ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回は色々オリジナル要素が混じってます。


第70話 変革の欠片

~~~前回までのあらすじ~~~

帝都での戦いを終え、ハルツィナ・

ベースへと戻る司たち。その道中で

司は雫と対話し、何気に彼女の好感度を

振り切ったりしつつもベースに無事

帰還。司は帝都民の生き残った事に

不満を持つ兵士達を宥めるべく演説を

し、彼等に新たな目標を教えるの

だった。その後、基地にきたアルテナ

の求めに応じて、司たち、光輝達、

蒼司、カムたち、アルテナは

フェアベルゲンに向かうのだった。

 

 

フェアベルゲンへと到着した私達。

そしてカムやパル、兵士達が車外に降りると、

多くの亜人達が彼等に頭を下げたり

手を振っている。

どうやら、Gフォースの名はすでに

フェアベルゲンに広まっているようだ。

 

「さぁ、こちらへ」

その時、アルテナが私の右隣に立って

右手を取った。しかし……。

『バッ!』

すぐさまルフェアが私の右手を取り返す。

「じゃあ、早速案内してくださいね?」

そう言って笑うルフェアだが、背後の

オーラ(プレデター)から見て絶対に

笑っていないのは丸わかりである。

「は、はいっ」

 

アルテナはガクガクと震えながら案内を

しはじめた。

しかし……。

「ルフェア、成長した」

「うんうん。見事な威圧感だったよ」

何故か後ろで納得しているユエと香織。

「……何で香織は納得してるのかしら?

 説明してくれる?南雲君」

ため息交じりに問いかける雫。

「うん。いや、その。香織とユエちゃん。

 よくあんな風に威圧感でバトルしてる

 から。……前はルフェアちゃんも

 バトルしてる傍で怯えてる

 だけだったんだけど、きっと香織と

 ユエちゃんの戦いを見る内に成長

 したんだよ」

「……あの二人はいつもどんな戦いを

 してるのよ」

雫は、更にため息を漏らすのだった。

 

その後、アルテナに案内され私達は

アルフレリックや他の族長たちが待つ

広間へと通された。

私達が最前列に座り、その後ろに

ティオや天之河たち。更にその後ろに

パルや兵士達が起立している。

ちなみにリリィ王女はハルツィナ・ベース

で待機して貰っている。

 

「それで、孫娘を使者にして私達を呼び

出したが、何の用だ?アルフレリック」

「あぁ、お前さん達を呼んだのは他でもない。

 いくつか話があっての。まずは、お前さん

 に礼をしたいのじゃ」

「礼だと?」

「うむ。お前さんが鍛えたGフォースの

 力があってこそ、魔人族から樹海を

 守り抜く事が出来た。それだけでなく、

 こうして多くの同胞達がこの地に

 戻ってきた。それについて、何か

 お主に報いようと思っての」

「成程。その方法は既に決まっている

 のか?」

「あぁ。そっちのカムについては色々

 考えてあるのじゃが、お前さんの

 方にはまだじゃがの」

 

「そうか。ならばちょうど良い。その 

 報いる方法とやら、私の提案を

 聞く事だ」

「ほう?提案とな。して、その内容は?」

 

「難しい事ではない。……現在、カム

 率いるGフォースは、亜人を下に

 見るこの世界の常識を覆すために

 動き出した」

私の言葉に、アルフレリックだけではなく

他の族長たちも興味を引かれている。

 

「そこで私は、一つの町を作ろうと

 考えている」

「町とな?」

「そうだ。その町では技術を安く、

 或いはタダで学ぶ事が出来る。

 ジャンルも豊富だ。農作や牧畜、

 料理や製造技術。服飾。建設。

 ありとあらゆる技術を学ぶ場所、

 『学校』を中心とした町だ」

「ほう?学び舎を中心とした町とな」

「そうだ。生きていく以上、人には

 服や食事、更にはその他諸々様々な

物が必要になる。それを全て自分

で用意する事は簡単ではない。

だからこそ、世界というのは

大多数の人間が自分に出来る仕事で

他人に貢献しながら、他人に頼って

生きている。それは、亜人だろうが

人間だろうが、もしかすると

魔人族だろうが変わらないだろう。

 それが、社会と言う物だ」

人、更には魔人族という言葉に族長の

一部が苦い表情を浮かべる。

 

「私の作る学校は、そういった社会で

 働く人材を育てる場所だ。そして

 更に学校を中心として家や市場など

 を作り出す。更に言えば町の

 警備員や監視員。食料や物を売る

 店など、様々な人間が集う場所。

 私はこの場所を、仮の名では

 あるが、『始まりの町』、

 『アルファ・シティ』と名付けよう

 と思って居る」

「アルファ・シティ。……して、それが

 我々と何の関係が?」

 

「アルファ・シティは、凶悪殺人犯 

 でも無い限り、人種を問わず来る者

 を拒まない。技術を学びたいと言う

 のなら、女子供、老人であろうと

 それなりの生活環境を用意する

 意思がこちらにはある。

 当然、亜人であろうと来るなとは

 一切言わない。学びたいと言う

 のなら、アルファ・シティは

 喜んで歓迎しよう。お前には、

 このアルファ・シティの話を

 フェアベルゲン内で広めて欲しい」

「成程。……それがお前さんたちに

 助けられた事に対する恩返しに

 なるのなら……」

 

「ちょっと待て!」

アルフレリックが頷こうとしたとき、

虎人族の族長、ゼルが声を荒らげた。

「人種を問わず、と言ったが、それは

 忌々しい人族の奴らも、と言う事か!?」

「……そうだ」

私は頷く。それだけで、アルフレリック

やルア以外の族長が私を睨む。

 

「アルファ・シティは如何なる人種も

 拒まない。人間も、亜人もだ。

 年齢、生まれ、性別。一切を不問

 とす。当然人種による違いなども

 不問とする。人間だから偉い訳

 でもないし、亜人だから下という

 訳でもない。その逆もしかり。

 アルファ・シティでは、皆が等しく

 学び、知識と経験と技術を

 身につける町なのだ」

「そんなふざけた町の事を広めろと

 言うのか!?」

「まぁその通りだ」

 

「ふざけるなっ!誰が人間なぞと!」

「いやなら別に宣伝する必要はない。

 だが、アルファ・シティならば、

 このフェアベルゲンで学ぶ事の出来ない

 技術を知り、学ぶ事も出来る。

 ありとあらゆる知識を知る事が出来る。

 延いてはそれは、このフェアベルゲン

 発展にも繋がる。それに、それが

 古い時代を終わらせる第一歩となる」

「ッ!?古い時代だと!?どういう意味だ!」

 

「……知っての通り、エヒトは3種族の

 対立を煽り、お前達の他種族を憎み

 争う姿を見て嗤っている。

 そんな中で断言しよう。近いうちに

 エヒトによる支配は終わる。私達

 が終わらせる。そうなれば、この

 世界の命運はそこで生きる者達。

 即ち、人や亜人に託される訳だ。

 ……で?」

「な、何だ」

 

「エヒトが死んだとして、お前達は

 いつまでも狂乱の神が残した

負の遺産に縛られ続けるつもりだ?

いつまでその憎悪や蔑みを子供達

に継がせ続けるつもりだ?

憎悪の継承だと?バカバカしい」

「何だと!?貴様っ!人間の肩を持つ 

 のか!人間が、帝国がどれだけ!」

 

「高々帝国兵しか見た事の無いような奴が、

 偉そうに『人間を語るな』!」

 

私はゼルを遮り叫ぶ。

 

「貴様等は、人間の一体何を知っている。

 帝国兵以外の人間を、見た事がある

 のか?ずっと、樹海の中に籠もっていた

 貴様たちが、一体外の何を知っている

 と言うんだ?祖先から教わった事以外、

 一体人間の何を知っていると言うのだ!」

 

私の叫びに、族長達は俯く。

こいつらはそうだ。族長の座に納まって

置きながら、外を何も知らずに、人間を

一概に『悪』としている。

 

「この樹海の外に、一歩でも足を

 踏み出したことの無い貴様達が、

 人間の何を知っている。シアや、

 ルフェア達の方が、よっぽど

 人間というものを知っている。

 ……無論人間にも汚い面はある。

 だが、その一面だけしか知らない

 奴らが、偉そうに人間を語るなど

 言語道断。……シア」

「あ、はいっ」

 

「あなたはこれまで、いろいろな場所

 を巡ってきましたが、そこで

 出会った人間は、悪人だけでしたか?」

「え?そんな事無いですよぉ。

 キャサリンさんや、ちょっと

 怖いですけどクリスタベルさん。

 あと、助けたアンカジ公国の人達とか、

 あ、そう言えばリリィさんも普通

 に接してくれましたね。王都に

 居る時、香織さんやユエさん達と

 一緒にお茶したこともありましたし。

 まぁ後、ブルックの町の人達も

 ちょっと頭のネジがぶっ飛んでます

 けど、いい人達でした」

 

そうだ。シアの言うとおりだ。

確かに亜人を差別する人間は居るだろう。

だが、それが全てではない。

 

私達の世界でもそうだ。人種間の争い

はある。だが、その垣根を越えて絆を

結んだ者達も居る。

 

かつて、私のオリジナルを倒す為に、

国家の枠組みを超えて大勢の力が

結集したときのように。

 

「確かに亜人と人の差別問題は簡単に

 解決する物ではない。だが、それ

 は終わらせなければならない。

 時代を次に進めるためには、

 新しい事を始めなければならない。

 ……そのための、新時代の

 始まりの町。それがアルファ・シティだ。

 多種多様な人種が暮す町、

 『多種族共生都市』だ」

 

私の言葉に、後ろでカムやパル、

ハウリア兵やティオがうんうんと

頷き、ハジメと香織、シアと

ルフェアはどこか嬉しそうだ。

 

族長達は、ひそひそと互いに話し

合っている。

 

「一つ聞きたい」

「何だ?」

その時、アルフレリックが口を開いた。

「そのアルファ・シティとやらを

 治めるのは、誰じゃ?誰が

 町を治めるんじゃ?」

アルフレリックの問いかけに、族長達

は会話を止めて私を見ている。

 

そんな物、決まっている。

「それは『法』だ。ルールだ。

 ルールが人々を律するのだ」

「ルール、じゃと?」

「そうだ。例えばの話。Aと言う

 人物がBと言う人物から無理矢理

 金や物を奪ったとする。その場合、

 Aが人間だろうが亜人だろうが、

 牢屋に5年閉じ込める。無論

 貴族や平民など、身分の違いは

 一切認めん。偉かろうが貧しかろう

 が、最低5年は牢屋行きだ。更に

 その間に、町の清掃活動といった

 奉仕作業に従事して貰う。無論

 脱走などしようものなら、どんな

 奴であろうと即射殺する」

「それは、人間の貴族にも適用される

 のかの?」

「当たり前だ。アルファ・シティは、

 良い意味でも、悪い意味でも平等だ。

 貴族だろうが王族だろうが、法という

 ルールを守れないのなら牢屋に

 ぶち込むだけだ。そこに、亜人や

 人間等という種族の違いもまた

 存在しない。窃盗を行えばどんな

 奴だろうが、牢屋にぶち込む。

 それが『法』という物だ」

 

「良い意味でも、悪い意味でも平等、

 と言う訳じゃな」

「そうだ。それと、付け加えるがもし

 アルファ・シティへ行く事を本人

 の意思で希望している場合、

 例え族長でもそれを妨害する事は

 許さん」

「な、何だと!?」

「部族の長だからといって、個人の

 自由意志を奪うな。そう言って居る

 のだよ。彼等は自分の意思で外

 に出て学ぶ決心をしたのだ。それを

 貴様等の勝手な考えで邪魔された

 のであっては、たまらんからな」

「貴様ぁっ!」

族長、特にゼルとグゼが私に、

襲いかからんばかりに睨み付けて

いるが……。

 

「分かった。私の方から広めておこう」

「ッ!?アルフレリック貴様っ!」

頷くアルフレリックに戸惑うグゼ。

更に……。

「僕も賛成だね」

「ルアっ!?」

狐人族の族長ルアも手を挙げて賛成の

意思を示す。

 

「ルア貴様っ!?人間たちの都だぞ!?

 そんな場所に同胞を!人間がどれだけ

 の事をっ!?」

「確かに、人間がどれだけ酷い事を

 してきたか。親や周りから今まで

 散々聞かされたよ。……でもさ、

 その話、一体何時まで語り継ぐ

 つもりだい?それに、彼等の言う

 僕達は外を知らないって言葉。

 正直反論出来ないよね?」

「ぐっ!?そ、それは……」

ゼルはルアの言葉に声を詰まらせる。

 

「正直、僕は子供達に誰かを憎め、

 なんて教えたくは無いよ。

 そんなのはもう、教育じゃなくて

 洗脳とか、呪いだよね?」

「だからといって人間の町だぞ!?」

そこに反論するグゼ。

 

「そうれもそうだけどさぁ。

 ねぇ新生司。そのアルファ・シティ

 は法があるわけだけど、その法の

 執行者は誰になるんだい?」

「それはガーディアン。つまり

 機械歩兵だ。彼等は命令された

 通り法を守る。機械なので当然

 賄賂なども通じない。むしろ

 賄賂を渡してきた時点で相手を

 確保するだろう。彼等は人間では

 無いから、欲に目が眩んで、

 なんて事も無いからな」

「成程ねぇ。……なら、僕はやっぱり

 賛成だね。僕も、新しい時代という 

 物を見てから死にたいね。

 だからこそ新しい時代の始まりの町、

 アルファ・シティにはとても

 興味がある」

 

こうして、アルフレリックとルアは

アルファ・シティに関して肯定的な

意見を貰う事が出来た。

 

ちなみにその後、カムを新たな族長

として迎え入れるとか言っていたが、

カムは『Gフォースの司令として

忙しいから断る』と言って思いっきり

それを蹴った。

 

「陛下からの命令もあるので、これから

 も継続して樹海とフェアベルゲンを

 守る事は約束しよう。だが勘違い

 するな。我々はあくまでもGフォース。

 陛下の忠実なる部下であり、仲間だ。

 Gフォースは陛下の軍隊だ。

 間違ってもそれ以外から指示を聞く

 事は無い」

とカムが言うと、アルフレリックは

盛大にため息をついた。

 

「では、Gフォースは我々フェアベルゲン

 の外部協力者、と言う事ではどう

 かの?立場は対等じゃ。我らは

 お前さん達に守って貰う、と言う

 訳じゃ。何か、対価として

 求めては居らんか?」

「ふむ。……では我々Gフォースの

 やり方に口出ししない事だな。

 守ってやる事は約束しよう。

 ただし、やり方はこちら流だ」

「……分かった」

 

こうして、Gフォースはフェアベルゲン

と対等の地位にある外部協力組織

として認められたのだった。

 

若干一部の族長たちが不満そうだったが、

帝都を一撃で吹っ飛ばしたGフォース

を相手に声高に否定するほどの猛者は

居ないのだった。

実際、カムなんか『俺達に手を出したら

MOABでここを吹っ飛ばすぞ』と

顔で言っていた。しかも殺気ましましで。

なので強く物を言えなかったようだ。

 

 

その後、私達はアルフレリックの

恩返しの一部、と言う事でフェアベルゲン

に滞在している。部屋と食事も用意

されていた。

 

夜になれば、あちこちで宴会騒ぎだ。

何故か、あれほど下に見られていたカム

やパルが席に招かれている。更に

カムの計らいで、ハルツィナ・ベース

から手の空いている兵士たちが何人

かやってきたが、皆好意的に

受け入れられている。

 

「まぁ、良いことだ」

「ん?どうかしたの?お兄ちゃん」

私はそんなカム達の様子を木々の上、

オープンテラスのような場所から、

ルフェアと共に食事をしながら見守っていた。

「いや、何でも無いよルフェア。

 ただ、カム達が輪の中心に居る

 のは上官として気分が良いだけさ」

「そっか。うん、そうだね。カムさん

 達は、今回の亜人族解放の中心

 だもんね。あ、もちろんお兄ちゃん

 も色々頑張っていたけどね」

「ふふっ、ルフェアにそう言って

 貰えるのなら、頑張った甲斐が 

 ありました」

笑みを漏らす私。

 

ちなみに、すぐ傍ではティオが控えて

おり、ハジメ達は少し離れた所で

食事をしている。シアは今、カム達の

方へ行き、一緒に食事をしながら

笑っている。天之河たちは、居た。

ここから少し離れた席で話をしながら

食事をしていた。

 

……何だかんだあったが、今回は

ハジメのおかげで良い方向に進んだ

方だろうと私は考えていた。

 

仮に、Gフォースが帝都をまるごと

吹き飛ばして、住民を全員殺してしまった

とあっては、正直対外的なイメージが

悪い。だが、ハジメと香織のおかげで

被害は最小。更に言えば、ハジメ達

二人は、あの時MOABの衝撃から

帝都民を守った事で、共に

『守護神ハジメ』、『守護女神香織』

と言う大層な二つ名で帝都民から

慕われていた。……肝心の二人がその

二つ名を聞いて羞恥に悶えていた事は

差し置いても、私だけでなく二人の

名前が良い意味で売れるのは良い事だ。

 

そう考えながら私は果実酒を飲む。

ちなみに今、私の体の中では敢えて

アルコールを分解しないようにしている。

最初は、ちょっとした気分だった。

だが、慣れない平和への言葉を散々

口にしたせいか、今日は少し、

『酔いたい』気分だったのだ。

 

その時ふと、テーブルの上にあった

飲み物、果実酒と果実水が殆ど

残っていない事に気づいた。

おかわりを貰ってこようと、席を

立とうとした時。

「お飲み物のおかわりです」

声がして、顔を上げるとそこには

アルテナの姿があった。

 

「アルテナ。どうしてここに?」

「いえ。亜人解放の英雄である司様に

 少しでもお礼をと、申しまして」

そう言うと、彼女は私のグラスに

果実酒を注ぎ、更にルフェアの

グラスにも果実水を注ぐ。

 

「それではこれで」

「えぇ。ありがとうアルテナ」

そう言って私は彼女に微笑みかけた。

「っ、い、いえっ!ではこれで!」

彼女は顔を赤くしながら去って行った。

何だったのだろう?

と思って居ると……。

 

「…………」

目の前でルフェアが不服そうに頬を

膨らませていた。

「ルフェア?どうしましたか?」

「む~!どうしました、じゃないよ

 お兄ちゃん!お兄ちゃんって最近

 モテ期なの分かってる!?」

「モテ期?私がですか?」

「そうだよ!エリセンではレミアさん

 に一目惚れされるし!王都に行ったら

 行ったで何か八重樫さんの態度も

 怪しいし!あとアルテナも!

 さっきだってお兄ちゃんに笑顔

 向けられて顔赤くしちゃってさ!

 それにリリィ王女!あの人もぜーったい

 お兄ちゃんの事が好きだよ!」

そう、だったのか。彼女達が……。

 

「ふ、ふふっ」

「え!?何笑ってるのお兄ちゃん!?

 まさか、誰か好きな人が!?」

「あぁいえいえ。違うよルフェア。

 ただぁ、私を好きになる人間がこんな 

 にも居るんだなぁって思って。

 私は、ずっと、傷付けるだけだった

 のに、こんなに慕われるなんて。

 皮肉だなぁ、と」

可笑しな物だ。散々、人の血でこの体を

汚してきた私が慕われるなんて。

あぁ、ホントに皮肉で笑みが止まらない。

 

「お兄ちゃん、もしかして酔ってる?」

酔う?あぁ、そうか、このふわふわした

感覚が、酔うと言う事なのか。

「ふ、ふふっ、そうなのかも、しれま

 せん、ねぇ」

む、うっ。いかん。段々思考が乱れて

きた。しかも、眠い。このまま、で、は……。

 

そして、私は意識を手放した。

 

 

「あ~~お兄ちゃん寝ちゃった」

テーブルに突っ伏した形でそのまま

寝息を立て始める司。

「もう、しょうが無い旦那さん

 なんだから」

そう言うと、ルフェアは席を立って

司を背中に背負った。

……何だかんだで戦いの中で鍛えられた

ルフェアだけあって、成人男性程度の

司一人くらいなら背負えたのだった。

 

「姫っ、そのような事は僕の妾が」

そこに駆けつけてくるティオ。

「ううん。大丈夫だよティオお姉ちゃん。

 私がお兄ちゃんを部屋に運んでおく

 から、休んでて良いよ」

「御意」

ルフェアの言葉にティオはすぐに下がる。

 

その後、ルフェアは司をおんぶして彼の

部屋に向かっていた。

 

そして、誰も居ない廊下を彼女一人が

歩いていた時。

 

「……ろ」

「ん?」

後ろの司が何かを呟きだしたのだ。

やがて、声のボリュームが上がっていく。

 

「生きろ。……生きろ。生きろ。生きろ」

生きろ、そううわごとのように

繰り返している。

 

それは、司の中にある『ゴジラ』として

の『生存本能』の叫びだった。

 

生物ならば、誰しもが持つ生存本能。

ハジメ達の世界へと逃げ延びた時、司

はこの本能の声に従って生きた。

だが……。

 

「生きろ。……生きて、どうする?」

やがて彼は、自分自身に問いかけた。

「生きて、何をすれば良いんだ?」

それが、彼には分からなかった。

 

あの時の演説で、司が自分の生きる

理由を見いだせなかったと言ったのは、

ここに由来していた。

進化し、力を得て、自我を獲得した

司は、ゴジラは、悩んだ。

 

自分に番いはいない。歳も取らない。

老いない、死なない。

それは生物としての『頂点』を意味する

が、同時に生物としては『異質』だった。

 

生命は生まれ、育ち、番いを得て、

子をなし、子を育て、年老いて、

次の世代へ託し、死ぬ。

 

それが生命のサイクルだ。

だがゴジラは、そのサイクルの外側に居る。

 

子孫を残すことも無く。死ぬ事も無く。

ただただ生き続ける。理由もなく。

宛もなく。ただただ彷徨い続ける。

 

そして、答えを見いだせないまま、司

は人として育った。

だが、どれだけ時を重ねても、司が

生きる理由は、生きろと囁く生存本能

に従う以外、無かった。

 

だが、それにも変化が生まれた。

そう。この世界にやって来たのだ。

 

「生きろ。生きろ。生きて、どうする?

 生きろ。生きろ。『守れ』」

「あっ」

その時、後ろで呟く司が新たな言葉を

呟いたのだ。

 

「生きろ。守れ。生きろ。守れ。

 守れ。ハジメを、香織を、仲間を、

 みんなを守れ」

生きる意味を見いだせなかったゴジラ。

それが、変わったのだ。この世界で、

友と絆を深めた事で。

 

彼女や新たな仲間と出会う事で。

 

「仲間を、みんなを、ルフェアを守れ。

 生きて、守れ。大切な、仲間を。

 家族を。……失わぬ、ように、

 生きて、守って、戦え」

 

それが、今の彼の生きる理由だった。

 

孤独だったゴジラが、いつの間にか、

愛する存在と、仲間に囲まれていた。

隣に誰かが居てくれる温もりを知る

事が出来た。

 

もう、ゴジラは、司は孤独ではない。

だからこそ……。

 

「守れ。命に、替えても、皆を……。

 ルフェアを、守れ」

 

彼はその身を賭けて仲間と愛する人を

守る。彼自身の本能が、心の中で

常にそう叫んでいるのだ。

 

彼の言葉に、ルフェアは笑みを浮かべ

ながら顔を赤くするのだった。

 

やがて、ルフェアは部屋に着くと静かに

司をベッドに寝かせ、彼女はそのまま

添い寝のために彼の横に自分の体を

横たえた。

 

ルフェアは静かに司の横顔を見つめる。

「大丈夫だよ。私達は、ずっと

 お兄ちゃんの傍に居るよ」

そう言うと、ルフェアは彼の頭を

自分の胸に抱いた。

 

「私達はお兄ちゃんより弱いかも

 しれないけど、ずっと、傍に

 いるから。ずっと、一緒だから。

 だから、これからもよろしくね」

『チュッ』

 

ルフェアは、司の額にキスをして……。

 

「私達の、『怪獣王』様」

 

『チュッ』

そう呟き、頬にキスをするのだった。

 

     第70話 END

 




次回からハルツィナ樹海の大迷宮に突入します。
お楽しみに。

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