ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回からハルツィナ樹海の大迷宮編です。
あと、私情なのですが、私はシフト制の会社に就職したので、休みが不定期で平日に更新される事が増えると思いますので、よろしくお願いします。


第71話 大樹の中へ

~~~前回のあらすじ~~~

アルフレリックの使いであるアルテナに

呼ばれてフェアベルゲンへとやってきた

司たち。そんな中で、司はアルフレリック

からのお礼に対して、彼が考えていた

アルファ・シティの話を広めることを

提案。他の族長たちに反対こそされた

ものの、アルフレリックなどからは

納得を得られた。その日の夜。司は

ルフェアとの食事の中で酒に潰れて

しまい、ルフェアは司を部屋に運ぶ中で、

彼の本能の呟きを耳にするのだった。

 

 

宴会騒ぎのあった翌朝。私達は

ハルツィナ・ベースに連絡を入れてから、

フェアベルゲンから直接大迷宮の入り口

と目されている、大樹へと向かう事に

した。

 

基地に通信した際。

「皆さん。それに司様。どうかご無事

 の帰還をお祈りしています」

通信機から聞こえるリリィの声。

しかしそれは傍に居た皆にも聞こえて

いた訳で……。

 

「え、えぇ。分かりました」

私でも若干、声が引きつるほどの

圧迫感をルフェアが放っていた。

傍に居たハウリア兵達はガクブル。

カムに至っては……。

「さ、流石は皇后様ですな。陛下の

 妻に相応しいオーラです」

そう言って冷や汗を流していた。

……何だか、昨日よりもルフェアの

威圧感がパワーアップしている気が

するが、考えないでおこう。

『これ以上、お嫁さん候補増やさないでね?』

とルフェアが視線で訴えている気がするが、

気にしないでおこうと思う私だった。

 

その後、私達は亜人族たちに見送られ

ながら、徒歩でフェアベルゲンを出発

した。

 

大樹までの道のり、襲いかかってくる

魔物の対応は、天之河たち4人に任せている。

オルクス以外で魔物との戦闘経験が無い

彼等のウォーミングアップのためだ。

 

とは言え、霧の影響で間隔が狂っている

ので苦戦を強いられている。

どうしようもない時は……。

 

「あらよっ!っと!」

蒼司が対応している。今も、息切れの

合間を狙って天之河に襲いかかった猿の

ような魔物を、蒼司がヴィヴロブレード

のガルグイユで切り裂く。

 

「気を付けろよ。奴らは霧の中から

 奇襲してくる。ヒット&アウェイ、

 一撃離脱戦法って奴だ。んでもって 

 奴らは霧の中でもお前等が分かる。

 無闇に突っ込むなよ。思うつぼだ。

 谷口以外は、カウンター狙っていけ。

 んで谷口は防御担当だ。気をつけろ

 よぉ、どっから来るか分かんねぇ

 からな」

蒼司は4人に的確な指示を出していく。

 

そうやって、魔物を退けながら彼等は

大樹、ウーア・アルトへと向かっていた。

その道中。

 

 

「ハァ、分かってた。分かってたけど、

 この差は大きいわね」

列の後ろの方を歩いていた、ジョーカー

タイプCを纏った雫は、前を歩く、

同じくジョーカーを纏ったハジメや

香織の背中を見つめながら息をついた。

 

「性能に違いがあっても、ジョーカー

 を纏ってるのなら戦闘力にそんな

 に差が無いって思ってたけど……」

雫は、まず最初に司たちが『お手本』

と称して樹海の魔物と戦った時の事

を思いだしていた。皆、各々得意な

武器を使って、殆ど一撃で倒した

のだ。ハジメなど、後ろから襲い

掛かってきた魔物を、脇の下から

トールの銃口を覗かせ、振り返る事も

無く背後の敵を射貫いたのだ。

それを見た雫が、『南雲君って

ニュー○イプなの?』と、割と

真剣に首をかしげたりしていた。

 

もちろんハジメはニュータイ○など

ではなく、ジョーカーに内蔵

されているレーダーが得た情報から

瞬時に相手の位置を計算し、そこ

にトールの炸裂弾を見舞っただけだ。

 

ちなみに、何故雫がニ○ータイプ

と言う単語を知っているのか聞くと、

ハジメに興味を持った香織が以前

そっち系のアニメを見ていたのを

付き合わされたらしい。

 

まぁ、話を戻すと、雫にとって

ハジメや香織とは、そこまで差は無い

だろうと思って居たのだが、彼等の

動きを見て、『これが大迷宮攻略者か』

と驚嘆し、二人と自分の差を痛感して

いたのだ。

 

「格が違うわね。大迷宮をいくつも

 攻略してるだけの事はある、

 って事かしら?」

そう言って苦笑する雫。

「大丈夫だ雫。大迷宮さえクリア出来れば、

 きっと俺達だって強くなれるさ。

 大迷宮を攻略すれば強くなれるって、

 実際南雲達がそれを証明してるん

 だからな。それに神代魔法が手に

 入れば、更に強くなれるはずだ」

「そうだな光輝。っしっ!腕が鳴るぜ!」

「うん、頑張ろうね!」

「そうね。私達もハジメ君や香織達には

 負けてられないわ」

 

 

どうやらやる気だけは十分なようだ。

……まぁ、やる気だけでどうにか

なるほど、大迷宮は甘くは無いが。

そんな事を考えながら歩いていると、

大樹にたどり着いた。

 

巨大な枯れた木である大樹を見上げながら

天之河たち4人が驚いているのを無視

して、石版に歩み寄った私は宝物庫

の中から無造作に攻略の証を取り出す

とそれを裏面の窪みにはめ込んでいった。

4つ全てをはめ込むと、石版の光が、

地を這って大樹へと向かい、今度

は大樹の部分で紋様が浮かび上がった。

 

「ふむ。次は再生の力かの?」

「じゃあ、任せて」

呟くティオと、そう言って前に

出るユエ。そして彼女が紋様に

手を翳し、再生魔法を発動すると、

枯れていた巨木が瞬く間に、青々

と葉を茂らせた姿を見せた。

 

翠を取り戻したウーア・アルト。

その時、大樹の幹が左右に割れる

ように開き、巨大な洞を造り出した。

「ここが真の大迷宮への入り口、

 と言う訳ですか」

そう言うと、私は振り返る。後ろでは

ハジメ達が決意に満ちた表情を浮かべ、

天之河たちは緊張感のある表情を

浮かべている。

 

「……行きましょう」

そう言うと、10人が頷く。そして私は

更に同行していたカム達の方へ視線を

向ける。

「カム、基地に居るリリィ王女たちを

 頼むぞ」

「はっ!命に替えても、必ずや

 守り抜いて見せますっ!」

敬礼をするカムに、他の兵士達も続く。

 

私達は彼等に見送られながら洞の中

へと進んでいった。

進んでいった先にあったのは、ドーム状

の広い、行き止まりの空間だった。

「行き止まり、か?」

周囲を見回しながら天之河が呟く。

 

と、その時後方の隙間が音を立てて

閉じ始めた。

慌て出す4人。

「落ち着け。ドアが閉まってるだけだ」

そんな中でも蒼司と私達7人は

至って平静だ。

 

と、次の瞬間、床に魔法陣が現れ、光

を放ち始めた。と同時に、ハジメ達

6人が流れる動作でジョーカーの

システムで各々武器を取り出す。

「うわっ、何だこりゃ!?」

「なになに、何なの!?」

「取り乱すな。ただの転移魔法陣だ。

 ……それより、武器を構えておけよ?」

そう言って私もヴィヴロブレード、

朱雀を抜く。

 

「転移した先で、即魔物に囲まれる

 可能性もあるぞ?」

そう言って注意を促す。蒼司も

ガルグイユを抜いて臨戦態勢だ。

 

そして、私達の意識は一瞬暗転した。

 

次に気づいた時、私達は樹海のような

場所にいた。

「巨木の中に樹海、か」

ぽつりと呟きながらもトールを構えて

周囲を警戒しているハジメ。

ユエ、シア、ルフェア、香織、ティオ

も各々武器を構えて周囲を警戒

している。

「ッ、みんな、大丈夫か」

天之河が呼びかけると、雫と坂上、

谷口が頷く。

 

「ここが、大迷宮の中なのか?

 新生、ここから先はどうするんだ?」

「まずはこの階層を探索しましょう。

 上に登るにしろ、下に降りるにしろ、

 道の入り口のような物があるはずです」

「あぁ、分かった」

私の言葉に天之河が頷くが、一方で

私は……。

 

『蒼司、分かってますね』 

『おうよ』

私と蒼司は、お互いに同一の存在であり、

超常の力を持っている事から、脳波

だけで会話が出来た。所謂テレパスだ。

ここに飛ばされた直後、レーダーを見て

分かったのだ。すぐ傍に敵が居る。

数は『5人』。

『こいつらも、流石にジョーカーの

 IFFの信号までは偽造出来ません

 でしたか』

『出来たらその方が怖いけどなっ!』

『それより蒼司。頼むぞ。正直、

 私では『彼女』は撃てない』

『オーライ。その代わり、『こっち』

 を頼むぜオリジナル』

「えぇ、分かりました」

私は静かに呟く。

 

「お兄ちゃん?どうかし……」

次の瞬間。

『バババンッ!』

私のタナトスの爆裂弾が、ユエ、

ティオ、雫の頭を吹き飛ばす。

 

『ズババッ!』

蒼司のガルグイユが、坂上とルフェア

の首を切り飛ばす。

 

余りのことに、ハジメ達は驚き

対応出来ていない。

 

5人の頭を失った体が音を立てて

地面に横たわる。すると、天之河

がすぐさまハッとなって、次の

瞬間私を睨み付けた。

 

「何をしている新生!雫と龍太郎を!

 どういうつもりだっ!」

今にも聖剣を抜きそうな天之河。

「よく見ろ。これが本当に貴様の

 幼馴染みか?」

そう言って私はタナトスの銃口を

雫と坂上の体に向けた。

 

すると、その体がドロリと溶けて、

赤銅色のスライムになったかと思うと、

そのまま地面のシミになった。

 

「なっ!?これって……!?」

驚く天之河。ハジメ達も同様だ。

「偽物ですよ。ここへ転移してくる時、

 大迷宮で神代魔法を手にする時に

 感じる。頭の中を覗かれる感覚。

 それと同じような物を感じました。

 恐らく、それの応用でパーティー

 メンバーの数人を無作為に選択。

 偽物とすり替え、オリジナルは

 別の場所に転移させたのでしょう。

 そして、偽物に気づかないまま

 一緒に居た場合は、隙を見つけて

 偽物が襲いかかる、と言うのが

 このスライムの役目でしょう。

 しかし……」

 

随分攫われたな。5人か。しかも

ルフェアまでも。……こうなったら。

「全員、ここを動かないで下さい。

 まず私と蒼司が周囲を探してきます」

「えっ!?い、いやっ!それなら

 大人数で探した方がっ!それに

 また偽物が現れないって保障も

 無いしっ!」

ハジメの言葉には説得力がある。

だが……。

 

「私と蒼司は、体内で特殊な粒子を

 生成し、驚異的な速度で移動が

 出来ます。残念ながら今の皆では

 付いてくる事が出来ません。

 なので、ここで大人しくしていて

 下さい。10分以内に戻ります。

 蒼司、お前は……」

「俺は雫と龍太郎を探す。お前は

 早く嫁さん見つけてやんな」

そう言って笑みを浮かべる蒼司。

「分かった。では行くぞ」

 

「「クロックアップッ!!」」

「ちょっ!?つかっ!?」

 

 

ハジメが声を掛けるよりも早く、司と

蒼司はクロックアップで加速し、次の

瞬間にはテレポートしたのでは?と

ハジメ達が思う程の速度でその場から

消えてしまった。

 

その場に残されてしまったハジメ達。

「何だか、司くん焦ってたように

 見えたね」

「うん」

香織の言葉にハジメが頷く。

「焦ってた?新生がか?」

首をかしげる光輝。しかしハジメ達

だからこそ、長く彼と一緒に居た

彼等だからこそ、僅かな態度の差

から司の焦りを感じ取ったのだ。

 

「しかし南雲、どうするんだ?

 あいつの言うとおり、ここで

 待つのか?」

光輝の言葉に、ハジメはしばし考えて

から……。

「そうだね。今はここで待とう。

 下手に別れると、誰がオリジナルで

 誰が偽物か分からなくなって、

 最悪疑心暗鬼に陥るから。

 それは避けたい。だからこそ、

 司の言った通り10分後に二人が

 ここに戻ってくるまで待とう」

それがハジメの案であり、香織や

シア、鈴が頷いた事もあって、

彼等はここに残る事にしたのだった。

 

 

一方、その頃、雫はと言うと……。

「グギャァ……」

一人、しかもその体が『ゴブリン』に

なったままで樹海の中を彷徨っていた。

彼女が気づいた時には、武器の青龍も

纏っていたジョーカーも無くなり、

気づけば醜いゴブリンになっていた。

 

『みんな、どこに居るの?……怖い。

 怖いよぉ』

身を守る武器も鎧も無くし、醜いゴブリン

へと成り果てた雫は、トボトボと樹海を

彷徨う事しか出来なかった。

 

だが……。

『……皆にあって、どうするのよ』

その時ふと、彼女は水たまりを見つけ

のぞき込んだ。

そこに映るのは醜いゴブリンだ。

人の言葉を話す事も出来ないし、自分が

雫である証になる物も、何も無い。

 

つまり、彼等と合流出来ても、魔物と

間違われて殺される恐れさえあるのだ。

かといって、ここに留まって居ても

生き残れる保障など無い。

先ほど彼女は、蜂型の魔物の群れを

命からがらでスルーしたのだ。

 

そう言う意味では、雫はもう『詰み』

のような状況であった。

 

そして、その状況が雫の不安を煽る。

『嫌だ。嫌だ。死にたくない。

 死にたくないよぉ……!』

雫(ゴブリン)は、一つの木に背中を預け、

そのままズルズルと腰を下ろして座る

と、膝を抱えて体育座りの姿勢で

膝に顔を埋めた。

 

『私、このまま死ぬの?嫌だよ。

 そんなのヤだぁ。……まだ、やり

 残したこと、いっぱいいっぱい

 あるのに。こんな、こんな所で……』

彼女の瞳から涙が流れる。

 

『死にたくないよぉ……!』

ギュッと膝を抱える雫。

 

と、その時。

「ほら、もう泣くなよ、雫」

不意に聞こえた声に雫(ゴブリン)は

バッと音がしそうな勢いで頭を上げた。

見ると、彼女の眼前で、蒼司が膝を突いた

姿勢で立っていた。

 

『蒼司ッ!?私の事が分かるの!?』

「グギャッ!ギャギャギャッ!」

思った事を口にしようとする雫だが、

傍目にはゴブリンが喚いているように

しか聞こえない。

 

しかし……。

「当たり前だろ?」

蒼司はさも同然と言わんばかりに首を

かしげた。

ちなみに、と言うかこの時蒼司は

テレパスの応用で雫の心、つまり

思って居る事を読み取っていただけだ。

 

「ほら」

そう言って手を差し出す雫(ゴブリン)。

雫は、静かにその手を取り立ち上がった。

そして雫(ゴブリン)は蒼司を見上げる。

 

「ん?どうした?」

『蒼司、あなたは……。どうして私

 だって分かったの?それに、こんなに

 早く来てくれるなんて……』

「何故分かったのか、だって?

 そんなの決まってるだろ?俺は、

 お前の護衛だぜ?……俺は、雫が

 どこに居ようが、どんな姿に

 なろうが、真っ先に駆けつけて、

 真っ先に見つけて、助ける。

 ……それが、俺がここにいる理由

 だからな。俺は、雫専属の騎士、

 ナイトみたいなもんだからな」

『ッ!』

 

蒼司の言葉に、雫は胸の内が高鳴る

のを感じた。そして、彼女は更に戸惑い

を覚えた。

 

雫は、帝都からハルツィナ・ベースに

戻るアルゴの中で司と話し、彼への

恋心を改めて自覚する結果となった。

 

だがそれは、雫の中にあった天秤が

司の方に傾いただけだった。

今、彼女の中にある天秤に乗っている

のは、一方が『司』。

そしてもう一方が『蒼司』であった。

 

どちらも厳密には同一人物だ。

髪色や性格が異なるだけで、二人は

同じボディを持っているのだ。

 

どこか無感情で時に冷酷なれど、仲間の

ためならば茨の道すら突き進むと

公言する司。

 

普段はおちゃらけているようでも、

やる時はしっかりと自らの使命を

果たし雫を守る蒼司。

 

傍目には、真逆の性格に見える二人

だが、仲間を守る為に全力で戦う

姿勢はなんら変わらない。

そこに雫は惹かれた。

 

そしてその天秤は、一時的に司の方へ

傾いたに過ぎない。蒼司の方へと傾く

可能性はまだ残っていたのだ。そして、

それが今、再び蒼司の方へ傾いた、

と言う訳だ。

 

そして……。

「さてと、んじゃ行くぜ雫」

『え?』

雫(ゴブリン)が首をかしげた直後。

「ほいっと!」

雫の手を引いた蒼司が、彼女を両手で

お姫様抱っこしたのだった。

 

『あっ、な、なななっ!?』

これには戸惑う雫。なんせ人生初の

お姫様抱っこだったのだ。それがこんな

形でなど、女として少々見過ごせない

のだった。

 

『ちょっ!?待ってよ蒼司!

 こ、こんな格好でお姫様抱っこ

 なんてっ!』

「ん?ゴブリンのままじゃ嫌か?」

『当たり前でしょっ!』

と、抗議する雫だったが……。

 

「心配するなよ。……人間に戻っても、

 その時はまたしてやるさ」

耳元で囁かれた言葉。

『ッ~~~!?!?!?!?』

それだけで雫(ゴブリン)は顔を

真っ赤にするのだった。

 

「さてと、行くぜ。みんなと合流

 しねぇとな。『クロックアップッ』!」

蒼司が呟くと、二人は消えるように

その場を後にしたのだった。

 

 

一方、その頃の司は、ルフェアを探して

あちこちを走り回っていた。

途中で何匹もの、蜂の魔物の群れや

オーガの群れと遭遇したが、鎧袖一触。

クロックアップ状態のまま軒並み全滅

させて先を急いだ。

 

そして、見つけたのだ。

 

岩に腰掛け、『あっち向いてほい』で

遊ぶ、ゴブリンと化したルフェアとユエを。

それは、普通の人間だったら、ただの

ゴブリンが遊んでいるように見えた

だろうが、相手の頭の中を読める私

ならばすぐに彼女達であると分かった。

 

 

「ルフェア!ユエ!」

私はクロックアップ状態を解除に彼女達に

声を掛けた。

『あっ!お兄ちゃん!』

「ギャッ!グギャギャッ!」

『ホントだ。司だ』

「ギャッ!ギャギャッ!」

思考が読めるので、何と言おうとして

いるのかは分かるが、やはり口頭での

会話は無理があるな。

 

「二人とも、無事でしたか?それに

 しても、二人は何故ここに?それも

 遊んでいたんです?」

『うん。だって、お兄ちゃんが迎えに

 来てくれるって、信じてたから』

『私も。……出来ればハジメに迎えに

 来て欲しかったけど』

 

二人の、それぞれ私とハジメに対する

信頼が色々限界突破しているのは、

この状況で遊んでいられた二人を

みれば分かる。

 

「分かりました。では、掴まって

 下さい。皆のところに戻ります」

私が手を出すと、ルフェアとユエ

(のゴブリン)が私の手にしがみついた。

私は2人がしっかり掴まっている事を

確認すると……。

「では行きます。『クロックアップ』」

クロックアップでその場を後にした。

 

 

樹海の中で動かずに司と蒼司の帰還を

待つハジメ、香織、シア、光輝、鈴の

5人。2人が出て行ってから2分後。

「ただいま戻りました」

「おっす、ただいま~」

「あっ!お帰り2人と、えぇっ!?」

彼等に気づいたハジメが真っ先に

声を掛けたが、彼は2人がゴブリン

を連れてきた事に驚いた。

そしてそれは光輝達も一緒だ。

 

「ふ、2人とも!なんでゴブリンを

 連れてきたんだ!?魔物だぞ!?」

光輝はそう言って聖剣に手を伸ばした。

それを見た蒼司がため息をつくと

説明しようとしたが……。

 

「待ってっ!」

それよりも早くハジメが光輝を制止した。

「なっ!?なんで止める南雲!」

「ごめん、でも待って」

ハジメはそれだけ言うと、司の方に

歩み寄り、彼の左手に抱かれていた

ゴブリンを見つめる。

 

 

私がゴブリン(ユエとルフェア)を下ろし、

蒼司も同じようにゴブリン(雫)を

優しく下ろした。

そして、ゴブリン(ユエ)とハジメが正面

から向き合う。

傍目に見ると、ゴブリンがハジメを

睨み上げているようにしか見えないが……。

 

「もしかして、ユエ、ちゃん?」

静かに問いかけるハジメ。

『コクン』

するとゴブリン(ユエ)が頷く。

「えぇっ!?」

するとハジメの後ろにいた香織が

驚いた声を上げる。シアも同様に、驚いた

表情を浮かべている。

「つ、司さん。これって……」

「恐らく、これも大迷宮の試練なの

 でしょう。最初の偽物とは逆です。

 偽物を偽物と見抜けないのなら

 それまで。逆に、姿を変わった程度

 で仲間を仲間と見抜けず殺して

 しまったのならそれまで。

 ……もしかすると、ここはチーム

 としての力を測る場所なのかも

 しれませんね」

「チームとしての力?」

私の言葉に谷口が首をかしげる。

 

「もっと言えばチームメンバーの

 絆でしょうか?強大な敵、即ち

 エヒトに力を合わせて立ち向かう

 事が出来るかどうか、と言った

 内容を試すのではないでしょうか?」

「それでユエさんやルフェアちゃん。

 雫さんがゴブリンに?」

首をかしげるシア。

「恐らくは。……しかしこのまま

 では会話が成立しませんね」

 

仕方無い。ここは……。 

私は元の世界に居たときから開発

していたヘッドギアを調整して

創造。ユエ、ルフェア、雫に

被せた。

 

「司、それは?」

「これは、元々向こうの世界に居たとき

 に開発していた物です。喉頭がんを

 患った患者は喉頭、つまり喉仏ですが、

 これを切除しなければなりません。

 それはつまり声を失う、と言う事。

 そんな患者を救うために、思った事、

 表層意識の思考を読み取り、声として

 発生する事が出来るヘッドギア

 です。まぁ、簡単に言うと頭の中の

 声を変換して生み出す装置、とでも

 言っておきます」

そう言って、私は3人にヘッドギアを

付けた。

 

そして……。

「あ~。あ~。あっ、声が出た」

雫のゴブリンのヘッドギアから、彼女

自身の声が聞こえた。

「ハジメ、聞こえる?」

「うん。聞こえるよユエちゃん」

ユエの方も問題なしだ。

「流石お兄ちゃんだね」

ルフェアの方も異常なしのようだな。

「どうやらこれで会話の方は問題無い

 ようですね」

「だな。……しかし、まだティオと

 龍太郎が見つかってねぇな。

 急いで探した方が良いかもな」

「そうだな。さて、では諸君。

 これから我々は残りの二人である

 ティオと坂上を探す。道中でも

 魔物と遭遇する可能性があるので、

 各自はゴブリンになってしまった

 ルフェア、ユエ、雫のフォローを

 行う事を心がけて欲しい。

 シアとハジメ、香織、谷口は3人の

 サポートを。私と天之河、蒼司は

 前衛で敵を倒す」

 

「「「「「「了解」」」」」」

「ま、任せて!」

「わ、分かった!」

ハジメ達が返事を返し、谷口と天之河

もそれに続く。

 

「よし。では行くぞ」

私達は早速移動を開始した。

 

その道中。

「そう言えば、どうして南雲は

 あのゴブリンがユエさんだって

 分かったんだ?」

天之河が素朴な疑問を投げかけた。

「あ、それは鈴も気になる」

しかしそれは彼だけの疑問ではなかった

ようだ。谷口以外にも、シアや香織も

聞きたそうだ。

 

「あ、え~っと、ただ、なんとなく、

 かな~。あのゴブリンは普通の

 ゴブリンじゃない。最初はそう

 思って、後はなんて言うのかな?

 第六感、みたいな?」

何とも曖昧な答えのハジメ。そこに。

「その答えは簡単」

ユエ(ゴブリン)が語った。

 

「それはハジメが、私を愛してるから」

そう言って笑うユエ(ゴブリン)。見た目は

嘲笑っているように見えるが、実際には

どや顔を決めているのだろう。そして

ユエは香織に目を向け……。

「ふっ」

と、小さく笑った。

 

「ッ!」

その仕草に、香織はオーラを漲らせる。

それだけで、彼女のユエに負けないと

意気込む彼女の気概がどれほどの物かを

語っていた。

しかし傍に居た谷口はガクブルである。

雫(ゴブリン)もどこか引きつった表情を

している気がする。

「な、南雲君は、愛されてますな~」

震えながらの谷口の言葉に、ハジメは

苦笑を浮かべるだけだった。

 

しかし、話題を振った天之河は、どこか

面白くなさそうだった。

 

と、そんな事をしながら歩いていると……。

 

『ザッ!』

不意に影が私たちの前に飛び出してきた。

咄嗟に武器を構える天之河だが……。

「ちょいまち」

それを蒼司が制止した。

 

よく見ると、影の正体はゴブリンであり、

彼、いや、『彼女』は司の前で地面に膝を

突いている。

 

「あっ、私もう分かりましたよ」

「奇遇だねシアちゃん。私もだよ」

その姿を見ただけで、彼女達はゴブリン

の正体を察した。

 

私は静かにゴブリンに歩み寄る。すると、

ゴブリン、いや、ティオは静かに頭を

下げる。その頭に、私はユエ達と同じ

ヘッドギアを取り付ける。

 

「ティオ、これで思った事が声になる。

 ……話してみよ」

「はっ。……不肖ティオ・クラルス。

 主の前でこのような醜悪な姿をさらす

 事を、どうかお許し下さい。また、

 マスターから頂いた大切な鎧と、剣を、

 妾は……」

そう言って、ティオは体を震わせる。

 

「申し訳ありませんマスターッ!

 この罰は如何なる形であっても償い

 ます故、どうか……」

そう言って体を震わせるティオの肩に、

私は優しく手を置く。

 

「良い。良いのだティオ。お前が無事で

 何よりだ」

そう言って、私は優しい声色で語りかけた。

「装備ならばいくらでも作れば良い。

 だが、命はそうではない。例え私に

 死者蘇生が出来ても、忠臣である

 ティオを守れない事の方が辛い」

「マスター」

ゆっくりと私を見上げるティオ。例え

ゴブリンになろうと、彼女は彼女だ。

 

「よくぞ無事であった。ティオ・

 クラルス」

「ッ!もったいなき、お言葉。

 ありがとう、ございます」

彼女は静かに俯き、涙を流している。

本当に慕われた物だ。そう思いながら、

私はティオに手を差し出した。

 

手を取って立ち上がるティオ(ゴブリン)。

こうしてティオとも無事合流した

私達は、最後の一人である坂上を

探して樹海の更に奥へと向かうのだった。

 

     第71話 END

 




今回からは樹海の大迷宮ですが、個人的に言って
雫と蒼司にスポットを当てていく可能性が高い
です。

感想や評価、お待ちしています。

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