ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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帝都での戦いはとりあえずこれで終わりです。


第68話 一夜の攻防

~~~前回のあらすじ~~~

祖国のために結婚をすることになったリリィ

だが、彼女は肝心の相手であるバイアスに

よってレイプされそうになり、すんでの所

で司に助けられ、更にパーティーのダンス

の中で一人の少女であるリリィの味方で

ある事を告げられ、彼女は司に惚れる。

一方取引が決裂した事もあって帝都郊外

に展開していたGフォースが攻撃を

開始するのだった。

 

 

『ドォォォンッ!ドドドォンッ!』

今、帝都を囲む外壁に全方位からロング

レッグやミスラを使って砲弾とミサイル

が打ち込まれる。そして、これらを

打ち込まれてはこの世界の技術で

作られた外壁などが保つはずもなく、

壁上で警備に当っていた兵士達を

飲み込んで瓦解。瞬く間に瓦礫の

山となった。

 

「作戦第1段階成功!」

それを、上空のアルゴから見ていた

カム。そして彼は通信機に向かって

叫んだ。

「ドアノックは成功!繰り返す、

 ドアノックは成功!作戦は

 第2段階へ移行する!

 第1攻撃部隊及び救出部隊は

 突入せよ!」

「「「「「「了解っ!!」」」」」」」

カムの指示を受けて、待機していた

部隊が動き出す。

 

彼等は素早く瓦礫の山と化した外壁を

超えて帝都内部に侵入する。

ジョーカーのスラスターを使って瓦礫の山

を飛び越えた彼等は着地しすぐさま手に

してた新型アサルトライフル、

『オシリス』を構える。

 

オシリスは一言で言えば『システムウェポン』だ。

システムウェポンとは銃身などのパーツを

交換する事で突撃銃から機関銃、短機関銃

や狙撃銃などに変化する多機能銃の事だ。

 

大半のGフォース兵はアサルトライフル

である『オシリスAR』を装備し。

他の物は近接戦用のサブマシンガン

である『オシリスSMG』。分隊支援を

目的にした機関銃の『オシリスMG』

や狙撃銃の『オシリスSR』を装備

していた。

 

「何だ貴様らぁっ!」

そこに無数の帝国兵が剣を手に向かって

来るが……。

『『『『『ガガガガガガッ!』』』』』

「がぁっ!?」

「ぎゃぁっ!?」

彼等が装備しているのは銃。放たれる

7.62ミリ弾は容易く彼等の鎧ごと体を

貫いていく。

そして、ほんの数秒の射撃だけで

数十人の帝国兵を射殺してしまった。

 

「こちら第1陣。突入拠点を確保。

 拠点を維持しつつ、敵勢力を

 排除する」

そう言うと、そのハウリア兵は

部下の兵士達とガーディアン達

に指示を出す。するとハウリア達は

近くにあった物で手早くバリケードを

作り、敵の襲来を待ち構えた。

 

「うぉぉぉぉっ!鋼の化け物共めぇ!」

そこに無数の帝国兵が向かってくるが……。

「鋼の化け物ね、良い響きだ」

そう言って、Gフォースの兵士の一人

が笑うと、銃弾が彼等を撃ち抜くの

だった。

 

 

「何だ!?今の爆音はなんだ!?

 誰か状況を知らせろ!衛兵!」

ガハルドが矢継ぎ早に指示を飛ばす。

ドアを開けて武装した衛兵が現れ、

更に上司でもある武官たちに武器を

渡し、貴族令嬢や文官達を守っている。

 

敵の攻撃を疑い衛兵達を問い詰める

武官に、慌てた様子で周囲を見回す

文官に貴族令嬢達。ガハルドはこの

状況に密かに舌打ちしていたが。

彼は気づいた。この状況でも

慌てるどころか、壁際で壁に寄りかかり

飲み物に口を付けている司の姿に。

 

それを見たガハルドはすぐさま衛兵の

一人から剣を奪い、それを抜くと

司の前に歩み寄り、剣の切っ先を

向けた。

 

「よぉ、随分余裕そうじゃねか。

 ……お前ら、何か知ってるな?」

ガハルドは威圧感たっぷりに司達を

睨み付ける。

それだけで雫や光輝達は後ずさり、

リリィも雫に庇われているが既に

顔色が悪い。更に、謁見の時とも違う

圧にティオの眉が動き、ルフェアは

一滴の冷や汗を流す。ユエとシアも

若干表情を強ばらせている。

 

しかし、それでも司はどうじない。

 

「言った、そして止めたであろう。

 ハジメが」

「何?」

「忘れたか?私の部下の亜人族が、

 この帝都に囚われている亜人族

 奴隷を解放するために、戦端を

 開くと、あの時説明しただろう?

 そして取引を持ちかけた。あれは

 譲歩案だったのだよ」

「譲歩、だと?」

「あぁ。『お前達を見逃してやるから

 亜人達を返せ』、と言うな」

私の笑みを浮かべながらの言葉に、

ガハルドの額に血管が浮かぶ。

 

「ほぉ?で?」

「お前がそれを聞き入れなかったのでな。

 部下達がこの帝都を攻撃している。

 それだけだ」

 

そう言うと、私はポケットから端末を

取り出してボタンを操作し、それを

床に投げ捨てた。

 

それは空間投影式のディスプレイであり、

映し出された映像は、各地の侵入拠点

の映像だ。

現在帝都は3つの方向から攻撃を受けている。

 

『こちらゲート01!順調に帝国兵を

 迎撃中!突入の合図はまだ

 なんですか!』

『同じくゲート02!早く中に行かせろ!

 同胞を助けるんだ!』

『ゲート03!もう待てねぇぞ!

 聞いてるんすかカム総司令!』

 

3つのディスプレイに映ったのは、

無数の帝国兵がGフォースの

ジョーカー達に撃ち殺されていく姿

だった。

その姿に、ガハルドを始め多くの者達

が息を呑む。

 

「これで分かったか?これが防壁付近

 の状況だ。……幸い、今の彼等は

 防壁付近に留まっている。理由は、

 彼等の上官である私がGOサイン

 を出していないからだ。

 さて、ガハルド皇帝。もう一度

 取引と行こうじゃないか」

 

そう言って、私はガハルドと真っ正面

から向き合い、そしてガハルドを

殺気混じりの視線で睨み付ける。

「再度要求する。帝国が保有する全て

 の亜人族奴隷を解放せよ。 

 これが最後通告だ。これが受諾

 されなかった場合、Gフォース

 はこの帝都全てを破壊し、女子供

 までも皆殺しにするまで止まらん」

「ッ!?テメェ、そこまで手を出す

 のか!?」

「亜人を女子供まで誘拐し道具として、

 使い潰してきたのだ。自業自得、

 と言う物だ」

そう言うと、私は通信をGフォース

のジョーカーと繋ぐ。

 

「Gフォース各員へ。今、私の前に

 皇帝ガハルドDヘルシャーが居る。

 私は今彼に最後通告をしている

 所だ。これを聞いている諸君等に提案だ。

 兎人族はその容姿から愛玩奴隷

 として酷使されてきた苦い過去が

 あるだろう。皆の辛い気持ちは

 理解する。……そこで諸君らに

 提案だ。今度は諸君等が

 人族の女を性奴隷として飼育

 するのはどうだ?」

 

私の提案に、ガハルド達だけでなく

雫やリリィ、天之河達までもが

唖然となる。

だが……。

 

「「「「「イエェェェェェェェイ!!!!!」」」」」

無線機を通して返ってきたのは歓声だった。

「ははははっ!良いねぇそいつはぁ!

 これまでの屈辱の分、たっぷり

 犯してやるぜ!」

「元帥っ!早く、早く突入の合図を!

 上物の女捕まえてやるぜっ!」

Gフォースの兵士達は皆息巻いている。

 

「テメェ!正気か!こんな外道な事を!」

「あぁ、正気だとも。……そうだガハルド

 皇帝。こんな言葉を知っているか?

 『目には目を。歯には歯を』。これは

 私達の世界で初期の頃に制定された

 法だ。そしてこれに当てはめて言えば。

 『陵辱には陵辱を』、だな。貴様等は

 これまで兎人族を愛玩奴隷、もっと

 言えば性奴隷として扱ってきた。

 そんな彼等が反旗を翻せば、

 当然の報いであろう?」

「この、クソ野郎が……!」

「何とでも言うが良い。言葉で

 罵倒など、所詮は何の力も無い。

 現に、こちらの有利に運んでいる

 のだからな?」

 

そう言って私は、ニヤァと笑みを浮かべる。

 

あとで雫達に聞けば、この時の私の笑み

は、三日月のような、いつぞやの

中村恵里のようだったと物語っていた。

それはさておき。

 

「さてガハルド皇帝。改めて聞こう。

 ……降伏か?戦闘継続か?

 貴様の頭でよく考えろ。

 このままだと、帝都民、特に女は

 凄惨な末路を迎える事になるぞ?

 貴様の決断一つでな」

「ぐっ!?」

「彼等は私には忠実だ。止める指揮権

 が私にはある。彼等をこのまま

 引き下がらせる事だって出来る。

 ……全ての亜人族奴隷を解放すれば、

 の話だがな」

 

「ふざけやがってっ!こっちの兵士を

 大量に殺し、防壁を破壊しておいて!

何を今更!」

「この戦いは亜人族の兵士達が望んだ事だ。

 奪われた者の復讐。……どうやら貴様

 は、頂に登りすぎて足下が見えなく

 なっていたようだな」

「何だと!?」

 

「確かに強者が皆を率いるのは普通だ。

 我々G・フリートもそうだ。だから

 こそ私が指揮官をしている。 

 だが、強さを追い求めただけで、

 貴様には『欠けている』物がある」

「っ!?何っ!?」

 

「そして、『それ』が欠けているから

 多くの者に、亜人達に恨まれるのだ。

 更に言えば、その現実が、憎悪が、

 こうして帝都を襲っているのだよ」

 

そう言って、私は勝ち誇った笑みを

浮かべる。

 

「さて、そろそろ回答を聞かせて貰おうか。

 降伏か?戦闘継続か?」

「ッ!舐めるなぁっ!」

そう言うと、ガハルドは私に斬りかかった。

私はその剣を片手で受け止め、握りつぶして

粉砕する。

 

「テメェが頭なら、ここで倒して奴らを

 止めさせるだけだ!」

次の瞬間、繰り出される蹴りを私は

バックステップで回避する。

すると、周囲の武官や衛兵たちが私達を

囲む。もちろん、傍に居た天之河達や

リリィごとだ。

 

「成程。それが貴様の選択か。

 ならば……」

私は通信機に呼びかける。

 

「カム。お前たちの出番だ。後は好きに

 暴れろ」

『了解であります元帥。あぁ、それと、

 そこを動かないよう、周りの連中

 にも伝えて頂けますか?』

「あぁ。……天之河。それと坂上達も。

 そこを動くな」

「新生!?何言ってるんだ!お前のせい

 でこっちは!」

「動くなと言っている。……まぁ、

 見ていろ」

 

そう言って、私は壁の方に目を向ける。

それをチャンスと見たのか何人かが

魔法の詠唱を始めるが……。

 

『ドガドガァァァンッ!!!!』

次の瞬間、壁が吹っ飛んだ。

更に、飛び散った瓦礫が衛兵や武官

たちに襲いかかり、何人かが頭に

瓦礫を食らって昏倒する。

 

「くっ!?何だっ!?」

戸惑うガハルド。と、その時。

 

「ガハルド・D・ヘルシャー」

ミスラからの超長距離狙撃で破壊された

壁の穴から人影が飛び込んできた。

左肩を白くペイントした紺色の

ジョーカー、タイプHC。

 

即ちGフォース司令、カム・ハウリア。

更に彼に続いて何人ものジョーカーを

纏ったGフォース兵士が飛行してきて

穴へ飛び込み、着地をするとオシリス

SMGを構える。

そして、カムもまた私の与えた

ヴィヴロブレード、白虎を抜いた。

彼等は上空のアルゴから狙撃して

壁をぶち抜き、ここまでアルゴから

空挺降下してきたのだ。

更に言えば、ここ以外にもガーディアン

の空挺部隊が降下し城内の帝国兵を

殺し回っている。

 

「その首、もらいに来たぞ」

「テメェは……!?」

 

「我が名はカム・ハウリア。

 元ハウリア族族長にして、

 現Gフォース総司令の任を

 ここにおわす偉大なる主、

 新生司元帥から授かった者。

 そして、今日、貴様たち帝国民

 から亜人達を解放する者の名だ。

 覚えておけ」

「テメェ、兎人族か……!

 だが舐めるなよ!こちとら、力で

 のし上がってきた国なんだ!

 お前達、行くぞっ!」

「「「「「はいっ!」」」」」

ガハルドの喝によってすぐさま動ける者

達で前衛を作り、その後ろにガハルドと

バイアス。更に後ろでは衛兵たちが

文官や貴族令嬢達を守っている。

 

まずは前衛連中が火球を魔法で放った。

『『『『ドドドドォォォンッ!』』』』』

着弾する火球。

「やったかっ!?」

魔法を放った誰かが叫ぶ。

 

「あ~あ~。自分からフラグ

 おっ立ててやんの」

と、私の傍で蒼司が笑っている。

そして、その通りだった。

爆炎が晴れると、そこには無傷で

立っていたカム達のジョーカーの

姿があった。

 

「ば、バカなっ!?」

「その鎧は大迷宮で、ベヒモス以上

 の魔物との戦闘を考慮して

 設計している。貴様等如きの、

 ちゃちな魔法では傷一つ付かんよ」

そう言って勝ち誇った笑みを浮かべる司。

 

とは言え、銃は繊細な武器だ。今の熱で

フレームの一部が融解してしまった。

「やべぇな、銃が壊れた」

そう言って、兵士の一人がポツリと呟く。

「あ~、俺のもだ。バレルが解けた」

何とも緊張感の無い声で話す兵士達

だが、武官達は、チャンスだ!と

言わんばかりの表情だ。

 

すると……。

「どうすっか?」

「とりあえず、モードGで行くか」

「あぁ、それ良いね」

そう言って、笑みを浮かべる兵士達。

しかしモードGを知らないガハルドは

怪訝な表情を浮かべる。

 

そして……。

「「「「「モードG、解放っ!」」」」

兵士達が叫んだ次の瞬間、ハジメ達

がかつて変化したように、両手両足

と背中に背鰭のようなパーツが

展開され、更に尻尾が展開される。

 

「な、何だ!?」

更にモードGを解放した事で周囲に

エネルギーがオーラとなって放出

される。これには奴らも戸惑う。

そして、彼等が私の方を見る。

 

「まぁ、好きに殺せ」

「ッ!新生!」

天之河が声を荒らげるが無視する。

「へへっ、じゃあ、そう言う事で!」

次の瞬間、兵士の一人が飛び出す。

 

床を踏み砕いての跳躍。そのまま

前衛の武官二人の頭を掴んで床に

後頭部から叩き付ける。

バキャ、と言う音と共に頭が粉砕される。

「き、貴様ぁっ!」

斬りかかろうとする別の武官。

「まずは一人ぃっ!」

「はっ!?」

気づいた時には遅い。

もう一人のハウリア兵のドロップキック

を食らい、吹き飛ぶ事なくその場で

爆散。四方八方に血をまき散らしながら

消えた。

 

「ひっ!?」

これにはさしもの武官や衛兵達も怯える。

そして、その怯えが死をもたらす。

「もう一人ぃっ!」

最初に二人の頭を割り砕いた兵士が

怯える武官の顔を鷲づかみにし、

そのまま握りつぶす。

彼の紺色のジョーカーが人の血で

赤黒く染まっていく。

 

武官と衛兵たちは完全に萎縮するが、

たった二人の猛攻は止まらない。

「その程度で、俺等を殺れると

 思うなよなぁ!」

拳で頭を粉砕し、蹴りで切り裂き、

尻尾でぶった切る。

 

前衛連中はあっという間に二人の兵士に

蹂躙され、瞬く間に半数が命を落とした。

あちこちで悲鳴が鳴り響く。

その間、私は自分でグラスに飲み物

を注いで、それを飲み干していた。

 

我ながら、ここに来てからダークな役

をしているな、と考えながら。

 

そして、ガハルドの後ろでは文官と

貴族令嬢たちが怯えていた。

と、その時。

「あ~あ~。あの二人派手に

 やってんな~」

その時、彼等の後ろから声が聞こえた。

慌てて振り返ると、そこにはモードG

を解放したハウリア兵が2人、

立っていた。

「んじゃ、俺等も派手に行きますか」

「ひぃっ!?」

悲鳴を上げる令嬢達。

 

「ッ!?いつの間に!」

振り返るガハルド。だが、遅い。

文官も、令嬢も、護衛の兵士達も。

その半数が一瞬で、ジョーカーから全方位

に放たれた斬撃によってバラバラに

切り裂かれた。血が雨となって

床に血の水たまりを作る。

 

「貴様らぁっ!」

「おいおい皇帝陛下。俺等は

 無視か?」

その時、ガハルドの背後から聞こえた

声。振り返ると、前衛の壁を突破

してガハルドの前にジョーカーを

纏った2人の兵士が立っていた。

 

まだ前衛連中は残っていたが、

もはや戦意喪失も甚だしい様子だ。

文官と令嬢連中も壁の隅で

『死にたくない』と連呼しすすり泣いて

居る。

 

その時。

「この、奴隷風情がぁっ!」

ガハルドの隣に居たバイアスが兵士の

1人に斬りかかる。好都合だ。

 

『バンッ!』

私はトールを抜き、バイアスの頭を

炸裂弾で吹き飛ばした。

頭の無くなったバイアス『だった』

体が床に倒れる。

 

これで、残っているので戦う気がある

のはガハルド1人だけだ。

そのガハルドを囲んでいる4人は

モードGのまま笑っている。

 

そこへ。

「これが、本当に最後の通告だ。

 ガハルド・D・ヘルシャー。

 ……降伏するか?」

そう呼びかけたのはカムだ。

「ふざけんなっ!誰がテメェら

 なんかに!」

大勢の仲間を殺され頭に血が

上っているのだろう。その目は

血走り、殺気に満ちていた。

 

だが……。

「残念だよ皇帝。ここで引いて

 くれれば、帝都が更地にならず

 済んだものを」

「ッ!?なん、だと……!?」

強ばるガハルドの表情。

 

その間に、カムはどこかに通信を

繋げた。

「アルゴ2。こちらカム。亜人達の

 避難状況を知らせ」

『こちらアルゴ2。現在亜人族奴隷

 は全員救出完了。彼等は救出

 部隊が護衛する揚陸艇で現在

 戦線を離脱中です』

「そうか。帝都内に仲間は?」

『現在包囲網まで下がっています。

 帝都内に居るのは総司令たちだけ

 です。……使うんですか?』

カムとの通信は周りに聞こえるように

なっている。使う、と言う言葉に

ガハルド達の表情が強ばる。

 

「そうだ。直ちに『凶化型MOAB』

 による帝都爆撃を行え。こちらは

 元帥の結界があるから大丈夫だ。

 ……帝城以外、全て焼き払え」

『了解っ!』

嬉々とした声でオペレーターが答える。

 

「貴様っ!何をっ!」

カムに突進しようとするガハルド。

だが、モードGを解除したハウリア兵

がその行く手を遮り、腹を殴って

呻かせると、4人がかりでガハルドを

床の上に倒した。

 

「そこで見ていろ皇帝。貴様に、

 奪われる苦しみという物を

 教えてやる」

そう言うと、カムは私の方を見て

頷いた。

 

私はすぐさま帝城を包む多重防護結界を

展開する。

体内のレーダーで上空に目を向ければ、

1機のアルゴがこちらへ向かって来ている。

私は通信を聞こえるように手首の

端末を操作する。

 

『こちらアルゴ4。コースに入った。

 目標確認。爆弾倉の扉を解放する。

3、2、1。ハッチ開放』

着々と凶化型MOAB投下の準備が

進んで行く。

「待て!止めろ!おいっ!やめろって

 言ってんだ!クソッ!テメェ等!

 何をする気だ!?おいっ!」

喚くガハルドだが、ジョーカー

4人に抑えられては喚くことしか

出来ない。

 

その時。

「本気なの司?この町を、帝都を、 

 本気で爆撃する気なの!?」

雫が私に詰め寄り来ていた服の襟

を掴む。

「えぇ。本気です」

そう言うと……。

『パァンッ!』

雫の平手打ちが、私の頬を襲った。

 

「リリィが、貴方を悪魔と呼んだのは

 正しいわ……!子供やお年寄りまで

 皆殺しにして、何も思わないのなら

 貴方は、正真正銘の悪魔よ!」

「……」

雫は、涙を流しながら叫ぶ。

私は何も言わない。だがそれでも、

雫が何故泣いているのかは、私には

分からなかった。

 

その時。

『ターゲットエリアに接近。

凶化型MOAB、安全装置解除。

投下用意。カウントダウン開始。

10、9、8、7……』

「おいっ!やめろっ!やめさせろっ!」

ガハルドはカムと司に向かって叫ぶ。

だが、2人は止まらない。

 

『4、3、2、1』

「やめろぉぉぉぉぉぉっ!」

『凶化型MOAB、投下』

 

無線機から聞こえる無慈悲な声。

そして穴から見える外に目を向けると、

漆黒の爆弾、凶化型MOABが1発。

帝都に向かって落下してきた。

 

そして……。

『カッ!』

着弾。と同時に閃光。そして……。

 

『ドォォォォォォォォンッ!!!!!!』

凄まじい爆音が結界を超えて帝城

内部の空気を震わせる。まぁ、実際には

上手い具合にシールドを調整して爆音

を聞かせているだけだが。

 

帝都へと目を向ければ、そこには、

『瓦礫の山』しか残っていなかった。

私の結界に守られていた帝城以外の

全てが吹き飛び瓦礫の山となった

のだ。僅かに残っていた外壁や、

民家の全てを吹き飛ばした。

もうもうと立ち上る煙が星空と月を

覆い隠し、各地で瓦礫が燃えている。

その時、包囲網の部隊がわざわざ何十発

と照明弾を打ち上げ、帝都だった瓦礫の山

を照らし出した。

 

私が目配せをすれば、ハウリア兵たち

がガハルドを解放する。

拘束が解かれたガハルドは、呆然と

した表情で壁の穴の傍に歩み寄り、

その場に膝を突いた。

 

「こんな、こんな事が……」

呆然とするガハルド。そろそろか。

 

「さて、いい加減諦めも付いた

 だろう。……亜人族奴隷全ては

 既にこちらの手中にある。

 今度は、樹海への貴様等の

 侵入を禁止させて貰おう」

「ッ!?新生!お前、いい加減にしろ!

 どれだけの事をすれば気が済むんだ!

 自由のためとは言え、これは

 やり過ぎだろ!?」

「黙っていろ」

私は天之河を一瞥すると、ガハルドに

向き直る。

 

「どうなのだ。ガハルド・D・ヘルシャー」

「……あぁ、分かったよ」

私の問いかけに、ガハルドは力無く頷く。

「もう、亜人族に手を出すことはしない。

 樹海にも手を出さない」

どうやら心が折れたようだ。今のこの

男は、皇帝と呼ぶには弱々しい

無様な姿をさらしている。

 

「分かった。言質を取ったぞ。今後、

 それが破られた場合は貴様の命を

 貰う。そして、『彼等』の命もな」

「は?」

 

私の言葉にガハルドは呆けた声を漏らす。

 

私は端末を操作し、ディスプレイを映し出す。

そして、ある一点を映し出した。

すると……。

 

「あれ、は?」

真っ先に雫が口を開いた。

 

そこに映っていたのは、巨大な紫色の

ドーム型結界だった。それが、帝都が

あった場所のすぐ傍で展開されていたのだ。

「何、あれ」

谷口も疑問の声を漏らす。

 

そのドームの大きさは、帝都が入るのでは

と思う程だった。

と、その時。

『バリィィィィンッ』

ドームが音を立てて崩壊した。

 

崩壊したドームの中から現れたのは、

モードGを解放したハジメと香織の

ジョーカーと、そして……。

 

数万にも及ぶ帝都の民達だった。

 

「何!?」

「お、おいっ!あれってここの人達

 じゃねぇか!?」

戸惑う天之河と坂上。

 

「ど、どういう、事だ。なんで、

 あいつらが……」

 

ガハルドは、困惑の表情を浮かべて

立ち上がる。生き残っていた武官と

文官、衛兵たちもだ。

「リリィ王女達が入ってくる直前、

 私は言ったはずだが?」

そう言って、私はガハルドの前に立つ。

 

「『ハジメと香織は貴様の国の民を

 助ける為にあちこち走り回って

 いるぞ』とな」

「ッ!?じ、じゃあ……」

「あぁ。彼等は死んではいない。

 それと、折角だ」

 

そう言うと、私は穴の傍に立ち、右手

を前に翳して力を解放した。

そして、空間そのものに再生魔法を

付与し、『空間の時間』を巻き戻す。

 

すると、先ほどの爆発で吹き飛んだ

はずの帝都が見る間に再生され、

更にそれが、魔人族襲撃前まで

巻き戻る。あの襲撃で破壊された

コロシアムも元通りだ。

 

「ついでだ。帝都を元通りにしておいて

 やったぞ」

「は、ははっ、ついで、で無くなった町を

 元に戻す奴がいるのかよ」

私の帝都修復に、ガハルドだけでなく、

生き残りの武官や文官達が呆然と

なっている。

さて、良い機会だ。

 

「皇帝ガハルド・D・ヘルシャー。

 並びに、ここに生き残っている帝国 

 重鎮諸君に告げる。先ほど、君たちの

 王ガハルドは亜人族、延いては樹海

 に手を出さないと言っていた。

 今後、帝国がこれを破り樹海へ

 侵攻。或いは亜人族を奴隷として

 捕獲、ないし奴隷として扱った場合、

 今後Gフォースは一切の容赦無く、

 貴様等全員の命を奪いに来るであろう。

 ……だからこそ、死にたくなければ

 二度と亜人に手を出すな」

私は殺気を滲ませながら語る。すると

生き残り達は皆一様に震えながら

頷いた。

 

その後、生き残りはハジメと香織に案内

され帝都へと戻ってきた。

とは言え、それは時間が掛かる。そして

ついに夜が明けてしまった。

 

私は帝城の穴から帝都の様子を

見下ろしていた。

 

「あ、あの、司」

その時、後ろから雫が声を掛けてきた。

「何でしょう?」

「その、司は、知ってたの?

 帝都にもう人が居ないって、分かってて

 爆撃したの?」

「えぇ。それが何か?」

「ッ」

 

 

この時、雫は真実を聞いて戸惑った。

「じ、じゃあ、さっきの、その、女の人

 を捕まえて、れ、レイプしろとか

 って命令は……」

「あれはハジメが民間人を逃がす時間稼ぎ

 のためについた嘘ですよ。と言うか、

 砲撃が始まった時点でハジメと香織が

 避難誘導を始めてましたし」

「で、でも病院とかの人達は……」

「それもハジメと香織のガーディアン部隊

 が運び出しました」

「じゃあ、民間人の、被害って……」

 

「多少はありましたよ。ハジメと香織は

 避難誘導の際、亜人族奴隷を置いて行く

 ように説得していましたが、奴隷商

 などは忠告を無視して街中に残った

 りしていたので、Gフォースの

 救出部隊と戦闘になって殺された

 でしょう。……とはいえ、それも

 帝都住民全体から見れば、微々たる

 人数でしょうが」

「じゃあ、全部演技だったの?」

「えぇ。元はと言えばMOABの投下

 はGフォースの力を見せつける、

 示威行為のような物でした。

 彼等が亜人族を解放したとしても、

 また攻めてくる可能性があります。

 その可能性を潰すために、Gフォース

 には敵わないと言う確たる証拠を

 見せつける必要があったのです」

「それが、さっきの爆弾。MOABなの?」

「えぇ」

「そんな、じゃあ、私さっき……」

そう言って、雫は先ほど司を叩いた

右手を左手で握りしめた。

 

 

「まさか、お前に一杯食わされるとはな」

その時、ガハルドが2人の方に近づいてきた。

「ッ、陛下」

それに気づいて振り返る雫。

「あれが演技とはな。……けど、何だって

 あの2人は民を助けた。何でだ」

ガハルドが問いかけても司は振り返らない。

 

「あの2人にとって、帝都の民は赤の他人

 だろうが。何でだよ」

「……それだよ」

「あ?」

司は、振り返る事なく答える。

 

「例え赤の他人であろうと、目の前で

 消えそうな命を守るために全力で

 立ち向かう姿勢。強者として

 弱者に手を差し伸べる姿勢。

 それが貴様に欠けていた物。

 『優しさ』だ」

「……俺に欠けていた物、か」

 

「そうだ。そして、私にも

 欠けている物だ。だが、それを

 補って余り有る優しさを持っている

 のがハジメと香織だ。私が

 G・フリートの『力』だとするの

 なら、2人は『優しさ』だ。

 誰もが同じ方向を向いているだけ

 では、成せない事もある。

 今回のようにな」

司の視線の先では、ハジメは年老いた

老婆や子供達を助けていた。

 

「もし仮に、ハジメと香織が私の指示

 に従うだけだったなら、帝都は

 民諸共MOABで吹き飛んでいただろう。

 元々私はそのつもりだった。

 だが、ハジメたちは自分の意思で動き、

 彼等を救った。それが現実だ」

そう言うと、司は踵を返して

歩き出した。

 

「ハジメと香織に感謝しておくのだな。

 そうで無ければ、この国はとっくに

 滅んでいたのだから」

 

ガハルドの傍を通るとき、司はそう呟き、

そして、あの時ハジメが自分を

追いかけてきた時のことを思い出すの

だった。

 

 

「司っ!」

謁見を終え、廊下に出た私をハジメが

追いかけてきた。

 

「司、どうしても確認しておきたいんだ。

 ……ハルツィナ・ベースの基地で

 見た爆弾。MOABを、使うつもり?

 それで、帝都の人達諸共、ここを

 吹き飛ばすつもり?」

「もし仮に、最後の最後までガハルド

 皇帝が奴隷解放を渋った場合は、

 それも考えていますが?」

「……つまり、帝都の人達が死んでも、

 司は構わないんだね」

 

「……。ハジメ、彼等は皆平等に 

 亜人を奴隷と見下してきました。

 その点から言えば、この帝都に

 住む人間全員が、Gフォースの

 敵なのです」

「……そうなのかもしれない。

 カムさんやパル君たちから

 したら、ここの人間は民間人

 だろうと敵として憎んでいる

 のかもしれない。……でもね

 司。それが彼等の正義だと

 言うのなら、僕にも、僕の

 正義がある。例え赤の他人

 でも、目の前で消えそうな

 命を助けたいって思う心が

 ある。……だから、今は、

 僕は司のやり方に反発するよ」

「……そうですか」

 

 

それは、ある意味で初めてハジメが

司に反発した瞬間だった。

これまで司がリーダーであり、皆が

彼の意見に反発することなどなかった。

ハジメは内心、冷や汗を流していた。

だが……。

 

「分かりました。ならば、好きにして

 下さい」

「え?」

だから、司の言葉が以外だった。

「い、良いの?」

「えぇ。……かつて、私はこう

 言いましたよね。『私は好きにする。

 諸君等も好きにしろ』、と。それは

 ハジメ達も同じです。私は貴方達に

 選択を強要したことはないつもり

 です。……選択肢はいつだって

 オープンです。だからこそ、ハジメ。

 貴方は貴方の好きなように動いて

 下さい」

「司。……ありがとう」

ハジメは礼を言うとどこかへと

駆け出した。

 

恐らく、カム達の説得に向かったのだろう。

その背を見送りながら、私は思う。

 

彼のように、例え相手がどんな人間で

あろうと、それを助ける為に全力に

なれるハジメのような存在こそが、

『英雄』と呼ばれるに足る存在

なのだと。

 

 

そして、ハジメの選択は帝都民の大半を

救う現実となったのだった。

 

     第68話 END

 




次回、もしかしたらもう少し帝都での話を
書くかもしれません。

感想や評価、お待ちしてます。

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