ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回から帝都でのお話です。


第66話 帝都へ

~~~前回のあらすじ~~~

ハルツィナ・ベースに降り立った司たちは

そこでカム達が帝都攻撃を計画している事を

知る。民間人を巻き込む事を前提とした

攻撃に異議を唱えるハジメや光輝だったが、

既に亜人族の帝国に対する憎しみは頂点に

達しており、もはや亜人族奴隷全ての

解放が無ければ止まらない程になっていた。

ハジメと香織は血を流さないために

皇帝の説得を決意していた。

そして彼等は皇帝を説得するため、

オスプレイで帝都へと向かうのだった。

 

 

雑多。

 

帝都を一言で表せばこの通りだろう。

そう思うほど、良く言えば自由な。

悪く言えば無秩序な町であった。

 

そこを私達は、大きめの外套を纏って

目立たないように顔を隠して歩く。

こうしているのは、入った当初、

綺麗どこの香織や雫、ユエ、ティオ。

更には美しい亜人であるシアや

ルフェアを連れているため、男共

が群がってきて鬱陶しかったからだ。

 

最初の方はぶん殴って気絶させたり

してたが面倒なのでハジメの提案で

外套で顔を隠しながら歩いてる。

 

傍を歩く香織やティオの会話に耳を

傾けると、帝都は彼女達にとって

不評のようだ。まぁ、私もだが。

 

その道中、大きく崩壊したコロシアムの

傍を通った。どうやら話に耳を傾けると、

ここは魔物を使うコロシアムのようだが、

檻の中の魔物が突如変化し暴れ出したらしい。

その混乱に乗じて魔人族が攻めてきたが

何とか撃退したのが、大まかな様子らしい。

 

そして、そのコロシアムの周囲では亜人

の奴隷が、悲壮感を漂わせながら作業に

明け暮れていた。

その時、瓦礫の撤去作業を行っていた

10歳ほどの犬耳の少年が瓦礫か何かに

躓いて、更に押していた手押し車に

乗せて居た瓦礫をぶちまけてしまった。

 

それに気づいた帝国兵が棍棒を手に

少年の方に向かっていく。

「おいっ!やめっ」

何をされるか分かっていたのか天之河が

向かっていくが、ここで面倒を起されて

は不味い。なので、咄嗟に私が道ばたの

小石を蹴って、兵士の足にぶつけて

転ばせた。

 

すると、兵士はその場で躓いて瓦礫に

顔面からぶつかって動かなくなった。

どうやら気絶したようだ。

あきれ顔の同僚に運ばれていく兵士。

一方殴られる寸前だった犬耳少年は

しばし呆然としていたが、すぐに

ハッとなって作業に戻った。

 

「……行くぞ。時間が惜しい」

それを前に呆然としていた雫や

坂上達に声を掛け、私は先を歩く。

「おいっ、今のは新生が?」

「そうだが、何か?」

「良いのかあれだけで。今なら……!」

「今ここであの少年を逃がしても、

 数千数万の亜人を一斉に逃がすことに

 比べたら微々たる物ですよ。それに、

 ここでは亜人は物だ。つまり所有権

 が存在する。強引に奪って逃げれば

 我々は窃盗犯と同じだ」

「ッ!?そんなの……」

天之河は怒りに震えながら拳を握りしめる。

「この国の人間にとって亜人は道具。

 ……それを解放するには皇帝を

 説得するか、この国を滅ぼすしか

 無い。行くぞ、城までもう少しだ」

 

そう言って先を歩く私。

後ろでは相変わらず複雑そうな表情を

浮かべている天之河たち。一方の

ハジメ達はどこか決意したような表情

を浮かべていた。恐らく皇帝を意地

でも説得する気だろう。

 

 

やがて、帝城が見えてきたが、それは

要塞でもあった。城へと続く一本の

跳ね橋以外に通り道は無く、周囲

は魔物入りの水路に囲まれていて、

城の周りには強固な城壁がある。

更に言えば、跳ね橋の前にも巨大な

詰め所があった。

 

中に入るためにはここで厳格な

チェックを受け、更に特殊な入城許可証

が必要なのだが……。

 

「皇帝陛下に会いたい。彼が求婚した

 八重樫雫という女性を連れてきた」

「ちょっ!?司!?」

いきなり自分が引き合いに出されて

戸惑う雫。

「それと、帝城内に滞在している

 ハインリヒ王国王女、リリアーナ

 王女にも急用だ。急ぎ取り次いで

 欲しい」

「わ、分かった」

詰め所の兵士は、陛下が求婚した相手、

と言う雫に驚いて急ぎ足で中へと

向かっていき、私達は待合室の

ような場所に通された。

 

そこで待っている事15分。

私は自分の事を引き合いにだして

怒っている雫を宥めていた。

「ちょっとっ!?私の名前出すなんて

 聞いてないんだけど!?」

「それについては謝罪します。ですが

 正規の入城許可証が無いので、ここは

 勇者である天之河の名前を使うか

 雫の名前を使わないと入れないと

 考えたのです」

「だったらせめて事前に言ってよね!

 もう!」

そう言って椅子にドカリと腰を下ろす雫。

 

すると、そこに帝国兵が入ってきた。

大柄な帝国兵は周囲を見回して雫に気づく

と声を掛けてきた。

 

「貴方が八重樫雫ですね?」

「え、えぇ。そうだけど……」

「ならばこちらへ。陛下が是非とも

 お会いしたいとの事です。部下に

 案内させます」

そう言うと、男はシアに気づいた。

そのまま何やら薄汚い笑みを浮かべている。

何故こいつはシアを見ている?と

一瞬気になった。

 

「よぉ、ウサギの嬢ちゃん。ちょっと

 聞きてぇんだけどよぉ、俺の部下は

 どうしたんだ?」

 

その言葉を聞いて全てを察した。

この男は、ライセン大峡谷でハウリア族

を待ち伏せていた部隊の上官だ。

 

シアは強気に応じるが、グリッド・ハーフ

と言う男はシアを売女呼ばわりしたので、

私の琴線に触れた。

 

「貴様の部下ならば殺してきたよ」

「何っ?」

私の声に、グリッドは私の方を向く。

「私の連れに襲いかかったのでね。

 面倒だから全員殺してきた。そう 

 言ってるのだよ」

「ッ!何だとっ!」

グリッドは顔を真っ赤にして剣に

手をやる。

 

「ほぉ?やるか。面白い」

そう言って、私は笑みを浮かべながら

立ち上がり、そして……。

 

「ならば、貴様の部下の居る場所に、

 貴様自身も送ってやろう……!」

そう言って、膨大な量の、漆黒の

オーラと殺気を滲ませる。

それだけでグリッドと呼ばれた男は

一気に冷や汗を流し、後退る。

「どうした?貴様の部下の仇が目の前に

 居るぞ?それとも所詮、貴様も

 その程度か……!」

そう言って更に殺気を当てる。

 

あまりにも膨大な威圧感と殺気に、

雫や谷口、坂上や天之河まで青い顔

をしている。

その殺気が向いていないにもかかわらず、

である。

 

やがて、グリッドは剣の柄から

手を離し、部下に視線を送るとすぐに

部屋を出て行った。ふと臭いを

嗅げば、微かにアンモニア臭がする。

どうやら誰かチビったらしい。

どうせなら部下の前で気絶し、

失神すれば良かった物を。

その方が奴の無様な顔が見れて

良かったのだが、まぁいい。

 

「ふんっ。雑魚が。私の仲間を

 売女呼ばわりした罰だ」

本当なら溶鉱炉にぶち込んで足先から

ジワジワ溶かして殺したい所だが、

今はこの程度で勘弁してやる。

 

その後、私達は顔色の悪い雫達4人

やハジメ達と共に、ガタガタ震えている

兵士に案内されて跳ね橋を渡った。

 

そして、案内された部屋ではリリアーナ

王女がいた。

 

「ッ、司様……!」

そして、部屋に入るなり王女は私に

気づいて駆け寄ってきた。

「どうして先日別れたばかりの

 司様がこちらに?お話では樹海の 

 大迷宮に潜るとの事でしたが……」

「それについては、ゆっくり座って

 話をしましょう」

そう言って、私は王女に座るように

促す。

 

のだが、私の後ろでは……。

「姫、いつの間にか王女がマスターを

 司様と呼んでおるのじゃ。これは

 些か雲行きが悪しくなってきましたの」

「うぅ、アルテナ様だって何か怪しい

 感じだったのにぃ、なんでここに来て

 お兄ちゃん好きな人が増えるのぉ!?」

そんな会話をしているティオとルフェア。

「ま、まさか、リリィまで司の事を!?」

更に何故か驚愕している雫。

 

何やら3人が騒がしかった。

 

ハジメとユエと香織がシアを撫でたり

モフったりして宥めている傍ら、私は

リリィ王女にGフォースの帝都壊滅

作戦の事を話した。

「ほ、本気なのですか司様!」

「えぇ。残念ながら、もはやGフォース

 を止めるには、全ての亜人奴隷を

 解放するか、この帝都を攻め落とす

 他にありません。が、いきなり

 帝都を攻撃するわけにはいかないの

 ので、こうして取引をしに来た。

 と言う訳です。帝国側が取引に

 応じない場合は、戦争ですね」

「そ、そう、ですか」

と、戸惑い気味に頷くリリィ王女。

 

「大丈夫ですよ王女。いざとなれば、

 我々G・フリートが王国の損失を補てん

 します」

「……それは、この国を見捨てる前提の

 話ですか?」

私が声を帰れば、王女はどこか鋭い

視線で私を見据えている。

「可能性の話です。が、現皇帝の性格を

 考えれば取引が成立する可能性は

 低いでしょう」

「そうなれば、帝国民が何人死のうが

 構わないと?」

「残念ながら、私には彼等を擁護する

 理由が無い。……この国の生い立ちは

 知っていますよ。先の大戦で活躍した

 傭兵団が起した新興国のようですね。

 そして、それが理由か帝国は実力主義

 の国へと成長した。……だが、成長

 した国の足下では弱者、即ち亜人たち

 が虐げられてきた。この戦いは、

 言わば亜人達の復讐です。もはや

 私の指揮権を持ってしても、G

 フォースを止める事は出来ない。

 ……全亜人奴隷解放、と言う道

 以外には、ですが」

 

「……司様。司様はハインリヒ王国

 救済の英雄です。そんな司様に失礼

 とは思いますが、今のあなた様は、

 まるで悪魔のようです」

「悪魔、ですか。以前、似たようなことを

言われましたよ」

そう言って私は席を立ち、応接室の

窓辺へと歩み寄る。

 

「だがしかし、天使と悪魔ならば、私は

 悪魔でしょう。あの時、王国を救った

 のは私自身の信者を増やす意味合いも

 ありました。あの時はただ、天使を

 演じたに過ぎないのです。

 ……幻滅、したのではありませんか?

 私に」

「……ただ一言、この場でえぇ、と頷く

 事が出来れば楽だったのですが、

 それでも、私へアドバイスを送り

 この道を選ばせてくれたのも司様です。

 ……今は、悩んでいます。貴方が、

 天使なのか悪魔なのか」

 

「……どちらでもありませんよ。私は」

 

そう言って、私は窓の外に目を向けた。

 

しばらくすると、扉がノックされた。

どうやら時間のようだ。

 

そして、私達はリリィ王女と共にこの

国のトップであるガハルド皇帝と

謁見する事になった。

 

 

謁見の場所に向かうまでに色々考えて

おく私。

どうやらガハルド皇帝は神の真実など

を知っているらしい。更に言えば

リリアーナ王女から王国が魔人族を

撃退した経緯としてG・フリートの

名前を聞いており興味を示したとか。

 

そして、案内された部屋は、長いテーブル

がある簡素な部屋だった。その上座には

皇帝であるガハルド・D・ヘルシャー

が座っていた。

 

そして、開口一番に……。

「お前が、新生司。G・フリートの

 ボスか?」

誰よりも先に口を開いたガハルド。

王女であるリリィ王女や勇者の天之河

はほぼ無視である。

更に言えば、ガハルドから放たれる

威圧感に王女は息苦しそうであり、

天之河達も後退っている。

 

「そうだ。と言ったら?」

だが、この程度で揺らぐほど、私は

甘くは無い。と言うかハジメ達で

すら怯えていない。大迷宮攻略者に

とっては、この程度、と言わんばかりだ。

「くくっ、成程ねぇ。小揺るぎも

 しないとは」

そう言って笑うガハルド。

 

やがて、俺達は順番に椅子に腰を

下ろした。

ガハルドは私達を値踏みするように

見回し、やがて雫でその視線が止まる。

 

「雫、久しいな。俺の妻になる決心は

 ついたか?」

そう言って笑うガハルド。

そこに光輝が反論するより早く。

「それは、私を倒してからとあの時も 

 申したはずですが?」

つっけんどんな態度で冷徹に言い放つ雫。

その後、何とかガハルドが雫を丸め込もう

と声を掛けるが、雫はそれを無視したり

するだけだった。

 

「ふぅ、面白くない状況だ。しかし、

 何だ『お前』は」

そう言って、ガハルドは雫の隣に座る

蒼司に目を向けた。

「何故新生司と同じ顔をしている」

「お初にお目に掛かります皇帝陛下。

 俺は蒼司。そこに居る新生司の

 分身さ」

「こいつの分身だと?」

「あぁその通り。俺は司によって

 生み出されたのさ。雫達を守る

 ためにな」

「ほう?ならば蒼司、貴様に聞く」

 

そう言って、ガハルドは鋭い目で

蒼司を睨み付ける。そして……。

 

「お前、俺の雫を抱いたのか?」

「「「「ぶふぅっ!?」」」」

いきなりの質問(真顔)に雫や天之河達が

吹き出す。

ガハルドの後ろに居る男達も、「それ

聞くの?」みたいな顔ををしていた。

 

「ぷっ、ぶふっ!あはっ!あはははははっ!

 腹、腹痛ぇっ!」

そして思いっきり笑い出す蒼司。

「だ、抱いたって、最初に聞くのそれ

 かよ!あはははははっ!」

大笑いする蒼司に、雫は顔を真っ赤に

しながら無言でポカポカと拳を

振り下ろしている。

 

「ははっ、安心しな。雫は俺が知る

 限り処女だよ」

そう言うと、今度は雫が青龍を

抜いて蒼司に斬りかかったが、蒼司は

真剣白刃取りで受け止める。

その目は、『何で知ってるの!?』と

言っていた。

 

「ちっ、更に面白くない。俺の前で

 いちゃつきやがって」

舌打ちをするガハルド。完全に私達は

蚊帳の外なので、茶を飲んでいた。

 

「安心しな。俺はあくまでも護衛。

 少なくとも、雫は今後も俺が 

 守ってやるよ」

「ッ」

そんな蒼司の言葉に雫は更に顔を

赤くする。

 

その姿に、ガハルドは更に舌打ちをする。

その後、護衛達がガハルドを宥めて

ガハルドが咳払いをすると、奴は私の

『異常性』を問うてきた。

 

「お前は死者すら蘇らせるそうだな。

 大迷宮をいくつも攻略し、数万の

 魔物を退け、そこのリリアーナ王女から

 聞いたが王国を守り、更には一個人で

 ありながら国レベルと同盟を結んだ、と」

「一個人ではない。私が指揮するG・

 フリートが王国と同盟を結んだのだ」

「はっ。そのG・フリートの頭目がお前

 なら変わらねぇだろ。……それほどまで

 の力を、1人と周囲だけで独占する。

 聞くところによると、気に入った奴にだけ

 ジョーカーとか言う鎧を送ってる

 らしいじゃねぇか。……お前一人が

 それだけの力を持つのが、許されると

 思ってるのか?」

 

「許可だと?私がどんな力を持とうが

 私の勝手であろう?」

そう言うと、ガハルドの帝王の覇気が

増す。更に後ろの護衛達も殺気を放つ。

 

「高々一国の王如きが、私の上に立った

 つもりか?図に乗るなよ、人間」

次の瞬間、私もガハルド以上の殺気を放つ。

 

覇気と殺気の真っ正面からの打ち合いに、

ガハルドの傍の護衛達でさえ気圧される。

リリアーナ王女など気絶寸前だ。

 

「殺し合いがお望みか?良かろう」

そう言って、私は朱雀を宝物庫から抜く。

「……何人、何十人、何百人、

 何千人、何万人、死ぬのだろうな」

そう言って、私が笑みを浮かべる。

この部屋に入った時から、天井やドアの

外に刺客が潜んで居たのは知っていた。

すると……。

 

「ハァ、止めだ止め」

ガハルドがため息交じりに呟くと護衛達が

殺気を収め、本人も覇気を抑える。

 

「……何だ。つまらん。これで終わりか。

 私としては、ここで貴様等を皆殺しに

 しても良かったのだがな」

「ッ!司っ!」

私の言い分に、ハジメが声を荒らげる。

「冗談ですよ」

そう呟くが……。

 

「……ちょっと質が悪すぎるよ司」

そう言って睨まれてしまった。

仕方無い。ここらで止めておくか。

そう考え、私は朱雀を宝物庫にしまう

と席に座り直す。

 

「お前、化け物だなホント。俺やこいつら

 の殺気に怯えるどころか、こいつら

 を気圧するなんて」

そう言って笑うガハルド。

「褒め言葉として受け取っておこう。

 それよりも、取引をしようではないか。

 ガハルド皇帝」

 

「あ?取引だと?」

「そうだ。我々G・フリートはそのために

 ここに来たのだからな」

そう言って、私達の取引が始まった。

 

「まず、我々G・フリートが提供するの

 は、疲れ知らずの労働力である

 ガーディアンだ」

そう言って、私がパチンと指を鳴らせば

すぐ傍にガーディアン2体が現れる。

ガハルドは眉をピク尽かせただけだが、

驚いては居るようだ。

続けよう。

 

「彼等は人では無い。だからこそ疲れ

 を知らず、服と食事に限っては必要

 無い。土地さえ提供してくれれば、

 今の亜人族奴隷の数倍の労働力を

 提供しよう」

「ほぅ?続けろ」

「また、復興に必要な物資、薬など

 の医療品。食料。建築に必要な

 建設資材。必要ならば、それ以外の

 物も、武器兵器以外は供給しよう」

「ほぅ。武器兵器以外、ね」

「そちらは武力によってのし上がってきた

 国だ。これ以上武力を強化する事態に

 なれば、周辺国を侵略し始めそう

 なのでな」

「へぇ?そう思う根拠は?」

「帝国は弱肉強食を絵に描いたような国だ。

 当然、弱い奴には従わない。国民も、

 そしてトップである貴方も。

 そんな国が武力を向上したとあっては、

 危険というものであろう?これを機に

 周辺国を侵略しかねないのだからな」

「成程ねぇ。それで、取引って言うん

 だからお前は何をお望みなんだ?あ?」

 

「ふぅ。それは簡単だ。

 ……帝国が保有する、全ての亜人族

 奴隷の解放だ」

私の言葉に護衛の者達は目を見開く

ガハルドはふんっと鼻を鳴らす。

 

「何を言い出すかと思えば。なぜ

 そんな事を」

「私の部下を宥める為だ。ここ最近、

 お前達は樹海で亜人族を捕える事が

 出来なかったのではないか?

 魔人族とフェアベルゲンが戦争を

 している横で、コソコソと攫う

 事が出来たあの日以外ではな」

私の言葉にガハルドはまたしても眉

をピクつかせる。

 

「かつてお前達が最弱と侮っていた

 兎人族を私は鍛え上げた。彼等は

 全員がジョーカーを纏い、この世界

 の技術では再現不可能に近い兵器を

 駆って、樹海の防衛するように

 私が言い渡した。……その結果は、

 そちらが良く分かっているだろう?」

「では、貴様のせいだと言うのか!

 大勢の兵士が樹海に行っても

 戻ってこなくなったのは!」

護衛の一人が声を荒らげる。

「あぁ。私の部下に皆殺しにされた

 からだろうな」

「ッ!貴様ぁっ!その兵士達の中には

 私の妻の弟も居たのだ!それを、

 貴様はっ!貴様のせいで俺の

 義弟はっ!」

激情に駆られた男。だが……。

 

「ふん。下らんな」

「ッ!?何ぃっ!?」

「兵士とは戦場で死ぬ者だ。そんな

 覚悟も無いのかお前達は。

 それとも、自分達がいつまでも

 狩る側だと思って居たのか?

 だとしたら、滑稽だな」

「ッ!貴様ぁ、俺の義弟の死を

 滑稽と笑うのかっ!?」

 

「あぁ。今まで亜人の命を良いように

 弄んできた人間には、お似合いの

 くたばり様だよ」

「ッ!!!?貴様ぁっ!」

男は叫び声を上げながら私に

向かってこようとしたが……。

 

『バンッ!』

銃声がした。銃声の主はハジメだった。

どうやらハジメがノルンでテーザー弾

を放ったようだ。

『バチィッ!』

「ぐあぁっ!?」

男はその場に倒れてそのまま気絶した。

 

「テメェ……!」

「……殺しては居ませんよ」

ガハルドがハジメを睨むが、ハジメは

そう語るだけだ。

 

ガハルドがもう一人の護衛に確かめ

させ、死んでいない事を確認した。

 

「同じですよ」

「何?」

「今の亜人族の多くは、貴方達に家族を

 奪われた憎しみに突き動かされている。

 その人のようにね。そして、今の

 亜人族にはGフォースという力が

 ある。彼等ならば、この帝都を落とす

 事など、造作も無いと思いますよ?」

「俺の部下が、亜人の軍隊に負けると?」

「負けますよ。一方的に嬲られて

 殺されます」

ガハルドの言葉にハジメは確固たる視線で

にらみ返しながら答える。

 

「彼等はもはや脆弱な弱小種族では

 ありません。今の彼等は司によって

 与えられた武器と兵器で武装している。

 ……そんな彼等にしてみれば、この

 城の防壁と周囲の水路も意味を

 持ちません。なぜなら彼等は空を

 飛ぶからです。そして、空から城に

 襲いかかる事も出来る。長距離から

 この城を狙い撃ち事だって出来る」

「はぁ?そんな事が彼奴らに出来る訳」

 

「良いから聞け!ここで止めなきゃ帝都

 が火の海になるんだぞ!」

ガハルドを遮り、ハジメが普段の言葉

使いから離れた、荒々しい声で叫ぶ。

 

「確かに普通はそんな事出来ない!

 けど、そんな事が出来る武器を

 作れるのが司なんだ!この世界の

 常識は通用しない!無い、出来ない

 と高をくくるのはアンタの勝手

 だよ!でもなっ!その甘い判断で

 死ぬのは兵士や民衆だ!

 Gフォースの兵士達の中には帝国兵

 に家族を奪われた者も多い。

 そんな彼等がこんな絶好の、復讐

 の機会を逃すと思うか!?彼等

 はこの取引が失敗する事さえ

 望んでいる!分かるかっ!?

 ここで止めなきゃ、大勢の兵士と

 民が死ぬんだぞ!?」

 

そう言って声を荒らげるハジメ。

だが……。

「だからって、今まで散々奴隷としてきた

 奴らを解放しますつって周りの連中が

 納得するのか?しねぇだろ」

「ッ!」

「亜人は奴隷だ。労働力だ。道具だ。

 奴らは弱いから、俺達の道具になった。

 それだけの事だ」

「だがGフォースはその弱いの範囲を

 超えた!いや、彼等の武力ならこの国を

 全部滅ぼす事だって出来る!

 この帝都そのものを、跡形も無く

 吹き飛ばす事だって出来るんだぞ!」

 

 

そう呟くハジメの脳裏に、カムが用意

していた爆弾の影がチラつく。

それは、『MOAB』。

世界最強クラスの爆弾の一つだ。

MOABとは、『全ての爆弾の母』を

意味する頭文字を取って名付けられた。

 

しかもハルツィナ・ベースに存在する

MOABは『数十発』。更にこれは

司によって強化された、言わば

『強化型MOAB』。その破壊力は

通常型MOABの3倍とされている。

その話を聞いた蒼司は、これを

『強化型じゃなくて、凶化型だな』

と言って笑っていた。

 

通常型のMOABでさえ、小さな都市

を一発で吹き飛ばす事が出来る。

そんなMOABを強化した、

『凶化型MOAB』ならば、帝都如き

1発で吹き飛ばす事が出来る。

それが数十発もあるのだ。

 

蒼司は、この凶化型MOABの倉庫を

見た時、ハジメの隣で『トータスの

世界終末時計を踏み越える気か?』

と笑っていたが、ハジメにしてみれば

笑い事ではない。 

核兵器でないだけ、放射能汚染が無いの

だからまだマシかもしれないが、その事実

は何の気休めにもならない。

 

 

「戦端が開かれてからじゃ遅いんだ!

 今ここで亜人族を解放して帝都を

 守るのか!それとも、戦端を開いて

 亜人を全て奪われた上で皆殺しに

 されるのか!どっちがマシかくらい、

 アンタなら分かるだろ!?」

そう言ってテーブルを叩いて立ち上がる

ハジメ。

 

だが……。

「ふぅ。んじゃ、お前達の言うそれが

 『はったり』じゃ無いって言う証拠は

 あるのか?」

「何?」

突然の事にハジメは戸惑う。

「結局の所、そのGフォースってのはお前等

 の仲間なんだろ?なら、お前達があいつら

 の為に嘘を付いてる可能性だって

 捨てきれねぇって訳だ」

「ッ!?違う!嘘でこんな事言えるか!

 人の命が掛かってるんだぞ!?」

「人の命っつぅけどなぁ。坊主が

 そこまでする理由は何だよ?」

「決まってる!そこにある命を守りたいから

 ってだけだ!」

ハジメは、ガハルドが威圧を始めても

引かずに声を荒らげる。

 

「兵士が戦場で死ぬのは当然だ!それが

 戦いなんだから!でも、民間人が

 戦いに巻き込まれて命を落とすのは

 間違ってる!」

 

今のハジメの脳裏には、テレビで見た

紛争地帯の凄惨な光景が浮かんで居た。

あの世界に居たとき、ハジメはその

光景に心を痛めていたが、それは

どこか遠い国での出来事だと、それだけ

で片付けていた。

 

だが、その再現が行われようとしている。

自分が最も信頼する男と、その部下に

よって。

だからこそ止めたいのだ。

 

テレビで見た、血を流す娘を抱えて

病院に走る男の姿。

 

廃墟と化した家の前で泣き崩れる

老婆。

 

病院で虚ろな目をした怪我人。

 

ハジメの思いは本物だ。

例え、彼等が無関係だったとしても。

彼等は兵士ではない。戦士では無い。

戦場で命を落とす兵士ではないのだ。

 

「戦争に民間人が巻き込まれるのを、

 僕は、俺は黙ってみている事が

 出来ないだけだ!」

彼は、自らの思いを言葉にして叫び、

そしてガハルドを睨み付ける。

 

そのまましばし二人は睨み合う。

どれだけガハルドが覇気を強めても、

ハジメは一切目を逸らさない。

 

「……なよっちいガキかと思ったが。

 存外いい目をしている」

そう言って、ガハルドは笑みを浮かべる。

ハジメは一瞬、行けた?と考えたが……。

 

「が、仮にも帝国は力で成り立っている。

 ここに俺がいるのだって血筋とかそんな

 もんじゃねぇ。力でのし上がったからだ。

 言わば俺は帝国最強。その俺が戦わず

 に負けるなんざ、帝国の恥さらしだ」

「ッ!そんなっ!?戦いが始まったら、

 どれだけの人がっ!?」

「あぁ、死人は出るだろうよ。それが戦争

 だ。……そして、敵が来るのなら

 倒すのが俺達のやり方だ」

そう言って立ち上がるガハルド。

 

「ちょっ!?話はまだっ!」

「悪いな坊主。取引は決裂だ。それより、

 お前達も今夜のパーティーに出てくれよ?

 出席者に勇者や神の使徒がいるのは

 外聞が良い。そこの王女様と、俺の息子

 の婚約パーティーだからな。偽物でも、

 祝福して貰えるとありがたい」

 

 

それだけ言うと、ガハルドは退室していった。

 

「ッ!クソッ!!!!!」

ダンッと拳をテーブルに叩き付けるハジメ

と、その手に自分の手を重ねる香織。

その傍では、光輝がリリィ王女に結婚に

ついて問いかけていた。

 

「おい新生!お前は何とも思わないのか!?

 リリィが好きでも無い男とっ!」

「……悪いが、そこから先は国家同士の、

 政治の世界だ。そして私情やモラルで

 政治は出来ない。それが、政治家。

 もっと言えば国を導く者という事だ」

「でもっ!」

「彼女やお前の納得など、政治の世界では

 些事だ。……学べ。これが、国を

 動かすと言う事だ」

 

そう言うと、私は『カム達に連絡する』と

言って部屋を出たが……。

 

「司っ!」

その時、ハジメが私を追いかけてきたのだった。

 

 

果たして、帝都は一体どうなるのか?

司の読み通り、取引は決裂。

そして、ハジメが司を追いかけた意味とは?

 

それを知るのは、司とハジメだけだった。

 

     第66話 END

 




次回はリリィ王女にスポットを当て、それからパーティーなどを
描いていきます。

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