ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回は夢の話ですが、スポットは雫に当ててます。


第72話 仮初めの夢

~~~前回のあらすじ~~~

帝都での戦いを終え、本来の目的である

樹海の大迷宮へと向かう司とハジメ、

光輝達。彼等は真の大迷宮に突入

直後、ユエ、ルフェア、ティオ、雫、

龍太郎が偽物スライムとすり替わり、

5人は姿を変えられてしまう。司と

蒼司によってユエ、ルフェア、雫が

ゴブリンの姿で発見され、その後に

ティオも合流。残りの一人である

龍太郎を探して司たちは樹海を

歩き回るのだった。

 

 

ティオと合流後、しばらく歩いていると

私達はオーガと戦う、空手の技を使う

オーガを見つけた。これならば誰もが

分かった。あれが坂上であると。

こうして無事、全員と合流した私達は

この階層を突破するために先を急いだ。

 

そして、今私達の前には、巨大な樹の

モンスターが立ち塞がっていた。

それと戦うのは天之河、坂上、谷口

の3人だ。更に香織と蒼司が

フォローに入っている。

 

しかし、香織と蒼司が前に出る事はしない。

あくまでも回復と、危険な攻撃への対処

だけだ。

そして……。

「こうなったら!光輝!神威だ!」

「何っ!?だが龍太郎!あれは!」

「このままじゃ俺達が負ける!

 お互い決め手に欠けてるしよ!

 だから決めてくれ光輝!」

叫ぶ坂上に天之河は迷う。が……。

「大丈夫!その間は鈴達が守るから!」

谷口の言葉もあって……。

「分かった!頼む!」

 

そう言って天之河は神威のための詠唱を

始め、無防備な彼を香織、蒼司、坂上、

谷口たちが守っている。

私達はあくまでも傍観者の立場を

決め込む。

 

正直な所、私としてはここで彼等の

自信を粉々に打ち砕き、彼等が

『井の中の蛙』である事を知らしめる

つもりだった。

彼等がどれだけオルクスで修行を積んだ

としても、それは所詮、一つの場所で

戦ったに過ぎない。

私達の経験に比べれば雲泥の差だ。

 

そして、実際……。

「みんな、行くぞっ!『神威』っ!」

天之河の放った光の奔流、神威。それが

トレント擬きの魔物を飲み込む。

「やったかっ!」

僅かに笑みを浮かべる天之河。

 

隣でハジメが。

「あ、それダメフラグ」

とか言っていた。

そして、実際その通りになった。

 

光が収まった時、そこには無傷のトレント

擬きが立っていた。

その事に、天之河、坂上、谷口、更には

後ろで見ていた雫まで呆然となっている。

 

「どうやら、途中で阻まれたな」

「え?」

そう言って天之河の前に立つ蒼司。

肝心の天之河は首をかしげるだけだ。

「周りを見ろよ。大量の木片が散ら

ばってるだろう?」

「た、確かに。でも、奴の周りに木

 なんて……」

と、天之河が言った時。

「ねぇ!見てあれ!」

谷口がトレント擬きの方を指さした。

 

見ると、トレント擬きの周囲で次々と

木々が生み出されていく。

「まさか、固有魔法?」

ポツリと雫が呟く。

「あぁ。多分な」

そう言って蒼司がガルグイユの背でトン

トンと肩を叩く。

「あれが奴の能力さ。咄嗟に大量の

 木々を自分の前に生み出し、神威

 を防ぐ盾として使ったって訳だ。

 まぁ、惜しかったな天之河」

そう語る蒼司に、天之河はどこか

悔しそうに唇をかみしめる。

 

「さて、と。こっからは選手交代だ。

 下がってな」

そう言うと、ガルグイユを手にした

蒼司が前に出る。直後、トレント

擬きだけでなく、周囲の木々からも

同じように、枝や根、葉っぱや

果実を使った攻撃が繰り出される。

 

「危ないっ!」

咄嗟に谷口が叫ぶが……。

「はっ。温いな」

そう言って、蒼司がガルグイユを振り抜いた。

刹那。

『ヴァァァァァァッ!』

ガルグイユの切っ先が、『空間』を切り裂いた。

そして、彼に向かっていた攻撃は切り

裂かれた空間の狭間に飲み込まれていく。

葉と果実は飲み込まれ、枝と根の槍は

半ばからへし折られる。

「へっ。だから言ったろ?温いって」

そう言って笑みを浮かべる蒼司。

 

「な、何だ?!今の!」

蒼司の攻撃に、坂上が驚いている。

天之河たちもだ。

「今のは空間魔法の応用だ」

そんな彼らに私が説明する。

「空間を切り裂き、限定的な『世界の

狭間』を造り出す。そしてそこに

敵の攻撃を落とす、と言う訳だ。

攻防一体の技、『ディメンション

イーター』、と言った所か」

と、私が説明していると、トレント擬き

は再び大量の木々を生み出そうと

している。

 

「はっ。させるかよ」

そう言うと、蒼司はガルグイユを構えて腰を

落とす。そして……。

「クロックアップ!」

そう叫んだ次の瞬間、その姿が消え、神速

のスピードで次々と木々を切り裂いていく。

「な、何だ!?何が起きて!?」

戸惑う天之河。

「ご心配なく。あれは蒼司の攻撃です」

「ど、どういうこと?」

谷口も首をかしげている。

「あれは『クロックアップ』。体内に

 特殊な粒子、『タキオン粒子』を

 生成する事で可能になる、超高速

 移動です」

「それが、クロックアップ?」

「えぇ」

首をかしげるハジメに私は頷く。

 

「タキオン粒子を体内で生成出来る

 私と蒼司のみが、現在使う事の

 出来る能力です。そして、クロック

 アップ中の敵を視認するには、

 自らもまた体内にタキオン粒子を

 循環させる必要があります。

 ……最も、光の速さ以上、超光速で

 動くタキオン粒子を普通の生物

 に入れてしまえば、体がバラバラ

 になってしまいますがね」

タキオン粒子に耐えられるのは、

並大抵の生物ではない。

ジョーカーのシステムにクロック

アップを組み込むことも考えて

いるが、まだ実装出来ていない。

 

つまる所、今現在タキオン粒子を

制御し、クロックアップが使えるのは

私と蒼司だけだ。

そして更に言えば……。

タキオン粒子を使っての必殺技もある。

 

その時、全ての木々を切り終えた

蒼司がトレントの正面、私達の前方に

現れた。

「残るは親玉1匹だ。……さて、片付ける

 としますか」

そう言うと、蒼司はガルグイユを鞘に

戻して左手で鞘を握り、腰を落とす。

所謂居合い斬りの姿勢だ。

 

それを隙と見たのか、トレントが蒼司に

向けて根の槍を放つ。無数の槍が彼に

向かう。だが……。

 

「『ライダー……』」

 

次の瞬間。

 

『キンッ!!!!!』

 

甲高い音と共に、トレントが切り裂かれた。

 

「『スラッシュ』、なんてね」

 

一拍の間をおき、上下に真っ二つにされた

トレントの上半身が音を立てて倒れた。

 

「な、何だ今のは、一瞬で……」

「あれはタキオン粒子を利用した必殺

 技、のような物です。一時的に

 ブレードの切断力を極限まで高め、

 あらゆる物を切り裂く技です。

 体内でタキオン粒子を生成する、

 私達だからこそ出来る技です」

と、驚く天之河に説明する私。

後ろでハジメが『サソード』と

呟いていたが無視した。

 

 

「ふぃ~。終わった~」

そこにガルグイユを鞘に戻した

蒼司が戻ってくる。

「さっ、何かフロアボスみたいなの

 倒したし、次に行こうぜ?」

そう言ってさきを促す蒼司。

だが、そんな彼の言葉に、光輝は静かに

歯がみしていた。

 

自分の大技を使っても倒せなかった

相手を、楽々と討伐した蒼司。

しかも彼は若干ではあるが、オリジナル

である司に、能力などで劣っている

と言うのを、光輝は知っていた。

『クソッ』

司や蒼司との格の違いを感じ、彼は

悪態をついた。

 

と、その時、背後でメキメキ、と音が

したので咄嗟に振り返り剣を抜く光輝。

 

見ると、斬られたはずのトレントが

再生した。そのことで一瞬、彼等の間

に緊張感が走るが、襲ってこない事を

ハジメ達が訝しんだちょうどその時、

この大迷宮の入り口のように木が

左右に割れて洞の入り口となった。

 

「成程。あれ自体が扉だった、って

 訳ね」

そう言って、抜きかけていたガルグイユ

を戻す蒼司。

「どうやらこのフロアはクリアした

 ようです。行きましょう」

 

 

私がそう言うと、皆が構えを解いて

先頭を歩く私に続いた。

そして、洞に入れば先ほどと同じように

扉が閉まって魔法陣が輝く。その時。

 

「お兄ちゃん?大丈夫だよね?」

隣に居たルフェアが聞いてくる。

だがその声に不安の色は感じられない。

そこには、確たる信頼があった。

「えぇ。どんな事があっても、私は

 貴方を見つけます、ルフェア」

 

そう言って、私が微笑んだ直後、私達

は再び光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

朝。私、八重樫雫は『いつも通り』の

ベッドで目覚める。何気ない朝。

自分の部屋。何もおかしくない。

違和感などない。

朝起きて、朝の稽古をして、朝ご飯を

食べて、着替えて、家を出る。いつも

通りの日常。

 

そして、いつも通りの交差点で、私は

『彼等』を見つける。

「おはよう、蒼司、司」

「おぉ雫、おはようさん」

「おはようございます、雫」

そこには、私と同じ高校に通う『双子』

の男子がいた。

 

双子の兄、『新生司』。神童とまで謳われ

た稀代の天才少年。頭脳において

右に出る者はいないとまで言われた、

どこか無感情だけど、実は親しい人に

はとても優しい私の友人。

 

もう一人は司の双子の弟である『新生蒼司』。

兄の司とは逆で、明るい雰囲気で元気

いっぱいのスポーツ系男子。体を動かす

事が得意で、将来はオリンピック選手かと

期待されている程。 

 

片や頭脳。片や肉体。

全く逆の性格の、天才双子。それが私の

友人だ。学校に行けば、そんな彼等や

香織達との日常が始まる。

 

私と彼等の出会いは、子供の頃の事だ。

当時、光輝という男子に僅かな恋心を

抱いていた私だが、周囲の女子達の言葉と

光輝の態度から、私の心は疲れ切っていた。

 

そんなある日、私の家の道場に蒼司と司が

やってきた。彼等は近くにある孤児院で

育った双子で、蒼司は運動の才能を私の

父に見込まれてやってきた。司は蒼司に

無理矢理引っ張ってこられた感じだった。

 

そんなこんなで、道場に新しく二人が

加わったけど、あの頃の私は、まだ

そんなに心に余裕が無かった。そんな

ある日、私は夕暮れの公園で一人、

ブランコに座っていた。

 

それは、学校の帰り、女子達に言われた

言葉を引きずっていたからだ。

彼女達は私に、『男みたいな貴方が

どうして天之河君の傍に居るのよ』と、

嫉妬交じりに突き付けられた言葉。

以前は、女である事すら疑われた

言葉を掛けられた。

 

本当は、女の子でありたかった私に

とって、その言葉は何よりも来る物が

あった。

 

なぜこんな事になったんだろう。

私が道場の娘だから?剣術の才能が

あったから?……そう思うと、私は私の

剣の才能を見いだした祖父を、恨みそう

になっていた。

 

と、その時。

「おいおい。何辛気くさい顔してるん

 だよ?」

聞き覚えのある声に、顔を上げると、

目の前に蒼司が立ってた。

 

私がしばし彼を見つめてから、再び

俯くと、彼は隣のブランコに乗って

立ち乗りを始めた。

「どうしたよ?落ち込んでるのか?」

すると彼に図星を当てられ、私は

ますます口を閉ざした。

 

しばしの沈黙が続いた。が……。

「ったく」

そう言って、蒼司はブランコから

飛び降りて着地した。

 

「お前に何があったか知らねぇけど、

 八重樫道場の門下生はみんな家族、

なんだろ?」

「ッ」

彼の言葉に、私は一瞬息を呑んだ。

そして、気づいた時には彼が、私の顔

をのぞき込もうと、ブランコに座る私

の前でしゃがみ込んでいた。

 

「家族がそんな顔してちゃ、心配になる

 だろ?」

「ッ!」

彼の言葉に、私は子供ながらに顔を赤くした。

そのせいで再び私は俯いてしまう。

すると……。

 

「なぁ雫。過去っては昔だ。昔は、

 変えられないから昔なんだよ」

そう、蒼司は子供ながらに難しい事を

言い出した。

でも……。

 

「だからさ、今を最っ高に楽しく

 生きてた方が、人生の勝ち組だぜ?」

 

その言葉と共に、夕陽をバックにした

彼の笑みは、その時私の頭の中に

刻みつけられた。

そんな彼を私は呆然と見つめていた時、

蒼司は私の手を引いて歩き出した。

 

「あっ!ちょっ!?どこ行くの!?」

いきなりの事で戸惑う私。

「何って買い食いだよ買い食い!

 まぁ俺を信じて付いて来な!

 美味いもん食わせてやるよ!

 嫌な事があっても、美味いもん

 食えば大抵忘れるさ!」

 

そう言って、彼は私の手を引いて

歩いた。……今にして思えば、この時

私は初めて、異性に手を引かれていた

のかもしれない。

 

そして私達は、商店街でいろいろな物を

買って食べた。コロッケとか、フランク

フルトとか。……その時の私はまだ

理由は分からなかったけど、蒼司と食べる

物が全部、私は美味しく感じられた。

 

その後、家に戻った私はお母さん達に

怒られた。蒼司も、彼を探して道場に

来ていた孤児院のおじさんに怒られ、

耳を引っ張られながら帰って行った。

 

でも、その前に……。

 

「また何か嫌な事あったら俺に言え

 よな?また楽しい事一緒にやろうぜ」

 

そう言って笑う彼の言葉を、私が

忘れる事は無かった。

 

それからと言う物、私は蒼司と居る

時間が増えた。休み時間には一緒に

遊んだ。何だかんだで一緒に行動する

事も増えた。その時間が、私はとても

幸せだった。

 

でも、それだけじゃなかった。

 

蒼司もまた光輝に負けず劣らずの

イケメンだった。そして、そんな彼と

一緒にいる事が増えて、私は再び

女子達の反感を買ってしまった。

 

ある日、私がお手洗いから教室に戻る

と、お守り代わりに持っていた蒼司との

プリクラが、くしゃくしゃにされて

ゴミ箱に捨てられていた。それを見つけて

拾った時、クラスの女子達がクスクス

と笑っているのに気づいた。

 

私は目尻に涙を浮かべながら彼女達に

詰め寄ろうとするが、それを蒼司が

抱き留めた。

「離して!」

「落ち着けよ雫。ここで問題を起すと

 色々不味いだろ?」

「でも!」

「安心しろよ。また一緒に撮りに

 行こうぜ?今度はもっと可愛くさ。

 な?」

そう言って宥めてくれる彼を前にして、

私の怒りは少しだけ収まり、自分の

席に戻った。

 

でも、それが逆に彼女達の更なる嫉妬を

買ってしまった。

私はその一件以来、あまり学校でトイレ

に行かなくなった。でも、やっぱり

人間だから、生理現象には勝てなかった。

 

私はおトイレを済ませて急いで教室に

戻った。その時。

 

「えぇぇぇぇぇぇぇんっ!」

女の子の泣き声が聞こえてきた。

何事だろう!?と急いで教室に入ると、

一人の女の子が倒れて泣いていた。

 

そして、その前には司が立っていた。

更に彼の足下には、虫の死骸が転がっていた。

どう言う状況なのか分からなかった。

その時。

「やれやれ。あのバカ共、兄貴を

 怒らせやがった」

近くに蒼司が立っていた。彼の言う

兄貴は、当然司の事だ。でも、

怒らせたって?どういうことなの

だろうか?

 

私が悩んでいると、それを見透かした

ように蒼司が答えてくれた。

 

「あいつら、雫の鞄にあの虫の死骸

 入れようとしてたんだよ。んで、

 それにブチ切れた兄貴が一人を

 ぶん殴ったって訳」

「え?」

 

その時、私の中に、一瞬何かが

跳ねた気がした。更に……。

 

「ちょっと何するのよ!私達が

 何したのよ!」

「女の子を殴るとか最低!」

口々に、殴られた女の子の取り巻きが

司を罵倒するけど……。

 

「ほう?だったら、女だからと他人の

 鞄にこんな物を入れて良いとでも?」

そう言って司は足下の虫の死骸を、

女の子達の方へ蹴っ飛ばす。すると

女の子達が短く悲鳴を上げるが……。

 

「思い上がるなよクズ共」

次の瞬間、司から子供の私でも分かるくらい、

怒気が放たれた。

「黙っていればいい気になって、

 雫にちょっかいを出しておいて、

 加害者が一転して被害者面か。

 ……ふざけるなっ!」

司の怒声に、クラスに居たみんなが一瞬

で震え上がる。

 

「二度と雫に手を出すな。……もし、

 また彼女に余計な事をしてみろ。

 ……この程度で済むと思うなよ」

司の脅しの言葉に、彼女達は震え上がって

何度も頷くだけだった。

 

その後、先生がやってきて私達は話し合い

をするために別室に呼ばれた。そこには

私の両親や司の居る孤児院のおじさんも

いた。最初は先生におじさんが謝って

ばかりだった。

 

でも、司がボイスレコーダーを取り出して

再生すると、先生の表情が一気に

強ばった。

 

司は、実は影で先生に彼女達のいじめを

止めるように話をしていた。それも

3回も。司は2回目と3回目の時の会話を

再生して、逆に先生を職務怠慢だと

糾弾。それに怒って盗聴だと叫ぶ先生

だったけど……。

 

「喚くな!教師は生徒を守るもの!

 それが自分の評価ばかり気にして、

 いじめを見過ごしてきた貴様が、

 今更偉そうに何様だ!貴様に人を

 教える資格などない!この音声は、

 貴様の職務怠慢の証として、

 然るべき場所に提出させて

 もらう!」

「このッ!ガキがぁっ!」

 

すると、先生が怒って司に掴み

かかる。そして、その手が司の体を

掴んだ次の瞬間。

 

「クズがっ」

そう言うと、司は見事な背負い投げ

で逆に先生を投げ飛ばし、壁に

叩き付けてしまった。

 

「これで、暴行事件成立だな。

 暴行罪はただ服を引っ張るだけでも

 成立する。両手で掴みかかれば、

 十分だろう。それと知っているか

クソ教師。現行犯はな、警察でなくても

 逮捕出来るのだよ」

 

そう、静かに語る司。更に……。

 

「貴様の怠慢のせいで、雫がどれだけ

 苦しんだ事か。刑務所の中で

 じっくり反省するんだな」

 

その言葉を聞いたとき、私のハート

は高鳴った。

そして理解した。司は、『私のためだけ』

にここまでの事をしてくれたのだと。

 

その後、先生は職務怠慢で懲戒免職処分。

更に司の言うとおり暴行罪で逮捕された。

 

でもそのせいで、学校内に司の悪い噂が

広まってしまった。

ある帰り道。私がその事を司に聞くと。

 

「放っておけばいいのですよ。

 そんなの」

「え?」

彼はただそう言うだけだった。

私には分からなかった。なぜ自分の

悪口を言われているのに、彼は平然と

していられるのか。

 

「どうして?みんな司の悪口を言ってる

 んだよ?司は、私の事を助けてくれた

 のに……」

「だから、ですよ」

そう言って、振り返る司。

 

その時彼は、とても柔らかい笑みを

浮かべていた。

 

彼のそんな優しい表情をみたのは、

初めてかもしれないと、この時私は

思った。でも、それだけじゃない。

 

「雫が、そう思ってくれているのなら

 それで十分です。……貴方を守れた

 のなら、家族を守れたのなら、例え

 他人から罵られようと、十分です」

 

彼の優しい笑みと共に紡がれた言葉で、

私は顔を赤くし、心臓を高鳴らせた。

 

私を守る為に、汚名を被る事すら

厭わない司の姿勢。それはまるで、

お姫様を助けるために危機に立ち向かう

王子様のようだった。

 

そして、そんな事があったからだろう。

 

私は、司と蒼司という双子に惹かれていった。

 

蒼司とは色んな場所に二人で遊びに行った。

 

司には勉強を教えて貰ったりした。

 

3人で一緒に出かけた時は、私が待ち合わせ

場所におめかしして、一番についちゃって

ナンパされて時、二人がものすごい剣幕で

やってきてナンパ男を退散させた事も

あったっけ。

 

あぁ、あの時、蒼司が言っていた、人生は

楽しんだ方が勝ち組、と言う言葉はその

通りなのかもしれない。

『彼等』との生活は楽しくて、温かくて。

そして、時折胸がときめく。

 

誕生日に彼等からプレゼントを貰った時、

どうしようもなく嬉しかった。

バレンタインにチョコを渡したら、とても

喜んでくれて嬉しかった。

ホワイトデーにお返しを貰って、とても

嬉しかった。

冬には蒼司と一緒のマフラーに巻かれたり、

受験勉強で司に教えて貰ったり。

春には3人だけでいろいろな場所に行った。

夏は皆で海に行っり、一緒の夏祭りも

楽しんだ。

秋には、二人といろいろな場所で体を

動かしたりもした。

 

 

彼等との日々が、私にとっては至福の

日々であった。

 

『こんな日常がずっと続けばいい』と、

私は思っていたのだった。

 

心のどこかで、今の現実に違和感を覚えながら。

 

 

 

 

 

 

~~~変わって、現実世界~~~

「ふ、あ~~~」

そこは真っ暗な空間で、先ほどの魔法陣

の部屋と似ているが、二回りくらい

大きい事と、透明感のある黄褐色の物体

が円形に並んでいる事以外は、似ていた。

 

そんな空間の壁に背中を預けて欠伸を

しているのは蒼司だ。その傍では、

司がPCを開いてカタカタと何かの

データを開発していた。

 

そして、棺のようにも見える物体の中

では、ハジメ達10人が眠っていた。

 

この棺のような中で、彼等は夢を

見ていた。自分にとって理想の世界をだ。

雫の傍に、王子様のような司と蒼司が

居て、いつでも助けてくれたのも、

それが作られた仮想現実、夢だからだ。

 

だが、司と蒼司は違った。彼等は夢の

中に入った瞬間。

『『あぁ、これは夢だな』』

と理解したのだ。元々ゴジラである二人

の頭は人のそれとは出来が違う。なので

頭の中に押し込められていた『現在の

状況』をすぐさま思いだし、僅か数秒で

夢の世界を破壊して帰還した、と言う訳だ。

 

そして二人は今、仲間の帰還を待っていた

のだ。

 

そして……。

「おっ?おいオリジナル、まずは一人

 ご帰還だぜ?」

「えぇ、分かってます」

棺の一つが輝きだしたかと思うと、

物体が端から溶け出し、中に居た者、

ハジメを静かに横たえた。

 

 

「どうやらハジメが一番みたいだな」

そう言うと、蒼司は彼に歩み寄り頬を

軽くペシペシと叩く。

「お~い、起きろハジメ~。朝だぞ~」

(朝じゃないが)そう言ってハジメを

起す蒼司。

やがて、静かにハジメが目を開いた。

 

「う~ん、あれ?蒼司?」

「おう、おはようさん。気分はどうだ?」

「ここは、大迷宮の中?……そっか、

 あれは、やっぱり」

「あぁ、大迷宮が見せた夢だ」

ハジメは頭を抑えながらも立ち上がる。

 

「どうでしたか?ハジメ」

「あぁ、うん。夢を見たんだ。司と

 蒼司がいて、ユエちゃんやシアちゃん。

 皆と同じ学校に通って、皆で

 楽しく過ごしてた。……でも気づいた

 んだ。あれは確かに僕達が目指す

 理想だ。でも、僕達はまだ理想に

 たどり着いてない。って。そしたら

 夢の中のみんなが問いかけてきたんだ。

 ここは理想の世界だ。ここにいれば

 良いって。でも、僕はそれを断った。

 与えられた仮初めの理想じゃなくて。

 自分の手で、本当の理想を手にしたい

 からって」

「成程。流石はハジメ、と言った所

 でしょうか」

私の言葉に顔を赤くするハジメ。

 

やがて、そのままユエやシア、香織も

棺から解放された。

ユエはハジメと結婚して王妃になって

12人も子供をもうける夢をみたらしい。

シアは、里を追い出される前から私達

と知り合いで、守られる夢を見たそうだ。

香織もハジメと似たり寄ったりで、平和

な世界でハジメや私達と平和に暮して

いたらしい。

 

だが、皆その平和に疑問を覚え、そして

それを突破してきた。と言う事だ。

 

次に、ルフェアとティオが目を覚ました。

 

ルフェアが見た夢は、私が王として世界を

統治し、私の妻として何不自由ない、

平和で幸せな生活を送っていたと言う。

 

ティオも、かつて竜人族が人間に襲われる

以前から私と知り合っており、その圧倒的

な力によって守られ、私が竜人族の

神として君臨し彼等を人族から守り、

ティオは私の妻、兼、巫女として共に

竜人族を導いて居た、と言う。

 

ちなみにだが、どうやらゴブリン化

していたユエ、ルフェア、ティオ、

雫やオーガになっていた坂上は元に

戻っていた。

どうやらあのステージをクリアした時点

で元に戻ったようだ。

 

だが、天之河、雫、坂上、谷口の4人

は未だに棺の中だ。ハジメ達との協議

の結果、彼等が起きるまで少し待つ事

にした。食事をしながら待って居ると……。

 

棺の一つが光り輝いた。雫の物だ。

雫が戻ってくると、香織が駆け寄り、

私達も歩み寄る。

「どうやら無事、夢から覚めたようですね」

「え?ゆ、夢?」

「えぇ。大迷宮は、貴方に夢を見せたの

 です。本人にとって理想の現実を、

 夢という形で」

「そう、だったんだ。あれが……。

 ッ!!!」

だが、突如として雫の顔が真っ赤になった。

 

 

司達は知らない事だが、それも仕方無い

だろう。なぜなら彼女は夢の世界で

蒼司と司を相手に甘々な日々を過ごして

来たのだからだ。

 

雫はその後、部屋の隅で……。

「な、なんであんな夢見たのよ私!

 い、いや、確かに、あんな風に

 なれたら、私も……。じゃなくてっ!」

と、ブツブツ言いながら悶々としていた。

 

 

その後、私達は更に天之河たちの復活を

待って居たが、3人とも戻ってこない

ので、仕方無く強制的に棺を破壊して

3人をたたき起こした。

 

天之河と坂上はともかく、どうやら

谷口は中村恵里関係の夢を見ていた

ようだ。……親友と思って居た相手

からの裏切り。それはやはり、普段

明るく振る舞っている彼女の心に

傷を付けたのだろう。

雫と香織が谷口を宥めている。

 

だが……。

「今お前達が見ていたのは、ただの

 幻、夢に過ぎない。……気持ちを

 切り替えろ。ここは大迷宮だ。

 ……隙は死に繋がる。

 悔やむのは、ここを生きて脱出

 してからにしろ」

私がそう呟くと同時に、部屋の床に

魔法陣が現れた。

 

「行くぞ。大迷宮はまだまだ続く」

 

そして、私の言葉を合図にして私達は

三度光に飲まれた。

 

     第72話 END

 




まぁ前々から言ってるんですが、ハルツィナ大迷宮は主に司と蒼司と雫を
主軸に書いていくつもりです。

感想や評価、お待ちしています。

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