ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~ 作:ユウキ003
~~~前回のあらすじ~~~
次なる大迷宮を求めて大火山から更に西へと
進んだ司たちは海上の町エリセンへと到着し、
ミュウは無事母親であるレミアと再会。
司はレミアから好意を持たれ始める。
エリセン滞在の数日後、司たちはエリセン近海
にある次の大迷宮、『メルジーネ海底遺跡』へ
と出発。グリューエン大火山で手にした
ペンダント型の証を利用し、遂には海底遺跡
内部へと侵入するのだった。
フジツボ似の魔物による挨拶代わりの攻撃を
凌ぎ全滅させた私達は、奥へと続く通路を
進んでいく。
そこは、膝の高さまで水に浸かっており、
ジョーカーを纏っているとは言え、少々
歩きにくい環境だ。
そこに襲いかかる、手裏剣のようなヒトデと
海蛇の魔物。しかし全て、全機が持つ放電能力
によって海水を伝って放たれた雷撃によって
撃ち落とされ、焼き払われる。
「う~ん。ねぇ司。思ったんだけど、ここ
の魔物って弱くない?」
ふいに首をかしげ、私に声を掛けるハジメ。
香織達もうんうんと頷く。
しかし彼の言うとおりだ。
「えぇ。これでは少々拍子抜けですね。
……まだ層が浅い、と言う事でしょうか」
「それって、オルクスみたいに下に行くだけ
魔物が強くなる、的な?」
と首をかしげる香織。
「まぁその可能性は否定出来ませんが、
少々妙ですね。皆、警戒を怠らない
ように」
「「「「「「了解」」」」」」
念のため、警戒を強めながら先へと進む私達。
そして、広い空間へと出たその時。
不意に、先ほどまで通ってきた通路の入り口が
ゼリーのような物体で封鎖されてしまう。
「ッ、何だ?」
私は咄嗟に手にしていたタナトスをゼリー状の
物体に向けつつ、周囲を警戒する。
「任せて下さい!」
その時、最後尾を歩いていたシアがアックス
モードのアータルを振り上げる。
アップデートで内蔵された振動機能が起動し、
超振動の刃となったアータルが振り下ろされる。
ズバッ、と言う音と共に切り裂かれたゼリーが
周囲に飛び散るが、切り裂かれた傷がどこからか
にじみ出たゼリーによって一瞬で塞がれる。
更に、斬撃の反動で周囲に飛び散ったゼリーの
一部がシアのジョーカータイプSCの装甲に
付着する。
すると装甲の一部から僅かに煙が上がる。
「え!?何か煙が出てますぅっ!」
「シア!動くでないぞ!」
装甲に付着したゼリーを魔法で取り除こうと
するティオ。
「ティオ、ジョーカーの装甲は並みの炎なら
耐えられる。気にせず焼き払え」
「はいっ!」
そして、私のアドバイスに従って、シアの
体をティオの放った炎が撫で付け、ゼリー
を焼き払う。
ゼリーに覆われた部位は、見た目はそれほど
変わっていないが、よく見ると覆われなかった
部分より変色している。
しかし……。
「ジョーカーの装甲を僅かとは言え溶かすか。
総員、そのゼリーには気をつけろ。
かなり強力な溶解作用があるようだ」
私の警告に従い、皆が壁から離れる。
「ッ!今度は上ですぅ!」
すると、今度は天井付近から触手の形と
なってゼリーが降り注ぐ。
未来視でそれに気づいたシアの警告が飛ぶ。
即座に私がシールドを展開して全員を
守る。しかし……。
「ッ。……私の結界さえもか」
如何に私の力が、普段からセーブされている
とはいえ、それは常識外れの力を持つ。
その常識外れの力によって生成されたシールドを、
ほんの僅かずつとは言え、溶かし、浸食して
行く。このゼリー、厄介な。
しかし、私のシールドを徐々に融解させる事は
出来ても、その浸食スピードは私のシールドの
修復スピードを上回る物では無かった。
とは言え、厄介な。
「香織はスカウトモデルの索敵機能で
周囲の索敵。このゼリーが魔物ならば、コア
があるはずです。他は周辺のゼリーに
対して攻撃を。相手は広範囲に展開
しています。銃弾では効果が薄い。
しかし場所が場所なので、ルドラなど
の高威力武装の使用は控えて下さい。
ハジメとルフェアはジョーカーの
放電機能を使って攻撃を」
「「「「「「了解っ!」」」」」」
私の指示に従い、皆が動き出す。
ユエ、ティオが魔法で攻撃を放つ。
シアはアータル・バスターモードの出力を
調整し、ビームを散弾のように放つ。
ハジメとルフェアは、ジョーカーの
放電機能を生かして周囲に雷撃を放って
ゼリーを蒸発させる。
そんな彼等を私のシールドが守る。
一方で周囲をスキャンする香織。しかし……。
「何、これ……!」
周囲を見回しながらも、彼女の戸惑う声が
聞こえてくる。
「香織、どうしましたか?」
「つ、司くん!皆も!ここ、変だよ!
壁や天井、全部から魔物の反応がある!
コアの魔石が、見つからない!」
「えっ!?」
香織の言葉にハジメが戸惑う。
と、その時。天井からしみ出していたゼリー
が空中で合体し、それは巨大なクリオネ似の
姿を取った。だが……。
「奴にも、コアが無い」
透明な体のどこにも、魔石は無い。
「そ、そんな!?魔石が無いって、じゃあ
あれは魔物じゃないの!?」
そう。魔物には魔石がある。それが普通。
香織の戸惑うような叫びも分かる。
だが、奴にはそれが無い。
いや、或いは……。
「反応が全体からある、と言う事は、奴の
体のその全てが魔石という事か」
「えっ!?そ、そんなのありなんですかぁ!?」
私の言葉に素っ頓狂な叫びを上げるシア。
「そんなのに周囲を囲まれたなんて、
まさか……。ここは奴の腹の中!?」
「えぇ!?」
ハジメの言葉に叫ぶシア。
その時、クリオネ似の奴が攻撃を開始した。
「ちっ。厄介な魔物だ。総員、とにかく今は
ゼリーと奴に攻撃を。体全てが魔石だと
言うのなら、全て破壊するまでです」
「は、はいですぅっ!」
私が防御に専念し、香織も魔法と放電能力を
合わせて攻撃に参加する。
しかし、状況は『焼け石に水』状態だった。
どれだけ撃破しても、尽きることの無い
ゼリーの触手による攻撃が続く。
「このっ!こいつらどれだけ!?」
雷撃で迫り来る触手をなぎ払いながらも
悪態をつくハジメ。
「文字通り、切りが無い……!」
ユエも魔法による炎で周囲をなぎ払うが、
彼女の言うとおり終わりが無い。
最悪、私の概念干渉の力で全てを消滅
させようかとも考えたが、大迷宮に
おいて、神代魔法を得るにはあの魔法陣
に記憶をスキャンされ、認められなければ
ならない。
そして、もしこいつが大迷宮のボスである
としたら、何かしらの方法で倒す事が
出来るかもしれないが……。
今のところ、その方法が分からない。
「お兄ちゃん!どうしよう!このままじゃ!」
敵を攻撃しながらも、戸惑うルフェアの声が
聞こえる。
確かにこのままでは終わりが無い。
気がつけば、足下程度だった海水の水位が既に
腰元辺りまで上がってきている。
私が居る限りそれは大した問題では無い。
だが向こうも終わりが見えない。
これでは完全なシーソーゲームだ。
何か打開策は、と考えエコーロケーションの
力で周囲を探る。
すると地面の下に空間がある事が分かった。
やむを得ん。
「総員、一旦ここを離脱し体勢を立て直します。
地下に空間を確認。バラバラにならないよう、
シールドを展開したままこの地下へと
移動して行きます」
「「「「「「了解っ!」」」」」」
「ではっ!ふんっ!」
ゼリーを迎撃しながら叫ぶ皆の声を返事とし、
私は思いきり地面を踏み砕く。
次の瞬間、ひび割れた地面がぱっくりと大きな
穴を開き、その穴へと私達はシールドと共に
吸い込まれてく。
それを逃がすまいと思ってかゼリーの触手が
追撃してくる。
「こんのぉ!」
咄嗟にハジメが迎撃の雷撃を放つ。
その隙に、私が産みだしたGメタルの巨岩が
穴を塞いだ。
これで、敵の追撃は逃れられるだろうと考えつつ、
私は皆と共に下へ下へと流されていった。
私達がたどり着いたのは、球体状の空間だった。
そこから四方八方へと穴、通路が延びており、
流れる海流の激しさも相当の物であった。
何とかこれを私の力で踏ん張りつつ、今は
全員で作戦会議中だ。
「さて、こうして無事あのクリオネから
距離を取った訳ですが、今後について
皆の意見を聞きたいのです」
今は球体シールドの大きさを広げ、全員が
床に腰を下ろしヘルメットを取っている。
「ハジメ、どうですか?」
「う~ん。僕の意見としては、まず何よりも
怪しいのはあの穴だよね?」
そう言って、ハジメは四方八方に見える穴を
指さす。
「僕としては、あの穴の中のどれかが正解の
ルートなんじゃないかなぁと思うん
だけど……」
「でも、それは変じゃないかな?」
ハジメの言葉に異を唱えたのは香織だ。
「どの穴の周囲も調べたけど、目印
みたいな物は何一つも無いよ?」
「となると、もしくは道を間違えたか。
じゃな」
更に可能性を口にするティオ。
私も内心、確かに、と思う。しかし……。
「何はともあれ、我々は証に従い、あの
クリオネ擬きの化け物と戦う部屋まで
来た。あそこまで一本道であった事を
考えるに、あの部屋はまず間違い無く、
正解のルートだったと考えて
間違い無いだろう」
「でも、これからどうするの?」
そう言って、ユエは私達が通ってきた頭上
の穴に視線を向ける。
「上に、戻る?」
「いやぁ、でも上戻ったらアイツとまた
再戦ですよねぇ?」
ユエの発案に難色を示すシア。
「うん。その可能性が高いよね」
ルフェアもシアの言葉に頷く。
「……正直な所、奴が一体何者なのか
分からない現状では、奴との戦いは
極力さけるべきだと思われます。
奴の底が見えない以上、戦いは
間違い無く長期戦になります。
しかし奴を倒して終わり、とは
考えられない以上、今は奴との戦いを
避けるべきだと私は考えます」
と言うと、皆は私の提案に頷く。
「となると……」
そう言って、ハジメは周囲の穴の数々に
目を向ける。
「この穴の、どれかの先に進むしか無いの
かな?」
彼の声に、私を含め皆がそちらに目を向ける。
「そうでしょうね」
私は頷くと、立ち上がって一旦シールドの外に
出て、適当な場所にマーカーを突き刺してから
シールド内部に戻った。
「今、あそこに転移の際の座標とまる
マーカーを突き刺しておきました。
あれがあれば、ここに戻ってくる事も
可能です。ですので、今から我々は
あの穴、洞窟のどれかに突入します。
……先ほどのゼリーの魔物の事を
考えると、危険度は相応の物です。
各自、絶対に気を抜かないように」
「「「「「「了解」」」」」」
私の言葉に皆が頷く。
「それでは、行きます」
そして、私達はシールドに乗ったまま、
洞窟の一つへと突入していった。
そしてしばらくすると、あの時のように
海中からどこかへの空間へと飛び出した。
そこでもやはり海水が頭上でたゆたっている。
「シールドを解除します。総員着地の
用意を」
「「「「「「了解っ」」」」」」
空中に投げされた私はシールドを解除する。
皆も武器を手に周囲を警戒しながら、
重力制御装置やスラスターを使って
落下速度を軽減しつつ、眼下の白い砂浜へと
着地した。
すぐに敵の攻撃を考え円陣を描くように周囲
を警戒するが、敵が襲ってくる気配は無い。
「香織」
「……大丈夫。レーダーに反応はなし」
「了解。クリア」
私の声を合図に、皆が一旦構えを解く。
「さて、こうしてどこかの空間に
出た訳ですが……」
私は遠くに見える雑木林の方角へと目を
向ける。
「恐らく天井として海水がたゆたっている
事から、これは正規のルートであると
私は考えます」
「って事は、このまま進めって事?
あそこに」
そう言って、ハジメは雑木林の方に
目を向ける。
香織達も、ハジメの視線を追って雑木林
に視線を向けている。
「おそらく、その通りなのでしょう。
……行きます」
静かにタナトスを構え歩き出す私に、
トールを構えるハジメや、同じく
取り回しを考えタナトスを持つ香織、
バアルを構えるルフェア。
両手のビーム砲の感触を確かめるユエ。
アータルを握りしめるシア。
玄武を携えたティオが続く。
私達は雑木林に足を踏み入れ、進んでいく。
途中で見るからにヤバそうな蜘蛛を
発見しつつも進んでいく。
そして、密林を抜けた先に待っていたのは……。
「ッ、これは……」
「船、かの?」
岩石地帯に横たわる数多の、朽ちかけの帆船。
ハジメが息を呑み、ティオが真っ先に船の
ワードを口にする。
「……まるで、船の墓場」
ぽつりと呟くユエの言葉に、私達は気を引き
しめる。
念のため警戒しながらも、とにかく私達は
香織が発見した、遠くに見える唯一の
装飾された船、豪華客船らしき船の残骸
に向かって進んだ。
途中、あちこちに散らばる船の状況を確認
しながら進んでいく。
「これも、か」
私は、黒く焼け焦げた船体の一部を指先で
撫でながら呟く。
「ねぇお兄ちゃん、これって……」
「恐らく、ですが、ここにある船の大半は
戦闘で破壊され沈没した物と考えられ
ます」
船体に刻まれた、魔法による攻撃を受けた
であろう数々の跡。
この世界では火薬の発展が見られない事から、
恐らく遠距離攻撃の基本は魔法なのだろう。
そして、炎か何かで攻撃を受けた形跡が、
船のあちこちに見られる。
「だが、何故こんな物が」
仮に過去の戦いで沈没したにしても、
何故こんな場所にこれらが置かれているのか
理解出来なかった。
そして、そのまま歩みを進めていると……。
≪ワァァァァァァァァッ!!!≫
どこからか雄叫びにも似た声が聞こえて来ると
同時に、世界が歪んでいく。
「ッ!総員戦闘態勢!」
私は咄嗟に指示を出し、皆で円陣を作り
互いの背中をフォローする。
そして、気がつけば私達はどこかの海原
の上で、海戦を繰り広げる艦隊の、船の
甲板に立っていた。周囲では二つの勢力が
武器を片手に戦いを繰り広げていた。
「なっ!?何、だ。これ」
周囲を見回しながら驚くハジメ。皆もだ。
私達はまるでタイムスリップでもした
かのような気分に陥っていた。
だが、やはり大迷宮。戸惑ってばかりは
いられない。
船が攻撃を受けて被弾し、船体が大きく揺れる。
「うぉっ!?何がどうなってるんだ!?」
状況が理解出来ずに叫ぶハジメ。
その時、私達目がけて火炎弾が飛んできた。
咄嗟にシールドを展開した。
だが、驚愕すべき事態が発生した。
『スカッ!』
「ッ!!何っ!?」
攻撃がシールドをすり抜けたのだ。
『バカなッ!?』
私は咄嗟に概念干渉能力で攻撃を無力化しよう
とした。
だが……。
「任せて!『光絶』!」
香織の発動した光系統の初級防御魔法が、
火炎弾をガードしたのだ。
「ッ。何?」
それを見た瞬間、私の脳みそがフル回転し、
私が攻撃を防げなかった理由。香織が
攻撃を防げた理由を考える。
「ッ!?司!」
その時、ハジメの叫びが聞こえた。
見ると、私達に向かって武装した兵士たちが
向かってくる。
「全ては神の御為にぃっ!」
「エヒト様ぁ!万歳ぃ!」
「異教徒めぇ!神のために死ねぇ!」
しかも、その目を充血させ、神だ何だと
叫びながら向かってくる。
「くっ!?この人達、まさか……!」
狂気。正しくそれを孕んで突進してくる
人間に、ハジメのトールのトリガーに
掛けた指が震える。
だが、それを制するように私の取り出した
魔力を発射するハンドガン、ティアマト
の3連射から放たれた魔力弾が男達の頭を
撃ち抜く。
「……やはり、か。……総員っ!周囲の敵
及び攻撃に対しては魔法、或いは魔力を
纏った攻撃で対応せよ!奴らは物理的な
干渉を受け付けない幻影のような存在だ!」
「ッ!そう言う事なら!」
私の言葉に真っ先に反応したルフェアは、
その両手にティアマトを握るとそれを
連射。放たれた魔力弾が次々と敵の
手足を撃ち抜いていく。
「喰らえ……!」
更にユエの放ついくつもの火球が兵士達を
飲み込んで行く。
ルフェアは亜人族ゆえに魔力を持たないが、
供給用リングとジョーカーを通す事で私
からティアマトに魔力が供給され、これを
使う事が出来るのだ。
「くっ!?クソォッ!」
ハジメも、悪態をつきながらティアマトを
構え、撃つ。
放たれた魔力弾が敵兵士の腹部を貫通する。
「撃たなきゃ、ダメなんだ!」
更に香織も、自らに言い聞かせるような
言葉と共にティアマトを撃つ。
二人にはまだ、人を撃つ事への躊躇いが
あるようだ。あまり戦いを長引かせる訳
には行かない。
「ティオ!玄武に魔力を込めろ!そう
すれば魔力を斬撃波として放つ事が
出来る!シア!アータルのバスター
モードを使え!魔力をそのままエネルギー
として打ち出す事も出来る!」
「はいですぅ!」
「了解したのじゃ!」
私の指示に従い、彼等が応戦する。
しかし、やはりハジメと香織はまだ人を
撃つ事に躊躇いがある。手足を撃ち抜いて
行動不能にする事が出来ても、トドメの
一発が撃てない。
やむを得ないか。
「総員、20秒私に下さい。一気に
片を付けます」
「うんっ!任せてお兄ちゃん!」
皆に時間稼ぎを任せ、私は周囲へと目に
見えない波動を断続的に流し、敵となる
亡霊がいる位置を突き止めていく。
私の傍では、元々戦っていた双方、その区別
無く襲いかかってくるが、離れた場所では
相変わらず二つの勢力が争い、スプラッター
映画も真っ青な地獄絵図が広がっている。
だが、敵となる存在の大凡の位置は掴めた。
ならば、この幻影全てを吹き飛ばす。
魔力による攻撃。ならば、私の体内にある
膨大な魔力を、叩き付ける……!
私は大きく息を飲み込み、次の瞬間。
『ゴアァァァァァァァァァァァァッ!!!!!』
『ゴジラ』としての咆哮を放ち、そして全方位
に魔力の衝撃波を放った。
力の奔流はすぐ傍にいたハジメ達を無視して
広がっていく。そして、衝撃波の波に呑まれた
亡霊達は、跡形もなく消えていく。
周囲に広がっていく魔力の波は、双方の
陣営の艦隊を飲み込み、亡霊達を一瞬で
消滅させるのだった。
やがて、再び世界が歪むと、私達は元の世界に
戻った。
「……戻った、のじゃ」
玄武を鞘に収め息をつくティオ。
しかし直後、香織が私達の傍を離れ、走りながら
メットを取ると、近くの岩場の陰で胃の中の
内容物をぶちまけ始めた。
無理もない。……あれほどの人間の狂気。
スプラッター映画バリの凄惨な地獄絵図。
普通の人間なら、吐瀉してしまっても
可笑しくはない。
隣を見れば、ハジメもメットを取って
口元を抑えている。
「……ハジメ、無理をしてもしかたが
ありません。その辺りで、出して
しまった方が楽ですよ?」
「ッ!?ごめっ、うっ!」
私が言うと、ハジメも近くの岩陰へと
飛び込む。直後、中身を吐き出す音が
聞こえる。
ふと周囲を見れば、ルフェア、ユエ、シア、
そして年長者のティオも、皆が皆、顔色が悪い。
「ティオ、それにルフェア、シア、ユエ。
すまないが香織の介抱を頼めるか?
私はハジメを」
「ぎ、御意」
「は、はい、ですぅ」
「……任せて」
「……うん」
皆、力無く頷くと香織の方へと静かに
歩みを進める。
私もそれを見送るとハジメの傍に歩み寄り、
タオルと飲料水のボトルを渡す。ハジメ
は口元をタオルで拭き、口の中に残った
胃液の残滓を水で洗い流す。
「ハァ、ハァ。ご、ごめん。司。
皆に、迷惑を……」
「問題ありませんよハジメ。……あれほどの
狂気。最年長のユエでさえ、顔色を
悪くしていました。あれで気分を
害さないと言うのなら、むしろそちら
の方がおかしいでしょう」
「……そう、だよね」
水を飲み、小さく呟きながらも、ハジメは
司を見上げる。
今の司の目は、何も感じていないようだった。
怒りも、恐怖も、何も。
ハジメは、そんな自分と司の差を痛感し
俯く。
『また、撃てなかった』
撃つと決意したあの日。だが今日も、彼は
明確な殺意を持って引き金を引くことが
出来なかった。
私は、ふとハジメの方へ視線を向ける。
何やら落ち込んでいるようだ。
「……少し、休みましょう」
そう言って、私はハジメの隣に腰を下ろした。
「どうかしましたか?気分が優れない、
だけではないようですが?」
「うん。ごめん。何でも無い。……って
言っても、きっと司ならお見通しかな?」
力無く、微笑を浮かべるハジメ。
「えぇ。恐らく。……どうしたのですか?」
「うん。ちょっと、ね。……散々覚悟が
どうのとか言っておいても、結局僕は、
引き金を引けない。いや、正確には、
相手を殺す事をまだ躊躇っている。
それがちょっと、情けなくてね」
「……」
私は無言でハジメの話を聞く。
「結局僕は、未だに口先だけなのかぁ
って思うと、少しね」
「……存外、人が変わるのは簡単では
ありませんよ。良い意味でも、
悪い意味でも。そして、私は何度でも
言います。ハジメ、人々にはそれぞれ
向き不向きがあります。……撃てない
事は異常ではありません。むしろ
人として正常な判断です」
「……でも、ユエちゃんや、シアちゃん、
それにティオさんやルフェアちゃん
だって……」
確かに、彼女達は撃てている。そこに
差を感じているのだろう。
しかし……。
「狩猟が一般的なこの世界で生まれ育った
ならまだしも、弓も刀も、銃も握った事
の無い人が、いきなりそれで生命を
殺せと言われた所で、戸惑うばかりです。
何より、私達の世界で暴力は犯罪として
厳しく罰せられていました。
そして更に、貴方や香織の持つ、命を
尊ぶ『優しさ』。確かに、今回のように
それが足かせとなる場面はあるかも
しれません」
力こそが全ての世界で、優しさは足かせに
なるのかもしれない。
私の言葉に俯くハジメ。だが……。
「しかし、その足かせとなる場面は、
どれだけありましたか?殆どありません」
「え?」
「……言い方を変えましょう。私達の
チーム、G・フリートには、二人の
良心、優しき心が必要です」
そう言って、私は立ち上がり、ハジメの
前に立つと、静かに右手を差し出す。
「私だけでは、ただの無感情に敵を葬る
だけの危険な存在です。私が、ハジメが、
香織が、ルフェアが、ユエが、シアが、
ティオが。その全員が揃ってこそ、
『完全なる』G・フリートなのです。
今の皆が、ありのままでいる事が
必要なのです」
「ありの、まま?」
「そうです。かつて、言いましたよね?
私がG・フリートの武力であるならば、
ハジメや香織がG・フリートの優しさ
なのです。ハジメ、貴方に戦う意思が
足りないと言うのなら、私が貴方の
分まで敵を殺しましょう。代わりに、
ハジメは私の分まで人に優しくして
あげて下さい」
「僕が、司の分まで?」
「えぇ。……貴方の出来ない事を、
私がしましょう。だから、私に
出来ない事を貴方がして下さい。
……こうして助け合うのです。
それでは、不満ですか?」
私の言葉に、ハジメは目を白黒
させてから笑みを浮かべ、私の手を
取った。
「ごめん司。ちょっとナイーブになってた」
「いいえ。あんな事があったのです。
それも仕方無いでしょう。それより、
大丈夫ですか?」
「うん。ちょっとした気の迷いみたいな
ものだから。……そうだね。僕達は
チームだ。仲間だ。だから、助け合え
ば良いんだよね?」
「えぇ。その通りです」
どうやらハジメは立ち直ったようだ。
彼と一緒に香織の方へ行くが、彼女も
ティオやユエ、シア、ルフェアの
フォローを受けて復活していた。
と言う訳で、改めて全員集合し会議だ。
「さっきのあれ、もしかして過去の
再現なのかな?」
「えぇ。恐らくは、エヒトによって
もたらされた争いの、それもその
一端でしかないでしょう」
私はハジメの言葉に頷く。
「……あれだけの惨劇が、氷山の
一角なの?」
香織は、目眩を覚えているのかこめかみ
に右手を添えている。
ティオやユエは無言。シアとルフェアは
俯いている。
彼女達とて、あれほどの狂気、そうそう
見慣れている物でもあるまい。
故に、心理的ダメージは大きいだろう。
「これが、この大迷宮のコンセプト。
と言う訳か」
「……エヒトの、狂った神がもたらす惨劇
を知り、乗り越えろって事?」
「えぇ。おそらくは」
私はハジメの言葉に頷く。
皆が皆、圧倒的なまでの狂気に晒され、
心理的ダメージが大きいようだ。
だが、ここで止まるわけには行かない。
「全員、顔を上げろ」
私の言葉に、皆の視線が私に向く。
「今回の大迷宮のコンセプトは、心理的
ダメージが大きい。だが、ここで
立ち止まるわけには行かない。
私達には『力』が必要だ。
この先、エヒトとその手下と戦い、
勝利するための『力』が」
そう言って、私は静かに背中を預けていた岩石
から体を離し、皆の前に立つ。
「そして、その力、神代魔法がこの先にある。
同時に、世界も、そしてエヒトも、我々の
事など考えてはくれない。
そして、悲しいかなこの世界でエヒトの
所業を知るのも、奴とまともに戦える可能性
があるのも、私達だけだ」
私の言葉に、ハジメと香織はしばし沈黙している。
だが……。
「行くしか無いよね」
そう言ってハジメが立ち上がった。
「『戦わなければ生き残れない』、でしょ?司」
「えぇ」
ハジメの言葉に、私は静かに頷く。
「このトータス世界に居る以上、ここは
エヒトの、奴の掌の上に過ぎない。
逃げると言う選択肢は、ありえないのです。
だからこそ、我々は立ち向かい、戦う
しかない」
そう言って、私は周囲を見回す。
「そこに、どれだけ凄惨な現実が広がっていた
としても」
そこに広がる数多の残骸。先ほどの狂気の幻。
「我々には、進むと言う以外の選択肢は無い
のです」
すると……。
「行こう」
今度は香織が立ち上がった。更にユエやシア、
ティオにルフェアも。
皆が奥に見える、豪華客船に目を向ける。
ハジメや香織達はティアマトを構え、シア
とティオが手持ちのアータルと玄武を
握る手に力を込める。
そして皆、私の方を向き頷く。
私も彼等に頷き返す。
「行くぞ。何が立ち塞がろうと、それを
撃破し、突破し、我々は先に進む。
それだけだ」
私は赤いヴィヴロブレード、アレース
改め『朱雀』を取りだし、その切っ先を
豪華客船に向ける。
静かに歩き出す私に続く皆。
メルジーネ海底遺跡の攻略は、まだ
始まったばかりだった。
第54話 END
次回は豪華客船でのお話。
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