ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回は雫がメインのライダー回になってます。


IF・ライダー編 第5話

司たちが王国を離反してからの、王国での

出来事だった。

 

裁判とは名ばかりの行為に、怒りを爆発

させたハジメ達はルフェアを連れて王国を

離反。そしてその去り際、司は残される

クラスメイト達の中でも一番の信頼出来る

人物である雫に、仮面ライダーの力を

託していたのだった。

 

 

そんな王都のある朝、早朝の時間にも

かかわらず、雫は一人訓練場で司より

与えられた無双セイバーとザイア

スラッシュライザーを手にして、それを

振るっていた。

 

繰り出される無双セイバーの軌道は力強く。

返す刀で繰り出されるスラッシュライザー

の軌跡は鋭く。

 

そして二振りの刃を演舞のように振るう雫。

やがて彼女は、最後の仕上げとばかりに、

近くに乱立していた金属の柱へと駆け出し、

すれ違い様にそれをセイバーとスラッシュ

ライザーで切り裂いた。

 

一瞬の静寂。直後、ズズンと音を立てて

倒れる金属柱の群れ。

やがて雫は二振りの剣を振ってそれぞれを

鞘に戻した。無双セイバーは右腰に。

ザイアスラッシュライザーは腰の後ろの

鞘に。それぞれ戻した。

「ふぅ」

そして、彼女は息をつくと右腰の無双

セイバーへと視線を落とした。

 

「……相変わらず、凄い切れ味ね。

 セイバーも、ライザーも」

誰に言うでもなく、一人呟く雫。

しかし……。

『それはオリジナルが仮面ライダーの

 設定を忠実に再現した結果だ。

 その通りなら、怪人だろうが切り裂く

 ポテンシャルを持っている。これ位、

 造作も無い』

それに答える者が居た。それは彼女の

左手首に装着された、待機状態の

ジョーカーに搭載されているAIの

司による物だった。彼の声が、雫の

頭の中に響く。

 

「……仮面ライダーの力、かぁ」

そう言うと雫は懐から、あの日司から渡された

バックル、『ブレイバックル』を取り出し

そこに視線を落とした。

「何かでも、私って貰いすぎじゃない?

 ベルトに剣を二本。それにジョーカー

 まで貰っちゃって」

『気にするな。武器を使うにしても、そこ

 には必ず使用者の技量が必要だ。

 だからこそ多く持てば良いと言う物 

 ではない。が、だからといって一つだけ

 で良いと言う訳でもない。ましてここに

 俺はいない。オリジナルである俺が

 フォローできない分、多くの物を

 オリジナルが与えた。要はそう言う事だ』

「そっか」

と、AI司の言葉に頷きながらも、雫は

手元のバックルを見つめる。

 

『これを使う程のピンチが来なければ、

 良いんだけど』

と、彼女はそんな事を考えてしまう。

 

 

しかし、そのピンチはやってきた。

 

彼女達は今、修練の為にオルクス大迷宮で

戦っていた。そして今、彼、彼女達は

これまでの、人間の最高到達深度、

65層へと足を踏み入れた。

 

そして、そこで彼等の前に現れたのが、

かつて司とハジメが倒した怪物、

ベヒモスだった。

その事に生徒達が狼狽え始める。

 

これに驚きながらも戦闘態勢を取ろうと

する光輝たち。

そんな中で雫は、静かに拳を握りしめていた。

 

『もう、ここに司はいない。あの時

 みたいに、彼はいないんだ』

雫の脳裏に浮かぶ。仮面ライダージオウの、

司の背中が。

『ここにもう司はいない。彼が私達の

 傍にいて守ってくれる訳じゃない。

 ……皆を守るには、強くなるしか

 ない!』

ギュッと、拳を握りしめる雫。

 

そして、彼女はふぅ、と息をつくと

静かに歩き出した。

聖剣を構えていた先頭の光輝の、

更に前に出る雫。

「なっ!?雫!?」

それに驚く光輝。

「何してるのシズシズ!下がった

 方が良いよ!」

後ろから聞こえる鈴の声。しかし雫は

下がらない。

 

「……ここに、彼等はいないわ。

 仮面ライダーは、いない」

静かに呟く雫。

「し、雫?何を言ってるんだ?」

それに驚き、反応に困る光輝。

 

「だから誰かがなるしかないのよ。

 『仮面ライダー』に」

そう言って、雫はブレイバックルと、

スペードのエース、チェンジビートル

のラウズカードを取り出した。

 

そして、雫は周囲が驚く中、カードを

バックルに装填した。

するとブレイバックルからカード型の

ベルトが伸びて彼女の腹部に、自動的に

巻き付いた。

 

それだけで待機音声が鳴り響く。

光輝やメルド達が驚き、ベヒモスは

雫の動きに警戒感を示していた。

 

そして……。

 

『司、貴方が生み出した仮面ライダー

 の力。使わせて貰うわよ!』

「変、身っ!!!」

 

彼女は叫びながら右手でベルトの

ハンドルを引き、その力を具現化

させた。

 

『Turn up』

 

ベルトから電子音声が響き渡る。

そして彼女の眼前に青いゲート。

『オリハルコンエレメント』が

展開される。

 

雫はそれを見つめ、もう一度だけ

息を吐くと足を踏み出す。そして、

エレメントを透過した時、彼女は

既に変わっていた。

 

運命と闘う決意を固めたスペードの剣士。

『仮面ライダーブレイド』に。

 

「し、雫。その姿は……」

後ろで変身を見守っていたメルドが

驚きながらも問いかける。

「これが、今の私です。私は、

 ブレイド。仮面ライダーブレイドよ!」

 

そう叫んだ直後、雫、ブレイドは

腰の鞘から『醒剣ブレイライザー』を

抜くと駆け出した。

「なっ!?雫!」

1人で戦おうとする姿を見て光輝は

咄嗟に声を上げる。

「1人じゃ無茶だ!」

「例え無茶でも、やるしかないじゃない!

 ここに、もう司は居ないのよ!」

「ッ!?」

 

唐突に出た司の名に、光輝は戸惑いながらも

ギリッと奥歯をかみしめる。

 

「今、私達は、自分の力で、自分の

 未来を切り開くしか無いのよ!」

そう叫び、ブレイドは前に出る。

 

『奴の巨体から繰り出される突進は 

 脅威だ。優先的に足を狙え』

『了解っ!』

ジョーカーを通して聞こえるAI司の言葉

に頷きながら、雫はベヒモスに突進する。

 

ベヒモスは咆哮を上げながら前足を振り上げる。

それでブレイドを押しつぶすつもりだった。

だが、遅い。

ブレイドは走りながらブレイラウザーの

オープントレイを開き、一枚のカードを

取り出してそれをラウザーのカードリーダー

にスラッシュ、つまりラウズする事で

カードの力を引き出した。

 

『マッハ』

 

超加速の力を持ったマッハジャガーの

カードをラウズしたブレイドは、音速を

超える速度で駆け抜け、そのスタンプ

攻撃を回避。瞬く間にベヒモスの背後を取った。

「はぁぁぁぁぁっ!」

 

そして振り向きざまに繰り出された一刀が、

ベヒモスの後ろ右足の健を切り裂いた。

悲鳴を上げるベヒモス。

ブレイドはそのままベヒモスの両後ろ足を

何度も斬り付ける。

しかしベヒモスも黙ってやられるだけでは

無い。

前足だけで体を浮かせ、後ろ足で蹴りを

放ってきた。

 

「ッ!」

咄嗟にそれをすんでの所で回避するブレイド。

だが、今の攻撃を避けた為にブレイドと

ベヒモスの間が開いてしまった。

図体の大きいベヒモスは肉薄してしまえば

反撃をある程度を抑える事が出来る。

 

だが、距離が開いてしまえば、図体を

生かした突進攻撃が来る。

そして、それだけではなかった。

 

『キィィィィィィンッ!!』

ベヒモスの頭部が赤熱化し、マグマの

如き煮えたぎる。

「くっ!?あの時と同じ技か!?」

「雫ッ!」

歯がみしているメルドと雫を心配し

叫ぶ光輝。

 

だが、雫は恐れない。

『雫。……決めろ。お前なら、出来る』

「……うん」

 

頭の中に響く声。それが不思議と彼女の

不安感や恐怖を吹き飛ばす。

 

そして、雫はトレイから3枚のカードを

取り出し、それをラウズした。

 

『キック サンダー マッハ』

 

ラウズされたカードが青白いエフェクトに

なり、そしてブレイドの体に溶け込むように

吸収された。

そして、ブレイドは手にしていたラウザーを

地面に突き刺すと、腰を落とした。

「はぁぁぁぁぁ……!」

彼女は足腰に力を入れる。

 

それはまるで、解き放たれる寸前の矢だ。

限界まで力を引き絞っている。

一瞬の静寂が辺りを包み、そして……。

 

『グルアァァァァァァァァッ!!』

咆哮を上げてベヒモスが駆け出した。

 

「ッ!!!」

それに一拍遅れてブレイドも駆け出す。

 

あっという間に両者の距離が縮んでいく。

「雫ぅっ!」

 

光輝が叫んだ、次の瞬間。

『ここだっ!』

『ズザザザザァァァァァァァァッ!!!』

 

何と、ブレイドがスライディングでベヒモス

の股下をくぐり抜けたのだ。

これには、正面からぶつかり合うと思って

居た光輝達も驚いていた。

 

ベヒモスも何とか加速を止めて足を止める。

だが、遅い。

 

『決めろ雫!』

「えぇっ!」

 

ベヒモスよりも立ち直りの早かったブレイド

は強化された脚力で高く飛び上がる。

そして……。

 

『ライトニングソニック』

 

「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

雷撃を纏って繰り出された必殺のキックが、

ベヒモスの頭と正面からぶつかり合い、

一瞬の均衡の後、ベヒモスを大きく

後方へと吹き飛ばした。

 

ベヒモスの巨体が宙を吹き飛ぶ様に、

メルド以下騎士達は開いた口が塞がらない

状態だった。

そして……。

 

『ドォォォォォォォォォォンッ!!!』

 

ベヒモスは大迷宮の壁に衝突するのと

同時に爆発、四散してしまうのだった。

 

『シュタッ』

そして、ブレイドが光輝達に背を向けた

状態で着地する。

彼女は、しばしベヒモスが激突した場所で

燃える残り火を見つめていたが、やがて

静かに振り返り、光輝達の方へと

歩み寄って来た。

 

そして、途中でベルトに手を掛け、

再びレバーを引いて変身を解除した。

雫は元の姿となって、光輝や鈴、メルド

達の方へと静かに歩み寄る。

すると……。

 

「シズシズ!」

彼らの中から、興奮した様子の鈴が

飛び出してきた。

「す、凄かったよシズシズ!

 ホントに、本当に仮面ライダー

 みたいだったよ!」

彼女は瞳を輝かせながら雫を褒め称える。

「ありがとう鈴。けど、ホントに

 凄かったわ。仮面ライダーの力は」

 

そう言って雫は自分の右手に視線を落とす。

『……これがあれば、きっと、私でも

 皆を守れる。そんな気がする』

小さく笑みを浮かべながら、やがて雫は

視線を右手から大迷宮の天井へと向ける。

 

『ありがとう、司。私に、こんな凄い

 力をくれて』

 

彼女は、今はここには居ない。しかし

この世界のどこかでも今も旅をしている

『彼』の事を思い浮かべながら、小さく

心の中で礼を言うのだった。

 

 

だが、一方で、彼女から少し離れた場所で、

光輝が、そして檜山たちが、面白くなさそう

に舌打ちしたり、表情をしかめている事に、

彼女は気づかないのだった。

 

 

その後、ベヒモスを倒した活躍から、

新たなる『ベヒモススレイヤー』として

周囲から畏敬の念を抱かれ始めた雫。

彼女自身は、離反した元ベヒモス

スレイヤーである司の代わり、と言う

事実に辟易しながらも、今は積極的に

戦いでブレイドの力を使い、勇者である

光輝の活躍がかすむほどの圧倒的な

戦闘能力で大迷宮の魔物を倒していった。

 

そんなある日の事だった。

王国に、隣国である『ヘルシャー帝国』から

使者が来る事になった。目的は神の使徒

である光輝達と会う為だ。

 

実力社会である帝国は当初、王国が召喚

した光輝達に興味を示さなかったが、

彼等がこれまでの、オルクス大迷宮の

最高到達深度である65層を超えた事と、

ベヒモスを倒したと言う事実が帝国に

まで届いた事から、光輝達に興味を持った

が故の行動であった。

 

そしてついに、王国に使者がやってきた。

エリヒド王やイシュタル達に謁見する

使者たち。傍には光輝や雫達の姿も

ある。

 

やがて、帝国側の提案から護衛の1人と

勇者である光輝が戦う事になった。

結果、護衛の圧勝。所が、この護衛という

のが帝国のトップである『ガハルド・D・

ヘルシャー』皇帝その人であった。

 

そしてガハルドは、自らが戦った光輝の

力量から『本当にこいつがベヒモスを

倒したのか?』と疑う。

そして、周囲の視線もあり、やがて彼の

興味は雫へと向いた。

 

そして、ガハルドの提案もあり、雫は

彼と模擬戦を行う事になった。

 

「で?聞いた話によれば、お前が

 ベヒモスをたった1人で倒した

 そうだが。本当か?」

「えぇ。本当です」

疑うような視線のガハルドに対し、

雫は淡々とした態度で頷く。

 

「最も、より正確に言うのであれば、

 友人から私に与えられた力のおかげで、

 私1人でもベヒモスを倒せた。

 と言った所でしょうか」

「与えられた、力だと?」

そう言うと、ガハルドはその『友人』は

誰だ?と言わんばかりに光輝達に目を

向ける。

 

「もうすでに王都には居ませんよ」

そしてその意図を察していた雫が、

先に答える。

「ほう?」

「今は、私の親友や彼の友人たちと一緒に

 この世界のどこかを旅している頃でしょう」

「成程ねぇ。……つまりお前はそいつの

 おかげでベヒモスを倒せた、と。

 だったら見せて貰おうじゃねぇか。

 その力って奴を」

 

そう語った瞬間、ガハルドから威圧的な

オーラが放たれた。それは、光輝と戦った

時の比ではない。弱い者なら、そのオーラ

に当てられただけで意識を手放しそうな

程のオーラ、それは、『敵意』だ。

 

「ッ!」

そのオーラに雫も僅かに息を呑む。

『成程。流石は実力主義社会のトップ。

 ……格の違いがこれだけでも

 分かるわ。私とあの人じゃ、実戦の

 経験から何から、圧倒的なまでに

 差がある。……でも!』

 

雫は、冷や汗を流しながらも頭を

かぶり振ると、懐からブレイバックル

を取り出した。

『雫。相手は魔物じゃない。油断せずに

 行け。……人間ほど狡猾な戦い方を

 する生物は居ないからな。

 ……締めてかかれよ』

『えぇ。分かってるわ!』

 

頭の中に響くAI司の言葉に頷きながら、

雫はバックルにカードを装填し、腰に

装着する。

「ッ、アーティファクトか?」

ブレイバックルを警戒するガハルド。

しかし次の瞬間には、彼を始め、

大勢の者達が驚く事になる。

 

「変、身ッ!!!」

 

『Turn up』

 

雫がレバーを引くと、ベルトから

オリハルコンエレメントが展開され、

それをくぐり抜けた雫が仮面ライダー

ブレイドへと変身する。

 

「うおっ!?何だその姿!?

 何か腰に下げてるが、剣士か!?」

予想の斜め上を行く変身に、ガハルドや

同じく帝国の使者たちは驚く。

 

しかし雫はそれに答える事無く、腰元から

ブレイラウザーを引き抜く。

「これが、私の友人が私に与えてくれた

 力。ブレイドの力です」

「ブレイド、刃か」

ガハルドは雫、ブレイドを観察しながら

も剣を抜いて構える。

 

「行きますよ?」

「あぁ、来いっ!」

雫の言葉に獰猛な笑みを浮かべながら

答えるガハルド。

 

2人は互いの得物を構えたまましばし

睨み合っていた。

が……。

「ッ!」

先に雫、ブレイドが地を蹴って掛け出した。

 

100メートルを5.7秒で走りきる脚力を生かし、

彼女は瞬く間にガハルドと距離を詰めた。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

そして振り下ろされるブレイラウザーの

一撃。

ガハルドはそれを、自分の大剣で受け止めた。

彼はこの一撃を受け止め、流し、返しの

カウンターを放とうと考えていた。

だが……。

 

『バキィッ!』

「何ぃっ!?」

ブレイラウザーを受けた大剣の刀身

に罅が走った。

それに驚くガハルド。

元々、設定ではブレイラウザーは特殊な金属、

オリハルコンを元にして作られている。

それは、不死身の怪物であるアンデットを

倒す為であり、設定上、切り裂けない

固形物は無いとさえ言われていた。

それを司が忠実に再現し、今の雫が握る

ブレイラウザーは、それこそ光輝の

持つ聖剣に勝るとも劣らない性能を

持った、言わば『現代の聖剣』なのだ。

 

それを、むしろ一般的な剣でよく、

『罅が入った程度』で受け止められた

ガハルドの方に、雫は内心驚いていた。

 

ブレイドのスーツを纏い、腕力や脚力が

強化された今の雫なら、大型の魔物を、

その防御の上からブレイラウザーで

真っ二つに出来るだけのパワーがあるが、

ガハルドは武器を損傷しながらも

一刀目を受けきったのだ。

 

『成程。今の雫の攻撃を受けきるか。 

 流石は実力主義国家のトップだな。

 だが、雫ッ!』

『分かってる!』

 

雫、ブレイドは一旦ガハルドと距離を取る

為にバックステップで後ろに下がった。

「んなろうっ!」

それを見たガハルドが、今度はこちらの番だ、

と言わんばかりにブレイドを追撃する。

 

ブレイドは一旦距離を取ると、ラウザーの

トレイを展開し、一枚のカードを取り出し、

それをラウズした。

 

『メタル』

 

電子音声が響き、カードの能力がブレイドの

体に浸透する。

「鉄が何だってんだ!」

そこに斬りかかるガハルド。対して

ブレイドは構えも避けもしようと

しなかった。

「舐めてるのか!?だったらぁ!」

彼は手にした大剣をブレイドの胸に

叩き付けた。

 

ガキィィィィンッと甲高い音が響く。

直後。

『バキャッ!!!!』

 

ガハルドの大剣の刀身が、罅の入って

いた辺りから真っ二つに砕け散った。

「なっ……!?」

驚きで声にならないガハルド。砕けた

刀身の一部が床に落ちカランカランと

音を立てる。

 

「舐めてなんかいませんよ」

その時聞こえた雫の声。

「私はただ、私にこの力を与えてくれた、

 『彼』を信じているだけです」

彼女の呟きは、ガハルドにだけ聞こえていた。

そして、その手にはいつの間にか、

新しいカードが握られていた。

 

「ッ!?」

それを見た瞬間、ガハルドは咄嗟に左手を

伸ばした。

ラウズカードが能力の発動に必須である事は

既に気づいていた。だからこそ、ブレイド

からカードを奪って能力の発動を阻止

しようとしたのだ。

 

『バッ!』

しかしブレイドは強化された脚力を生かした

バックステップで距離を取る。

ガハルドの左手が空を切る。

「クソッ!」

更に距離を詰めようと前に出るガハルド。

 

だが、無意味だった。

 

『タイム』

 

『何だ!?タイム!?時間!?どう言う意味』

 

そして、そこでガハルドの思考は『停止』した。

 

いや、正確に言うのならば、『彼とその周囲の

空間の時間が』停止したと言うべきか。

 

しかし、その時間停止能力はほんの数秒しか

効果が続かない。

最も、一瞬の隙が生死を分ける戦いでは、

その数秒も命取りになるのだ。

 

『今だ雫!決めろ!』

『えぇっ!』

雫、ブレイドはAI司の声を聞きながら

更に2枚のカードを取り出しラウズした。

 

『サンダー』

 

更にカードを発動した雫。彼女は

動けないガハルド目がけて駆け出す。

そして……。

 

『意味だっ!何っ!?』

 

ガハルドの時間が復活すると、彼は

後ろへ飛んでいたはずのブレイドが

いつの間にか雷撃を纏った拳を

振りかざし向かって来ていた。突然の

変化に対応出来ないガハルド。

 

そして……。

「うりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

繰り出される雷撃を纏った拳。

ガハルドはそれを咄嗟に、折れた大剣

で防ぐ。だが……。

 

『バリバリバリバリッ!!!!!』

次の瞬間、大剣を伝って雷撃がガハルド

の体を貫く。

「がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

痛みにたまらず叫んだガハルド。

 

そして、彼は数歩後ろに下がると、その

まま後ろへと倒れ込んだ。

 

「か、勝った?雫が、勝ったのか?」

光輝は、しばしガハルドに勝った雫、

ブレイドを見つめていた。

そしてそれは、雫が既に光輝より強い

と言う証明に他ならない。

だからこそ、光輝は呆然と雫を、ブレイド

を見つめてしまう。

 

その時。

「へ、陛下ッ!!貴様ぁっ!」

帝国の使者の1人が、腰に下げていた

剣を抜き、ブレイドへ斬りかかろうと

した。

だが……。

「よせっ!」

 

その時、倒れていたガハルドが声を

張り上げた。

「へ、陛下っ!?ご無事ですか!?」

すると使者はガハルドの元へと駆け寄り、

その体を抱き起こそうとした。

ガハルドは、雷撃を食らって痺れた

体に鞭打ち、使者の手を払って何とか

自力で立ち上がった。

 

「イツツ。……ったく、何て力だよ。

 ただでさえ常人離れしてるパワーに、

 雷撃に硬度強化。武器も尋常じゃ無い

 切れ味と来た。……恐ろしいねぇ」

そう言って息をつくガハルド。

 

「どうやら、俺の負けだな」

彼がそう呟くと、帝国の使者だけで無く

事の次第を見守っていた王国の重鎮や

兵士達もザワザワとざわめく。

 

それを確認した雫は、ベルトのレバーを

引いて変身を解除した。

彼女もまた、戦いが終わった事に安堵して

静かに息をついた。

「なぁ、お前」

そこへ、ガハルドが歩み寄って来た。

「はい、何でしょう?」

「ちゃんと名前を聞いてなかったからな。

 お前の名前を聞いておきたいんだよ」

「私の名前ですか?私は、八重樫雫です」

「雫、か。分かった。……にしても、

 お前のそのベルト。凄まじい力だな。

 それにカードの持ってた数と使った数

 からして、まだまだ余裕がありそうだ」

ガハルドはベルトを観察するように見つめ

ながら問いかける。

 

「えぇ。まぁ。変身のために使う物を

 差し置いても、戦闘に使える物は

 大凡9枚。武器の切れ味を更に強化

 したり。パンチ力を上げたり。

 キック力を上げたり。後は数枚を

 組み合わせてコンボを発動する事も

 出来ますよ?」

雫はそう、淡々と答える。

 

「おいおい。単体だけじゃなくて

 組み合わせて使えるのかよ。

 ホント、恐ろしいベルトだなぁおい。

 ……是非とも、そんなもんを作れる

 相手に会ってみたかったぜ」

ガハルドは、興味深そうに雫の腰の、

ブレイバックルを見つめていたのだった。

 

更に……。

「まぁ、にしてもあれだな。武器って

 のは持ってるだけじゃ意味がない。

 使う奴もある程度の強さがなけりゃ、

 武器に振り回されて自滅しちまう」

「はぁ。仰ってる事は分かりますが、

 それが私と何か?」

「いや何。要は雫自身も結構強いって

 言いたいのさ」

「そ、そうですか。ありがとうございます」

思わぬ所で褒められた雫は、戸惑い

ながらも頭を下げる。

 

だったのだが……。

 

「そして、そんな女だからこそ、俺は

 俄然興味がわいた」

「は?」

「雫、俺の女になる気は無いか?」

 

「は?……はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

突然のガハルドの提案に、雫は絶叫した。

 

ちなみに、この提案は咄嗟にAIの司が

機転を利かせたことで、一旦保留と

なった。

 

その日の夜。

「あ~も~。何か私って呪われてるの

 かしら?普段から光輝達に檜山たち

 と問題山積みなのに、ここに来て

 皇帝から求婚とか。ホント、ドンドン

 問題が増えてわ」

ベッドで大の字に寝っ転がりながら

愚痴る雫。

 

『確かに、問題も多いな。……雫、

 一つ提案なんだが、聞くか?』

「ん?何?司」

『お前をサポートする、新しい存在

 を作ろうと思うんだが、どうだ?』

「ッ、ホントに?」

AI司の言葉に、雫は驚きながら

体を起した。

 

『あぁ。後は、お前の決断次第だ』

「ッ。……そっか。分かったわ。

 なら」

 

 

そして、翌日の朝。

光輝や雫達は、今日中にホルアドに戻る

予定だ。そして再び、大迷宮攻略を再開

する。

しかし、王都を出る時間になっても雫が

来ない事を不思議に思って居た光輝。

 

その時。

「皆、お待たせ」

「あぁ、来たかしず」

 

雫、と呼びかけようとして振り返った光輝

だが、彼は彼女の『後ろに居た2人の男』

を見た瞬間、言葉を途切れさせてしまった。

 

「え?シズシズ?その人達、誰?」

光輝の傍に居た鈴も、フード付きの

ジャケットを着た男性と、ジャケットに

ワイドパンツを着たような男性を見て

驚いている。2人とも、手には何やら

アタッシュケースのような物を持っていた

が、今の彼等にはそんな物は些細な事で

あった。

 

 

「えっと、この2人はね。アンドロイド

 なの」

「あ、アンドロイドォ?」

答える雫に対して、龍太郎は首をかしげる。

どうやらアンドロイドの意味が分かって

いないようだ。

すると……。

 

「アンドロイドとは、人型ロボットの事だ」

男性の1人が答えた。

「……お前は?」

すると、光輝が睨み付けるような視線で

彼を見つめる。

「俺の名は『滅(ほろび)』。マスター、

新生司の命令により、彼女、

八重樫雫の護衛として派遣された物だ。

そして、こいつも同じ目的で派遣

 された。『迅』、お前も挨拶しろ」

迅と呼ばれた青年は笑みを浮かべながら

一歩前に出る。

 

「やぁ、はじめまして、で良いよね?

 僕は迅。滅と同じで雫を守るために

 来たんだよ。あぁ後、雫に言われた

 のもあるから、君たちの事も『ついでに』

 守ってあげるよ」

迅と呼ばれた青年は、屈託の無い笑みを

浮かべながらもそんな事を言う。

ついで、と言う言葉に光輝や龍太郎が

戸惑い、声を荒らげようとしたとき。

 

「こら迅。そう言う事言わないの!」

雫が彼を叱った。

「え~?だって本当の事じゃん。

 僕や滅が来たのは雫を守るためだし、

 他の奴らがどうなったって僕達には

 関係無いじゃん?」

「確かに迅からしたらそうかもしれない

 けど。でも光輝達は私の大切な

 友達なの。だから皆に死んで欲しく無い。

 だから迅たちには、もしもの時、

 皆のことも守って欲しいの」

「は~い。雫がそう言うなら、僕は

 それで良いよ」

若干気怠げだが、頷く迅。

しかし……。

 

「な、なぁ雫。まさかこいつらを

 連れて行くのか?」

光輝としては、どうやら滅と迅が

付いてくる事に不満があるらしい。

龍太郎や鈴に恵里、檜山たちも同じような

表情をしている。

一方の別のパーティーを組んでいる

『永山』たちは事態を静観している

だけのようだ。

 

「えぇ」

そして、雫は迷いも無く頷く。

「本気かよ八重樫!アンドロイドって、

 要はロボットだろ!?聞いてりゃ

 新生のことをマスターって呼んでる

 じゃねぇか!そんなのと一緒に

 行くなんて、何があるか分かったもん 

 じゃねぇ!」

すると、檜山が一番に食ってかかった。

しかし……。

 

「雫。単刀直入に聞くが、その2人は

 強いのか?」

そこにメルドが割って入った。

「流石にそれは私もまだ。2人は新生君

 から護衛としてプレゼントされた

 ばかりなので、まだ実力を見ては

 いないんです」

「そうか」

と、頷くと、メルドはしばらく悩んだ後。

 

「よし。では2人の同行を認めよう」

と、滅と迅の同行にOKサインを出した。

「良いんですかメルドさん!

 こいつらの力はどれだけの物

 なのか、まだ分からないんですよ!?」

そう言って抗議する光輝。

 

彼にしてみれば、司由来の存在で

ある2人が内心、気にくわなかったのだ。

「もちろん分かっている。なので、

 戦力として使えなかった場合は

 以降の同行は認めない。まぁ、

 要は力の確認の為に今は連れて行く。

 そう言う事だ」

「しかし……!」

「光輝。俺達がやっていることは遊びじゃ

 無いんだ。戦える人間は、1人でも多い

 方が良い。違うか?」

「そ、それは……」

 

メルドの言う正論に、光輝は口をつぐむ。

確かにメルドの言う事は正しい。

しかし、だからといって光輝には

納得出来なかった。

より正確に言えば、雫の隣に『自分

以外の男』が居る事が。

 

その時。

「力の証明、か」

滅がポツリと呟いた。

「ならば、これで十分か?」

そう言って、滅が取り出したのは……。

 

「なっ!?ベルト!?」

驚くメルド。今滅が出したのは、

黒と黄色のカラーリングのアイテム

だった。

 

「あぁ、それなら僕も持ってるよ」

更に、迅も同じ物を、『フォースライザー』

を取り出した。

そのことにメルドだけでなく、鈴たち

までもが驚き、光輝は一層強く

歯がみした。

 

「まさか、お前達も……」

「そうだ。俺達もまた、『仮面ライダー』だ」

 

驚くメルドに答えるように、滅が不敵な

笑みを浮かべながら語る。

 

その後、攻略組に新しく参加する事に

なった滅と迅。そして急な参加、と言う

事もあり、追加で馬車が一台用意され、

今はそこに滅、迅、そして雫の3人が

乗っていた。

 

そして……。

「ハァ。まさか、AIの司がこうなる

 なんて、思いもしなかったわ」

雫は、滅を見つめながらため息をつきつつ

そう語る。

 

そう、滅の中身は、もっと言えば魂の

元は、『AIの司』なのだ。

 

「これで、俺はこれから、今まで以上に 

 雫をサポート出来る訳だ。

 まぁ、よろしくたのむぞ」

「えぇ。こちらこそ」

 

こうして、苦労人であった雫の元に、

新たな仲間が出来た。

 

その名は、滅と迅。

彼等は雫を守る為に、騎士として、

仮面ライダーとして、戦うために

生み出されたのだった。

 

     ライダー編 第5話 END

 




って事で、雫の護衛に滅と迅が加わりました。
本編より護衛が強化されてます。
あと、滅の中身はAIの司、のちの蒼司です。
もしかしたらIF編では蒼司が出てこないかも
しれません。

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