ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回からアンカジ、延いてはグリューエン大火山編です。


第47話 西の砂漠へ

~~~前回のあらすじ~~~

司やハジメ達と別れた蒼司と雫達。彼等は

王都へと帰還するが、直後にエリヒド王など

から司の異端者認定の話が持ち上がる。それを

エヒトの介入の始まりでは?と感じた蒼司は、

特に信頼の置ける雫、愛子、清水、メルドの

4人のエヒトの真実や解放者の事を告げる。

司と王国の戦争を避けるために動きだそうと

5人は静かに動き出す。しかし、その日の夕方。

司をおびき寄せる餌にちょうど良いと考えた

エヒトの刺客が現れ、護衛の清水を倒して

愛子を誘拐してしまうのだった。

 

 

王都で、エヒトの暗躍が始まった頃。

司たちはバジリスクに乗り、西へと向かっていた。

辺り一面は、赤道色の世界だった。

砂が赤道色な事と、常に吹く風によって砂塵が

舞い上がり、360度、視界の殆どを赤道色で

染め上げている。

 

道なき道に加え、生きている、と表現出来そうな

程の動きで、大小ある砂丘が形を変えていく。

この世界の常識で考えれば、ここを行くだけで

死を覚悟しなければならないような、過酷な道だ。

 

しかし、バジリスクという車がある彼等にして

みれば、この程度造作も無かった。

「外、凄い事になってますね。バジリスクが

 あって助かりました」

ビシビシと、防弾仕様の強化ガラスに叩き付け

される砂を見ながら呟くシア。

「普通の馬車などでは、この環境は地獄

 じゃろう。まして徒歩となると、殆ど

 自殺行為じゃ。この砂漠を渡るのは、

 至難の業じゃろうて。しかし……」

同じように、外を見つめながら呟くティオ。

そして彼女は視線を自分の脇に移した。

 

彼女は一番後ろのベンチシートに腰掛け、

足を組み、胸を支えるようにその下で手を

組んでいた。そして、そんな彼女の左手首に

は、ハジメ達と同じジョーカーの待機状態

となるブレスレットが嵌められていた。

更に彼女のすぐ隣には、漆黒の鞘に収め

られた、第4のヴィヴロブレード、『玄武』が

立てかけられていた。

これは、仲間となったティオに対して司が

与えた物だ。

その玄武を見つめるティオ。

 

「マスターは何故妾にジョーカーとこの剣、

 玄武を?」

「ジョーカーシリーズには通常の防具など比較

 にならないほどの防御機能を持たせてある。

 いざと言う時に、身を守る装備として

 持っておくに越したことは無い。それに、

 それを持つ、と言う事は私からの信頼の証

 のような物だ」

「成程。つまりは、マスターから家臣への

 贈り物、と言う訳じゃな」

そう言って、納得するティオ。

 

「それにしても、青龍に白虎、玄武か。

 これはもう司のアレースを朱雀にする

 しかないね」

と、助手席シートに座っていたハジメが

笑みを浮かべながら呟く。

 

「ハジメさん。その青龍とかって一体

 なんなんですか?」

「青龍、白虎、玄武、朱雀って言うのはね、

 僕達の世界の神話に登場する霊獣。

 まぁ一言で言うと神聖な獣、って感じかな。

 今上げた4匹は、4つの方角を司る存在

 と言われているんだ。北の玄武。南の朱雀。

 西の白虎。東の青龍。で、その4匹にはそれを

 現す色があるんだ。青龍なら青。白虎なら白。

 玄武なら黒。朱雀なら赤。と言う具合にね」

と、説明をするハジメ。

 

「黒の霊獣。成程、黒竜たる妾と同じ色を持って

 おるから、玄武という訳なのじゃな、マスター」

「そんな所だ。加えて、玄武の武は、武神、つまり

 戦いの神の神性に由来するとも言われている。

 ティオ、お前の働き、期待しているぞ?」

 

「御意。マスターより賜った一振りに太刀、

 玄武に賭けて誓いましょう。妾は、マスター

 の家臣として、どこまでも付いて参る

 所存です」

と、軽く頭を下げながら呟くティオ。

すると、それをジッと見つめていた者が

いた。ミュウだ。ちなみにその膝の上では、

セラフィムをデフォルメしたかのような、

3頭身のぬいぐるみが抱かれていたが、

それがセラフィムの待機状態だった。

 

「ティオお姉ちゃん、何だかカッコいいの」

「ふふ?そうか?そう言って貰えると

 嬉しいのじゃ。ありがとう、ミュウ」

「ふにゅぅ」

笑みを浮かべながらミュウを撫でるティオ。

その様子を香織やユエが微笑ましそうに

見守っている。ちなみに、運転席の後ろの

3つシートは回転させて後ろ向きに出来る

ように改良してあるので、後ろではUの字を

描くようにシートを配置も出来る。今は

その形にしてある。

 

 

ユエやシア、香織、ルフェア、ティオがミュウ

の相手をしていて、私がドライバー。

ハジメが助手席でレーダーの監視をしている。

その時。

「ッ。司。3時方向に動体反応多数。データ 

 ベースと照合。……サンドワームだね」

「総員、魔物を確認した。シートベルト着用

 急げ」

ハジメの言葉に私が言うと、座席にシートベルト

で体を固定する。

ミュウの左右に香織とユエが座り、二人がかりで

彼女を座らせる。

私も窓から右側に目を向けると、右手の大きな

砂丘の向こう側に、巨大ミミズとでも呼べる

魔物、サンドワームが無数集まっていた。

体長が最大で100メートルにもなる巨大な部類

の魔物だ。獲物が近くを通ると、真下から奇襲

を仕掛けて来る厄介な魔物だ。

 

同じように窓の外の様子を見るティオ。

しかし……。

「……彼奴ら、妙じゃな」

妙?

「どういうことだティオ」

「はい。サンドワームは悪食として有名です。

 しかし今の奴らは、まるで餌を食うのを

 迷っているかのよう。妾の知識が正しければ、

 そのような事をするなど聞いたことも

 ありませぬ」

「では一体何故……?」

と、私が呟いたとき。

 

「ッ!?直下より急速に接近する物体あり!」

「ッ!総員掴まれ!」

直後に、私はアクセルを目一杯踏み込む。

加速したバジリスク。そして、それに一拍

遅れて砂丘が盛り上がり、砂の下から

サンドワームが現れた。

「続いて2匹目!3匹目も接近中!」

「やむを得ないか……!」

次々と地中から現れるサンドワームを、S字

を描くように回避していく。

「ハジメ!」

「分かってる!銃座のコントロールは任せて!」

 

ハジメのコントロールを受けて、バジリスク

上部に新設された新装備、搭載式レールガンが

稼働する。

助手席は、それを操作するガンナー席の役割

も果たしており、レールガンに付随するカメラ

を通して見えるサンドワームに狙いを定める

ハジメ。

 

そして……。

「レールガン、発射ッ!」

『ドゥンッ!』

火薬の発砲音とも異なる発射音と共に、レール

ガンから放たれた弾頭がサンドワームの胴体を

上下に、真っ二つに千切り飛ばす。

 

千切れ飛んだサンドワームの真っ赤な血が、

バジリスクの車体を汚す。

「誰か、ミュウに目隠しを」

「「もうやってる(よ)」」

私が言うと、すぐ後ろから香織とユエの声が

聞こえた。

チラッと後ろを見れば、どうやら香織とユエが

手でミュウの顔、正確には目元を覆っていた。

 

「む~!何で隠すの!何も見えない~!」

と、ミュウは駄々をこねる。

「ダメ、ミュウにはまだ早い」

「ミュウちゃんにはちょ~~と刺激が

 強すぎるからね~。ごめんね~」

そんなミュウを、そう言って宥めるユエと香織。

 

二人がミュウの視界を塞いでいる間に、

ハジメがバジリスクの遠隔操作式レールガン

で次々にサンドワームを撃ち抜いていく。

先ほど、砂丘の向こうに見つけた集団も

襲いかかってきたが、レールガンの敵では

無かった。

 

ものの数分もあれば、全滅だった。

「ふぅ。……レーダーに敵影無し。

 終わったよ司」

「ご苦労様でした、ハジメ。西へ

 向かうのに、念のためにと装備を換装、

 強化していた甲斐がありました」

元々バジリスクには、バルカン砲などを

装備していたが、それでは装備が貧弱では

と思い、装備をレールガンに変えておいたのだ。

重量が若干増加したので、燃費と最高速度が

若干低下したが、まぁそこは許容範囲内だった。

 

その時。

「ねぇ二人とも!あれ!」

不意に、外の様子を見ていた香織が叫んだ。

「あそこ!人が倒れてる!」

「えぇ!?」

香織の言葉に驚くハジメ。彼は慌てた様子で

外を見る。

「ホントだ!司!人が倒れてる!」

「こちらも確認しました。接近します」

既に二人の性格は百も承知だ。私はバジリスク

を倒れている人物の元へと走らせた。

「念のため、ユエ、シア、ルフェアは周囲を

警戒。ティオはセラフィムと共にミュウの警護。

ハジメは香織とあの人物の治療を」

「「「「「「了解!」」」」」」

 

私の指示に従い、皆がテキパキと動き出す。

皆が皆、まずジョーカーを纏う。

砂塵が舞うこの環境では、ジョーカーを

纏っていた方が安全だからだ。

そして、ティオもまた、彼女専用の

ジョーカー、タイプTを纏っていた。

 

彼女の纏うタイプTは、ウィザードモデル

と同じで各部に魔力増幅用ジェネレーターを

内蔵しているが、背面には重力制御装置と

装着式小型ブースターを装備。出力も

高めに設定してあり、魔法と近接戦の

双方を視野に入れた設計だ。ユエのタイプU

と違い、掌のビーム砲を装備していない分、

パワーはタイプU以上だ。

 

黒をベースカラーとし、金のラインが走る

タイプTは、私のZと似ていて、

ラインの色・尻尾の有無、装備の差異などが

無ければ見分けられないだろう。

 

腰元に玄武を携えた状態で真っ先に外に

出て周囲を警戒するティオ。それに

続いて香織、ユエ、シア、ルフェアが

外に出る。

 

そしてミュウが外に出ると、ぬいぐるみの

形をしていたセラフィムが粒子に一旦変換

され、彼女を包み込むようにして本来の

姿に変化。ミュウは既にセラフィムの

ポッドの中だ。

シア達が周囲を警戒する中、ハジメと香織が

倒れている人物に駆け寄る。

 

相手は、ガラベーヤ、エジプトの民族衣装に

酷似した衣類を纏い、大きなフード付きの外套

を更にその上に纏っていた。うつ伏せに

倒れているため、顔は分からない。念のため

周囲に結界を展開し砂を遮断。

香織が相手を仰向けにして、フードを取った。

 

「ッ!これって……!」

フードを取った相手は、20代くらいの男性

だったが、彼女が驚いたのは彼の容態だ。

目や鼻から出血し、血管が目に見えて分かる

ほど浮かび上がっている。

 

「どうやら、ただの日射病ではなさそう

 ですね。全員、ジョーカーを解除しない

 ように。空気感染の恐れがあります」

私はすぐに周囲に警告を呼びかける。

一方の香織は、相手に魔力を浸透させる事で

状態を診察しステータスプレートに表示する、

『浸透看破』という技を発動させた。

 

「香織、どうですか?」

「うん。この人の状態は分かったんだけど……」

彼女に見せて貰ったプレートによると……。

 

『状態:魔力の過剰活性。体外への排出不可

症状:発熱・意識混濁・全身の疼痛・毛細血管

の破裂とそれに伴う出血

原因:体内の水分に異常あり』

 

体内の水分に異常?まさかサンドワームは本能的

に獲物が毒を持っていると理解していたから

捕食する事を躊躇っていたのか?

「……何か、毒性の飲料水でも飲んだのでしょう

 か?」

「多分。それが原因だと思う。そして、強制的

 に強化された状態になっているから、逆に

 体が付いてこれないんだと思う」

そう言うと、香織が状態異常を回復させる魔法、

万天を放つが、殆ど効果は無かった。

 

「ダメ。もう万天じゃ治せない程溶け込んでる

 みたい」

「香織。変わって下さい」

「あ、うん」

私は香織と場所を変わり、青年の胸に手を当て、

彼の体の中を精査する。

 

そして……。本来人体には無い毒素の存在を

見つけた。

「……どうやら、香織の言うとおり、既に

 毒素が体全体に浸透しています。万天で

 治癒出来ないのも、無理は無いですね」

「どうにか出来る?司くん」

「……応急処置としては魔力を強制的に

 吸い取る、と言う事で良いでしょうが、

 根本的な解決には毒素の除去が

 必要です。しかし、人は体内の20%

 の水分を失うと死亡する危険性が

 あります。……少し集中させて下さい。

 水分を消さずに毒素を除去出来るか、

 やってみます」

 

私の能力の一つ。存在や概念への干渉能力に

より毒素の除去自体は大した問題ではない。

だが、水分を減らしすぎると彼が死ぬ。

それを避ける為には、水分中に溶け込んだ

毒素のみを的確に除去するしかない。

 

私は、目を閉じ彼の体の中をより精査する。

一度でも、毒素の存在を完全に捉える事が

出来れば、特定の存在への干渉能力で

どうにかなるが、間違えて水分も一緒に

消してしまうと取り返しが付かない。

 

とにかく、まずは彼の体の中を徹底的に調べる。

 

そして、1分後。

「捉えた」

毒素のデータを採取し終えた私は、静かに

左手を掲げ、パチンッと指を鳴らした。

干渉能力で毒素の除去には成功した。

皆が、静かに見守っていた。更に中に

溜まっている魔力も、私の力で体外へと

放出させた。放出した魔力は、私の体に

取り込み糧とした。やがて……。

 

「あっ!司くん!」

香織が叫びながら彼の顔を指さす。

見ると、先ほどまで浮かび上がっていた

血管の形が消え、脈も低下。出血は少々

続いているが、荒い呼吸も無くなった。

 

それを確認した私は、流石に息をついた。

「ふぅ。……どうやら成功のようですね。 

 香織、すみませんが彼の治療を。

 毒素を除去したとはいえ、損傷した

 血管の治癒はまだですから」

「うん。任せて。あ、そうだ。この人を

寝かせたいからバジリスクの中に

運んでも良いかな?」

「分かりました。では、ハジメ。彼の足の

 方を持って下さい」

「了解」

 

私はハジメと協力して男性をバジリスクの後部

の床の上に寝かせた。皆もバジリスクに

乗り込むとジョーカーを解除した。調べてみた

所、空気感染のリスクは無いと分かったからだ。

加えてバジリスク自体に追加していたシールド

展開装置も起動する。

 

既に目元や鼻からの出血は香織が治癒した事で

収まっている。今は血で汚れた顔を

濡らしたタオルで拭いている。

 

と、その時。

「う、うぅ……」

青年がうめき声を上げ、瞼を震わせながら

ゆっくりと目を開いた。

そんな青年を心配そうにのぞき込む香織。

すると。

「女神?あぁ、そうか。ここはあの世か」

などと言って居る。どうやら香織を女神と

思って居るらしい。まぁ実際、彼女は

地球でも女神と言われたほどだからな。

とはいえ……。

 

「残念ながら、ここは天国でもありませんし

 地獄でもありませんよ?」

「え?」

私の声に、青年は疑問符を浮かべながら

ようやく周囲の状況に気づいたようだ。

ここはどこだ?と言わんばかりに周囲を

見回している。

 

「あなたは砂漠で行き倒れていたのですよ。

 何やら毒物に侵されていたようなので、

 念のため治療しておきました。っと、

 折角なので名乗っておきましょう。私は

 新生司。この一団のリーダーをしています」

と、私が自己紹介をした後、ハジメ達も

自己紹介をした。

やがて、最後には青年の自己紹介の番となった。

「まずは、助けていただいた事と治癒して

 くれた事に感謝する。ありがとう。私の名は

 『ビィズ・フォウワード・ゼンゲン』。

 アンカジ公国領主、ランズィ・フォウワード

 ・ゼンゲン公の息子だ」

「えぇ!?領主様の、息子!?」

驚いた様子のハジメ。周りの香織やシア、

ルフェアも驚いているが、無理も無い。

「なぜ、領主の息子であるビィズさんが

 このような場所で?」

私と同じ疑問を持っていたのか、ハジメと

香織達がうんうんと頷く。

 

「それについて、順を追って話そう」

 

そう言ってランズィはアンカジ公国を

襲ったある事件を話し始めた。

 

 

事の始まりは4日前からだった。突如として

原因不明の高熱に倒れる人々が続出。

初日の内に人口27万の内の3千人が意識不明

の重体。同様の症状を訴える物が2万人にも

上ったと言う。原因が分からず、応急処置は

出来ても完治が出来ない状況が続き、人手は

足りず、患者も増加傾向のまま。遂には

医療関係者も発症し、事件発生から2日後。

処置を受けられなかった人々の中から死者が

出始めた。

 

そんな中、調査チームがふとした事から

飲料水として使われているオアシスの水を

調べた所、毒素が検出され、原因は分かった。

しかし原因が分かっても治療に必要な物が

無かったのだ。

 

それは『静因石』と言う鉱石だ。この鉱石には

魔力の活性化を鎮める効果があり、目下の

治癒の方法としてその静因石を粉末状にして

服用し、汚染された毒素を含む水分を汗や

尿として体外に排出する、と言うのが

現状彼等に思いついた解決策だった。

しかし、静因石はずっと北の岩石地帯か、

グリューエン大火山でしか採取できない。

岩石地帯は遠く、とても数日で帰れる距離

ではなく、大火山の方はそこに行けるだけ

の冒険者も病に倒れている現状だった。

そもそも生存に必要な、汚染されていない水の

ストックが殆ど無い現状において、とにかく、

一刻も早い救援が必要だった。そこで、四の五の

言わずに救援を要請出来る立場にある領主の

ランズィか、その代理であるビィズが王国に直接

救援要請をするしか無かった。

 

 

「そして、ビィズさんは護衛と共に昨日

 アンカジを出発した。けど……」

「護衛はサンドワームに襲われ全滅。

 しかしミスタービィズは毒素に侵されていた

 事が幸いして奴らに襲われずに済んだ、

 と言う事ですか」

と、呟くハジメ。私がその後に続く。

「私も感染していたとは。そして、

 何とかストックがあった静因石の服用を

 怠ったあまり、あの様という訳だ。

 ……情けない……!」

そう言って、ギュッと拳を握りしめるビィズ。

「今もアンカジの民が苦しんでいると言う

 のに!」

 

……どうやら彼は、上に立つ者として、立派な

志を持っているようだ。

やがて、ビィズは私に目を向ける。

「新生殿。貴殿達が私の毒素を取り除いて

 くれたのだな?」

「えぇ」

私が答えると、しばし考え込んだビィズは、

次の瞬間に、頭を下げたのだ。

 

「アンカジ公国の領主代理として、貴殿達に

 正式に依頼したい。どうか我が国を

 救うために、貴殿達のお力添えして頂きたい」

そう言って頭を下げるビィズ。

彼の姿勢を見て、私は周囲を見回すが、別に

考えるまでも無い。急ぐ旅ではないし、

ハジメ達の性格も考えれば、答えはとっくに

決まっている。

 

「分かりました。良いでしょう」

「ッ!?本当か!」

バッと頭を上げるビィズ。

「えぇ。元々アンカジに行く予定でしたし、

 水の問題と毒素の問題は、我々が解決

 出来るでしょう。なので、今すぐ

 アンカジに向かいますが、何か問題は?」

「無いっ!頼む!アンカジの民の為!

 宜しく頼む!」

 

「さて、一応ハジメ達に聞いておきますが、

 異議などは……」

「「「「「「異議無し」」」」」」

やはり聞くまでも無かったな。

 

と言う事で、早速私達はアンカジ公国に向かって

バジリスクを走らせる。

その道中、ビィズはハジメや香織が神の使徒

である事や、全員が金の冒険者ランクである

事などを話した。

 

「神の使徒様たちとは。……ここで貴殿達と

 出会えた事は、僥倖と言わざるを得ないな。

 ……しかし、勢いで言ってしまったが、

 毒素の件はともかく、貴殿達には水を

 用意出来る算段があるのか?」

「えぇ。まぁ大体の事は司がどうにか

 出来ると思います」

「何と。それは本当か?」

ハジメの言葉に驚くビィズ。

その後、時間があったのでバジリスクの事や

私の事をティオなどから聞いたビィズ。

そして、大凡の話を聞き終えると、やはりと

言うか、とても驚いていた。

 

「まさか、貴殿達があの、ウル防衛戦で活躍

 したと言うG・フリートなのか?噂には

 聞いていたが、まさか実在したとは。

 私としては、てっきり法螺話の類いかと

 思って居たのだが……」

そう驚きながら呟くビィズ。まぁ無理も

無いだろうと思って居た。

 

G・フリートの話は、大半の人間に

してみれば眉唾物なのだろう。ならば、

ここで私達が動く意味もある。私達の名を

より広げる意味でも、な。

 

解放者達は、神の敵というエヒトの言葉を

信じた人間によって敗れたと言ってもいい。

なればこそ、それに立ち向かうためには、

仲間か、理解者が必要なのだ。と言っても

真実を知る必要は無い。『本当にG・フリート

は神の敵なのか?』と疑う認識を人々に

植え付けることが出来れば御の字だ。

 

とにかく、今はアンカジだ。

 

そして、しばらく赤銅色の世界が続いていた

が、不意に私達の前方にミルク色の防壁が

見えてきた。その防壁の大きさはフューレン

の物を更に超える大きさで、何やらバリアの

ような物がドーム状に展開されている。

恐らくあれで砂の侵入を防いでいるのだろう。

 

私達は光り輝く門から中へと入った。どうやら

門も同じような作りのようだ。入ったら

入ったで、門番は驚きこそするが、どこか

投げやりだ。まぁ、アンカジが大変な事に

なっているのだ。無理も無い。最も、ビィズが

姿を現した途端、覇気を取り戻した様子

だったが。

 

入場門は高台にあり、そこからアンカジの街並み

を一望出来る作りになっていた。そこから見る

アンカジの街並みは、砂漠のオアシスと呼ぶに

相応しい物だが、今は件の問題のせいで活気が

無く、どこか閑散としていた。

「……美しい町じゃが、惜しいの。活気がある

 町を目にしてみたいものじゃ」

アンカジの街を見つめながら呟くティオ。

ハジメやユエ、ルフェア達も、静かに頷く。

しかし今は時間が惜しい。

「ミスタービィズ。貴方のご家族がいるのは、

 あの西側の宮殿ですか?」

「あぁ、そうだ。本当なら、活気のある街並み

 を見せたかったが……。急いで宮殿に

 向かってくれ」

 

ビィズの案内の元、私達は宮殿に急いで

向かった。

 

宮殿の前に到着するなり、見た事も無い

バジリスクに兵士達が驚くが、中から私と

ハジメに担架で運び出されたビィズを見て、

彼に言われるとすぐさま道を開けた。

治療したとは言え、失われた体力がすぐに

戻るわけでは無いので、こちらの方が速いと

判断し、私とハジメが担架でビィズを運び、

それに付いてくる香織達。

 

そしてビィズによる案内の元、彼の父であり

ここアンカジの最高責任者であるランズィ公

の執務室に向かった。そこでは、執務をしていた

ランズィ公の姿があった。衰弱しているとの事

だが、どうやら根性で仕事をしているようだ。

 

「父上!」

「ビィズ!お前どうして!いや、それに周囲の

 者達は一体!?」

ランズィ公にとって、使者として昨日送り出した

息子が謎の鎧を纏った者達に担架で運ばれて

きたのだ。驚くな、と言うのが無理な話だろう。

 

私はハジメと協力してビィズを手近な椅子に

座らせるとランズィ公の前で敬礼しながら

ジョーカーの装着を解除した。

ハジメ達もそれに続き、ミュウはぬいぐるみに

戻ったセラフィムを抱きかかえている。

 

「初めまして。急な訪問をお許し下さい。私

 は独立武装艦隊、G・フリートの総指揮を

 している新生司と申します。このアンカジ

 を目指して移動している際、道中で

 倒れていたミスタービィズを発見し保護

 した為、彼を護送して参りました」

「そうだったか。……しかし、これでは

 救援の要請が」

息子であるミスタービィズが無事だった

とあってランズィ公は安堵した表情を

浮かべるが、すぐにその表情を曇らせた。

 

「父上!ご心配には及びません!新生殿は

 私を治癒してくれました!新生殿のお力

 ならば、民を治せるやもしれません!」

その時、ミスタービィズは椅子から僅かに

震える体で立ち上がった。咄嗟にハジメが

手を貸そうとするが、彼はそれを手で

断ってランズィ公の執務机の前まで進む。

 

「何と!?真なのか!?新生殿!」

「えぇ。毒素にやられ倒れていたミスター

 ビィズを保護しました際、彼の体内に

 滞留していた毒素を私の力で除去した

 あと、体内に溢れていた魔力も除外

 する事でミスタービィズを治療する事

 に成功しました」

「それで、それはどれほど可能なのか!?

 聞かせてはくれまいか!?」

どうやら、民を救える可能性がある事実に、

藁にでも縋る思いなのだろう。椅子から

立ち上がるランズィ公。しかし、その

憔悴した表情から、無理をしているのが

理解出来る。

「それは別に構いませんが……。一つ

 試して見たい事があるのです。誰でも

 良いので、毒素に侵されている

 患者を一人、連れてきて下さい。私達の

 力で人々の治癒が可能かどうか調べ

 るので」

「分かった!おいっ!」

 

私の言葉に、ランズィ公は傍に居た兵士達に

命令を飛ばした。

兵士達が外に出て行く中、私は事前に開発

しておいた治療器具を収めたケースを

呼び出した。

 

「このケース、このテーブルの上に置いても?」

「あ、あぁ。構わん」

ランズィ公に許可を取り、執務机の前にある

テーブルの上にケースを置き、ロックを解除。

中から、拳銃のグリップのような持ち手を

持つ注射器を取り出した。

 

「新生殿?それは?」

と、私の持っている拳銃型注射器を見てビィズ

が不思議そうな視線を向けてくる。

「これは、人の体内に薬剤を投与する装置

 です。先ほど、ミスタービィズの毒素を

 除去した時のデータを元に、毒素に対する

 解毒剤を精製しました。これを投与すれば、

 毒素の問題はひとまず解決します」

「何と!?それだけで!?」

驚くビィズ。無理も無い。この世界の医療

技術は、魔法による治療に頼っている側面が

ある。しかし、それが逆に医療技術の発展を

妨げていると言っても良いのかもしれない。

 

本来、生物による毒に対しては、その毒を

少量動物に与え、体内で精製された抗体を

抽出し、それを解毒剤とする。

そして、今回抗体を生成したのは、他ならぬ

私だ。体内で精製した抗体を元に創り上げた

これなら、毒素の除去は可能だろうが、

こう言った類いの物はまず試してからだ。

万が一拒絶反応など出ないように、人間の

治癒に適した抗体を生成したつもりだが、

万が一はありえるからだ。

 

しかし、これで彼等が救えるのなら、ハジメ

や香織の願いを叶えるだけではない。我々

G・フリートの持つ医療技術を広く周囲に

広めると言う目的も果たせるだろう。

先ほどの通り、この世界の医療技術は魔法

に頼っている節がある。万物を治癒し、

瀕死の者すら全快させる神水も、ある意味

ファンタジー世界の万能薬だが、おいそれ

と一般人が手に出来る存在ではない。そして

魔法でどうにかならないとなると、八方

塞がり、と言うほどでは無いかもしれないが、

打つ手が少なくなるのは確かだろう。

 

このトータス人の人々にしてみれば、純粋な

技術と発展の歴史によって支えられた私達の世界

の医療技術は、それこそ仰天ものだろう。

だからこそ、披露する価値があるという事だ。

 

と、その時。

「言われたとおり、患者を一名、連れて

 来ました!」

扉が開いて、兵士に両脇を支えられた男が

やってきた。

男は殆ど死にかけの様子だ。あれでは

今日という日を無事に超えられるかさえ

怪しいな。

 

「その男をこの椅子に座らせて下さい」

私はパイプ椅子を作り出すとそれを

指さし、突然現れた椅子に驚きながらも兵士達は

そこに男を座らせた。

私が近づくと、男は殆ど光の無い瞳で私を

見上げながら呻いている。意識の混濁も

見られる。このままでは危険か。

「痛みは一瞬だ。男なら耐えろ」

そう言って、私は男の二の腕に拳銃型注射器を

押し当て、引き金を引いた。

プシュッと言う音と共に、カートリッジに

装填されていた解毒剤が見る間に男の体内に

浸透していく。

一瞬、うっと唸った男だが、それだけだ。

 

これで毒素の方は良いだろう。私は空になった

カートリッジを取り外してから、男の体を

スキャンする。……どうやら成功のようだ。

毒素が消えていく。

「では、最後の仕上げに」

私は左手でパチンと指を鳴らす。私の存在への

干渉能力は万物に通用する。当然、魔力にもだ。

 

私の力で、男の体内に蓄積されていた魔力を

霧散させる。

すると、呻いていた男が次第に安らかな表情を

浮かべ、呼吸を安定させていく。

そして……。

 

「う、うぅ。俺、は……」

男は意識を取り戻し、周囲を見回した。

「お、おぉ!これは!」

その様子に驚き椅子から立ち上がるランズィ公。

私は男の手を取り、脈を測る。

「……脈も正常値まで落ち着いています。

 どうやら、この解毒剤はちゃんと使える

 ようですね」

すると……。

 

「そうと決まれば、やることは一つだね」

そう言って、準備運動のように肩を回すハジメ。

香織やユエ達も、やる気十分、と言わんばかりの

表情だ。

では……。

「G・フリート各員へ。これより我々は

 アンカジ公国で蔓延している毒素に侵されて

 居る人々の救助活動を行う。これから人数分

 の注射器と解毒剤を配る。また、罹患者が

 多いためガーディアン部隊も増援として

 配備する。これから各員の担当地区を

 設定し、そこら一体の患者への解毒剤投与を

 行って貰う。諸君等はガーディアン部隊を

 率いて解毒剤を順次投与。その後は私の

 力で罹患者の魔力を消滅させる」

「「「「「「了解!」」」」」」

 

ハジメ達の返事を聞いた私は、ミュウの方へと

振り返った。

「ミュウ、私達はこれから、この国で苦しんで

 居る人を助けてくる。ここで、セラフィムと

 待っていてくれるかい?」

「うん!ミュウ、待ってるから!だから、

 いってらっしゃい!パパ!」

そう言って笑顔で送り出してくれるミュウ。

 

彼女にここまで言われては、頑張るしか

無いな。

「さて、では皆。行くぞ。人命救助だ」

 

 

こうして、G・フリートによるアンカジ公国

の救援作戦が始まった。

 

     第47話 END

 




大学が忙しかったり、気分が乗らなかったりで遅くなりました。
今後、もしかしたらこれくらいにスピードが落ちるかも知れませんが、
宜しくお願いします。

感想や評価、お待ちしています。
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