ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回はフェアベルゲンでのお話です。
あと、私情なのですが、私は今日が入社式で、これから社会人としての生活が始まるので、これまでより投稿スピードが落ちるかもしれません。
なにとぞよろしくお願いします。


第65話 再びのフェアベルゲン

~~~前回のあらすじ~~~

大迷宮攻略の為にハルツィナ樹海へと

向かうハジメと司たち。更にそこに

同行する天之河たちとリリアーナ。

だが、樹海に向かう道中で彼等は

帝国兵の部隊を追撃するGフォース

の面々を発見し合流。囚われていた

亜人族を保護しGフォースの基地

であるハルツィナ・ベースへと

連れ帰るのだった。

 

 

その後、話をしているとリリィ王女を

送り届けたティオのオスプレイが

戻ってきた。

これで全員揃った事もあり、私達は

カムの案内の元に豪華な応接室

らしき場所に通された。

 

そこに集まったのは、G・フリートの

メンバーである私達7人と天之河たち

4人と蒼司。基地司令であるカムと

近衛大隊長のパル。更に亜人族代表

という事でアルテナに集まって貰った。

 

そして、そこでカム達の口から

ここ最近、樹海で起った出来事を

聞いていた。

 

まず一番最初に話題に上がったのが、

魔人族による樹海襲撃だった。

理由は言わずもがな、大迷宮だろう。

フリードという、魔人族の大迷宮

攻略者が居る以上、奴らが大迷宮を

狙ってきたとしても何の不思議もない。

当初、樹海の霧の特性から有利に戦える

と思って居たフェアベルゲンの戦士達

だったが、霧の影響を受けない魔物の

群れによって苦戦を強いられたと言う。

 

だが、そこにカムの率いるGフォースが

参戦。無論、理由は樹海防衛の為だ。

ジョーカー、ガーディアン、ハード

ガーディアンの陸上部隊やホバーバイク、

ヴァルチャーなどの航空戦力。

ロングレッグや基地内部に作られた

榴弾砲陣地による砲撃部隊など、保有

する戦力を可能な限り投入しこれを

撃滅。主戦場になった樹海と外との

境界線付近は、今も魔人族と魔物の死体

が山になっているらしい。

 

だが、フェアベルゲンにとって不味い

事態になったのはそれだけではない。

どうやら帝国も魔人族の襲撃を受けて

疲弊しているらしく、労働力として

亜人族を捕えようとしていたのだ。

しかし最近はGフォースが樹海周辺の

警備をしはじめた事もあり、近づけば

まず警告が飛んでくる。そしてそれを

無視して近づこう物ならば、銃弾の

雨が飛んできて皆殺しにされるのが

オチだった。

 

そこで帝国はGフォース&フェアベルゲン

の戦士達が、魔人族と戦っている間に奴隷

の亜人族を使ってフェアベルゲンへ案内

させ奇襲を仕掛けた。

殆どの戦士が出払っている現状で

これを防ぐ術の無いフェアベルゲンへ

侵入した帝国兵は無数の亜人族を捕えて

樹海を離脱した。

つまりは漁夫の利を得た、と言う訳だ。

 

魔人族との戦線に集中していたGフォース

と戦士達は、魔人族を退けた直後に、

何とか彼等の元にたどり着いた

フェアベルゲンの使者からこの話を

聞き、動ける者だけでフェアベルゲンに

戻ったが、時既に遅く大勢の亜人族が

攫われた後だった。

 

それに対し動いたのがGフォースだった。

カム曰く、別の兎人族の部族も襲われて

おり、彼等が愛玩奴隷として陵辱される

のは目に見えていた事から、ついでに

他の亜人族も助ける為に動き出した、

との事だ。

 

彼等は補給などを済ませるとすぐさま

機動性に優れるホバーバイクや

ヴァルチャーなどで帝国兵部隊を追撃。

しかし奪還できた亜人族の数は少なく、

大半は帝都へと入った後だった。

流石に、いきなり帝都へと攻め入る

のにはカムも迷ったらしい。

 

その後、Gフォースは帝都郊外に

部隊を展開。私が来るのがあと1日

遅かったら、カムの決断で帝都を攻撃。

亜人族奴隷を全て解放し、爆装した

揚陸艇部隊で帝都を爆撃し更地にしようと

していた、との事だ。

 

「そうか。帝都に攻撃を」

「はい。……不味かったでしょうか?

 こちらの判断で動いたのは」

「いや。確かにGフォースはG・

 フリートの下部組織だ。だがG

 フォースをどう動かすかはカムに

 一任している。だから気にするな」

「はっ、ありがとうございます」

そう言って頭を下げるカム。

 

「いやっ!よくはないだろ!」

しかしその時、座っていた天之河が

声を荒らげて立ち上がった。

「何だ?何か言いたいことでもあるのか?」

「何って、聞いてたのか今の話を!?

 帝都を爆撃なんてしたら、一般市民

 だって巻き込まれるだろ!?

 それだけじゃない!お年寄りや、

 子供まで!彼等まで殺すのか!?」

ふむ。確かにそうだな。

「カム、お前は爆撃の段階で避難勧告

 を出す予定であったのか?」

「いえ。特にそのような事は。

 逃げる奴は戦闘開始直後に

 逃げるだろうと思っておりました

 ので。残っているのなら女子供

 老人だろうがまとめて吹き飛ばす

 つもりでした」

 

あくまでも普通に語るカムに、天之河

や雫、坂上、谷口だけでなくハジメ

や香織までもが絶句する。

要は、帝都においてカム達が大虐殺を

やらかす所だったからだ。

「ちなみに、今後の予定は?」

「元帥がお見えになったので部隊は

 下げましたが、近日中には

 帝都への侵攻を考えています。

 作戦目的は同じく、亜人族奴隷の

 解放と帝都壊滅です」

「そうか」

とだけ私は頷き、出された茶に

口を付ける。

 

「そうかって、何を暢気なことを

 言ってるんだ新生!!」

相変わらず声を荒らげる天之河。

「彼等の攻撃が始まったら民間人に

 だって被害が出るのは分かりきった

 事だろ!?」

彼の言い分は、今に限っては正しい。

Gフォースの火力は、この世界において

最強クラスだ。

帝都如き、一瞬で火の海に出来る

だろう。

いや、そもそもな話、捕虜などを

一切取る気が無いのなら、亜人の

奴隷を救出後にジョーカーの

Gブラスターの一斉射で帝都を

消滅させれば良い。

そして、それがGフォースには

出来るのだ。

当然、膨大な量の死人が出るだろう。

 

 

すると……。

「だったらお前は、このまま俺達亜人が

 人に虐げられ続けても良いって

 言うのか?」

鋭い視線でパルが天之河を睨み付ける。

「い、いやっ!そんな事は無い!

 亜人の奴隷を解放するのなら俺も

 賛成だ!でも、方法が過激過ぎる!

 それでは無関係な、罪の無い人達

 まで巻き込んでしまう!」

「罪が無い?はっ!知った事じゃ

 ねぇな!」

「なっ!?」

パルの言葉に、天之河が戸惑う。

 

「奴らは、平和に暮していた俺達を

 蹂躙し、殺し、奪い、犯す。

 罪が無いって言うのなら俺達は

 どうなんだ?普通に暮していただけ

 なのに、何故奴隷にならなければ

 いけない。あそこに亜人の自由

 なんてない。

 それがあの国だ。帝国だ。

 奴らは俺達がどうなろうと知った

 事じゃない。まるで道具のように

 扱い、使えなくなったら捨てて

 新しいのをこの樹海に探しに来る。

 ……そんな国に生きてる奴らを、

 許せると思うか?俺は許せないね。

 だから、吹っ飛ばすのさ。全部な」

そう語るパルの目には、復讐の炎が

揺らめいていた。

 

「そして、帝都を破壊し蹂躙し

 燃やし、そしてその炎で世界に

 証明する。俺達亜人は、もはや

 お前達人間の奴隷なんかじゃない

 のだと、世界に知らしめる。

 その狼煙を上げるのさ。帝都を、

 帝国の都を完膚なきまでに

 破壊してなっ!!」

そう叫ぶパルに、天之河だけで

なくハジメと香織、雫達が俯く。

 

世間一般における亜人族の認識は

奴隷だ。まして兎人族は中でも

最底辺の認識だ。

それをひっくり返すのであれば、

それこそ国の一つや二つ壊す必要が

あるだろう。

 

しかし、殺戮はハジメや香織の精神衛生

上避けるべきだ。

と言っても……。

 

帝国は実力主義の国だ。蒼司も以前

王国に来た皇帝の姿を見たそうだが、

我の強そうな男だと言う事だ。

……となると、取引に応じるか

どうか。

まぁ、まずは……。

 

「落ち着けパル。ここは、一度私に

 チャンスをくれないか?」

「元帥に、チャンスですか?」

私の言葉に首をかしげ、落ち着いたのか

パルはこちらに興味を持ってくれた。

 

「あぁ。現在、世界各地で魔人族が

 動き出した。それに伴い王国は

 各国の関係強化に乗り出した。

 そして王国の姫君と帝国の

 皇太子の結婚話が持ち上がっている」

「ッ!?王国の姫君って、リリィの

 事だろ!?まさか、リリィが帝都

 に向かったのって……!」

「あぁ。表向きは王の使いとしてだが、

 実際には結婚についての打ち合わせ

 などが目的のようだ。そして、

 現在我がG・フリートは王国と

 同盟関係にある」

「だから、帝国を見逃せと、仰る

 おつもりですか?元帥」

 

そう言って、パルは拳を振るわせる。

しかし……。

 

「そうではない。……私からの提案

 なのだが、G・フリートと帝国の

 間で取引をしようと考えている」

「取引、ですか?」

と、首をかしげるアルテナ。

 

「あぁ。こちらはガーディアンなどの

 労働力や復興に必要な物資等々の

 供給を帝国側に約束し、逆に

 奴らは亜人族奴隷全ての返還。

 つまりは解放を要求する」

「そ、それなら……」

と、雫はどこかホッとした様子だ。

 

だが、それだけではない。

「ただし、この要求を帝国側が

 受け入れない場合、その後に

 ついてはカム。お前達に一任する」

「ッ!では元帥っ!」

「あぁ。『滅ぼす』にしろ、『更地』に

 するにしろ。好きにせよ」

「ッ!司っ!それはっ!」

その時、傍に居たハジメが立ち上がる。

 

「……本気、なの?」

「えぇ。……あの国は実力主義。

 強き者が全て。弱い者は、強者の

 物に成り下がる。それが帝国という

 国です。だからこそ、皇帝が私との

 取引に応じるとは、残念ながら

 思えません。だからこそ、奴らに

 思い知らせるのです。『Gフォース

 は、帝国兵などよりも強い』と。

 が、だからといっていきなり

 滅ぼすと言う訳ではありません」

 

そう言うと、私は茶を飲む。

「カム、パル。ある程度段階を

 決めておこう」

「段階、ですか?」

「そうだ。皇帝が私の提案を呑めば

 それで良し。飲まない場合は、

 お前達が仕掛け、まず帝国兵を

 蹂躙しろ。そこで一旦戦闘を停止。

 再度、亜人族奴隷解放を促す。

 それでも聞き入れないようならば、 

 あとは全てお前達に任せる」

「つまり、二度の勧告を無視した

 のならば、後は好きにして良い、と?」

「そうだ。警告はする。ならば、

 従わない方が悪い」

「そうやって、人を殺すのか!?

 あそこには大勢の人が居るんだぞ!」

「だからチャンスは与える。逃げる

 チャンスをな。帝国兵をある程度

 倒した後、民間人にも退避を促す。

 もちろん、亜人奴隷を所有している

 場合はその解放が絶対条件だがな」

そう言うと、私は皆に考える時間を

与えるために茶を飲む。

 

「……分かっているのか。避難って言う

 のは言うほど簡単じゃない。

 今ある生活を根こそぎ捨てさせる事

 なんだぞ!?それが分かっている

 のか新生!」

「……奴隷として亜人族を、他人の生活

 の自由を根こそぎ奪っている奴らだ。

 奴らは亜人族に恨まれる事をしてきた。

 そして、私達は当事者ではない。

 カムやパル達が報復を望んでいるとして、

 止めてどうなる?いや、それ以前に

 止められるのか?私以外で」

「ッ!だ、だったらお前が止めれば良い

 だろ!?」

 

「そうかもしれんな。が、だからといって

 命令を押しつける気などない。だから

 取引を行うのだ。帝国側には再三

 注意を促す。それを聞かなかったのなら、

 向こうの問題だろう。帝国兵はこれまで

 幾度となくGフォースと交戦している。

 今更カム達の力を知らんわけでは

 あるまい。……それでもなお、G

 フォースとの戦争がしたいのなら、

 それは帝国の首脳部が無能であり、 

 民がそれに巻き込まれただけの事だ」

 

その言葉に、ハジメ、香織、雫達がどこか

戸惑っている。

「でも、だからって子供まで巻き込む

 のはっ!」

反論するハジメ。だが……。

 

「甘いな、ハジメ殿」

それをティオが制する。

「これまで長い間、奴らは亜人を奴隷と

 してきた。亜人など奴隷で当たり前と

 奴らは思って居ろう。ならばその

 当たり前を破壊する事件が必要なのじゃ。

 亜人はもはや奴隷ではないと、言葉で

 奴らに分からせるのは無理であろう。

 ならば、力で理解させるほかあるまい」

「だから、帝都での犠牲を見逃せって

 言うんですか……!?」

「ではどうすると言うのじゃ。帝国は

 実力主義と聞く。それとも、皇帝を 

 倒し新たな皇帝でも擁立するかの?」

「そ、それは……」

ティオの言葉に、声を詰まらせるハジメ。

 

「……自由とは、時に流血の先にある物

 ではありませんか?」

私は、彼等を見回しながら呟く。

「アメリカ独立戦争しかり。インドネシア

 独立戦争しかり。私達の世界で起きた

 独立戦争もまた、上げれば切りが無い。

 ……同じなのですよ。こちらでも

 それは。力の無い自由は、実現

 しないのです」

「……確かに、そうなのかもしれない。

 でも、だからって兵士じゃない 

 人達までもが血を流す、殺される

 状況は、いくらなんでも納得

 出来ない」

そう言って、私に反論するハジメ。

 

「司、僕は司の言うとおり、兵士なら

 戦場において死ぬ事を覚悟する必要

 がある事は分かる。撃って良いのは

 撃たれる覚悟がある者だけだ、

 って言う言葉の意味も理解している。

 でも、民間人を巻き込んでの虐殺

 はどうしても認められない」

「ならば、説得するしか無いでしょう。

 皇帝を。……それ以外に、もはや

 動き出した歯車を止める術は

 ありませんよ」

私は応接室の窓の方へと向かい、更に

ハジメ達を招き寄せ、外を指さす。

 

そこでは、ロングレッグの揚陸艇積み込み

作業や揚陸艇の爆装準備。ヴァルチャーの

発進準備。更に、私達のとは別に、

2番から4番までのアルゴが用意されている。

 

カムの作戦を聞くと、、オペレーション

中盤にアルゴからハウリア兵とガーディアン

の混成空挺部隊を投入し王城を制圧する

予定のようだ。

そして、外ではハウリア兵たちが嬉々とした

様子で準備を始めていた。

更に、帝都攻撃の情報をどこからか

聞きつけたのか、捕虜になっていた亜人族

の者達までもが、協力を申し出ている。

 

「あれはもはや、私の命令一つで止まる

 者ではありませんよ。最低限、今

 帝都で捕えられている彼等の家族を

 奪還しない限り、彼等は止まりません

 よ」

そう言って、私はソファに戻ろうとする。

が……。

 

「司、もし、説得に失敗したら……。

 帝都は、そこに生きる人々は、

見捨てるの?」

「……そう、解釈して貰っても構いません」

私はそう呟く。あの国には、何の思い入れ

も無い。知人がいるわけでもない。

滅ぼうがどうなろうが、私にはどうでも

良かった。

その後、亜人族の者達はバジリスクで

フェアベルゲンへ送る事になった。

樹海の中をバジリスクの隊列が進んでいく。

 

 

その車内で……。

「……自由のための闘争、か」

ポツリとハジメが呟いた。

「ハジメくん」

そんな彼に、心配そうに声を掛ける香織。

今、運転席に座っているハジメ。

助手席には香織が座っている。後ろには

数人の亜人族と護衛のガーディアンが

乗っているだけだ。

 

「分かってる。分かってるよ。亜人族が

 奴隷として見られている現状を

 変えるには、ティオさんの言うとおり

 言葉じゃ足りない。力が必要だって

 事も。……でも、だからって普通の

 人々まで巻き込んで良いとは、僕には

 思えない」

「それは、私もだよ。敵は、倒さないと

 いけない。でも、敵って何?私達の

 行く道を阻む者?……だとしたら、

 帝都の人達は敵なの?あの人達が

 私達の何を阻んだの?」

「そんな事してないよ。あの人達は、

 僕達とは無関係だ」

そう呟くと、ハジメは唇をかみしめる。

「そう、無関係なんだ」

 

確かに帝都の民とハジメや司たちの間

には何の繋がりも無い。赤の他人だ。

だからこそ、司にとって彼等がどう

なってもお構いなしだ。更に言えば、

傍からすれば、『何故赤の他人の為に

ハジメ達が必死になるのか?』と疑問

を持つ者も居るだろう。

もっと言えば、これは亜人族を下等種族

として見下してきた人間に対する、

更に言えば亜人を奴隷として

蔑む帝国への。亜人族の憎悪が

引き起こした戦いだ。

 

ハジメ達は第3者でしかない。

これは、亜人族が人間に自分達の力を

知らしめる戦いである。だが、戦い

が起れば、間違い無く血が流れる。

兵士が倒れるのならば、ハジメは

まだそれを黙認しただろう。

 

ハジメもまた、戦士として何度も

戦場に立っているからこそ、それは

仕方の無い事である起こりえる必然

だと分かっているからだ。

だが彼は民間人が巻き込まれる事

だけはどうしても認められなかった。

 

無関係だからこそ、唯一無二の

親友である司によって強くなった、

ハウリアの兵士達に彼等が殺される

のが、ハジメにとって心苦しい事

だった。

 

司が与えた武器で殺されると言う事は、

間接的にであれ、司が彼等を殺して

いるような物だった。

だからこそ、ハジメはハウリア兵、

Gフォースによる虐殺を止めようと

思ったのだが。

 

「僕は、今を生きる人を守りたい。

 例え彼等が、亜人を見下していても、

 それでもあそこに住む人達にだって

 家族や友人が居る。僕は、誰にも、

 大切な人を失って悲しみの涙を

 流して欲しくない。そして何より、

 これ以上、司に人殺しの汚名を

 着せたくはない」

そう言って、ハジメはハンドルをギュッと

握りしめる。

 

その時。

「そうだね」

香織が優しく、ハジメの手に自分の

手を添えた。

「だからこそ、止めようハジメくん。

 私達が皇帝を説得すれば、虐殺は

 おこらないんだから」

「うん。そうだね」

 

そうして、2人は虐殺を止めるために

皇帝、ガハルドを説得することを決意

する。

 

だが、それが無駄に終わる事など、今は

知らぬまま。

 

 

一方その頃。先頭車にて。

「やっぱり、あなた。もしかして

 ルフェア・フォランドね?」

真ん中にある3列シートに座っていた

アルテナが助手席のルフェアを見つめていた

が、不意にポツリと呟いた。

「……そうですけど、何か?」

ルフェアは一瞬肩をふるわせると、

素っ気ない態度で呟く。

 

「生きていたのですね。無事で

 良かった」

「……」

彼女の生存を喜ぶアルテナと、対照的に

どこか不機嫌なルフェア。

「貴方が行方不明になったと聞いた時、

 皆が心配していたのですよ?」

「……そうですか」

「あの、ルフェア?貴方は皆のところへ

 戻る気はありませんか?貴方が

 無事だったと知れば、きっと

 皆も喜ぶと思います」

「……」

彼女の言葉にルフェアは何も言わない。

 

それに戸惑うアルテナ。やがて……。

「あそこに、もう私の居場所は無い」

「え?そ、そんな事は……」

「無いよもう。私は捨て子で、育ての親

 には感謝してる。でも、段々私を

 腫れ物のように扱いだして。

 周りの皆もそう。だからあそこが

 嫌になって抜け出したの。

 そして……。私はお兄ちゃん達と

 家族になった。今の私の帰る場所は

 お兄ちゃんの隣。つまりG・フリート

 なの。だからもう、フェアベルゲンに

 戻る事は無い」

「……本気、なのですか?」

「うん。……お兄ちゃん達は、血のつながり

 とかそんなの無くても私を家族として

 迎え入れてくれた。私が誰かなんて

 気にもしないで。そして、3人とも私の

 為に国を敵に回す事さえ、決意してくれた。

 そんな皆の元を離れるなんてありえないし、

 それに、今の私はお兄ちゃんのお嫁さん

 だから」

「お、お嫁さん!?」

ボッと音がしそうな程顔を赤くする

アルテナ。

「そう。私を助けてくれたお兄ちゃん。

 お兄ちゃんが私の旦那様。式は

 まだだけど、いずれ挙げるの」

そう言って、ルフェアはうっとりした

表情で私を見つめる。

 

うぅむ。運転中じゃなければ手の甲に

キスでもしたい所だが、流石に事故を

起こすと不味いので自重する。

 

「そ、それほどまでに、す、素敵な

 男性なんですね」

と、アルテナは顔を赤くしながらも私を

見ている。……しかし、どうにも

その視線が熱っぽい気がしている。

「あ、あの、ちなみにですが、新生様。

 国を敵に回した、と言うのは……」

「あぁ。それは私達がまだ王国に居た時

 ルフェアを謂われのない罪で死刑に

 しようとしたので、思い切り反発

 したのですよ。それだけです」

そう私は答えただけなのだが……。

 

 

『1人の少女の為に、そこまでするの

 ですね。新生様は』

司には分からない事だが、1人の少女の

為に国すら敵に回すなど、そうそう出来る

事ではない。更に言えば、アルテナも

ハルツィナ・ベースでハウリア兵達から

慕われている司の姿を見ていた。

大勢の兵士達から慕われる彼を見て

アルテナも興味を持ったのだ。

しかし……。

 

「ねぇ」

「ふぇっ!?」

突然ルフェアに声を掛けられたアルテナ

は戸惑う。

「お兄ちゃんは、絶対渡さないからね?」

そう言って笑いながら鬼面のオーラを

浮かべるルフェア。

これにはアルテナ以外の、亜人達が

ガクブルになっているが、心なしか

アルテナは別の意味で震えている

ようだった。

 

その後、フェアベルゲンに到着した

車列だが……。

かつて私達を迎えた門は魔法か何か

で破壊されたのか、ハウリア兵が残骸

の撤去を行っていた。

 

門を超えた先にあった緑豊かな町も、

所々破壊の爪痕が残っている。

「……酷い」

それを見て、隣に座っていたルフェア

がポツリと呟いた。

 

パル達から聞いていたが、襲撃のあと

アルフレリックの依頼でGフォースの

兵士が何人かここに駐屯しているらしい。

それで門の所にGフォースのハウリア兵

がいたのか。

 

そう思いながら私達は車列を停止させて

後ろから亜人族の者達を下ろす。

すると、フェアベルゲンの亜人達は

戸惑いながらも自分の家族や友人を

見つけると涙を流しながら駆け寄り

抱擁を交わしている。

 

と、そこへ。

「おぉ!アルテナ!」

「お祖父様!」

森人族の族長であるアルフレリックが

現れ孫娘のアルテナは彼の胸に飛び込んだ。

 

しばし涙を流しながらも再会を喜んでいた2人。

 

やがて、落ち着いたのかアルフレリックは

アルテナを離すと私の方に目を向けた。

 

「まさか、こうしてお主と再会するとは。

 思っても見なかったぞ。新生司。

 孫娘を、そして多くの民を救ってくれた

 事、深く感謝する。ありがとう」

そう言ってアルフレリックは私に頭を下げ、

他の亜人たちもそれに倣う。

 

「礼は不要です。彼等を助けたのは私達

 ではなくカムやパルです。私達はただ

 彼等を送ってきただけです」

「そうは言うが、ハウリア族をあれほど

 の猛者に仕立て上げたのはお前さん

であろう?お前さんのした事が、 

結果的に魔人族からここを守り、

更には帝国から多くの者達を救った。

それが事実だ」

「そうか」

アルフレリックの言葉に頷く私。

 

 

ちなみにその後ろではティオやルフェア

が誇らしげに司の背中を見つめていた。

ハジメと香織も、ユエやシアと共に

今は無事に亜人たちがここに戻れた

事に安堵していた。

更に雫たちは自分達の知らないところ

で大勢の者達を助けていた事実に

改めて驚き、しかし光輝は複雑そうな

表情を浮かべていたのだった。

 

 

その後、アルフレリックの家に私達は

招かれ、更にそこには他の族長達も

集められた。どうやら、熊人族の族長

はあの時私達と戦ったレギンが継いだ

ようだ。あのジンとか言う男は再起不能

になったようだしな。

最初、奴らは私達を見ると嫌悪感

丸出しの表情をしていたが、私の口

から帝都攻撃と亜人奪還の話が出ると

驚きと興奮が混じったような表情を

浮かべた。

 

「帝都を攻撃するのか!?それで、

 亜人族を、我々の同胞を解放すると!?」

「そうだ。……Gフォース司令、カム

 の指示の元、現在Gフォースは

 戦力を結集し帝都攻撃を予定している。

 目的は捕えられている亜人族奴隷の

 解放と帝都の壊滅。……とは言え、

 いきなり攻撃するのでは、民間人

 に被害が出る。Gフォースは

 G・フリートの実行部隊であって

 無秩序な人殺し集団ではない。

 なので、まずは私達が帝都へ行き

 皇帝と話をする。取引で亜人族の

 解放が出来ればそれでよし。向こう

 が取引に応じなければ、Gフォース

 が帝都へと侵攻し亜人族奴隷を

 解放する」

と、私が説明すると……。

 

「温いっ!話し合いなど!」

そう言って虎人族の族長、ゼルが

立ち上がった。

「奴らは我々の同胞を大勢殺してきた!

 そんな国など、有無を言わさずに 

 葬り去るべきなのだ!」

そう語るゼルの目には、憎悪の炎が

揺らめいていた。他の大半の族長達も

アルフレリックなどを除きうんうん

と頷いている。

その瞳に、ハジメや香織、雫や天之河

が複雑そうな表情を浮かべる。

だが……。

 

「そちらの主張は理解したが、我々は

 あくまでもこれから起こりえる事を

 報告に来ただけだ。話し合いで

 決着が付くか戦争になるかは向こう

 の出方次第だ。しかし亜人族奴隷

 を解放する事は約束しよう。

 お前達は同胞が帰ってきた時の

 為に用意をしていれば良い」

そう言うと、私は席を立とうと

したが、ふと視線の先でアルテナが

私を見ている事に気づいた。

内心、何故と思っていた時、私は

彼女が淹れてくれたお茶に殆ど

口を付けていない事を思いだし、

残っていたお茶を一気に飲み干した。

 

「それではこれで」

そう言って私は立ち上がり、皆と共に

アルフレリックの家を後にした。

ちなみに部屋を出る際、妙に熱っぽい

視線を一つ感じたが無視しておく。

 

 

その後、私達はハルツィナ・ベースに

戻った。

ここからはオスプレイで帝都近くまで

行き、その先は徒歩で帝都に入り、

皇帝に会うのには、折角だから

雫や勇者天之河のネームバリューを

使わせて貰うとしよう。

私達11人を乗せたオスプレイが離陸する。

 

そんな中で、ハジメと香織は何とか

皇帝を説得しようと決心していた事を、

私はその表情から読み取り、内心

どうなるか少し心配になってきたの

だった。

 

そして、樹海を越えてオスプレイは帝都

へと向かうのだった。

 

     第65話 END

 




次回からは帝都でのお話です。

感想や評価、お待ちしています。

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