

闇の奥底へと向かう。……そこで待つ、

子供達を助ける為に。

 

 

     第42話 END

 




次回は司たちの話になると思います(断言は出来ませんが)。

感想や評価、お待ちしています。

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