ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~ 作:ユウキ003
なってしまいました。いつもの1.5倍くらいあります。
~~~前回のあらすじ~~~
グリューエン大火山に向かう途中、フューレン
のギルド支部長イルワからの依頼でホルアドに
向かっていた司たち。そんな中、光輝たちが
心配でホルアドに向かっていた愛子たちと合流
した司たち。そして彼等は、地上へ脱出した
遠藤と再会し事の次第を知り、光輝たちの
救出に向かう。AI司の指示で戦う
光輝達と、それを救出すべく合流した
メルド達。魔人族の女、カトレアは切札の
魔物を投入するが、そこに空間ゲートを
使って司や清水達も合流するのだった。
今、カトレアは最大のピンチを迎えていた。
逃げる階段へ続く道は、メルド達と清水達が
抑えている。目標の光輝達の方には、まだ
数体のガーディアン・ハードガーディアン達
に、司たちがいる。
正しく、前門の虎、後門の狼だ。
そして……。
「みんな!大丈夫か!」
司たちが使って居たゲートから、遅れて
遠藤がやってきた。
「ッ!遠藤!お前無事だったか!」
無事だったパーティーメンバーに野村が
笑みを浮かべる。
「あぁ。外に出たら、新生達と合流出来た
んだ。それで助けて貰ったんだよ」
遠藤の言葉に、永山や鈴、雫達は司の背中を
見つめている。
彼のトレンチコートが、風になびく。
「ったく。遅ぇよオリジナル」
そう言って、AIの司が(オリジナルの)司に
声を掛ける。
「そうか?絶妙のタイミングかと思うが?」
そう、AIの自分に返す司。
「な、何だろう。同じ声の人が喋ってるのって
ちょっと気持ち悪いね」
「「「「うんうん」」」」
こんな状況だと言うのに、鈴の言葉に周囲の
者達が頷く。
一方で……。
「ちぃっ!?数が増えたから何だってんだ!」
現状に、更に歯がみしつつも諦めないカトレア。
「無駄だ!もうお前に勝ち目は無い!大人しく
投降しろ!」
光輝は、これだけ敵が居るのなら投降する
だろう。そう考えて投降を呼びかける。
「はっ!?投降だって!?……人間風情に
捕まって生き恥をさらすのなんざ、
死んでもごめんだね!」
しかし、彼女には投降の意思などない。
「そうか。ならば……」
司は、静かに左手首の待機状態のジョーカー
のスイッチを押し込む。ハジメや清水達も
それに続き、次々とジョーカーを起動
していく。
「ッ!?何!?」
これには驚くカトレア。無理も無い。
雫一人とメルド達だけでも厄介なジョーカー。
それを纏った人間が、一気に倍以上に
増えたのだ。無理も無い。
「……終わらせるとしようか」
司の言葉を合図に、ハジメ達が装備を
構え、清水がガーディアン部隊を召喚し、
包囲網を完成させる。
カトレアは必死に前後を見回し、アハトド
とイシェールは目の前の敵を警戒する。
と、その時。
『フッ!』
「消えっ!?」
突如司の体がぶれるように消えた。驚き、
叫ぼうとしたカトレア。次の瞬間。
『ドゴォォォォォォンッ!!!!』
イシェールの腹に、司の強烈な一撃が
放たれた。
その一撃だけで大気が震え、イシェールの
肋骨周りの骨が殆ど砕け、内蔵が破裂する。
ゴバッと血を吐き出すイシェール。だが、
それだけでは無い。
司は、一瞬の隙を突いて、今度は左手の手刀を
イシェールの腹に突き刺した。
悲鳴を上げるイシェール。だが、それだけだ。
「死ね」
『バリバリバリバリバリッ!!!!!』
次の瞬間、司のジョーカーZから紫色の雷撃、
紫電が放たれイシェールの体を内側から
焦がしていく。
そして、紫電の放電が終わった頃には、
イシェール『だった炭』がボロボロと
崩れ去った。
「……こんな物か。勇者である天之河と
雫への切札なのだろうが……。
私の相手には役不足も良い所だな」
司は、崩れ落ちたイシェールだった炭を
踏みつけながら呟く。
「バカなっ!?イシェールを、あぁも
簡単に!」
その事実に驚くカトレア。彼女は咄嗟に
魔法を放とうとするが……。
『ドパンッ!』
「ッ!?」
次の瞬間、彼女の肩に止まっていた白い鴉
が吹き飛び、彼女の頬や肩を血飛沫で
汚した。
「動くな。じっとしていろ」
それは警告だった。司から放たれるプレッシャー
と、あと少し射線がずれていたら……。
そう考えるだけでカトレアは顔を青くし、
その場に静かに跪いた。
一方の周囲では、魔物の殲滅が始まっていた。
「おぉぉぉぉぉっ!」
カトレアが司たちの方に気を取られている
隙を突き、メルドが一気にアハトドに
肉薄する。
「ルゥオォォォォォッ!」
それに気づいたアハトドが上の右腕で
ストレートパンチを放つ。
メルドは、それをエアで逸らし躱す。
続けて繰り出された上の左腕のパンチも
マルス・バスターで逸らした。
そこに更に、下の両腕がメルドを両脇から
捕らえようと迫るが……。
「させんっ!!」
メルドの前に回り込んだアランがその両腕を
エアとマルス・バスターで弾く。
「団長!」
「おぉっ!」
メルドはそのままアランのタイプKの背中を
踏み台にして跳躍。
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」
アハトドの胴体を斜めに切り裂いた。
悲鳴を上げるアハトド。だが、それで
終わりではない。
「そこっ!!」
切り裂かれた切り口に、園部のヒートダート
が突き刺さった。
ジョーカーのパワーも合わさり、投げつけ
られたヒートダートの速度は銃弾に増さるとも
劣らない。次々とアハトドの体にヒート
ダートが突き刺さる。
と、次の瞬間。
「点火ッ!」
園部が叫んだ。そして……。
『『『ボボボンッ!!』』』
ヒートダートに仕込まれた炸薬が点火し、炸裂。
アハトドの傷を更に抉り飛ばす。
悲鳴を上げるアハトド。
その周囲では、騎士たちや清水、玉井や相川、
更にはシアやユエ達が戦っていた。
「おりゃぁぁぁっ!ですっ!」
シアがハンマーモードのアータルを掲げて
亀型の魔物に急接近し、その頭を
かち割る。
「喰らえ……!」
ユエの掌から、拡散して放たれた魔力式
ビーム砲のショットガンが、キメラの体に
いくつも風穴を作る。
「はっ!」
ルフェアはブルタールモドキが振り下ろす
メイスを回避し、カウンターのバアルを
たたき込みながら、プラズマグレネードを
その足下に投げ込む。
メイスで顔を銃弾からガードしていた
ブルタールモドキはプラズマグレネードに
気づかず、プラズマによって蒸発した。
「そこっ!」
香織は、セミオートのタナトスで正確に
黒猫を撃ち抜いていく。時折触手が
彼女に襲いかかるが、彼女は最小限の動き
だけで触手を回避する。その動きは、
まるで踊っているようだった。
そして、回避しながら放たれたカウンターの
一発が、黒猫を弾き飛ばす。
タイプスカウトのレーダーと運動性を
生かし、攻撃を避け、カウンターの
一発を放っていく香織。
「当れぇぇぇっ!」
ハジメは、壁を蹴って自由自在に飛び回り
ながら、トールの炸裂弾を放つ。全て
正確に、無慈悲に。魔物の脆い所、
間接や腹を狙い、2丁拳銃スタイルで
撃ち抜いていく。12発全部を使い切れば、
新たに、弾を装填した状態のトールを召喚
するという技で、撃ちまくっていく。
「おぉぉぉぉぉぉっ!」
メルドの連撃がアハトドの腕を切りつける。
マルス・バスターから通常のマルスに形態を
戻しているため、ナノメタルによる浸食攻撃は
出来ないが、その分、ジョーカーのパワーを
生かした圧倒的な速度で繰り出される剣戟に、
アハトドは腕をクロスさせる事で何とか
防いでいたが……。
「足下がら空き!」
そこに菅原の電磁ウィップが襲いかかった。
足首にグルグルと巻き付いたウィップ。
『バババババババババッ!!!』
次の瞬間、司ほどではないが、高圧電流が
流れ、アハトドに襲いかかった。
悲鳴を上げるアハトド。そしてウィップが
外れた時、アハトドは体の各部を焦がしもう
まともに動ける状態ではなかった。
そして……。
「これでっ!」
マルス・バスターを手に突進するメルド。
「トドメだぁぁぁぁぁっ!」
ジョーカーの突進力を持って繰り出された
渾身の突きは、アハトドの腹部を一撃の下に
貫き、刀身から溢れ出したナノメタルが
アハトドを取り込み、呑み込む。
更に周囲では清水が指揮するガーディアン隊
とAI司の指揮するハードガーディアン・
ガーディアンの混成部隊が魔物に銃弾の雨を
降らせていた。
その隙間を縫って向かってくる魔物を、雫や
光輝。龍太郎や玉井、騎士達が攻撃し、
鈴や恵里、相川や宮崎の魔法がそれを支援する。
そして、数分もすれば……。
「これで、最後っ!」
『ドバンッ!』
ハジメのトールの一発が、残っていた最後の
キメラの頭を撃ち抜いた。
その銃声を最後に、周囲がシンと静まり帰る。
「ハァ、ハァ。……勝った、のか?」
荒い呼吸を整えながら呟くのは、野村だ。
周囲の者達も、あの状況からの逆転劇に
喜びよりも戸惑いを覚えているようだ。
「皆無事か!」
そこに、ジョーカーを纏ったままのメルド
達が駆け寄ってきた。
「メルドさん!メルドさん達こそ、大丈夫
でしたか?」
彼に気づいて雫はそう声を掛けた。
「あぁ。こいつのおかげでな。……司には、
本当に感謝してもしきれないな。これは」
そう言って、メルドが視線を向けた先では、
後頭部で手を組み、地面に膝を突くカトレア
にトールを突き付けている司のタイプZの
姿があった。
やがて、魔物の掃討が終わった事もあって、
光輝達が司とカトレアを中心に、円を描く
ように集まる。
「もう終わりだ!大人しく投降しろ!」
そして案の定、勇者光輝はそう叫ぶ。
司は、それを一瞥するとカトレアに視線を
戻す。
「だ、そうだが?」
「ふん。……甘ちゃんだね。言っただろ。
捕虜になるくらいなら、死んだ方が
マシだってね」
「そうか」
カトレアの言葉に、司はトールの引き金
に指を掛ける。
「ま、待て新生!話し合えば!きっと!」
司と止めようとする光輝。
しかし、肝心のカトレアは侮蔑的な視線を
彼に向けている。
「……なんなんだいあの勇者君は」
「奴は、自分にとって都合の悪い事に
目を背ける悪い癖がある。魔物は殺せても、
人型は無理なのだよ。……アイツの事だ。
トドメを刺すチャンスがあっても投降を
呼びかけたのではないのか?」
「あぁ。あったね」
カトレアは、最初の戦いの時の事を思い出す。
「……まさか、あんな出来損ないの勇者だった
なんてね。分かってたら、勧誘と暗殺に
なんか来なかったって言うのに」
そう、自虐的に笑みを浮かべるカトレア。
「……敵とはいえ、お前の発言には私も
否定出来ないよ。……さて、最後に何か、
聞いておきたい事、言い残す事はあるか?」
「ふっ。……そうだね。なら聞くけど、
アンタがこの作戦を、囮作戦を思いついた
のかい?」
「作戦?」
「とぼけるなよ。……勇者君たちを囮にして、
まんまと近づいてきた敵を、本命の、あそこ
にいる騎士団連中で片付ける。それが
アンタの仕掛けたトラップだろう?」
「……表現と認識の相違だな。それを意図
した訳ではないが、まぁ確かに、団長達
は雫達を守る、隠された切札でもあった。
しかし同時に、雫達は団長達を隠す
隠れ蓑でもあった」
「……それはつまり、勇者君達が狙われる事
が最初から分かってたって事かい?」
「確証があった訳ではない。だが、彼等は
人間側にとって、旗印や希望の星と呼べる物。
狙われないと考える方が可笑しい。だから
保険として、団長達にジョーカーを与えて
おいた」
「ふっ。恐ろしい男だ。あたし達は、アンタ
との頭脳戦に負けたって事か」
「そうなるな」
静かに答える司。
カトレアは、静かに彼の瞳を見る。
そこには、怯え、恐怖、怒り、憎しみ。
更には喜びも、愉悦も、何も無い。
負の感情は疎か、勝利の喜びすら、
映っては居なかった。
正しく、虚無だ。
そして、その虚無を見て、カトレアは
気がつく。
自分が、絶対に敵に回してはいけない男を
敵に回してしまったのだと。
そう考えると、自然と諦めの意思が
こみ上げる。
「……ごめん、ミハエル。あたしは、
先に逝くよ」
そう言って、カトレアは一滴の涙を流した。
「……さぁ、やってくれ。苦しませないで
おくれよ?」
「……承知した」
そして、司は静かに、トールの狙いを定める。
「ッ!止めろっ!新生っ!」
叫ぶ光輝。だが、次の瞬間。
『ドバンッ!!!』
トールの炸裂弾が、カトレアの頭を木っ端微塵
に吹き飛ばした。
彼女『だった』体は地に崩れ落ちる。
それを一瞥した司は、トールを静かにホルスター
の戻した。
その時。
「なぜだ」
後ろで声が聞こえ、肩越しに振り返る司。
案の定、光輝が司を睨み付けていた。
「殺す必要があったのか。彼女はもう、
戦う力は無かったんだぞ」
その言葉に、司はため息をついた。
「何を今更。他者を殺し、その命を踏みにじり、
屍を踏み越えて、なお戦う。それが『戦争』だ」
彼は、更に言葉を続ける。
「殺す事も出来ずに戦争に参加している
つもりか?笑わせるな。お前はただ、戦争
『ごっこ』の中に偽りの戦争を見ている
に過ぎない」
「何だと!?」
「戦場で正義を振りかざすのは、愚か者の
やる事だ。……戦争とは、正義のぶつかり合い。
どちらにも正義があって当たり前。
戦争とは、『相手の正義を叩き潰す』事に
他ならない。……この魔人族の女にだって、
愛する人が居た。守るべき物があったの
だろう」
「それが、それが分かっていて殺したのか!?」
「そうだ。……それが『戦争』だ」
しばし睨み合う司と光輝。しかし……。
「止めなさい二人とも」
雫が間に割って入り、二人を止めた。
「今は皆でここから脱出するのが最優先
でしょ?私達は特に連戦で疲れてるん
だし。違う?」
「そう、だけど……」
雫の言葉に、渋々と言う感じで頷く光輝。
やがて、周囲に敵影が無い事を確認したハジメ
や香織達、清水たちはジョーカーの装着を
解除した。
すると、鎧の下から現れたユエとシア。
二人の美貌に檜山たち男の視線が引き寄せられた。
しかしユエとシアは装着を解除するなり、ハジメ
の方に向かっていく。
「ハジメさんハジメさん!見ててくれました!?
あの亀をぶっ潰した所!」
「ハジメ、私あのキメラ、たくさんやっつけた」
「う、うん。二人とも凄かったよ。だから
その落ち着いて。ね?」
周囲の視線をある事から、二人を宥めようと
するハジメ。しかし、結果的に二人がハジメに
好意を抱いているのは白昼の元に晒されて
しまった。
それを見て、ハジメに対し檜山たちは殺意と
妬みのような視線を向けるが……。
「おいクズ共」
「「「「ッ!?」」」」
次の瞬間、司のドスの利いた声で震え上がった。
「あの二人やハジメに何かして、傷付け、
泣かせるような事をしてみろ。
……今度は一切容赦せず、殺すぞ」
檜山たち以上に、殺意に満ちた目で4人を
射貫く司。
「お、おい新生!お前、仲間になんて事を!」
「仲間?私は、こんな、他人をけなして
嗤うようなクズ共を仲間と思った事は
一度も無い。今回は、愛子先生の、
『全員で地球に帰る』という願いを
尊重し、救援に来ただけだ」
「愛子先生?」
彼の言葉に首をかしげる雫。
「あぁ。先生は今、上のホルアドの町に
いる。清水達がここへ来たのも、そんな
先生の願いを汲んで、お前達の様子を
確認するためだ。……結果的に、救援
に来た訳だが」
「そ、そうだったのか。……ってちょっと待て!
そう言えば、どうして清水達はジョーカー
を持ってるんだ!?お前があの日渡したの
は雫だけのはずだろ!?」
と、更に問い詰めようとする光輝。
「まぁまぁ、落ち着け光輝」
そこにメルドが止めに入った。
「色々聞きたい事があるのは分かるが、
今はここからの脱出が最優先だ。
司、ゲートを頼めるか?」
「えぇ。お任せを」
そう言うと、司は右手を前に掲げ、空間
ゲートを繋げる。
そこへ次々と、ハジメや光輝達、更には
メルド達や清水達が入って行く。
出口は第1層のゲート近くだ。
念のため周囲をガーディアン達が固め、
私達は外に向かう。
そんな中で、雫は……。
彼女は、集団の前方を歩く司の背中を
見つめていた。その後ろに続くハジメ達や
清水達。その後ろに続く自分達。周囲を
固めるガーディアン達。
雫はふと、司の側のハジメや清水に目を向けた。
二人とも、以前とは見違えるように何かが
変わっていたのは、雫にも分かった。
そんな二人を、まるで引き連れるように
歩く司。
それだけではない。雫が知らないユエやシア、
更には園部たちまで。精強という言葉が
似合いそうな程の力を駆使していた。
メルド達も、どこか司に尊敬の念を抱いて
いるような視線をしている。
雫は、そんなメルド達から、もう一度司の
背中に目をやる。
威風堂々。毅然。そんな言葉が似合いそうな、
何も恐れてなど居ないその背中。光輝にも
カリスマはあるが、それと比べる事すら
敵わない、更に圧倒的なカリスマ性。
皆を率いるその才能は、正しく、将軍や指揮官
と言う言葉が当てはまりそうだ。
そんな中でも、雫がぴったりと当てはまった
言葉が……。
「王」
キング、と言う一言だった。雫は、誰にいうでも
無く、司の背中を見つめながら。ポツリと
呟くのだった。
その後、ゲートから外に出た司たち。
「ッ!メルド団長!」
すると、入り口付近で警戒に当っていた騎士
たちがメルド達の元に駆け寄ってきた。
「ご無事でしたか!」
「あぁ。光輝達も全員無事だ。彼のおかげでな」
そう言って、メルドは司の方に視線を向ける。
やがて、メルドは騎士アラン達に目配せを
する。それを確認した5人も頷く。メルドは
彼等の頷き返すと、司の前で跪いたのだ。
騎士アラン達もそれに続く。
これには驚く光輝達にハジメ達もだ。
「このたびの戦い。司から、いえ。
新生司殿から賜ったジョーカーが無ければ、
我ら6人、どうなっていたか。
改めて、感謝の意を述べたいと思います」
「それは不要です。……その切札は、
雫達を守って欲しいとお願いして団長達
に託した物。そして、私は今現在王国を
離反した身なれど、団長達にはとても
世話になりました。ジョーカーは、その
お礼でもあります。……何より、貴方がた
が無事で良かった。切札の力が、
貴方方6人の役に立てたのであれば、
開発者としても本望です。今後は、貴方達
の祖国を守るために、役立てて下さい」
「……重ね重ね、お礼を申し上げます。
新生司殿」
そう言って、メルド達は司に頭を下げるの
だった。
と、そこへ。
「皆っ!」
どこからか愛子先生がやってきた。
「あっ!愛子先生!」
それに気づいた雫が声を上げる。
更に……。
ズシンズシンと音を立てながらセラフィムが
やってきた。
「パパーー!」
そして、その肩にはフードを被ったミュウが
座っていた。やがてセラフィムが止まり、
手で彼女を包み込み優しく地面に下ろす。
ミュウは地面に降りると、ステテテーと
可愛らしい擬音が聞こえてきそうな足取りで
司の元へ走って行く。
「パパーー!おかえりなのー!」
そう言って司に飛びつくミュウ。司は彼女を
優しく抱きしめた。
「ただいま、ミュウ。所で、ティオの姿が
見えないようだが?」
「妾はここ、ですじゃ」
周囲を見回す司。すると人混みの中から
ティオが現れた。
「申し訳ありませぬマスター。少々不埒な
輩がおった者で。流石にミュウに凄惨な
場を見せる訳にも行かず、セラフィム
に任せてしまいました」
「そうだったのか。いや、護衛の任、
ご苦労だった」
「はっ。ありがたきお言葉、痛み入ります」
司はティオを労うと、ミュウの話し相手を
しはじめた。
一方、その事態について行けないのは光輝や
雫達だ。かれこれ別れて4ヶ月になるが、
別れた時はたった4人だった司たちが、
いつの間にか、ユエ、シア、ティオという
美女と美少女。更にミュウという幼女が
彼をパパと慕っている事も、色々頭を
抱える原因となった。
「かか、香織!?何!?一体何が
どうなってるの!?どうして司君が
ぱ、ぱぱ、パパなんて呼ばれてるの!?」
「お、落ち着いて雫ちゃん!ちゃんと
説明するから!」
頭がパンク寸前!と言わんばかりに目を回し
ながら香織に掴みかかる雫。香織は驚いた
様子ながらも、雫達に説明を始めた。
ユエ、シア、ティオの3人は、冒険の中で
出会い、今は仲間として一緒に冒険している
事。ミュウは(周囲の人が居た為海人族である
事は話さず)人身売買組織に誘拐された子供で、
助けた事がきっかけで懐かれ、今はミュウの
故郷に送り届ける依頼を受けている所だ。
と、香織は説明した。
「そう。……それにしても」
そう呟きながら、雫は司の事を見つめて
いた。
今、司はミュウを清水や愛子先生に紹介
していて、愛子先生や女子たちは、ミュウの
可愛さにメロメロだった。
そんなミュウを、優しく見守る司。
雫はそんな彼に見とれていた。
「ん?どうかしたの?雫ちゃん」
「え!?あぁうん!何でも無い!?何でも無い
から!あ、アハハハッ!」
と、咄嗟に取り繕う雫。
「そ、そうなんだ?」
香織は、そんな雫に戸惑いつつも頷いた。
もしこの時、光輝が少しでも雫を気にして
いたら、何か気づいたかもしれない。
だが。今の光輝は、どこか憎たらしげに
司を睨み付けるばかりだった。
その後、互いの事情を説明した後、司
とハジメ達はギルドに赴き、依頼の手紙を
ギルド支部長、『ロア・バワビス』へと
手紙を届けた。その際に、司たちが金ランク
の冒険者だと、受付嬢が叫んで告知して
しまうと言うちょっとしたハプニングは
あったが、それ以上の事は特に問題無く
進んだ。
メルド達や愛子先生、清水達とは2、3言葉を
交わしてからギルド前で別れた。愛子先生や
メルドは今回の一件をギルド支部長に報告
するためのようだ。清水達も先生の護衛
と言う事でギルドの中に入って行った。
のだが……。
「……どうしてお前達は付いてくる?」
町の出入り口近くの広場までやってきた司達
と光輝達。原因は雫だ。彼女自身、自覚は
無かったがフラフラと司の後を付いて回った
のだ。それはもう、親鳥を追いかけるひな鳥の
ように。光輝が雫に続き、他の面々も更に。
と言う感じだ。
「え!?あ、いや、えっと、その……」
そして肝心の雫は、そう聞かれテンパっていた。
ちなみに、周囲には既にガーディアンとハード
ガーディアンの姿は無い。既に回収済みだ。
と、その時。
「ッ。司」
「ん?」
ハジメが気づいて司に呼びかけた。見ると、
どうにもガラの悪そうな男が10人ほど、
立ち塞がった。
何やら物騒な連中だ。しかし……。
「ティオ」
「はい。妾が叩き潰した連中の仲間かと」
「そうか。……ミュウの事を」
「御意」
そして、奴らは言ってはならぬ事を言った。
『女を置いて行け』?『壊れる』?
……よし、殺そう。
そう考えた次の瞬間、私は音速の勢いで飛び出した。
ミュウはティオに頼んでセラフィムの中に入れて
貰った。中では、セラフィムがフィルター
を掛けているから大丈夫だ。
そして……。
『ズボォォォッ!!!』
一人の左胸を手刀で貫き……。
『グシャァッ!!』
貫いたときに掴んだ心臓を握りつぶした。
「ひ、ひぃっ!?」
それを間近で見ていた仲間と思われる男が
尻餅を付く。
私は貫いた右手を引き抜き、手に付いた血を
舐めるが……。
「ぺっ。……不味い血だ。流石はクズの血、
と言った所か」
すぐに吐き出し、周囲の連中を睨み付ける。
連中は怯え、まともに動けない。好都合だ。
私はすぐさまトールを抜き、放った。
『バンッ!』
「ぎゃぁっ!?」
足を吹っ飛ばされる者。頭が消し飛ぶ者。
上下に体が真っ二つに分かれる者。
そのまま、一人一人射殺していく。
そして、その後ろで光輝達は顔を青くしていた。
司が、何の躊躇いも無く人を殺しているからだ。
「お~お~!バカな連中だな~」
その時、雫の左手首の待機状態のジョーカー
からAI司の声が聞こえてきた。
「ティオに負けた時点で逃げりゃ良いのに。
ククッ。藪をつついて蛇どころか
覇王に遭遇って。は~。運が無いねぇ」
「ちょっ!?司!いくらなんでもこれは!」
「そうかい?だがオリジナルは、自分の
仲間に手を出す奴は決して許さない。
特にあぁ言う体目当てのゲス野郎共
なんざ、生かす価値なしってのが
オリジナルの信条だぜ?」
そう言っているAI司。実際……。
「ま、待てッ!命だけは!」
「知るか。死ね」
命乞いをする最後の一人の頭を、司は
足で踏み砕いた。
これで全部殺したか。しかし、死体を
置いておくのは不味い。私は、指を
鳴らして死体を消滅させた。ミュウに死体を
見せる訳には行かないので、血の一滴も
残らず、消滅させた。
「相変わらず、マスターはやることが派手
じゃのぉ」
「まぁ、司はあぁ言う手合い嫌いだし。
実際僕もだけど」
「……自業自得だよ。あんなの」
「ん。その通り」
「ざまぁ!ですぅ!」
「私もちょっとすっきりした!」
「パパ何かしたの?」
と、ティオやハジメ達は、もう血を見るのも
なれているのか、そんな事を言っていた。
そしてミュウは何も知らないので首を
かしげるだけだ。
「どうだい?俺のオリジナルは」
そして、後ろで事の次第を見守っていた
光輝達の中でAI司が話し始める。
「あぁ言う奴なんだよ。オリジナルに
とっちゃ、仲間や家族と呼べる者は、
この世界をぶっ壊してでも守りたい
存在だ。そいつを汚すとか犯す、なんて
言ってみろ?瞬殺だよ瞬殺。絶対に
許さねぇし、んな事させるかっての。
まぁレイプ願望のクソ野郎共には、
お似合いの結末だと思うがな。ククッ」
「おいっ!不謹慎だぞ!人の命が一瞬で
消えたって言うのに!」
「命が消えたって。お前バカかよ?
どう考えても戦争やる奴の台詞じゃ
ねぇなぁ」
「な、何だと!?」
「かつて、ダライ・ラマ14世は戦争を火事
に例えた。まるで生きた人間を燃料に
しているようだ、ってな。まぁその
通りだろ。戦場じゃ高々10人の命
なんて、簡単に消える。いや、戦争を
するなら小規模戦闘とは言え、10人、
100人。簡単に死ぬぜ?
……んな事も知らずに戦争をする
だって?笑えねぇ冗談だな」
「じょ、冗談だと!?」
「あぁ。戦争するって真っ先に言った癖に、
魔人族一人殺せねぇなんざ、半端物も
良い所だぜ!っと、そうだ!良い事
思いついたぜ!お~~い!オリジナル~!」
光輝にそう言うと、AIの司は司、
つまりオリジナルを呼びかけた。
前に居た司たちが振り返る。
「悪ぃけどよぉ、どうせ居るなら俺にも
『ボディ』くれよ!それも肉の!
そうすりゃこいつらの面倒見るし、
オリジナルの負担も減るだろ~!?」
「……ふむ。確かに」
そう言うと、司は雫達の方に歩み寄った。
「お、おい!待て!何を勝手に!」
「っるせぇよポンコツ勇者。テメェには
関係ねぇからすっこんでろ。悪いが
雫、オリジナルの側に寄ってくれ」
「え、えぇ」
訳が分からない、と言う感じで戸惑い
ながらも司に近づく雫。
そして二人があと数歩と言う距離で
見つめ合う。
「ッ!」
『あ、あれ?何だか、見られてるって
思うと、恥ずかしいな。髪とか、顔、
汚れてないかな?汗とか、臭くない
かな?』
と、内心戸惑いながら、若干顔を赤く
しつつそんな事を考えている雫。しかし
次の瞬間には、そんな事どうでも良く
なってしまった。
「では……。ティオ。ミュウをもう一度
セラフィムの中へ」
「りょ、了解じゃ」
司の指示の意図が分からず、戸惑いながらも
ミュウを再びセラフィムの中に入れる
ティオ。
それを確認した司はアレースを取り出すと。
無言で自分の左腕の袖をまくり、その左腕を
肘の辺りから切り落してしまった。
「ッ!?」
「きゃぁぁぁぁっ!」
あまりのことに驚く雫。後ろでは女子、辻が
悲鳴を上げている。
しかし当の司は、一切痛みを感じた様子も無く、
右手でアレースを地面に突き刺すと、親指を
歯でかみ切り、ポタポタと左腕に血を垂らして
行った。
すると……。
『グチャグチャッ!』
千切れたはずの左腕が音を立てて動き出した。
切断面から新しい骨と筋肉が生えていき、
それが左腕一本を形作り、更に肩、胴、頭、
足を次々と形成していく。そして、出来上がった
体を皮が多い、肉体が完成していく。
そしてそれと同時進行で、切断面から司の
新しい左腕が再生していった。
「うそ、だろ……」
ポツリと呟く永山。彼の視線の先では、
司と瓜二つ。唯一の違いとして、髪の青い
もう一人の司が立っていた。
更にオリジナルの司は、雫の待機状態の
ジョーカーに指先で触れた。すると、ジョーカー
からポウッと青い光球が取り出され、
司はそれをもう一人の自分の頭に押し込んだ。
すると……。
『パチッ』
「ん、ん~~。や~~っと生身のボディが
手に入ったぜ~」
青い髪の司の体が動き出した。声の方は、
普通の司と比べても、若干高めだ。
「まぁ、そう言う訳だ」
そして、そう言って二人目の司は光輝の
方に振り返る。
「テメェが戦争出来ないって言うのなら、
俺が戦争をしてやるよ。戦う気がねぇなら、
王城にでも引きこも」
と、その時。
「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」」
不意に、女子の悲鳴が聞こえ彼の声を
遮った。
「お、おいおい何だようるせぇなぁ」
「な、何だじゃないわよ!司!あ、ああ、
アンタその格好!問題よ問題!」
「あ?格好?」
と、呟きながら自分を見下ろすと、
彼は『裸』だった。
女子達は、顔を真っ赤にして両手で顔を覆うが、
若干指の合間から見ていた。
「お~っと、そうだった。おいオリジナル
服くれ」
「あぁ」
司は、パチンと指を鳴らした。するともう一人の
司に、オリジナルとは色違いで青く、背中に
『青龍』と書かれている事以外は同じ服装を
着せた。
「さて、これで良いだろ?」
そう言うと、AIの司は顎に手を当て、オリジナル
と自分を見比べた。
「ん~。俺もこいつも司だからなぁ。名前が
同じだと不便だし。……うっし。俺は今日
から『蒼司』、『ソージ』だ。蒼天の蒼
に司ると書いて蒼司だ。よろしくな」
そう言ってAI司改め『蒼司』は周囲に
挨拶をする。
ポカ~ンとしている龍太郎たち。
一方のハジメ達は……。
「僕、もう何も起っても驚かないって覚悟
決めてたから」
「うん。私も」
「……右に同じく」
「皆さん冷静ですね!?腕が人になったん
ですよ!?いやまぁ司さんの人外っぷりは
今まで見てきましたけど!けども!
これを驚かないってヤバいですよ!
お医者さん行きましょう!頭の!」
「流石はマスター、と言うべきじゃな。
妾ももっと精進せねば」
「ティオさん感心してる場合じゃないですよ!?
腕が千切れて分身して瞬時に再生とか!
見習っても真似出来ませんからね!?」
ハジメ達は感覚が麻痺し、シアがツッコみ、
ティオは憧憬の目で司と蒼司を見ている。
「な~んか周りが五月蠅いが……。
『そろそろ真面目な話をしようか』」
唐突に、真剣味を帯びる言葉。それだけで
周囲は黙り込み、顔を赤く染めていた女子
達は、今度は冷や汗を浮かべる。
「勇者君。勇者天之河光輝。……お前のその
腰に下げた聖剣と身に纏った鎧は何の為に
お前に与えられた?」
「そ、それは……」
「戦争の為だ。魔人族を殺す為だ。それを
お前は期待されていた。だが、実際問題、
肝心のお前は魔人族を殺せなかった」
「そ、それのどこが問題なんだ!殺すのは
悪だ!」
「だとしたら、この世界には悪人だらけ
だな。……お前、何の為に戦ってる?」
「そ、それは!この世界の人々を魔人族の
脅威から守る為に!」
「その守ろうとしている奴の中にこの国の
兵士も入れてるのか?」
「あ、当たり前だ!俺は皆を守る為に
戦ってるんだ!」
「あっそ。……無自覚もここまで来ると
病気だな」
「な、何を!」
「分かんねぇか?殺人=悪なら、国を守る
為に従事している兵士はどうなるんだよ?
お前の言い分をまとめれば、兵士の大半は
悪人って事になるぜ?」
「そ、それは……。い、いやでも!お前は、
いや新生は無抵抗の人間を殺したんだ!
それは悪だ!」
「ハァ。……平行線だから言うぞ。それが
戦争だ。お前が真っ先にやるって
言った行為だよ。
他人の体掻っ捌いて、切り刻んで、
燃やして、貫いて、溶かして、焦がして。
……殺すか殺されるか。それが戦争だ。
だがお前に人殺しは無理と来た」
「そ、そうだ!それのどこがダメなんだ!」
「そうだな。人としちゃ間違っていない。
だが、そんな奴が勇んで戦争参加だって?
矛盾なんてもんじゃない。発言が二転三転
してる。……はっきり言うがな、子供じゃ
ねぇんだぞ?」
「な、何だと!?」
「お前は戦争をすると言った癖に敵一人
殺せねぇ。……これを『役立たず』って
言わずになんて言うんだよ?え?」
「俺が役立たずだって言うのか!?」
「敵一人殺せねぇんじゃ兵士とは失格なんて
もんじゃねぇな」
「俺は兵士じゃない!勇者だ!」
「違いはねぇよ。勇者だ兵士だと言っても、
やれと言われているのは、戦場で敵を
殺せ、だ。ただスペックと階級が違う
だけ。やらされる事は同じだ。それが
人一人殺せないと来た。
……到底勇者の器じゃねぇよ」
「ッ!?」
ドスの利いた蒼司の言葉に、光輝は
奥歯をかみしめる。
「俺は元々、雫やお前等のサポートを
目的に作られた。だから、これから
俺がお前等の面倒を見てやるよ」
「ッ!?ふざけるな!誰がお前の面倒
なんかに!」
「おいおい。俺はお前の許可なんか
取る気は無いぜ。俺は俺で勝手に
お前等を護衛する。それが、俺が
創られた理由だからな。
俺は俺に与えられた『役割』をこなす
だけだ。……で?お前はどうなんだ?」
そう言って、周囲を見回した後、蒼司は
光輝に目を向ける
「お前は、与えられた『役割』を果たせて
いるのか?」
「当たり前だ!俺は勇者として、ちゃんと
やっている!」
そう叫ぶ光輝。
しかし、彼は気づかなかったが、永山などは
静かにため息をついている。遠藤たちも
懐疑的な視線を光輝に向けている。
「そうかい。まぁ良い。そう言うわけだ。
今後は、俺がお前等を護衛する。
俺は言わばクローンだからオリジナル、
司の7割くらいしか力は出せねぇが、
魔人族だろうが何だろうがぶっ潰して
やる。だから安心しろ」
そう言って笑いながらサムズアップする
蒼司。光輝や檜山はどこか睨むように蒼司を
見ている一方、永山の班のメンバー達は、
どこか頼もしそうに彼を見つめていた。
「どうやら、話は纏まったようですね。
では、今後雫達の事は蒼司、もう一人の
私に一任します。それでは皆」
「うん。行こう」
そう言って、司たちは歩き出した。だが……。
「ッ!待て!」
それを光輝が止めた。
「何か?」
司は、足を止め振り返る。
「香織!新生は危険だ!簡単に人を殺せるような
奴なんだ!そんな新生や、そいつに従っている
南雲と一緒に居るなんて危険だ!戻ってくる
んだ!そうすれば安全だ!だから!」
何とも自分勝手な言い分に、周囲がドン引きだ。
「……ごめん光輝くん。私はハジメくんと
一緒に居るって決めたから。……そう言えば、
雫ちゃん以外には言ってなかったよね。急
だけど、この場をお借りして皆に伝えたいと
思います」
そう言うと、香織は光輝達の方に体の向きを
変える。
「私、白崎香織は今、南雲ハジメくんと
お付き合いをしています。彼と一緒に行く
って、ずっと前から決めてたから。だから、
今は皆の所に戻れないの。ごめんなさい」
「え?」
そう言って、香織は頭を下げた。
呆けた声を出したのは光輝だ。
周囲の女子達は何やらキャーキャーと騒ぎ、
永山や遠藤達も、どこか祝福するような目で
香織とハジメを見ていた。
そして香織の告白に、光輝は驚き、数秒硬直する。
「香織が、南雲を好き?そ、そんなの可笑しい。
香織はずっと、俺の側にいたし、俺の幼なじみ
なんだ。それはこれからもずっと一緒で、
当然で」
「アホか。どうやったらそんな発想になるんだよ。
白崎が誰と結ばれるか、それを選ぶのは
お前じゃねぇよバカ」
「そうよ光輝。香織が誰を好きになるのか、
それを決めるのは香織自身よ。いい加減に
しなさい」
光輝にため息交じりの呟きを漏らす蒼司と
それを窘める雫。
しかし光輝は聞く耳を持たない。香織は
ハジメの側に頬を赤くしながら寄っていく。
しかしすぐにその周りで、シアやユエと
火花を散らす香織。
光輝にとって、『自分の』香織が、あんな風
に女を侍らせるハジメの元に行くのに、
怒りがわき上がった。そもそも、香織を
『自分の』と考えている時点で、外道と
言われても仕方ないなど、一切考えないまま。
「香織。行ってはダメだ。これは香織の為
に言ってるんだ。見ろ、南雲はあんな風に
女を侍らせて。人殺しだって出来る新生と
一緒に居る。危険だ。このままじゃ香織も
人殺しになってしまう。だから戻るんだ。
今ならまだ間に合う。さぁ!」
そう言って両手を広げる光輝。
「……お~いシアさ~ん。アータル
貸してくれ~。ちょっとこのポンコツ
脳みそ治すから~」
それを見ていた蒼司はシアにアータルを
貸すように要求するが……。
「蒼司さ~ん。それは無理そうです~。
治る気がしないですよ~」
「だよな~」
言っといてあれだが、的な感じで
頷く蒼司。
すると、今度は光輝の『標的』になった者
が居た。ユエやシア達だ。
「君たちもだ。これ以上、そんな男の元に
いるべきじゃない。君たちの実力は
見ていたし、大歓迎だ。シアと、ティオ、
それにルフェア、だったかな?新生は、
人殺しの最低な奴なんだ。もうそんな奴と
一緒に居る必要なんて無いんだ!
俺と一緒に人類を救おう!」
「……修理不可」
「じゃあ、廃棄処分にしますか~」
「……ねぇお兄ちゃん。あのクズの頭、
ミスラで吹っ飛ばして良い?
視界に姿を入れたくない」
光輝の言葉に、ユエ、シア、ルフェアは
殺意を浮かべる。
すると……。
「…………」
ティオが無言で光輝の元に歩み寄る。
「ティオ、分かってくれたんだね」
「…………」
光輝が声を掛けるが、ティオは無言だ。
と、その時。
『ドゴォォォンッ!』
「がはっ!?」
光輝の腹部にティオの豪腕から繰り出される
パンチが叩きこまれた。一瞬浮かび上がって
から、その場に膝を突き、殴られた腹を
両手で覆う光輝。
「な、なん、で。ティ、オ……?」
「気安く妾の名を呼ぶな、小僧」
見上げる光輝を、ティオは絶対零度の瞳で
見下している。それはもう、光など無い瞳で。
「図々しいにも程があるぞ小僧。妾は一度も、
貴様に名を呼ぶ事を許した事など無い。
そして、在ろう事か妾が仕える王を
愚弄するか!身の程を弁えよ小童が!」
『ドゴォッ!』
「がはっ!?」
ティオが、光輝の顎を蹴り上げる。
ひっくり返る光輝。
「マスター。許可を頂きたい」
「何の許可だ?」
「この場で、この男を殺させて下さい」
ティオの発言に龍太郎や鈴、恵里、雫が
驚き戸惑う。
「今回、マスターが策を弄さなければ
死んでいたであろう弱者の分際で、
あろう事か謝意の一つも現さず、
逆に侮辱するなど!万死に値する愚行!
マスターのもたらしたジョーカーが
無ければ死んでいたと言うのに、
この男は!お願いします!許可を!」
「……」
ティオの言葉を聞いた司は、静かに
彼女に歩み寄る。
「どうしたのですか!マスター!」
「ティオ。こっちを向け」
「え?」
呼ばれ、振り返ったティオ。次の瞬間。
『バッ!』
「あっ」
司は彼女を抱きしめていた。
「え?な、マス、ター?」
これには、驚き顔を赤くするティオ。
やがて、数秒すると司は抱擁を解いた。
「落ち着いたか?ティオ」
「え?あ、そ、それは……。はい」
若干戸惑いながらも頷くティオ。
すると……。
「私のために怒ってくれたのだな。ありがとう」
『ナデナデ』
司は優しくティオの頭を撫でた。
「私のためにあそこまで怒ってくれた、と言う
事は信頼の裏返しだ。……礼を言う」
「ま、マスター。私は、そんな……。
もったいなきお言葉を……」
「もったいない?そんな事は無い。
どこの世界に、自分のために怒ってくれた
家臣を蔑ろにする主がいると言うのだ。
ティオ、ありがとう」
そう言って、司は滅多に見せない笑みを
彼女に見せた。
「ッ!も、もったいなきお言葉、
痛み入ります!」
そう言って、ティオは司から離れ、その場で
跪いた。
司は、そんなティオの肩に手を置いた。
「良い。ありがとうティオ。……それに、
あの男はお前が手を汚すには汚すぎる。
それに、奴が死ぬと香織や雫が悲しむ。
だから、今は放っておけ。もし本当に、
敵として立ち塞がったのなら、その時は
私が手を下す」
「はっ!マスターの御心のままに」
そう言って立ち上がるティオ。
「さて」
と言うと、司は雫と蒼司の方に歩み寄る。
「雫、左手を」
「え?」
急な事に戸惑いながらも左手を差し出す雫。
すると司がジョーカーに触れた。
ポウッと光を放つジョーカー。
「司、これは?」
「ジョーカーをアップデートしておきました。
これまで以上の力が発揮出来るでしょう。
詳細は、蒼司。もう一人の私から聞いて
下さい」
「そう。……あの、ありがとう。助けに来て
くれて。ついでだった、みたいだけど」
「ついで、ではないですよ」
「え?」
「雫は、大切な友人ですから。本音を
言えば、ついでなのは雫以外、と言う事
です」
「ッ!そ、それって……」
『私を、助ける為に……?』
ドキッと、心臓が高鳴る雫。
「蒼司の元になったAIも、雫を守る為の
物ですから。……まぁ、とにかく。
無事で安心しました」
そして更に見せられた、司の笑みに
雫の鼓動が更に速くなる。
「これから私達はここを離れます。次に雫と
再会出来るのは何時か分かりません。
ですが、蒼司がきっと貴方を守って
くれるでしょう」
「おぅ。任せろオリジナル。きっちり
かっきり、守ってやるぜ」
そう言って白い歯を見せながら笑う蒼司。
「では雫。お元気で」
「う、うん。司君達もね」
その後、雫はバジリスクを召喚しそれに
乗り込み去って行った司たちを見送っても、
しばし左手首のジョーカーを右手で
抑えながらその場に立ち尽くし、去って
行った司の事を考えていたのだった。
第44話 END
今回は長くなってすみません。
次回は雫SIDEの話をしてから、更に次から
大砂漠でのお話になります。
感想や評価、お待ちしています。