ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

49 / 87
今回は、VSカトレア戦の終盤までです。


第43話 合流

~~~前回のあらすじ~~~

オルクス大迷宮90層にて、魔人族の女、カトレア

が率いる魔物の襲撃を受けた勇者一行は、雫の

相棒であるAIの司の機転による難を逃れる。

撤退を主張するAI司と、残って戦う事を

主張する光輝がぶつかるが、皆はAI司の

撤退作戦を支持する事に。

一方、情報を伝えるために70層まで戻った

遠藤はメルド達と合流。カトレアの襲撃を

受けるも、司よりジョーカーを受け取っていた

メルド達はこれを撃退。遠藤は地上へこの事

を知らせる為。メルド達は光輝達の救出の

為に動き出したのだった。

 

 

光輝達が大迷宮の地下に居る頃。

 

「イィヤッホォォォォ!ですぅっ!」

ホルアドへと向かう道の上を、バジリスクが

走っていて、その上を、シアが乗るホバー

バイクが飛んでいる。

「……シアちゃん、ノリノリだねぇ」

バジリスクのハッチから身を乗り出し、空を

飛ぶシアを見上げながら呟くハジメ。

「で、ノリノリと言えば……」

更に視線を巡らせるハジメ。

 

そこには……。

「ふぁぁぁっ!せらちゃん速い~!」

胴体のポッド内部にミュウを収め、足裏の

ローラーと背中のブースターを使って

バジリスクと並走するセラフィムの姿が

あった。

 

ちなみに、ポッドの内部は全天周モニターと

なっており、ミュウは周囲の光景を、一切の

負荷など無く見る事が出来た。

そして肝心のミュウは、馬車など比較にも

ならない速度で駆け抜けるセラフィムに

ご満悦の様子だ。

 

 

「もうすぐホルアドか~」

私が運転している側で呟く香織。

「む?香織殿たちはホルアドに行った事が

 あるのかえ?」

「行った、と言うか。私達が異世界から

 召喚されたのは前に話しましたよね?

 実は訓練の一環として、ホルアドにある

 大迷宮に何度か潜った事があるんです」

「成程。それで……」

「ルフェアちゃんを連れて王国を離れた

 直後に大迷宮に潜って、真の大迷宮を

 攻略したりして。……ホルアドに

 来るのは、もうかれこれ4ヶ月ぶり、

 くらいになるのかなぁ」

「成程のぉ。……しかし、ただの使いっ走りに

 妾達を使うかのぉ?」

そう言って、ティオは3個シートの真ん中に

あるジュラルミンケースに目を向ける。

あんなケースに入っているが、中身は手紙だ。

 

「別に構わんよ。元々、香織は雫達と会って

おきたかったようだし。急ぐ旅でも

無いからな。ミュウを連れていくのは

少々心配だが、まぁセラフィムがいれば

安心だろう」

「成程のぉ。……所でマスター?仮の話

 じゃが、ミュウに何かあったら……」

「手を出した奴を地の果てまで追いかけて

 行ってぶっ殺す」

即答だ。ミュウに手を出す、だと?

……万死に値する罪だ。

私は、真顔でそう答えた。すると……。

「司って、意外と子供に弱いね」

「「「「うんうん」」」」

ハジメの言葉に香織、ルフェア、ユエ、ティオ

が頷いている。

「妾はマスターがミュウと別れられるか

 少々心配じゃな」

「確かに。でもやっぱり、ミュウちゃん

 可愛いから」

ティオの言葉に頷くルフェア。

「ま、まぁ。確かに姫の言うとおりミュウの

 愛らしさはもはや天使級じゃからのぉ。

 ……あの子が美味しそうに菓子を食べる

 姿を見るのは、正しく眼福じゃのぉ」

「ん。と言うか、もう女神級の可愛さ。

 ……ミュウ、可愛すぐる」

「「「うんうん」」」

ユエの言葉に頷く香織たち女性陣。

 

なにげに皆ミュウの可愛さにメロメロだ。

……かく言う私も、なのだろうか。

そう考えていた時。

『ピーッ!ピーッ!』

バジリスクの無線に通信が届いた。相手は

上空のシアだ。

≪司さん司さん!大変ですぅ!≫

「シア。どうしましたか?」

≪バジリスクですぅ!司さん達のとは

 別に、バジリスクが走ってるのが

 見えますぅ!≫

私達とは別のバジリスク、だと?

 

私はバジリスク搭載のレーダーの索敵範囲を

広げた。するとすぐに私達の地点から見て

北東、2時の方角を私達と同程度の速度で

移動する物体をレーダーが捉えた。

しかし、IFF、敵味方識別装置に反応があった。

その反応からして……。

 

「これは……。シア。そのバジリスクに接近

 して下さい。恐らく、それに乗っているのは

 愛子先生や幸利たちです」

≪え!?わ、分かりましたですぅ!≫

上空を飛んでいたシアのホバーバイクが

もう一台のバジリスクの方へと向かっていく。

 

「司、今愛子先生とか言ってたけど、先生達が

 すぐそこまで来てるの?」

「えぇ。敵味方識別装置に反応がありました。

 反応は7つ。不明が1。この1とは恐らく

 愛子先生であり、反応したのは幸利たちに

 与えたジョーカーです。……しかし、

 なぜ彼等がホルアドに。戻るのなら直接

 王都の向かうと思うのですが……」

私はハジメの言葉に応えながら考えていた。

 

 

一方、その頃清水達はと言うと……。

「先生、もうすぐホルアドに着きますよ」

「は、はい」

運転していた清水の言葉に、緊張している

面持ちで頷く愛子。

「天之河君たち、居ないと良いね」

「あぁ」

園部の言葉に頷く仁村。

 

居ない方が良い、と言うのは、襲撃を

受けている可能性を考えてのことだ。

現在まで、光輝達が主に活動しているのは

王都とその郊外。後はホルアドとその側の

オルクス大迷宮だけだ。

そして、その中で一番奇襲に向いているのは、

暗く、閉鎖空間である大迷宮に他ならない。

彼等としては、光輝達がホルアドに居ない事

の方がむしろ良かったのだが……。

 

その時。

「ん?レーダーに反応が。……IFFに反応

 あり。味方の識別コードが出てるな」

「どったの清水?」

運転していた清水がレーダーに映る反応に

気づいた。そんな清水に声を掛ける相川。

「悪い、誰か外確認してくれ。左方向、

 9時の方向から何か近づいてくる」

「OK任せろ」

そう言うと、玉井がハッチを開けて身を

乗り出した。

 

そして……。

「あっ!あれか!」

玉井は備え付けられていた双眼鏡で

飛行物体を確認するが……。

「ってぇ!あれシアさんだよ!」

「え!?シアちゃん!?」

玉井の双眼鏡に映ったのは、メットを

外しブンブンと両手を振っているシア

だった。

彼の報告に驚く菅原。

彼女もハッチから身を乗り出し、シアの

方に手を振る。

 

 

「あっ!気づいてくれた!司さん!

 愛子さん達が気づいてくれました!」

≪分かりました。こちらから通信を繋げます≫

 

 

どうやら向こうがこっちに気づいてくれた

ようなので、私は幸利たちのバジリスクに

通信を繋げた。

 

「こちら新生、新生司。愛子先生、幸利。

 聞こえているか?どうぞ」

≪あっ、えっと。先生です。新生君ですね?≫

通信機から先生の声が聞こえてきた。

≪今こっちに向かって飛んでいるシアさんを 

 確認したんですけど、新生君達は今どこに?≫

「先生達から見て西、8時の方角を殆ど

 並走するように走っています。先生達は

 ホルアドへ?」

≪はい。少し気になる事があって。新生君達

 はどうして?≫

「私達はフューレンのギルド支部長からの依頼

 でホルアドのギルドに用があるのですが。

 良ければ合流しますか?」

≪そうですね。……実は、新生君の意見も

 聞いておきたいんです≫

「私の?分かりました。では、ホルアドで

 合流しましょう。それでは、後で」

≪はい。あとで≫

 

そう言って私達は通信を切った。

「先生達、気になる事があるって言ってたね」

「うん。それに司くんの意見も聞きたいって」

そう呟くハジメと香織。

「何かあったのじゃろうか?」

「ん。私も気になる」

首をかしげるティオと頷くユエ。

「ともかく、彼等と合流しましょう」

 

その後、私達は外に居たミュウとシアを

バジリスクに乗せ、ホルアドへと向かった。

そして幸利たちとは、町の出入り口近くの

広場で合流した。

 

そこで幸利達から話を聞いた。

「成程。……確かに先生の暗殺が失敗した時点

 で、魔人族が次の手を打つ可能性は高い。

 それで天之河たちへの警告の為に?」

「あぁ。正直、居ない方が助かる。彼奴らが

 行く先で最も奇襲に適しているのは

 大迷宮だからな」

「暗く、奥へ行けば行くほど強い魔物が待ち

構えている大迷宮。階層の移動にも

階段が一つだけだし、確かに待ち伏せには

最適かもね。そして、多少のリスクを

犯してでも天之河君を狙う理由は、

そのチートスペックを危惧しての事」

「あぁ。南雲の言うとおり、俺としても

 魔人族側にはリスク覚悟の上でも、天之河

 を狙う理由はあると思う。こういうのは

 あれだが、多少の犠牲を覚悟の上で敵の

 最大戦力を削るのは、戦術として

 戦争漫画とかでよくあったからな。もしかして

 って思ったんだ」

「勇者である天之河君を倒せれば、人族に

 与える心理的ダメージも大きいし、

 チート級スペックの彼一人倒せるのなら、

 魔人族が多少の無茶をしてもおかしくない、か」

「それだけじゃねぇ。天之河が倒れたら、

 それこそ魔人族側にとって最高の

 プロパガンダになる。あっちの士気高揚

 にこれ以上の材料なんて無いだろ?」

「確かに。……敵の最大戦力が潰れて

 味方の士気は急上昇。敵の士気は

 急降下。言っちゃなんだけど、魔人族側

 には万々歳の状況だね。そして、

だからこそ……」

「魔人族が天之河たちを狙ってる可能性が

 ある。幸利はそう考えたのですね?」

「あぁ。だからその事を警告しようと

 俺達はホルアドに来たんだ」

私、ハジメ、幸利の3人で話し合いをしていた。

 

どうやら清水にタイプコマンドを与えたのは

間違っていなかったようだ。そして、更に

言えば、ハジメと幸利の二人はオタクであり、

ラノベを読み込んでいる。そして当然中には

戦争を扱った物もあるだろう。だから、とは

言い切れないが、戦争や戦闘における定石を

良く理解している。

ある意味、戦争を分かっている。

 

戦争とは、極論を言えば利益追求だ。

そして、勝利という利益の為に誰もが策を

巡らせる。そして更に、戦争とは策の

読み合い。どれだけ相手の裏をかけるか

が勝敗を決する。と言っても過言では

無いだろう。

 

そう言う意味では、ハジメと幸利は、

指揮官として十分に素質があると

言えるな。

二人とも、ある意味(この場で私を

除けば)一番『戦術眼』を持っていると言える。

そして、敵について考えを巡らせ策を

考えるのは、指揮官に必要不可欠な

スキルだ。

 

ハジメはウル防衛戦でも、防壁の上で

指揮官としての才能の片鱗を見せた。

幸利も敵について考えを巡らせる姿勢は、

指揮官向きだ。

 

全く、頼もしい物だ。

私は内心そう考えていたが、今は考えている

時ではない。私はすぐにAIの私の位置情報

を確認した。だが……。

 

「……ハジメ、幸利。……どうやら状況は

 悪い方に推移しているようです」

「え?」

「なっ。どういうことだ新生。説明

 してくれ」

首をかしげるハジメと問いかける幸利。

更に周囲に先生やシア達が集まる。

 

「雫のタイプCの位置情報を確認したが、

 発信源は……。オルクス大迷宮89層目だ」

「ッ!?クソッ!?一番ヤバいパターン

じゃねぇか!」

驚き、吐き捨てる幸利。

「まさか、今天之河君達は戦ってるの!?」

「いえ。流石にそこまでの情報は……。

 ただ、これは少々気になりますね」

 

「どうするの?司」

「……行くべきでしょう。念のために」

私の言葉を聞くと、ハジメ達や幸利たちが

真剣な表情で私を見ている。

「行って無事でした、なら単なる労力の

 無駄遣いで済みます。ですが、そうで

 無ければ後悔をすることになります。

 だからこそ、後悔しないために、

 行くべきでしょう」

そして、彼等は静かに頷いた。

 

「先生」

そんな中、清水は愛子先生の方に振り返る。

「俺達は行くよ。彼奴らを助けに。

 だから、先生は信じて待っててくれ。

 必ず、彼奴らを連れて戻ってくるから」

「……はい。信じます。清水君たちの

 力を」

毅然とした態度で頷き、幸利達7人の顔を

しっかりと見ていく愛子先生。

 

では……。

「ティオ」

「はっ」

「私とハジメ達は、クラスメイト救出の為

 大迷宮へと潜る。その間、愛子先生と

 ミュウの事は任せる。セラフィムと

 共に、二人を守れ」

「仰せのままに。マイマスター」

ティオは甲斐甲斐しく右手を左胸に当てる。

 

「パパ、どこか行くの?」

すると、ミュウが私のズボンを掴んで

私を見上げている。

私はその場に膝を突き、ミュウと視線の高さを

合わせる。

 

「すまないミュウ。私は、行かなければ

 ならない場所が出来たんだ」

そう言うが、ミュウはどこか心配そうだ。

「大丈夫だミュウ。すぐに戻ってくる。

 それまで、ティオやセラフィムと

 大人しく待っていてくれ」

「ちゃんと、パパ戻ってくる?」

「あぁ、もちろんだ」

「じゃあ、ミュウ待ってる。だから、絶対、

 帰って来てね?」

「あぁ、約束だ」

それだけ言うと、私は立ち上がり、ハジメ達

の方に視線を向けた。視線が合い、彼等は

力強く頷く。

 

「では……。行くぞ。オルクス大迷宮。

 その深淵に」

 

こうして、私、ハジメ、香織、ユエ、シア、

ルフェア、幸利、優花、妙子、奈々、昇、

明人、淳史の合計13人は、雫たちと合流

するために動き出した。

 

その道中。

「……って言うか、お前いつのまに一児の父

 になってた訳?」

移動中に淳史が聞いてきた。他の連中も

聞きたそうな表情をしている。

「フューレンで色々あったのだ。まぁ、これが

 無事解決したら話す。だから、死ぬなよ?」

「そうだな。結構気になる話だし、聞かずには

 死ねねえなぁ。なぁ明人?」

「おうっ!そんな面白そうな話、聞けずに

 死んだら、気になって成仏出来ねぇっての!」

と、おちゃらける淳史と明人。

「全く。……まぁ良い。無事帰って来たら

 説明してやる。だから死ぬな。それと、

 これだけは言っておく」

 

私は、後ろに続く7人の目を見る。皆、

決意の炎を瞳の中で揺らしている。

「全員、いい目をするようになった。今の

 お前達なら、大抵の敵を前にしても、

 生き残れるだろう。だから、自分と自分の

 ジョーカー、そして隣に居る仲間を

 信じて戦え。そうすれば、大抵の事は

 どうにかなる」

「へへっ。そうかよ。……まさか新生から

 そんな言葉を貰う日が来るとはな!」

昇はどこか嬉しそうに笑みを浮かべている。

「ち、ちょっとハズいけどね」

そう言って顔を赤くしている妙子。

 

そして、私達はオルクス大迷宮に向かって

いた。と、その時。

 

ふと、前方から来る人影に私は見覚えが

あった。

「あれは……。遠藤?」

全身を黒装束で覆い尽くした、暗殺者の天職を

持つクラスメイトの一人。その遠藤が、

ボロボロな格好でこっちへと向かって

来ていた。

「え?あっ!本当だ!」

その時、香織も彼に気づいたようだ。

「ってか遠藤ボロボロじゃね!?」

彼の様子に驚く昇。

「くっ。まさか……」

静かに歯がみをする幸利。……どうやら、

状況は最悪なようだ。

 

「お~~い!遠藤君!遠藤君~!」

彼に気づいたハジメが叫び、ブンブンと手を振る。

すると遠藤も気づいた様子で私達と視線が

あった。

かと思うと、こちらに向かって来た。

「な、南雲!白崎さん!それに、相川達に

 園部さん達まで!ど、どうしてここに!?」

「そ、それは……」

「悪いが詳しい話はあとだ」

説明しようとするハジメを幸利が遮った。

 

「遠藤、何があった?簡潔に話してくれ」

「あ、あぁ。分かった」

遠藤は、すっかり様変わりした清水に戸惑い

ながらも事の次第を話した。

 

「それで、メルドさん達は皆を助けるために

 下りていったんだ。俺は30層の騎士団の

人達と合流して外に退避して。騎士団は

今入り口で警戒に当ってる。俺はギルドに

この事を報告して来いって言われて」

「魔人族の襲撃か。クソッ。一番悪い予想

 が当ったって事か」

遠藤の話を聞き、吐き捨てるように呟く

幸利。

 

「ともかく、今は大迷宮に向かうぞ。

 遠藤、お前も来い。私達はこれから

 彼等の救出に向かう」

「え?!本当に?!」

「あぁ。来い。歩きながら話そう」

 

そして、私達は遠藤を加えて大迷宮に

向かう。

その道中に、幸利達がここへ来た理由を

説明した。

 

「実は、俺等もウルの町で魔人族と戦った

 つ~か、色々あってな。もしかしたら

 お前等も狙われてるんじゃねかと思って、

 警告と安否確認の為にここに来たんだ。 

 まぁ、実際には今襲われてるみたい

 だけどな」

「私達は別件でホルアドに向かっていた

 のですが、道中幸利たちと合流したので

 今は行動を共にしています」

「そ、そうだったのか。……そういや、

 新生はメルドさん達にもジョーカーを

 渡していたのか?」

「えぇ。……あなた方はまだ、実戦の空気

 を殆ど知らない頃でしたから。あなた方を

 守る為にはあって困る物でも無いし、 

 万が一の時の、逆転の為の切札として

 メルド団長にジョーカーを送っておいたの

 ですが、どうやら正解だったようですね」

「……皆、大丈夫かな?」

不安そうに呟く遠藤。

 

「心配するな。その万が一の状況に対応する

 ためにメルド団長達にジョーカーを渡して

 おいたのだ。あの人達なら、必ず雫たちの

 元にたどり着いて彼等を守ってくれる」

「……。新生は、こうなる事が分かってて

 メルドさん達にジョーカーを渡したのか?」

遠藤の問いかけに私は答えた。

「確証があった訳じゃない。だが、万が一に

 備えて策を弄するのは、指揮官として

 当然の行動だ」

リーダー、指揮官に求められるのは、己と

仲間を知り、敵の策を見抜き、それに対処

するスキルも求められる。まぁ、私が

彼等の指揮官とは認められないだろうから、

こっそりと動いた訳だが……。

 

「勇者という立場は、プロパガンダに最適だ。

故に、狙われる可能性は周りより高いと

踏んでいた。

そして、その周囲に居るメンバーが巻き

込まれる事もな。メルドさん達のジョーカー

は、そんな万が一に備える保険だった。

そして、その保険が今行使されている、

 と言う事だ。まぁ、お前達の指揮官を

 している訳ではないが、お前達が死ぬと

 香織やハジメが悲しむ。……だから、

 念のために保険を掛けておいた」

「……」

 

 

遠藤は、前を歩く司の横顔に目を向ける。

 

そして、彼は理解する。

『指揮官の器』という物が、どう言う物

なのかを。

 

 

一方その頃、AI司に雫、光輝達はあの

隠し部屋で休息を取っていた。

やがて、皆の体力が戻った頃。

 

「ん?」

壁際に座っていたハードガーディアン(司)が

天井に目を向けた。

「司?どうしたの?」

それを、側に居て気づいた雫が声を掛けた。

「……来たか」

AI司は、静かに呟くと立ち上がって部屋の

中央に進んだ。それに気づいて、永山達

が彼に視線を向ける。

 

「全員聞け。今、ここから数階離れた

 階層にメルドの旦那たちが来てる。

 俺達もここを引き払い、旦那たちと

 合流する」

「め、メルドさん達が!?」

驚き声を上げる光輝。

「どうしてメルドさん達が!?メルドさん

 達の力じゃ、ここまで降りては!」

「あぁ。……『ジョーカーが無けりゃ』、な」

「え?」

AI司の言葉に呆けた声を出す光輝。

 

「オリジナルの俺が王国を去るとき、旦那たち

 にジョーカーをプレゼントしといたのさ。

 万が一、お前達では対処しきれない状況が

 発生した時、お前達を助ける為にな。

 要は保険だ。で、今その保険が生きてる

 って訳だ」

「あんた、じゃないけど、ホント新生君。

 オリジナルのアンタは用意周到と言うか、

心配性というか」

「策を弄して、無駄に終わったのなら

 それで良いさ。無駄になっただけだ。

 だが、策を弄さず誰かが死んだなら、

 そいつは死ぬほど後悔する。策ってのは

 な、無駄足で終わった方が良いんだよ。 

 そして、指揮官ならばちょっと心配性

 なくらいがちょうど良いのさ。指揮官が

 間違ったら、仲間まで死なせかねない

 からな」

そう言って、チラリと光輝を一瞥する

AIの司。光輝は、ばつが悪そうに視線を

逸らした。

 

「さて、そういうわけだ。全員移動の

 用意を……」

と、言いかけたハードガーディアン(司)の

レーダーに高速で真っ直ぐこちらに

向かってくる集団が映った。

それを知覚した瞬間。

 

「総員戦闘態勢!敵集団が接近中!」

「えっ!?」

AI司の言葉に驚く鈴。

「ぼやぼやするな!魔物の集団が真っ直ぐ

 こっちに向かってくる!キビキビ動け!

 ハードガーディアン及びガーディアン 

部隊展開!」

AI司の指示に従い、ハードガーディアンが

隠蔽されている入り口の壁の前で半円状に

展開しガトリング砲を構える。

 

「前衛組はハードガーディアン後方に展開!

 後衛組はガーディアンの後ろだ!

 急げ!」

AI司の言葉に従い、慌てて動くメンバー達。

「な、何でこっちに来るんだよ!?」

「さぁな。だが、あんだけ魔物を連れてんだ。

 索敵用の魔物を連れてても不思議じゃ

 ねぇだろ」

近藤が悲鳴にも似た声で叫び、それにAI司

が答える。

 

そして、レーダーに映る光点がすぐそこまで

近づいた次の瞬間。

『ドゴォォォォォンッ!』

壁を突き破って魔物が侵入してきた。

「ってぇっ!」

その瞬間に叫ぶAI司。

『『『『『バババババババッ!!!』』』』』

そして一拍遅れてハードガーディアン達が

バルカン砲を撃ちまくる。

 

だが、体の小ささを生かした黒猫の魔物たちが

攻撃を掻い潜って触手を放つ。

狙いの大半はハードガーディアンだ。

だが……。

「雫!先に言っとく!しばらく支援出来ねぇぞ!」

「分かってる!やって!」

雫が叫んだ次の瞬間、ハードガーディアン(司)は

両手に保持したノルンで次々と黒猫魔物の

触手を撃ち抜いていく。

 

ノルンのAP弾ではこれらの魔物は、目や口など

比較的装甲の無い、或いは極端に薄い場所を

狙わなければ効果が無い。だが、触手の破壊は

出来る。そしてハードガーディアンの破壊は

ラインの崩壊を意味する。だからこそ、

ハードガーディアン(司)は援護に全ての

処理能力を割いたのだ。

 

だが、2丁のノルンでは限界がある。半数の

触手は光輝達に向かって言った。

「迎撃しろ!」

咄嗟に叫ぶ光輝。魔法が飛び触手を撃ち落とす

が、全てとはいかなかった。いくつかの

触手が彼等に向かう。

 

「『天絶』!」

咄嗟に防御系の魔法でシールドを幾重にも展開

する鈴。しかし、触手は数に物言わせて

防御を突破し、逸らすのが限界だった。そして、

破壊された隙を突いて更に触手が彼女に

向かっていく。

「ッ!」

間に合わない。鈴がそう考えた時。

 

『ザッ!』

『ドドドッ!』

側に居たガーディアンが鈴と触手の間に

割って入り、その体で触手を受け止めた。

「が、ガーディアンさん!!」

それを見て咄嗟に叫ぶ鈴。ガーディアンは

自分に突き刺さった触手をガッチリと

掴み、更に体内のバッテリーをオーバーロード

させて、触手黒猫、その数体を感電死させた。

 

そして、触手が抜けたガーディアンはその場に

ガシャリと崩れ落ちる。一瞬、その姿に

目を奪われる鈴。だが……。

「うわぁぁぁっ!『天絶』!『天絶』ゥ!」

次の瞬間、怒りにも似た咆哮を上げ、何十と

シールドを展開する。

 

「皆頑張って!もうすぐ助けが来る!」

雫は、周囲のメンバーを鼓舞しながら触手を

迎撃していた。

そんな雫に触手が迫る。

「雫!危ないっ!」

それに気づいた光輝が叫び、雫も触手に

気づいた。雫のタイプCは機動性を上げている

ため、他の機体より若干装甲が薄い。

十分に速度が出た触手なら、貫通も

ありえる。

 

あり得るが……。

『パパンッ!』

ハードガーディアン(司)のAP弾が

触手を撃ち落とす。

「ありがとう司!」

咄嗟に礼を言う雫。だが司は答えない。

会話する機能すら、迎撃のための処理速度

を優先した結果カットしているからだ。

 

一心不乱。そんな言葉が似合いそうな速度

でノルンを撃ちまくるハードガーディアン(司)

の背中が、雫にはとても大きく見えた。

 

『そうだ。私は、生きて帰るんだから!』

「やぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

そして、一心不乱に戦う彼の姿に触発

されるように、雫も青龍を振り、触手を

切り裂いていく。

 

 

「えぇい!ガキ共相手に何をやってるんだ!」

そして、外の部屋ではカトレアが現状に

歯がみしていた。

カトレア、いや、魔人族最大の誤算は

メルド達が現状、光輝達以上の戦闘力を

持っている事実を知らなかった事だ。

 

そして、メルド達のジョーカー保持の事を

知らなかった理由は、司がメルド達にここぞ

という時までジョーカーを使わない用に

言及していた事だ。

文字通り、一発逆転の『切札』として。

そして、光輝達も知らない情報を敵サイドの

魔人族が知り得るはずも無い。

 

カトレアが歯がみしていた理由はそこだ。

魔人族は勇者である光輝と、神の使徒である

雫達が人族側の最大戦力だと思って居た。

だからこれだけ兵力を投入した。

しかし、雫や光輝を最大戦力だと見誤った

時点で、既に司の作戦に嵌められていたのだ。

 

この場において戦場に立っていた経験

や今の装備を諸々含めると、一番強いのは

メルド以下、タイプKに身を包んだ6人の

騎士達だ。敵の攻撃を受け止め反射する

シールド、エアと。ナノメタルによる浸食

と言う攻撃が可能なマルス・バスターは、

魔法を吸収する亀型では対応出来ないし、

小さなかすり傷でも瞬く間にナノメタルに

取り込まれ、死ぬ。

ナノメタルに取り込まれたが最後、回復は

意味を成さない。

 

司はメルド達を、光輝達を守る保険だと

していた。だが同時に、光輝達を隠れ蓑

にする事で彼等よりも強い存在を魔人族

から隠し通した。……ジョーカーを持った

メルド達という存在を。

 

司は、切札を2枚用意していたのだ。

一つは、雫の持つタイプC。

もう一つは、メルド達というジョーカーを

装備した、正真正銘の兵士。

 

雫達は確かに強い。そして勇者や神の使徒

と言う立ち位置が、彼等の注目度に拍車を

かけた。案の定、魔人族は雫達を最大戦力と

捉え、その討伐を考えた。それが人族の、

たった一枚の切札と『誤認』してしまった。

この時点で、司のもくろみは成功している。

結果、見事にメルド達の存在を隠し通し、

人類側の切札は雫達、つまり『一枚だけ』

と勘違いさせた。メルド達は雫達を守る

ための保険であると同時に、逆に雫達は

メルド達を隠す『隠れ蓑』の役割を

果たしていたのだ。

 

そして、カトレアはそこまで気づいたのだ。

 

『恐ろしい奴だよホント。あの勇者君達は、

 囮だ。本命だと思ってた奴らは、囮

 だったんだ。囮につられてやってきた

 敵を、囮だけで敵を倒せればそれでよし。

囮が倒せなくても、そのすぐ側に居る

 本命が倒す。囮を本命と勘違いして戦力を

計算し投入しても、もっと強い本命が

敵を叩き潰す。……敵の戦力を削ぐため

 のトラップ。あたしらが罠にはめた

つもりが、はめられたのか!クソッ!』

 

カトレアは、会った事も無い司の策略に

背筋が凍る思いだった。

『見透かされていると言うのか。

 こちらの動きが。だとしたら、

 あたしらはあんな勇者なんかよりも、

 恐ろしい化け物を相手にしているのかも

 しれないねぇ』

 

と、その時。

「おぉぉぉぉぉぉっ!」

カトレアの後方から雄叫びが聞こえてきた。

慌てて振り返るカトレア。見れば、通路の奥

からジョーカーを纏ったメルド達6人が

立ち塞がる魔物を一刀両断しながら

こちらへ爆走している。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

裂帛の気合いと共に振り下ろされたメルド

のマルス・バスターがキメラの頭をかち割り。

「おぉぉぉぉっ!!」

騎士アランの突きがブルタールモドキの

腹を貫く。

 

魔物が襲いかかってもエアで攻撃を逸らされ、

次の瞬間マルス・バスターに切り捨てられる。

騎士として研鑽によって得られた力が、

ジョーカーという切札によって支えられ、

彼等の戦闘力を底上げする。

 

騎士として磨き上げた剣術が、戦い方が、

ジョーカーに支えられ、彼等を『無双の騎士』

へと昇華させる。

 

強化された胆力が、魔物を防御の上から

たたっ切り、へし折り、吹き飛ばす。

ジョーカーからのサポートが、彼等を

支える。

正しく『人馬一体』。

ジョーカーという馬を乗りこなす彼等は、

この場において最強と呼んでも過言では

無いだろう。

 

メルド達は、魔物を蹴散らし進む。

「うぉぉぉぉぉ!皆ぁぁぁぁっ!

 助けに来たぞぉぉぉぉっ!!!」

ブルタールモドキを、唐竹割りの如く脳天から

一刀両断しながら叫ぶメルド。

 

そしてその咆哮の如き声は、防衛戦を維持

していた雫達にの耳にも聞こえた。

「ッ!メルドさんだ!」

喜びから、マスクの下で笑みを浮かべる雫。

他の皆も、メルドとの合流に安堵しつつある。

 

そして、メルド達の攻撃で雫達への攻撃が

弱まりつつある。

それを確認したAIの司が……。

「お前等!こっからは攻守交代だ!

 攻めるぞ!旦那たちと挟撃だ!

 ここが正念場だ!ここを乗り切りゃ、

 生きて帰れるぞ!」

「「おぉっ!」」

彼の声に、永山と野村が勢いの良い返事を

返す。

 

「っしゃぁ!行くぜぇぇ!」

ハードガーディアン達が前進し、入り口付近の

魔物を討伐し、出口を確保する。更に

ガーディアン達が協力し、出口周囲のラインを

形成した。

 

「光輝!龍太郎!行くわよ!」

「おぉっ!」

「あぁっ!」

そして、出来た出口から飛び出した雫、

龍太郎、光輝の3人が魔物を倒していく。

更に、こちらが優勢とあってか、光輝や龍太郎、

更には檜山たちまでも動きにキレが戻り

始めた。

 

 

「くっ!?奴らまで!?」

メルド達の到着と、息を吹き返した光輝達。

これによって、光輝達を追い詰めていた

はずのカトレアは、いつの間にか前後を

挟まれる結果となった。

 

追う者から追われる者へ。

有利から不利へ。

正しく、形勢逆転だ。

 

だが……。

「ちっ!?まだだ!アハトド!イシェール!」

魔物の名を叫ぶカトレア。

すると……。

「「ルゥオォォォォォォッ!!!」」

 

メルド達と光輝達の前に、1匹ずつ大きな

魔物が立ち塞がった。

 

角が生えた馬の頭に筋骨隆々の上半身に

極太の4本腕にゴリラの下半身。どう見ても

これまでのよりも別格と呼べる魔物だ。

 

メルド達の前には、一本角のアハトドが。

光輝達の前には、V字を描くような二本角の

イシェールが、それぞれ立ち塞がった。

 

「ふふふ。切札ってのは、取っておくもん

 だろう?」

そう言って、僅かに笑みを浮かべるカトレア。

「言っておくが、こいつらは今までのとは

 別格だよ」

「「ルゥオォォォォォッ!!!」」

 

雄叫びを上げ、口から蒸気を噴出させる

馬頭の魔物、アハトドとイシェール。この2体

は、言わば対勇者、対タイプC用に用意した

魔物だ。キメラや黒猫、ブルタールモドキで

疲弊した所を、この二体に光輝と雫を倒させる。

それがカトレアの手だった。

 

「こうなったら、一人でも多く道連れに

 してやるよ!」

叫ぶカトレアの周囲で展開される魔物。

光輝やメルド達が優勢と言っても、勝利した

訳では無い。

改めてその状況を理解し、場の空気が

張り詰めていく。

 

だが……。

「ん~。悪いがそりゃ、無理そうだぜ?」

「は?」

ハードガーディアン(司)の言葉に呆けた声を

出すカトレア。

「何を言ってるのよ。こいつらの力は、

 これまでの魔物とは別格で!」

「だ~か~ら~。その別格ってのをゴミ

 みたいに片付ける強ぇ奴がすぐそこに

 来てるんだよ。っつか」

 

そう言いかけた瞬間、光輝達の前と、メルド達

の前に、それぞれ空間の歪み、司の空間ゲート

が現れた。そして……。

 

「もう来た」

 

AIの司がそう言った瞬間、ゲートを超えて

人影が現れた。

 

光輝達の前には、司、ハジメ、香織、ユエ、

シア、ルフェアの6人が。

メルド達の前には、清水を始めとした7人が。

それぞれ武器を持った姿で現れた。

 

そして、そんな中で……。

 

「形勢逆転だな。魔人族」

 

司は一人、仁王立ちの姿勢でカトレアを

真っ直ぐ睨み付けた。

 

プレッシャーを放つ司と、それを受ける

カトレア。

そんな中で、彼女は密かに願った。

「これが夢であって欲しい」、と。

 

 

     第43話 END

 

 




次回でカトレア戦は決着が付くと思います。

感想や評価、お待ちしています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。