ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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前半はリリィ王女にスポットを当て、後半は清水と愛子先生にスポットを
当てました。殆どオリジナルの展開です。


第63話 それぞれの覚悟

~~~前回までのあらすじ~~~

魔人族による王都襲撃を防いだ司たちは、

元に戻ったエリヒド王と会談し同盟を

結ぶことに成功。更に司は、その驚異的

な力を使った事から、民衆に『シン様』

と呼ばれ崇められ始めていた。その

事実に内心辟易しながらも、司は

ランデル王子にアドバイスを送ったり、

王都発展のために策を弄するのだった。

 

 

ギルドを訪れた翌日。

一つの部屋に私、雫、ティオ、リリィ

の4人が集まっていた。

リリィから話があってのことだった。

ちなみに蒼司やハジメは兵士達の慣熟訓練

に付き合っていた。

 

「ハジメさんが考えてくれた『お話』に

ついてですが、国民の大半の耳には

入っている模様です。また、シン様

と呼ばれている新生様が情報の

出所、と言う事も手伝ってかなり

人々の間に広まっています」

「そうですか。それはなによりです」

私は小さく頷き紅茶で喉を潤す。

 

今回の一件には、エヒトが絡んでいた。

しかし人族の間で聖教教会、更に言えば

エヒトへの信仰心は早々覆る物ではない。

そのためエヒトが狂っている神だと

公表する事は出来なかった。

 

そこで、ハジメが色々と考えてくれたのだ。

 

まず、今回の襲撃は魔人族と、架空の

悪神が手を組んで行われた物だとした。

敵は悪神の力を借りてエリヒド王や周囲

の人間を洗脳し、以前ウルの町で

魔人族を撃退した私達G・フリートを

王都から遠ざけるために異端者認定を

下した。教皇イシュタル達はその悪神の

配下と戦って殉職。配下は彼等の救援に

向かった司とティオによって、神山の一部が

崩壊する程の激闘の末に倒された。

しかし、その際に配下は悪神の存在を

仄めかした。

 

と言うのが、ハジメが考えた神山崩壊、

イシュタルら死亡の筋書きだ。

 

なお、イシュタル達が蘇生出来ない理由

として、跡形も無く消されていたから、

と言う事にしておいた。まぁ、流石の

私も、無から人を蘇生する事は出来ない

のだ。……もっとも蘇らせてやる気

など無いが。あと、念のために蒼司を

送り込んで、僅かに残っていた遺体の

一部を焼き払っておいた。

 

更に、悪神がエヒトの名を騙って

エリヒド王を洗脳した事にしておく

ことで、エヒトのふりをしている

悪神が居る、と言う事にしておく。

つまり、善と悪、それぞれのエヒトを

創り上げたと言う訳だ。

まぁ、悪のエヒトは実在するが……。

 

ハジメ曰く、『もしエヒトが人の前に現れた

としても、きっと多くの人は善のエヒトと

悪のエヒトの内、自分が信じたい方を

信じるよ』。との事だった。

 

「ともあれ、民衆が私達の言葉を信じて

 くれるのは新生様たちの存在が

 大きいのでしょう。新生様も

 そうですが、南雲さんやユエさん、

 ティオさんやシアさんたちは

 魔物の排除にとても尽力して

 いただいたようで。前線の防壁で

 南雲さんの戦いぶりを見ていた

 兵士達は南雲さんを慕い始めている

 ようですよ。鋼鉄のガーディアン、

 なんて二つ名を考え出したとか」

「そうですか。……彼が周囲から

 慕われるのは、友人としても

 喜ばしい物です」

 

思えば、ハジメはウルの町などで

防衛側の指揮官を任せていたな。

あとでハジメが王都郊外に築いた

防御陣地を見てきたが、中々に

理にかなった物だった。

 

前衛に幾重も機関銃やハードガーディアン

による防御陣地を作り上げ弾幕を展開。

中衛には対地、対空攻撃の両方がこなせる

重機関銃陣地を設置。

後衛には連射力で劣る高射砲やロングレッグ

の砲撃陣地を形成。

 

前衛は数の勝負。後衛は威力の勝負。

中衛はその二つの中間。

実に多様な敵に対処出来る布陣だ。

 

陸の魔物には機関銃陣地、重機関銃

陣地、ロングレッグによる攻撃を行い、

空からの攻撃には高射砲や重機関銃

陣地が対応する。

 

これらを即座に考え、更に錬成の力で

塹壕を作って展開したハジメの才能は

凄まじい物だ。

ハジメには防御の才能があるのだろうか?

 

そんな事を考えていると……。

 

「ありがとうございます、新生様。

 弟のランデルがお世話になったようで。

 あの子の世話係から聞きました。

 新生様に多くのアドバイスを貰って

 成長したと聞いております」

「そうですか。しかし、大した事は

 していませんよ。私の世界の偉人

 の言葉を伝えただけに過ぎません。

 それを聞き、新しい自分になろう

 としたのは王子自身の意思です。

 ……そして、王族である以上、

 王子にはやがて想像も出来ない

 ような責任が、現実がのし掛かる

 事もあります。その時、王子の

 心が折れてしまわぬよう、

 少し後押しをしただけです」

 

私の言葉に、リリィ王女は少しばかり

俯く。

「そう、ですよね。あの子も、私も。

 若いとは言え王家の者。いざと言う時は、

ありますよね」

そう呟く彼女は、どこか不安そうだ。

 

すると、隣に座っていたティオが彼女

に気づかれないように私を指先で

つついた。

彼女の方に目を向ければ、何やら、

『何かアドバイスをしてあげて』と

言わんばかりの表情だ。

 

……ここでも私の信者を増やせと

言うのか、忠臣ティオよ。

……まぁ良い。やるだけやるか。

 

「リリィ王女。僭越ながら、王女にも

 一つだけ、私達の世界の、ある男の

 言葉をアドバイスとして送らせて

 いただきます?」

「え?それは、一体?」

 

「その男はこう言いました。

 『信じるものの為に戦える。それが

 王だ。王の資格だ』、と」

「……信じる物のために、戦う」

ランデル王子のように、リリィ王女も

また、かみしめるように私の言葉を

呟く。

 

そこへ。

「時にマスター。マスターは何を

 信じて戦っておられるのじゃ?」

ティオが私に問いかけてくる。

……成程、彼女のために自分の信じる物

を教えろ、と言う事か。

 

「私が信じている物。それは仲間だ」

「仲間?」

私の言葉に、一瞬首をかしげる王女。

 

「えぇ。……最初はハジメと香織だけ

 でした。2人は、私にとってかけがえの

ない親友です。2人の為ならば、私は

例え怪物と蔑まれようと、恐れられよう

と、私は戦える。彼等のためならば、

 他人にどんな風に思われようと、

 どうでも良かった。……やがて

 この世界に来て、ユエやシア、

 ティオ、ミュウ、レミア。たくさん

 の人に出会った。そして、ルフェア

 と言う大切な人を見つけた。そして、

 雫や幸利たちとも、絆を深める事が

 出来た。彼等を守る為ならば、私は

何でも出来る気がするのです」

 

そうだ。ハジメ、香織、ユエ、シア、

ティオ、ミュウ、レミアと言う、

かけがえのない人たちと出会った。

 

雫や幸利、優花たち、愛子先生。

この世界での戦いを通して、彼等と

絆を深めた。

 

かつて、ゴジラとして人に憎まれ、人を

殺した私が、気がつけば大勢の『仲間』

に囲まれ、幸せなひとときを過ごす事が

出来た。

 

だからこそ、失いたくは無い。

彼等との大切で、楽しい時間を。

もっと彼等と歩んでいきたい。

 

だからこそ……。

 

「私は、仲間を守る為ならば、世界を

 敵に回してだって戦いましょう。

 必要ならば、神を超えた力を

 手に入れて見せましょう。世界すら

破壊する力を振るって見せましょう。

 新たな世界すら創造して見せましょう。

 この命、使い潰すつもりであらん限り

 の力を振るって見せましょう」

 

そうだ。これが、私の信じる物、『仲間』だ。

 

「そう思うだけの覚悟が、私にはある。

 仲間こそが、私の信じる物です」

 

もし、エヒトが私の仲間に手を出すと

言うのなら、私は全てを解き放つ。

 

そして、超えて見せよう。

 

『神』という概念さえ凌駕する、

『生命』の枠組みすら壊して、

『頂き』へと上り詰めて見せよう。

 

『神を超越した王』として、奴を滅ぼす。

 

それが、私の覚悟だ。

 

 

私は、静かに紅茶に口を付ける。

そのすぐ傍では雫がどこか顔を赤くし、

ティオもまた、顔を赤くしながら笑みを

浮かべている。

 

そして、リリィ王女は……。

「信じる物の為に戦える事が、

 王の資格、ですか。確かに、

 その通りかもしれません」

そう言って小さく笑みを浮かべた。

 

「ありがとうございます、新生様。

 私も、自分の信じる物、この国の

 平和のために、自分に出来る事で

 戦おうと思います。……新生様の

 お言葉で、決心が付きました」

「決心、と言うと?」

 

「実は、今回の件で、父は各国の

 連帯を図るべきだと考えている

 のです。そこで、私はヘルシャー

 帝国の皇太子と、結婚します」

「ッ!?本当なのリリィ!?」

彼女の言葉に、雫は戸惑った様子だ。

 

「……政略結婚、ですか?」

「はい。二国の王族同士が結ばれる

 事で、民衆に結束が固い事を印象づける

 ためです。ですが、お相手の

 バイアス皇太子は粗暴で、相当女癖の

悪い方だとお聞きしています」

「ッ!?そんな最低なクズの所に、

 どうしてリリィがお嫁に行かなきゃ

 いけないの!?」

「落ち着かれよ、八重樫殿」

 

声を荒らげ立ち上がる雫を、ティオが宥める。

「国をまとめると言うのはそう簡単では

ないのじゃ。無論納得は出来まいて。

しかし、納得の有無にかかわらず、

そうしなければならない時もまた、

あるのじゃよ」

「ッ!でもっ!」

どこか悔しそうな雫。ティオは優しく

宥めて座らせる。

 

「その怒りは、至極真っ当な物じゃ。

 女である以上、好いた男と結ばれたい

 と思う方が普通なのじゃ。

 しかし、王の血筋である王女が、

 その普通を望んだとしても、叶う

 とは限らんのじゃ」

そう呟くティオも、どこか怒りを覚えて

いる様子だ。

 

そして、リリィ王女を注視すれば、彼女

が震えているのが分かる。

「……その身を粉にしてでも、祖国の

 ために自分に出来る事をする。

 それが、貴方の意思なのですね?

 リリィ王女」

「はい」

彼女は出来るだけ気丈に振る舞い、

頷く。

 

だが、彼女はまだ香織達とさして

変わらない子供。王族だから、などと

言う理由では躊躇いを、恐怖を

捨てることは出来ないだろう。

 

……アドバイスついでだ。彼女に

贈り物をしておこう。

 

そう考えた私は、掌を光らせ、そこ

に銀色の腕輪を造り出した。

そして、それをテーブルの向かいに座る

リリィ王女へと差し出す。

 

「リリィ王女。これを」

「これ、は?」

戸惑いながらもそれを受け取る王女。

「それは言わばお守りです。アドバイスを

 通して、貴方の決心の背中を押した

 のは私です。だからこそ、その責任を

 果たします。……もし、自分でどう

 しようも出来ない状況で、助けが 

 欲しいときは、その腕輪に願って

 下さい」

「…………」

王女は、しばし無言で腕輪を見つめて

いたが、やがて徐にそれを左手首に

装着した。

 

「分かりました。救国の英雄である

 新生様の言葉、信じます」

「……ありがとうございます」

そう言って私は小さく頭を下げるの

だった。

 

その後、リリィ王女と打ち合わせを

していると、東、樹海に向かう際に

途中まで送っていって欲しいとの事だ。

結婚の事も含めて、帝国側と色々話し合い

があるとの事だ。ちょうど東に向かうので

OKを出した。

 

ちなみに同行するのは、リリィ王女付きの

女性近衛騎士が数名だ。メルド団長達は

王都に残り、ジョーカーのパイロットの

育成に力を入れつつ、再び魔人族が襲来

してくるかもしれない為、いつでも対処

出来るように王都に残るとの事だった。

 

そして、会議を終えてティオと共に

王城の廊下を歩いていたとき、窓の外、

王城の外へ向かう、西洋剣を抱えた

愛子先生の姿を見つけ、私はティオを

先に帰すと先生の後を追うのだった。

 

 

夕方、王城の西北方向にある山脈の岸壁

を利用して作られた巨大な石碑の前に、

人影が、愛子先生が佇んでいた。

 

「ごめんなさい」

ポツリと呟いた愛子は、震える手で、

西洋剣を石碑の前に置いた。

 

この石碑は、王国のために戦い死んだ

者達の名を刻むためにある。公には敵と

戦って死んだ事になっているイシュタル

らの名前が刻まれる予定だ。

本来なら、メルド達もここに名を

刻まれる運命だったが、司の活躍もあり

今も元気に動き回っている。

 

そのため、今回この石碑に刻まれる名前

の数は少ない。

 

だが、そんな数少ない名前の中に、更に

名前を刻む事さえ許されない物がいた。

檜山だ。

 

ここは王国の為に死んだ者の名を刻む

ための場所であった事や、檜山が自分の

私利私欲のために大勢の兵士達を一度は

殺した事から、司によって復活した

兵士達の全員が、ここに檜山の名前を

刻む事を断固として反対したのだ。

 

檜山の遺体は、すでに司たちの手によって

首をくっつけ整えられた後、棺に収めて

保管されている。

 

愛子は一度、檜山の蘇生を司に願い出た。

 

だが……。

 

「拒否します」

「えっ……」 

司からの拒絶の言葉に戸惑う愛子。

 

「私に檜山を蘇生する意思はありません。

 先生には申し訳ありませんが、

 こいつはどのみち、死んでいた

 でしょう。こいつを生き返らせる

 気は、断固としてありません」

「そ、そんなっ!?」

戸惑い、震える足で立っている事

が出来ずに、その場に崩れ落ちる

愛子。

 

「おい新生っ!確かに檜山はお前や

 香織達に酷い事はしたが、先生が

 望んでいるんだぞ!それくらい……!」

そう言って愛子先生を気遣う天之河。

だが……。

「バカか貴様。あの男がどれだけの

 人を殺したと思って居る。ましてや

 被害者は生き返っているのだぞ?

 彼等の恨みは相当な物だ。仮に

 檜山を蘇生したとしても、奴に

 待っているのは、精々3つの未来だ」

 

そう言って、私は指を立てる。

「1。被害者によるリンチにより死亡。

 2。この世界の法で裁かれ死刑。

 3。元の世界に連れ帰り、裁判で

 死刑か無期懲役。このどれか

 だろう。奴は既に百人単位で

 人を殺したのだ。……刑法で

 裁かれたとしても、死刑か

 無期懲役は免れない。

 つまり、ここで死のうが

 生きていようが、結果は同じ。

 それだけの事だ。せめてもの

 情けだ。遺体くらいは元の世界へ

 連れ帰ってやろう。だが死者蘇生

 はしない。無意味な事だからだ」

 

そう言うと、司は愛子に背を向けて

歩き出した。

 

「その男の罪は、もはや大きすぎる。

 自らを、殺すほどに」

 

そう言って、司はその場を後にした。

 

 

愛子は、あの時のやりとりを思い出し

ながら、静かに涙を流し、何度も

「ごめんなさい」と謝る。

 

それは、傍にいながら檜山を止められ

なかった自分を責める言葉であり、

同時に檜山を元の世界に生きたまま

連れ帰ってやる事が出来なかった

謝罪の言葉であった。

 

と、その時。

『ザッ』

後ろで足音が聞こえた。愛子は肩を

震わせ振り返った。そこに

立っていたのは……。

 

「し、清水君」

手に、一輪の花を持った清水だった。

「…………」

 

彼は、無言のまま石碑の前で屈むと、手に

していた花を置き、手を合わせた。

そして1分ほど、黙って手を合わせた

清水は静かに立ち上がった。

 

「俺は檜山のこと、他人をいじめる

 ロクデナシだと思ってたよ。今でも

 そのそう思ってる。……けどまぁ、

 仮にもクラスメイトなんだ。

 一人くらい、花を供える奴が居ても

 良いかなって思ってさ」

「清水君」

 

立ち上がり、清水の横顔を見つめる愛子。

と、その時。

 

「ごめん、先生。……檜山が死んだのは、

 俺のせいだ」

「え?」

愛子は、清水の言っている言葉の意味が

分からなかった。

「ど、どうして、清水君が?」

「……俺は、あの時中村を止められる立場に

 いた。白崎が来る前、俺はアイツに降伏

 するようにいった。もちろん、中村は

 それを一蹴して襲いかかってきたよ。

 ……でもその時、俺の手には銃があった。

 ジョーカーも纏ってたんだ!モードG

 だってあった!」

次第に声を荒らげる清水。

 

「あの状況で!俺一人だって中村を

 倒して!捕まえる事だって出来たっ!

 それだけの装備が俺にはあったんだっ!

 でもっ、俺は、あの時、引き金を引く

 のを躊躇った。撃てなかったっ」

そう言うと、清水はその場に膝を突いた。

 

「あの時、俺は考えた。先生が、皆で

 元の世界に帰りたいって思ってる。 

 だから、殺すのは良くないって。

 でも、その結果檜山が死んだっ!

 俺がっ!俺の躊躇いが、檜山を

 殺したんだっ!あの時、俺のノルン

 に入ってたのは、非致死性の

 テーザー弾だったっ!そうそう死ぬ

 ような弾じゃなかったっ!なのに、

撃てなかったんだよ!俺はっ!俺に、

 俺に覚悟があればっ!」

 

それは彼の独白だった。

大切な恩師の思いを、自らの躊躇いの

言い訳にしてしまった罪悪感。

自らの躊躇いが、彼女願いを途絶え

させてしまった事への罪悪感。

 

それが、今の清水の心にのし掛かっていた。

 

「ッ!清水君ッ!」

愛子は、彼の様子を見て、耐えきれなく

なって涙を流しながら彼を抱きしめた。

 

「ごめんっ、なさいっ。俺に、俺に、

 もっと、覚悟があったら、こんな

 事には、ならなかったのにっ。

 俺が、弱いせいで……」

「違いますっ!清水君は、間違って

 なんかいませんっ!八重樫さん達

 から聞きました。清水君が、みんなを

 守ろうとしてくれた事。みんなに

 嘘を付いてまで、私を、皆を、

 守ろうとしてくれた事をっ!

 先生は知っています!」

涙を流す清水を、愛子は抱きしめて

語る。

 

「先生の方こそ、ごめんなさい。 

 清水君が、大変なときに、皆が

 大変なときに、傍に居る事が

 出来なくて、ごめんなさいっ!」

そして愛子もまた、涙を流しながら謝る。

 

「先、生」

涙を流ながらも、清水は泣く愛子を

見つめていた。

 

彼は、思いがけない言葉にしばし

呆然となる。

 

罵られるものだと思って居たからだ。

自らの弱さが、躊躇いが、檜山の死を

招き、愛子の願いを打ち砕いたも同然

だと、彼はそう思って居たからだ。

 

だが、愛子はそうは思って等いない。

むしろ、逆にルフェアに後方で守られ、

あの時彼女は無意識の内で『きっと

大丈夫』と楽観視してしまったのだ。

彼等の強さを知っていたからこそだが、

それが悪い意味で発揮されてしまった。

 

司やハジメたちがいるからこそ、大丈夫。と。

 

だがそれは裏切られ、結果突き付けられた

のは、檜山の死という現実だった。

だからこそ彼女は罪悪感に苛まれていた。

 

清水は、そんな愛子の事を見つめていた。

 

やがて、愛子が落ち着きを取り戻すのに

数分を要した。

 

目元を赤くしながらも、清水が供えた

花に視線を落とす愛子。

 

「……王都に向かう途中で、新生君が

 言っていました。躊躇いを捨てろと。

 躊躇っていたら守れる命も守れないって」

「……そうか。そうだよな」

清水は、愛子を通して司の言葉を聞き、

頷く。

 

その言葉は、今の彼に最も響く言葉だった。

 

やがて、清水は徐に立ち上がる。

 

「足りなかったんだ。まだ、覚悟が。

 俺には足りなかった」

夕焼けに染まる空を見上げながら

ぽつりと呟く清水。

「清水君」

そんな彼と向き合うように立つ愛子。

 

「先生、もう一度、俺は先生の願いを

 聞きたい。……もうこれ以上、生徒

 たちから一人も犠牲者は出したくない。

 これで、良いんだよな?」

 

「えぇ。……多くの人は、檜山君や

 中村さんを極悪人と罵るでしょう。

 それでも、私は先生として、もう

 誰にも、死んで欲しくはありません」

 

「中村が、どんなに極悪な人間でもか?」

 

「それでも、きっと人は変わる事が

 出来ると信じています。かつて、

 清水君が私の言葉を聞き、変わる

 事が出来たのだから」

 

「……そうか」

 

どこか顔を赤くしながら頷く清水。

 

そして……。

 

「なら、俺が中村を捕まえる。

 殺しはしない。先生は、前に言って

たよな。生徒を支えたいって。

それは、中村でも同じなのか?」

 

「はい。……例え誰も彼もが中村さんを

 悪魔と糾弾しても、中村さんが私の

 事を疎ましく思って居たとしても。

 それでも私は、彼女がより良い決断を

 出来るお手伝いをしてあげたいんです」

 

「そうか。それが、愛子先生の

 変わらない願いなんだな?」

 

「はい」

 

愛子は、真っ直ぐに清水を見つめながら頷く。

 

「……分かった。俺も、躊躇いを捨てるよ」

 

「え?」

 

「俺はもう二度と躊躇ったりしない。

 必要なら、俺は引き金を引く。

 でもそれは殺す為じゃない。

 中村を捕まえて、先生の前に俺が

 引きずり出す。……俺に出来るのは

 それだけだ。あとは先生に任せる

 事しか出来ないけど……」

 

「いいえ。十分です。そこから先は、

 先生の出番です。……ありがとう

 ございます、清水君」

 

そう言って、愛子は微笑みを浮かべる。

彼女の笑みに、清水もまた笑みを浮かべる。

 

「良かった。笑ってくれたな。やっぱ、

 先生は泣き顔より笑った顔の方が

 似合ってますよ」

笑みを浮かべながらそう呟く清水。

 

だったのだが……。

 

「え?…………ふぇっ!?ししし、

 清水君何言ってるんですか!?

 そ、そんな笑顔が似合ってるとか!?」

途端に顔を真っ赤にして戸惑う愛子。

 

「あっ。……ッ~~~~!?!?!?」

更に清水も自分が何言ったのか思い出して

一気に赤面してしまった。

 

「あ、いやそのっ!大した意味じゃない

 んですけど!ただつい本音がポロッと!」

 

「そ、それってつまり、清水君は私の

 事をよく見て、って、ッ~~~~!?!?」

 

「い、いやそういうわけじゃ、なくも

 なくも、無いんのか?あ、あれ?

 あ~も~!何かややこしくなって

 来た~~!」

 

真っ赤になったまま頭を抱えて悶える

清水と、茹で蛸みたいになった愛子。

 

結局、二人が落ち着くのには、愛子が

泣き止んだ時よりも時間が掛かるの

だった。

 

ちなみにこの時、近くの岩場の影に

司が居た。愛子の様子を見に来ていた

のだが、彼は『心配なさそうだな』と

言わんばかりに小さく笑みを浮かべると、

二人より先にその場を後にするのだった。

 

 

その後、夕食時。

王城の大食堂に集まって皆で食事を

していた。そこには当然、ハジメ達

と言ったG・フリートのメンバーや

雫、光輝や鈴たちが集まって、席に座り

いくつかのグループを作って食事を

していた。

 

そこに、エリヒド王たちとの会議を

終えた司が戻ってきた。

 

それを確認すると、清水は決意の

表情で立ち上がり、司の前に立った。

彼の表情から、何かを感じたのか司も

立ち止まる。

 

「悪いな司。飯時なのに」

「構わない。その表情、何か聞きたい

 事があるのだろ?」

「あぁ」

 

二人の真剣な表情のやりとりに、

生徒達は戸惑いそちらに目を向ける。

 

「単刀直入に聞く。司、もしお前

 の前に中村恵里が敵として

 立ち塞がった場合、お前は奴を

 容赦無く殺すつもりだろ?」

清水の口から出た中村の名前に、生徒

たちは一瞬体を震わせた。

 

「もちろんだ」

そして、司は清水の予測通り首を縦

に振った。

「私には奴に手加減をする理由が無い。

 故に、敵となったら殺すつもりだ」

躊躇う事無く、殺すと宣言した司に

光輝が立ち上がりそうになるが、それ

を傍に居た雫が押しとどめた。

 

「雫っ」

「ダメよ光輝。今は、あの二人の

 問題なんだから」

そう言って、彼女は光輝を止めた。

 

「そうか。……だが、悪いな司。

 お前に中村は殺させない」

 

そして、清水の呟きに周囲の者達が

ざわめく。

「……何故だ?」

そう司が問いかけた時。

 

「それは……」

「それは私が、そう願ったからです」

清水の言葉を遮り、愛子が立ち上がった。

そして、そのまま清水の隣に並び立つ。

 

「もう、これ以上生徒達に命を落として

 欲しくは無い。清水君は、そんな私の

 我が儘を聞いてくれたんです」

 

「俺は、お前や先生、園部さん達に助け

 られたからここに居る。お前のおかげ

 で今俺が生きている事は十分承知

 してる。……それでも俺は、恩人の、

 愛子先生の力になりたいんだ」

そう語る清水の目には確かな覚悟と

決意が浮かんで居るのは、向かい合う

司だからこそ分かった。

 

「それが、幸利の決意なんだな?」

 

「あぁ。俺がアイツをぶん殴って

 でも止めて、捕まえて、愛子先生

 の前に引きずり出す」

 

「そうですか」

と、司は小さく頷くだけだ。

そして……。

 

「それが貴方の決意ならば、私は

 一切口出ししません。自分の

 好きなように動けば良いでしょう。

 ですが一つだけ。もし仮に、中村

 恵里が、幸利に止められない程に

 危険な存在になった時は、私の手で

 彼女を殺します。良いですね?」

 

「あぁ。構わない」

 

清水は頷く。躊躇う事無く。

 

「清水君」

「先生、心配するな、って偉そうな事は

 言えないけど、今度こそ、俺は

 戦うよ。もう、引き金を引くことを

 迷わない」

 

そう言って、清水は自らの右手を、

決意の籠もった瞳で見つめながら

握りこぶしを作るのだった。

 

「俺は、俺が信じた人のために、

 愛子先生のために戦う」

 

ここに、新たな英雄が生まれた。

 

躊躇いを捨て、自らが信じる物の

ために戦おうとする男が誕生した。

 

新たな英雄の目覚めを、司達は

前にしていたのだった。

 

     第63話 END

 




愛子先生が神山を吹っ飛ばしてない関係で色々オリジナルに
してみました。あと自分に出来る範囲で清水をかっこ良くして
みたつもりです。それと清水×愛子のカップリングがもう
確定したみたいなものですね、これ。

感想や評価、お待ちしています。

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