ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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前回が長かったので、今回は短めです。



第45話 束の間の語らい

~~~前回のあらすじ~~~

勇者である光輝や雫達を勧誘、或いは抹殺を

狙って現れた魔人族の女、カトレア。しかし

司が事前に用意していたジョーカー装備の

メルド達という保険と、運良く合流出来た

司たち、清水たちの活躍によるカトレアは

倒された。しかしカトレアを殺した事で

光輝は司を危険視するようになる。そんな中、

司はAI司にボディを与え、AI司は

新たに『蒼司』を名乗り、雫達に協力する

事になったのだった。

 

 

司たちがバジリスクで去って行った後。

「さて、と。んじゃ宿にでも戻ろうぜ?

 お前等も疲れたし、いい加減休みたい

 だろ?」

「そうね。皆もそれでいいわね?」

蒼司の言葉に雫が頷くと、永山達が

頷く。が……。

 

「ちょっと待てよ!何でテメェが仕切って

 んだよ!」

小悪党組の一人、近藤が異議を唱えた。他

の二人も、そうだそうだ、と言わんばかり

に蒼司を睨む。

「仕切ってるんじゃねよ。提案してるんだ。

 まぁ、お前等の事だから俺の提案なんか

 聞きたかないみてぇだし、別に聞いて

 貰う必要なんて無いが。行こうぜ雫、

 永山たちも」

「あ、あぁ」

「そうね」

蒼司の言葉に永山と雫が頷き、彼等は

歩き出した。

「ま、待てよこの野郎!」

すると近藤が掴みかかるが……。

 

『バッ!ドタンッ!』

「ぐあっ!」

蒼司が片手で近藤を投げ飛ばした。

「お前はもうちっと分を弁える事を

 覚える事だな。……テメェ等のスペックじゃ

 俺の足下にも及ばねぇよ。行こうぜ」

そう言って、近藤達を置いて歩き出した蒼司に

永山や雫、戸惑いながらも恵里や鈴が

続く。

「ん?どうした光輝?行くぞ?」

そして龍太郎も続こうとしたが、呆然と

立ち尽くしている光輝に声を掛けた。

「え?あ、あぁ」

そして光輝は龍太郎に声を掛けられた事で、

ようやく我に返った。

 

しかし、その視界に蒼司を収めた時、光輝の

中では、彼自身も気づかない『負の感情』が

芽生えていたのだった。

 

 

その後、宿に戻った蒼司たち。そこには

ギルドへの報告を終えたメルドや愛子先生、

清水たちが先に帰っていたのだが……。

 

「えぇ!?し、新生君!?」

「ん?何っ!?って新生!?どうしたんだ

 その頭!?」

「あ~~。やっぱそう言う反応になるか~」

入ったら入ったで、愛子とメルドがとても

驚いていた。

 

その後、蒼司による説明がされた。

「つ、つまり、蒼司は二人目の司、と言う事

 になるのか?」

「まぁざっくり説明するとそんな感じですね。

 つっても俺の方はコピー体というか、分身

 みたいなもんなので、オリジナルの7割程度

 の力しか出せませんけど」

「し、新生の7割か。どれくらいなんだ?」

「どれくらいって言われてもな~。

 一言でいやぁ、拳一発で大陸を粉砕出来る

 くらい?」

「は?」

呆けた声を出したのは雫だ。

そして……。

 

「「「「「いやいやいやいやっ!待て待て待て!」」」」」

驚き、ハモる清水やメルド、騎士達に遠藤たち。

「こ、拳一つで大陸を割るって、どう言う

 力の強さなんだ!司!」

「そうか?だってオリジナルは、自力で

 ブラックホール生成、おっと。こりゃ

 言っちゃ不味かったかな?」

驚く清水に教える蒼司。

「ブラックホール!?こいつ今

 ブラックホールって言ったか!?」

「まぁその、なんだ。俺と司は9割

 人外だから。気にすんな」

と、更に驚く遠藤に答えるが……。

「気にするわ!と言うか自分で人外とか

 言うのかよ!?」

「え?だって事実だし?」

更にツッコみを入れる清水に対し、しれっと

言ってのける蒼司。

 

「まぁ、そういうわけだ。今後はお前達の

 武器の整備と改良、戦場での護衛を務める。

 これまでは雫の持つタイプCのAI

 だったが、こうしてオリジナル、つまり

 司に受肉、体を与えて貰ったから、

 これまで以上のサポートが出来ると

 思う。よろしくな」

 

こうして、雫達の仲間に蒼司が加わったの

だった。

 

そして、その日の夜、その力が早速

生かされた。

「はいよ!カレーライスお待ち!次

 遠藤!何にする!」

「お、俺はカツ丼!」

「はいよ!ちょっと待ってな!」

「俺はカツカレー!」

「はいはい、坂上はカツカレーね!

 ちょっち待ってな!」

夜、宿の食堂にて蒼司が料理の腕を振るっていた。

ウルの町へ行ったことの無い永山や龍太郎達に

してみれば、数ヶ月ぶりの祖国日本の味に

舌鼓を打っていた。

 

カレーに天丼、ラーメン。丼ものから麺類まで。

ウルまでゲートで行って仕入れてきた米や

蒼司が創り出した調味料や食材を使って、

各種日本食が振る舞われた。

この時ばかりは、近藤や檜山たちも大人しく

していた。懐かしき日本の味が恋しかった

のだろう。

ちなみに、すぐ側ではメルド達もまた、未知

の味である日本食に舌鼓を打っていた。

 

そして、皆が食事を終えて食堂を出て行った

後、蒼司は自分用の天丼を作ると、一人で

それを食べていた。

そこへ。

「蒼司」

「ん?ごくんっ。雫か?どうした?」

「ちょっと飲み物でも貰おうと

 思って。蒼司は、今夕食?」

「色々作ったりして片付けに時間

 掛かっちまってな。まかないの

 天丼だ」

そう言って笑みを浮かべる蒼司。

「っと、飲み物をご所望だったな」

そう言って箸を置き、席を立つ蒼司。

「え!?い、良いわよ自分で作るから!」

「気にするな。俺がお節介なだけだから」

蒼司は厨房にあった果実であっという間に

数種の果物のスムージーを作って持ってきた。

 

「ありがとう」

「いえいえ」

そう言うと、蒼司は自分の席に戻り、雫はその

向かい側に腰を下ろした。

「……ねぇ、蒼司はさ、変わったわよね?」

「ん?……ごくんっ。何だよ急に」

「いや、その。出会った時はもっと司君と

 似てたのにさ、今は全然違うって言うか」

「あぁ。その事か。……俺は元々AIだからな。

 雫のパートナーとしてフィッティング、

 最適化を繰り返していった。そして

 出来上がったのが、今の俺の人格って訳だ」

「ふ~ん。それで、蒼司が出来たって事

 なんだ」

「あぁ。お前に相応しいパートナーになる

 ためにな?」

「ぶっ!?げほげほっ!?な、ななっ!?」

スムージーを飲んでいた雫は蒼司の言葉に

顔を赤くしながら咳き込んだ。

「アハハハッ!冗談だよ冗談!」

「ッ~~!もう!」

飲んでいたスムージーのグラスをギュッと

握りしめる雫。

 

しかし……。

「けど、もし仮に、本当にどうしようも無い

 時は俺を頼れ。例えば、誰かを殺さなくちゃ

 いけない状況、とかな」

「え?で、でもそれは!」

「確かに、俺もオリジナルも、戦争をするなら

 人を撃つ覚悟を持てと言って居る。

 ……だが、だからといって友人が血に 

 汚れるのを、俺は見たくない」

「蒼司」

「……俺も、オリジナルから派生した人間だ。

 根っこは司と同じだ。……だからこそ、俺も、

 そして司も。……お前達と出会う前から

 その体を血で真っ赤に汚している」

「え?それって、どう言う……」

「悪いが俺の口からは言えない。ただ、

 一つ言える事があるのだとすれば、

 罪科を重ねるのは、既に罪科を背負っている

 奴だけで良い。そう言う事だ」

それだけ言うと、蒼司は残っていた天丼を

かき込んだ。

 

「蒼司」

「ごくんっ。……オリジナルのせいかな。

 俺も、一番怖いのは周囲の大切な奴が居なく

 なる事と、壊れてしまう事だ。それは、

 オリジナルも俺も同じだ。どれだけ強くても、

 それを振るう事を躊躇っていたら、大切な

 物を守れないかもしれない。だから俺は、

 それが罪だと分かっていても、力を振るう。

 ……お前の事を守る為に」

「ッ!」

『ドキッ!』

真剣味を帯びた瞳に見つめられ、雫の心臓は

一瞬高鳴る。

 

「雫は、しっかりしてる奴だと思う。周りの

 ために自分を押し殺して頑張れる姿は、

 凄いと思うが、同時に危うい気がする。

 けど、だからこそ、そんな雫が

 寄っかかれる奴が居たって、悪くは

 ねぇだろ?」

「そ、蒼司」

 

雫が頬を赤くしながら蒼司を見つめる。蒼司

は空になった丼を手に立ち上がった。

「これまで通りだ。周りの為に頑張れる

 お前を、俺が支える。今度は、もっと

 フィジカルにな。……だから、もしもの

 時は、全力で俺を頼れ。俺は、

 そのためにここに居るんだからな」

そう言うと、蒼司は空になっていた

雫のグラスも回収すると、「おやすみ」

とだけ言い残して厨房の奥に行ってしまった。

 

 

その後、雫は一人宿を出て外、夜のホルアドを

散歩していた。

頭に浮かぶのは、二人の男、司と蒼司の事だ。

二人の言葉が、頭から離れなかった。

 

≪無事で安心しました≫

≪雫が寄っかかれる奴が居たって、悪くは

 ねぇだろ?≫

 

雫の無事を喜ぶ司と。

雫を支える立場を選び続ける蒼司。

二人とも、ルックスはイケメンと言うには

十分な物だ。

敵には容赦無い事を除けば、時折見せる

優しさと、友人として必ず守り通す

意思。それを実行し戦う力。

 

雫は、古流剣術の道場に生まれ、剣の才を

持っていた。それからは剣の道の修練が

当たり前になった。

『女の子らしさ』とは無縁の生活。

そんなある日、道場に光輝がやってきた。

雫は、光輝の事を自分の王子様だと

思った。光輝の元でなら、自分も女の子に

なれる、そう思って居た。

 

だが、結局光輝がもたらしたのは、雫が

彼の側に居る事が面白くない周囲からの

やっかみと皮肉。そして光輝の軽はずみな

行動から、更に増していくやっかみ。

その当時、雫の心を支えていたのは同性の

香織だった。そんな生活が続いた結果、

雫の光輝に対する思いは、冷め切っていた。

 

光輝はあくまでも、幼馴染み、と言う

ポジションに落ち着き、一緒の時間を

重ねても、そのポジションが揺らぐ事は

二度と無かった。

 

そして、あの転移劇だ。突如として召喚

された異世界トータス。そんな異世界で

目にした司の力。雫にとって、司とは

ちょっと変わったクラスメイト、程度の

認識だった。天才である事は知っていた。

しかし周囲には殆ど無関心で、親しい友人

はハジメと香織だけ。それが司に対する

雫の認識だった。それがトータスへ来て、

覆った。

 

戦争の残酷さを語り、敢えて真実を突き付ける

存在。そして同時に、他を寄せ付けない

圧倒的な力を持つ存在。雫はこれまで、

誰かに守られた事なんてない。いじめを

経験した彼女にとって、自分の身は

自分で守らなければ。そう考えていた。

 

しかし、そんな中で雫は切札を託された。

そして出会った、AIの司、今の蒼司。

蒼司は雫をちゃんと見て、守る為に動いた。

ガーディアン部隊もそうだ。雫を守る

為に彼女に戦い方を教えたのも蒼司だ。

彼女の負担を減らすために、愚痴を

聞いたりもした。いつもが誰かの世話を

するばっかりだった雫が、最近までは

蒼司の世話になることが多かった。

 

そして何時しか、雫は蒼司という公私を

共にするパートナーを得た。周囲から

頼られる事の多い雫。そんな重圧に

押しつぶされそうな彼女を、蒼司が

支えていたのだ。

 

雫としては、嬉しかった。幼馴染みが

当てにならない今、頼れる存在が側に

居てくれた事は、雫にとって一つの救い

だった。

 

そんな中での迷宮の出来事。そして、

雫を助ける為に現れた司。

その時の姿は、王と呼ぶに相応しい、

威風堂々とした姿だった。

 

そんな司が、自分を助けるために、と

言ってくれたのだ。雫の中で、かつての

『王子様』を求める思いが再燃

し始めようとしていた。

 

当然、その有力候補は、司と蒼司だ。

二人とも、雫の事をちゃんと考えているのは

これまでの事を考えても明らかだ。

「ハァ。……何考えてるんだろう、私」

雫はそう呟きながら歩いていた。

『蒼司は元AIだし、香織から聞いたけど

 司はあのルフェアって亜人の子と結婚を

 誓い合った仲だって言ってたし。

 ……やめよう、今考えるのは』

そう結論付け、今は考える事を止めた雫。

 

しかしふと彼女が視線を動かすと……。

「光輝?」

ふと、街中を流れるアーチ状の橋の上に、光輝

の姿を見つけた雫は、彼の絶望したかのような

表情を見て、放っておけずに声を掛けた。

 

しかし、最初の返事の後、光輝は何も言わず、

雫も何も言わない。

「……何も言わないのか?」

「何か言って欲しいの?」

「……」

雫の言葉に、何も言えなくなる光輝。

 

やがて……。

「なんで、あんな、南雲なんか……!」

「……光輝、今の発言はどうかと思うけど?」

「え?」

「南雲『なんか』って言うけど、あなた一体

 彼の何を知ってるって言うの?香織は光輝が

 知らない南雲君の一面を見て、好きになった。

 それだけの事よ」

「けど!おかしいだろ!あんなオタクで、やる気

 も無い。いつもその場しのぎで笑っていただけ

 の男を香織が好きなんて!それだけじゃない!

 あいつは他にも、シアとユエを侍らせていた!

 きっと彼女達も香織も、南雲に何か脅されて」

『ズビシッ!』

「いっつ!?」

ヒートアップしていく光輝にデコピンを

撃ち込む雫。

 

「バカね。それこそ思い上がりよ。南雲君が

 仮にそう言う男だったとして、香織が

 気づかないと思う?」

「そ、それは……」

「彼女は自ら選んで、ハジメ君の傍に居る

 決意を固めた。それだけの事よ」

「けど南雲は!新生みたいな人殺しが

 出来る奴と一緒に居るんだぞ!?」

「……光輝、私は司君から青龍を貰った時、

 言ったわよね?後悔をするかもしれない。

 けれど元の世界に戻るためには、殺人も

 辞さない覚悟が必要。そう思ってるわ。

 まぁ、今までは手を汚さずに済んでるけど。

 今後はそうなるか分からない。そしてもし、

 私が人を殺したら?……そしたら光輝は、

 私を殺人犯だって軽蔑する?」

「そ、それは……」

言いかけて、言い淀む光輝。

 

「……。さっき、蒼司と少し話してたの」

「え?」

「彼は言ってたわ。……罪科を重ねるのは、

 既に罪科を背負った者だけで良い。蒼司は

 そう言って居たわ。……彼や司の言う

 覚悟を、人殺しの覚悟を正しい事とは

思わないけど、同時に戦わなければ

生き残れないし、帰れない。

 でも私達は、結果的に彼を、司を汚れ役に

 してしまった。……蒼司が以前言ってたわ。

 皆が優しいだけじゃ、いつか、どうにも

 出来ない事が起る。だから一人でも、

 非情になれる人間が必要だ、ってね。

 そしてその非情な人間という役目を、

 私達は結果的に二人に押しつけた。

 そう言う事よ」

それが、自分の出来ない事を他人にやらせて、

文句を言うなんてお門違いだ。

そう遠回しに言われていると分かり、光輝は

ムスッとした態度を取る。

 

「……光輝。正義感が強いのとかは、決して

 間違いじゃないと思う。でも、時には自分の

 正義を疑いなさい」

「正義を、疑う?」

「言ってたじゃない。戦争とは、互いの正義の

 つぶし合いだって。……誰にでも正義はあるのよ。

 だから、自分の正義だけが完全無欠の正しさ

 を持ってるなんて、思わない方が良いわよ。

 それは、ただの思い上がりよ」

「……」

 

雫の言葉に黙り込む光輝。

「……。もう宿に戻るわ」

それだけ言うと、雫は光輝の傍から離れていった。

「雫!」

「何?」

しかし不意に、光輝が雫を呼び止めた。振り返る

雫。

 

「雫は、何処にも行かないよな?」

「はぁ?」

「……行くなよ、雫」

それは、縋りつく言葉だった。

雫はその言葉に、呆れを覚えた。

「私、縋ってくる男はごめんよ。まぁ、

 今後は光輝次第、とだけ言っておくわ。

 それと。……昼間の発言、あれってまるで香織

 を自分の物、みたいな発言してたけど……。

 もし私に同じ事言ったら、ぶっ飛ばす

 からね?」

 

そう言って、雫は光輝の元を離れていった。

 

路地を歩いて宿に戻る雫。そんな中で雫は

考えていた。

『幼馴染み』としての雫にとって、光輝は

心配だった。だからアドバイスをした。

しかし『一人の女』としての雫から見れば、

今の光輝は、到底魅力的とは言えなかった。

そして、彼女が男の事を考えると、真っ先に

頭に浮かぶのが、司と蒼司だ。

 

しかし雫はその度に頭をかぶり振った。

「ダメダメ。……こんな事、考えたって

 しょうが無いんだから」

そう言って、雫は宿に戻っていった。

しかしその表情は、諦めようとしながらも、

諦めきれない葛藤の表情が浮かんでいたのだった。

 

     第45話 END

 




次回からはグリューエン大砂漠と大火山のお話になります。

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