ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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って事で大火山の大迷宮も終わりに近づいてます。アイツが出てきますけど、原作より傷み目にあいます。


第51話 アンブッシュ

~~~前回のあらすじ~~~

アンカジ公国を出発したハジメと司たちは次の

大迷宮、グリューエン大火山へと到着し、内部へ

侵入。途中でランズィ達から頼まれた静因石を

回収しつつ下へ下へと潜っていく司たち。

そんな中で、ミュウは強くなりたい意志を示し、

子供だからとハジメや司達が避けさせていた

戦いに、彼女も参加するようになるのだった。

 

 

今、私達は時折静因石を採取しつつ、下へ下へ、

階層を降りていって居た。

時折休憩を挟みつつ、既に移動する事数時間。

「もうかなり歩いてるけど、今私達ってどの

 辺りに居るんだろ?」

「うぅむ。これまでの事を鑑みるに、もはや

 麓の辺りまで下っていると思うのじゃが……」

香織の言葉に答えるティオ。

私は、二人の会話を聞きつつ、いつものエコー

ロケーションの力で周囲の様子を確認するが……。

「どうやら、この先に広大な空間があるよう

 ですね」

「広大な、空間?」

返ってきたデータを解析しながら呟くと

隣を歩いていたハジメが首をかしげた。

 

「……もしかしてボスの部屋?」

「かもしれません」

ポツリと呟くユエに、私はそう答える。

すると、彼女達の警戒心が一層増す。

 

……しかし。部屋の内部に妙な生体反応が

いくつかある。

「この反応、どうやら邪魔者も居そうですね」

「ッ!?司、それって……」

「大部屋の天井付近、そこに生体反応が

 多数。……魔法か何かで隠れているよう

 ですが、あらゆるレーダーを使っての

 索敵が行える私達の前には無意味です」

「まさか、魔人族?」

「えぇ、恐らく。魔物の物と思われる反応が

 多数。中でも大きい物が一つと、人型生物

 だと思われる反応が一つ。恐らく、

 指揮官の魔人族でしょう?」

私は問いかけてきた香織に答えた。

「……司の予想が当った、って事か。でも、

 どうするの?」

ハジメが不安げに問いかけてくるが……。

数だけ揃えた所で、笑止。

「大丈夫です。私に作戦があります。

 皆、聞いて下さい」

そう言って、私は考えついた作戦を皆に話した。

 

 

その後、司たちは無事、ボス部屋と思われる

空間に続く扉の前までやってきた。

「……行きましょう」

『『『『『『『コクンッ』』』』』』』

司の言葉に、ハジメ達は無言で頷く。

 

司が扉を開け放った先に待っていたのは、

一言で言えば『マグマの海』だ。

真っ赤なマグマが辺り一面を覆い、海の

所々に足場となる岩石の孤島が点在

している。

 

「あっ。ねぇみんな。あそこ」

その時、索敵能力に優れた香織がある事に

気づいて、部屋の中央にある島を指さす。

そこは他の島に比べて、マグマのドームが

島の上を覆っている事などの差異があった。

「もしかして、あそこが住処なのかな?」

「えぇ。恐らく」

 

 

私はルフェアの言葉に頷きつつ、レーダーを

確認する。

『連中に動きは無し、か。恐らく試練を

 クリアした、と思い気が緩んだ直後、

 一斉に仕掛けて来る腹づもりなの

 だろう』

そう考えた私は、皆に命じて慎重に階段を

降りる。

 

そして、階段を降りきった直後。

『ガガガガッ!』

四方八方、マグマの海から、宙の川から。

いくつものマグマの炎弾が撃ち込まれてきた。

「せらちゃん!」

しかし、それに反応したミュウ、正確には

セラフィムの展開したシールドが、皆を

覆い攻撃を阻止した。

 

「敵はどこだっ!」

ハジメはすぐさまガンガーを構えたまま

周囲を見回す。しかし敵の姿らしき物は

見られない。

「任せて!」

彼に代わるように、香織がすぐさま

スカウトモデルの強みであり索敵能力を

フル活用して敵を探す。

とその時、マグマの海の中から、マグマで

出来た蛇が現れ、私達に襲いかかってきた。

「このっ……!」

「喰らえですぅっ!」

それを魔法とガンガーで迎撃するユエとシア。

だがマグマの蛇はそれ一匹だけでは無く、

最初の一匹に続くように次々と現れる。

 

「このっ!次から次に!」

「沸いてくるのぉ!!」

ルフェアとティオも、ガンガーと魔法を

撃ちまくり迎撃に徹している。

 

そして……。

「っ!皆聞いて!マグマの中に、いくつも

 反応がある!多分、アンカジ公国で戦った

 バチュラムと同じのだと思う!総数は、

 約100!」

「100ぅ!?」

香織の報告に驚き、素っ頓狂な声を上げる

ハジメ。

「……やはり、か」

香織の報告に、私はポツリと呟く。

 

「総員傾注。ミュウはこのままシールドを

 張って私達を護って下さい。他は全員、

 敵がこのシールドを突破しないために

 迎撃を。20秒ほど下さい。

 『仕留める』準備をします」

「「「「「「「了解(なの!)!」」」」」」」

 

私の言葉を聞き、彼等は迎撃を開始する。

今のうちに、かつて獲得した能力を更に

発展させた物を、使う。

 

『背部ラジエータープレート、展開』

ガコンッ、と言う音と共にジョーカーZの

背中が割れ、そこから背鰭のような

ラジエータープレートが展開する。

だが、それだけではない。

『セカンドプレート、展開』

更にプレートの中から、新たなプレートが

出現する。

 

それはまるで、背中から剣山が生えている

かのようだった。

ガシャンガシャンと音を立てながら展開

されていくプレート。

それは、かつての私、オリジナルの、

第4形態の背鰭を思わせる物となった。

 

かつて、戦いの中で獲得した、熱線を

背後に拡散させる放射能力。

それをパワーアップさせた、『追従式

レーザー攻撃システム』。

つまり、相手を追うレーザーだ。

追尾式の光学兵器など、SFの世界でも

そうは無い。

だが、私に掛かれば、造作も無い事だ。

 

プレートの根元から、紫色の光が溢れ出す。

そう、このプレートこそが砲塔で有り砲身

であり、砲口なのだ。

プレートにエネルギーが充填されていく中、

香織からデータリンクを通して送られる、

総数100個のコアの位置。そして予め

スキャンしておいた、天井付近の奴ら。

 

どうやら奴らは、私達が気づいていないと

思って居るようだ。好都合だな。

私の頭の中で、次々とターゲットをロックオン

していく。

それは当然、上の奴らも同じだ。

 

教えてやろう、魔人族。戦場では、皆が狩人

であり、同時に獲物である事を。

ディスプレイの中で、次々とロックオンの文字

が描かれていく。

その総数は、200を超える物だった。

「……全方位追尾式レーザー攻撃システム、

 『タルタロス』。ロックオン完了」

この場に居る、全ての獲物を、地獄の神の目

が捉えた。

 

「全員、射撃中止。後は任せて下さい」

私の指示に従い、迎撃行動を取っていた

ハジメ達が射撃を停止する。

と同時に、マグマ蛇が一斉に向かって来た。

だが、その程度で私を防げはしない。

 

「タルタロス、発射ッ」

そう呟いた直後。

『『『『『『カッ!!!!!』』』』』』

私の背中が瞬いた、その瞬間、紫色の

レーザーが放たれた。レーザーは直角に

動き回りながら半数がマグマの海の中へ。

半数は天井付近に向かっていく。

 

『『『『『『『ドドドドドドドドッ』』』』』』』

直角に、ジグザクに、不規則な軌道を描き

ながら突き進んでいくレーザー。

光学兵器の速度は、銃弾など比較にならない。

そして、レーザーがマグマの海に潜むコアに。

空に潜む敵に、それぞれ命中した。

 

次の瞬間、上空からボトボトと何かが落下

してくる。

それは、3~4メートル程度の竜と小さな亀の

魔物だった。

しかしどうやら、奴らの主とその使い魔とでも

言うべき巨大な竜は無事だったようだ。

周りの雑魚竜と比べて、なお大きい純白の

竜。しかし、そのボディのあちこちにレーザー

をかすったか貫いたような跡があり、焼けている。

どうやら攻撃を全て避けたようではないようだ。

 

「くっ!?おのれ……!」

そして、その白竜の上には魔人族の男が

立っており、忌々しげにこちらを睨んでいる。

 

「ふふ。奇襲が失敗した感想は如何かな?

 魔人族。隠れるのなら、もっと厳重に隠蔽

 するべきだったな。その程度では、私の目は

 誤魔化せんよ」

私はタルタロスを格納すると、魔人族の男に

向かってマスクの下で嘲笑を浮かべる。

 

「くっ!?やはり、報告にあった通り貴様は危険だ!

ここで排除する!」

どうやら私を相当の脅威と思ったのだろう。

魔人族の男は表情を歪めると、白竜から

ブレス、極光を放った。

 

しかし……。

「その程度か」

私はミュウの張るシールドの上に、更に結界を

張ってこれを完全ガードする。

「何っ!?」

「……つまらんな。魔人族が神代魔法を手にした

 と思って居たが、使い手が『この程度』では、

 警戒していた自分がバカバカしい」

「ぐっ!?貴様ぁっ!」

私の煽りに、魔人族の男は激高する。

「こうなれば……!」

すると、奴は集中状態になって詠唱を始め、

その手には魔法陣が描かれた布が

握られていた。

 

そして……。

「『界穿』!」

最後の言葉を叫んだのと同時に、前方に

出現した光の膜のような物に飛び込んだ。

「っ!司さん!後ろにっ!」

その時、未来視の力が発動したのかシアが

叫ぶ。

 

 

と、次の瞬間。司の背後に大口を開けそこに

魔力を充填した白竜と、それに乗った男、

『フリード・バグアー』が現れた。

これが、フリードがこのグリューエン大火山の

大迷宮を突破し手に入れた神代魔法だ。

突然の事に、傍に居たハジメ達も対応出来ない。

フリードは、勝利を確信しつつ、無防備な

司の背中目がけて、極光のブレスを

撃たせた。

『この距離ならばっ!』

フリードは、この距離で無防備な背後を狙った

のだから、仕留められると考えていた。

コンマ数秒にも満たない思考。そして、

放たれた極光。

 

直後。

『ゴバァァァァァァァァァッ!!!』

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

白竜を真下から襲った極光が吹き飛ばした。

盛大に吹っ飛んだ白竜と共に、司たちの

居る島とは、別の島に運良く吹き飛んだ

フリード。

 

「バ、バカ、なぁ。確かに、ウラノスの、

 ブレスが……」

島に倒れたフリードは、息も絶え絶えな

ウラノスの様子を見たあと、近くの島から

こちらに向かってガンガーを構える

ハジメ達を睨み付ける。

 

「こんな、邪教の、戦士如きにぃ!」

所々、極光の攻撃を食らって焼けた体に

力を入れ、立ち上がろうとするフリード。

「動くなっ!死にたいのか!?」

対して、ハジメが警告を飛ばし、彼や香織、

シア、ユエなどが攻撃の狙いを定める。

 

「待て」

しかし、彼等の前に出た司が、ガンガーの

銃身に手を置いて、それを下げさせた。

「折角の魔人族だ。それに、あれだけの

 大部隊を仕切っていたのだ。恐らくは

 部隊長か、それ以上のランクの者だろう。

 情報を吐かせるにはちょうど良い」

そう言って、司はフリードに向かっていく。

 

「どうだ?ご自慢の相棒のブレスをその身で

 受けた感想は?」

「なん、だと……?」

疑問符を浮かべるフリード。司が島の

端にたどり着いた時、空間が歪み、司が

その波紋の中に消えていった。かと思うと、

フリードの数歩前に現れた波紋の中から

司が現れた。

 

 

「ぐっ!?ま、まさか、貴様、既に、

 空間魔法を……!?」

「さてな」

男の問いかけに、私は肩をすくめるだけだ。

先ほどの攻撃。私は背後の空間を歪め、そこに

ブレスを吸収。出口を奴らの真下に設定して、

奴の放ったブレスを奴らに見舞ってやった。

「だが、空間を瞬時に移動する力。自分だけの

 物だと侮ったのは、やはり二流だからだろうな」

「ぐっ!?貴、様っ!」

何とか立ち上がろうとする男。

 

「ふんっ」

『ドゴッ!』

「ぐはっ!?」

だがそれを、私は蹴飛ばす。

奴は既にボロボロ。もはやまともに戦えまい。

敵を倒す為に放ったブレスで自分が瀕死とは、

何とも滑稽な事だ。

 

だが、貴重な情報源。もしかしたら、魔人族

が魔物を使役し出した理由を探れるかも

しれない。だからこそ、今は殺さない。

だが、この男の口ぶりからして情報を

吐くとは思えない。捕らえていたぶって

吐かせても良いが、ハジメや香織、ミュウの

精神衛生上それはあまり良くない。

ここは、脳から直接データを吸い出すか。

そう考え私は、倒れている男の頭を

掴むとそれを持ち上げた。

 

「貴様、何、を……」

「……」

問いかけてくる男を無視し、私は男の

脳内のデータを閲覧する。

「ぐっ!?がっ、あぁぁぁぁっ!」

男は、頭に勝手に入り込まれた痛みから

叫ぶ。

 

私は、この男から得られたデータを脳内で

閲覧していく。

……名前は、フリード・バグアー。位は、

将軍級か。保有している神代魔法は……。

これか、『変成魔法』。内容は、ほう?生物を

魔物に。言わば、有機生命体を外部の力で

強引に、魔物として進化させる訳か。

そして魔物となった生物に対し、魔力を注ぎ込む

事で更なる進化と強化を促し、従属させる。

更に既に存在する魔物の強化まで

出来ると言う事か。その一番の強化体が、

フリード・バグアーの相棒であるあの白竜。

『ウラノス』という訳か。まぁ良い。

……このフリード・バグアーが変成魔法を

入手したのは、シュネー雪原の大迷宮か。

正確な場所は……。

よし。雪原の大迷宮の座標位置確認。次に……。

さっきのは空間魔法だな。どうやらこっちは

この大火山の迷宮で手に入る物のようだ。

そして、奴はここで私達が来るだろうと

考え網を張っていた、と言う事か。理由は……。

成程。ウル防衛戦で逃がした、幸利をそそのかした

魔人族の男から私達の事を聞いていた訳か。

まぁ良い。あとは、念のため王国への土産に

こいつらが現在進めようとしている作戦の情報

か何かを……。

 

と、その時。

『ガァァァァァァァァァッ!!』

先ほどまで倒れていたウラノスが、突如

起き上がって私に噛みついてきた。

私はフリードを離し、ハジメ達の方へと飛ぶ。

すると、奴はフリードの服の部分を器用に

咥え、天井目がけて飛び上がった。

「ッ!?待てっ!」

咄嗟に、ハジメがガンガーの狙いを定め、

一発。超低温レーザーを放つ。

 

しかし白竜ウラノスはそれをバレルロールの

ような回転で攻撃を回避する。

「このっ!」

ハジメに続き、香織たちがウラノスを

撃ち落とそうとガンガーを構え、魔法の

準備をする。

 

だが、それよりも速く、フリードが

懐から取り出した小鳥の魔物に何かを

語りかけた。

 

次の瞬間。

『ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!』

グリューエン大火山が激しく揺れ、突然の

事にハジメ達の狙いが定まらず、その隙に

ウラノスは天井へと向かう。

そして、そんな中で私の強化された視覚は

フリードが懐からペンダントのような物

を取り出すのを見逃さなかった。

 

すると、天井が左右に開いていき、その向こう

には青い空が広がっていた。

「くっ!?逃さぬ!」

このままでは逃げられると思ったのか、

ティオがブレスの用意をするが……。

 

「良い。捨て置け」

彼女の前に手を出し、ティオを制止する。

「ッ!?しかしっ!」

「あいつ程度では我らの脅威には

 なりえん。時間があるときにゆっくり

 始末すれば良い。それに……」

「パパァっ!何かマグマの量がどんどん

 増えてきてるの!」

言いかけ、ミュウの言葉が聞こえてきた。

周囲を見回せば、確かにマグマの海の

水位が上昇してきている。

 

 

この時、司たちは知らなかったが、この

グリューエン大火山の地下には、マグマ

の噴出をコントロールしている『要石』が

あり、フリードは万が一の際、それを

破壊して大迷宮を破壊する事と引き換えに、

敵を倒す仕掛けを用意していたのだ。

このままでは地下のマグマだまりから

溢れ出したマグマに呑み込まれて

しまう。もっとも、司にしてみればこの程度

の事、簡単に対処できる。

フリードの誤算は、『相手が規格外過ぎた事』

だった。

 

 

このままでは不味いな。如何にジョーカー

の耐熱性でも、マグマの海を泳ぐのは危険だ。

ハジメ達はガンガーでマグマを冷却しようと

しているが、流石に焼け石に水だった。

だが、手立てが無い訳ではない。

「皆、射撃を止めて下さい」

私はハジメ達を制止し、ジョーカーZを

解除する。

「司?」

その行為に首をかしげるハジメ。香織達も

同様だ。

 

「ここは、私に任せて下さい。考えが

 あります」

そう言って、私はマグマの海に向かって

跳躍した。

「ッ!?パパッ!」

後ろでミュウの叫びが聞こえる。

「大丈夫です」

私は振り返り、ミュウに微笑むと、マグマの

海へと飛び込んだ。

 

ミュウを始め、香織やシア、ユエにティオが

慌てだす。しかし……。

「大丈夫だよ」

そう言って、香織たちを宥めるハジメ。

「司なら、きっと……」

「ハジメ君」

香織は、笑みを浮かべるハジメを見つめ、

同時に自分も冷静さを取り戻した。

ユエやシアもだ。

「そうだよ。お兄ちゃんなら、大丈夫だよ。

 きっと」

ルフェアもまた、マスクの下で笑みを

浮かべていた。

 

と、その時。

『バキッ!』

「ぬ?」

何かが割れるような音が聞こえた。

ティオは音がした方を注意深く観察し、

そして、驚いた。

「ま、マグマが冷え固まっていくのじゃ!?」

彼女の言うとおり、司が潜った辺りから、

マグマが徐々に黒く固まっていく。

あれほど、赤く煮えたぎっていたマグマの

海が、司の潜った辺りを中心に徐々に徐々に

固まっていく。

 

やがて、マグマの海が冷え固まり、マグマ

の海は、大地となった。そして更に、

先ほどまで灼熱の熱さだった周囲の気温

までもが、急激に低下していく。

「が、外気温度9度じゃと。これは、

 一体……」

いきなりの温度変化に、ティオは戸惑いを

隠せなかった。

 

と、その時。

 

『ドォォォォンッ!!!』

冷え固まったマグマの大地が震動し、地面に

亀裂が走った。

「地震ですかっ!?」

「……違う」

突然の揺れに驚くシアとそれを否定するユエ。

「皆!一応下がって!」

ハジメの言葉に彼等は後退る。

『ドォォォンッ!ドォォンッ!』

まるで、『何か』が大地を砕き現れようと

しているような光景。

そしてそれは、『その通り』だった。

 

と、その時。

『カッ!』

亀裂の下から紫色の光が瞬いた。

『ゴォォォォォォォォォッ!』

かと思うと、その下から放たれた

一筋の閃光が、フリードの脱出後に

閉じた天井を溶かし貫き、ハジメ達の

頭上に再び青い空が見えるように

なった。

 

と、次の瞬間。

 

『バゴォォォォォォンッ!』

≪ゴアァァァァァァァァァァッ!!!≫

 

雄叫びと共に、マグマの大地の下から漆黒より

もなお黒い体表を持つ、巨大な黒い

神たる獣、『シン・ゴジラ第4形態』が姿を

現した。

頭から始まり、胴体と足、背鰭と尻尾。

その大いなる姿が、冷え固まった

マグマを粉砕しながら現れる。

 

「司ッ!」

ゴジラ第4形態の姿を知っていたハジメや

香織、ユエやルフェアはその姿を見て頬を

緩めるが、初めてその巨体を見たシア、

ミュウ、ティオは驚きを隠せなかった。

 

そんな中で……。

『あ、あれが、マスターだと言うのか……!?』

内心、ティオは驚愕していた。

「は、ハジメ殿?本当なのか?あれが、

 マスター、なのか?」

彼女は驚き、目を見開いたまま傍に居るハジメに

問いかけた。

 

その問いに、ハジメはしばし答えに迷った。

自分の口から話して良いのかを。

「……。うん、そうだよ」

しかしやがて静かに頷くと、語り始めた。

「司はね、そもそも人間じゃないんだ」

ハジメ達は、こちらを見下ろし尻尾を

ユラユラと揺らすゴジラ第4形態を

見上げる。

 

「聞いた話だと、司は進化して今まで

 僕達と接していた人の姿、第9形態

 にたどり着いたんだって」

「なっ!?ま、マスターは獣から人に

 進化したと言うのですか!?」

「う~ん。進化、って言うより本人曰く

 『擬態』、つまり人のふりをしている

 だけらしいよ。今のあの黒い

 姿は、第4形態なんだって」

「よっ!?」

ティオはハジメの言う数字に目眩を

覚えた。

「司は、進化の果てに個体として完成した、

 らしいよ。そのまま進化を続けていたけど、

 人との争いを避けようと考えた司は、

 これまでの能力を宿したまま人のサイズ

 にまで小さくなった。それが、人に

 擬態した司。つまり、いつも僕達が

 接している司なんだ」

 

ハジメの言葉に、ティオの目眩は酷くなった。

だが、彼女は同時に、ある感情を抱いた。

 

それは、『恐怖』であり、『憧れ』だった。

 

『ゴジラ』

 

それは生命の頂きへとたどり着いた、

たった一人の王。

 

自らを霊長類とまで謳った傲慢な人類

を、個の力で粉砕出来る、圧倒的なる獣。

 

大いなる巨獣。

そこある神話。

実在する黙示録の獣。

力の化身。

神となった獣。

 

そのどれもがあてはまる存在が今、

自らの前に居る。

改めてマスターと仰いだ存在の大きさに、

ティオの膝が和服の下でガクガクと揺れる。

それほどのプレッシャーを、ゴジラから

感じていたのだ。

 

しかし、一方でゴジラから放たれる、神秘的

なオーラ。それは万人を恐れさせる姿で

あった。だが、そんな恐ろしい姿の中にも

力強さを持つ。

 

それこそがゴジラ。理を超え、生命の王と

呼ばれるに相応しい、孤高の頂きへと

たどり着いた、世界の覇者だけが纏う事を

許されたオーラだ。

 

ティオは、そんなゴジラの秘めた力強さに

憧れたのだ。

 

『そうじゃ。これが、王の覇気なのじゃ』

その時、ティオはジョーカーの装着を解除し、

自分の目でゴジラを見上げる。

目の前に雄々しく立つゴジラの姿を目に

焼き付けるティオ。

 

そして、ティオは無意識の内に、さながら

敬虔な信徒が祈りを捧げるかのように、

静かに手を合わせた。

 

 

その時、ゴジラの体表から水蒸気が発生し、

体を包み込んだ。

かと思うと、水蒸気の中から第9形態、

つまり人に戻った司が現れた。

 

「皆、無事ですか?」

そして、そこからいつもの服を纏った

司が現れ、冷えて固まったマグマの上を

歩いてくる。

「おかえり司。……で、何したの?」

「大した事はしていませんよ。周囲のマグマ

 の持つ熱エネルギーを体内に取り込んだ

だけです。マグマの熱を奪う事で冷却し、

あのように固めただけです。何も

難しい事はしていませんよ」

と、説明するが……。

 

「あのね司。司にとっての普通はね、人間に

とっての神業とか不可能の領域なんだよね」

「「「うんうん」」」

ハジメにツッコまれ、香織とユエ、ルフェア

が頷いている。

と、その時司がミュウとティオの視線に気づき、

二人の傍に歩み寄る。

 

「……二人は、どうでしたか?

 本当の私を前にして」

司の問いかけに、ティオは戸惑い、ミュウ

は無言だ。

 

しかし……。

 

「か……」

「か?」

不意に、セラフィムのマイクを通して聞こえた

ミュウの小さな声。

司は最初、拒絶を覚悟していた。

見た目が化け物なのだ。致し方ないと

割り切っていた。

 

だが……。

 

「パパッ!カッコいいの!」

「……………。え?」

返ってきた言葉は賞賛だった。

突然の言葉に、司は殆ど見せたことの

無い、狼狽し戸惑うような表情を浮かべる。

「か、カッコいい、ですか?ミュウは、

 怖くは無いのですか?あの黒くて大きな

 姿が?」

「ふぇ?確かにちょっと怖いけど、でも!

 それ以上にカッコいいの!」

……。血が繋がっていないとは言え、

娘にカッコいいと言われて嬉しくない

父親は居ないだろう。

 

だから……。

「そうか。ありがとう、ミュウ」

その時私は、心の底から笑えた気がした。

 

その後今度はティオへと視線を向けたの

だが……。

 

「……ティオ?何をしている?」

そこでは、ティオがまるで信者のように地面に

膝を突き、私を見上げながら手を合わせていた。

その表情はどこか恍惚としていたが、私が声を

掛けるとすぐさまハッとなって立ち上がった。

 

「も、申し訳ありませんマスター。その、

 マスターのお姿があまりにも神々しかった

 もので、つい」

……神々しい、か。そんな風に言われるのは、

初めてな気がする。

すると、再び私の前で膝を突くティオ。

 

「改めて、お慕い申し上げます。マイマスター。

 あなた様のお姿、改めて拝見させて

 いただきましたが、恐れながら妾は、

 マスターに恐れと共に、尊敬の念を抱き

 ました」

そう言うと、ティオは何やらキラキラした目

で私を見上げる。……正直、こう言う視線には

慣れていないので戸惑ってしまう。

「そ、そうか」

「……あの黒く大きな巨体。さながら山の如き

 巨躯。その足は大地を揺るがし、その手は

 山をも引き裂くでしょう。阻む者全てを

 灰燼と帰す、絶対的な力を持った

 マスター。そんなマスターの大いなる

 姿をこの目で拝見できた事、嬉しく

 思います。不肖ティオ・クラルス。

 今後も大いなるマスターのお側に仕えさせて

 いただきます」

「う、うむ。よろしく頼むぞ。ティオ」

「御意」

頷き、頭を垂れるティオ。

 

「……。何か、ティオさんがますます

 司の家臣みたいになってるね」

その時、傍に居たハジメの呟きが聞こえてきた。

「「「「うんうん」」」」

ハジメの言葉に頷く香織やユエ、シア、

ルフェア。

後ろでそんな彼等の会話が聞こえてくる中でも、

ティオは相変わらずキラキラした目で私を

見上げている。

 

な、慣れん。こんな目で見られるのは……。

内心、ティオの憧憬が籠もった視線に戸惑って

いると、私は中央の島を覆っていたマグマの

ドームが消え、そこに漆黒の建造物が

現れていたのが見えた。

 

「んんっ。ティオ、お前の忠義は良く分かった。

 しかしここは大迷宮の中だ。先を急ぐぞ?」

「御意。マイマスター」

甲斐甲斐しく頭を下げてから立ち上がるティオ。

 

さて、と。

「……魔人族の妨害がありましたが、どうやら

 試練はクリアした、と判断されたようですね」

中央の建造物を見ながら呟くと、ハジメ達も

そちらに目を向けた。

「もしかして、マグマの中にあったコアが

 ボスだったのかな?」

「えぇ。恐らくあのマグマ蛇のコア100個を

 破壊する事が試練だったのでしょう」

私達は会話しながら中央の島へと、マグマが

冷え固まった大地を歩いて行く。

 

「それにしても、マグマの熱を奪って

 固めちゃうなんて。ホント司さんには

 常識が通じませんねぇ」

「ん。相変わらずのチートぶり」

と、会話をしていたシアとユエ。

そんな時、ふとある疑問がシアの頭に浮かんだ。

「って言うか司さん。ふと思ったんですけど、

 その力を誰かに分け与える事って

 出来るんですか?」

 

それは単純に興味本位だった。シアにして

みれば、彼女の家族を屈強な戦士に変え、国を

敵に回す事すら恐れず、世界さえ滅ぼせそうな

司には、出来ない事など無いのでは、と言う

認識があった。

 

そして……。

 

「えぇ。可能ですよ?」

「えっ!?」

司の肯定の言葉。これに驚いたのはティオだ。

「そ、それは本当なのですか!?マスター!」

「私は仲間に嘘は言いませんよ?」

 

と言っても……。

「まぁ、軽く人間を止める事になりますがね?」

「「「「「「「え???」」」」」」」

私の言葉に皆が疑問符を浮かべる。

「驚く事ですか?例えばの話、私の力の数割

 とて、一般的な人間がその体のまま

 受け入れようとしたら、取り込んだ途端力に

絶えきれずに体が消滅しますよ?」

と言うと、ハジメや香織がブルリと体を震わせた。

「まずは私の力を与え、相手の肉体を、力に

 耐えられるまで強化します。この時点で

 恐らくは、不老不死を獲得するでしょう」

「は、ははっ。……マジ?」

と、戸惑いながら問いかけるハジメ。

「えぇ。端的に言えば、既にこの時点で

 世界最強です。肉体の硬度、堅さを

 自由自在に変化させる事も、生物と

 かけ離れたパワーを発揮する事も可能

 です。……しかしそれは、私の力の

 一端を受け取る、『器』を完成させた

 に過ぎません」

「と言う事は、司さんの力をほんのちょっぴり

 分けて貰うだけでも世界最強じゃないと

 ダメって事ですね」

そう言って、遠い目で頷くシア。

「って言うか、司は相手にどれくらいの力を

 分け与えられる訳?」

「そうですね。大凡私の力の6~7割、と言った

 所でしょうか。現在の私の力では、相手を

 強化し、尚且つ制御可能な力を与えるのは 

 これが限界ですね」

流石にそれ以上の力の譲渡は不可能だろう。

……私がもっと進化しない限りは、だが。

 

「司の6~7割って。……ちなみに司。これ

までの戦いって、割合的にどれくらいなの?」

「そうですね。……せいぜい3割か2割、

 と言った所です」

「「「「「「「え?」」」」」」」

私の言葉に、皆が驚き、一瞬足を止めた。

「生憎、今の今まで私が5割も力を出す必要

 のある敵に遭遇した事がありません

 から」

「は、ははっ。つまり、あの時妾は、マスター

 が力の4割も出す必要が無かった、と。

 足下にも及ばないとは正にこのことかの」

と、どこか遠い目で語るティオ。

「つまり、僕達が仮に司からその、進化?

洗礼?みたいなのを受けるとこの世界で

最強になれるのかな?」

「えぇ。加えて、その程度まで強化して

 しまえば恐らくエヒトが相手だとしても

 遅れは取らないでしょう。恐らくですが、

 強化された場合のハジメ達ならば、私の

 第7形態までの能力の全て、そうですね。

 これを『第7権能(コードセブン)』とでも呼ぶとして、

 コードセブンまでのゴジラの力の全てを苦も

 無く行使出来るようになるでしょう」

 

と言うと、皆が引きつった笑みを浮かべる。

「え、え~っと?つまり、司なら僕達

 全員を神様並みに強くさせられるって事?」

皆を代表するように問いかけてくるハジメの

言葉に私は頷く。

「流石に、第8権能、コードエイトに到達

 しなければまだ物理法則の縛りから

 抜け出せませんから、神、とまでは

 行かなくてもそれに匹敵する力を行使

 する事は可能でしょう。都市を一撃で

 クレーターに変えたり、天候を操ったり、

 無から有を創り出すくらいですが」

「いやいやっ!何がくらい、なんですか

 司さん!神!その時点でもはや神レベル

 ですからね!」

と、私の言葉にシアがツッコみを入れる。

「皆がパパくらい強くなったら、きっと

 負け無しなの!」

そこに聞こえる我らが天使、ミュウの

無邪気な言葉。しかし、シアや香織、ユエ、

ルフェアは苦笑気味だ。

 

「私達、もしかしたら神様になれるのかなぁ」

ポツリと呟いたルフェア。次いで、香織達が

視線をルフェアから私に向ける。

「……。ありそうだね~」

「なんでしょう、不可能って言葉が頭に浮かんで

 こないですぅ」

「……司ならやりかねない」

香織、シア、ユエはどこかため息交じりにそう

呟いている。

 

一方ティオは……。

「ま、マスター直々に、私を、強化……」

何やらブツブツと呟いている。

それを一瞥しつつ、私は改めて建造物を見上げる。

ちなみに会話の途中で既にたどり着いていたが、

普通に会話していた私達。

 

いい加減、中に入るか。

私が壁の前に立つと、その壁が音も無く開いた。

それに気づいて、ハジメ達も気を引き締める。

「行きましょう」

私が肩越しに振り返り呟くと、皆が頷く。

 

あのバグアーがここにいた為、念には念を入れて

警戒しつつ、私達は大迷宮のゴールである、

解放者の隠れ家へと足を踏み入れるのだった。

 

     第51話 END




フリードは生かしました。なんでかって言うと、司にしてみればフリード程度は小物で、いつでも殺せるからです。次回は神代魔法の継承のお話と、可能であればエリセンまで行って、ミュウの母親である彼女が出るかもしれません。

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