ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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最近、投稿の間隔が空いてしまってすみません。
しばらくはこんな感じになるかもしれませんが、
やる気がブーストするともっと早くなります。


第48話 救援、アンカジ公国

~~~前回のあらすじ~~~

次なる大迷宮攻略の為に西へと移動するハジメと

司たち。そんな彼等はグリューエン大砂漠を横断中

にサンドワームの群れに襲われていた人物を

助けた。未知の毒素に侵され瀕死だった人物、

は彼等が向かっていたアンカジ公国の領主の

息子、『ビィズ・フォウワード・ゼンゲン』だった。

彼からアンカジの事情を聞き、更に自分を治した

事から、ビィズは司たちに救援を依頼。

司たちは早速アンカジへと向かい、そこで

ビィズの父である『ランズィ・フォウワード・

ゼンゲン』公と会った直後、司の開発した解毒剤

を一人の男で試し、更にG・フリートの

メンバーによるアンカジ公国民の救済作戦が

始まったのだった。

 

 

今現在、アンカジ公国内部は騒がしい状態が

続いていた。例の毒素に侵されているのにも

関わらず、だ。

まぁ無理も無い。何せ魔物かと疑うような

見た目のガーディアンを引き連れたハジメや

私達が病院に行けば、皆何事だと疑うのも

無理は無かった。

一応、ランズィ公の部下たちが同行してくれた

おかげで目立った問題は無い。

 

「総員傾注。まず我々が優先するのは、

 医療関係者と子供、重症者の治療だ」

「「「「「「了解っ」」」」」」

「よし、行動開始っ」

私が指示を飛ばすと、ガーディアン部隊を

率いたハジメ達が周囲に散っていく。

 

既にアンカジ公国民の大半が罹患している。

彼等全員を収容する医療機関は無いため、

今は病院を始め、大きな家屋。果ては建物の廊下

や野外にテントを張ってそこに人を寝かせている

状態だ。回復魔法や魔力譲渡技、『廻聖』を応用した

魔力吸収が使える香織は重症者のグループを。

ルフェアやシアなどには子供。

ハジメとティオには医療関係者の方を

重点的に回るように指示してある。私は

それ以外の患者を受け持つ。

 

「あ、あの。これは一体」

そして、私も動き出そうとしたとき、恐らく

医療関係者と思われる女性が声を掛けてきた。

彼女からしてみれば、現状が理解出来ないの

だろう。

「ご心配にはおよびません。我々は

 独立武装艦隊G・フリート。私はその

 G・フリートの隊長をしている者です。

 現在我々はアンカジ公国領主、ランズィ

 ・フォウワード・ゼンゲン公の依頼に

 より、アンカジ公国民に蔓延する毒素を

 分解する解毒剤を提供します」

「げ、解毒剤を!?本当ですか!?」

「はい。現在私の仲間が医療関係者、

 子供、重症者に対し優先的に解毒剤を

 投与しています。加えて、現在罹患者の

 体内で異常増幅している魔力に対しても

 手立てはあります」

「なら、私にも手伝わせて下さい!

 お願いします」

「……分かりました。では手近な患者の

 所へ」

「はいっ!」

 

彼女は医療関係者のようだ。ならば尚更、

私の医療行為がこの世界基準で見て、どれだけ

先を行っているかを、一般人よりも理解出来る

だろう。ちょうど良い。

それに、人は一人でも多い方が良い。まずは

解毒剤を罹患者全員に投与しなければ

ならない。

 

私は彼女や、彼女が集めてきた動ける

医療関係者の前で拳銃型注射器を

使って患者の一人に解毒剤を投与。更に香織と

同じ『浸透看破』の技が使える者に頼んで、実際

に毒素が消えている事を証明して貰った。

 

「すごいっ!本当に毒素が消えてる!」

「この注射器、と言うアイテムは後部に

 あるカートリッジを取り替える事で

 何度でも使用出来ます。ただし、

 使用の度に皮膚との接地部分をアルコール

 消毒してください。毒素で汚染されている

 可能性があるので」

「「「「「はいっ!」」」」」

 

その後、彼女達は注射器を手に解毒剤の

投与を開始。念のため私はガーディアン達に

指示を出して任せ、彼女達の行為に万が一が

無いよう、監督した。

しかし流石は医療従事者。少し教えれば

問題無いレベルだったので、私も解毒剤の

投与を始めた。

 

 

そしてしばらくした時だった。

「大変です!」

一つの区画を任せていた看護師の女性が

私の所に飛び込んできた。

「さっき、子供の一人に解毒剤を投与

 したんですけど、もう限界みたいで!

 魔力をどうにかしないと!」

やはり、か。

 

現在彼等の体にダメージを与えているのは

毒素ではない。毒素が原因で発生する

魔力暴走だ。それをどうにかしない限り、

彼等の命が危機にさらされている事には

変わりない。

 

「分かった。すぐに行く」

「こっちです!」

看護師に続いて行くと、病室の一つに

やってきた。

「アフメド!アフメド!」

そこでは、母親と思われる女性が苦しそうに

唸っている少年の傍に寄り添っていた。

素早く少年の体をスキャンするが、やはり

魔力過多による内臓器官の損傷が原因の

ようだ。

 

私は足早に少年に歩み寄ると、彼の空いている

左手を握った。

「今から君の体内の魔力を強制的に放出する。

 体から力が抜ける感覚があると思うが、

 安心しろ。必ず助ける」

それだけ言うと、私は有無を言わさずに少年の

体から魔力を引き出して自分の体に取り込む。

人の目には見えない魔力の流れ。しかし私が

魔力を吸い取ると、少年の荒い呼吸が少し

落ち着いた。

「あ、うっ。……母、さん」

「アフメド!?大丈夫なのかいアフメド!」

少年は、きつく閉じていた目を開き母親と

思われる女性の方を向いている。

 

しかし折角だから、色々見せておくか。

「魔力暴走によって内臓が著しくダメージを

 受けているな。私の力で治癒して

 おこう」

そう言って、私は掌から白い光を少年に

向けて放つ。一瞬白い光に包まれる少年。

すると……。

 

「あれ?痛く、無い?さっきまであちこち

 痛かったのに」

少年は、文字通りさっきまでの痛みが嘘のように

消えた自分の体をマジマジと見つめている。

「あぁ!アフメド!」

そして、母親の女性は涙と笑みを浮かべながら

少年を抱きしめる。

 

「し、信じられない。陣も詠唱も無しに、

 魔力を吸い取って、子供を回復させたぞ……!?」

「あの人は、一体……!?」

傍に居た、看護師や看護婦達が心底驚いた

様子だった。

そんな彼等の方に振り返る私。

 

「今見て貰った通りだ。解毒剤は毒素を

 除去するだけで暴走した魔力をどうにかする

 力まではない。なので、もし解毒剤を

 投与しても危篤状態の者が居た場合は、

 真っ先に私に知らせてくれ。何とかする」

「「「「は、はいっ!」」」」

驚きながらも返事をする看護師達。

 

そして部屋を出ようとしたとき。

「有り難うございます!有り難うございます!」

アフメドと呼ばれていた少年の母親が私に

涙ながらに頭を何度も下げていた。

「……息子さんがご無事で何よりです。

 では、私はこれで」

それだけ言うと、私は部屋を出て解毒剤の

投与作業に戻った。

 

私は部屋の外に出たが、常人の何倍も優れた

聴力で、部屋の者達の会話を聞き取る。

「ふ、触れただけで相手の魔力を吸い取り、手を

 翳しただけで治癒した、だと?何なんだ

 あの少年は」

「……非常識過ぎる」

男の看護師達の、驚嘆と畏怖を含んだ話し声が

聞こえる。

「……。そう言えば、聞いたことがある」

「ど、どうした?」

「以前、アンカジに立ち寄った冒険者に

 聞いたことがあるんだ。ある日、ホルアドで

四肢を失うほどの重傷を負った冒険者が収容

されている病院に、一人の少年が現れた。

彼は、ただ指を鳴らしただけで、失った四肢を

 瞬く間に再生させてしまった、と」

「バカなっ!?失った四肢を再生だと!?

 伝説とされる神水でも、そこまでの力は

 無いんだぞ!?」

「お、俺だって信じられないさ!でも

 その話で聞いた少年の特徴とあの少年

 の特徴が一致するんだよ!漆黒の黒髪に、

 大きなコート、無表情な所とか!」

……どうやら、以前のホルアドでの事が

知らぬ間に広がっていたようだな。

まぁ好都合だが。

「彼は、一体。まるで、神のように簡単に

 人を癒やしたぞ」

「ま、まさか、あの少年が、神。

 エヒト様だとでも言うのか……!?」

そして何やら、私をエヒトと誤解している

ような発言も聞こえてきた。

あんな狂乱の神と一緒にされるのは不愉快だが、

『神』、か。

いっその事、エヒトにとって変わる新たな神

として民衆の心を支配するのも有りだな。

幸い、私の能力は神と呼べるレベルに到達している。

それを披露すれば、人々は私を神と崇めるかも

しれない。……それも有りだな。

私はそう考えながら、解毒剤の投与作業に

戻った。

 

そしてしばらくすれば、ハジメ達から担当した

区画の投与作業を終えたと言う報告が上がった。

私は彼等に場所を指定し、そこに集まって貰った。

病院の傍にある広場に集まる私達。

「皆、ご苦労だった。これで毒素の問題は

 解決した。あとは彼等の体内に蓄積された

 魔力をどうにかするだけだが、そこは

 私に任せて貰う」

 

そう言うと、私は彼等に背を向け、周囲を

見回す。そこには先ほどの親子や看護師達、

更には周囲にテントがあり、そこかしこ

からまだ軽症な罹患者達がこちらを

のぞき見ている。加えて、いつの間にか

部下を連れたランズィ公とミスタービィズ

が病院の方へ来ていた。

ギャラリーは決して多くはないが、十分だ。

 

私は、静かに目を閉じ、両手を左右に広げる。

「な、何を」

私の動きを不審に思ったのか一人の男の看護師が

呟く。と、次の瞬間。

『ブワッ!』

私の体から波動が放たれ、それが波のように

断続的に周囲へと伝播していく。

 

今私がしている事は、一言で言えばロックオンだ。

魔力を霧散、或いは私が吸収するのなら、触れる

だけでも良い。だが数が多い以上、歩き回って

いては時間の無駄だ。だからこそ、病人達の

居場所、と言うより座標を正確に知り、狙いを

定める。そして、そこに存在する生命、つまり

罹患者たちから魔力を一気に吸い上げるのだ。

だが、相手は大人から子供まで、年齢層や

性別などがバラバラ過ぎる。魔力を吸い過ぎると

厄介だ。なので、一人一人をスキャンし、最適な

吸収量を解析していく。

 

そして、全ての人間に狙いを定めた時。

「集え……!」

私は小さく呟きながら、パァンと合掌した。

その音が、アンカジ全体に響き渡る。

そして私の中に、アンカジ公国民の溢れた

魔力が流れ込んでくる。と言っても、私から

すれば大海にコップ一杯分の水を入れるような

微々たる量だが。

とにかく、今は彼等の中に溢れている魔力を

吸い上げていく。

 

そして、数秒後。

「……魔力吸収、完了」

私は静かに合掌していた掌を離して呟いた。

その時、病院の中から看護婦らしき

女性が飛び出してきた。

「た、大変です!」

「ッ!?どうした!?まさか、死亡者が!?」

彼女の報告に驚くランズィ公。

「いいえ!違います!患者さん達の体温が

 下がり始めました!脈も収まってきて

 います!」

「な、何!?」

驚いたランズィ公が、ハッとなった表情で

私の方を向く。

 

しかし、魔力の暴走で体内の臓器や血管に

少なからずダメージがある。内出血のリスクが

ある以上、傷をそのままにしておくのは

危険だ。

 

「もう一仕事、しますか」

そう呟きながら、私は掌に体内のエネルギーを

集める。そして、手と手の間に、白い光の球が

生成される。

この光の正体は、人体の自然治癒能力を一時的に

高め、体内の傷を一瞬で治癒させる、言わば

薬のような物だ。先ほど少年を治癒したのも、

この物質を使っての事だ。これもまた、私だから

こそ生成出来る物質だ。体内の膨大なエネルギー

を糧に、その物質で出来た球体を生成する。

 

そして、それがバスケットボール大のサイズ

まで大きくなった時、私は両手を頭上に

掲げ……。

「行け」

それを空に向かって打ち上げた。

 

ハジメたちや看護師達、ランズィ公達の視線が、

その光球を追いかける。光球はある程度の高さ

まで上昇すると、空中に停止した。それを

確認した私は、指を鳴らした。

『パチィンッ』

誰もが驚く中、フィンガースナップの音が

アンカジの街中に響いた。

 

『パリィィィィンッ』

すると、あの光球が砕け散り、そこから白く

輝く粒子がアンカジ全体に降り注いだ。

降り注いだ粒子は人間の体、人体以外を

透過するようになっている。屋根を

突き抜けて落下した粒子達が、人の体に

入って行く。

 

そして、治癒の力が発動し、彼等の体の中は

瞬く間に再生されていく。

苦しみと痛みから解放された人々が、徐々に

ベッドから起き上がり、自分の体を不思議そう

に見つめてから、空から舞い落ちる白く輝く

光の粒子に見とれる。

 

光の粒子は、さながら雪のようにアンカジ全体に

降り注ぐ。

「綺麗……」

「うん」

ポツリと呟くユエと、それに頷く香織。

「ははっ、流石は司。やることが常識

 外れだね」

「凄い。としか言いようがないですぅ」

空を見上げながら苦笑を浮かべるハジメとシア。

「凄いね、お兄ちゃん」

「うむ。姫の言うとおりじゃ。マスターに

 掛かれば、都市一つを救う事など、

 造作も無いのじゃな。改めて、その

 すさまじさが分かると言うものじゃ」

そしてルフェアとティオは、憧憬の籠もった

目で空を見上げている。

 

断続的に降り注ぐ光の粒子。やがて、

テントや病院の中から人々が歩み出てくる。

そして、光球の真下に立つ私を見て、皆が皆

驚いた様子だった。

 

……我ながら策士だな。

そう思いながら、私はパチンと指を鳴らす。

すると、光球から降り注ぐ粒子が消滅した。

誰もが、空と私を交互に見ている。

そして、私はと言うと、ランズィ公と

向き合う。

 

「これで恐らく、毒素に侵されていたアンカジ

 公国民全員を治療出来たはずです。

 念のため、確認を」

「お、お前は、いや、貴方は一体。

 何者なのですか?」

ランズィは、恐れと戸惑い、喜びや驚嘆

といった感情がごちゃ混ぜになったかの

ような表情で私を見ている。

 

「何者か、ですか。答えに困る質問ですが、

 敢えて言うのであれば、『完全生命体』、 

 或いは、『超進化生命体』、とでも言って

 おきましょうか」

流石に、自分で神だ、などと言うつもりは

無い。今はあくまでも、超常的な力の

持ち主だと思われていればそれでいい。

 

その後、改めて動ける者達が病院や仮設テントを

回ったが、既に全員が健康体となって復活して

いた。

方々から上がる報告を聞くランズィの、その

近くの椅子に座る私達。

 

やがて報告を聞き終えたランズィがこちらに

近づいてきたので、私達は立ち上がる。

「実に驚くべき事だが、あの毒に侵されていた

 者達全員の治癒が確認された。……この

 アンカジを収める者として、君たちには

 感謝してもしきれない。本当に

 ありがとう」

そう言って、ランズィ公、傍に控えていた

ミスタービィズや側近達が深々と頭を

下げる。

 

「いえ。死傷者を最小限に防げたのなら

 何よりです。それに、問題の抜本的な

 解決にはなっていませんから」

「……オアシスが汚染された事、だね」

私の言葉にハジメが呟く。

「えぇ。オアシスが公国の生命線であり、人が

 生きていく上で水が必要な以上、オアシス

 の汚染を除去、浄化するか新しい水源を

 確保しない限り、問題の解決とは

 言えません。ランズィ公。我々をオアシスの

 元に案内していただけませんか?」

「まさか、オアシスを浄化出来ると!?」

「そこについては何とも。現状を確認

 しなければなりません。浄化が可能

 ならばオアシスを浄化します。不可能

 であったならば、別の方法で当面の水を

 確保します。とにかく、オアシスを

 調査しない事には何とも」

 

「わかりました。では、こちらへ」

そう言ってランズィ公たちは歩き出し、

私達はそれに続いた。

その道中、道ばたに立つ人々は、私を

見るなり頭を垂れ、手を合わせていた。

どうやら超常の存在として認識されている

ようだ。

中には畏怖や恐れのような視線も混ざっているが、

好都合だ。

どんな形であれ、私達の敵対者になる事を

抑止できれば良いのだから。

 

 

その後、私達はランズィ公の案内でオアシスに

向かった。その道中、話を聞いていたが、

彼等が調査したのはオアシスとそこから流れる川

に井戸、そして地下水脈との事だ。

彼等の話では、地下水脈の方は毒素が検出

出来なかったと言う。

「……つまり、汚染の源流自体はオアシスか。

 オアシスの調査は?」

「報告では調査済みとの事だが、流石にオアシス

 の底までは手が回っていないようだ」

となると……。

「一番怪しいのはオアシスの底か」

 

そして、話をしている内に私達はオアシスの

前までたどり着いた。

「香織」

「うん。任せて」

ジョーカー、スカウトモデルを纏ったままの

香織がオアシスをスキャンしていく。

やがて……。

 

 

「ッ。……ランズィさん。もしかしてオアシス

 の中にアーティファクトか何か、

 沈めてます?」

「ん?いや。オアシスの管理用のアーティファクト

 はあるが、それは地上に設置してある」

ランズィの言うアーティファクト、と言うのは

このアンカジ全体を覆うドームの事だ。

このドームは、砂を防ぐ結界の役目を果たすと

同時にセンサーの役割を持っている。

管理者が感知する対象を設定。例えば、

魔人族と設定すれば、ドームを魔人族が通過

した時点でそれが管理者、つまりランズィに

伝わると言う寸法だ。

 

「香織」

「うん。……オアシスの底に、『居る』」

彼女がそう呟いた瞬間。

『ジャキッ!』

ハジメやユエ、シア、ルフェア、ティオが

一瞬で武器を構え戦闘態勢を取る。

既に何十、何百と実戦を経験してきた彼等

だからこそだ。

 

「こ、これは一体……!?」

「お静かに。……今回の毒素の一件。その

 犯人がこのオアシスの内部に潜んで居る、

 と言う事です」

「な、なんと!?真なのですか!?

 司殿!」

驚いたように叫ぶミスタービィズ。

 

「恐らく、魔物の類いでしょう。それが今、

 このオアシスの底に潜み、そしてそこから 

 放出された毒素が、このオアシスを

 汚染した」

『しかし魔物がどうやってこんな所に?

 地下水脈から侵入したのだとしたら、

 そちらも汚染されていても可笑しくは

 無い。だがそれも無いと言う事は……。

 どちらにせよ、これは明確な攻撃。

 ……魔人族の仕業と見るべきだろうな』

今回の犯人に目星を付けつつ、私は

更に考える。

 

「司、どうする?水中じゃ銃だと狙えないよ?」

「えぇ。ですが、不純物を含んだ水は伝導体。

つまり電気を通します」

私は右腕から、バチバチと紫電を瞬かせる。

「ハジメ、香織、ルフェア。3人はレーザー

 ライフルのアテンのよういを。あれは熱線兵器

 です。水を蒸発させるには、十分でしょう」

「うん。分かった」

私の言葉に3人が頷き、レーザーライフルのアテン

をタナトスと取り替える。

次第に出力を上げていき、紫電の勢いと音も

それに続くように大きくなっていく。

 

「今、そこから引きずり出してやる」

私は、そう呟きながらチャージした右腕を

眼前に突き出した。

次の瞬間。

『ドゴォォォォォォォォンッ!!!!』

雷鳴にも似た破裂音が周囲に響き渡った。

紫電はS字を描くような光の軌跡を

残しながらオアシスへ命中した。

 

次の瞬間、オアシスの水面が一瞬光ったかの

ように思われた。やがて静寂が生まれる。

「ど、どうなった?」

光から目を背けていたミスタービィズ達が

恐る恐るオアシスを見つめる。

その時。

 

オアシスの水が不自然に盛り上がった。

かと思うと、次の瞬間水がまるで触手となり、

私達に襲いかかった。

「迎撃っ!」

ハジメが叫んだ次の瞬間、3人のアテンから

放たれた熱線。ティオの火の魔法で。

ユエが氷の魔法で迎撃し、シアも

アータルをバスターモードに変化させて

これを撃ち落としていく。

 

そんな中で、今回の事件の犯人が現れた。

体長は10メートル程度。透明な体内に

核らしきものを持った、分かりやすく言えば

スライムの魔物。確か、この世界では

『バチュラム』と言う名前だったはず。

だが、過去に閲覧したデータとの相違点がある。

第1にサイズ。第2に水を操る力。

 

だが、そこは関係無い。

「貴様が元凶ならば、叩き潰すのみ……!」

 

再び、しかし今度は体全体を紫電が覆う。

「司!」

「皆は触手の迎撃を。一撃で片を付けます」

「「「「「「了解!」」」」」」

私の体内のエネルギーを圧縮し、それを紫電

へと変換する。

先ほどは、あくまでも挑発のための物。

だが今度は違う。

 

私の体から漏れ出る紫電が、周囲の地面を

溶かし、ガラス状に変えていく。

そして、体中の紫電が右腕に収束していく。

紫電が収束した右腕は、白く輝いている。

バチュラムは、コアを素早く移動させる事

でハジメ達の攻撃を何とか回避している。

 

だが、それも無駄だ。

私は右手を静かにバチュラムへと向け、そして……。

「消え去れ……!」

『ドゴォォォォォォォォォォン!!!!!!!』

右腕の紫電を撃ち放った。

放たれた紫電は、一直線にバチュラムへと向かい、

命中。その体全体を紫電が駆け巡り、全てを

焼き払う。

そして、数秒と経たずにバチュラムのコアが

砕け散り、奴は消えた。そして奴の体と

なっていた水も、普通の水へと戻った。

 

その光景に、ハジメ達が武器を下ろす。

私は後ろを向けば、そこであんぐりと大口を

開けているランズィ公たちの姿があった。

「終わりました」

そんな彼等に私が声を掛けると、ランズィ公

はハッとなった後すぐに咳払いをして

気持ちを切り替えた。

 

「……終わった、のか?」

「えぇ。恐らく先ほどのバチュラムが

 毒素で水を汚染していたのでしょう。

 しかし……」

私はオアシスの水に右手を入れ、少量の

水を掬い上げる。

 

水質を調査するが……。

「汚染は、残ったままのようですね」

私の言葉に、ランズィ公は側近の水質を

調べさせた。そして調べた彼もまた、静かに

首を横に振った。

「……ダメか」

ランズィ公は、落胆にも似た声を漏らす。

周囲のミスタービィズや側近達もだ。

 

すると、ハジメが私に耳打ちをした。

「司、あのね。ごにょごにょ……」

「ふむふむ。……成程。やってみる

 価値はありそうですね」

ハジメの提案は、確かに試して見る価値の

ある物だった。

 

そして私達の会話が気になったのか、

ランズィ公達が私たちの方を見ている。

そんな彼等を無視して、私は宝物庫の中から、

一本のペットボトルを取り出した。

 

「司殿。それは?」

その中には、神水。正確には、私の体内で

生成された『神水モドキ』が入れてある。

かつてオルクス大迷宮で回収した神結晶から

生成される神水。それを私の力でコピーした

物だ。

「もしかしたら、オアシスを浄化出来るかも

 しれません。見ていて下さい」

それだけ言うと、私はキャップを開いて中身を

オアシスの中に注ぐ。

 

やがてボトルの中身が空になると、改めて

オアシスを見回すが……。

「何だか、心なしか透明度が上がってる

 ように見えるんだけど……」

「は、はいですぅ」

香織が首をかしげながら呟き、シアが頷く。

「ま、まさか……!おいっ!」

ランズィ公はすぐさま側近の水質の再検査を

させる。

「どうだ!?」

「だ、だ、大丈夫です!水質が以前の、いえ!

 それよりも更に良い物となっています!」

「本当かっ!?」

「はいっ!」

 

「おぉ!やったぞ!」

「オアシスが復活したぞ!」

やがて、側近達が騒ぎ出す。それが周囲へと

伝播していき、オアシス復活の報は瞬く間に

アンカジ全体へと行き渡ったのだった。

 

 

その後、私達一行は宮殿へと招かれた。

「パパァ!」

「お待たせ、ミュウ。良い子にしてましたか?」

「うん!せらちゃんと遊んでたの!」

宮殿に戻ると、ミュウが駆け寄ってきたので私は

彼女を抱きかかえた。

そして彼女の後ろからは通常形態のセラフィムが

やってくる。

 

「セラフィム。ご苦労だった」

「(^_^)ゞ」

敬礼の顔文字を浮かべるセラフィム。

「パパ!どうだった?」

「大丈夫です。アンカジの人達はパパが

 全員助けましたよ」

「そうなんだ~!パパ凄~い!」

キャッキャとはしゃぐミュウに、私はどこか

満たされる物を感じていた。

 

 

ちなみに……。

「司、自分で気づいてるか知らないけど

 ミュウちゃんにベタ惚れだね」

「うん。本当のパパみたい」

ハジメの言葉に香織が頷く。

「……エリセンの町で別れられるか心配」

「何か無理そうですよねぇ」

更に語るユエとシア。

「何か、心配なのじゃ」

「うん」

苦笑交じりに呟くティオと頷くルフェア。

彼等は、司がミュウと

別れられるか本気で心配し始めたのだった。

 

 

その後、私達はランズィ公達との会食の席を

儲けた。あの回復の力で皆復活しているため、

会食は問題無く行われた。そして食後。

私達の前にはお茶とデザートが出された。

上座に座るランズィ公とその脇に座る

ミスタービィズ。

「司殿、それにハジメ殿たちも。此度の

 助力、どれだけ感謝してもしきれない。

 本当に、ありがとう」

そう言って頭を下げるランズィ公。更に

ミスタービィズと壁際に立つ執事やメイド達も

頭を下げた。

「いえ。お気になさらず。ミスタービィズから依頼

 を引き受けたのは、我々自身です。そして、

 受けたからには最善をと。そう考え動いたまでの

 事です。それに、私の仲間にはこう言う人助けを

 率先して行う人格者がいますから」

そう言って私はハジメと香織に視線を向ける。

二人はどこか恥ずかしそうに笑みを浮かべる。

私はその様子を見ながら、出された茶を飲む。

 

「ともかく、事態が終息したのは何よりです。

 ミスタービィズから聞きましたが、かなり

 致死性の高い物だったようですね?」

「うむ。汚染された水を飲んだ全員が毒素に

 侵された。感染者の多さゆえ、こちらの

 手が回らずに死なせてしまった者も多い。

 せめてもの救いは、死者が増加する前に

 君たちの救援を受けられた事だが……。

 領主としては、複雑な気分だ。愚痴を

 漏らしてすまないが、君たちがあと二日

 早くアンカジを訪れて居てくれたらと、

 君たちに非が無いのは理解し、むしろ

感謝しているが、どうしても悔やんでしまう」

「……心中、お察しします。出来る事なら、

 亡くなった方のご冥福をお祈りします」

事態が終息しても、領主として複雑な

ランズィ公を気遣うように声を掛けるハジメ。

香織とユエ、シア、ルフェア、ティオは、

目を閉じ視線を落とす。私も同じようにして、

黙祷を捧げる。

 

「……ありがとう」

そう、呟くランズィ公。

「しかし、一体誰がどうやってオアシスに

 バチュラムを」

一方で、ミスタービィズはそちらを危惧

している。

「それについてですが、私から推察を

 述べても良いでしょうか?」

私は、挙手しながら進言する。

「司殿には、下手人に心当たりが?」

「えぇ」

ミスタービィズの言葉に私は頷く。

 

「今回の一件、恐らくは魔人族の仕業かも

 しれません」

「ッ!?……魔人族、ですか?」

私が魔人族の名を出せば、ミスタービィズの

表情が一瞬強ばった。

 

「はい。これまで私達は2度、魔人族と

 戦いました。一つはミスタービィズも

 知っていたウル防衛戦です。そして

 数日前、オルクス大迷宮を攻略中だった

 勇者一行が強力な魔物を数十体連れた魔人族

に襲われました。幸い、別件でホルアドを

訪れて居た我々が対処したので、勇者一行に

 死者は出ませんでしたが」

「今回の魔物も、魔人族が放った刺客だと

 言うのですか?」

「えぇ。大迷宮、そしてウルの町。そこで

 私は、王国のデータベースに存在しない

 魔物をいくつも見てきました。今回の

 バチュラムにしても本来の物とは

 かけ離れた大きさと能力を持っていました。

 その事から察するに、魔人族は魔物

 『そのものを1から創り出す』。或いは

 『思い通りに強化する』事の出来る力を

 持っているのかもしれません」

ミスタービィズの言葉に頷き、私は

説明する。

 

「確かに、そのどちらかが可能なら、あの

 異様なバチュラムにも説明が付く」

顎に手を当てながら頷くランズィ公。

「ここ最近、魔人族の活動が活発化しつつ

 あります。ウルしかり。オルクスしかり。

 ウルの町では豊穣の女神と呼ばれる

 女性を。オルクスでは勇者たちを。

 片方は食、食べ物に関わる最重要人物。

 もう片方は、人類にとっての旗印の

 ような存在。これらを討つ事は、

 魔人族にとって有利になるからです。

 食べ物がなければ人は飢えて戦えず、

 勇者がいなければ士気が下がります。

 そして、ここ、アンカジ公国は

 東と西を結ぶ流通の要衝。ここが

 落ちれば東西は分断され、西からの

 海産物は届かなくなり、逆に東から

 西へ物資が届く事も無くなる。

 加えてここから王国まではサンドワーム

 が潜む砂漠を越えていくしかない

 以上、救援を呼ぶにも簡単な事では

 ありませんから」

そう言うと、私の言葉にミスタービィズと

ランズィ公は顔をしかめる。

「まさか、奴らが本格的に仕掛けて来る、

 と仰られるのか?司殿」

「確証はありませんが、そう見るべきだと

 私は考えます」

 

私の言葉に、二人は表情を曇らせる。

「……今回は乗り切ったが、果たして次が

 来た時は、大丈夫でしょうか。父上」

「むぅ。……我々も魔物について独自に

 調べていたとはいえ、今回我々は

 後手後手に回った。しかも司殿達の

 到着がもう少し遅れていたらどうなって

 いた事か。……今回は、運が良かった

 のかもしれんが……」

と、二人とも深刻そうな表情を浮かべる。

 

すると……。

「パパ、あの人達、困ってるみたい。

 助けてあげないの?」

と、ミュウに言われてしまった。

更に周囲を見回せば、香織とハジメが

何か出来る事は無いかと考えるような表情を

浮かべていた。

 

まぁ、折角ここまで来たのだ。こうなったら、

とことんアンカジ公国を我々G・フリートの

味方に引き込むとするか。

 

「ミスタービィズ。ランズィ公。

 少しよろしいでしょうか?」

「む?何かな?」

「失礼ながら、お二人は公国の防衛能力に

 不安を覚えているようですが、

 如何でしょうか?」

私が問いかけると、二人は俯いた。

これは肯定と見るべきか。ならば……。

 

「そこでこの国の領主であるランズィ公と

 その代理の立場にあるミスタービィズに

 提案があります」

「提案?」

と、首をかしげるランズィ公に、私は

こう告げる。

 

「我々G・フリートとアンカジ公国の間で、

 『軍事同盟』を結ぶのは如何でしょうか?」と

 

     第48話 END

 




次回はもう少しアンカジ公国の話を書いてから、
グリューエン大火山での話に入って行きます。

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