ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回からグリューエン大火山です。


第50話 グリューエン大火山

~~~前回のあらすじ~~~

アンカジ公国を救った司は、ランズィ達に

G・フリートと公国の軍事同盟を持ちかけ、

これを無事に締結した。その後、司はハジメ

との会話の中で、魔人族が神代魔法を使える

のでは?と言う仮定に行き着き、今後

大迷宮で魔人族と交戦する可能性を示唆。

しかしハジメはそれでも戦う決意を示した。

そしてミュウを含めた8人は、次なる

大迷宮、グリューエン大火山へと向かうの

だった。

 

 

グリューエン大火山。

それは、アンカジ公国より北へ約百キロメートルの

位置にある。山、と銘打たれては居るが、見た目は

丘のような場所だ。最も規模と標高は並外れて

いるが……。

 

この大火山も、世間一般では大迷宮として有名だ。

ただしオルクスと比べて魔石の回収がそこまで

望めない事。内部の厄介さ。更には大火山を

覆う砂嵐という名の防壁をまず越えなければ

ならない事から、ここを訪れる冒険者は

そうそう居ない。

 

まず最初の難関は、大火山を覆う巨大な砂嵐の

壁だ。しかもこの中には当然、サンドワームを

始めとした魔物もいる。並みの冒険者ではまず

ここさえ突破出来ない。

 

 

だがしかし、司たちが並み程度では無かった。

 

「あれ、まるでラピュ○だね」

「うん。あのシーン見た事あるよ。完全に

 ○ピュタだよね」

「二人とも!隠した意味が無くなって

 ますっ!」

砂嵐を見上げながら呟くハジメと香織に

ツッコみを入れるシア。

「あの中を徒歩で進むのは、ちと遠慮

 したいのぉ」

「ん。同感」

同じようにため息交じりに呟くティオに

同意するユエ。

「まぁでもそこはほら。大丈夫だよ。

 なんて言っても……。これが

 あるんだからね」

そう言っているルフェア。

 

彼女が言うこれ、とは『ヴァルチャー』の

事だ。

 

そう、今司とハジメ達は7機のヴァルチャーに

乗っていた。ちなみにミュウは司の1号機の

中で、彼の膝の上に乗っている。

7機のヴァルチャーが横一列に並び、その

コクピットの中ではミュウ以外の全員が

ジョーカーを纏っていた。

 

「すごいの!パパ、ミュウ達お空を

 飛んでるの!」

私の膝の上に座る、待機状態、つまり

ぬいぐるみのセラフィムを抱っこしている

ミュウ。

「そうですか。とは言っても、外の景色は

 何とも味気ないですが……」

カメラから見える映像は、一面赤銅色の世界。

風景も何もあった物ではない。

「お兄ちゃん、そろそろ」

その時、ルフェアから通信で声が聞こえた。

突入を促す物だろう。

「そうですね。……各員、傾注。これより

 我々G・フリートはグリューエン大火山の

 攻略を開始する。我々の目的は第1に

 試練を突破し神代魔法を入手すること。

 第2に、アンカジ公国から依頼された

 静因石を採取し、これを公国へ持ち帰る事。

 なお、昨夜話した通り、魔人族は神代魔法

 の存在を知っている可能性がある」

私の言葉に、ハジメ達はコクピットの中で

聞いていた。

「よって、大迷宮内部で魔人族と遭遇、

 戦闘になる可能性は十分にある。その事

 を総員肝に銘じて欲しい」

「「「「「「「了解……!」」」」」」」

通信機からハジメ達の返事が聞こえる。

皆、気合いが入っているようだ。

 

「よし。ではまず、この砂嵐を突破する。

 全機、続け」

ミュウが乗っている、と言う事もあり、私は

ヴァルチャーを微速、と言っても時速40キロ

程度で前進させる。ハジメ達のヴァルチャーが

それに続く。

 

そして、私達は砂嵐の中に突入した。

7機のヴァルチャーが砂嵐の中、スラスターから

桃色の炎を吐き出しつつ前へ進む。

こちらがゆっくり進んで居る事もあって、風と

叩き付けられる砂粒によって機体が僅かに

揺れている。

「……少し揺れるね」

「それに一面砂嵐で殆ど何も見えない

 ですぅ」

ヴァルチャーを操縦しながら呟く香織とシア。

「これだと目視による索敵とかは無理だね」

「えぇ。全機、レーダーに気を配っておくように。

 この状況では機体のカメラアイもあまり

 役に立たないでしょう」

「「「「「「「了解」」」」」」」

私の言葉にハジメ達の返事が返ってくる。

 

幸い、空中を飛行しているため魔物が襲ってくる

事は無かった。

「……下にはサンドワームとかが結構居るね」

「うむ。レーダーにちらほらと、サンドワーム

 だけではないのぉ」

通信機からルフェアとティオの会話が聞こえてくる。

対地レーダーを確認すれば、確かに砂の下に

サンドワームやそれ以外の魔物の反応がある。

「高度は十分取っていると思うが、相手は

 魔物だ。十分に警戒しておこう」

私が警戒を促せば、皆が頷いた。

 

しかし、高度を取っていたおかげで、魔物が

襲ってくる事は無かった。

そして、飛行を続ける事数分。

不意に、視界が開けた。

「あっ。抜けた」

ポツリと呟くユエ。

 

どうやら砂嵐を突破したらしい。私達の眼前には、

エアーズロックを数倍に大きくしたような

グリューエン大火山が現れた。どうやら砂嵐の

影響なのか、頭上には青空が見える。まるで

台風の目の中に居る気分だ。

 

さて、と。

「各機へ。グリューエン大火山の迷宮への入り口は

 頂上にあるとの事です。このまま頂上付近まで

 飛行します」

「「「「「「「了解」」」」」」」

私達はヴァルチャーに搭乗したまま、大火山の

頂上へと向かう。ものの数分で頂上付近に到着

した私達は入り口を探した。頂上には、いくつ

もの歪な岩石群が点在していたが、その中で

一際目立つ物があった。試しにその目立つ

アーチ状の岩石の周囲をスキャンすると、

その岩石の下に地下へと伸びる階段を発見した。

 

「どうやらあそこが入り口のようですね。

 各機、降下体勢。ただし警戒は怠らない

 ように」

私の指示に従い、周囲を警戒しながら

ゆっくりと着地するヴァルチャー。そのまま

周囲を警戒しつつスキャンするが、どうやら

この辺りに魔物や敵は居ないようだ。

「各員へ、ここからは徒歩で移動します。

 ヴァルチャーを降りて下さい」

「「「「「「「了解」」」」」」」

私は、ミュウが熱にやられないように機体の

周囲にシールドを展開。ヴァルチャーに

片膝を付けさせるとハッチを開放。周囲を

警戒しながらミュウを抱えて飛び降りた。

 

周囲でも、ハジメはハッチ解放と共にトールを

抜きながら周囲を警戒しつつ降りてくる。

香織達も同じように、既に手に武器を持った

状態で次々と降りてくる。

全員がヴァルチャーを降りると、パイロットの

居なくなった7機のヴァルチャーを宝物庫に

格納する。

 

さて……。

「ミュウ。すぐにセラフィムを纏って下さい。

 ここは高温でとても危険ですから」

「うん!せらちゃん!お願い!」

すると、ミュウの言葉に応じてぬいぐるみ

だったセラフィムが粒子化。瞬く間に

ミュウを包んで起動。そのポッド内に

彼女を収めた。

 

それを確認した私はシールドを解除した。

さて、と。

私は皆の前に立つ。

「総員傾注。……我々はこれからこの

 グリューエン大火山の大迷宮を攻略する。

 事前情報として、内部は高温、かつマグマ

 が吹き出してくると言う天然のトラップが

 ある。また、内部に潜んで居る魔物はこの

 環境下で生きている事を考えるに、マグマ

 に耐性を得て尚且つその力を行使してくる

 ものと思われる。そこで私が新兵器を

 開発した」

そう言って、私は新兵器のデータを、

セラフィムを含めた皆に送る。

 

「これ、か」

ハジメはジョーカーのディスプレイに映った

武器を早速実体化させた。

そして……。

「これって、アテン?」

実体化した武器を見て首をかしげる香織。

彼女の言うとおり、召喚された武器は

熱線を放つアテンに形がよく似ていた。

 

「ちょっと違いますね。それはアテンを発展

 改良した、超低温レーザーを放つ冷凍兵器、

 『ガンガー』です。ガンガーはマイナス

 183度まで対象を冷却します」

「冷凍兵器か。随分凄い物創ったね司」

苦笑交じりに呟くハジメ。

「本来は大規模火災の鎮火のためにと、

 地球に居たときから考えていたシステムです。

 それを銃火器サイズまで小さくしました。

最も、そのサイズだとジョーカーとの接続

を確立しなければ使い物になりません。

なので、各自コネクターをガンガーに

接続してください」

私の指示通りにコネクターを接続するハジメ達。

ちなみに、ミュウの乗っているセラフィムの

場合はEジョーカーと同じように背面のマウント

ラッチに配置。セラフィムは通常のジョーカー

よりも内部ジェネレーターが大型なので、

ガンガーの威力は強化されている。が、

ミュウに実戦に参加する意思があるとは

思えないので、どちらかというと彼女を

守る為に取り付けたものだ。

 

「さて、と」

皆がコネクターを接続したのを確認すると、

私も自分のガンガーを取り出してコネクターを

接続。振り返って階段の奥へと視線を

向けた。

 

「行くぞ」

たった一言。私が呟いただけでハジメ達の

雰囲気が変わる。

そして私達は、グリューエン大火山の中の

大迷宮へと潜っていくのだった。

 

 

大迷宮の内部はやはり不可思議だった。

何と言ってもマグマの川が宙に浮いているの

である。ハジメが、『まるで龍が泳いでるみたい』

と言って居た。そして当然、空中以外にも

マグマの川がある。ここを行くのなら、頭上と

地上の両方に気を配らなければならない。

更に……。

 

『ブシュゥゥッ!』

「っと!危ないっ!」

突如、最後尾を歩いていたティオとハジメの間を

分断するように壁からマグマが噴き出してきた。

瞬間的に後ろに飛ぶハジメ。

前を進んで居た私達は咄嗟に後ろを向く。

「だ、大丈夫かハジメ殿!」

ミュウを守る為、彼女を乗せたセラフィムと

一緒に歩いていたティオがハジメの方へ

視線を向けながら叫ぶ。

「な、何とか~。あ~びっくりした」

やがてマグマの放出が終わるとハジメが

戻ってきた。

「……正しく天然のトラップだね」

香織は周囲を警戒しながら呟く。

「ん。油断大敵」

ユエもその言葉に頷きながら周囲を警戒

している。

 

このように、壁から不規則にマグマが

噴出しているのだ。

一応、ジョーカー全機とセラフィムには

耐熱コーティングを施してあるので

1万度を超える温度でも無い限り装甲が

融解する事は無いが、だからといって

その耐熱コーティングを過信するのは

危険だ。

なので全員、油断しないように厳命してある。

またミュウを乗せたセラフィムは常時

バリアを展開している。

 

「……本来、冒険者はこの危険極まりない

 通路をマグマの熱さと戦いながら行く

 訳ですか」

「うん。そう思うと、私達はジョーカーが

 あるからまだマシなんだろうね」

先頭を歩く私に頷くルフェア。

 

チラリと外気温を示す数値を見れば

サウナもかくやと言わんばかりの高温だ。

ここを歩くと言う事は、焼けた鉄の上を

歩いているような物だろう。

幸い私達はジョーカーがある。ジョーカーの

機密性は折紙付き。加えて過酷な環境で

パイロットの集中力が乱れないように冷暖房を

完備している。

おかげで茹だるような熱さからは回避出来て

いるが、もしジョーカーが無ければマグマに

加えてこの熱さとも戦わなければならない。

 

やがて、私達はある広い場所に出た。

「……これは……」

私が壁に歩み寄り、壁を調べる。

ハジメも同じように私の隣に立って

あちこちを見ている。

「この痕跡って、人為的な物かな?」

「えぇ。恐らく以前はここで静因石を

 採掘していたのでしょう」

ハジメに答えながらジョーカーのパワー

を生かして壁を削っていくと、奥から

小さな、薄い桃色の鉱石を発見した。

それを取り出す私。

 

「ふむ。ティオ」

「はい。何でしょう?」

私は周囲を警戒していたティオを呼ぶ。

「静因石、と言うのはこれで間違い無いか?」

そう言って私は桃色の鉱石を見せる。

「えぇ。これです。間違いありません」

「そうか。ありがとう」

私は改めて静因石を見つめる。

更に周囲のハジメや香織、ミュウやルフェア達が

私の掌の静因石を見つめている。

 

「……小っちゃいね」

ポツリと呟くミュウの声がセラフィムのスピーカー

を通して聞こえる。彼女の感想にシアや

ルフェアが頷き、私は周囲を見回す。

「どうやら、この周辺の物は粗方取り尽くされた、

 と言う事でしょうね。もっと大きな物を

 採取するとなると、階層を降りていくしか

 ないでしょう」

そう言うと私は、無いよりは良いだろうと考え、

小さな静因石を宝物庫にしまいガンガーを持ち直す。

「行きましょう」

皆が私の言葉に頷く。

 

そうして、トラップと魔物に警戒しながら

着々と階層を降りていく私達。

そして、8層目に到達した時だった。

 

突如として炎の壁と表現出来る物が私達に

襲いかかった。

「ッ!シールッ」

その時、前方を歩いていた香織が咄嗟に

シールドを展開しようとする。

が、しかし……。

「せらちゃん!」

彼女の言葉を遮るようにミュウの叫びが

聞こえた。

 

するとセラフィムが、咆哮にも似た、

ジェネレーターの駆動音を響かせながら私たち

全体を覆うシールドを展開した。

「み、ミュウちゃん!?」

これにはびっくりのハジメ達。

「みんなはやらせないの!」

『(^_^)v』

スピーカーを通して聞こえるミュウの声と、

顔にピースサインの顔文字を浮かべるセラフィム。

と、その時攻撃が収まって私達は前へと

視線を戻した。

 

そしてそこには、攻撃をしてきた魔物の姿が

あった。

それは一言で言えば牛だった。

但しマグマの中に立ってマグマを纏った、

口から炎を吐き出している牛だが。

 

「まさかとは思ってたけど、やっぱり魔物も

 そっち系の能力持ちか!」

叫ぶハジメ。確かに予想はしていた。こんな

環境で生活する魔物なら、マグマや熱に対する

耐性を獲得していても可笑しくは無い。

 

だが……。

「ガンガーの性能テストの相手にはちょうど良い。

 香織、ルフェア」

「うん!」

「任せてお兄ちゃん!」

私が声を掛けると、香織とルフェアが前に出る。

マグマ牛はそれを訝しみ、ブルルと鼻息を

荒くする。

 

私と二人がガンガーを構える。

「用意。撃てっ」

そして私のかけ声に合わせ、3丁のガンガーから

青い超低温レーザーが放たれた。シールドを声

マグマ牛に命中する青いレーザー。

すると……。

『ビシシシシッ!』

瞬く間にマグマ牛が固まってしまった。

 

しかしそれも束の間。冷凍地獄と灼熱地獄。

二つの急激な温度差に絶えられる訳も無く……。

『バリィィィィンッ!』

マグマ牛だった物は、瞬く間に罅が入り

砕け散った。砕け散った氷が、マグマの

熱で溶けていく。

 

 

「ふむ」

ガンガーの威力を確認した私は、銃口を

下げた。

「どうやらガンガーは無事使えるよう

 ですね」

「は、ははは。相変わらず司の創る武器は

 威力がエグいなぁ」

私の後ろで苦笑を浮かべるハジメと、

うんうんと頷くユエやシア。

 

その後も、マグマのコウモリやらウツボモドキ。

ハリネズミにカメレオン、蛇などの魔物と

遭遇したが、皆全てガンガーの威力のまえに

砕け散った。

ちなみに、と言うか、ミュウが思いっきり

戦闘に参加していた。時にはセラフィムに

命令して背中のガンガーをぶっ放していた。

 

如何に相手が魔物とは言え、生物を手に掛ける

事に躊躇いが無い。念のためミュウに色々と

聞いてみるが……。

「ミュウ、パパ達と一緒に居られるのは

 嬉しいの。でも何もしないのは違う気がするの。

 だから、ミュウも戦うの」

「……ミュウ、自分が何をしているのか、

 分かっていって居るのですか?」

彼女としては、お荷物である事が嫌なのだろう。

だが、だからといって命を殺そうとするの

なら、生半可は許されない。特に、人を討つ

と言う事になれば尚更だ。

確かに私はミュウに甘いかもしれない。

だがこの事だけは、譲れない。いや、ミュウの

為にも、妥協する訳には行かない。

 

「かつて、私の先生は言いました。力を

 振るう事になれてしまったら、そこに

 躊躇いが無くなってしまったら、それは

 人ではなく獣になってしまう、と。

 戦う、と言う事は殺す事。誰かの命を

 奪う事です。魔物ならまだしも、人と

 戦うとなれば、そこには覚悟が必要です。

 もしかしたら、相手にだって親しい家族や

 恋人がいるかも知れません。それを分かった

 上で殺す。それが、人の命を奪うと言う事

 なのです。ミュウ、貴方は何故、そうまで

 して戦おうとするのですか?」

「ミュウ、まだ戦うとか、殺すとか、よく

 分からないの。……でも、弱いままは

 嫌なの」

「……どうして?」

 

「もし、ミュウが強かったら、きっと、今も

 ママと一緒に居られたかもしれないの。

 ママ、きっといっぱい心配してるの。

 でも思ったの。パパたちみたいに

 強くなれたら、もうママに心配させない

 くらい、強くなれたらって!

 そしたら今度はミュウがママを守るの!」

 

それが、ミュウの強くなりたい理由、か。

家族を、母親を守る為に。

「……大切な人を守る為に、その手を血で

 汚すかもしれない。ミュウはまだ幼い。

 だからこそ、覚悟については聞きません。

 でも、もしかしたらその選択を後悔

 する事になるかもしれませんが、

 それでも良いのですね?」

「うん。ミュウは、パパとママを守れる 

 くらい、強くなりたいの!」

 

そうか。それが、ミュウの選択ならば……。

「分かりました。ならば、これからは

 ミュウの好きなように動き、戦って

 下さい」

「良いの?パパ」

「えぇ。……ミュウの行きたい道を選ぶ

 権利は、ミュウ。貴方自身にある」

そう言って、私はセラフィムの胸に

指を当てる。

「ミュウがその道を選ぶのなら、私は

 パパとして、それを支え、アドバイスを

 するだけです」

「うん。ありがとう、パパ」

『(^_^)』

ミュウの表情を代弁するかのように、セラフィム

が笑みの顔文字を浮かべる。

 

こうして、ミュウも彼女なりに戦う意思を

示した。

会話を終え、改めて歩いていた時。

「良かったの?司。ミュウちゃんの事」

傍を歩いていたハジメが声を掛けてきた。

「正直、まだ幼いミュウちゃんを戦わせる

 のって、酷な話だと思うけど……」

「確かに、傍目から見ればハジメの言う

 通りでしょう。しかし……。

 彼女はその選択を強制された訳では

 ありません。自らの意思で、それを

 選んだのです。……酷な話ですが、

 命を奪う事に恐怖し戦う事への挫折を

 経験するも良し。

 戦う事の過酷さを知りながらも、その

 決意に磨きを掛けるのもまた良し。

 挫折か、前進か。それを経験するのは、

 ミュウ自身なのです。彼女が戦うと

 言うのなら、私は止めません」

「『私は好きにする。諸君等も好きにしろ』。

 前に司くんが皆に言った言葉だよね?

 要は、この通りって事?」

「えぇ」

私は、後ろを歩く香織の言葉に頷く。

 

「人生における選択肢の決定権があるのは、

 どこまで行っても自分自身ただ一人。

 そこに年齢は関係ありません。そして。

 自分の道を自分の意思で選べないのならば、

 それは人間ではありません。ただの人形です」

「……周囲の言葉は、あくまでも意見、か」

「そうです。例え家族であろうと、それが

 本人を思ってのアドバイスであったとしても、

 選択するのは自分。アドバイスに従う事を

 一概に悪い、とは言いませんが、戦場では

 そうは行かない。戦争をすると言う事は、

 普段の何気ない選択とは違う。自分の意思で

 戦うと決めない限り、その意思はとても

 脆く、崩れやすく、そしてその脆弱性が、

 命に関わる事だってあります」

覚悟の無い者は、戦争で簡単に死ぬ。

 

実際、あのバカ勇者。あれはダメだ。戦争参加を

謳ったくせに実戦で敵も殺せないと来た。やると

言った事を実行出来ていない。あれこそ覚悟の無さ

を体現している。よくもまぁあれで勇者など

名乗れた物だ。

 

「戦争をする、と言う事は即ち自らとの戦いでも

 あります。殺し殺される狂気の中で、自らを

 保っていられる人間は、そう多くは無い

でしょう。その自らを保つ方法が、覚悟を持つ

と言う事なのです。覚悟無き者は、壊れ、

狂っていくだけ」

「……狂気に呑まれないが為の覚悟、か」

ポツリと呟くハジメ。

「そうです。だからこそ、ミュウに覚悟が

 あると言うのなら、私達はそれを支え、

 成長させるだけです。覚悟を芽生えさせ、

 大きく成長させるか。或いは争いの 

 恐怖の前に覚悟を枯れさせるか。それは、

 ミュウ次第なのです」

私達は、静かにミュウを見守りながらも

前へと進んだ。

 

 

やがてしばらく歩いていたが……。

ふと後ろを見れば、香織やルフェア、ハジメ

の呼吸が少々荒いようだ。まぁ無理も無い。

「そろそろ休憩にしましょう。ここまで

 歩きと戦闘の連続です。何よりマグマの

 トラップを警戒して緊張の連続でしたから」

「賛成」

と頷くハジメ。香織達も同様に頷く。

ここに来るまで緊張しっぱなしだった。

どこかで休憩しなければ、張り詰めた緊張の

糸が千切れて、致命的なミスになりかねない。

 

なのでハジメの錬成で壁際に部屋を創り、それを

広げてから入り口と壁に耐熱、耐爆コーティング

を施し、空気穴を設置。更に外で熱せられた

ジョーカーの外装をユエの水魔法で冷却。

と思って居たら、水を掛けた時に装甲の熱

で水が蒸発してしまった。やむなく水蒸気を

私が消滅させ、私が概念操作の力で

『熱自体』を消滅させた。

 

そこまでやって、やっとメットが取れた。

「ふぅ~~」

ハジメはメットだけを取り息と突いた。

他の面々も皆メットを取るだけに止めて、

ジョーカーをいつでもまとえるように

している。

セラフィムの胴体ハッチが開き、中から

這い出てくるミュウ。

 

「何だか、ちょっと暑いの」

と、そう言って息をつくミュウ。

「空気穴がありますからね。完全に密閉

 していないので仕方無いでしょう」

「ん。なら任せて」

すると、ユエが魔法で部屋の中央に氷塊を

出し、更にティオが風魔法で周囲に冷気を

循環させる。

「ふみゅう、涼しいの~」

冷気に当たり笑みを浮かべるミュウ。

 

「それにしても、この迷宮も随分過酷

 だね。分かってはいたけど、ジョーカー

 無しでこの熱さの中を行くのは、

 正直避けたいよ」

と、空気穴から見える外の様子を見ながら

呟くハジメ。

彼の言葉に香織達が頷く。

「もしジョーカーが無かったら、今頃

 汗ダラダラになってたと思いますぅ」

そう呟くシア。

「この熱さの中じゃ、集中力を維持するのも

 大変だよね。魔物にマグマの天然トラップ、

 そして何よりもサウナみたいな熱さ」

彼女の言葉に、皆に水のボトルを配っていた

香織が同意する。

 

「ふむ。もしやこの状況その物がこの大迷宮

 のコンセプトやもしれんな」

「コンセプト?」

と、ティオの言葉に首をかしげるルフェア。

「うむ。姫やマスター、そしてハジメ殿たちの

 話は以前にも聞いて居る。大迷宮にはそれぞれ

 コンセプトがあると言う話じゃ。例えば

 オルクスではあらゆる能力を持つ敵と戦い

 勝利する力を。ライセンは魔力をほぼ封じ

られた状態で臨機応変に対応する力を、

じゃったかの?」

「あぁ。ティオの言葉通り、オルクスでは

 あらゆる実戦経験。ライセンは、魔力を

 封じられた状態での対処などだ。

 あらゆる魔物が敵という事は、この世界

 全ての存在を敵に回す可能性の示唆、

 と言った所だろう。

 魔力はこの世界において便利の一言に

 尽きる。攻撃を始めとして、治癒に

 肉体強化など。魔法を使える事は

 アドバンテージであり、逆に魔法に

 頼り切った上で強い程度では、神

 には勝てない、と言う示唆だろう」

「うむ。そして恐らくこの大火山の迷宮は極限の

環境下における奇襲などへの即応、

と言った感じだと思うのじゃ」

「だからこんな地獄みたいな環境、って

 訳なのね」

ティオの言葉に、ハジメは外を見つめながら

ぼやく。

 

「と言っても、オルクスもライセンも、色んな

 意味で地獄だったらかなぁ」

「うんうん。オルクスは魔物がもうたくさん居て

 2ヶ月も地面の下だったもんね。

 と言うか、私達でも突破に2ヶ月掛かった

 って事を考えると食料の問題が切実

 だよね」

ハジメの言葉に頷く香織。

 

「確かに。あの時はお兄ちゃんが居てくれた

から食べ物には困らなかったけど、普通なら

2ヶ月分も食料を持って戦ったり

なんて出来ないもんね。魔物の肉は毒があるから

食べられないし」

「あとはライセンもですぅ。魔法を使うにしても

 バカみたいに魔力を消費してしまいますし、

 あの時は司さんの機転とジョーカーと

 魔力関係無い武器があったからどうにか

 なりましたけど、もしそうじゃ無かったら

 もっと大変な目にあってた気がします」

「確かに……」

香織に同意するルフェア。更にシアの言葉に

同意すユエ。

 

「大迷宮って、そんなに大変なの?」

そんな中で、私の胡座の上に座っているミュウが

皆を見回しながら呟いた。すると皆

う~んと唸る。

「大変、の一言で片付けて良いのかなぁ」

「いやぁ無理だと思いますぅ」

首を捻る香織の言葉を否定するシア。

「……あれこそ地獄。司が居たから楽勝

 だったけど」

「そう言う意味では、司が居る事自体、もう

 既に迷宮攻略に王手を掛けてるような物

 なんだよなぁ」

ユエの言葉に、どこか遠い目で頷くハジメ。

「確かに。お兄ちゃんって、苦戦って言う

 言葉を知らないよね」

「味方にすれば、皆等しく世界最強クラス

 武器と防具を手に入れ、尚且つ与えた本人が

 その数十、いや数百数千倍は強いと言う

 のじゃから。……改めて思うのじゃが、

 エヒトと戦っても負ける未来がちっとも

 見えてこんのじゃ」

苦笑するルフェアと、ハジメのようにどこか遠い目

のティオだった。私はそんな彼等の様子を見ていた。

 

「しっかし、逆に言えば今の僕達、つまり

 ジョーカーを装備している状態の僕達

 レベルの強さじゃなきゃ、大迷宮攻略は

 難しいって事だよね」

「うん。そう考えると、呼び出された

 段階で凄い力を持ってる私達でも、

 多分それだけじゃ迷宮攻略は無理

 だよね」

ハジメの言葉に頷く香織。

 

確かに、二人の言うとおりだろう。

神と戦う以上、生半可は許されない。だから

こそ、あの難易度なのだろうが、あれを

7つ全て突破出来るような存在が、私達を

除いてこの世界に居るのか?

と、私は疑問を覚えるのだった。

 

「まぁ、結論として大迷宮攻略は、

 常識的に考えて不可能、といった所です

 かね」

「だね。その常識を覆す、司みたいな

 存在が居ないとまず無理だね」

私の言葉にハジメが頷き、皆もうんうんと

頷いている。

 

それからしばらく休憩して、私達は再び

移動を開始した。

そして私達は、時折襲い来る魔物を撃退しながら

静因石を探して採取しつつ、下へ下へと潜って

行った。

 

そこに罠を張っている者が居るとは知らずに。

 

 

      第50話 END

 




次回、『あいつ』と戦います。まぁ原作と違ってボッコボコにされるでしょうけど。
ってかもしかしたら死ぬかも。……どうしよう。

感想や評価、お待ちしています。

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