ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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結構オリジナル展開になってます。


第60話 真夜中の戦争 後編

~~~前回のあらすじ~~~

王都での戦いが始まった中、雫たちは今回

の争乱の首謀者である中村恵里に嵌められる

寸前だったが、蒼司から情報を与えられていた

清水の活躍によって事なきを得る。

皆の前で本性を現す恵里。更にそこに香織も

駆け付け、檜山は彼女を殺そうとするが、

失敗。恵里に見切りを付けられその場で

処刑されてしまう。恵里はまだ戦う事を

止めず、ゴミ掃除と称して光輝たちに

襲い掛かろうとするが、そこに蒼司が

現れる。

が、更に直後、シアとユエに仲間と配下の

魔物を殺されたフリードが現れるのだった。

 

 

 

「貴様、似ているが、あの男ではないな?」

「あったりめぇだボケナス。俺は蒼司。

 大火山でテメェをボッコボコにした

 新生司の分身だよ」

「……新生司。それがあの忌々しい男の

 名前か。だが、ここに居るのが

 コピーならば、好都合だ!」

そう言うと、フリードは空間魔法でゲート

を作り、広場に無数の魔物を召喚した。

 

それを見て、戸惑ったままだった愛ちゃん

護衛隊の園部たちが咄嗟にジョーカーを

装着してシールドの外に出て武器を構える。

「あの男がいないのならば、今ここで、

 可能な限り殺し、少しでも王国に

 ダメージを与える」

 

そう言ってフリードはウラノスに極光を

吐かせようとする。

それを見た居残り組の生徒たちは逃げ出そう

と周囲を見回すが、周りは恵里のゾンビ兵

や魔物たちに完全に包囲されていて

逃げられなかった。

 

最も、逃げる必要などなかったが……。

 

「おいおい、俺の前でそんな隙だらけ

 の大技を使っていいのかよ?」

不意にフリードの『後ろから』聞こえた声。

慌てて振り返るフリード。

見ると、いつのまにかウラノスの背中に

蒼司が立っていた。これには、一瞬で

取り付かれたウラノスも戸惑いの鳴き声を

漏らす。

「貴様っ!?いつのま」

いつの間に、と言おうとしたフリードだが、

一瞬で距離を詰めた蒼司に顔を掴まれ

ウラノスの背中に叩きつけられた。

 

その衝撃でウラノスも悲鳴を上げてグラつく。

突然現れた蒼司と背中に走る衝撃のせいで

ウラノスは驚き極光攻撃をキャンセルしてしまう。

「一つ良い事を教えてやるぜ、

 フリード・バグアー。確かに俺は

 司の分身だ。だから能力もあいつに劣る。

 ……でもなぁ、それはあいつに幾らか

 劣るってだけで、お前たちを倒すには

 十分なパワーがあるって意味だ、よ!」

そう言って、蒼司はウラノスの背中に手刀を

突き刺す。

 

血が噴き出し悲鳴を上げるウラノス。蒼司は

中の肉を無造作に掴むと、それを腕力だけで

引きちぎった。

更に悲鳴を上げるウラノス。

そして蒼司はフリードを放すと、手にした肉

を空中に投げ捨て雫たちの傍に着地した。

 

「お前はもうちっと相手の力量を知る所

 から始めるべきだな。でなきゃ、

 死ぬぞ?」

そう言って嘲笑するように笑みを浮かべる蒼司。

「おのれぇ!よくもウラノスを!」

憤怒の表情を浮かべるフリード。

 

「行けっ!」

そして彼が命令を下すと、魔物たちが

一斉に雫たちに襲い掛かった。

咄嗟に迎撃しようとする清水や園部達。

 

だが、これも……。

「無駄だね。≪クロックアップ≫」

ポツリと蒼司が呟き、蒼司の姿が

ブレた、かと思った次の瞬間。

 

『『『『『ズババババババッ!!!』』』』』』

魔物が全て両断されてしまった。

「何っ!?」

驚くフリード。

だが……。

 

『チャキッ』

「だから言ったろ。相手の力量をしれって」

またしても後方から声が聞こえる。

そしてフリードが視線を右下に向ければ、

首から僅か数ミリの所で蒼司用の紺色の

ヴィヴロブレード、『ガルグイユ』が寸止め

されていた。

 

「き、貴様っ、先ほども、今と同じように」

「いいや。さっきはただ単に空間跳躍で

 距離を詰めただけさ。今度は体中に特殊な

 粒子を流し込んで発動した超高速移動

 能力さ。……言ったろ?俺はオリジナル

 の司よりは弱いが、テメェは余裕で

 殺せるぜ?」

「くぅっ!?このっ!」

フリードは腰元に、念のためにと備えて

おいた剣を抜いて体をひねるようにして

後ろに剣を振るが、そこに既に蒼司の

姿は無かった。

 

急いで視線を戻せば、広場で死んだ魔物の

死骸に腰かけ欠伸をしている。

「ふ、あ~~~。何だよ、その程度の

 トロさで俺をやろうってのか?

 だとしたら無理無理。お前じゃ一生

 かかっても俺を殺せねぇよ」

 

「ちぃっ!どこまでも私を侮辱するか!」

「まぁそれもあるが、もう一つテメェに

 アドバイスをしてやるよ。相手の力量を

 見誤るってのは、戦場じゃ一番まずい

 事だ。それだけで命取りだからな。

 まぁ、お前の場合は、相手を見下して

 ばかりで相手の実力を見極め切れて

 無いのが敗因だな。実際、テメェは

 司に負け、ユエに負け、そして俺にも

 負けた。……将軍だか何だか知らねぇが

 もうちっと、敵を知る事だな。敵を敵と

 見下してるだけじゃあ、いつかお前は

 死ぬぜ?」

そう言って笑みを浮かべる蒼司。

 

「ちっ!かくなる上は……!」

そう言って、フリードはどこからともなく

大量の灰竜を召喚した。

 

これはのちに分かる事だが、王国郊外の地中

にいくつかの、巨大な魔石を基点とした魔法陣

が地中の浅い所に描かれており、これを

通してフリードは大軍を王都郊外に召喚

したのだ。

 

そして今、王都の空を飛ぶのはフリードが

保有しているすべての灰竜だ。魔国

ガーランドで神代魔法を取得しているのはフリードだけ。

つまり、魔物を生み出すのも強化も

フリードにしか出来ない。ほかの兵士たち

はフリードの手持ちを与えられているに

過ぎない。

そのフリードが手持ちの灰竜を全て

投入したのだ。

 

灰竜たちは上空から王都各地に対して

砲撃を開始しようとしたが、王都の

各地から紫色の光が、まるで彗星が

登っていくように空へと上がり灰竜の

相手をし始めた。

 

その数5。それは、王国騎士団副長、

ホセが率いる騎士たちだ。彼らが

モードGを発動し上昇。灰竜を

切り裂いているのだ。

「何っ!?」

瞬く間に数を減らしていく灰竜に戸惑う

フリード。

 

とはいえ、フリードも戦力すべてを吐き出した。

そのためいくらホセやアラン達が奮闘して

急速にその数を減らしても、全体の数は

まだ多い。

 

そのため少なくない被害が市街地に出ている。

「このままじゃ町が!」

そう言って飛び出そうとする雫。だが、

すぐそばに恵里とその配下のゾンビ兵が

居るため、飛び出すべきか迷ってしまった。

 

しかし……。

「行って雫ちゃん。ここは任せて」

兵士たちの壁を飛び越えて雫の近くに着地した

香織がそう呟いた。

「もうすぐ司くんも来る。ここは

 大丈夫だから。町の方をお願い」

「ッ、分かったわ!行くわよ蒼司!」

そう言って、包囲網を抜けて飛び出す雫。

 

そして蒼司はと言うと……。

「くくっ」

フリードの顔を見て笑ったのだ。

それは、暗に『見逃してやる』と言っていた

ような物だった。フリードは怒りと

悔しさに拳を握りしめるが、すでにウラノス

は負傷し、動きが少々鈍くなっている今の

状況では、蒼司に勝てないと判断し、

離れていく彼を見送った。

最も、蒼司の方はメルドと町を守る約束

をしていた。それを果たすためにも、

雫に付いていったのだ。

 

これで、この広場における戦いは、

フリード+ウラノス、恵里&ゾンビ兵。

     VS

香織、園部たち愛ちゃん護衛隊7人、

ガーディアン部隊、光輝たち。

となった。

 

しかし、フリードにとって戦う気は

さらさらなく、恵里に目配せをした。

当の恵里は一度表情を歪め舌打ちを

するが、すぐに気持ちを切り替え、静かに

頷いた。

 

彼女も司の戦闘力は知っていた。そして

殺人に躊躇いがない事も知っていた。

『この場でやりあえば確実に殺される』。

それを理解していたからこそだった。

 

それを確認した恵里は、すぐさま兵士たち

全員を香織たちの方へと突撃させた。

それを受け止めるガーディアンたち。

香織はガーディアン達の後ろから炸裂弾

を放つタナトスのセミオート射撃で兵士や

騎士たちの手足を吹き飛ばしていく。

 

しかし清水達はまだ人は撃てなかった。

そしてそれは光輝や龍太郎も同じ。ゾンビ

と言われても、バイ〇ハザードのような

ゾンビではなく、むしろ生きている人間

と言われても遜色ない恵里の『傀儡兵』だ。

しかも相手は、何度か接したことのある

兵士や騎士たち。とても引き金を

引ける心情ではなかった。

 

そして、フリードはその隙をついて

恵里を回収。ウラノスに乗せそのまま

上空へと上昇。すぐさま空間魔法でゲート

を開き、あとは逃げるだけだ。

 

そう考えウラノスをゲートに向かわせた、

その時。

 

『ドォォォォンッ!』

直上から砲声と聞き違うほどの銃声が

響いた、直後。

 

真上から飛来した19ミリ砲弾が、ウラノスの

頭を『粉砕』した。

 

フリードは、目の前で相棒の頭が吹き飛ぶ

瞬間を見ていたが、奇しくもミスラが

ボルトアクション式であり連射が

出来なかった事と、飛行し速度を出していた

慣性からフリード、恵里、そして

ウラノスの『死骸』はそのままゲートを

通過してしまった。

 

フリードは、半ば茫然としながらも、

状況が理解できないままゲートへと

飛び込んだのだった。

 

 

それを見送る、上空の狙撃手。すなわち

ミスラを構えた司。

 

 

私が神山から降下し、雲を突き抜けた

直後、すぐさま眼下の状況を確認すると、

市街地では雫、蒼司、ホセ副長以下5人の

騎士が灰竜の群れと戦闘中だった。

 

先に降下したティオはハジメ、ユエ、シアと

合流したようで、ちょうど私が降下した

時雫たちに加勢しようとしていた。

 

王城に目を向ければ、奥に進んでいる

メルド団長とリリアーナ王女の反応が

確認できた。

 

王宮広場では、香織や清水が指揮する

ガーディアン隊が中村の傀儡兵と戦っていた。

そして、その傍から離脱しようとしている

フリードと中村を発見し、このままただで

返すつもりもなかったので、ウラノスを

狙撃し射殺した。

 

どうやら王都に残っている残敵は、

上空の灰竜と広場の傀儡兵だけのようだ。

灰竜の方は蒼司と雫たちに任せ、私は

ミスラを消滅させるとタナトスを

召喚し、急降下。

 

一気に広場まで接近し、空中で姿勢を反転

させ、ドォォォンッと言う盛大な音をさせ

ながら着地した。

 

その際に衝撃波を発生させ、一旦傀儡兵を

清水達から引き離す。

 

「ッ!?なんだ!」

「司くん!」

後ろで戸惑う勇者君の声と香織の声が

聞こえる。

 

「あとは任せてください。幸利、

 ガーディアンでシールドの周囲を

 固めろ。ガードは任せる」

「あ、あぁ」

素早く指示を出すと、清水はどこか

悔しそうな声色で頷いた。

 

だが今はそれを気にしている時間は無い。

私はすぐさま突出しセミオートのタナトス

で四肢だけを吹き飛ばし、まずは倒して

行く。

 

接近されると、攻撃を腕のアーマーで

受け止め、炸裂弾で足を吹き飛ばしていく。

だが、やはりタナトスでは効率が悪いな。

 

そう考えた私は早々にタナトスを捨て、

朱雀を抜いた。この朱雀の切れ味ならば、

兵士や騎士たちの剣を防御の上からたたき切る

事が出来る。

 

そして……。

「行くぞ、≪クロックアップ≫」

先ほど蒼司が使ったのと同じ技を使う。

これは『タキオン粒子』と呼ばれる物を

体の中に流す事で超高速移動が出来る技だ。

 

これが出来るのは体内であらゆる物質を

生成、合成出来る第7形態の力、

『コードセブン』を持つ私と蒼司だけだ。

そしてクロックアップに対応出来るのは、

同じように体にタキオン粒子を流している

者だけだ。

故に、傀儡兵如きでは対応など出来ない。

 

瞬く間に私は傀儡兵たちの手足を

切り落とし、動きを止めていく。

 

これは別に手を抜いている訳ではない。

この傀儡兵たちには、後々、私の力を

王国の人々に知らしめるための重要な証人

になってもらう予定なのだから。

 

その後、戦闘はその場に居た香織たちの

感覚で10秒ほど続いた。

 

ふと周囲を見回せば、私は500人ほどの

傀儡兵の動く骸の山の上に立っていた。

 

そして、勇者やそのパーティメンバー、

攻略組の生徒たち。更には居残り組の生徒達

が、返り血で真っ黒に染まった私を

見上げているのだった。

 

そして、後々話を聞くと、彼らは

私の後ろに見えた月が、赤く輝いて見えた

と言うのだった。

 

 

こうして、王都における魔人族の攻撃は、

数多くの戦死者と万単位の魔物の喪失と言う、

膨大な量の仲間と配下を失う結果となったのだった。

 

 

翌朝、王都は大騒ぎだった。

大結界の破壊、魔人族の襲来。そしてそれを

一夜で撃退した事などなど。

 

町では負傷者が溢れ、混乱から医療機関の

対応も間に合っていない。

倒壊した家を前にして泣き崩れる者や、

瓦礫の下敷きになって亡くなった

愛する人の亡骸を前にして泣く者。

事態の説明を求めて王宮に殺到する

者など、『混乱』の2文字が

当てはまる様相だった。

 

 

そんな彼らを宥めようとしていたのが、

『エリヒド王』だった。

彼は無事だった。

 

どうやらフリード達の作戦だったのか、

エリヒド王とその側近たちは恵里の

傀儡兵に襲われ殺されかかった。

 

メルド団長とリリアーナ王女が到着

した時、エリヒド王は殺される直前

だったという。それを寸での所で

メルド団長が助け、一旦眠らせて保護。

ちなみに、側近たちの方はダメだった。

彼らは既に殺された後だった。

 

戦闘終了後に私の力でエリヒド王に

掛けられていた洗脳を解除した。同時に、

洗脳後の記憶も消させてもらった。

目覚めた王はしばし戸惑っていたが、

操られていた事と、それ以降の事。

そして昨夜の事を伝えると、すぐに

動き出したのだ。

 

ちなみに洗脳は、エリヒド王は『魔人族に

操られていた』、と言う事にした。

その方が都合が良かったからだ。

流石に、『エヒトが操っていた』とは

言えないので、その事実は現在

リリアーナ王女とメルド団長の胸の中に

しまってある。

 

とは言っても、近い内にはエリヒド王

にも話をしようと考えていたが、

まずは王都の復興が最優先だった。

 

 

そんな中で、私達G・フリートは

王国に対する支援する用意がある

旨を伝えると、二つ返事で救援要請が

飛んできた。

 

まずは負傷者の救護だ。これは香織が

率先して行った。本当なら異世界組の

魔法が使える者たちも参加すべきなの

だが、昨夜の事で皆気が動転していた。

 

檜山の死と、恵里の本性、更に彼女に

殺されかかった事が原因だ。

 

ちなみに、檜山のゾンビだけは首を

飛ばして動かない死体にしておいた。

 

だが、他の傀儡兵は違う。彼らは今、

手足を切り飛ばした状態で捕縛していた。

 

そして、香織が配下のガーディアン部隊

を率いて町の負傷者の手当てに行っている

中で、私はあの戦いがあった広場で、数人の

傀儡兵を前にしていた。

 

どうやら術者である中村恵里との距離は

関係ないらしく、今も拘束のロープから

抜け出そうと藻掻いていた。

 

「……それで司。彼らをどうするつもりだ?」

そう私に問いかけるメルド団長。今、私の

傍にはハジメ、ユエ、シア、メルド団長

とホセ副長たち騎士5人。リリアーナ王女、

エリヒド王、あの勇者や雫たち、蒼司が居た。

ルフェアとティオの2人は香織のサポート

に行っていてここには居ない。

 

 

「彼等は既に死んだ身だ。……早く、

 楽にさせてやりたいのだが」

そう、げんなりした表情で呟くメルド団長。

彼にしてみれば、部下達がこんな様子

なのが我慢ならないのだろう。

だが……。

 

「少しだけ試したい事があります。

 上手くいけば、彼等を『蘇生』出来る

 かもしれません」

そんな私の言葉に彼等は驚く。

 

「それは本当なのか新生!」

真っ先に声を上げたのは後ろの天之河だ。

「まだ力が確立された訳ではない。 

 だからこそ彼等で試すのだ」

 

そう言うと、私は暴れる騎士の傀儡兵の

前に立つ。

 

そして、彼に右手を翳し静かに目を閉じ、

体の中の力を解放する。

と同時に、余剰エネルギーが紫色のオーラ

となって私の体を包む。

それに皆が恐れおののく。

 

だが私は気にする事無く、手にした力、

『再生魔法』と『魂魄魔法』、『空間魔法』の

合わせ技に、更に私の能力を合わせる。

 

私、即ちゴジラとは常に進化する生物であった。

その進化スピードは、形態を重ねる事に

減速していった。実際、今の第9形態に

至るまで年単位の時間を必要とした。

 

だが、ここに来て私の進化スピードが上昇

しつつあった。恐らく神代魔法という、

あの世界に居ただけでは手に入らない力を

手にした事がきっかけだろう。

 

そのおかげか、私の世界を観測する力。

これはあくまでも『現在』を観測するだけ

だったが、再生魔法を手にした影響か、

『過去』を観測する事が可能になった。

それも特定の人物の観測が可能になった。

 

この能力を調べる中で気づいた事だが、

神代魔法の再生魔法。あれは物体を再生

しているのではなく時間を巻き戻している

ように思えたのだ。そう考えた時、私は

神代魔法の再生や魂魄、生成と言った

文字が必ずしもその神代魔法の効果を

現す物ではないのでは、と言う仮説を

立てた。

 

今現在この仮説の立証には至っていないが、

それでも神代魔法の獲得は私の進化を

促した。

 

そんな中で生み出した私の、死者蘇生の

方法はこうだ。

 

まず、私の過去を観測する力を用いて

死者の死の直前を観測。私の頭で、その

瞬間、死んだ人間の頭の中にあるデータ

全て、抽象的に言えば『魂』を解析、

コピーして一旦私の中に保存。

再生魔法で肉体が死ぬ前まで巻き戻し、

私の中にあるコピーした魂を魂魄魔法で

定着させる。

 

つまり、肉体は再生魔法で完璧に修復し。

魂は死ぬ直前の物を過去からコピーして

修復した器に張り直す。

 

何とも壮大なコピペだな、とこの話を

聞いた蒼司が呟いていた。

 

ただし、難解な作業ではある。

例えば完全に記憶データをコピー

出来なければ魂の復元は不可能だろう。

 

記憶とはつまり、その人の身に起った事の

データベースであり、私はこのデータ

ベース、つまり記憶が人々の人格形成、

もっと言えば魂の形成に深い関わりがある

としている。抽象的な話になるが、つまり

記憶の完全なコピーが出来なければ

魂のコピーが出来たとは言えないのだ。

また、肉体も完全に再生した上で魂を

定着させなければならない。でなければ

出血多量などで死んでしまう恐れが

あるからだ。

 

だからこそ、今は傀儡兵となった騎士

の一人で試しているのだ。

ちなみに、この時傀儡兵は酷く暴れた

が、蒼司が呼び出したガーディアンに

押さえ付けられていた。

 

幸い、記憶データの方は問題無かった。無事に

彼の死ぬ直前からの記憶データを全て解析し

ロードする事が出来た。

「記憶データ、ロード完了。保存。

 続いて肉体の修復を開始する」

騎士の肉体に再生魔法を掛け、檜山に

殺される直前の、無傷の体へと再生

させる。

 

「修復完了。……では、一旦彼の体

 に残っている魂の残滓を排除する」

そう言って、私は男に左手を翳し、

波動を照射した。これは、中村の

降霊術で彼の体を動かしていた

彼自身の魂を消し飛ばすためだ。

 

波動を照射された男は、力無く倒れた。

縛り付けられていた魂が解き放たれた

ためだ。

ガーディアン達が離れる。

これで、ちゃんとした魂を入れる

準備が整った。

 

私は騎士の亡骸の前に立つと、彼を

左手で抱き起こし、その額に右手の

人差し指を当てる。

 

「インストール、開始」

そして、私の中に保存していた魂を、

彼の中に送り込んだ。

 

やがて、数秒で魂のインストールを

完了した。

指を離し、様子を見る。

すると……。

 

「………すぅ、すぅ」

騎士が呼吸を始めたのだ。

「蒼司」

「あいよ!」

声を掛けると、どこからか布を

持ってきた蒼司が床にそれを広げ、私は

騎士をその上に横たえた。

そこに駆け寄るメルド団長と副長の

ホセたち。

 

「い、息をしているぞ!」

真っ先に叫んだホセ。その事実に

周りの者達が戸惑う。

 

やがて数分後。

 

「う、うぅ。俺、は……」

騎士が目を覚ました。

「カイル!俺だ!俺が分かるか!」

するとメルド団長が真っ先に騎士、

カイルを抱き起こした。

 

「メルド、団長?」

「そうだ!俺だカイル!」

しばし呆然とメルド団長を見上げていた

騎士カイルだったが……。

「ッ!檜山っ!」

次の瞬間ガバッと体を起こし周囲を

見回す。

 

「団長!檜山が!奴が俺を!」

「分かっているカイル。そして大丈夫

 だ。既に檜山は、彼が倒した」

そう言って、メルド団長と騎士カイル

は俺の方へ視線を向けた。

 

「騎士カイル。貴方の身に起った事を

 説明させて頂きます」

 

その後私は、騎士カイルに、彼が

一度死んで恵里に操られていた事。

その後捕縛して私が蘇生させた事を、

分かりやすくかいつまんで説明した。

 

しかし肝心の騎士カイルは理解出来て

いないようだ。実際、今の彼には

檜山に襲われてからの事の記憶が無い。

なので、蘇生されたと言っても、

『奇跡的に助かって今まで寝ていた』、

と言う方がまだ現実味がある感じ

であった。

 

まぁ仕方無いので、彼の前で他の

傀儡兵を次々に蘇生していった。

 

数人やれば慣れた物で、一度に数人、

数十人、最終的には100人単位を一度に

蘇生する事が可能になった。

 

そして私がバンバン人を生き返らせる

物だから、雫や勇者君たちはあんぐり

と口を開け、メルド団長は嬉しいのと

呆れが半々な表情をしていた。

そしてそれを見て蒼司が大笑いしていた。

 

 

で、こうして500人ほどの騎士と兵士

たちは無事生き返った。

 

「……やりとげました」

流石に500人も『生き返らせる』と

『ちょっと』だけ疲れたので、額に掻いた

汗をハジメから受け取ったタオルで拭う。

 

「ユエさんユエさん。ちょっと一発

 ビンタして貰って良いですかね?

 司さんが神様に見えてきました」

「大丈夫。シアの目は正常。司が

 異常なだけ」

ハジメの隣でそんなやり取りをする二人。

 

で、どうなったかと言うと……。

 

「改めて、貴殿にはお礼をしなければな」

そう言って、メルド団長と5人の騎士達。

更に500人の騎士と兵士達が私の前で

地面に膝を突いた。

 

「かつて私達に力を与え、結果的に

 生き残る術を与えてくれた貴殿に、

 今度は死んだ仲間を蘇生していただいた。

 王国騎士団団長として、深くお礼

 申し上げる」

そう言って頭を下げるメルド団長と、

それに続く500人を超える騎士と兵士達。

 

 

「改めて、私からも礼を言わせて貰おう」

そこに、更にエリヒド王とリリアーナ

王女が私の傍に寄り、共に頭を下げた。

「王国の危機を救ってくれた事、深く

 感謝している。今は貴殿の前で

 頭を下げる事しかできないが、どうか

 許して欲しい」

 

「構いません。それより、町の方

 へ行っても構わないでしょうか?」

「ん?町へかね?何用かな?

 差し支えなければ理由を聞いても?」

「えぇ。……この際ですから、物は試し、

 と言うのは少々不適切かもしれません

 が、こうなったら出来るだけ蘇生

 させようと思います」

 

そう呟く私に、エリヒド王と王女、

メルド団長達500人。雫や光輝たち、

ハジメ達までもが驚いて、更に

ぽか~んとした表情をしてしまい、

それを見た蒼司が再び大笑いしていた

のだった。

 

その後、復活した兵士達に指示を出し、

被害者の死体を王都の広場に集めさせた。

ちなみに、彼等は今のところ体に違和感

や記憶が思い出せない、などの不具合は

見られなかった。

どうやら無事に蘇生出来たようだ。

 

そして作業中。

「司くん」

負傷者の治療のためにあちこちを

回っていた香織が部下のガーディアンや

ルフェア、ティオを連れてやってきた。

 

「おかえりなさい香織。そちらは

 どうでしたか?」

「軽傷、重傷を問わずに治療はしてきたよ。

 それで大体の所を回り終わった時、

 遺体を運んでいるのが見えたから。

 ……って言うか」

ふと、香織が視線を向けると、そこでは

傀儡兵にされていた覚えのある兵士達が

居た。

 

「あの人達って、その、死んだはずじゃ」

周りに聞こえないように小声で話す香織。

「あぁ、それなら生き返らせましたよ。

 私の力で」

と、私がしれっと語ると……。

 

香織は自分の頬をつねった。

「痛い。夢じゃないよね」

「当たり前です、これが現実ですよ?」

「いや、うん。そうなんだけど、現在

 進行形で非現実的な事を友達が

 してるから、てっきり夢なのかと

 思って。……ユメジャナカッタンダ」

「カオリお姉ちゃん。お兄ちゃんの事

 なんだから常識はかなぐり捨てないと」

「あぁ、うん。そうだねルフェアちゃん」

何やら後半、香織が壊れたように苦笑

していた。

そしてルフェアの言葉にどこか遠い目で

頷いていたのだった。

 

と、そこに今度はティオが近づいてくる。

「もしやマスター、ここでもアンカジの

 ように、マスターの力を周囲に

 知らしめるおつもりですか?」

周囲に聞かれないように問いかけてくるティオ。

 

「あぁ、その通りだ。エヒトはこの世界

 で不動の地位を手にしている宗教の

 唯一神だ。そこで考えたのが……」

「マスターという新たな神を擁立し、

 民衆に認めさせる事、ですか?」

「そうだ。何も民衆を全て味方にしようと

 言うのではない。来たるべき決戦の際、

 邪魔さえしなければ御の字だ。

 それに、イシュタルが倒れ聖教教会が

 まともに機能していないのならば、

 尚更チャンスであろう?」

「確かに。であれば、妾があの者達を

 消し飛ばしたのもマスターのお役に

 立てたと言う事になるのでしょうか?」

「あぁ、もちろんだ。奴らを消して

 くれたティオには感謝している」

「もったいなきお言葉、痛み入ります」

 

しかし、ティオには随分慕われた物だ。

旅の中でも魔物に関する知識などを

提供して貰うこともあった。

それにあの時はティオがイシュタルら

の攻撃を凌いでくれたおかげで無事

ノイントをナノメタルにして取り込む

事が出来た。

あとで何か褒美を取らせるべきか。

 

と、考えていた時。

「司」

メルド団長が呼びに来た。

「言われた通り、街中から死体を

 かき集めた。それも、腕だけの

 者も居る」

「そうですか。それで、数は?」

「数は千人と300人ほどだ。大半は攻撃が

始まった段階で避難していたことも

あり助かったが、逃げ遅れた者が

灰竜の攻撃で倒壊した家屋の下敷き

になったようだ。後は攻撃の余波で

倒れた際に打ち所が悪かったのか、

頭に致命傷があった者もいた」

そう言うと、メルド団長は広場に

並べられた死体に目を向け、俯く。

「少なくない被害が出た。

……もっとも、ハジメが壁の外で

陸上の魔物を阻止していなければ、

倍以上の被害が出ていた可能性が

高いのだがな」

そう言って、亡くなった人々を前に

して静かに頭を下げるメルド団長。

 

それを横目に、私はポツリと呟く。

 

「『留守は任せろ』」

私の言葉にメルド団長は一瞬体を

震わせる。

「蒼司は、貴方にそう言いましたね?」

「……あぁ」

私の言葉に頷くメルド団長。

 

彼と交わした約束。蒼司は私だ。

蒼司と約束を交わす、と言う事は

私と約束を交わすのと同じ。

だからこそ……。

 

「彼がゴジラの名にかけて貴方との

 約束を結んだと言うのならば、私も、

 『全力』でもって答えましょう」

 

そう言うと、私は前に出た。

 

広場ではエリヒド王やリリアーナ王女

が涙を流す人々を何とかしようと

していたが、親しい人を奪われた

苦しみは早々癒える物ではなく、

中にはエリヒド王に暴言を吐く者

までいた。

 

周囲は光輝や雫、清水達が固めている。

光輝が民衆を宥めようとするが、

今回アイツは全く活躍していなかった

事もあって、『何もしていない勇者が

出しゃばるな』と逆に民衆の怒りを

買ってしまった。

メルド団長たちが、国王に何か

あっては不味いとそちらに向かう。

 

その様子を心配しているハジメや

香織たち。彼等の傍にはシアとユエ、

ルフェアやティオも居る。そして

ルフェアの傍ではまだ顔を隠した

ままの愛子先生の姿もある。

 

何気に、ここにはいろいろな人間が

集まっていた。

だが、だからこそ好都合だ。

 

「『第9権能(コードナイン)』、限定解放」

頭に中にある、自分自身に掛けた

リミッターの一部を解放する。

次の瞬間、私の体が眩い光に包まれる。

 

「ッ?!何だっ!?」

眩い光に、群衆の対応をしていた

メルド団長が私の方に振り返る。

 

他の面々、国王や王女、天之河や雫、

ハジメたち、更には群衆たちまでもが

動きを止め、私を見ている。

しかし全身から光を放っているおかげ

で、顔は見られていない。

 

やがて、服が消滅し、更に体の輪郭まで

もがぼやけていく。

そして私は『人の形をした光』になった。

 

そもそもな話、第9形態まで至った私に

とって、肉体はただの『器』、『入れ物』に

過ぎない。私という個体は物質的な肉体

など無くても活動出来る。正しく神だ。

 

だが第9形態への進化目的は人間への

『擬態』。だからこそ人の形をしていた。

だがそのままでは力をかなりセーブ

した状態だ。

 

なので、一時的とはいえ、私は肉体の

『枷』を解き放った。

 

そして光となった私の体は急速に膨張し

ながら空へと上っていく。

 

人の形をしていたそれが、変化していく。

 

細かった腕は、巨大な爪を備えた剛腕に。

 

細かった足は、大地を踏みならす剛脚に。

 

体の全てが巨大化していき、そして

それは大いなる獣の形となった。

 

 

それは正しく、巨大な光のゴジラだった。

 

 

今、王都の空の上に、大いなる獣が

現れるのだった。

 

     第60話 END

 




今回でとりあえず王都での戦いは終わりましたが、しばらくは王都での話が続きます。
その後、帝国での話に行きます。

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