ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回は王都での話です。


第62話 王都での日常

~~~前回のあらすじ~~~

自分の力を使って死者蘇生や王都復興を

こなした司。彼はその力を通して群衆に

自分という存在を強く刻みつけた。

その後、エリヒド王との会談の中で

雫以外の異世界組や王たちにエヒトの

真実を告げる司と蒼司。

そんな中で、彼はリリアーナ王女の

提案である協力のために同盟を

持ちかけるのだった。

 

 

「同盟、ですか?」

と、首をかしげるリリアーナ王女。

「はい。同盟です。我々G・フリート

 とハインリヒ王国の間で同盟を締結

 していただけませんか?そうすれば、

 こちらからはあらゆる物を提供

 出来ます」

「あらゆる物、と言いますが具体的

 には何を?」

 

そう聞かれた私は端末を机の上に置き、

まずガーディアンの画像を映し出す。

「そうですね。まずは兵力です。私達

 がマンパワーとして使役している

 人型機械歩兵、ガーディアン。彼等

 は労働力としても、戦力としても

 使える優秀な存在です。また、

 その上位種のハードガーディアンも

 提供可能です。彼等は人では

 ありませんから、仮に壊れたと

 してもすぐに新しい物を我々が

 製作し、そちらに提供することが

 出来ます。次に、技術です」

 

そう言って私は次にジョーカーを

映し出す。

「知っての通り、ジョーカーを

 纏う事は装着者のパワーアップを

 意味します。メルド団長達や雫の

 活躍からも、その意味が分かって

 いただけると思いますが、こちらと

 してはジョーカーを王国に供給する

 事も考えています」

「っ、それは本当ですか?」

 

ジョーカー提供の話に、王女は食い気味

に聞いてくる。やはりジョーカーの力を

知る者としては、それが欲しいのだろう。

「えぇ。加えて、私達の世界の医療や

 薬の技術。必要ならば物資の類いも

 ある程度融通出来ます。無論、

 そちらとの協議の上で物事を決定

 します。こちらから一方的に何かを

 押しつけるような事はしません」

と言うと、リリアーナ王女はどこか

安心したような表情を浮かべた。

 

しかし……。

「新生殿。同盟というからには、そちら

 は何かをお求めと考えるが、如何かな?」

エリヒド王がどこか鋭い視線で私を見ている。

流石は国王、と言うべきか。

 

「えぇ。その通りです。我々が対価として

 求めるのは、一つ。それは我々と

 敵対しないことです」

「ふむ。敵対しない、とは?」

 

「現状、私達の最終目的は元の世界への

 帰還です。そのために神代魔法を

 集めていますが、今回エヒトの

 手下であるノイントが動き出した

 以上、恐らく我々とエヒトの戦い

 が近づいていると考えます。

 そして、エヒトはこの世界に

 おける神として人族からの信仰

 も篤い。そんなエヒトと敵対

 した場合、何も知らない民衆は

 私達を神の敵として襲ってくる

 可能性があります。私としては、

 敵として襲いかかってくるので

 あれば容赦無く殺すつもりです」

 

そう言うと、生徒達はざわめき

天之河は私を睨み付ける。

 

「が、しかし不必要な殺戮はハジメ

 や香織の精神衛生上よろしくありません。

 だからこそ、もし仮に私達とエヒトの

 戦いが起った場合。そして群衆が

 私達に襲いかかろうとした場合、

 エリヒド王には彼等を止める役割を

 して欲しいのです」

「つまり、君たちの戦いの邪魔を

 するな。そう、言いたいのですな?」

「えぇ。端的に言えばその通りです」

 

私の言葉に、エリヒド王はしばし悩んだ

様子だったが……。

「分かりました。その同盟、受けましょう」

そう言って頷いた。

 

私は席を立ち、彼の元へと歩み寄る。

すると王も立ち上がり、私と正面から

向き合う。

 

「……同盟の締結、ありがとう

 ございます。代わりと言っては

 なんですが、王国を守る為、

 我々G・フリートは全力で貴国に

 協力する事を約束しましょう」

「はい。感謝します」

 

そう言葉を交わした私達は互いの手を

取り合い、握手を交わすのだった。

 

 

その後、愛子先生達を自室に戻した

あと、私はエリヒド王、リリィ王女、

メルド団長らを交えて詳しい話を

詰めていった。

 

 

そして、王都襲撃から5日が経過した。

 

その間にいろいろな事があった。

まず、エリヒド王は民衆の前で

魔人族襲来の際、この撃退に尽力した

G・フリートのメンバー全員に勲章を

授けた。更にその場で彼等に対する

異端者認定は、手違いであった事を

発表。更にG・フリートと同盟を締結し

今後、対魔人族のために協力して行く事も

発表した。

 

これには以前、司に失禁して恥を掻か

された貴族や神殿騎士たちを中心に反発が

広がったが、既に国王以上の影響力を

持つイシュタル無き今、影響力は

微々たる物だった。

更に、民衆の中で司を神のように

崇めている者が大勢居て、既に司は

『奇跡の担い手』、『黒の王』として

民衆から崇められていた。

それもあり、貴族や神殿騎士達は民衆の

強い反発を恐れて司を名指しで批判する

事は出来なかった。

 

更に付け加えれば、神殿騎士達には

司をどうこう以前に、教会の建て直し

を急がなければならない。

なにせ総本山の神山の教会が吹っ飛んで

いたのだから。

ちなみにこれは魔人族のせいに(司が)

しておいた。

 

そして更に付け加えておくと、愛子の

護衛をしていた神殿騎士、デビッド達

は愛子の行方不明事件があった後から

各地を走り回っており、何気に王都

襲撃戦に巻き込まれず無事だった。

今は王都に戻ってきて愛子が無事

だった事に涙を流していたが、それを

救ったのは司たちと聞くと、どこか

納得出来なさそうな表情を浮かべていた

のだった。

 

一方、国の中では、様々な策が施されていた。

 

まず、魔人族の再度の襲来を警戒して

各地に小規模な前哨基地を設置。そこには

ガーディアン隊が派遣され、各地の監視を

行っている。

また、それに付随して物流の安全性向上

のために『輸送道路警備部隊』が設立され、

こちらはガーディアン、バジリスク、

ホバーバイクからなるパトロール中隊を

いくつも編成し、王都からのびる周囲の

町への道路を警備する部隊を配置。

これは流通を護るための部隊だ。

 

更に防壁も大結界にプラスするように

ウルの町と同じ私の手製の物理防壁を

建造。その上にはガーディアンや

設置式ルドラ。対空機関砲や重機関銃を

いくつも設置し敵の襲来に備える。

 

更にアンカジ公国と同じように職業

訓練校や最新性設備の病院。子供達の

ための無料の学校などなど、様々な

施設をG・フリートの名の下に建て、

加えて新たな技術や素材を王国内部に

流した。

 

司としては、この技術供与を通じて

王国の戦闘力や生活基盤の底上げを

考えていた。

もっと言えば、自分達の影響力を

高めようとしていたのだ。

 

そして、最後に王国騎士団向けに開発

したジョーカーの供給が始まった。

 

それはメルド団長達のジョーカー、

タイプKをベースに改良を施した

『タイプKC』。ナイトカスタムだ。

 

タイプKはパイロットを騎士である

メルド団長達に絞っていたために、

接近戦を考慮したセッティングが

施されていたが、改良方のタイプKCは

特化型ではなく、汎用型としてタイプK

をリファイン。

 

更に私たちG・フリートから遠距離攻撃

用に銃や火砲の類いを提供。

今は訓練施設でハジメを教官として

銃や砲に慣れるための訓練を行っている。

 

 

そして5日後のある日。私は雫とティオを

伴って王都のギルドに向かっていた。

理由はミュウを送り届ける依頼が終了した事

を伝える為だ。

 

元々はフューレン経由で東、つまり樹海

方面に行こうとしていたのだが、ゴタゴタ

があったのでここで報告を済ませてしまおう

と言う訳だ。まぁ、別のギルドで

受けた依頼を王都で出来るかどうか

疑問なのだが……。

そんな中で私が街中を歩いていると……。

 

「あぁ、シン様」

「ホントだ!シン様だぞ!」

「ありがたやありがたや」

「黒の王だっ。すげぇ本物だ」

私に気づいた王都の人々が頭を下げ手を

合わせて祈りを捧げたり、驚嘆と興味が

混じった目で私を見ている。

 

しかも、それによって更に多くの人が

私に気づいて頭を下げて……。と言う

のが繰り返しになって私が行くところ

では大概の人が頭を下げるのだ。

シン、と言う名前の元は私の名字、もっと

言えばシンジョウの最初の二文字を

もじった物だ。誰が言い出したのか、私

の事を大勢の者達が『シン様』と呼んで

慕っているのだ。

 

「相変わらず、凄まじい人気ですね。

 マスター」

どこか誇らしげに呟くティオ。

「やはり、マスターは人の上に立つ存在

 なのですね」

「よせティオ。世辞はいらん。……これ

 まで他人からこんな風に敬われた事  

 など無かったので背中がむず痒い

 のが本当の所だ」

「では、これからマスターは人に

 敬われる、と言う事を慣れなければ

 いけませんね」

そう言って、どこか微笑ましそうに笑み

を浮かべるティオ。

 

「何か嬉しいのか?」

「それはもちろん。我がマスターである

 新生司様、即ちあなた様が世界に

 認められるのは、家臣として

 喜ばしい物ですから」

「そう言う物か?」

「そう言う物です」

と、そんなやり取りをしながら私達は

ギルドへと向かう。

 

「って言うか、どうして二人はギルドに?」

「あぁ、それはミュウを送り届けた報告に、

 ですよ。海人族の幼女の事は話しました

 よね?」

「あぁうん。覚えてるけど……」

「彼女は無事、エリセンの母、レミアの

 元に送り届けたので、その報告に。

 元々あれは正式な依頼でしたから」

「そうだったんだ。あ~でも、ちょっと

 残念。抱っこしたかったな~」

ポツリと呟く雫。

 

「機会なら、またそのうちあると思いますよ?」

「え?だって、私達は……」

雫が首をかしげ、言葉を区切る。

彼女が言わんとしていた事は私も分かる。

しかし…。

「私は、彼女やレミアと約束したの

 です。再び会うと。そして……。

 そのために私は更に『進化』します。

 そう、例えば異世界同士を自由に

 行き来できる程には」

「え?」

「そうすれば、例え一度は向こうの世界

 に戻ったとしても、必ず再び、

 ミュウ達と再会する事が出来ますからね」

「そこまで、出来るの?」

私の言葉に首をかしげる雫。

 

「出来る云々の話では無いぞ、

 八重樫殿」

彼女に答えた私では無くティオだった。

「マスターはやると言ったら必ず

 やり遂げる男じゃ。それに、死者すら

 蘇らせたマスターに、不可能があると

 思うかの?」

とティオが聞くと、雫は確かに、と言って

苦笑した。

 

「そっか。じゃあ今度会ったら抱っこ

 させてもらうかな~」

そう言って笑みを浮かべる雫。

 

その後、私達は再びギルドを目指して

歩いていたが……。

 

 

『子供のために、約束のために、司は

 世界を超える覚悟だって持ってる。 

 ……それだけ、ミュウちゃんを

 大切にしてるって事だよね。

 良いなぁ』

その時、雫はふと、数回会った

だけのミュウの事を想いだし、

ギュッと拳を握りしめた。

 

司のミュウに対する思いは、童話の

王子様とお姫様のようでもあった。

何者をも二人を引き裂く事は出来ない。

そして司ならば、世界の壁をぶっ壊して

でもミュウの元へと向かうだろう。

二人の再会には、どんな壁も意味を

成さない。司はその全てをぶち壊して

ミュウの元へと向かう。

 

そしてそれは、司がそれだけミュウを

大切にしている事の現れだ。

そう考えた雫の胸にモヤモヤした

感情が生まれる。

 

やがて、すぐにハッとなる雫。

『な、何考えてるの私!子供

 相手にそんな、焼き餅みたいな!

 止め止め!変な事考えないように

 しないと!今は目の前のことに

 集中集中!』

そう考え、頭をかぶり振って、頭の

中に浮かんだ『嫉妬』の感情を

振り払う雫。

 

 

その後、ギルドに到着した私達。

受付の列に並び、ステータスプレートを

提示し受付嬢に話をしたのだが、

何故かギルドマスターと会って欲しい

と言うのだ。

 

ちなみに、その周囲では冒険者たちが

私に驚いたり、雫やティオに見惚れていた。

私の方は支部長直々依頼だったからだろう。

 

とは言え、この後は王城の方に戻って

兵士達の、ジョーカーの慣熟訓練の様子

を見ようと思って居たので、急いでいる

旨を伝えるとギルドマスターを呼んでくる

と言って、受付嬢は奥へ行ってしまった。

 

「マスター、王都のギルマスとは……」

「面識は無いぞ?……厄介事を

 持ってこない事を祈るが」

と、フューレンでウィル救出を依頼された

事を想いだし、そう呟く。

 

しばらくすると、奥から覇気を纏った

老人が現れた。名は『バルス・ラプタ』

と言うらしい。雫が隣で『ラピュ○』と

呟いたのは無視しておく。

 

話を聞くと、どうやら単純にイルワの話

を聞いていた事や、巷でシン様と呼ばれて

いる私のことを一目見ておきたかった

だけ、だと言う。

どうやら面倒事はなさそうだ。

と、思った矢先。

 

「バルス殿、彼等を紹介してくれないか?」

そう言ってどこからか金髪の、如何にも

キザったらしい男が近づいてくる。ご丁寧

に後ろには4人も美女を侍らせている。

聞くところによると、金ランクの冒険者

でアベル、と言う名前らしい。閃光の二つ

名を持っているようだが……。

ただのスケコマシか。

 

何やら、私達を紹介しろ、とかバルス

に言ってるが、興味が向いているのは

ティオと雫だけだ。

 

そして更にバルスが、私が金のランク

の冒険者だと言った物だから周囲の

喧噪が酷くなる一方だ。

「ふ~ん、君が『金』ねぇ。かなり若いみたい

 だけど、一体どんな手を使ったんだい?

 まともな方法じゃないだろ?」

そう言って、嗤うアベル。すると……。

 

『ビュッ!』

次の瞬間、後ろに居たティオが玄武を抜き、

アベルの首筋僅か数ミリの所で刃を

止めていた。

 

誰もがそれに対応出来ずに戸惑っていると、

次の瞬間ティオから圧倒的な殺気が

溢れ出した。

 

「口を慎めよ下郎。我がマスターを貴様

 如き、金のランク程度で収まっている

 小さな男と一緒にするな。

 マスターは金より上のランクが無い

 からそこに留まっているだけの事。

 貴様程度と一緒にするな……!」

そう言って、ギュッと柄を握りしめる

ティオ。

 

「主への侮辱は家臣への侮辱も同じ。

 我が偉大なるマスターへの侮辱は、

 この忠臣、ティオ・クラルスが

 許さん」

 

そう言って、殺気を四方へ飛ばすティオ。

それだけで大半の冒険者とアベルが

連れていた女共が目を剥いて気絶し、

アベルも大量の冷や汗を流している。

 

ギルド職員とバルスもどうするべきか、

と戸惑っている。

「ティオ、もう良い。わざわざ

 ここで問題を起こす必要も無い。

 その程度の『小物』、放っておけ」

「はっ。仰せのままに」

 

そう言うと、ティオは玄武をキンッ

と音を立てながら鞘に戻す。

そして、私の元に戻ろうと踵を帰して

歩き出した時。

 

「このっ!」

私に小物呼ばわりされて怒ったのか、

アベルが私目がけて、手にしていた

剣を抜いて刺突を放った。

 

だが、遅い。

『パシッ』

「なっ!?」

私はいとも容易く左手で剣を掴んで止める。

いくらアベルが力を込めようが、引く事

も押し込む事も出来ない。その実情に、

周囲は再び、別の意味で戦慄した。

「は、離せ化け物!」

……良いだろう。もう少し実力の程を

教えてやる。

 

「ふんっ!」

右手から衝撃波を放ち、アベルを

吹き飛ばす。

『がはっ!?』

アベルはギルドの壁に叩き付けられると

吐血し、床に倒れた。

 

「……王都ギルドの金ランク。どの程度

 かと思えば、この程度か」

そう言って、私は左手に残っていた

剣に目を向ける。

 

「装備は申し分ない。悪く無い剣だ。

 ……だが、それだけだな」

そう言って、私は手にしていた剣を

アベルの傍に放り捨てる。

 

その後、私達が出入り口のドアに近づけ

ば、傍に居た冒険者たちがサッと周囲に

退いて道を空ける。さながらモーゼ

が海を割るかの如く、だ。

どうやら、王都の冒険者にも私の実力を

教える良い機会だったようだ。

 

「ちょっとやり過ぎじゃない?」

そんな帰り道、私に声を掛ける雫。

「そうですか?命は取っていません。

 向こうも剣を抜いたのです。

 殺されなかっただけ、むしろ

 感謝して欲しい物ですが」

「ハァ。ホント司は容赦無いわね。

 まぁ、今更だけど」

そう言って肩をすくめる雫。

「司は相変わらず、優しいんだか

 容赦無いんだか」

「優しい?私がですか?」

「えぇ。だってそうじゃない?香織

 から聞いたわよ。アンタ、旅を

 しながらシアちゃんの家族の人達

 とか、愛子先生に清水君に

 色々してあげたらしいじゃない。

 それに、何だかんだで王国や

 アンカジ、って国を救ったり

 してるみたいだし」

私が優しい、か。そう言って貰った

のはあまり無いな。しかし……。

「……それには全て、打算的な

 意味がありますが、それでも?」

そう、私の行動には理由がある。

 

アンカジ公国を救ったのも、王都で

戦ったのも、それらを味方に引き入れる

意味もあったのだ。決して褒められた

理由ではない。

 

しかし、雫から帰ってきた言葉は予想外

のものだった。

 

「そんなの関係無いんじゃないかしら?

 理由はどうあれ、司は大勢の人を

 救ってきた訳だし。例えそこに

 打算的な理由があったとしても、

 司が人助けをしてきたのは、事実

 でしょ?」

 

「ッ」

その言葉に、私は一瞬息を呑んだ。

私が、人助けを?

オリジナルとして、何千何万と言う

人を苦しめた、ゴジラである私が?

 

しかし、そこに気づくのが私自身

ではなく、雫とは……。

皮肉なものだな。

 

「雫は、私のことをよく見て

 考えているのですね」

「えっ!?そ、そりゃ、頼りに

 なる仲間ですから!」

私がそう言って笑みを浮かべると、

何故か雫は顔を赤くした。

『風邪だろうか?』と聞いて心配

して、額を触るが熱は無かった。

 

しかし、額に触っただけで彼女は

更に真っ赤になってしまった。

『いきなり触るのはどうかと

思うけど!?』と言って怒られた。

ただ単に心配しただけなのだが。

……解せぬ。

 

そんなやりとりをしていたもの

だから、私は後ろでティオが……。

 

「うぅむ、八重樫殿も脈有り、

 のようじゃな。後で姫に報告

 せねば」

 

と言うティオの呟くはよく聞こえ

なかったのだった。

 

 

その後、私は少しあちこちを見て回る。

現在、王国側の協議の結果、王都内部の

治安維持や内部への魔人族侵入を防ぐ

ために各地にガーディアン警邏隊の

詰め所を置くことになった。

 

分かりやすく言えば交番である。

 

その建設予定地として使えるような

場所が無いかあちこち視察も兼ねていた

のだが、やはり街中を歩けば私を

『シン様』と呼んで大勢の人々が慕う。

 

正直、その時々によっては(演技の)微笑み

を向けなければならないので疲れる。

更に偶々病院の前を通りかかると、ティオ

の提案で、病院の患者を(重傷・軽傷・不治

の病を問わず一瞬で)治したものだから、

シン様の名が更に広まってしまった。

更にその噂を聞きつけて、王都中の病院

から不治の病の患者や手足を失った者が

運び込まれてきて、それも治癒する羽目に

なった。

 

ちなみに……。

「聞け人々よ!主らを治したのは 

 我が主にして若き英傑!新生司様である!

 またの名を、シン!先日の戦いで

 妾達を率いて憎き魔人族を倒し、戦いの

 中で倒れた者達を助けた大いなるお方

 である!シン様を称えよ!」

「「「「「オォォォォォォッ!シン様万歳!」」」」」

「そうだ!偉大なるマスターを称えよ!

 その喝采が、マスターの加護を主等に

 もたらすのだ!」

「「「「「シン様万歳っ!シン様万歳っ!」」」」」

 

何か、ティオがめちゃくちゃ民衆を煽っていた。

……何だか新興宗教が出来そうな勢いである。

シン様と呼ばれている者としては下手に

止める事も出来ず、傍に居た雫に助力を

請おうとしたが、肝心の雫が目を合わせて

くれないのだ。解せぬ。

 

あとで王城に戻ってからティオに聞くと、

彼女は嬉々とした様子で……。

『聖教教会の信仰に打ち勝つのですから、

これ位はせねばなりますまい!』

と、笑みを浮かべながら語っていた。

 

そして更に、後日、王都では『シン教』

なる宗教流派が誕生し、アンカジ公国や

ウルの町、フューレンを中心に広がりを

見せて司が珍しく頭を抱える事態に

なるのだが、それはまだ先の話だった。

 

 

その後、私達は王城へと戻った。

そこで私は一人、訓練場でジョーカーの

慣熟訓練を見ていたハジメ達の元へと

向かった。そこでは先輩として香織や

シア、ユエがハジメと共に王国軍兵士や

騎士を相手に教えている。

 

で、訓練場にたどり着くと……。

 

「う、うぅっ!えぐっ、ぐすっ!」

「え、え~っと」

 

訓練場のど真ん中で王子である

ランデルが泣いていて、その前で

ハジメが呆然と立ち尽くしていた。

周囲でも兵士や騎士達が『どうした

もんか?』とオロオロしているし、

シアとユエがジト目で香織を見ている。

肝心の香織もどこか戸惑い気味だ。

 

「どう言う状況ですか?これは」

流石の私も理解が追いつかないので、

とりあえず当事者らしきハジメに

聞いてみた。

 

彼の話を総合すると、普通に訓練していた

所へいきなりランデル王子が現れ、

ハジメを見つけるなり、『お前が香織を

たぶらかしたのか~!』と怒りを露わ

にしながら殴りかかってきたと言う。

この時ハジメは、ジョーカーのメット

を取っていただけで、顔は露出していた

のだが、王子の身長ではハジメの顔を

殴ることが出来ず、ジョーカーの腹部

や腿の辺りを必死にパンチしていた

と言う。

しかしそこはジョーカー。斬撃や刺突、

果ては砲弾やら高威力の魔法に対する

防御を想定した装甲をパンチ程度で

抜けるわけもなく、ある程度殴った

所でランデル王子の手が真っ赤に

なって泣き出してしまったと言う。

 

これに困ったのは周囲の兵士や王子の

付き添いの重鎮たちだった。

ハジメ達は国を守った英雄であり、しかも

ハジメは一切ランデル王子に手を上げて

いない。つまり王子の自爆に終わった

だけなので、どうしたものかと

悩んでいたのだ。すると、泣き出した

ランデルを見て、手の治療をした

香織。その時王子は香織に、自分の

事をどう思っているのか聞いて、

『可愛い弟』という返事を貰って

更に泣き出したと言う。

 

それで何故更に泣くのか疑問に思って

いると、メルド団長が来て、ランデル王子

は香織に一目惚れしていたらしく、

しかし彼女には男として見られていない

現実に打ちのめされている、と言う事

らしい。

 

ふむ。ここで王族のランデル王子に、

我々G・フリートに悪感情を持たれても

後々何があるか分からない。もし仮に、

エリヒド王に何かあれば、王位継承権

があるのはランデル王子とリリアーナ

王女だ。それでランデル王子が王位を

継ぎ、今回の一件で私達に悪感情を

持っていて何かしらの事をされても

困る。まぁ、私情で国政は務まらないが、

念には念を、だ。

 

「大丈夫ですか?ランデル王子」

「う、うるさい。余に話しかけるな」

そう言って顔を背ける王子。

……まぁ、やれるだけやってみるか。

 

「ハァ。王子、これから私は独り言を

言います。聞く聞かないはどうぞ

ご自由に。……王子は香織に

一目惚れをした。しかし、現実は

非情。香織には好きな相手が

 既に居て、しかも王子は異性として

 見られては居なかった」

その言葉にズボンの裾をギュッと

掴む王子。

 

更に周囲で見ていた兵士や騎士たちが、

『お前なんで傷を抉るの!?』と

言わんばかりの表情だ。

しかし、王たるもの、その傷に

向き合う必要もある。

 

「王子、現実とは時に非情です。今の

 王子ならば、それが分かるはずだ。

 『こんなはずじゃなかった』。

 『こんなの望んだ結果じゃない』。

 人がそう思う時は、人生の中で

 決して少なくは無いでしょう。

 未来は、決して自らの思い描いた

 通りに進んでいく事はありません。

 必ずどこかでその想像図から

 外れる。……私の世界の偉人に、

 こんな言葉を残した人が居ます」

 

そう言って、私は王子の隣に立つ。

 

「『未来は予測するものではない。

 自ら造るものだ』。ある人は

 そう言いました。……未来

 なんてものは、不確定で曖昧で、

 何が起るか分からない」

「……お前は、何が言いたいのだ」

不意に聞こえるランデル王子の声。

どうやら興味を引けたようだ。

 

「王子、今の貴方は香織から異性として

 全く注目されていません」

そう言うと、再び俯く王子。

「……だからこそ、自分を変えるの

 です」

「え?」

しかし次いで聞こえた声に、王子は

私を見上げる。

 

「『なりたかった自分になるのに、

 遅すぎるなんて事はない』。私の

 世界の、とある作家の言葉です。

 王子、単刀直入に言いましょう。

 貴方は香織に振り向いて貰うために、

 変わる覚悟がありますか?」

「ッ!む、無論だっ!し、しかし香織

 には既にあの男が……」

そう言って、憎たらしげにハジメを

睨む王子。肝心のハジメはどうした

もんか、と言わんばかりの表情だ。

 

「王子、ならばこそ、王子はハジメ

 を超えるために修練をしなければ

 なりません」

「よ、余があの男を、超える?」

「えぇ。香織は別に、ハジメの顔立ちや

 財力などで惚れた訳ではありません。

 言うなれば、魂の輝きに惚れた、

 と申せばよろしいでしょうか」

「魂の、輝き」

「えぇ。誰かを思いやる心を持った

 優しい心の持ち主。それがハジメ

 です。そして、仮に、ですが

 王子が香織に振り向いて欲しいの

 であれば、ハジメは超えるべき壁

 です」

「あの男が、余の、壁」

 

ランデル王子は、私の言葉を

かみしめるように繰り返す。

「王子、世の中には諦めが肝心、と言う

 言葉もあります。香織へ抱いた初恋

 の思いを、叶わぬものと捨てるのも

 また自由。しかし、選択は常に

 オープン、自由なのです。

 王子は、どうしたいのですか?」

そう言って、私はランデル王子に

問いかける。

 

「諦めるもよし。香織に振り向いて

 貰うために、自らを変えるもよし。

 全て、王子の自由なのです」

 

そう言って、王子の様子を見ると、

しばし迷った様子だったが……。

 

不意に、キッとハジメを睨み付けると

彼の方に大股で進んでいき、その前に立つ

とビシッとハジメを指さした。

「よく聞け南雲ハジメ!余は貴様を

 香織の恋人に相応しいとは思わぬ!

 必ずや余は力を付け、香織を

 振り向かせてみせる!これは貴様と

 余の戦いじゃ!どちらが香織の男に

 相応しいか、男と男の戦いじゃ!」

そう言うと、王子はぽか~んとしていた

ハジメを置いて香織の方に歩みを進めた。

 

「香織、お主があの男を好きな事は、

 余も重々承知しておる。しかし余も

 また一人の男。惚れた女性に

 振り向いて欲しいのじゃ。だからこそ、

 余はこれから強くなり、そして

 いつか、香織に振り向いて貰える

 ような立派な男になることを、ここに誓う」

 

どこか決意を宿した表情で語るランデル

王子。しかし肝心の香織もハジメと

同じようにぽか~んとしている。

どうやら理解が追いついて居ないようだ。

 

やがて、言うべき事を言ったからなのか

王子が私の方へと戻ってきた。

「すまぬな、お主には、いや、シン殿

 には大変有意義なアドバイスを

 貰う事が出来た。感謝しておる」

「お褒めにあずかり、光栄です。

 ……しかし、ハジメは相当

 大きな壁ですよ?超える自信は

 おありですか?」

「自信の問題ではないぞシン殿。 

 必ずや超えてみせる!」

そう意気込むランデル王子。

 

「そうですか。では最後にもう一つ

だけ偉人の言葉を借りてアドバイスを。

『追い求める勇気があれば、すべての

夢は叶う』。あらゆる失敗を超えて、

夢の楽園を築き上げた男の言葉です」

「追い求める勇気、か。重ねて礼を

 言うぞシン殿。おかげで目が覚めた」

 

そう言うと、王子は私に右手を差し出し、

私も右手を出し彼と握手を交わした。

 

ちなみに、そのすぐ傍では、王子の

世話役を務めていたのだろうか、

老人や護衛の男達が、いい歳して

『殿下、立派になられましたなぁ』

とか言って男泣きしているのだった。

 

 

更にその後。夜。私達は一つの部屋に

集まってお茶をしていた。

「ハジメ、これはライバル出現ですよ?

 うかうかしていると、香織を

 王子に取られてしまいますよ?」

「アハハッ。こりゃ、僕ももっともっと

 頑張って自分を磨いていかないとね」

そう言って苦笑するハジメだったが、

その瞳の奥では負ける気などない、と

言わんばかりに闘志の炎が揺れていた。

 

一方で……。

「……私としては、王子を応援する。

 頑張って香織を射止めて欲しい。

 そしたら私がハジメの本妻になる」

「何を言ってるのかなユエ?私は

 ハジメくんの彼女だってず~~っと

 言ってるのに、まだ分かってない

 のかな?かな?」

すぐ傍ではユエと香織が相変わらずの

バトルモードに突入していた。

 

更に言えば……。

「こうなったら……!」

「ん。いつも通りベッドで勝負」

「そ、それなら私だって参加

 しますぅ!」

どうやら今日はお楽しみのようだ。

 

「え!?この流れでそうなるの!?」

戸惑うハジメだったが、無慈悲にも

3人に別の部屋へ引きずられていくのだった。

 

その時、私に近づいてくるルフェアとティオ。

2人とも、どこか頬を上気させた様子。

 

「どうやら、夜のお楽しみはハジメ達

 だけでは無いようですね」

 

そう言って、私も彼女達との夜を

楽しむのだった。

 

      第62話 END

 




次回とかも、多分王都での話になります。

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