ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回は海底遺跡の話の後編です。


第55話 亡霊と怪物

~~~前回のあらすじ~~~

メルジーネ海底遺跡に突入したハジメ達。

彼等は早速、謎のゼリー状の怪物と戦い

ながらも、それから逃れ謎の空間に到達。

そこで彼等は過去にあった凄惨な戦いの

現実を、幻として見せられるのだった。

しかしそれでも司の激励を受け、彼等は

改めて前進するのだった。

 

 

今、私達は船の墓場の中にあってなおも

豪華な作りの客船を目指した。

皆が皆、次は何が来るんだと警戒心を

高めている。

 

そして、その客船の傍にたどり着く。

客船は朽ちてもなお残る荘厳な装飾に

よって見る者に感動を与える。

だが、それに見惚れている訳には行かない。

「……まずは最上部へ行きます」

私の言葉に皆が頷き、全員が跳躍。

 

最上階にあったテラスに着地した。

すると同時に周囲の空間が歪む。

「ッ!?司!」

「総員、周辺警戒を厳と成せ」

私の言葉に皆が互いの背中を

合わせるように円陣を描き、

手にした武器を構える。

 

やがて、あの時のように世界が歪み、周囲が

変化する。

 

今私達が居るのは、あの豪華客船の上だ。

今居るテラスから下を見下ろせば、そこでは

立食形式のパーティーが開かれていた。

そこでは誰もが談笑していて、今のところ

狂気的な部分は見られない。

 

「あれって……。パーティー?」

「みたい、だね」

下を見下ろしながら呟くハジメと香織。

二人の声色から、予想と違ったのか

戸惑っているように感じられる。

 

「……マスター、あれを」

その時、ティオが一角を指さす。そちらに

目を向けると、そこでは魔人族の男が

亜人の男と談笑していた。

「人族だけではないな。魔人族、亜人族

 の姿も見られる」

会場となっている甲板を見回せば、あちこち

に3種族の者達の姿を見る事が出来た。

「見た感じ、争ってるって感じじゃない

 よね?」

「はい。むしろ、仲良く見えますぅ」

ルフェアの言葉に頷くシア。

話の内容から察するに、彼等は争いを

終わらせるために尽力していたようだ。

 

「今の、トータスの憎み合う3種族にも、

こんな時期があったんだね」

どこか、現状を憂うようにポツリと

呟いたハジメに、香織やルフェア、

ユエ、シアが静かに頷くのだった。

 

 

そう思って居た時、不意に後ろの扉に

近づく気配に気づいた。

「後方の扉から接近反応っ」

私が呟くと、皆がすぐに武器を構えて

振り返る。

 

その数秒後、扉が開いて船員たちとおぼしき

者達が出てきたが、こちらを見ているのに

気づいた様子もなく、私達から少し離れた

場所で談笑を始めてしまう。

 

「……こっちに気づいて無い?」

「襲ってきませんねぇ」

先ほど、あれだけ襲われたのに対しここでは

全く襲ってこない事にユエとシアが戸惑う。

 

「と言う事は、今回は戦うのではなく、過去

 にあった出来事を見ろ、と言う事でしょうか?」

 

私が推察を口にした少しあと、状況は一変

した。

 

初老の男性が、フードの人物を伴って

壇上に上がり、演説を開始した。しかし途中

から様相がおかしくなり、先ほど私達が見た

ような、狂気に取り付かれたような言動を発し、

そして初老の男、アレイスト王の命令に

よって亜人族や魔人族の者達への虐殺が始まった。

 

その様子を見ていたハジメ達は、再び

気分を悪くしていた。

 

 

そんな中で……。

「なんで。和平を結んだんじゃ……」

ハジメにとって、分からなかった。

アレイスト王の序盤の演説に対し、涙する者も

居た。彼自身尊敬の念を抱かれていた様子だった。

それが何故あんな事をしでかしたのか、ハジメ

には分からなかった。

 

 

「……恐らく、エヒトによる介入でしょう」

そんな中で、私はポツリと呟く。私には、

あの事態を引き起こした張本人が誰なのか、

はっきりと分かっていた。そう言う意味では

あのフードの人物も怪しい。……僅かだが

銀の髪色が見えていたな。もしかすると、

あの人物がエヒトの手下である可能性も否定

出来ない。

 

「どういうこと?司」

「エヒトは、人型種族同士を戦わせて悦に

 浸るような奴です。奴にしてみれば、

 争いの反対、和平などもっての外。

 だからこそ、奴は和平など許さない。

 それが、先ほどの虐殺が起こった理由

 ですよ。恐らく、何らかの手段で

 アレイスト王を操っていたのでしょう」

「ッ!自分の、享楽のために……!」

「クソッ!?どこまで腐れば気が済む!」

私の言葉に、俯く香織と手すりに拳を

叩き付け、これを真っ二つに割るハジメ。

 

だが、ここで止まっても居られない。

 

私達は、アレイスト王が入って行った

扉から暗い船内へと足を進めた。

 

 

 

 

しかし……。

 

『ケタケタケタケタケタッ!!!』

「いぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?

 来ないでぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

現れた、如何にも幽霊です、みたいな

可笑しな動きで向かってくる相手に、

香織は絶叫を上げながらティアマトを

撃ちまくり、全弾外していた。

 

普段の百発百中の香織からしたら

あり得ないミスである。

ちなみに向かって来たのは私がティアマト

で撃ち殺しておいた。

 

後ろに振り返れば、香織のタイプQが

ハジメの0の腰元に抱きついていた。

……実にシュールな絵面である。

 

「か、香織さんが全弾外すなんて、

 珍しいですぅ」

「お姉ちゃん、射撃の腕なら私達の中

 でも相当なのにね?」

驚いているシアと首をかしげるルフェア。

 

「あ~、えっと、香織ってその、お化け

 が大の苦手だから」

そう言って、戸惑いながらも説明するハジメ。

すると……。

 

「良い事聞いた」

何だかマスクの下で悪い笑みを浮かべてそうなユエだった。

 

だが、その笑みもすぐに消えた。

また新しい幽霊擬きが現れた時。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

香織がまたしても悲鳴を上げながらハジメに

抱きついたのだ。

それが何度か繰り返されていると、シアと

ユエが何やらカタカタと震えている。

……どうやら、香織が公然とハジメに

抱きついている事に歯がみしているようだ。

 

そして……。

また襲ってくる幽霊擬き。すると……。

「きゃ~~、ハジメさん怖いですぅ」

「きゃーーーー」

 

めちゃくちゃ棒読みの悲鳴を上げながら

シアとユエがハジメに抱きついた。

「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!」

更に香織が飛びつき、更にシュールな

絵面になっている。

 

パワードスーツを纏った男に、パワード

スーツを纏った女3人が抱きつく。

……やはりシュールである。

「ちょっ!?香織はともかく2人は

 全然怖がってないでしょ!?あと

 離れて!僕が動きづらいから!」

腕や足、背中に抱きつかれて心底

動きづらそうなハジメ。

 

その間も襲ってくる妖怪擬きを

私とティオとルフェアが撃退する。

「妾が言うのもあれじゃが、4人は

 余裕じゃのぉ」

「いやいやティオお姉ちゃん。カオリ

お姉ちゃんは絶対違うと思うよ?」

呆れ気味のティオと一部訂正するルフェア。

 

「うぅ、もうやだぁ。この船G・ブラスター

 で吹き飛ばすぅ」

……何か、香織が凄まじく物騒な事を言っている。

「これは、攻略を急いだ方が良いですね」

『先ほどまでの覚悟は何だったんだ』と内心

思いながら足を進める私。

 

その後も、むかってくる幽霊をしばきながら

進んでいく。

「しっかし、こんな所歩いてると、地縛霊

 とかに取り付かれそうだよなぁ」

「ひぃっ!?こここ、怖い事言わない

 でよハジメ君!?!?」

ハジメの言葉に、メッチャ声が上ずっている

香織。

しかし……。

 

「その心配ならありませんよ?ジョーカー

 には精神防御のためのプロテクトが

 掛かっています。これは、最上級の

 闇魔法による精神攻撃にも難なく

 耐える代物です。幽霊如きの憑依

 など、簡単にはじけると思いますよ?」

「へ~。司、そんなシステムまで

 ジョーカーに入れてたんだね」

「えぇ。オルクス100層での、あのヒュドラ

 の黒頭の精神攻撃を見た時から警戒は

 していました。精神攻撃を受けて

 動けなくなる、と言うのは、時と場合に

 よっては物理的攻撃を受けて負傷する

 よりも危険に陥る可能性がありました

 からね。それに、一度とは言え幸利と

 戦う事もありました。彼は闇魔法への

 チート級の適性もありましたし。

 万が一の洗脳などされないように、

 数百の精神干渉を防ぐ防壁を

 組み込んでおいたのですよ」

そう言いながら私は周囲を経過しつつ歩く。

 

ジョーカーは、その一つ一つが専用機と

言っても差し支えない。更に1機ずつに装着者

のDNA認証機能が付いているので他人が

奪って装着する事など出来ない。

 

だが、そんなジョーカーの力を私から

与えられる以外、入手する方法があると

すれば、保有者ごと乗っ取る。

つまりパイロットを洗脳するのだ。

ジョーカーがパイロットごと奪われるのは

最悪のシナリオだ。

なので、私は洗脳に対処するために

幾重もの防壁プログラムを構築し、今も

アップデートを重点的に繰り返している。

 

司は、相変わらず最悪の事態を考えた

上で対策を取っていた。

洗脳を弾く防壁プログラムも、ジョーカー

を奪われる事が無いようにと考え、

彼が生み出す最高レベルの防御プログラム

となっていた。

 

ちなみに、この機能が大いに役立つ日が

来るのだが、それはまだまだ先の話であり、

司にとっても予想外の効果であった。

 

 

その後、私達は何とか船倉までたどり着いた。

香織はハジメに励まされ、何とか自分で

立って歩いていたが、それでも膝が

ガクブルだ。

 

私達は警戒しながら船倉の中を進んでいく。

その時。

『バタンッ!』

「ひっ!?」

 

突如背後で扉が閉まり、香織が上ずった

悲鳴を上げる。

咄嗟に振り返ったハジメがティアマトを

構えたまま後ろを警戒する。

 

すると、今度は船倉内部に霧が立ちこめて

来た。一気に周囲が真っ白になる。

「これは……。総員、警戒レベル最大。

 何が起こるか分からない」

私が指示を下せば、動けない香織を

中心として円形の配置を作る。

 

互いに背中合わせの状態で周囲を警戒する。

 

その時。

「ッ!ハァっ!」

左側を警戒していたティオが玄武で何か

を切り裂いた。

すると、極細の糸がハラハラと宙を舞う。

更に全方位から矢の雨が降り注ぐ。

 

「任せて……!」

私達を中心として周囲に竜巻の結界が

発生し、飛来する矢がユエの生み出した

竜巻に弾き飛ばされる。

 

すると、今度は前方から凄まじい暴風が

襲いかかってきた。

「ッ。全機、重力制御装置を操作し

 自重を重くして下さい。動きは

 鈍くなりますが、飛ばされる心配は

 ありません」

「「「「「「了解」」」」」」

私の声に従い、皆のジョーカーの重さが

増加し、足下の木の板が若干軋む。

 

しばらくして風が止む。

すると今度は霧を超えて武装した者の

亡霊が全方位から襲いかかってきた。

 

「全員近接戦用意……!」

「「「「「了解っ!」」」」」

私の言葉に香織以外が頷く。

 

私は朱雀を抜く。

ハジメは両手にMASのグリムリーパーを

装備する。

ルフェアもまた、ハジメと同じ

グリムリーパーを手にする。

ユエは両手のビーム砲から魔力を

流して拳を魔力で覆う。

シアはアータルをハンドアックスモード

に縮めて取り回しをよくしている。

ティオも玄武を抜いて両手で構える。

 

そして、襲いかかってくる敵を迎撃する。

全方位からと言っても、こちらも全員で

背中合わせの状態だ。前だけに集中すれば

良い。

 

私の朱雀が切り捨て。

ユエの魔力を纏ったパンチが吹き飛ばす。

ハジメとルフェアのグリムリーパーが

豪快な音をさせながら魔力を纏った

刃で切り裂く。

シアのアータルが敵の頭をかち割る。

ティオの玄武の居合い斬りが敵を

切り裂く。

 

と、その時。

「う、うぅぅぅっ!私だってぇ!!」

後ろから香織の叫びが聞こえた。

直後、ハジメの側頭部をティアマトの

魔力弾が通過し、ハジメと戦っていた

亡霊騎士の頭を撃ち抜く。

 

「こ、怖くなんかないもん!

 お化けなんか、怖くなんか

 ないもん!」

香織は、震える手でティアマトを握り、

襲いかかってくる亡霊共を撃ち抜いていく。

 

どうやら香織も、覚悟を決めたようだ。

最も、メットの下では涙を浮かべている

のかもしれないが……。

ともかく、私達は香織の援護を受けながら

次々と向かってくる亡霊どもを

蹴散らしていく。

 

と、最後の一体だろうか?大男が巨大な

剣を手に突進してきた。

私は振り下ろされる大剣を朱雀で受け止める。

 

だが、ここに居るのは私だけではない。

「ぜやぁっ!」

「はぁっ!」

次の瞬間、ハジメとルフェアのグリム

リーパーが大男の足を切り裂く。

「やぁっ!」

「そこじゃっ!」

更にティオと玄武、シアのアータルが

腕を切り飛ばす。

「食らえ……!」

更に、小柄な体を生かして懐に飛び込んだ

ユエのパンチが大男の腹に決まる。

崩れ落ちそうになる大男。

 

そして……。

「これでっ、最後っ!」

私にもたれかかるように、倒れそうに

なっていた大男の眉間を香織のティアマト

の魔力弾が撃ち抜く。

 

大男が消滅する。

「こ、これで、終わり……。じゃない?」

未だに周囲に残る霧を見回しながら呟く

ハジメ。

 

その時。

『バシュッ』

皆が隊形を解いた瞬間を狙って香織に

近づいていた亡霊の眉間を私のティアマト

の魔力弾が撃ち抜く。

 

すると、それが本当の最後だったのか

霧が消え去った。

「……どうやら、アレが最後の1体だった

 ようですね」

私は周囲を再スキャンし、敵らしき反応

が無い事を確認する。

 

「む?マスター、あれを」

その時、ティオが船倉の奥を指さす。

そこでは魔法陣が光を放っていた。

「もしかして、ゴールですか?」

シアが期待の籠もった声を漏らす。

「……だと良いのですが」

私は期待半分、心配半分の感想を

漏らしながら、皆と共に魔法陣の

上に乗った。

 

やがて魔法陣が輝くと、次の瞬間

私達は神殿のような場所に出た。

周囲を海水で満たされている事からも、

どこか、海底の神殿を思わせる。

……まぁ、ここは実際海底なのだが。

 

念のため、ティアマトを手に周囲を警戒

するが、敵の反応は無い。

「……どうやら、ゴールのようですね」

私がそう言うと、皆が武器を収めた。

 

「あれ?」

その時、周囲を見回していたルフェアが

首をかしげた。

「ルフェア?どうしましたか?」

「あ、うん。ちょっと気になって。

 何か他にも魔法陣があるんだなぁって

 思って」

そう言って周囲を見回すルフェア。

 

見ると、中央の神殿らしき場所から四方

に向かってのびる通路。私達はその内の

1つにある魔法陣から出てきた。

そして同じような物が更に3つある。

「……もしかしたら、私達が見たあの

 惨劇も、エヒトによって引き起こされた

 ほんの一部なのかもしれませんね」

「……あれが、一部なのかよ」

私の言葉にギュッと拳を握りしめるハジメ。

 

「……これは、妾たちのようなトータス世界

で生き、それもエヒトを信じる者にはキツい、

いや、そう容易く表現出来ぬ程の衝撃、

なのじゃろうなぁ」

「……神様だと信じていた存在が、悪魔

 以上の悪魔だと知ったら、この世界の

 人は、どうするのかな?」

不意に呟かれた香織の言葉。

 

「無論、信じないでしょう」

そんな中で私はポツリと呟く。

 

「人とは、時に自分の都合の良いように

 物事を解釈します。例え、ここに聖教

 教会の信者を連れてきて、あれを見せた

 所で、まやかしだ、幻覚だ、などと

 喚いて、現実にあった等とは

 考えないでしょう。……そうすれば、

 自ら信仰していた物を、間違っていた、

 信じるに値しない存在だったと言う

 事から逃げられるのだから」

 

「結局、信じないよね。大勢の人は」

「えぇ。残念な事ですが、大迷宮は

 我々のような規格外の存在で

 なければ、攻略する事すら難しい

 でしょう。大迷宮の強さもそうですが、

 トータスに生き、エヒトを信じた

 者達には、耐えられない。

 この、どうしようもない『現実』の、

 『恐るべき真実』には」

 

「そう考えると、皮肉、ですね」

「皮肉?」

シアの発言に首をかしげるルフェア。

「だって、そうじゃないですか?

 大迷宮を攻略するには、最低でも

 異世界から来たハジメさん達

 くらいのチート能力は必要です。

 でも、それだけじゃなくて、大迷宮で

 エヒトの狂気を知って、これまで

 自分が信じてきた物を全部否定

 されて……。私達はその、エヒト

 なんか信じてないからこれくらいで

 済んでますけど、もしここにエヒト

 の信者が居たら……」

「……精神的に、相当のダメージを

 受ける事は間違いありませんね」

私はシアの言葉に頷く。

 

「はい。だから、大迷宮って、この世界の

 人々の未来を考えて、解放者の人達が

 残したんですよね?でも、実際それを

 攻略しているのが、異世界人である 

 司さん達と、エヒトの事を崇めても

 いなかった私達。それが、皮肉

 だなぁって思って」

 

確かに、と私は内心頷く。

 

この世界の人々の自由のために、

トータスの人々を試すための場所だが、

私達は無関係の異世界人だ。

 

エヒトの真実を告げるための場所でも

あるが、ユエやシア達はそもそもエヒトを

崇めてなどいない。

 

ある意味、エヒトの真実を知り、エヒトに

打ち勝つ試練の場に、奴を信仰している

人間が一人も居ないのは、皮肉だろう。

 

私達『よそ者』と、ユエたち『信仰無き人』。

それがこの世界の命運を背負ってる形に

なっているのだから。

確かに、皮肉だな。

 

「……今、この世界でエヒトを止められる

 のは、実質的に僕達だけか」

「うん。力があって、そして、真実を

 知っているのは、私達だけ」

ハジメの言葉に頷く香織。

 

「妾達の肩にこの世界の命運が掛かってる

 と言っても、恐らく過言では無いの

 じゃろうなぁ」

「……世界の命運、か」

ティオの言葉を聞き、ポツリと呟くルフェア。

 

皆の言葉は正しい。だが……。

「……私にこの世界の命運を背負う気

 など無い。奴が殺戮を繰り広げようと、

 私には関係無い。奴の過去の悪逆非道の

 数々もだ。それは既に起ってしまった

 現実だ。変える事は出来ない」

そう言って、私は一人中央にある祭壇らしき

場所に歩みを進める。

 

端から見れば酷な事を言っているだろう。

だが、私達にはこの世界を守る理由は……。

 

そこまで考えた時、ふと思った。

 

理由は『ある』と。

 

 

「……そう、少し前の私ならば言って居たでしょう」

「え?」

私の言葉に、俯きかけていたルフェアが

顔を上げる。

 

私は足を止めて振り返る。

皆が私を見上げる。

「私はこの世界に来て、色々な人々と出会った。

 地球に居たときは、友人と言えばハジメと

 香織、あとは雫くらいだった。しかし、

 こちら側に来てから少し変わった。シアや

 ユエ、ティオ。更にはカム達。ミュウや

 レミア。メルド団長。色々な人々に

 出会った。そして、ルフェアにも」

私の言葉にルフェアが顔を赤くする。

 

「確かに、ここは私の故郷ではない。

 だが、私が出会った人々の住まう世界だ。

 私の大切な仲間や友人達が生まれた世界

 だ。……なればこそ、私が全力で

 守る価値もある。私はそう考えています」

 

すると……。

「そうだね。そして、エヒトから

 あの人達を守れるのも、僕達だけ

 なんだ」

そう言ってハジメが歩き出す。

 

「うん。こんな所で、止まってなんて

 いられないもんね」

更に香織が……。

 

「私は、お兄ちゃんと一緒に行く。

 だからお兄ちゃんが神と戦うの

 なら、私も神と戦う」

次にルフェアが……。

 

「もう、とっくに覚悟は出来てる。

 神だろうが何だろうが、

 ぶっ飛ばしてハジメとラブラブする」

次にユエが……。

 

「おぉう、ぶれませんねぇユエさん。

 まぁ、かく言う私もそんな感じ

 なんですけどね」

次にシアが……。

 

「妾も姫と同じ。マスターに仕える身。

 なればこそ、この身は主たる

 マスターと共に、どこまでも」

最後にティオがそう言って歩き出す。

 

そして、皆が私の傍に立つ。

 

私は前を向き、魔法陣に目を向ける。

 

すると私達が魔法陣の上に立てば

いつも通り記憶が精査される。

 

そして……。

「……再生魔法、か」

「司、これって……」

「えぇ。恐らく。ハルツィナ樹海の

 大迷宮に挑むために必要な物でしょう」

「じゃあ、これが再生の力?」

「えぇ。恐らくは」

私は香織の言葉に頷く。

どうやら私達が手に入れたのは、ハルツィナ

樹海の大迷宮に入るのに必要な『再生の力』、

すなわち『再生魔法』のようだ。

 

「オルクス、ライセン、グリューエン、

 そしてここ、メルジーネ。お兄ちゃん、

 これで4つの大迷宮をクリアしたこと

 になるね」

「えぇ。これで、ハルツィナ樹海の攻略

 が可能になりました」

と、話をしていると……。

 

「む?マスター」

床から何かがせり上がってきた。

小さな祭壇のようなそれが光り輝くと、

海人族らしき一人の女性の姿を映し出した。

 

「もしかして……」

「えぇ。オスカーの手記にあった

 女性、メイル・メルジーネ

 その人でしょう」

ユエの言葉に応える。

 

やがて、メッセージが再生された。

 

「……どうか、神に縋らないで。頼らないで。

与えられる事に慣れないで。掴み取る為に

足掻いて。己の意志で決めて、己の足で前へ

進んで。どんな難題でも、答えは常に貴方

の中にある。貴方の中にしかない。神が

魅せる甘い答えに惑わされないで。自由な

意志のもとにこそ、幸福はある。貴方に、

幸福の雨が降り注ぐことを祈っています」

 

それが、メイル・メルジーネからの

メッセージだった。

 

神に縋る、か。

「……そんな必要は無い。私達はこれまで

 自分達で道を切り開いてきた。

 今更、他人に頼るほど私達は弱くは

 無い」

伝わる事が無いとしても、私は宣言する

ように、彼女にそう返すのだった。

 

すると、祭壇に腰掛けていた彼女の映像が消え、

そこに小さなメダルのような物が現れた。

これが、海底遺跡攻略の証か。

 

かと思った直後、周囲の水が溢れ出し

ぐんぐん水位が上がってくる。

「えっ!?ちょ!?」

「何これ!?」

皆慌てて周囲を見回す。私は咄嗟に

全員をシールドの中に入れる。

すると、直後に天井からも大量の海水が

流れ込んできた。

 

「えぇ~?あの人、見た目と違って

 結構過激なのかな?」

「見た目で人を判断しちゃダメだね」

予想外過ぎる強制退去にため息をつく

ハジメと香織。

 

やがて天井が開き、水位が増すことで

シールドが上へ上へと押し上げられていく。

上には天井があったが、近づいた直後に

開き、私達は海中へと投げ出された。

 

「な、なんて言うか、見た目と真逆な 

 人ですぅ」

予想外のショートカットにげんなり

しているシア。

ルフェアがその様子に苦笑していた。

 

だが……。

 

「ッ!全員、どうやらまだ終わりでは

 無いようですよ?」

「え?」

私の言葉にシアが呆けた、次の瞬間。

 

『ドドドォォンッ!!』

私がシールドの上に、更に展開した

シールド、多重結界に何かがぶち当たる。

 

皆が慌てて周囲を見回すと……。

「あれって!?」

「さっきのゼリーモンスター!?」

海中に、あのクリオネ似の化け物が

浮かんで居た。

「どうして!?大迷宮はクリアした

 のに!」

「恐らく、奴は大迷宮に無関係だった

 のでしょう」

戸惑う香織に私が答える。

「えぇ!?」

すると、更にハジメが素っ頓狂な声を

上げる。

 

だが、悠長に話をしている場合ではない。

再び触手が襲いかかってきた。

「ッ!マスター!」

「分かっている……!」

直後にシールドを操作し触手を回避。

 

「総員傾注。現在上空をアルゴが

 飛行中。私の合図でアルゴ艦内に

 空間跳躍しますが、良いですね?」

「「「「「「了解!」」」」」」

 

皆の返事を聞き、私は触手を避ける。

頭上を見上げれば、ゼリーの膜が

出来ている。普通に考えれば海中に

閉じ込められた形となっているが……。

 

「行きますっ!」

直後、一瞬の隙をついて空間を歪め、

そこにシールドごと飛び込む。

 

ゲートは調整してあったので海水が

流れ込む事は無かった。

転移先はアルゴの艦橋。

 

「た、助か……」

「いいえっ!まだですよ!」

気の抜けたような声を出すハジメを

一喝し、私はすぐさま操縦席に飛び込み、

すぐさまアルゴを飛ばす。

 

私の体内レーダーが、急速に海底から浮上

してくる物体を捉えていたのだ。

即座にその場から離脱するアルゴ。

 

直後、海面下から巨大な津波が発生した。

だがアルゴの加速力を持ってすれば、

津波から逃げる事自体は可能だ。

だが……。

 

『ビュビュッ!』

中から巨大クリオネモンスターの触手が

のびてきた。

「回避っ!全員何かに掴まれっ!」

私が指示を飛ばすと、皆が机や椅子に

しがみつく。

 

直後、大型機ではあり得ない機動。

急降下からの海面すれすれで体制を

立て直しての飛行、更には急上昇。

これには流石の触手も追いつけない。

 

「ぐっ!?ぐぐっ!」

急激な機動に後ろでハジメ達の呻く声が

聞こえる。

そのまま、アルゴは出来るだけ上空に

退避。そこまで来れば大丈夫だった。

流石に奴の触手でも高度千メートル以上

には届かないようだ。

 

私はアルゴを操縦し、周囲を旋回させる。

見ると、眼下の奴は諦めていないのか、

こちらをじっと見据えている。

 

ともかく、安全圏までは離脱出来たようだ。

「皆、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫、うぷっ」

急激な機動だったためか、ハジメが少し

顔色が悪い。

「だ、大丈夫ハジメくん?」

それに気づいた香織が近づいて介抱する。

 

「司さん。あのゼリーの魔物は?」

そこに、私の方に近づいてくるシア。

「現在、海上に留まっています。

 どうやら、私達をまだ諦めては

 いないようですね」

「どうするの?司」

そこに、更にやってくるユエ。

 

「……大迷宮自体はクリアしましたから、

 ここに留まる意味は無いのですが……」

そう言って、私はモニターに映る巨大

クリオネモンスターに目を向ける。

 

もし仮にこのまま私達がエリセンに進路

を向ければ奴も付いて来そうだ。

そうなればエリセンは壊滅的な被害を

受けるだろう。

 

やむを得ない、か。

「ここで殲滅するしか無いですね」

「せ、殲滅って。出来るの?司」

そこに声を掛けてくるハジメ。どうやら

復活したようだ。

 

「えぇ。大迷宮では、あれがボスの可能性

 を考慮して力をセーブしていましたが、

 無関係なのならば、私のパワーで

 塵一つ残らず消し飛ばしてやります」

 

そう言うと、私はアルゴを自動操縦にして

席を立った。

 

「仕留めてきます。皆はここで待機を」

そう言った直後。

 

『ガッ』

「それは無いんじゃないの?司」

ハジメに肩を掴まれた。

「僕達だって一緒に戦ってるんだ。

 今更司一人戦わせて楽をしようとは

 思ってないよ」

 

ハジメの言葉に、香織達が頷く。

……ならば。

「では、全員ホバーバイクで出撃

 してください。加えて、総員

 『モードG』を解放の上で

 G・ブラスターにて攻撃。

 ……奴を、消滅させます」

「「「「「「了解っ!」」」」」」

 

皆の返事を聞き、私は歩き出す。

それに続くハジメ達。

 

折角だ。見せてやろうではないか。

 

破壊神と恐れられた『ゴジラ』の力を。

 

     第55話 END

 




って事で、次回はクリオネモンスターこと悪食との決戦です。

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