ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~ 作:ユウキ003
~~~前回のあらすじ~~~
大迷宮に突入し、早速仲間と分断されたり、
ユエ達がゴブリンになったりしつつも
進んでいく司たち。トレントモドキの
フロアボスを倒した彼等は先に進む。
そこは挑戦者の理想の世界を夢として
見せる罠が待ち構えていた。雫は
そんな中で、司や蒼司と共に過ごす夢
を見る。
その後、無事に突破した司達は次なる
フロアへと移動するのだった。
私達が転移した先は、密林だった。ほぼ
全ての木の高さは同じだが、奥に一際
高い樹が見える。
更に皆をスキャンするが、どうやら
偽物は混じっていない。
「どうやら、今回は偽物も無し。
夢のような空間に送られる事も
無いようですね」
「そっか。……にしても、あれって
目印だよね?」
そう言ってハジメは遠くに見える
一本の巨木を指さす。
正直怪しいと感じるが……。
「とにかく、あそこへ行って
みましょう。次のフロアに
続く手がかりが、どこかにあるはず
ですから」
そう言って、私達は歩き出す。
しかし……。
チラリと振り返れば、天之河と谷口が
どこか意気消沈としている。
恐らく、先ほどの夢関係だろうが……。
「ハァ。天之河、谷口」
私は足を止め、ため息をつきながら
振り返る。
「そうやって下を向いたままでは、
大迷宮に殺されるぞ。集中出来ない
と言うのなら、外へ続くゲートを
開いてやるが?」
「なっ!?ま、待て新生!やる気なら
ある!」
「そ、そうだよ!鈴だってあるん
だからね!」
咄嗟にやる気を見せる二人。
「だったらもう少し周囲を警戒しろ。
悩んでたら殺されました、などと
言う状況が大迷宮ならありえるのだ。
……死にたくなければ、うじうじ
してるよりもっと警戒心を強く持て。
でなければ、死ぬぞ」
最後、言葉の圧を強める私に、二人は
一瞬戸惑う。
私はそんな二人を一瞥し歩き出す。
「戦えるのなら付いてこい。無理そう
なら私に言え。外に送り返す。悪いが、
『足手まとい』を連れて行く気はない」
ハジメ達が続き、天之河と谷口は、
それぞれ坂上、雫と香織に励まされ
私達の後に続く。
しかし、どこまで行っても魔物は出てこない。
風の音も、虫たちの羽音も聞こえない。
静寂だ。だからこそ、私達が葉をかき分け
進む音だけが、嫌に大きく聞こえる。
「……静かですね。まるで、嵐の前の
静けさだ」
「うん。嫌な静けさだね」
ハジメは私の言葉に頷きながらも、
リボルバー、トールを構えている。
ここが大迷宮である以上、『何も無い』と
と言うのはおかしい。
「総員、警戒しておけ。何が来るか、
分からないぞ」
私が警戒を促すと、ハジメ達は頷き、
少し遅れて天之河たちも緊張した
面持ちで頷く。
直後。
「……ん?」
最後尾を歩いていた天之河が何かに
気づいて上を見上げる。
「雨か?」
「ホントだ。ポツポツ来てるね」
彼に次いで谷口も気づいた様子だ。
だが、直後に、ハジメや私、蒼司がその
異常性に気づく。ここは大迷宮の中だ。
つまり『自然の雨』など降らない。
「ッ!シールド展開!」
そして真っ先にハジメがジョーカーの
防御システムを手動で立ち上げ即座に私達
を覆うエネルギーシールドを形成。私も
その上からシールドを展開する。
直後。
『ザアァァァァァァァァッ!』
滝のような雨が降り出す。だが、それは雨、
もっと言えば水滴ではなかった。
ドロリとした、粘度の高い液体が
シールドの上を流れていく。
「これって……」
ルフェアがシールドの上を見上げながら
ポツリと呟く。
「やはりただの雨では無い、か」
更にティオが液体を見ながら呟く。
「あっ!皆さん周りを!」
その時、シアの声が聞こえ、私達は周囲
を見回した。
見ると、周囲の地面や樹といったあらゆる
場所から、乳白色の物体、スライムがにじみ
出て来る。そしてそれを見た瞬間、ハジメ
の中で嫌な予感がした。今、自分が
展開している結界は、ドーム型で、足下
の地面には展開していない。
つまり……。
『ドバッ!』
自分達の足下から、同じようにスライムが
飛び出してくる、と言う事だった。
タッチの差で対応が間に合わず、一気に
膝下あたりまでスライムに浸かって
しまう。
「ちっ!」
突然の襲撃を見抜けなかった自分自身
への舌打ちをしながらも、私は
ジョーカーZの体表から雷撃を放つ。
バチバチと音を立てながらスライムを
焼き払っていく紫色の雷撃。
「総員、その場をあまり動かない
ように!私の紫電で侵入した
スライムを焼き払います!」
しかし、傍には生身の天之河たち3人が
いる。思いのほか、消去に手間取っていた。
その時。
「おらぁっ!引っ付くんじゃねぇ!」
坂上が覆い被さろうとしていたスライム
を殴った。奴は私の与えたグローブ型の
武器で殴る。最近アップデートした為に、
このグローブには衝撃増幅装置が
内蔵されている。打撃の衝撃が増幅され、
相手のボディを内側から破壊するための
装備だ。
その結果。
『ドパァッ!』
『ビチャビチャッ!』
周囲にスライムがぶちまけられ、生身の
天之河や谷口に降りかかった。
坂上に文句を言う2人。
幸い、それ以外の私達全員と雫はジョーカー
を纏っているので、表面が僅かに濡れるだけ
で済んでいる。蒼司は体に雷撃を纏って
近づいてくるスライムを片っ端から
塵芥にしている。
しかし……。
「外は凄い事になってますね」
内部のスライムを粗方焼き払った私は
シールドの外に目を向けた。外では
相変わらずスライムの雨が降り注ぎ、
あちこちからスライムが溢れ出している。
もはや外は乳白色の液体の海となっている。
やむを得ない、か。
このまま事態を放っておく訳にも行かない。
上も地面からも、殆ど無尽蔵に沸いてくる
このスライム。対処しないわけには
行かない。
「……やるか」
ポツリと呟いた私は、ジョーカーZの
装着を解除すると、静かにシールドの
方へと歩み寄る。
「司?」
それに気づいたハジメが私の方に
声を掛ける。
「どうするの?」
「少し連中に対処してきます。
ハジメはこのままシールドを
最大強度まで引き上げ展開を
続けて下さい」
「うん、分かった」
ハジメは特に疑問も抱いた様子も
無く、シールドの強度を引き上げる。
では……。
私は無言で跳躍し、シールドをすり抜け
スライムの海に飛び込んだ。
「なっ!?新生っ!?」
それを見ていた光輝が慌てだし、龍太郎と
鈴も同じように驚き戸惑う。
「おい南雲!新生は何をしてるんだ!?」
「大丈夫だから、落ち着いて天之河君。
司が何とかしてくれるから」
戸惑う光輝を落ち着けるハジメ。
「しかし……」
と、光輝は納得出来ないと言わんばかりだ。
だが……。
「む?」
ティオが何かに気づいて視線を外に向けた。
そして……。
「これは……!」
外の様子に戸惑った。
なぜならスライムの海が『沸騰』している
からだ。
乳白色の海が、ボコボコと泡立っていく。
そしてついに……。
『ジュォォォォォォォッ!!!!』
乳白色の海が、一瞬で蒸発してしまった。
更に、それに合わせて周囲の木々や草花、
大地や天井の壁までもが、『燃え上がった』。
あちこちで火の手が上がる。炎が世界
全体を真っ赤に染め上げていた。
それは正しく『地獄絵図』。
天井付近の壁の中に潜んで居たスライム
も、その熱で瞬く間に蒸発していく。
「し、シールド外部の温度が、えっ!?
ろ、6000度!?どうなってるのこれ!?」
「まるで、人工の太陽」
驚く雫の隣で、ポツリと呟く香織。
と、その時、燃えさかり倒れた木々の
向こうから司が見えた。だが……。
今の司は、限定解除をした姿だった。
腰から漆黒の尻尾を生やし、背中には
巨大な背鰭を背負っている。
そしてその体から莫大な熱量の
熱エネルギーを周囲に放出していた。
「そうか。そう言う事かの」
そして、そんな彼の姿を見てティオは
納得していた。
「何か分かったんですか?ティオさん」
そんなティオに問いかけるシア。
「うむ。シア殿も覚えて居るであろう?
グリューエン大火山で、マスターは
煮え滾るマグマの海へと飛び込み、
その熱を奪う事でマグマを冷やし
固めてしまった」
話をするティオ。しかし、マグマの海に
飛び込んだとか、聞いたことも無い
話で、近くにいた光輝たちが驚いていた。
「今回はその逆じゃ。自らの力を、高熱の
エネルギーとして周囲に放射しておる
のじゃ、マスターは」
「成程、そう言う事ですかぁ。
相変わらず、司さんは色々規格外
ですねぇ。まぁ、今更ですけど」
呆れ気味に苦笑するシア。
最も、更に驚くべき結果になった。
炎が燃え盛っていた紅蓮の世界が、
突如として、一瞬で青く凍り付いて
しまったのだった。
燃え盛る炎さえも、一瞬でかき消え、
残った木々の残骸と大地と天井が、
一瞬で凍り付いた。
「な、何だ今度は!?」
「ぜ、全部凍ってやがる」
驚く光輝と龍太郎。
それも無理はない。ほんの一秒前まで
燃えていた紅蓮の世界が、今度はクリアな
氷結の世界となったのだ。
急激な変化に、驚くなと言うのが無理な
話だ。
「単純な話であろう?マスターは熱を
奪うも放つも自由自在なのじゃ。
先ほどまでは熱で全てを焼き払った
のじゃ。そして今度は逆。全ての
熱を奪ったのじゃ」
「い、いや、けどよぉクラルスさん。
それってそんな簡単な事じゃ……」
ティオの言葉にそう呟く龍太郎。
「まぁ、確かに普通でも無いし簡単でも
無いのも確か。しかし、妾の
マスターに常識と言う物は通用せぬ。
妾も、マスターと旅してそれを理解した。
初めて見た時は、今のお主たちのように
驚いた物だったのぉ」
そう言って、こんな状況だというのに
過去を思い返すティオ。
その言葉に、光輝達3人が戸惑って
いると……。
「戻りました」
背鰭と尻尾を展開し、上半身裸の
司が戻ってきた。
「お帰り司。流石だね」
そう言って出迎えるハジメ。
「ホントに。もう驚かないって何度も
決め手も、絶対どこかで驚かされる
からねぇ、司くんには」
香織は諦め気味に苦笑しながら呟く。
「確かに」
「まだまだ驚かされそうですぅ」
それに頷くユエとシア。
「私はちょっと楽しみ。お兄ちゃん、
次はどんな事するの?」
「妾も興味があります。マスター
の力はいつも妾を興奮させるのじゃ」
笑みを浮かべるルフェアと、どこか
恍惚とした表情のティオ。
皆、司の尻尾と背鰭には一切驚きは
しない。
しかし、一方で雫や光輝たちはそうは
行かない。
「つ、司、そ、それって……」
雫は、震える手で司の尻尾や背鰭を
指さす。
「……」
その事に、司はしばし悩む。
『雫は信頼している。しかし、この場
には外野の天之河たちもいる。
ここで話す事は出来ないか』
そう考えていた司。その時。
「まさか、お前のそれが、ゴジラ
とか言う名前と関係あるのか?」
光輝が、鋭い視線で司を睨み付ける。
しかし……。
「誰がその名を口にする事を許した」
次の瞬間、圧倒的な『圧』が光輝に
襲いかかった。
それだけで光輝の体から汗が噴き出す。
「あ、うっ」
光輝は、何かを言おうとするが、口が
言葉を発する事を拒否するように
僅かに動くだけだ。
「……その名で私を呼んで良いのは、
その名の意味を知る者たち。私が
真に信頼する者たちだけだ。
貴様『如き』が、気安くその名を
口にするな」
今、司は圧倒的なまでの『怒り』を
静かに滲ませていた。
『ゴジラ』の名を知る事は、司から
全幅の信頼を得ている証でもある。
共に旅をしてきたハジメ達や、彼の
仲間であり部下として戦うGフォース
のカムやパル、ハウリアの兵士達
だからこそ、その名を知る事を、
司から『許された』と言っても良い。
そして、だからこそ、許可も無く
その『名の意味』を知ろうとした光輝を、
司は許せなかったのだ。
「お前如きが、その名の意味を理解する
必要は無い。一生な。そして忘れろ。
その名を。貴様には、過ぎたる名だ」
そう、光輝を突き放す態度を取る司。
やがて彼はパチンッと指を鳴らす。
するとシールドの向こう側に広がる
氷結の世界が消え去り、そこには
ただ、何も無い地面だけが広がっていた。
その地面の先には、巨樹だけがぽつんと
立っているだけだった。
それは司が、巨樹をゴールと考え、
『それ以外』の全てを焼き払ったからに
他ならない。
そして、司は密かに天之河たちの体に
浸透しつつあったスライムの『媚薬』
の効果までも概念干渉能力で無効化
していた。
やがて、司は背鰭と尻尾を吸収すると
新たな服を創り出して纏い、静かに
歩き出した。
ハジメ達が何も言わずに続く。
それに遅れて、グッと歯を食いしばる
光輝をフォローしながら続く。
しかし、光輝が憎悪を滾らせた目で
司の背中を睨み付けていた事は、
言うまでも無かった。
『しかし、快楽の地獄か。どうやら
ここは仲間の絆を試す大迷宮の
ようだな』
頭の片隅で、司はそんな事を考えながら
先を急ぐのだった。
一方で……。
『……その名の意味を知る事は、信頼の
証、かぁ』
雫は一人、そんな事を考えながら司たち
に続いていた。
『じゃあ、意味を知らない私って、司
から信頼されてないのかな?』
名を知る事が信頼の証ならば、
知らぬと言う事実は、『信頼されていない』
と言う証にもなるからだ。
その事実に、雫は内心落ち込みかけた。
だが……。
『そう落ち込むなよ雫』
その時、ジョーカーを通して蒼司の
声が聞こえてきた。
蒼司の方を向く雫。
『ここには外野が多い。だから
オリジナルは話さないだけさ』
外野、と言うのが光輝や龍太郎、鈴で
ある事は、雫にもすぐに分かった。
『お前は十分オリジナルから信頼
されてる。そうしょげるなって』
そう言って雫を励ます蒼司。
『ホントに?私って、信頼されてる
のかしら?』
『当たり前だろ?そりゃ、確かに
一緒に旅はしてこなかったかもしれん
が、オリジナルはお前を信頼してる。
だからジョーカーを与えたし、
俺を護衛として生み出した』
『そう』
頭の中で頷きながらも、雫はどこか
不安そうな表情で司の背中を見つめて
いたのだった。
やがて、巨樹へとたどり着いた一行は、
これまでと同じように洞の魔法陣から
次なる場所へと転移した。
次の場所も洞の中。但し正面には出口が
あり、そこから光が差し込んでいた。
「……どうやら、今回は偽物も夢も
無しのようですね」
司は全員を見回し、確かめてから前を
向く。
そして、彼は更にリボルバーである
トールを抜く。
「行きましょう。全員、気を抜かないように」
司の言葉にハジメ達が頷き、各々の武器
を手に取り、歩き出した彼に続く。
更にその後を光輝達と蒼司が続く。
やがて、外に出ると、彼等は自分達が
巨大な枝の上に立っている事を知った。
振り返れば、先ほど出てきた洞は
巨大な樹の幹に空いている物だった。
司たちは、巨木から伸びる枝の上に
出てきた形となったのだ。
周囲では巨大な枝が幾重にも混じり合い、
さながらフェアベルゲンの空中回廊の
ようであった。
上を見上げれば天井が見える。
「……成程。そう言う事ですか」
「何か分かったの?司」
ポツリと呟く司に声を掛けるハジメ。
「えぇ。恐らく、この巨木こそが
本当の大樹なのです。そして、
私達が入り口と考えていたあの
樹は、文字通り氷山の一角だったの
です」
「じゃあ、あれが大樹の、ほんの先端
だったって事?」
司の言葉に首をかしげる香織。
「えぇ。恐らく」
「大樹って、このサイズはもう樹じゃ
ないわよね」
「うんうん。もはや大樹ってレベルじゃ
無いよね」
呆れ気味に呟く雫の言葉にルフェアが
頷く。
その時。
「む?」
「あれ?」
司、シアの順に何かに気づいた。
「音響センサーに感あり」
司がそう呟くと、巨木を見上げていた
ハジメたちが一瞬で周囲に武器を
向けながら円陣を作り、互いの
背中をフォローしあう。
それに一拍遅れて光輝達4人も武器を
構える。
「シア」
「はい。聞こえました司さん。
この音って……」
「えぇ。下の方から何か、羽音の
ような物が聞こえました。
確認します」
そう言って私は枝の通路の淵に立ち、
眼下をのぞき込んだ。
遙か下方、暗い闇の奥に目を向け、
ジョーカーのメットのズーム機能で
目標を確認したのだが……。
「ッ!……これは」
それは、『司でさえ』も一瞬の嫌悪感と
鳥肌を覚える程の相手であった。
しかし司はすぐに冷静さを取り戻す。
「……本当に、この大迷宮もまた、
いろいろな意味で嫌らしい」
嫌悪感を丸出しにしながら、吐き捨てる
ように呟く司。
「つ、司?どうしたの?何が見えたの?」
いつもの戦闘時には冷静な司が、
珍しく取り乱している事を感じたハジメが
声を掛けた。
すると……。
「……。何というべきでしょうか。
自分の目で確認して欲しいですが、
相応の精神的ダメージを覚悟して
覗いた方が良いと申しますか」
「「「「「「????」」」」」」
司の言葉に、ハジメ達は首をかしげ
ながらも、そっと淵に歩み寄り、
メットのズーム機能を使って眼下に
いる『それ』を見た。
見てしまった。
「「「「「「ッ!?!?!?」」」」」」
すると、6人とも一斉に淵から
後ずさりした。ハジメはすぐさま
メットを取って深呼吸をしている。
香織は、メルジーネの時のように
ガタガタと体を震わせ、同じく
震えるシアやユエと抱き合っている。
ルフェアはしきりに『忘れよう』と
連呼し、ティオもブルリと体を
震わせている。
「一体、皆何を見たのよ?」
その様子を傍で見ていた雫が、入れ替わる
ように淵に立って下を見下ろす。
「あっ!?ダメ雫ちゃん!」
咄嗟に香織が止めるが、遅かった。
雫もメットのズーム機能を使って、
見てしまったのだ。
眼下にうごめく、数万は降らないであろう
数の『ゴキブリ』を。
「………。ふぅっ」
しばし無言で立っていた雫だが、
見てしまったせいか、次の瞬間息を
ついて膝から崩れ落ちそうになった。
「うぉっと危ねぇ!?」
危うく淵から落ちそうになったのを、
蒼司が手を引いて止める。
「だ、大丈夫か雫!?一体何が!?」
眼下をのぞき込んでも見えない光輝や
龍太郎達が、事態を飲み込めずに
戸惑う。すると……。
「見ろ」
司が、手首の端末から空中にディスプレイ
を投影し、そこに眼下でうごめくゴキブリ
達の姿を見せた。
「「「ッ!?!?!?」」」
すると3人も息を呑み、顔を真っ青にして
しまう。
「き、気持ち悪いよ~~」
鈴は口を押さえている。光輝と龍太郎も
気持ち悪そうに顔を青くしている。
「つ、司、これは……」
「えぇ。……考えたくは無いですが、
あれが下にいる以上、あれと戦う
可能性があると私は考えます」
そんな司の言葉に、皆が更に顔を
青くする。
「……ここに留まっても仕方ありません。
とにかく、今は進みましょう。
いざとなれば、私の放熱能力で全てを
焼き払うつもりですから」
と、司は先ほど、世界を紅蓮に染めた力を
使う事を示唆した。
「うぅ、そう、だね。とにかく、下は
見ないで進もう」
その言葉に、ハジメ達が何とか進む事を
決心し、重い足取りながらも歩き出した。
前方に見える、枝が合流している大きな
足場へと向かう一行。
そして、そこにたどり着いた時だった。
『『『『『ヴヴヴヴヴヴヴヴッ!!!!』』』』』
大量の不快な羽ばたき音が聞こえてきた。
「ま、まさかっ!?」
歩いていたハジメが、メットの下で
表情を引きつらせる。
そして、慌てて通路の淵から下方を
確認すると、ゴキブリたちがこちらを
目指して昇ってきていた。
直後。
「総員っ!火炎放射器のシャマシュを
展開!一匹でも多く焼き払え!」
司の、珍しく切羽詰まった声が響き、
ハジメ達は火炎放射器であるシャマシュを
取り出し、眼下に向けてすぐさま炎を
吐き出した。
「うぉぉぉぉっ!汚物は消毒だぁぁぁぁっ!」
「来ないでぇぇぇぇぇぇっ!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ハジメや香織、ルフェアたちが叫びながら
火炎放射をぶっ放す。
ユエやシアも、同じように魔法や
アータルで攻撃し、更に光輝達も
各々の攻撃でゴキブリの群れを攻撃する。
だが、それだけではゴキブリの群れは
ビクともしない。大海から数リットルの
水を抜いても、水位が全く変わらないのと
同じだ。そして、まるで一つの個体のように
一丸となったゴキブリが縦横無尽に
飛び回り、司たちの通路の上に出ると、
Uターンして彼等に上から向かってきた。
「ちぃっ!ゴミ虫がっ!」
司は、状況に憤りながらもシールドを
展開する。直後、黒い濁流となった
ゴキブリがシールド目がけて殺到する。
それによって鈴が気絶しかけたり、雫が
変になったりしていた。
「ちっ。厄介な」
「どうするよオリジナル。シールドは
破られねぇだろうが、このままじゃ
こいつらの精神がやべぇぞ?」
舌打ちをする司に声を掛ける蒼司。
「やむを得んか。こうなれば、周囲を
放射エネルギーで焼き払って……」
そう言って、司があの時と同じように
背鰭と尻尾を展開しようとした時。
『ザザァァァァァァァッ!』
ゴキブリが一旦、それも一斉に退いた
のだ。
「何?」
その事を訝しみ、警戒する司。
すると……。
ゴキブリは空中で球体を作り、さらに
その周囲で円環と線を自分達の体で
形作り、空中に幾何学模様を浮かばせた。
それは……。
「あれはっ!?魔法陣!?」
意図を察したハジメが叫ぶ。
「ちぃっ!?ゴミ虫の分際でっ!
奴らの魔法陣を完成させるな!
総員攻撃開始っ!」
司のかけ声に応じ、空中の魔法陣を
破壊しようと全員が攻撃を再開するが、
別のゴキブリたちが自分達を盾として
それらを阻止する。
そして、魔法陣が完成してしまったのか、
中心の球体が赤黒い光を放ち、それが
姿を変え、最終的には全長3メートル
ほどの異形のゴキブリとなってしまった。
更に奴の周囲に魔法陣が形作られる。
その中央に浮かぶ、ゴキブリの球。
恐らくサイズからして、部下となる
中規模のゴキブリを作るつもりだろう。
「ッ!早々何度もっ!」
それに気づいて、真っ先にハジメが
動いた。
だが……。
突如として、足下から魔力の奔流が
吹き出した。
「ッ!?ちっ!」
それがハジメ達を飲み込もうとした
刹那、司は瞬間的に体内のリミッターを
解除し、ハジメ達や、生身の光輝達に
最大限の防御結界を付与した。
だが、その結果、自分自身への防御を、
疎かにしてしまったのだ。
通路となる枝の裏に潜んで居たゴキブリ
達の魔法が、彼等に襲いかかる。
やがて、赤黒い光が弾け、閃光が彼等を
飲み込む。しかし、その閃光が止むと、
無傷のハジメ達が姿を見せた。
「な、何なんだ。今のは……」
爆音も何も無い、攻撃には思えない魔法
に訝しむ光輝。
だがそれはハジメ達も同じで、彼等も
しきりに周囲を見回すが、特にダメージ
を受けた様子は無い。
「皆っ!大丈夫!?」
自分のジョーカーからシールドを展開し、
ボスゴキブリやゴキブリたちとの間に
壁を作りつつ、周囲を見回すハジメ。
「うん、なんともない」
「はいです」
「うん、大丈夫」
ハジメの言葉に香織、シア、ユエの順
に反応する。
「私も大丈夫だよ、ハジメお兄ちゃん」
「妾もじゃ」
更にルフェアとティオも答える。
「あぁ、俺達も大丈夫だ」
「俺もだぜ」
「鈴も、大丈夫」
「私もよ」
更に光輝、龍太郎、鈴、雫が答える。
「俺も大丈夫だぜ」
更に蒼司も答える。しかし……。
「ただ、オリジナルがやべぇぞお前等」
そう言って、蒼司は冷や汗を流しながら、
彼等を守った司に目を向けた。
ボスゴキブリを警戒していた彼等は、
蒼司の言葉を聞き、後ろにいる司の
方へと振り返る。すると、そこでは……。
「ぐっ!?が、がぁっ!あ、ぎっ!
がぁぁっ!」
『悶え苦しむ』、司の姿があった。
頭を抑え、その場をのたうち回る司。
「ば、バカなっ!?何故マスターに!?
妾たちにさえ、効果が無いと言うのに!」
その現実に戸惑うティオ。その時。
「そうじゃねぇっ!」
蒼司が彼女の言葉を否定した。
「司がお前等全員を守ったのさ。
あの、精神攻撃からな」
「精神、攻撃?」
蒼司の言葉に首をかしげながら
呟く香織。
「そうさ。受けた瞬間に解析したから
分かったが、あれは好感度を逆転
させる魔法だ。憎く嫌悪する程に
好意を抱き、愛おしく思う者ほど
嫌悪感を覚える、クソみてぇな
魔法を奴はぶっ放してきたのさ……!」
そう言って、蒼司は何故か、額から
大量の汗を流し、体を震わせながら
ボスゴキブリを睨み付ける。
「それをオリジナルが受けたのさ。
お前等を庇った結果、自分の防御が
疎かになっちまったって訳だ」
「しかしっ!?マスターの力ならば、
そのような攻撃ではっ!?」
「あぁ。完璧には効かない。
ノーガードでそんなの食らったって、
大した問題はねぇ。けどよ、
ダメージ自体は、あるんだよ。
どんだけすまし顔でいようがな。
……そして、それが、最悪なんだ。
うっ!?」
額に脂汗を浮かべ、蒼司がその場に
膝を突く。
「蒼司っ!?どうしたよ!?」
慌てて駆け寄ろうとする雫。
『バッ!』
だが、それを蒼司自身が手を上げて
制止した。
「悪い、雫。今の、俺に、近づくな。
俺は、オリジナルとリンクしてる。
……だから、流れ込んでくるんだよ。
中途半端に、精神攻撃なんて食らった
せいで、暴れ出してるオリジナルの、
『ゴジラの破壊衝動』って奴が……!
ぐぅっ!?」
胸を押さえ呻く蒼司。
「そ、そんな、ゴジラの破壊衝動って!?」
戸惑うハジメ。
「……元々、俺とオリジナルの、更に
そのオリジナルであるゴジラは、
ぐっ、人間の核兵器開発が生み出した、
化け物だ」
「え!?」
蒼司の言葉に、雫が戸惑う。
「放射能汚染に耐える為に、ゴジラは
ゴジラと呼ばれる怪物に、進化、
せざる、を得なかった。苦しき進化
の果てに手にした、生命の輪廻を
超越した存在。それが、ゴジラだっ。
……だが、だからって、ゴジラは
なりたくてゴジラになったんじゃない。
人間の、エゴが生み出したん、だ。
……だからこそ、ゴジラは人間を
許さない。望まぬ苦しみの進化を
強要した、人間、を。あぐっ!?」
「蒼司っ!」
近寄ろうとする雫だが、それを咄嗟に
香織やティオが止める。
「そして、だからこそ、残ってるん
だよ。その心の奥底には。
普段無感情なくせに、その最奥に、
それはずっと在ったんだよ。
『憎悪』が。自らをゴジラへと進化
させた、世界に対する『破壊衝動』がっ!」
蒼司がそう叫んだ次の瞬間。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
己の中で暴れ回る破壊衝動と憎悪に、
司が絶叫する。
そして、その体がボコボコと膨れ上がり、
皮膚が裂け、血と肉が飛び散り、骨が
折れて、その体を再構成していく。
そして……。
『ゴアァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!』
司は、ゴジラ第4形態へと為ってしまった。
そして彼は、憎悪を滾らせる瞳で、
ハジメ達を、世界を見下ろすのだった。
今、最大最強の仲間が、彼等の敵として、
立ちはだかってしまうのだった。
第73話 END
って事で、原作よりもっとピンチにしてみました。
感想や評価、お待ちしてます。