ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

67 / 87
今回と次回も王都での話の予定です。




第61話 夜明けの王都

~~~前回のあらすじ~~~

王城に向かったフリードは一人でも多くの

者を殺そうとするが、蒼司に阻まれてしまう。

ならばと恵里を回収して逃げようとするが、

結果、相棒であったウラノスが撃たれ

死亡。一方事態を収拾した司はこれまで

得た力を使って死者蘇生に成功。

更に自らの力を人々に見せつけるために

肉体という枷を解き放つのだった。

 

今、王都の上空に光のゴジラが降り立ち、

空中に立っていた。

そしてゴジラが、ゆっくりと眼下の広場を

見下ろす。

 

その姿に、民衆は戸惑い、理解が及ばなかった。

非現実的な事態だと言うのに、悲鳴一つ

上げる事なく、人々は光の獣、ゴジラを

見上げているだけだった。

 

やがて、ゴジラが大きく息を吸い込んだ。

そして……。

 

『ゴァァァァァァァァァァッ……!!』

 

静かな叫びが王都の空に響き渡った。

天を仰ぎ咆哮するゴジラ。

 

その姿に、民衆は驚きのあまりその場に

膝をついてしまう。

その様は正に、顕現した神を見上げる

信徒のようであった。

 

と、その時ゴジラの体から黄金の粒子が

溢れ出し、広場に並べられた骸達へと

降り注ぐ。

 

すると、傷ついていた者達の体が

次々と再生されていく。更に腕だけ

の死体からも、切断面から光が溢れ、

それが人の形になった。光が霧散すると、

そこには潰されて無くなった体が

元に戻っていた。

 

これは、司が腕などに残っていたDNAを

元に肉体を再生した、と言うより、

新しく作り直したと言う方が適切な

表現だろう。

DNAは生命の設計図とされている。

司は、その一人一人のDNAを解析し、

欠損部分を新しく作り直したのだ。

 

そして、肉体が再生すれば後はその

肉体の過去を観測し、記憶データを

コピーし、一旦自分の中に保存する。

 

『ゴアァァァァァァァァッ…………!』

 

再び空に響く咆哮。

すると今度はゴジラの体から光が幾千の、

細い光の線が放たれ、再生した体の額に

次々と突き刺さって行く。

 

そして、光の線を通して光が死者たちに

注がれる。やがて、光の注入が終わると

光の線は霧散していく。

 

誰もが突然の事に呆然となっていた。

その時。

 

「う、うぅ、あなた?」

「あ、兄貴?」

死んだはずの者達が次々と起き上がり、

周りの者達は戸惑うが、やがて……。

 

「おぉ!ミカ!ミカァ!」

「お姉ちゃん!」

あちこちで、復活した者達と、その家族

や親しき者達が抱き合い、涙を流す。

そして……。

 

「あぁ!奇跡だ!奇跡が起きたんだ!」

広場に居た誰かが騒ぎ出す。

そして、彼等は頭上の、光のゴジラを

見上げる。

 

と、その時。

『サァァァァァッ』

光のゴジラの巨体が、幾星霜の光の粒に

なって霧散し、光の中から人の形を

した黒い鎧、『ジョーカーZ』を纏った

司がゆっくりと降下してくる。

 

重力に逆らうようにゆっくりと降下し、

フワリと広場に降り立つ。

誰もが、声を出さずに司を見つめていた。

 

何か言うべきか、どうするべきか。

そう、人々が迷っていた時だった。

 

「もしかして、黒の王、ですか?」

人々の中から母と父を連れた一人の

男の子が現れ、司に声を掛けた。

 

そして、相手を見るなり司は思い出した。

「君は?もしやあの時、フューレンで」

「覚えておいでですか?そうです。私は

 あの日、フューレンでフリートホーフの

魔の手から黒の王、貴方に助けられた

子供の一人です」

と、子供らしからぬ、敬虔な信者のような

声で司に声をかけた。

 

あの日、司によって助けられた子供達は

無事に家族の元へと帰された。そんな

中で子供達は、まるでヒーローのように

現れた漆黒の鎧の、騎士のような出で立ち

の司に憧れた。そして、子供達は

いつしか彼を『黒の王』と慕うように

なった。彼のように強くなりたいと

願いながら。

 

その願いもあり、彼は憧憬の目で

司を見上げている。

 

一方、周囲の大人たちはと言うと……。

 

「フリートホーフ?それって確か、

 フューレンの人身売買組織だろ?」

「あぁ、フューレンで三本の指に入る

 くらいのヤバい組織の一つだ。

 でも、確かある日、もっとヤバい奴、

 漆黒の死神とその仲間と戦って、

 半日で壊滅したはずだ」

「漆黒の死神だって!?そいつは確か、

 ウルの町を襲った5万の魔物軍勢

 すら退けた奴の事だろ!?」

「じ、じゃあ、あの鎧の奴って……」

 

既に司の、延いてはG・フリートの

偉業は留まるところを知らずに各地へ

広まっている。

 

「黒の王、とは私の事か?」

「はい。その漆黒の鎧から、誠に

 勝手ながら私や、同じように貴方に

 助けられた子供達は、貴方のことを

 黒の王と呼び慕っています。

 ……貴方のように、強くなりたいと」

 

「そうか。そうであったか」

と、司はどこか、普段以上に優しい声色

をしている。

 

と言っても、これも民衆に自分という神の

ような存在を印象づける演技でしかないのだが。

 

「あの、不敬かもしれませんが、お名前

 と、ご尊顔を拝しても構いませんか?

 あの時は、名前も聞けませんでしたし」

「そうか?こんな顔、見ても大した物

 では無いと思うが?」

そう言うと、司はメットに手を掛けそれを

外した。

 

そして現れた顔に、民衆は男の子と同じ

ように食い入るように見つめていた。

 

「それと、名前だったね。では改めて

 この場で名乗らせて貰うとしよう。

 独立武装艦隊、G・フリート

 総指揮官、新生司。これが『今の

 姿の』名前だ」

と、彼がG・フリートの名前を出すと

再び民衆がどよめく。

 

「や、やっぱりだよ!G・フリートって

 言ったら、ウルの町を無傷で守り抜いた

 軍隊だって聞いたぞ!」

「お、俺はアンカジ公国を救った救世主

 たちだって聞いたぞ!」

騒ぎ始める人々。

 

これまで多くの偉業を成し遂げてきた

G・フリート。

それはハジメや香織の優しさ、司の

力。更にはユエやシア、ルフェア、

ティオなどの努力が生み出した奇跡と

言っても過言では無い功績の数々。

 

故に、G・フリートの名は今や各地で

話題になっていたのだった。

そしてそれには、内心打算的な笑みを

浮かべる司。

 

 

これで、G・フリートには『神の軍隊』

と言うイメージが付いた事だろう。

G・フリートが強大な力を持っている

と言う話が広がれば、それは当然、

人々が私達と戦おうとする意欲を削ぐ事

になる。人との不必要な対立を望まない

ハジメや香織たちのためにもなるはずだ。

 

と、私が思考を巡らせていた時。

 

「もしかして、黒の王はエヒト様、

 なのですか?」

 

不意に聞こえた男の子の言葉に、周囲の

ざわめきがピタリと止む。

そして直後。

「エヒト様?まさか……」

「いやでも、あんな事出来るのって」

と言った会話が方々で聞こえ始める。

 

さて、ここからだな。

 

「いや、残念ながら私は『彼』ではないよ」

そう言って(演技の)笑みを浮かべながら、

私は否定した。

 

「彼を信じる君たちの前で、流石に

 神を自称するほど、私もうぬぼれでは

 無いよ」

ここで、自分がエヒトに変わる新しい神、

などと言っても彼等の反発を買うだろう

から、やんわりと否定しつつも謙遜を

交える。

 

「私は、そうだな。『彼』と間違われる

 くらいの力を持った存在、かな?

 『彼』にはほど遠いよ」

と、言いつつも……。

 

「しかし、酷い物だ」

私は憂いを秘めた(ふりをした)瞳で破壊

された街並みを見回す。

「これでは復興に時間が掛かるだろう。

 どれ、少しだけ手伝うとしようか」

 

そう言うと、私は両手を左右に開いた。

すると、足下から黄金の粒子が周囲に

溢れ出し、四方へ広がって行く。

ハジメ達を覗き、雫たち、王やメルド

団長、群衆が驚く中、その粒子を浴びた

家屋が一瞬で襲撃を受ける前の姿に

戻っていく。

 

この程度、ただ単に再生魔法で家が

壊れる前に巻き戻しているだけだ。

死者を再生する作業に比べれば、

簡単の一言だ。

 

そして、その余波は破壊された大結界

まで及び、王都はまるで襲撃など

無かったかのように、全てが元通り

となった。

 

全ての修復を終えると私は粒子の

放出を止め、息をつく。

 

すると……。

一人、また一人と群衆が私の前で

膝を突いた。

そして、祈りを捧げるように手を合わせ

頭を垂れる。

 

「ありがとうございます、黒の王」

そんな中で、あの男の子が私を涙ながら

に見上げている。

「あの日、僕を救ってくれて。

 そして今度はお母さんを助けてくれて」

 

どうやら、彼の母親も襲撃に巻き込まれて

いたようだ。それを助ける事が出来た

のならば、まぁ良かったと内心、これは

本当に思っていた。

 

「命はどんな存在であれ一つだ。

 だが、望まぬ別れを、私は嫌う」

そう言って、私は彼の肩に手を置く。

 

「酷な事を言うだろうが、此度の襲撃で

 終わりでは無い。また繰り返される

 かもしれぬ。その時のために、君は

 どうするべきか、分かるはずだ」

「はい。強くなります。あなた様の

 ように」

「そうだな。強くなれ、少年。

 家族を守る為には、それしかないの

 だから。だからこそ、諦めずに努力

 をする事だ。そして、もしその努力の

 証として強い心を、どんな敵にも

 屈せず大切な人を守りたいと願い

 戦う決意を抱いたのなら、私の

 元を尋ねると良い。……私から、

 少しだけ君に贈り物をしよう。

 君の名は?」

「あ、ぼ、僕は、クライムです」

 

「そうか。ならばクライム。強い心を

 持つ事の出来た君と再び会える事を

 楽しみにしているよ」

そう言って私は男の子、クライムの

頭を撫でて、再びジョーカーのメットを

被り直す。

 

そして、ショーの一環として背中に漆黒

のマントを纏う。

黒いマントと黒い鎧。それを前にした

人々が小さく「黒の王」と呟くのを、

私は聞き逃さなかった。

 

そして、私はハジメ達の元へと戻る。

 

ちなみに、彼等の後ろでは蒼司が必死に

笑いを堪えていた。

曰く、『キャラが違いすぎて笑うのを必死

に堪えていた』らしい。

 

 

その後、私達はエリヒド王の計らいで

王城への滞在を許された。

 

そして、復興が終わった翌日の昼。

大きな広間で全員が集まって食事を

する事になった。

 

集まったのは、私たちG・フリートの

メンバー、光輝や雫を始めとした異世界組

と蒼司。更にメルド団長たち騎士6人。

そして一番の上座に座るのはエリヒド王。

更に彼の隣には王女リリアーナが

座っていた。

 

 

「新生殿。まずは王国を代表して君たち

 に謝罪しなければならない。操られて

 いたとはいえ、何の罪も無い君たちを

 異端者呼ばわりした事を、深く謝罪

 したい」

そう言って、席を立って頭を下げる王に

メルド団長やリリアーナ王女が続く。

 

その様子にハジメや香織が戸惑う。

「どうか頭をお上げ下さい。こちらも

 一度は王国側と戦争を辞さないほど

 の脅しをした事がある身。

 どうかお気になさらずに」

私がそう言うと、王たちが頭を上げた。

 

「しかし、君の力には多くの者が

 助けられた。剰え、その命さえも

 蘇生した。君には、いや、

 君たちG・フリートには感謝しても

 しきれないよ」

「そうですか」

そう言って、私は出されていたお茶を

飲む。

 

それを見ていた光輝がどこか面白く成さそう

な表情を浮かべていたが、すぐに

ハッとなった。

 

「そ、そうだ!こんな事をしてる場合

 じゃない!愛子先生だ!愛子先生を

 探さないと!」

途端に慌て出す天之河に他の生徒達も

慌て出す。が……。

 

「問題ありません」

私はそう言って、幸利に目配せをした。

幸利は無言で頷くと席を立って一旦部屋

の外へと出て行った。

「おい新生!問題無いってどう言う意味だ!

 愛子先生は!」

「だから大丈夫です。先生の身柄は

 既に私達が保護しています。今、

 隣室で待機して貰っています。

 それを幸利に呼びに行って貰い

 ました」

 

と言う私の言葉に、生徒達がホッと

息をついた。

そしてそれからすぐに愛子先生が現れ、

彼女の姿を見た生徒達が彼女の元に

駆け寄った。

 

 

「愛子先生、無事だったんですね!」

「はい。皆さんごめんなさい。色々

 心配させてしまって。でも、蒼司君

 が色々手を回してくれておかげで、

 私はこうして無事ですから」

そう言って笑みを浮かべながら語った愛子

だったが、光輝や雫には引っかかる単語

があった。

 

「蒼司が?」

そう言って、振り返った視線の先では蒼司

が料理を美味そうに食っていた。

「ん?どした?」

と視線に気づいて声を掛ける蒼司。

 

 

「愛子先生はそもそも誘拐されていませんよ?」

そこに響く私の声に、生徒達が私の方に

目を向ける。

「ど、どう言う意味?」

「そのままの意味です。そもそも敵が

 誘拐したのは、蒼司が愛子先生そっくり

 に創り出したロボットです。敵はそれを

 先生の偽物と見抜けなかったようです。

 本物の先生は誘拐未遂事件があった

 直後、目撃者であったリリアーナ王女

 と共に、護衛のメルド団長達に守られ

 ながら王都を脱出。ホルアドに潜伏して

 いましたが、私達の異端認定騒ぎも

 あり、団長達と共に私達との合流の

 ため西へと向かい、その道中で私達と

 合流した、と言うのが最近の愛子先生

 の近況です」

と、雫に説明をすると……。

 

「じ、じゃあ清水君が誘拐されたって

 騒いでたのは」

「あれは蒼司の指示で行った演技です」

「「「「「「えぇ!?」」」」」」

私の言葉に、生徒達、それも護衛隊の

優花たちまで驚きの声を上げる。

 

「ごめん、ごめんなさい」

そう言って頭を下げる幸利。

「なんでそんな嘘を言ったんだ清水!

 先生が無事ならどうしてそれを!」

そこで声を荒らげたのは、正義感の強い

あの天之河だった。

「皆先生の事を心配して、それで……!」

 

「幸利を責めるのはお門違いだぜ?」

そこにやってくる蒼司。

そして彼は幸利と天之河の間に割って入る。

「こいつに演技するように言ったのは

 俺だ」

「蒼司、何故そんな事を?」

雫は蒼司に向かって食ってかかりそうな

光輝を宥めながら問い返す。

 

「俺のオリジナル、つまり司が俺をここ

 に派遣した理由はお前達のサポート

 のためだ。ただし、他の目的もあった。

 それがいざと言う時、敵が人質として

 お前達を誘拐しようとした場合、即座

 に対応出来る為だ」

「対応?」

「そうだ」

ポツリと呟く雫。蒼司は皆を席につかせ

ると話を再開した。

 

 

「お前等だって司の能力がヤバいのは

 知っているだろう?そうなると、

 色んな奴らから目の敵にされるわけだ。

 そしてそんな俺等を弱体化させよう

 って考えると真っ先に浮かぶのが

 人質。つまりお前達や愛子先生さ」

「それで、蒼司が私達の傍に居た訳ね。

 でも、ならどうしてわざわざ先生の

 偽物まで用意して、それに清水君

 にあんな演技までさせたの?」

「あ~~」

 

雫の言葉に蒼司は戸惑い、オリジナル

である司に目を向ける。

すると……。

 

 

「エリヒド王、頼みがあります」

「何かな?」

「人払いをお願いしたい。給仕係の者と、

 メルド団長たち6人以外の騎士を

下げて下さい。……彼等には、

少々ショッキングな内容ですので」

 

「分かった」

そう言って、エリヒド王が手を上げると

私が指定した者達が部屋を後にする。

更に念のため、遮音結界を周囲に展開する。

 

「さて、では愛子先生の誘拐を偽装

 した件についてですが、これはかなり

 ショッキングな話になるでしょう。

 それでも、全員聞く気がありますか?」

私が問いかけると、数人が迷ったかのような

表情をするが、最終的に光輝が、『皆は

真実を知る権利がある。そうだろ?』と

言って納得させた。

 

 

「では、話すとしましょうか。愛子

 先生の誘拐の犯人など、色々と」

 

そうして、私は語った。そもそも私達を

この世界に召喚したエヒトにとって、

私を含めた全員がゲームの駒でしか無い

事。エヒトにとってこの世界がゲーム

の盤上であり、そこに生きる者は王で

あろうと駒の一つに過ぎないとエヒト

が思って居る事。解放者の前例を話し

ながら、エヒトは自分の思い通りに

ならない存在を排除しようとする

動きがある事。

 

その一環としてエヒトは手下のノイント

を使って先生を誘拐しようとした事。

私達は敵の情報を得るために、敢えて

その作戦を利用し、ノイントを倒して

敵側の情報を手に入れた事。

 

更にエヒトがゲームを面白くする

ために、恵里に接触し協力していた

可能性がある事や、王を洗脳したのは

実際はノイントであった事など、様々な

情報を伝えた。

 

 

全て話し終えた部屋で、その真実を

初めて知った者は俯き、知っていた

者達は改めてエヒトの残虐さに

苦虫を噛みつぶしたような表情を

浮かべていた。

 

「何だよそれ、つまり、俺達は、

 帰れないって事なのかよ」

絶望したかのように呟く生徒の一人。

 

「そいつは違うぜ?」

しかし、それを蒼司が真っ先に否定する。

「良いかお前等。よく聞け。この話

 にはまだ続きがある。今話した通り、

 エヒトはとんでもないクソ野郎だ。

 この世界に俺等を呼んだのも、世界

 を救うためじゃない。駒を増やして

 ゲームをより面白くするためさ。

 まぁそんな奴だから、真実を知った

 俺達を早々帰すとは思えない。

 が、しかしだ。今ハジメたちは

 大迷宮を巡っている」

そう言うと、一旦お茶で喉を潤す蒼司。

「お前達は知らないかもしれないが、

例えばオルクス大迷宮。アレは全部で

100層あるって事になってるが、実際

にはその下に更に100層もの層が

続いている。俺等はこれを真の

大迷宮って考えてる」

「真の大迷宮?」

「あぁ」

蒼司は優花の言葉に頷き帰す。

 

「大迷宮って言うのは、さっき言った

 解放者たちが生み出した試験場なのさ。

 その試験、つまり大迷宮を突破した

 者は大迷宮最深部で神代魔法という

 者を手にする。んで、こっからが

 お前達の聞きたい事だろうが、

 俺達は既に神代魔法を5つ取得し

 てる。残る2つの大迷宮をクリア

 すれば、司たちは全ての神代魔法を

 入手した事になる。そして、お前達は

 司が死者蘇生を行う場面を見ていた

 はずだ。あれは、司が神代魔法を

 入手した結果、こいつが進化して

 獲得した能力だ。そして更に、

 ある人物からの助言として、

 元の世界への帰還を目指すのならば、

 神代魔法を全てゲットせよ、って言う

 メッセージを貰っている。その

 情報の確証は無いが、そもそも神代

 魔法はこの世界そのものの創造神話で

 出てくる。言わば、エヒトと同等の力

 だ。更に言えば神代魔法の獲得は

 司や俺のパワーアップを意味する。

 前に説明したと思うが、司には

 離れた空間同士を繋ぐ力がある。

 要は、これを進化させて異世界同士

 を繋げられるようにすれば良い、

 って訳だ」

そこまで言うと、蒼司は息をつく。

 

「まぁ、詰まるところ、現在お前達が

 元の世界に帰還出来る可能性は

 2つだ。一つ。神代魔法の可能性。

 二つ。オリジナルである司の進化。

 この2つだな」

蒼司の説明を聞いている生徒達は皆

戸惑っていた。と、そこへ。

 

「しかし、何故お前達はその事を俺達に

 黙っていた?」

鋭い視線で蒼司と司を睨み付ける光輝。

「答えろ二人とも。そんな大事な事、

 何で俺達に黙っていた!」

「ちょ、光輝!」

声を張り上げる光輝を、隣に居た雫が

宥める。

 

「……その理由は、安全確保の為です」

「何だと?」

私の言葉を聞き、天之河は私の方に視線を

向ける。

 

「諸君等が居たのはこの王城。しかも

 すぐそこには神山、即ちエヒトを

 信仰する聖教教会の総本部があり、

 ここは言わばそのお膝元。そんな

 場所で、仮にもエヒトが狂っている

 などと叫べば、真っ先に異端者の

 烙印を押され牢屋行き。或いは

 死刑とされるのは目に見えています」

「だから、黙っていたと?」

「えぇ。更に言えば、勇者である天之河

 の戦闘力は高い事から、誰かを人質に

 とって、貴方に戦闘を強要する

 恐れもあります」

「ッ、俺が?」

「えぇ。……加えて、現在諸君等の

 衣食住を保障しているのが王国である

 以上、王国民の反発を買う発言をすれば

 どんな仕打ちにあうか。良くて

 国外追放ですが、諸君にここ以外、

 行く宛てがあるのですか?」

 

そう言って私が見回せば、皆俯く。

当然、無いだろう。

「更に言えば、知りすぎた者は消される。

 よくある話です。かつて真実を知った

 解放者達がエヒトに敗れたように、

 エヒトにとって都合の悪い情報を

 持っている人間を、奴が早々見逃す

 はずはありません。当然、エヒト及び

 その手の者に狙われる事は目に見えて

 います。……だからこそ、安易に情報

 を流さなかったのです。ある程度

 戦えなければ、この情報を持つ事

 =死に繋がるからです」

 

「つまり、私達を護るためだった、

 って事?」

「はい」

私は優花の言葉に頷く。

チラリと天之河に視線を向ければ、納得は

していないが、私の言っている事を

正しいと考えているのが、拳を振るわせ

ながらも、何も言わなかった。

 

「更に言えば、戦争の勝利を対価に

 エヒトの力で元の世界へ戻して貰う、

 と言うのは、ここに居る大半の者が

 持っていた希望。それを安易に

 打ち砕くのはいかがな物かと思い、

 最終的には帰還方法が確立するまで

 黙っているつもりでした。

 しかし、ノイント、延いてはエヒト

 が動き出した今、皆にこうして話を

 した、と言う訳です」

 

そんな私の言葉に、皆が黙り込む。

やがて……。

 

「本当なのか、新生殿。エヒト様が、

 我々の信じた神が……」

「信じられないのも無理はありません。

 ですが、信じて貰う以外にありません。

 証拠になるかは、分かりませんが」

 

そう言って、私は皆にノイントとの会話を

録画した物を見せた。皆、最初はノイント

の美貌に見入っていたが、私との会話の

中でエヒトの異常性を聞けば、皆が皆

再び意気消沈とする。

 

更に清水との戦闘の場面や、私が

ノイントを取り込んだ事で入手した、

数多くの人々を魅了の力で洗脳して

いく彼女の映像を見せた。

 

信じていた物が、実際には狂気の

塊だと知って、この世界の人間

であるエリヒド王やリリアーナ王女、

メルド団長以外の騎士達がどこか

げんなりしている。

 

「やはり、改めて知らされると、

 分かっていても、頭が追いつきませんね」

ポツリと呟いたリリアーナ。そんな

彼女の呟きを聞き逃さない者が居た。

 

雫だ。

 

 

「改めて知らされると、って待って?

 それってリリィ、前からエヒトの

 事、知っていたの?」

「えぇ。先日、新生さん達と合流した

後、ここへ向かう、不思議な馬車の

中でお話を聞いたんです」

そう言って頷くリリィ。

 

「そして、付け加えるのであれば、この場

 で今話を聞く以前に、エヒトの真実を

 知っていたのは、私と一緒に旅を

 していたハジメ達。愛子先生、清水、

 メルド団長たち6名。リリアーナ王女、

 雫たちだけです」

 

「ッ!?どうして雫がっ!」

「俺が話したんだよ」

雫の名前が上がると、いきなり席を立つ

光輝に蒼司が答えた。

「俺がこっちに来たばかりの時、

 信用出来る人間だったからな。

 愛子先生には事前に司が話してたし、

 幸利、メルドの旦那、そして雫は

 ジョーカーの保持者だ。

 いざと言う時のためにもな」

「ッ!だったら何故、雫や清水に

 話しておいて、なんでそんな!」

「さっき言ったろ?不必要な情報の

 流出はリスクが大きいってよ」

「それでも俺は勇者なんだぞ!?

 何で俺に……!」

 

「いや、何でってよ。お前信じたのか?

 俺がエヒトは狂ってるって言ってよ?」

「え?」

「だから単純な話だよ。お前は信じた

 のか?だって自分たちの戦う理由を

 根底からひっくり返す話だぞ?

 信じたのかよ?お前は」

「そ、それは……」

言われ、言い淀む光輝。

 

「そうだろそうだろ。そう簡単には

 信じられねぇだろ。だからだよ。

 雫や旦那、先生や清水とは

 オリジナルがそこそこ仲が良かったし、

 信頼もしていた。だから話した。

 それだけの事さ」

「ッ!それはつまり、俺は信頼してない

 って言いたいのか!?」

蒼司の言い分が気に入らないのか、声を

張り上げる光輝。

 

「あぁ」

そして、蒼司は即行で頷いた。

「はっきり言って、お前は戦力として

 どうかと思うし、覚悟云々も

 まだまだな気がしたからな。

 だから話さなかったのさ。

 仮に話しても、俺の言う事なんて

 信じなさそうだし。何より、

 仮に信じたとしても、戦力としては

 期待出来なかったからな」

「お、俺が弱いって言うのか!?」

「あぁ」

 

頷くと、蒼司は席を立つ。

「確かに、お前のスペックと使える技

 は強いさ。だが、例え強かったと 

 してもだ。お前が敵にその力を

 振り下ろす事を躊躇っているようじゃ、

 その強さも意味が無い」

「何だと!?」

「覚えてるだろ。オルクス大迷宮で

 あの女魔人族に追い込まれた時。

 お前、あの女に肉薄したのに

 殺すのを躊躇ってたよな?」

「そ、それは……」

言い淀む光輝。その時、蒼司が

彼の前に立つ。

 

「俺が言いたいは、こう言う事さ」

 

そう言って笑みを浮かべる蒼司。

 

と、次の瞬間。

『ガッ!』

「うっ!?」

蒼司が光輝の襟首を掴んで自分に

引き寄せる。

 

「戦争、舐めてんじゃねぇぞ?」

 

そう語る蒼司。この時ばかりは、いつも

の飄々とした態度ではない。司の

ような、無表情な顔で語り出した。

 

「テメェのその躊躇いのせいで、誰かが

 死ぬ。仲間が死ぬ。守りたい者が死ぬ。

 テメェが敵を敵と割り切って倒して

 いれば、守れる命だってある。

 事実、あの時お前があの女魔人族を

 切り捨ててぶっ殺していれば、司や

 清水たちが駆けつける必要なんて

 無かったかもしれない。

 良いか、よ~く覚えておけ。

 『躊躇いは弱さ』だ。そして、

 その躊躇いが、貴様と貴様の

 大切な人を殺す事だってあるんだ」

そう言うと、蒼司は手を離す。

 

キッと蒼司を睨む光輝。だが……。

「お前だって、躊躇って大切な人を

失いたくはないだろ」

「ッ」

その言葉に、光輝はハッとなる。

 

「戦争をするって言うのは、そう言う事だ」

蒼司は、まるで正すように光輝と

真っ直ぐ向き合い、静かに語る。

 

「敵はお前の躊躇いとか、そんなの

 何とも思ってねぇ。死ぬか殺すか。 

 それが戦場だ。

 だからこそ、守りてぇ相手が

 いるならその躊躇いを捨てろ。

 でなきゃ、お前は誰も守れねぇぞ」

 

それだけ言うと、蒼司は踵を返して

自分の席に戻り、光輝もしばし考えて

から無言で自分の席に座った。

 

 

その後、改めて話し合いが行われた。

 

「状況を整理しましょう。現在、聖教教会

 の本部である神山上層の教会は破壊

 され、結果イシュタルを始めとした

 教会の上層部は軒並み死亡。教会は

 機能不全を起こしています。しかし、

 王国はこれから魔人族の再びの襲来に

 備える必要があります」

「確かにな。しかし、そんな時だから

 こそ民衆は聖教教会を、延いては

 エヒトを信じるだろう」

私が話せば、エリヒド王はそう語る。

 

「新生様」

その様子を見て、リリアーナ王女が

私を見て声を掛けてきた。

「差し出がましいでしょうが、お力添え

 を頂けませんか?」

「と言うと?」

「新生様のお力はここに居る皆。

 そして王国民が見ています。そんな

 あなた様が協力していただければ、

 失礼かもしれませんが、人々や

 兵士の士気を上げることになるのでは、

 と私は考えます」

「成程」

 

そう言って私は頷く。ふと周囲を見れば

メルド団長やエリヒド王が私の返答を

待っていた。

 

これは、こちらにとっても望んだ展開だ。

 

そう考え、私は内心ほくそ笑む。

 

そして……。

 

「分かりました。では、G・フリートの

 総指揮官として王国側に提案します。

 私達と『同盟』を締結していただけませんか?」

 

 

司は、その輪を広げていく。

国を、人々を、味方とするための行動が、

彼の望んだ言葉を彼女から引き出す。

 

そしてまた一国。その輪に加わる国が

現れるのだった。

 

     第61話 END

 




次も王都でのお話です。

感想や評価、お待ちしています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。