ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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本格的に仕事が始まる前に出来るだけ挙げるつもりですので、
今は行ける所まで行くつもりです。


第67話 滅びの前夜

~~~前回のあらすじ~~~

ヘルシャー帝国の帝都へとやってきた司

とハジメ達は帝城へと向かいそこで

リリィと1日ぶりに再会する。

そして司たちはGフォースと帝国の

戦争回避のために取引を持ちかけるが、

ハジメの必死の説得も空しく、皇帝

ガハルドはこれを拒否してしまうのだった。

 

 

ガハルドの謁見の後。自分の部屋に

戻ったリリィはお付きの侍女たちと共に

今夜のパーティーで着るドレスを選んでいた。

そんな中でリリィは、侍女からのアドバイスで

腕輪を外す事を提案されたが、彼女は、

やんわりと、しかし頑なに司から

送られた腕輪を外す事を拒んだ。

 

なぜならそれが、今の彼女の心の拠り所

だったからだ。

リリアーナはまだ若い。彼女自身が王族

として決意を固めていたとしても、彼女

はまだ幼い少女なのだ。簡単に覚悟を

決められたら、誰だって苦労はしないし

悩みもしない。

そんな中で、救国の英雄でもある司から

送られた腕輪は、彼女の最後の心の

拠り所となるのには十分だった。

 

と、ドレスを選んでいた時。

「ほぉ?今夜のドレスか。まぁまぁだな」

ノックも無しに男が入ってきた。その男

こそ、ガハルドの息子であり、リリィの

結婚相手である、バイアス・D・ヘルシャーだ。

「バイアス様。いきなり淑女の部屋に

 押し入るのはどうかと思いますが」

「あぁ?俺はお前の夫だぞ。何

 口答えしてんだ?」

「ッ、失礼、しました」

当たり前の事を述べたリリィに対し、

バイアスは鬱陶しそうに答えるだけだ。

リリィにとって、バイアスの機嫌を

損ねるわけには行かず、内心イヤイヤ

ながらも謝罪を口にする。

 

すると……。

「おい、お前等全員出て行け」

 

いきなりそんな事を言い出すバイアスに

侍女や護衛の女性近衛騎士達が戸惑う。

が……。

「皆、お願い」

「ッ、分かり、ました」

主であるリリィの指示には従うしか無い。

近衛騎士と侍女達は部屋を出て行った。

 

リリィは、これでバイアスと二人だけに

なった。彼女はギュッとドレスの裾を

握りしめていた。

バイアスの女癖の悪さは知っていた。

だからだ。何をされるか、そんな

不安がリリィの中にあった。

そして、その不安が敵中した。

 

次に気づいた時、バイアスはリリィの

前に立っていた。そしていきなり彼女の

胸に手を伸ばし鷲づかみにしたのだ。

 

「痛っ!?何をっ!?」

「それなりに育ってんな。まだまだ

 足りねぇが、それなりに美味そうだ」

そう言うと、バイアスはリリィを床に

押し倒す。

 

そして、悲鳴を上げるリリィにバイアスは

この部屋が完全な防音である事を告げ、

更に自分に反発するリリィがやがて快楽

に屈する姿を見たいが為に襲っている

事を告げる。

 

『私は、国のために、この身を、捧げると。

 でも……!』

リリィは司の後押しを受けて、王族

としての責任を全うしようとした。

それが、自らの愛する国のためになると

信じて。

 

だが、今の彼女には目の前の醜悪な

男と結婚することに怯えていた。

こんな男と結婚しなければならない

現実に、涙が溢れそうになる。

『国のため』と必死に心の中でも

叫んでも、心は現実を受け入れられない。

その事実に、リリィの心は壊れそうに

なる。

 

『助けて……!司様……!』

だからこそ、望んだのだ。頭の中で

願ったのだ。

 

国家すら敵に回しても戦う覚悟を持った

男の事を。その登場を。

今そこにある現実を変えてくれる英雄の

事を。

 

そして……。

 

「全く。親が親なら子も子か」

その時、部屋に居ないはずの第3者の

声が響く。それに気づいてバイアスも

リリィも目を見開く。

バイアスは押し倒していたリリィの上

から退き、扉の前に立つ男、司を

睨み付ける。

 

「何だ貴様っ!誰の許可を得てここに

 入っている!」

「黙れクズ。口を開くな。空気が

 汚れる」

「ッ!テメェ、俺はこの国の皇太子、

 バイアス・D・ヘルシャーだぞ!

 この俺に楯突いてただで済むと……!」

「黙れと言っている……!」

『パンッ!』

「ぎゃぁっ!?」

次の瞬間、司が目に見えぬ速度で

抜いたノルンのAP弾がバイアスの

右膝を撃ち抜いてその場に倒した。

 

その時、リリィはバイアスに

押しつぶされそうになったが、

すんでの所で司が彼女の腕を

引いて立たせ、左手を彼女の腰元に

回し、彼女を抱いた。

「あっ」

 

リリィは、司を見上げながら頬を

赤くする。

「自らに反発する者を、力で屈服させ

 悦に浸る。小悪党の考え方だな。

 力を最優先するあの皇帝と似て、

 腐った魂の持ち主だな、貴様は。

 そして、だからこそ国のために

 貴様如きクズの妻になる事を

 決意した彼女は、貴様には

 相応しくない。貴様と彼女では、

 魂の格が違う。到底釣り合わんよ」

そう言うと、司はバイアスの手で

破かれたリリィのドレスに手を翳し、

再生魔法でドレスを元通りにする。

 

「ぐ、ぐっ!?貴様ぁっ!この俺に、

 こんな事をしてぇ、帝国が黙ってる

 と思うなよ!?おいっ!誰か来いっ!

 こいつを今すぐ殺せぇっ!」

血眼になって叫ぶバイアスだが、

ここは完全防音。当然誰も来ない。

 

「バカな男だ。ここが完全防音なのは、 

 貴様が偉そうにリリィ王女に聞かせていた

 だろうに。……その程度の男が、彼女

 の傍に立つな」

『パァンッ』

それだけ言うと、司のノルンがバイアスの

頭を貫き、バイアスはそのまま事切れた。

 

この時、自分を抱く司に見惚れていたリリィ

だったが、すぐに事態を理解し顔が

青くなる。

 

「つ、司様!何て事を!バイアス皇太子を

 殺してしまったら、結婚が!」

「あぁ、その辺でしたら、大丈夫ですよ」

 

 

私はそう言うと、バイアスの死体の前に

立って、かつて王国民を生き返らせた

ように、その体と魂を再生する。

但し、その魂に私の指示に従う細工を

施しておく。

これで、この男はどんな事があろうと

私の指示に従う。私は蘇生した

バイアスの肉体をベッドに念力で移動

させると、改めてリリィ王女に向き直った。

 

「奴には無意識に私の指示を従う暗示

 を仕掛けておきました。数分もすれば

 奴は起き上がって外の者達に酒を

 要求します。そして、一人でそれを

 飲み寝るように指示を出して起きました。

 これで少なくとも、パーティーが

 始まるまで、王女にこの男が手を出す

 事は無いでしょう」

「そ、そう、ですか」

 

 

司の言葉に、リリィは戸惑っていた。

目の前で簡単に人を蘇生したのだから

それもそうだろう。だが、もう一つ。

「結局、私はこの男と結婚するのですね」

そう、どこか気怠げに呟いた。

バイアスが生きている以上、結婚は

出来るからだ。

 

だが……。

「いえ。王女がこの男と結婚する

 必要はありません」

「え?」

「今夜、Gフォースによる帝都攻撃が

 敢行されます。その中で、バイアスを

 もう一度公衆の面前で私が殺します。

そうすれば、王女がこの男に嫁ぐ必要

はなくなります」

「なっ!?何故ですか司様!何故、

 そのような!」

 

ここで司がバイアスをもう一度、それも

衆人環視の中で行えば、司は皇太子

殺しの汚名を被る事になる。

リリィにはその意図が分からなかった。

 

「ここで、私が皇太子を殺せば、

 皇太子殺しの罪は私が背負うだけで

 済みます。リリィ王女には一切の

 瑕疵になりません。王国と帝国の

 関係にも影響は出ません。更に

 言えば、二国の関係強化を妨害した 

 賠償として、私達は更に王国に

 物資と戦力を下ろせるのです」

「ッ!」

司の話を聞き、リリィは息を呑んだ。

 

この話を聞いて一番得をするのは

どこだ?そう、王国だ。

だが、その代わりに司は皇太子殺しの

汚名をきる事になる。

 

「何故司様がそのような事を!?

 いえ、助けて頂いた事にはとても

 感謝しています!司様はこうして、

 私の願いを聞きここへ現れて

 下さいました!ですが、何故っ!?」

 

「……私は、正義の味方などではない

 のですよ。私は、『指揮官』なのです」

 

「え?」

 

「ハジメや香織のように、誰かを思いやる

 姿を、『ヒーロー』とするのなら、私は

 仲間の利益を追求する『指揮官』

 なのです。そして、だからこそ指揮官

 は自らが汚れる事さえ厭わない。

 仲間と自らの利益のためには、

 自らを悪とするのです」

「まさか、私の、ために?」

 

「……私には、貴方にこの道を

 選ばせた責任がある。あの日、

 そう言いました。だからこそ

 でもありますし、貴方に何か

 あれば雫や香織達が悲しみます。

 だから助けました」

 

そう語る司に、リリィはしばし

呆然としてから、アルゴで雫

から聞いた『話』を思いだして

クスッと笑ってしまった。

 

「やっぱり、雫から聞いた通りの

 方でした」

「はい?」

司はリリィの方に振り返る。

「雫は言ってました。司様は時に

 冷酷ですが、その時が来れば

 必ず助けてくれると。そして、

 理由を聞くと色々な理由を

 ならべるだろう、と。

 それは打算的な理由かも

 しれない。でも、それでも

 助けてくれるのが、司様の

 優しさだと言っていました」

 

「そうですか。雫が……」

そう、ポツリと司は呟くとしばし

黙り込んだ。

「う、うぅ」

その時、バイアスが唸り始めた。

どうやらあと少しで起きそうだ。

 

「私はこれで。バイアスは手筈通り

 に動くと思いますが、何かあれば

 腕輪を通して私に呼びかけて

 下さい。また、必ず助けに来ます」

それだけ言うと、司はリリィの返事を

聞かずに空間跳躍でどこかへと

飛んでいった。

リリィは、咄嗟に彼に手を伸ばすが、

その手が届く事は無かった。

 

「司様」

そして、彼女はどこか頬を赤くしながら

司の立っていた場所を見つめていたの

だった。

 

 

謁見後、ルフェア達は一つの部屋に

通されていた。ちなみに光輝たち4人は

別の部屋だ。

しかし、ここにはルフェアとティオ、

ハジメ、香織、ユエ、シアしかいない。

その時。

 

「ただいま戻りました」

空間跳躍でどこかへ行っていた司が

戻ってきた。

「お帰りお兄ちゃん。どこ行ってたの?」

「いえ。ちょっとリリィ王女をレイプ

 しようとしていたクソ野郎を殺して

 生き返らせて傀儡にしてきました」

「ッ!リリィが!?」

 

 

私の言葉に香織が立ち上がって声を荒らげる。

「大丈夫ですよ。未遂です。すんでの所

 で私が助けましたから」

「そ、そっか。良かった」

「じゃが王女をレイプじゃと?一体

 どこのどいつが……」

「それは皇太子のバイアスだ」

そう言うと、皆、一様に戸惑った様子だ。

 

「奴は、自分に反発する者を屈服させて

 悦に入る性格だったよ。女ならば

 快楽で屈服させるなどとほざいていた」

「下劣な……!親も親だが子も子かの!」

そう言うと、ティオが開口一番に私と

同じ事を言う。

 

雫を勝手に自分の、などと言っている辺り。

確かに親も親なら子も子だ。皇帝には

何十人も側室がいるらしい。成程。

スケベな親の子供だ。当然スケベなクズ

が生まれたのだろう。

 

「だからこそ、私としてはますます

 帝都壊滅には賛成ですがね」

「ッ。どういうこと?」

「あんなクズが次の皇帝になって

 しまったらますますこの国は

 増長します。そうなる前に、

 滅ぼす云々は置いておいても一度

 痛い目に遭わせた方が賢明かと

 私は考えます。『お前達は最強でも

 何でも無いんだぞ?』と」

「……だから、攻撃するの?」

「えぇ。幸い、まだ戦端が開かれる

 だけです。兵士達をある程度

 殺したら再度降伏を呼びかけます。

 この事は、カム達にも徹底

 しています」

「……でも、もしそこでもあの皇帝が

 渋ったりしたら……」

「まず間違い無く、市街地で虐殺が

 始まるでしょう」

 

そう言うと、皆が黙り込む。

そんな時。

 

「正直、分からないです」

シアが口を開いた。

「この国に住む人間の事は嫌いです。

 殺したいくらい嫌いです。

 ……でも、ハジメさんはそんな人達

 を守ろうとしている。私、

 何だか分からなくなってきました。

 父様たちを応援したい自分も居る

 けど、ハジメさんを助けたい自分も

 居ます」

 

そう呟くシア。

彼女にしてみれば、複雑だろう。

ここに住まう人間は亜人を虐げてきた

者達。だがそんな奴らを自分の思い人

は守ろうとしているのだから。

 

「これこそが、ある意味戦争の本質ですよ」

「え?」

私の呟きに、シアが私を見上げる。

「誰しも戦うのには理由がある。例えば

 カム達は、奪われた家族を奪還し、

 憎き敵を撃つため。……帝国の亜人

 に対する差別意識が、今回の戦いの

 原因でもあります。と言えばそれまで

 ですが、敵兵にも家族や友人は必ず

 存在します。そして、兵士になった

 者達の中には、家族や友人を守る為

 に志願した者も少なくは無いでしょう。

 彼等が亜人達から見て悪魔のようで

 あろうと、彼等もまた家族や恋人

 が居る人間なのです。だが、長く

 奪われる側であった亜人達にとって、

 そんな事はもはやどうでも良いのです。

 むしろ、自分達を虐げながら平和に

 暮していたと知れば、彼等は更に

 怒り狂うでしょう」

そう言うと、私は窓の方へと歩み寄る。

 

「奪い、奪われ。憎み、憎まれ。

 そんな負の連鎖の行き着く先が、戦争

 なのですよ。この世界が、それぞれの

 種族の間でいがみ合い殺し合って

 いるように」

 

そう呟く私に、誰も何も言わない。

やがて……。

 

「ハジメ。覚えていますか?」

「うん。覚えているよ」

ハジメは頷くと立ち上がり私と

向き合う。

 

「「私は好きにする。諸君等も好きにしろ」」

そして、異口同音の言葉を響かせた。

 

「司、悪いけど僕は、僕の好きに

 させてもらう」

 

「分かっています。私は貴方を止めは

 しません。ですが、奴らは亜人を

 虐げてきた存在だ。なればこそ、

 ここに住まう民全員が亜人達の

 憎悪の対象である事をお忘れ無く」

 

私の言葉に、ハジメは決心したような

表情で私を見返す。

 

「そうなのかもしれない。……それでも、

 僕は僕の正義を貫くよ。それが、

 どれだけ甘い考えでもね」

そう言うと、ハジメは部屋をあとにし

香織もそれを追いかけていった。

 

すると……。

「良いのですか?マスター。ハジメ殿

 が動けば、まず間違い無く帝都の

 民を助けるでしょう。しかし

 それではカム達が……」

「よい。ハジメのあの、甘さと

 紙一重の優しさは尊ぶべき物だ。

 ……それに、私は仲間を束縛

 する気などない。やりたいの

 なら、好きにやらせるだけだ」

「分かりました。マスターの御心の

 ままに」

そう言って下がるティオ。

 

さて、どうなる事やら。

 

そんな事を考えながら私は帝都の

街並みを見下ろすのだった。

 

 

やがて夜。日も暮れ闇の帳が空を覆い尽くした。

僅かな星と月明かりだけが帝都を空から

照らす。帝都各地では松明を手にした

帝国兵達が巡回している中、帝城では

リリアーナとバイアスの婚約パーティー

が行われていた。

 

そんな中で司は……。

 

『こちら第1攻撃部隊。予定通り

 ポイントに到着。『ノック(砲撃開始)

 を待つ』

『こちら第2戦車大隊。ポイント

 に到着。全機、砲撃準備完了。

 各自、第1射の目標選定に入る』

『こちら帝都包囲軍。もう間もなく

 包囲網が完成する』

『こちら第1救出部隊。第1攻撃

 部隊後方へ到着。攻撃開始と

 共に第1攻撃部隊に続いて突入する』

『こちらアルゴ艦隊。現在帝都上空を

 旋回中。空挺降下部隊の準備完了。

 いつでもどうぞ』

『こちら揚陸艇部隊。帝都郊外に

 着地し待機中。指示があればいつ

 でも奴らの都を火の海に出来るぜ』

 

帝都周辺に展開するGフォースの

各部隊から報告が上がる。

彼等は、昼間に私からの報告があった

時点で既にハルツィナ・ベースを

出発。夕方にはこちらに付いていた。

そして、戦う機会を今か今かと

待ち望んでいたのだ。

 

そして、立食形式のパーティーが行われている

中で天之河たちは勇者である事から色々

注目されているが、こちらの比では無かった。

やはり、ルフェアやユエ、シア、ティオと

言った美女がドレスで着飾って

いるのだ。雫と谷口も着飾っているが、

それでも本気度で言えばルフェア達には

遠く及ばない。

 

最もシアとユエは肝心のハジメが『居ない』

のでしょんぼり気味だが。

 

その時、私の方にガハルドから近づいてきた。

そして……。

「よぉ。聞きてぇんだが、連れの二人は

 どうした?姿が見えねぇみたいだが?」

そう言って周囲を見回すガハルド。

ここにハジメと香織の姿は無い。

 

「……貴様の国の民を守る為に、

 今頃あちこち走り回ってるよ」

「何?」

私の言葉に眉をひそめるガハルド。

「そいつはどう言う意味だ?」

「何、直に分かるさ。そう、直に、な」

私の言葉にガハルドは私を睨み付ける。

周囲が戸惑う中、私たちはいつも

通りだった。

 

と、その時、部屋に今回の主役である

リリィ王女とバイアスが入ってくるが、

何と王女は黒のドレスを纏っていた。

それを見た蒼司は笑っている。

「お~お~。姫さん凄いねぇ。

 ありゃ服と表情で『義務でここに

 居ます』って言ってるようなもんじゃ

 ねぇか」

蒼司は、傍に居る私や雫やガハルドに

聞こえるように呟く。

 

「まぁ、式前にレイプしたがるクソ

 野郎との結婚なんて願い下げだろうよ」

「何?」

蒼司の声にガハルドは彼の方に視線を

向けるが……。

 

「おっと聞こえてた?こりゃ失礼。

 さ~てと、飯飯っと」

そう言って料理を取りに行く蒼司は

ガハルドの脇を通り抜ける際に……。

 

「まぁ、精々最後の晩餐を楽しめよ、

 皇帝陛下」

そう、ガハルドに聞こえるように小さく

呟くのだった。

 

蒼司の言葉にガハルドは私を睨み付ける

がそれだけだ。すぐに戻っていった。

 

やがて、音楽が流れ始め、リリィと

バイアスの挨拶回りとダンスタイムが

始まった。

 

と言っても、リリィ王女とバイアスは

一度踊っただけですぐに離れた。

バイアスは苛立たしげだが、今の奴は

私の操り人形同然。彼女に危害を加えよう

とすれば、私の指示でそれを止める。

いや、強制的に止められるのだ。

きっと今頃奴は自分に違和感を感じている

事だろう。

 

一方私達は壁際で飲んだり食べたり

しているだけだ。ルフェアは踊りが

出来ないから、と苦笑して断り、

ユエやシアも、ハジメが居ないのに

他人と踊る気にはなれなかったようだ。

ティオも当然、踊る気は無いようだ。

踊っているのは天之河と谷口くらいだ。

坂上は料理を食っている。

 

と、その時。

「新生司様。一曲踊って頂けませんか?」

 

そう言って、リリィ王女が私に声を

掛けてきたのだ。

「……パートナーを放っておいてよろしい

 のですか?」

「えぇ。バイアス皇太子もあそこで

 愛人の女性と踊っていますし」

そう言われたので視線を向ければ奴は

確かに別の女性と踊っていた。

 

結婚式でいきなり不倫か。クズの

やりそうな事だ。と考えた後、

こういうことに詳しそうなティオに

視線を向けた。

彼女の視線から察するに……。

 

「ここで断って彼女に恥を掻かせては

 いけませんよ」、と言っていた。

ならば……。

 

「では、謹んでお受け致します。

 リリィ王女」

「はい」

 

私は恭しく彼女の手を取り、ダンスホール

の中央に導いた。

曲が始まると、私達は踊り出す。

 

そんな中で……。

「先ほどはありがとうございました。また、

 司様に救って頂きましたね」

「貴方の助けてと望んだ時、駆けつける

 とあの日約束したのは私です。

 当然のことをしたまでですよ」

私は思っている事を素直に呟いた。

のだが……。

 

「ハァ」

返ってきたのはリリィ王女のため息だ。

何故だ?

「惜しいですわ」

「惜しい、ですか?」

「えぇ。司様が、どこかの一国の王で

 あったのなら。例え政略結婚であろうと、

司様と結ばれる可能性があったのに」

……何やら彼女が問題発言を呟きだした。

 

「私は、貴方の後押しで覚悟を決めた

 つもりでした。でも、現実は非情で、

 あの人のような粗野で乱暴な男に

 嫁がなければならない。そして

 レイプされそうになった時。私は

 あなた様に助けられた。

 ふふ、女の子が一目惚れをするには

 十分ですわ」

「私に惚れたと?」

「えぇ。欲を言うのならば、私は貴方様

 のような方と、童話のような恋を

 したかった。貴方様のような方と、

 結ばれたかった」

そう言うと、王女が私に密着する。

 

「本当に、今夜するのですね?」

「えぇ。既に周辺に部隊は展開済みです」

「……そして、司様がバイアス皇太子を

 殺し、この婚約を破談にすると?」

「えぇ。……王女が望むのなら、

 バイアスは生かしておきますが?」

「……いいえ。本音を言えば、あんな

 男と結婚などしたくはありません。

 ……って言ったら、私は我が儘

 なのでしょうか?」

 

「傍目には、我が儘でしょう」

私の言葉にリリィ王女は一瞬目を伏せる。

だが……。

 

「ですが、周囲にその思いを打ち明ける

 のも重要だと思いますよ、私は」

「え?」

次いで告げられた言葉に王女は私の顔を

見上げる。

「王とは皆の前に立つ存在。その重圧

 は凄まじい。人一人を壊すのに十分な

 程の重さを持っています。

 だからこそ、その重さに潰される前に、

 誰かに頼っても良いのではと私は

 考えます。……最も、私の場合は誰かに 

 頼られる側の事が多いですが」

「では、私は、貴方を頼って良いと?」

 

「えぇ。王たちから頼られる『王』。

 それも悪くは無い。……それに、

 一人くらい王女の、いえ、リリアーナ

 と言う少女の生き方を肯定する者が

 居ても良いと思いますよ」

「ッ!」

 

その言葉に、リリィはこみ上げる涙を

何とか堪える。

 

「私が貴方を助ける理由は、打算的な

 理由かもしれませんが、それでも

 構いませんか?」

「えぇ。それでも、構いません。王家の

 姫ではなく。私を一人の少女として 

 見て、守って下さる方が貴方様ならば、 

 司様ならば……!」

 

そう言って、リリィは赤く染めた頬で

私を見上げる。

「分かりました。ならば、私の真名。

 真実の名、『ゴジラ』の名にかけて

 貴方の味方である事を約束しましょう」

「はい。ゴジラ様」

 

その言葉を聞き届けると私達は踊りを終え、

私は王女の前に甲斐甲斐しい礼をして

彼女から離れた。

 

のだが……。

「お兄ちゃん?もしかして王女様を

 落としたの?お兄ちゃんの正妻は

 私なんだよ?分かってる?」

ルフェアがめっちゃ怒ってた。

「マスター。マスターは大変魅力的

 なのですが、あまりそれを周りに

 振りまきすぎるのもどうかと

 思うのじゃ。これ以上は姫の

 心労に繋がりかねないのじゃ」

あきれ顔のティオ。

別に落としたとかでは無いのだが、

とルフェアとティオに説明している

横ではユエとシアが笑っていた。

 

だが……。

 

『こちらGフォース帝都攻撃部隊。

 全隊、配置完了』

その通信は、ジョーカーを持っていた者

全員に届いていた。

 

それと同時にガハルドが壇上に上がった。

更に偶然か、はたまた必然か。

ガハルドとカムの演説が同時に始まった。

 

「諸君、我々Gフォースはついにこの日を

 迎えた。ここに来るまで、我々は自らを

 鍛えた。全ては、奪われた家族のためだ。

 訓練は辛い物だったが、その成果を今、

 知らしめるのだ」

 

「さて、まずは、リリアーナ姫の我が国

 訪問と息子との正式な婚約を祝う

 パーティーに集まって貰った事を

 感謝させてもらおう。色々と

サプライズがあって実に面白い

催しとなった」

 

カムの演説とガハルドの演説。

 

その二つを聞いているのは、この場に居る

私達だけだ。

 

「今宵の戦いは、始まりだ。我々亜人族

 の自由を勝ち取るための戦いだ。

 ……帝国の悪行の為に散っていった

 家族や先祖達の霊が、必ずや我々を

 守ってくれるであろう。そして勝ち取る

 のだ。我々の子供達の自由を!」

 

「パーティーはまだまだ始まったばかりだ。

今宵は大いに食べ、大いに飲み、大いに

踊って心ゆくまで楽しんでくれ。それが、

息子と義理の娘の門出に対する何より

の祝福となる。さぁ、杯を掲げろ!」

 

カウントダウンは進んでいく。戦いの、

終わりと始まりのカウントダウンが。

 

このカウントダウンが終わった時。

それは帝都の終わりを意味し。

同時に亜人たちの自由の始まりを

意味する。

そして……。

 

「忌々しき歴史に終止符を打つのだ!

 我々Gフォースの!元帥の加護の

 元我々は戦い、勝利するのだ!

 皆、武器を取れ!武器を掲げろ!

 自由をっ!」

 

「「「「「自由をっ!」」」」」

 

「この婚姻により人間族の結束はより強固

となった!恐れるものなど何もない!

我等、人間族に栄光あれ!」

 

「「「「「栄光あれっ!」」」」」

 

 

そして、それぞれの演説の終了を合図

として……。

 

『『『『ドドドォォォォォォンッ!!』』』』

 

戦端を開く『鐘の音(砲声)』が響き渡った

のだった。

 

     第67話 END

 




次回は帝都での戦いです。

感想や評価、お待ちしています。

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