ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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王都での戦いは、前編・中編・後編の3つに分ける事になりました。
今回は主に清水達やユエ、シア、香織が出てきます。


第59話 真夜中の戦争 中編

~~~前回のあらすじ~~~

エヒトの手下と戦うため、愛子救出を

装い王都へとやってきたハジメと司たち。

彼らはそれぞれの役割を果たすために分かれる。

司はティオを伴ってエヒトの僕、ノイント

と接触するも罠にはめて秒殺。更にイシュタル

達もティオのブレスで吹き飛ばし、更に更に

神山の大迷宮も速攻でクリアしてしまった。

一方、ハジメ達は襲い掛かってきた魔人族

を撃退するために防衛網を設置。

何とか王都内部に潜入したフリード達も、

ユエとシアに狩られそうになっていた。

 

 

各々動くハジメ達。

 

その頃、王城に居た雫。

『バリィィィィィィィンッ!!!!』

「ッ!?何っ!?」

突如響いた音に、雫は飛び起き咄嗟に

左手首のジョーカーのスイッチを押し、

すぐさまジョーカーを纏って青龍を

構えた。

 

すぐさま周囲の様子をスキャンするが、

怪しい気配などが無いと知ると、一旦

息をついてすぐさま周囲を警戒しながら

廊下に出た。

 

 

彼女は、ここ最近ストレスを感じていた。

理由は、愛子先生の誘拐事件だ。

ある日の夕方、突如愛子が誘拐されたと

叫ぶ清水(もちろん演技)。その事で

雫やほかの生徒たちは不安に駆られた。

一部の生徒たちは一緒に居た清水を

責め立て、責任を感じて清水は

自室に引きこもるようになってしまった。

 

雫はすぐさま愛子の捜索をエリヒド王や

イシュタルに進言したが、捜索はこちらで

やるの一点張りで、渋々引き下がる羽目に

なった。ほかに頼れそうなメルド達も

極秘の任務と言う事でいつの間にか

姿が見えず、リリアーナは体調不良

のため頼れなかった(蒼司が用意したダミー人形)。

ならば、と雫は蒼司を頼ろうとしたが、

直後に司たちの異端者認定が決定し、

当然司の分身である蒼司もまた異端者

の認定を受けた。

 

結局蒼司は、雫に『悪い、しばらく留守に

する。すぐに戻るから』とだけ言い残し、

迫りくる騎士たちを軽くあしらい、

王都を駆けずり回ったのちに行方を晦ませた。

 

更に王城内部でも何やら不穏な動きを感じて

おり、最近の雫はあまり休めていなかった。

 

その後、雫は光輝たちを起こし、更には別の

生徒たちも起こして回った。

だが……。

「清水君!清水君!」

一人だけ、清水がいくら呼んでも出て

来なかったのだ。試しにジョーカーの

無線も使うが、反応が無い。

雫はしばし戸惑ったが、ジョーカーを

持っているのなら大丈夫だろうと

割り切って諦めた。

 

何とか清水以外が起きて集まった時、

やってきた雫の待女である『ニア』から

王都守護のための大結界が破壊された事

を聞き、皆が怯える。

 

戦おうとする光輝だったが、数には数で、

という中村の発言を聞き、雫や鈴がそれに

同意した事もあって、彼らは全員、兵士や

騎士たちと合流すべく、緊急時の集合

場所に移動する事にした。

 

 

その直後。

 

誰もいなくなった廊下。その時、扉の一つが

開いて、清水が出て来た。彼は皆が走り

去って行った廊下の方を見つめると、

ジョーカーを起動し、更に光学迷彩の

マントを纏った。

 

そして、右足のホルスターからノルンを

抜き、弾を確認する。

 

「……。やるしかねぇ」

そう呟くと、清水は光学迷彩で姿を

隠し動き出した。

 

 

たった一人、倒すべき本当の敵を知る者として。

 

清水は知っていたのだ。

蒼司の指示によって動き、演じた。

引きこもったのも嘘だ。全てはエヒトに

悟られぬように、引きこもるふりをし

ながら各地にドローンを飛ばし、状況を

探ったりしていたのだ。

 

 

そして先ほど、蒼司から連絡があった。

現在の周囲の状況からかんがみて、

中村が動く可能性が高い事も伝える

物だった。

 

 

清水が広場にたどり着くと、そこではメルドや

副長のホセが不在の間に指揮を任されていた

騎士が、雫や光輝たちを騎士や兵士たちの

輪の中に誘導している所だった。

 

そして、何やら演説をした騎士が、懐から

何かを掲げた直後。

 

『ビュッ!』

清水が手にしていたスティック型の

シールドジェネレーターが放たれる

のと……。

『カッ!!!』

騎士が手にした物が爆ぜて光を

発生させるのは。

 

清水は咄嗟に腕で顔を隠した。

その視界の隅で、騎士たちが雫たちに

切りかかるのが見えた。だが……。

 

『ガキィィィィィィンッ!!!』

地面に刺さったシールドが彼らを

護る方が、早かった。

 

甲高い音と共にシールドが剣を弾く。

「え?」

突然の事に理解が及ばない鈴が

戸惑いの声を漏らした。

 

そんな中で一人、周りに気取られない

ように唇をかみしめ、周囲を怒りの目で

見回す女、中村。

 

と、その時。

『バサァッ!』

光学迷彩のマントを広げた清水が

大きく跳躍し、シールドの中に着地

した。

「し、清水く……」

その名を雫が呼ぶよりも早く。

 

『『ガガッ!!』』

「きゃ!?」

「うわっ!?」

清水は着地した近くにいた、中村と

檜山の服を掴み、ジョーカーの

怪力を持ってシールドの外に

投げ飛ばした。

 

兵士たちの壁を越えて投げ飛ばされた

2人はそのまま床に転がった。

「恵里!檜山!」

2人の名を呼ぶ光輝。そして彼は

そんな事をした清水に詰め寄った。

 

「清水!二人になんてことを!」

「黙ってろよ勇者。って言うか回りの

 状況見ろよ」

そう、緊張を隠すためにあえて

低い声で話す清水。

 

シールド1枚隔てた先では、騎士たちが

雫たちに剣を向けていた。

「な、何でっ!?何をしてるんですか

 皆さん!敵は俺たちじゃないでしょ!?

 何で!?」

その事実に戸惑う光輝。

「無駄だよ。その人たちに話は通じない。

 その人たちに命令できるのは、

 ただ一人だからな」

そう言った次の瞬間、清水は無数の

ヴィヴロブレードを持ったガーディアンを

召喚し、それで騎士や兵士たちの手足を

切り飛ばして身動きを封じさせた。

 

「ッ!?何をしてるんだ清水!やめろ!」

「……無理だね。それに無意味だ」

「な、何が無意味なんだ!?あの人たちは……!」

「そいつらはとっくに死んでるよ!

 だから手足切り飛ばした所で同じ

 ようなもんさ!」

光輝の声を遮るように叫ぶ清水。

 

「え?」 

彼の言葉に、雫が戸惑いの声を浮かべる。

他の生徒たちもだ。

 

「何言ってるんだよ清水。ふざけるなっ!

 あの人たちは生きてるだろ!?

 それを!」

「だったらこれを見て同じことが言えるか!」

声を張り上げ掴みかかる光輝。

だが清水は、その腕を振り払うと、左手首

の端末から空中にスクリーンを映し出し

動画を再生した。

 

檜山が騎士を襲って殺す動画と。

死んだ騎士を中村が降霊術で疑似的に

復活させる動画を。

 

「え?」

「嘘、エリ、リン?」

動画に戸惑う光輝と鈴。

 

「ち、ちょっと!清水君!これどういう事

 なの!お願い説明して!何を知ってるの!?」

見せられた動画に、雫は戸惑う。

 

彼女にしてみれば中村は友人だった。

その友人がまさか死者を冒とくするような

行為をしている事に雫は眩暈を覚えたのだ。

 

「……この周囲に居る騎士や兵士は、

 み~んな死体さ。檜山によって殺され、

 中村の降霊術によってゾンビ兵に

 されたのさ。中村が、降霊術が苦手

 っつぅのも、真っ赤な嘘だ。

 なぁそうだろ!中村!檜山!」

声を張り上げる清水に、皆の視線が

中村と檜山に向く。

 

すると直後、ガーディアンと戦っていた

騎士や兵士たちがガーディアンから

距離を取った。清水はガーディアン達に

周辺を警戒させながら、ホルスターから

ノルンを抜く。

それを二人に向ける清水。

 

咄嗟にそれを止めようとする光輝。

だが……。

 

「あ~も~。うざい。うざいうざい、

 うざいうざいうざいうざい!!

 ちょっと前までモブだった奴が、

 力与えられて英雄気取り!?

 笑えるんだけど!馬鹿みたいにさ!」

普段の様子から打って変わり、うざいと

連呼する中村の様子に、光輝や雫、

龍太郎や鈴が戸惑う。

 

「エリリン?どうしちゃったの?」

ヨロヨロと前に歩き出す鈴。

「あっ!馬鹿っ!」

叫ぶ清水。

 

そしてシールドを出た直後、兵士が

構えていた矢が彼女の心臓めがけて

飛んできた。

「このっ!」

咄嗟に鈴の肩に手を置き、シールドの

中に引き込む清水。矢はシールドに

弾かれ宙を舞う。

 

「馬鹿野郎死にたいのか!」

鈴をシールドの中に倒すように引き入れた

清水はすぐに左手に持っていたノルンを

右手に持ち替える。

 

清水は狙いを中村に付ける。しかし、

マガジンの中が非致死性のテーザー弾だと

分かっていても、やはり相手は人間。

親しくもないとはいえクラスメイト。

清水には、まだ撃てなかった。

引き金を引こうとする指が震える。

 

「何で、何でだよ恵里。なんでこんな……」

そんな中で茫然としている光輝。

しかし恵里は、俯いてぶつぶつと何かを

いうだけで答えない。隣の檜山も、

言い訳を探しているのか、視線が周囲に

泳ぎまくりである。

 

「……テメェのためだよ天之河」

「え?」

予想外に清水が答えたので、光輝は

戸惑う。

「お、俺のため!?騎士や兵士の人たちを

 殺したのが、俺のためって!

 何を言ってるんだ清水!」

「聞いたんだよ!あいつが、ゾンビ兵を

 介して魔人族と接触してたのは、ずっと

 蒼司が監視してたんだよ!その時の

 会話をあいつが録画してたのさ!

 内容は、王都を囲む大結界へ裏工作を

 して王都侵入の手引きをすること!

 異世界人、つまり八重樫やお前らを

 殺す事、そして手駒にしたゾンビ兵を

 献上する事。それを対価として、自分

 は天之河とだけの生活を手にする!

 それが奴の描いたシナリオなんだよ!」

 

清水は光輝や周囲の者たちにも分かる

ように大声で叫ぶ。

「何でお前が魔人族と接触したのかは

 知らないが、重要なのは、今王都が

 襲われてるのも、八重樫たちが襲われたのも、

 全ての事件の中心人物がお前だってことだ!

中村!」

 

清水は、ギュッとノルンを握る手に力を

込める。

そして、聞き足を一歩引いて両手で銃を

握る構え方、いわゆるウィーバースタンス

で狙いを定める。

 

「降伏しろ!すぐそこに司や南雲たちが

 来てる!外じゃあいつらが魔人族の

 軍勢と戦ってる!お前だって、

 あいつらの強さを知らないわけじゃ

 無いだろ!」

愛子の、全員で帰還するという願い。

そのために清水は今撃てなかった。

 

いや、正確には、その願いを利用して

しまった。

それゆえに、引き金を引けなかった。

 

「降伏?……ふっ、ふふ、ふははっ、

はは、あはははははっ!」

そして返ってきたのは嘲笑だった。

「降伏?何言ってるのかなぁモブの

 くせに。偉そうに指図しないでよ。

 モブはモブらしく、死んでれば

 良いんだよ!」

 

狂気的な笑みを浮かべ、眼鏡を

捨てる恵里。次の瞬間、周囲の騎士と

兵士たちが襲い掛かってきた。

 

「ッ!!」

『戦うしか、無いのか!』

内心、戸惑いながらも清水がガーディアン

に指示を飛ばそうとしたその時。

 

『ドウゥゥンッ!』

一発の銃声が響いた。直後、騎士の一人の

右肩が吹き飛んだ。

 

銃声に足を止め振り返る騎士たちと兵士。

更には中村と檜山。

 

銃声の主、それは……。

 

 

「それが、貴方の選んだ道なんだね。

 ……恵里ちゃん」

マゼンタ色のジョーカー、タイプQを

纏った香織が、片手でトールを構え、

立っていた。

 

「あの機体の色、香織!」

それに真っ先に気づいたのは雫だった。

一方、彼女と雫以外は、突然現れた

香織に戸惑っていた。というか、恵里の

豹変などが重なり、頭の処理能力が

追いついていないような状況だ。

 

これで、中村と檜山は、前後を清水達と

香織に挟まれた結果となった。

 

香織は、偶然にも廊下を走っていた時

広場に彼らが集まっているのを廊下の

窓から見つけ、メルドとリリアーナを先に

行かせて自分は急いでこの広場に戻ってきたのだ。

 

その時。

「恵里ちゃん。あなたは、自分が何をしてる

 か分かってるの?」

「もちろん、分かってるよ?光輝君の

 周りにいるゴミを掃除してるのさ」

そう言って狂気的な笑みを浮かべる恵里。

 

「……ゴミ?」

ぴくりと、香織の指が一瞬震える。

「そう。ゴミ。光輝の周りにいる無価値な

 ゴミを、僕が掃除してあげるの。

 僕だけの、光輝君のために」

「……そうまでして、無関係な人を殺して

 まで、それがあなたのやりたい事、

 なの……!その人たちは……!」

「そうだよ。僕と光輝君の、二人だけの

 時間を作り出すための、ただの道具」

「ッ!!」

中村の答えを聞いた瞬間、ギチギチと香織の

握るトールのグリップから音が鳴る。

 

しかし不意に、その音が途絶え、香織が

息をついた。

 

「……ねぇ恵里ちゃん。私ね、これまでの 

 旅でずっと、人を撃つことを躊躇ってきた。

 人を殺す事に躊躇いがあった」

「あはははっ。なになに?懺悔でも

 するつもり?どうかしたの香織。

 もしかして可笑しくなっちゃったと……」

 

『ドガンッ』

香織の言葉を嗤う中村。その足元、僅かに

離れた位置にトールの炸裂弾が命中し、

小さなクレーターを作る。

 

「でもね、今なら引けるよ。この

 引き金」

そう言って、トールの狙いを中村の頭に

定める香織。

 

「あなたが、あなた達が、倒すべき敵だって分かってるから」

そう言って、彼女は中村、檜山の順に

視線を巡らす。

 

普段は心優しい香織。

 

だが、今だけはその心の中は、穏やかでは

いられなかった。

周囲を見れば、無数のゾンビ兵が立っていた。

皆、中村の歪な夢の実現のために、理不尽に

命を奪われた犠牲者たちだ。

そして、香織の中では、殺人の実行犯であった

檜山もすでに同罪だった。故に、許すつもりは

無かった。

 

そして、殺人に一切の罪悪感も抱かない

中村のその態度に、香織の怒りが爆発したのだ。

笑みを浮かべる中村と。

マスクの下で怒りの形相を浮かべる香織。

 

だが、それに戸惑いを覚えた者がいた。

鈴だ。

このままでは友人である恵里と香織が

殺し合いを始めてしまう。そう考えた

鈴は咄嗟に二人を止めようと声を張り上げた。

 

「やめてよ二人とも!こんなの可笑しいよ!

 どうして二人が殺しあうの!

 友達同士でしょ!?」

咄嗟に叫ぶ鈴だったが……。

「友達?ふふっ。何言ってるの鈴。

 私はね、香織や雫の事も、そして鈴の

 事も、友達だなんて思った事無いよ」

「えっ?」

 

笑みを浮かべ、振り返りながら語る中村の

言葉に鈴の表情がこわばる。

「あははっ、まさか私の事を親友だと

 でも思ってた?だとしたら、やっぱり

 鈴ってバカだよね。まぁ、おかげで

 利用しやすかったけど。

 鈴はいっつも笑ってばっかりで、

 光輝君たちの輪の中に入って行っても、

 誰も咎めなかった。だからさ、利用した

 んだよ。鈴の親友っていうポジションはね、

 僕にとって光輝君が傍にいるための、

 絶好のポジションだったんだよ」

「そ、そんな、じゃあ……」

「そう。鈴も私にとっては、ただの

 『駒』だったんだよ」

 

「あ、うっ、あぁ……」

親友だと思っていた相手から突き付けられた

現実に、鈴はその場に崩れ落ちる。

 

そんな中で中村は再び香織の方に視線を

向ける。

「それで?どうするの香織?ここで

 私達とやりあう?でも撃てるの?

 少し前まで、人を撃てもしなかった

 香織が」

そう言うと、中村の周囲を騎士たちが固める。

 

その事に一瞬指がピクつく香織だったが、

しかし彼女はトールの引き金に指をかけた。

と、その時。

 

「ま、待てよ!待ってくれ!香織!」

騎士たちの前に檜山が飛び出した。

 

「お、俺はただ、脅されてたんだ!

 中村に!それでたまたま協力してた

 だけなんだ!ほ、本当だ!」

それは見苦しい言い訳であった。

「お前なら、信じてくれるだろ?

 香織は優しいからな」

そう言って、少しずつ前に踏み出す檜山。

 

すると、香織が無言で銃口を下に下げた。

それを見て檜山は許されたと、錯覚した。

 

『ドガンッ!』

次の瞬間、檜山の数歩前に炸裂弾が命中し、

その足を止めさせた。

「え?」

「……それ以上、私に近づかないで」

 

理解が追いつかない檜山の耳に届いたのは、

酷く底冷えする香織の声だ。

 

そう、今の彼女は怒りに燃えていた。

それは中村だけに、ではない。檜山も同じだ。

 

「私が知らないとでも思ってるの?

 あなた、人殺しの報酬として私を殺して

彼女の降霊術で疑似的に生き返らせて、

自分に都合の良い人形にしようと

してたでしょ?」

「え?あ、え、うっ」

図星だった。

 

檜山が中村に協力していたのは、彼女を殺して

自分の『物』にするためだ。

「……全部、蒼司くんが監視してたんだよ。

 監視して、録画してたんだよ。あなた達の

 悪行を」

そう言って、香織はトールの銃口を檜山の

頭に向ける。

 

更に……。

「それとね。……気安く私の名を呼ばないで。

 今の私は、貴方にだけは名前で

 呼ばれたくない」

明確な拒絶の意思を示す香織。

 

その姿に、檜山だけではなく光輝や雫まで

もが戸惑いを覚えていた。

と、その時。

「あ、あぁぁぁ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!

 香織ぃぃぃぃぃぃっ!」

剣を構えた檜山は香織に向かって突進した。

 

狙いは左胸、心臓だ。

だが……。

 

「遅いよ」

繰り出された刺突を、香織は半身を引いて

回避し、左手で剣を握る檜山の右手首を

掴んでホールド。体を元に戻す、捻りの

勢いに乗せて繰り出した右手の裏拳が

檜山の頬に命中し、殴り飛ばした。

 

それもまた、彼女自身が旅の中で

培ってきた経験のなせる技だ。

既に格闘戦において負けなしのハジメと、

司に鍛えられた彼女にとって、CQC、

近接格闘術は並外れた物となっている。

 

 

「がぁっ!?」

裏拳で吹き飛ばされる檜山。吹き飛ばされ

ながらも、何とか檜山は起き上がった。

チート級のステータスを持つが故だろう。

 

もっとも、鼻と口から大量の血を流し、

何本か歯も折れていたが。

 

「ち゛ぐじょう゛、おま゛えば、俺、の……」

「俺の、何?俺の物、とでも言うつもり?」

香織の、マスク越しの絶対零度の瞳に睨まれ

檜山は唸るだけだ。

 

「ねぇ、貴方が好きなのって、私の体でしょ?

 私を殺して人形にしようとしたんだから、

 きっとその程度でしょ?」

怒りに震える香織の言葉は、何時になく辛辣だ。

「貴方のそれは恋でも好きって想いでもない。

 私の心を好きになった訳じゃない。

 所詮、この体目当て。だとしたらそれは

 愛や恋なんて言う、眩しい物じゃない。

 ただの『独占欲』。薄汚い男の欲望」

 

そう言って、香織はトールの銃口を再び

檜山に向けた。

「その欲望のために、貴方は無関係な人たち

 を大勢殺してきた。剰え、クラスメイト、

 さらにはパーティメンバーまでも、

 殺そうとした」

そう言って、香織はシールドの奥、檜山の

パーティメンバーである近藤達に

目を向けた。

「一緒に戦った仲間までも犠牲にしようとして。

 ……もう、私は貴方を、違う。

 『お前』を許せないし、許さない」

 

そう言って、香織はトールの引き金に指を

かけた。

 

「ち゛、ち゛ぐじょう。お゛い中村ぁ!

 手を゛貸せ゛!」

そう言って、檜山は再び剣を構える。

どうやら意地でも香織を殺して自分だけの

ゾンビにしたいらしい。

 

すると、黙っていた中村が手を振った。

それを合図として騎士たちが檜山の

後ろに並ぶ。

それを見て、檜山は笑みを浮かべる。

 

檜山は数で香織を疲れさせ倒そうと

考えていた。

 

だから、気づかなかった。

『自分の後ろで剣を構える騎士たち』に。

 

「ッ!?」

その光景に香織が一瞬息をのむ。

「檜山ぁっ!避けろぉ!」

更に、小悪党組の仲間の一人、近藤が叫ぶ。

「え゛?」

 

その声に、檜山が振り返った次の瞬間。

『グサグサグサッ!!』

騎士たちの剣が檜山の胸や腹、足に

突き刺さる。

 

「ぐぅ、がぁぁぁぁぁぁっ!?!?」

悲鳴を漏らす檜山。痛みで力が抜けた

彼の体が仰向けに倒れた。

「中、村ぁ、テメェ、何、を……!?」

檜山は何とか動く首で中村を睨みつける。

 

すると……。

「もうさ、お前用済みなんだよ」

中村は笑みを浮かべながらそう語った。

「所詮お前はお人形を集めるための回収機。

 でももうバレちゃったし。どうせここに

 いたってお前は殺されるし、仮に

 生き残ったって処刑か牢屋行き。

 だからさぁ、僕が有効活用してあげるよ。

 そういう訳で、もう、死んで良いよ?」

彼女がそう言うと、更に数人の騎士が

剣を振り上げた。

 

「ッ!やめろ恵里ぃ!」

咄嗟にシールドを飛び出す光輝。

だが、すぐに騎士たちの壁に阻まれてしまう。

 

そして……。

「ばいばい、ごみ屑」

「な゛か゛む゛ら゛ぁぁぁぁぁぁっ!!」

笑みを浮かべる中村と叫ぶ檜山。

 

『グサグサッ!』

そして檜山の心臓に無数の剣が突き立てられ、

檜山は体を痙攣させた末に、動かなくなった。

 

目の前で突き付けられた、『死』。

それによって元々居残り組であった

生徒たちはガタガタと震え、光輝や

龍太郎たちも茫然となり、清水は

どこか悔しそうに、メットの下で

歯を食いしばっていた。

 

周りが茫然となる中で、中村は彼らが

聞いたこともない詠唱を詠い、降霊術を

かけて檜山をゾンビ兵にしてしまった。

「さ~てと、新しいお人形が出来た事

 だし。ゴミ掃除を再開しないとね」

 

そう言って、シールドの中の他の生徒たち

へ視線を向ける中村。それだけで

居残り組の生徒たちは悲鳴を漏らす。

騎士と兵士たちが、半円状に雫たちを

包囲する。

香織は咄嗟に、自分に背を向ける中村を

撃とうとしたが、潜んでいたのか周囲から

更に兵士たちが現れ彼女を包囲する。

 

「クソッ!やるしか、無いのか!」

躊躇いの声を漏らす清水。

「清水君。私も加勢するわ」

その時、彼の横に雫が並ぶ。

これでジョーカーは二人。だがどちらも

本格的な対人戦闘は初めてだ。

 

どこまでやれるか?

そんな不安が二人の脳裏をよぎる。

 

だが……。

 

「その必要は無いぜ」

 

不意に聞こえた男の声。

 

次の瞬間、ガーディアン達と兵士たちの

間に人影が下りてきて着地した。

その人物は……。

「そ、蒼司!」

 

雫の相棒である司の分身、蒼司だった。

 

「アンタ今までどこに!?」

「悪いな雫。これでも俺、ずっとお前の傍に

 いたんだぜ?」

「えっ!?」

不意の言葉に戸惑う雫。

 

「大立ち回りをして王都から脱出したよう

 に見せかけて、実はずっと王都に潜伏

 してたのさ。それで、さっきまで市街地に

 入ってきた魔人族と魔物のお掃除をね。

 まぁ、まだ残ってるが」

そう言って、普段通りの飄々とした態度を

崩さない蒼司。

 

「とりあえず今は、首謀者ぶっ殺して

 このクソみたいな状況を少しでも

 好転させないとな」

そう言って、彼はパキポキと指を鳴らし、

中村に視線を向ける。

 

と、その時。

 

頭上から、極光が蒼司めがけて降り注いだ。

「はっ!しゃらくせぇ!」

しかし、蒼司は左手を翳すだけでシールドを

展開し、極光を防ぎ切った。

そして頭上の空に目を向ければ、そこには

ウラノスに乗ったフリードが居た。

 

「よぉ、負け犬。死にに来たのか?」

そう言ってフリードを笑う蒼司。

「貴様。あの男、ではないな」

対してフリードも憤怒の表情で

蒼司を見下ろしていた。

 

 

 

時は少しばかりさかのぼり、王都上空。

 

「はぁっ!」

モードGを発動し、獣のような姿となった

ジョーカータイプSCが空の上を縦横無尽

に飛び回る。

それはかつて司がオルクス大迷宮で

コピーした『空力』だ。

 

何もない空間を蹴って、飛び回るシア。

そして魔人族に接近し、アータルを振り下ろす。

魔人族は魔法を放って迎撃しようとするが、

モードGを開放した状態ならば、周囲に

放出されたエネルギーが盾となってそれを

受け止め消滅させる。

 

そして、魔人族は真正面から攻撃を突破

してきたシアによって乗っていた魔物

諸共両断された。

 

「このぉぉぉぉぉぉっ!!!」

そこに魔人族が剣を手にシアの背後から突進していく。

魔法がダメなら、と考えての事だ。

しかし……。

 

『バッ!』

まるで後ろに目がついているかのように、

絶妙なタイミングで、シアがバク転し

攻撃を回避する。

後ろからの奇襲がよけられた魔人族の男は

茫然となる。

それが命取りだった。

 

バク転したシアがすぐさまアータルを

ラッシュモードにし、後ろから弾丸の

雨を降らせて魔人族と魔物がミンチになった。

 

直後にアータルをランスモードにし、正面

から突進してきた鷹のような魔物を串刺し

にする。

 

そこに頭上から剣を手仕掛ける魔人族の男。

乗っていた魔物を囮にして、魔物の上から

飛び降り彼女に接近したのだ。

だが、次の瞬間シアが上に向かって左腕を

振った。

 

次の瞬間、左腕の背鰭状の放熱板から

エネルギーの斬撃波が放たれ、男を

真っ二つに切り裂く。

 

ここまでに2分。残りのモードG展開

可能時間は3分だ。残りの数は10人程度

だが、シアとしてはまだこの後も色々

あるのでは?と考え、そうそうに決着を

付けたかったのだ。

 

「う~ん。このままアータルでやっても

 良いですけど、時間が無いですし、

 『あれ』で行きますか」

そう言うと、シアはアータルを宝物庫に

しまうと、両腕に力を込めた。

 

すると、放熱板が魔力を纏い、板の上に

魔力とジェネレーターが作るエネルギー

を合成して形作られた刃が現れる。

 

そして……。

「おらおらぁっ!ミンチにしちゃうぞぉ!

 ですぅっ!」

次の瞬間、空間を蹴ったシアは

すれ違いざまの魔人族の男と魔物を

切り裂き、一瞬で反転し、また別の獲物を

真っ二つにしていく。

 

「うぉぉぉぉぉっ!カトレアの仇ぃぃぃっ!」

そこに魔人族の男が突進してきたが……。

「うるさいですっ!」

『ズバッ!』

シアに一蹴され、悲鳴を上げる事無く首を

切り飛ばされた。

 

そして、魔人族の男たちは乗っていた魔物

たちと共に、ぶった切られ王都へと落下

していったのだった。

 

それを見送るシア。彼女はモードG

を解除し、王都の家屋の屋根の上に

着地。すぐさまユエを探したが……。

 

「って、探すまでもありませんねぇ」

すぐに頭上の、8つの頭を持つ魔力の蛇、

八岐大蛇を見つけ、そのうちの頭の1つの

上に立つ彼女を見つけたのだった。

 

魔人族の男と魔物をシアが相手にしている

間、ユエはフリードとウラノス、更に

フリード配下の魔物軍団と戦っていた。

 

戦っていたのだが……。

空を埋め尽くすほどの灰竜も、

八岐大蛇の放つ炎と雷と風の刃と氷の

砲弾に次々と焼かれ、焦がされ、切り刻まれ、

穿たれ地に落ちる。

 

仕方ない、とフリードは他の魔物を呼び

寄せようとしたが、しかし陸上の魔物たち

は何とかハジメが再編した防衛陣地に

阻まれ近づく事が出来ない。

 

『くっ!?こんな事ならば、灰竜を

 分散させるのではなかった!』

フリードはハジメの防衛ラインを超えた

直後に、従えていた灰竜の一部を王都の

攻撃に向かわせた。

 

シアやユエ、ハジメなどのレベルになれば

灰竜1匹程度では脅威にならないが、

それは彼らのレベルだからこそである。

一般市民や普通の兵士にとって灰竜は

1匹でも十分な脅威なのだ。

 

少しでも王国にダメージを与えようと

する作戦だったが、それが裏目に出た。

……もっとも、灰竜など数匹増えた所で

今のユエには雑魚が少し増えた程度でしか

無いのだが……。

 

ちなみに、その王都各地に分散した灰竜と

言うのも、ある程度は暴れて被害を出す事

には成功したが、全て潜伏していた

蒼司に倒されていた。

 

そして今、フリードは八岐大蛇が放つ

様々な攻撃をウラノスに乗ったまま何とか

躱していた。

護衛の灰竜も、もう既にいない。

 

この時、ユエのモードG発動から3分が

経過していた。だが、あとはフリードを

倒すのみであった。フリードにも空間魔法を

使った大技があったが、今ここでそれを

使わせてもらえる余裕など、当然ユエは

与えない。

 

だが……。

その時、無数の魔法が八岐大蛇の頭の上に

立つユエに襲い掛かった。

視線を攻撃が来た方に向けるユエ。

そこには、数少ない飛行型の魔物に

跨った魔人族がいた。

 

とはいえ、もう残っている魔人族の

航空部隊はその数人だけだった。

「フリード様!ここは一旦おさがりください!」

「っ、すまん!」

フリードは、一瞬迷った末、今の自分では

ユエに勝てない事を悟り逃走を開始。

 

「逃がさない……!」

ユエが命令を飛ばすと、八岐大蛇の頭の

一つが逃げるフリードとウラノスめがけて

爆炎を吐き出した。

 

だが……。

「やらせはせん!やらせはせんぞぉぉぉ!」

「フリード様のためにぃ!」

何と、魔人族の男たちが自らの体と

魔物、魔法を盾にする事で、ほんのわずかな

時間、炎を止めて見せた。

 

そしてその一瞬がフリードの明暗を分けた。

空間魔法のゲートを超えて逃亡する

フリード。

「……逃げた」

奴が逃亡したのを確認すると、ユエは

モードGを解除し、更に八岐大蛇も

霧散させると、町の小さな広場に着地した。

 

息をつくユエ。

「お~い、ユエさ~ん」

そこへ駆けてくるシア。

「ん。シア、お疲れ様。そっちはどう?」

「ばっちし!全員ミンチにして

 やりました!ユエさんの方は

 どうでしたか?」

「魔物は大体仕留めた。でも、あと少し

 の所でフリードに逃げられた。

 ちょっと悔しい」

「そうですか。でもまぁ次がありますよ

 ユエさん。その時ミンチにしてハンバーグ

 にしてやれば良いんですよ」

「……魔人肉ハンバーグ?不味そう」

「あ、いや、私達が食べる訳じゃない

 ですよ?魔物の餌ですからね?」

「ん。分かってる。それより、

 この後どうする?」

 

「とりあえずハジメさんの援護に

 行きましょう。なんだかまだ砲声が

 聞こえるので」

「んっ、賛成」

 

そう言うと、ユエとシアはジョーカーの

跳躍能力を生かして防衛網を指揮する

ハジメの元に向かった。

 

ちなみに二人がたどり着いた時には粗方

片付いた後で、王都の外には夥しい数の

魔物の死骸が広がっていたのだった。

 

そんな中で、フリードは王城へと向かった。

 

しかし同時に、司もまた、この時王城に

向かっていたのだった。

 

王都をめぐる戦いの決着が、迫っていた。

 

     第59話 END

 




次回で戦いは終わる、と思います。

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