ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回から帝国編です。


第64話 懐かしき樹海へ

~~~前回のあらすじ~~~

王城で生活をしていた司たち。そんな中で

司は王女であるリリアーナにアドバイスを

送る。彼の言葉を受け、リリィは王族

としての覚悟から帝国皇太子との結婚を

決意。一方、檜山の死で落ち込んでいた

愛子。そんな中で檜山の死は自分のせい

だと後悔する清水と、互いの胸の内を

吐露する事で、清水は改めて覚悟を決める

のだった。

 

 

清水から決意を聞いた翌日の朝。

 

朝の食堂で食事を終えた時、私達のこれ

からを天之河や雫、他のクラスメイト達

に伝える事にした。

ここに居るのは私達G・フリートの

メンバーと雫たち。更にはリリアーナ

王女とその待女だけだ。

 

ちなみにだが、恵里の策略で命を落とした

給仕の者たちもすでに蘇生済みだ。

雫付きの待女、ニアも復活済み。彼女が

生き返った時は、雫は涙を流して

喜んでいた。

 

さて、話を戻すとして……。

 

「明日、我々はリリアーナ王女と、彼女の

 護衛を乗せて東へ向かいます。

 王女たちは途中で降りてもらい、

 そのまま帝国の首都、帝都へ。我々は

ハルツィナ樹海にあるG・フリート旗下

の武装組織、Gフォースの基地である

 ハルツィナ・ベースへ向かいます。

 目的は、ハルツィナ樹海にある大迷宮

 の攻略です。事態が急変しなければ、

 大迷宮攻略後にこちらへ戻ってくる

 つもりです」

「それが今後の新生君たちの大まかな

 行動理由なんですね?」

「えぇ」

私は愛子先生の言葉に頷く。

 

「現在、王都にはガーディアン、

 ハードガーディアンからなる

 王都守備隊を5個師団、合計

50万体が展開中です。

 加えてジョーカーを合計400機

 生産。すでに納入済みです。

 現在、王国軍騎士と兵士がこれを

 装備し、メルド騎士団長指導の下

 完熟訓練を実施しています。

 これが、我々G・フリートが

 用意した王都の防衛戦力です」

「そ、それが俺たちを守ってくれる

 のか?」

そう心配そうな顔で語っているのは

居残り組の一人だ。

 

「えぇ。また、王都守備隊の配備に

 伴って、王国側に条件として

 あなた方の衣食住と身の安全の

 保証を約束してもらっています。

 なので、今まで通り王城の中で

 大人しくしていてください」

そう語る私に、居残り組の彼らは

安堵したかのような表情を浮かべた。

 

すると……。

「新生、お前は大迷宮に行って、そこで

 神代魔法を手にするんだな?」

「えぇ。それが何か?」

「だったら俺も行く。俺は勇者だ。

 この世界を、人々を守るためには力が

必要だ。だから、俺は神代魔法を

手に入れる」

そう言って立ち上がる光輝。

「そのために、私達に付いてくる、と?」

「あぁ。それに、お前みたいに他人を

 簡単に殺せる男にリリィは任せ

 られない」

 

 

そう語る光輝に、リリィは内心驚きと

戸惑いを覚えた。

何故なら、光輝が司を、まるで

目の敵にしているかのような、刺々しい

物言いをしているからだ。

 

すると……。

「司、私からもお願いするわ」

更に雫が立ち上がった。

「私も、元の世界に変えるために

 強くなりたい。だから神代魔法を

 手にしたい。迷惑はかけないわ。

 お願い」

しかし彼女だけではなかった。

 

「鈴もお願い!私は、もっと強くなって

 もう一度恵里と話がしたいの!

 だからお願い!鈴も連れて行って!」

「よしっ!じゃあ俺も行くぜ!敵が

 神様なら、今よりもっと強くなる

 しかねぇからな!悪いが新生、俺も

 連れてってくれ!」

更に鈴、龍太郎が続いて立ち上がる。

 

 

立ち上がった4人を見た後、ハジメ達が

私の方を向いている。私は静かに

飲んでいたお茶のカップをソーサーに置く。

 

「……良かろう。各自の自主性を尊重し

 今回は付いてくる事を許す。

 ただし、神代魔法の眠る大迷宮は、

 今のお前たちの、チート級とされる

 スペックでも苦戦は免れないだろう。

 また、神代魔法を手にするには

 ただ付いてくるだけでなく、

 資格ありと認められるほどの活躍も

 必要になる。また、手にしたから

 と言って、適正の関係で使える

 範囲も異なる。手に出来る可能性も

 高くはないし、仮に手に出来たと

 しても、実戦で使い物になるほど

 強力な力が使えるかどうかも

 分からない。……それでも、

 良いんだな?行った所で徒労に終わる

 可能性もあるのだぞ?」

 

確かめるにように呟く司。4人は……。

「上等だ!やってやるぜ!」

パァンと拳と手を打ち付けあう龍太郎。

「それでも行くわ。そこに、強くなる

 可能性があるのなら」

そう言って笑みを浮かべる雫。

「鈴だって!強くなりたいんだ!

 だからその小さい可能性に賭けるよ!」

やる気十分と言わんばかりに鼻息荒く

ガッツポーズを決める鈴。

 

「やってやるさ、俺は、勇者なんだから……!」

そして、勇者と言う単語に取りつかれた

かのように呟く光輝。

 

そして司は……。

「分かった。ならば、好きにすればいい」

そう言って4人の同行を許可したのだった。

 

 

「それで、幸利はどうする?」

そう言って、私は幸利に声をかけた。

「今のお前の目的は、中村恵里の捕縛

 のようだが?」

「いや、俺はやめておくよ。あの

 フリードって男が空間魔法を使える

 以上、あいつは神出鬼没だ。

 それに王都での戦いであいつは

 手持ちのゾンビ兵を全部失ってる。

 そこから考えると、まず中村がやろう

 とするのは、目的達成のための

 戦力補充だと思う。だから今すぐ動く

 とは思えない。だからこそ、俺は

 オルクス大迷宮に行って修行して

 来ようと思う」

「一人で、ですか?」

「あぁ。幸い、王都ならお前の守備隊

 もいるし、園部さんたちもいるから

 先生の護衛は大丈夫かなって思って」

「成程。分かりました。それがあなたの

 決意ならば、私は何も言いません」

 

これで、全員のやるべきことが決まった。

 

 

そんな中で、愛子はどこか決心したような

表情を浮かべていたが、それに気づいた

のは司一人だけであった。

 

数時間後。昼。

「新生君。少し良いですか?」

昼食を食べ終えた所で、先生が声を

かけてきた。

そして、彼女の目を見て私は理解した。

 

彼女の目には、決意の炎が浮かんでいた。

昨日の清水と同じように。

 

周りには同じく食事を終えたハジメ達

や今も食事をしている生徒たちがいる。

ちょうど良いだろう。

 

「はい。何でしょう?」

「……新生君に、お願いがあります。

 私の、私専用の、ジョーカーを作って

 くれませんか?」

その言葉に、生徒たちが騒めく。

 

「……理由を聞いても構いませんか?

 ジョーカーは兵器です。それを持つ

 と言う事は、人殺しになる可能性を

 持つという事。先生は戦う事に、

 暴力に慣れる事に反対していますよね?」

「はい。その思いは今も変わりません。

 ……でも、王都に向かう時、貴方は

 言いました。躊躇う事で、守れる命

 さえ守れない時があるって。

 だから、私も決めました。

 今でも戦う事に慣れるのはよくない

 って思ってます。それでも、かつて

 貴方は私に言ってくれました。

 『意思だけでは、声だけでは、言葉

 だけでは、何も守れない』と」

 

「えぇ。力が無ければ、奪われる未来

 しかない。失う未来しかありません」

「だからこそ、私も、もう失いたくない。

 生徒に、誰一人としてこれ以上

 死んでほしくないんです。

 そして……」

そう言って、先生は幸利に目を向ける。

 

「昨日の清水君を見ていて、私も

 決心しました。私は自分の願いの

 ために戦う、と。もう、生徒を

 誰一人として死なせないために、

 その手に武器を取る覚悟を、

 やっと決める事が出来ました。

 でも私一人の力は、高が知れている

 と言う物です。だからこそ、

 お願いしているんです」

「ジョーカー、すなわち、切り札を。

 と言う訳ですね」

「はいっ!」

 

先生は決意のこもった表情で頷く。

そこへ。

「ちょっと待ってください先生!

 何もそこまでして!

 先生が戦う必要なんてないじゃ

 無いですか!先生は非戦闘職

 なんですよ!?」

天之河が立ち上がり、私と先生の間

に入る。

 

「そう言うのは力を持った人が

 やるべきです!」

そう語る天之河。恐らく、こいつの中

では『力を持つ者が戦うべき』。

或いは『力がある者は誰かを守るべき』

とでも考えているのだろう。

だが、そのロジックは逆だな。

 

覚悟が無ければ力を得てもどうなるか。

そう言う者は、得てして力に溺れる。

 

力があるから覚悟が生まれるのではない。

覚悟があるから力が生まれるのだ。

奴は、その事を理解していないように

思える。

 

「いいえ、天之河君。それは違います。

 力があるからやるのではありません。

 私がそうしたいから、するんです」

そう言って愛子先生はそんな天之河の言葉を

否定し、奴を優しく退かすと再び私と

向き合う。

 

「私はたぶん、人を殺せません。

 引き金を引く事は出来ないかも

 しれません」

「はい」

 

「こんな事を言っていても、誰かを

 傷つける事が出来ないかも

 しれません。大事な所で悩むかも

 しれません」

「はい」

 

「それでも、私には生徒達を守るための

 力が必要なんです」

 

そう語る愛子先生の目には、揺らぎなど

見られなかった。

ならば……。

 

私は、宝物庫の中に、ずっとしまっていた

ブレスレット状態のジョーカーを

取り出し、彼女に差し出した。

 

「これを。以前、渡すことのできなかった

 愛子先生専用の、完全カスタムメイドの、

 たった一機のジョーカーです。コード

 ネームは、『ジョーカー・フェア』」

「ジョーカー、フェア?」

 

「はい。フェアとは、ギリシャ語で

 『女神』を意味する言葉です。

 そのフェアは、何よりも『守護』に

 重きを置いて設計した機体です」

「守護に?」

「えぇ。フェアには、一切の内蔵武装を

 廃して、強固なシールドを張るため

 専用の大型シールドジェネレーター

 を搭載。これに大半のシステムを割いて

 います。結果、最も守護、防御に優れた

 ジョーカーとして仕上がっています。

 さらに言えば、フェアの能力として

 機体内部のエネルギーを相手に注入

 することでその細胞を活性化させ、

 怪我を修復する事が出来る治癒機能

 なども搭載しています。

 フェアに武装と呼べる類のものは

 殆どありません。腕力や脚力はかなり

 強化されていますが、それも自衛と、

 緊急時、障害物の排除を目的とした

 物です。先ほども申した通り、

 フェアは守護に特化したジョーカー

 なのです」

「……ジョーカー・フェア。

 『女神の切り札』、ですか」

 

「えぇ。……それがあれば、きっと

 先生の生徒達を守りたいという

 願いをかなえる事が出来るはずです。

 今の貴方ならば、如何なる敵が来ても、

 その力で守りたい者を守れるはずです。

 このジョーカー・フェアは、そのために

 鉄壁の防御力を持たせていますから」

「……分かりました。ありがとう

 ございます、新生君。大切に、

 使わせていただきます」

「はい」

 

 

こうして、また一人、切り札を

持つものが現れたのだった。

 

そして、翌日。

私達は王都郊外の草原へと向かい、

そこからオートパイロットで現れた

2機のオスプレイMKⅡに分乗し、

上空のアルゴに乗ると私達は東へと

向かった。

 

そして、草原では愛子や清水、護衛隊の

面々、メルドがそれを見送っていた。

愛子は護衛隊の面々と共に王都に残り、

永山を筆頭するもう一つのパーティは

王都守護のためにメルド達と共に

残った。

ちなみに、彼らも武器は司によって

最新の状態にアップデートされていた。

 

 

やがて……。

「それじゃあ、俺も行くよ」

そう言って清水は近くに置いてあった

革製のリュックを背中に背負う。

彼もまた、修行のためにこれから

ホルアドに向かうのだ。

「本当にいいのかよ清水。

 一人で行くなんて」

そう言って心配する玉井。

「大丈夫なの?」

菅原も心配そうだ。

 

「心配してくれるのは嬉しいよ。

 でも、俺は強くならなきゃいけない

 んだ。それに、隣に誰かがいると、

 いざって時頼っちまいそうになると

 思うんだ。……だから、だからこそ

 俺は一人でオルクス大迷宮に潜るよ」

そう語る彼の目には、強くなるんだ、

と言う決意が浮かんでいた。

 

その時、愛子が清水の前に歩み出て、

優しく彼の両手を、自分の両手で

包み込んだ。

 

「必ず、戻ってきてくださいね?」

「あぁ、必ず戻ってくるよ先生。

 俺はまだ、先生に助けてもらった恩を、

 返しきれてないからさ」

清水は顔を赤くしながらも頷く。

 

そして、静かに手を放す愛子。

「それじゃあ……。行ってきます」

そう言うと、清水もまた、己自身を

鍛えるために自分の道を進んでいく

のであった。

 

そして愛子は、そんな彼の姿が

見えなくなるまで、その背を見つめ

続けるのだった。

 

 

それぞれの道を歩き出した彼ら。

 

 

鳥さえも飛ぶことができない高硬度を、

黒き鋼鉄の鳥、アルゴが飛行している。

雫はそんな、アルゴにあてがわれた

一室の、モニター越しに見える外の

雲海を椅子に座ったままぼ~っと

見つめていた。

 

そこへ。

「ほい、カフェオレお待ち」

不意に眼前に差し出されたマグカップ

に、雫はその持ち主、つまり蒼司へと

目を向けた。

「あぁ、ありがとう蒼司」

雫はマグカップを受け取りそれに口を

付けると息をついた。

 

蒼司は近くの椅子に腰かけ、自分の

マグカップに口を付けていたが。

「どうした雫?ぼ~っとしてた

 みたいだが?」

「え?あ、あぁ、ちょっとね。こんなの

 創り出しちゃう司は相変わらず

 すごいな~って思って」

「あぁ、成程な。まぁ、あいつは色々

 万能だからな。何なら気分転換に

 アルゴの中を散歩でもしてきたら

 どうだ?途中で姫さんたちを下ろす

 事を考えると、あと1時間は

 アルゴの中だからな」

「そうね。そうするわ。あっ、所で

 光輝たち知らない?」

「勇者君は戻ってくるときすれ違った

 ぞ?坂上は食堂で飯食ってた。

 谷口はユエに魔法教えてもらってたな」

その言葉を聞きながら雫はカフェオレを

飲み干すと、立ち上がった。

 

「分かったわ。じゃあちょっと散歩に

 でも行ってくるわ。カフェオレ

 ありがと」

そう言うと、雫は部屋を出て歩き出した。

 

そして彼女は未来的な通路を歩いていく。

「ほんと、凄すぎてもう呆れるくらい

 しか出来ないわね」

こんなものを作り出してしまう司に

雫は苦笑を浮かべながらあちこちを

歩く。

 

やがて彼女は食堂などを経由して後部

にある格納庫へとやってきた。

そこでは輸送機であるオスプレイMKⅡ

やヴァルチャーが格納されていた。

 

改めて司の保持する軍事力に雫が呆れ

ながら苦笑していた時。

 

「何でだよ……」

小さく光輝の声が聞こえた。

「光輝?」

雫は声のする方に向かった。

 

そして、光輝を見つけた。

彼は一機のヴァルチャーを見つめながら

納得できない、と言わんばかりの

表情を浮かべていた。

「何で、こんなすごい物が作れるのに、

あいつは。俺が、勇者なのに……」

どこか憎たらし気に、吐き捨てるように

呟く光輝。

 

「光輝」

「ッ、雫」

彼女が声をかけると、光輝は驚いた

様子だった。

「光輝、あんた何か不満でもあるの?」

「い、いや、俺は別に……」

「嘘ね。俺が勇者なのに、っての聞こえてた

 わよ」

そう言うと、光輝の隣に並ぶ雫。

 

「何か不満でもあるなら、言いなさいよ。

 ため込むと体に悪いわよ?」

「……。あぁ、分かったよ」

そう言うと、光輝はヴァルチャーを

見上げながら静かに語りだした。

 

「新生はこんなにも凄い物が作れる。

 ジョーカーとか、武器だってそうだ。

 そこはすごいと思う。でも、そんな

 力があるのに、何であいつは簡単

 に人を殺せるんだ。あいつなら、

 殺さずに捕らえる事だって

 朝飯前のはずだ。なのに、何で

 簡単に人が殺せるんだよ」

 

そう語る光輝。今の彼にとって、

司は自分に出来ない事を平然と

やってのける存在だ。

なのに、彼は簡単に人を殺す。

力を持っていながら、ヒーローに

なるのに十分な力を持っていながら、

司は人を、敵だと言って殺している。

 

それが光輝には納得できなかったのだ。

 

「もしかしたら、彼は自分から進んで

 汚れ役を引き受けてるのかも

 しれないわね」

「え?」

光輝は、雫の言葉に戸惑った。

「香織から聞いたの。彼は香織や南雲君

 をG・フリートの良心、良き心だって

 言ったそうよ。そして、二人は何か

 あると、司の協力と賛成を得て、

 人助けをしているって。ウルの町も、

 アンカジ公国とか、シアさんも

 そんな南雲君に助けられたって。

 ……でも、みんな優しいだけじゃ

 どうにもできない時が、きっと

 何度もあったのかもしれない。

 そんな時、彼は進んで汚れ役を

 引き受けるそうよ」

「汚れ役。……だからって、人を殺して

 良い訳には……」

「えぇ。ならない。人殺しは、例え理由が

 あったとしても犯罪であり悪。

 ……でもね光輝、戦わなきゃ守れない

 のよ。この世界じゃ。だからきっと、

 彼は割り切ってるのよ。戦わなきゃ

 守れないって」

「だから、あいつはあんな風に簡単に

 人が殺せるっていうのか?」

「今のはもちろん私の憶測よ。彼から

 聞いたわけじゃないわ。

 光輝、私は貴方の正義感が強い所は

 悪くないとは思う。でもね、自分の

 常識や考え方が他人と同じだと

 思うのはダメよ。みんなそれぞれの

 意思や規範がある。それだけは

 覚えておいて」

「雫」

 

光輝は、彼女の言葉にしばし沈黙する。

「あぁ、分かったよ」

やがて彼は静かに頷いた。

 

と、その時。

『ピーピーピー』

不意に周辺のスピーカーから音が聞こえて

来た。

『こちらブリッジ、現在前方の

 地上付近で戦闘の光を確認。

 これより減速し降下します』

艦内放送で司の声が聞こえてきた。

 

「戦闘?」

「行ってみましょう」

「あ、あぁ」

放送を聞いていた二人は急ぎ足で

ブリッジへと向かった。

 

2人がたどり着く頃には、放送を聞いて

いたのかリリアーナや護衛の近衛騎士、

龍太郎に鈴、そしてハジメ達が

既に集まっていた。皆、ブリッジ

中央の大型テーブルモニターに

視線を落としていた。

 

「南雲君!何があったの!」

「あっ、二人とも」

2人に気づくハジメ。

「戦闘の光を確認したとか言ってたが、

 何があったんだ?」

「対地レーダーが反応を捉えた

 んだよ。それで確認してみたん

 だけど……。戦闘と言うか、

 追撃戦と言うか」

「何?どういう事なんだ?」

ハジメの言葉に首をかしげる光輝。

 

「まぁ主らの目で見てみよ」

そう言ってテーブルの前を開ける

ティオ。二人は首をかしげながら

モニターに視線を落とすと……。

 

 

そこに映っていたのは、狭い谷間を

走る数台の大型馬車と、それを追いかける

無数のホバーバイク、更に谷の壁を

ウォールランで疾走する、或いは

スラスターで飛翔する無数の

ジョーカーだった。

 

「これって、ジョーカー!?何で

 あんなに!?」

「あれは司さんが私の部族、ハウリア族

 に与えた物ですぅ」

戸惑う雫にシアが説明する。

「え!?し、シアさんの部族!?」

「はい。前にGフォースの話をしました

 よね?そのハルツィナ・ベースって

 私の部族であるハウリア族が中心に

 なって作られてるんです。あの

 ジョーカーはそんな兎人族の私達

 用にカスタマイズされたものですぅ」

 

と、そんな話をしている内に、ホバー

バイクの集団が馬車に追いつくと、

ホルスターから抜いたノルンで

騎手を次々と射殺。運転席に乗り込んで

馬を停止させていった。

 

その手際の良さは、さながら西部劇の

ギャングであった。

兎人族は弱小部族、と言う常識が今

リリアーナや雫たちの中で砕け散った。

 

「ふむ。どうやらしっかり任務を果たしている

 ようですね」

そんな中でも平然としている司とハジメ達。

いや、ハジメ達は若干お疲れ気味だ。

 

「え、え~っと、新生様?これは一体?」

「彼らはGフォースの兵士たちですよ。

 彼らには、樹海に侵入する帝国兵を

 攻撃し、樹海とそこに住む亜人族の

 国、フェアベルゲンを守るように指示

 を出していたんです。ただ、なぜ

 その彼らがここに」

と、説明しつつも首をかしげる司。

 

その時、ハジメがモニターテーブルを

操作して馬車の部分を拡大。

すると、馬車には何人もの亜人族の

奴隷が乗せられていた。

 

「もしかして、この人たちの救出を?」

そう首をかしげるハジメ。

「どうやらそのようですね。

 リリィ王女。少し寄り道しますが、

 構いませんか?」

「は、はい。分かりました」

 

その後、私達はアルゴからオスプレイ

MkⅡに搭乗して降下。リリィ王女たちは

アルゴに残って貰った。途中で部隊の

IFFを確認すると、どうやら指揮官は

パルだったようだ。

彼らもこちらを確認したのか、彼らの

方をズームすると何人ものハウリア兵

がオスプレイに向かって手を振っていた。

 

谷の間に着陸するオスプレイから、

私とハジメ、香織、ルフェア、ユエ、シア

の6人と天之河たち4人が下りる。ティオ

と蒼司はアルゴの艦内でレーダーを警戒

している。

ちなみにティオの方は、扱い方を少し前に

私が教えておいたのだ。

 

さて、話を戻してオスプレイから降りると、

数人のハウリア兵たちが駆け寄ってきて、

私の前でメットを脱いでそれを脇に

抱えると、見事な敬礼をした。

 

「「「お久しぶりであります!元帥!」」」

「うむ。皆も元気そうで何よりだ。上から

 見ていたが、良い手際だ」

「「「はっ!恐縮でありますっ!元帥!」」」

良く通る声に、天之河たちは戸惑い気味だ。

 

「……ねぇシズシズ。兎人族ってさ、

 亜人族の中でもその、弱い方、だよね?」

「うん、そのはずよ?」

「でもねシズシズ。今の鈴にはね、戦争

映画に出てきそうな、めっちゃ逞しい

兵士さんに見えるんだよ?鈴、目が

おかしいのかな?」

「大丈夫よ鈴。可笑しくないわ。

 ただ、私達の常識がぶち壊された

 だけよ」

「そっか~。常識って、壊れやすいんだね」

と、後ろで二人がそんな話をしていた。

まぁ無視するが……。

 

と、そこへ。

「お久しぶりです元帥。ウル防衛戦

 以来ですね」

この部隊の隊長であるパルが私の

前にやってきて敬礼をした。

「お前こそ、相変わらず良い手際だ

 パル。また腕を上げたな」

「はい。元帥より頂いた近衛大隊

 隊長の地位に恥じぬよう、

 日々精進しています」

「そうか。それより、なぜこんな 

 所にまで?何があった?」

「はいっ、それについてなのですが……」

と、彼が報告しようとしたとき、彼の

メットから通信が届いたピピピッ

と言う電子音が響いた。

一瞬出ようか迷うパル。

 

「構わない。時間はある。出ると良い」

「はっ、ありがとうございます。失礼

 します」

そう言ってパルは私から少し離れた所で

メットを被り直して通信相手と何かを

話している。

 

と、そこに救出された亜人たちの内の

一人。森人族の少女が私の傍に歩み

よってきた。

「ッ、アルテナ様」

そして彼女を見るなりルフェアが一瞬

息を呑んだ。

 

「ルフェア、知っているのですか?」

「うん。森人族の族長、アルフレリック様

 の孫娘のお姫様だよ」

族長の孫娘だと?そんな者まで奴隷として

捕えられているとは。どうやら些か、

きな臭い雰囲気になってきたな。

 

そう考えていると森人族の少女が私達の

前に立った。

「あの、失礼ですがあなた様は新生

 司殿で間違いありませんか?」

「えぇ。私はG・フリート総指揮官、

 新生司です。貴方は?」

「申し遅れました。私はフェアベルゲン

 長老衆の一人、アルフレリックの孫娘、

 『アルテナ・ハイピスト』と申します。

 以後お見知りおきを」

「彼の孫娘、ですか」

 

しかし、族長の孫娘までもが帝国兵に

奴隷として捕えられている、と言う事は

まさかフェアベルゲンが落ちたのか?

こうなると、詳しい話をパル達から聞く

必要があるが……。

 

と、その時私の視線が、彼女の手足に

巻かれた枷に向いた。見ると手首や

足首の部分が赤く、如何にも歩きにく

そうだ。消すか。

 

『パチンッ』

そう考え指を鳴らすと、亜人族の者達を

束縛していた枷が一瞬で、全て消滅

してしまった。

「え?あ、あれっ?」

すると、目の前でアルテナが自分の手や足

を見つめている。

 

「枷が、消えて……」

「私の力で枷を消滅させておきました。

 邪魔だろうと思ったので」

「え?ゆ、指を鳴らしただけで?」

戸惑うアルテナ。

 

「それくらい、元帥ならば造作も無いぜ?」

そこに戻ってくるパル。

「パル、通信は終わったのか?」

「はい。現在帝都付近に展開している部隊

 からの物でした。元々、あの輸送隊も

 帝都から別の場所に向かうのを察知して

 襲撃したものです」

「成程。だからこんな所にお前達が。

 それより、彼等はどうする?」

そう言って私は未だに枷が突然消えた

事に驚き、私を警戒している亜人族達

に目を向けた。

「馬車は無事なのでこれから樹海へ

 戻るつもりですが、何か」

「ふむ。馬車では時間が掛かるだろう。

 彼等はアルゴに乗せて輸送しよう。

 お前達はどうする?」

「では、我々もお供させて頂きます。

 前線では帝都侵攻と亜人族奪還の

 ためにカム総司令の下、部隊を

 展開中でしたが、元帥の来訪を

 伝えると一旦下がる、との事でした」

「分かった」

 

頷くと、私はすぐに上空のアルゴへと

通信を繋ぐ。

「こちら司。ティオ、聞こえているか?」

『こちらアルゴ。問題無いのじゃマスター』

無線機から彼女の声が聞こえてくる。

どうやら扱いにも慣れた様子だ。

「現在多くの亜人族を保護している。

 彼等をアルゴに乗せてフェアベルゲン

 まで空輸するが、オスプレイが

 足りない。蒼司に言って残っている

 オスプレイを下ろしてくれ。

 ピストン輸送で彼等をアルゴへ

 乗せる。あぁ、但し1機は残して

 おいてくれ。リリアーナ王女達には

 悪いが、彼女達とはここでお別れだ」

『ではオスプレイで帝都方面へ?』

「あぁ。それと念のためティオは

 彼女達に同行してくれ。

 帝都に入るまではだ。それが

 確認出来次第、戻ってくれ」

『はい。マスターの仰せのままに』

 

そう言って、しばらくすると上空の

アルゴから1機のオスプレイMKⅡが

離陸。アルゴから離れて行った。

その後、その1機とは別にオスプレイ

とガーディアン隊によって次々と

亜人族の者達がアルゴにピストン

輸送されていく。

 

私達は先にアルゴに上がり、ブリッジで

輸送状況を確認していた。ハジメ達は

雫や天之河たちと一緒に亜人族の者達への

手当や水、食料の配布を行っていて

ブリッジには私しかいない。

そこへ。

 

『マスター』

「ん?ティオか?どうした?」

リリィ王女の護衛を任せている

ティオから通信が届いた。

『リリアーナ王女から、マスター

 に話がしたいとの事で』

「私に?分かった。繋いでくれ」

『御意』

そう言うと、通信機の向こうで

しばし間をおいて……。

 

『新生様?聞こえますか?』

「えぇ。聞こえますよリリィ王女。

 何か?」

『いえ。大した事ではないのですが、

 その、ありがとうございます。

 以前アドバイスをいただいた事も

 そうですが、こうして送って

 いただいて』

「いえ。どうかお気になさらず。

 それよりリリィ王女。どうか、ご武運を。

 いざと言う時は、あの腕輪に意識を

 集中し、思って下さい。すぐに

 私達が救出に向かいます」

『……本当、ですか?』

「えぇ。……もしかすると、帝国と王国

 の関係を完全に破壊する事になる

 かもしれませんが、その時は我々

 G・フリートが王国に可能な限りの

 援助をしましょう」

『……一つ、お聞きしても構いませんか?』

「なんでしょう?」

 

『どうして、新生様はそこまでして

 王国を助けて下さるのですか?

 やはり、例の戦いの時に、邪魔に

 なる者を減らすために、ですか?』

彼女の問いかけに、私はしばし黙って

しまう。

 

「……正直に申すならば、そう言った

 打算的な理由が無いと言えば嘘に

 なります」

そう呟くと、通信機の向こうでリリィ

王女が息を呑む声が聞こえた。

 

そうだ。私がずっと、人を助けてきた

のはハジメ達がそれを望んだ事と、

そこに打算的な理由があったからだ。

 

だが、それでも……

「ですが、ある人が私にこう言いました。

 他者を切り捨てる生き方は、とても

 寂しい物だと。その言葉を聞いた時、

 私は今更だと思いました。私の

体は、とっくに血で真っ黒に汚れて

いたのです。ですが、 彼女は言い

ました。誰かに優しくなるのに、

遅すぎるなんて事は無いと」

『新生様』

「そして、もう1人の友人は私に

 こうも言いました。例え、そこに

 打算的な理由があるのだとしても、

 私が人を助けている事は事実だと。

 ……この言葉を聞いたときは、

 驚きました」

そう言って、私は小さく笑みを浮かべる。

 

「それに、ルフェアも以前私を優しい

 と言ってくれました。そう思うと、

 私は皆との旅を通じて、少しは

 変われたのではと思います。

 少しは、誰かを思いやれる程には」

『そうですか。……ありがとうございます

 新生様』

どこか嬉しそうなリリィ王女の声が聞こえる。

 

『あなた様に頂いたこの腕輪。もしもの時

 は使わせて頂きます』

「はい。その時は、必ず助けに来ます」

『はいっ』

 

その返事を最後に、通信は終了し彼女は

通信機をティオに返した。

そんな中で、私はふと自分の右手を

見つめ、笑みを浮かべた。

 

「少しは、前より優しくなった

 のか?なぁ、オリジナルよ」

返ってくる事のない問いかけを、

笑みを浮かべながら投げかけるの

だった。

 

その後、亜人族全てを収容した

アルゴは改めてハルツィナ・ベース

へと移動を開始した。

とは言え、距離は大して離れては

いないので10分程度で樹海に

たどり着いた。

 

そして、上空から樹海を見下ろすと、

樹海の一角に開けた場所を発見した。

その場所に注目している天之河たち。

 

『こちら、ハルツィナコントール。

 お待ちしておりました、元帥』

その時、無線で通信が届いた。

「うむ。待たせたな。着陸のための

 誘導を頼むぞ?」

『了解ですっ。アルゴは1番

 滑走路へどうぞ』

「了解した」

管制官の指示に従いながら、私はアルゴ

を操縦し、無事に1番滑走路へと着陸する

事に成功した。

 

しかし、アルゴが離発着出来る程に巨大

な基地に成長していたとは。私としても

予想外であった。

「カムめ。随分デカくしたものだ」

そう、私は小さく笑みを浮かべるのだった。

 

その後、後部ハッチを開いてそこから

亜人族の者達を順次下ろしていく。

そしてその作業が終わり、私もアルゴ

から降りたとき。

 

『『『『『『『『『『ザッ!!!!』』』』』』』』』』

 

突如として私の前に何十、何百と言う

兎人族の者達が、男女問わず並び、

見事な敬礼をする。

 

これには近くに居た天之河たちも驚き

ハジメ達は苦笑している。

『『『『『『『『『『お待ちしておりました!元帥!』』』』』』』』』

そして全員が異口同音の、叫びに

等しい挨拶を口にする。

 

「出迎えご苦労、楽にしてくれ」

『『『『『『『『『『はっ!』』』』』』』』』』

私の言葉に全員が休めの体勢になる。

 

「なぁ、俺達がやってきたのって樹海

 だよな?」

「えぇ。その『はず』よ龍太郎」

「なら教えてくれ雫。これのどこが

 樹海なんだ?」

どこか遠い目でやりとりをする雫と

坂上は無視する。

谷口に至っては、口から白い煙を

出しながら、「ガチムチ、ウサ耳兵士」

などと呟いているので、更に無視する。

 

その時、彼らの中から1人の男が一歩

前に出てきた。

「父様っ!」

私の傍に居たシアが叫ぶ。

 

その男こと、Gフォース総司令に

してこのハルツィナ・ベースの

司令官であるカム・ハウリアだった。

 

「お待ちしておりました!元帥!」

「どうやら立派にやっている

 ようだなカム」

「はっ!元帥に頂いた我が家たる基地!

 日々拡張を続けている所存で

 あります!」

「アルゴを離発着させる事も出来るように

 しているとはな。正直助かったよ」

そう言うと、私はカムの方に歩み寄り、

その肩をポンッと優しく叩いた。

 

「立派な基地だ。よくここまで

 作り上げてくれた」

「ッ!お、お褒めにあずかり、

 恐縮でありますっ!」

私が褒めると、カムが静かに男泣きを

始める。

 

「そして、皆もだ」

そう言って、カムの後ろに並ぶ、

数百の兵士達を見回す。

 

「私の下した命令を守りながらの基地の

 増築は大変な作業であっただろう。

 が、だからこそ諸君等が如何に優秀

 であるかが分かると言う物だ」

その言葉に、皆が静かに震え出す。

どうやら泣くのを我慢しているようだ。

 

「よくこのハルツィナ・ベースを

 これほどまでに大きくしてくれた。

 諸君等のような、優秀な部下を、

 いや、仲間を迎える事が出来た事

 を私は誇りに思う」

 

そこに私がトドメの言葉を放つと、彼等

の大半が男泣きや嗚咽を漏らす。

 

「皆っ!泣くなっ!元帥の、ぐっ!

 御前であるぞぉ!」

そう言うカムも、涙が止まらない様子だ。

「良い。……私の言葉一つでここまで

 感激してくれると言うのは、指揮官

 として嬉しい物だ。その嬉し涙を

 見る事が出来たのは、私の誇りだ。

 ……皆の私を思う心、確かに

 見させて貰った。ありがとう」

 

そう言って、私が敬礼をすると……。

「総員っ!!元帥にっ!敬礼っ!!!」

 

『『『『『『『『『はっ!!!!』』』』』』』』』』

 

カムの言葉に、ハウリアの兵士達が

その目に涙を浮かべながら答礼を返して

くれた。

やれやれ、私も慕われた物だ。まぁ、

悪い気はしないが……。

そんな事を考えながら私は笑みを浮かべるの

だった。

 

 

ちなみに……。

 

「ファンタジー成分はどこ行ったの

 かしら?」

「……あのウサ耳?」

と言う雫と谷口の会話は聞こえないふりを

しておいた。

 

     第64話 END

 




今回から帝国編になりますが、司たちは帝都でやらかす予定です。
何をと聞かれると、一言で答えるなら『原作以上の悲劇(帝国にとって)』と
お考え下さい。

感想や評価、お待ちしています。

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