ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

81 / 87
今回はハルツィナ大迷宮のラストと、その後の雫にスポットを当てた話しとなります。


第75話 乙女の悩み

~~~前回のあらすじ~~~

大迷宮のラスボス、ボスゴキブリの攻撃から

ハジメ達を守った結果、精神攻撃を受けて

暴走する司、すなわちゴジラ。

その出現に、光輝達は撤退を進言するが、

ハジメ達は仲間として司を見捨てないと

叫ぶ。そして、蒼司の提案からハジメ達は

ゴジラに、司に次々と自分達の思いをぶつけ、

最後はルフェアの活躍もあって、司は

元に戻る事が出来たのだった。

 

 

「皆、すまなかった」

今、私はハジメ達を前にして深く頭を

下げていた。

「私自身の防御が甘かったばかりに、

 皆に大変な迷惑を掛けてしまった」

「いや、良いんだよ司。結果的にこうして

 みんな無事だったんだし。ね?」

ハジメがそう言うと、香織達がうんうん

と頷く。しかし、それでも私自身が

納得出来ない部分がある。

 

「そう言って貰える事自体は、嬉しい。

 だがそれでも仲間を危険に、それも

守るべき自分自身で晒すなど、

言語道断です」

そう言うと、私は勇者たち3人の方に

体を向けた。

 

「天之河、坂上、谷口、雫。お前達にも

 迷惑を掛けた。申し訳無い」

そう言って私が頭を下げると、3人は

とても戸惑った様子だった。

「許してくれ、などと言うつもりはない。

 だが償いのチャンスが貰えるので

 あれば、可能な限り3人の要望を

 出来る範囲で聞こうと思って居る。

 ……今は、それで納得して貰えない

 だろうか」

「え、えっと……」

私の言葉に天之河が戸惑い、坂上や

谷口も戸惑っているのか、何も言わない。

 

すると……。

「もう大丈夫だから、頭を上げたら?」

と、雫が私に声を掛けてきた。

「雫」

「今の司を見てれば、どれだけ

 私達に謝りたいって思ってるのか

 分かるし。それに、司は私達を

 守ってあぁなっちゃったんでしょ?

 確かに驚いたりもしたけど、もう

 終わった事なんだし、結果全員

 無事なんだから。もう良いんじゃない?」

思わぬ相手からのフォローに私は

しばし戸惑う。

 

そこに……。

「そうだね。もう済んだ事だし。

 ……それに、あれはしょうが無いよ。

 あれは僕達への罰だったんだ」

「え?」

不意に呟かれたハジメの言葉に、私は

呆けた声を出してしまう。

「私と戦う事が、罰?」

「うん。今日、司と戦ってみて、改めて

 思ったんだ。僕達って結構、司を

 頼りすぎてたな、って」

「私を、頼りすぎ?」

「うん。……僕が今ここでこうして

 いられるのは、司が僕の為にジョーカー

 を作り、更に無双の力を発揮する武器を

 与え、そしてそれらを強化し続けて

 くれたからだよ。そして、肉体的に僕

 を鍛えてくれたのも司だ。

 極論を言えば、今の僕の強さは、司の

 存在無しには為しえなかった物だ。

 今の強い僕という存在は、司の存在が

 あってこそ成立している。

 そう言っても過言じゃ無いと思う」

 

「そして、それは私達も同じ」

更にハジメの隣に並ぶユエ。

「司に貰った腕輪やジョーカーの

 おかげで、私達はどんな敵と

 戦っても、楽勝だった」

 

「でもそれは司さんが居てくれたからですぅ」

更にハジメを挟んだユエの反対側に立つ

シア。

「私達だけじゃ持つ事の出来なかった

 武器や装備。それは全て司さんから

 与えられた物ですから」

 

「でも、それだけじゃない」

更に香織も、シアの隣に並ぶ。

「司くんの力があれば、どんな困難でも

 突破出来た。……きっとその事実に、

 私達はどこかで甘えていたのかも

 しれない。『司くんがいるから大丈夫』、

 『司くんが何とかしてくれる』。

 ……実際、これまで何度か悪い人達

 と戦ったりもしたけど、私やハジメくん

 の手は、血で汚れていない。これも

 全て、司くんのおかげ」

 

「そんなマスターのお力に甘えていた

 我々に、大迷宮は罰を下したのじゃ」

ユエの隣に並ぶティオ。

「ここは、仲間の絆を試す大迷宮だと、

 マスター自身が仰っておられました。

 そして我々はこれまで、マスターの

 お力に時に守られてきたのです。結果、

 マスターという存在が我々の精神的

 支柱となっていたのも事実。そして

 大迷宮は、そんな妾達の精神的支柱、

 即ちマスターを我々の敵とする事で、

 我々の絆の試した、と言う事なの

 でしょう。……怒りと憎しみに

 暴れ狂う仲間を見捨てず、仲間の

 為に命を賭けて戦えるのか、と」

 

「……そうか」

と、私はポツリと呟く。

その時、隣に立っていたルフェアが

私の右手を優しく握ってくれた。

 

「私達は、これまで何度もお兄ちゃんに

 助けられてきた。だから今日は、その

 恩返しとしてお兄ちゃんを私達が

 助けた。それだけだよ」

「ルフェア」

そう言って笑みを浮かべるルフェアの手

は、とても温かく感じた。

 

……かつて多くの命を奪い、他者と繋ぐ手

を持たなかった私が、今は彼女とこうして

手を繋ぎ、彼等と絆で繋がっている。

 

確かに、私の中のゴジラとしての本能は

人を永遠に許さないだろう。

 

だが、それでも私は、ここで、この世界で、

彼等と繋がる事が出来た。

 

ゴジラという獣を受け入れてくれた、彼等と。

 

だからこそ、より一層強く思う。

 

『彼等と共に生きたい』、と。

 

やがて……。

 

「さぁてと、これで無事ここの試練も

 終わりみたいだぜ?」

私の復活に会わせて本調子に戻った

蒼司が通路の先を指さす。

 

見ると、四本に伸びていた通路に対し、

5本目の階段のような、さっきまで

無かった通路が生まれていた。

 

「あれ?あんな通路あったっけ?」

谷口が通路を見つめながら首をかしげる。

「さっきまでは無かったが、恐らくあの

 ボスゴキブリがここのボスで、それを

 倒す事があの階段の出現条件だった

 んだろう。……つっても、俺等は

 司の相手とかしてて気づくどころじゃ

 無かったしな」

そう言って肩をすくめる蒼司に、雫や

ユエたちが『確かに』と頷く。

 

「行こうぜ。試練が終わったとは言えここ

 は大迷宮だ。あんまり長居はしたくない

 だろ?」

と言う蒼司の後押しもあり、私達は休憩

もそこそこに階段を登る始めた。

 

登った先にあった洞に入ると、案の定

魔法陣が発動し、私達は転移した。

 

そして、私達がやってきたのは大樹の

頂上にある庭園だった。庭園の淵から

見える眼下の霧の海がそれを証明していた。

 

ハジメ達は最初戸惑い、そもそも

アルゴでここに来た時に大樹を見つけられ

無かった事から何らかの人の手が、それも

かなり強力な認識攪乱の類いがある事が

分かった。

 

「まぁ、それはともかくとして。ここが

 ゴールなのは間違い無いでしょう」

私の言葉にハジメ達が頷き、光輝達4人が

驚いている。

 

やがて中央にある小さな島、石版のある

島に足を踏み入れる。

すると、周囲の水路が魔法陣になっていた

のか、若草色の光を放ち、いつものように

記憶を読まれ、知識を頭の中に刻み込まれる。

 

直後、石版に絡みついていた枝が形を変えて

人型になると、様々な事を話し始めた。

 

自分が『リューティリス・ハルツィナ』

である事や大迷宮の悪魔的な所業の数々に

対する謝罪など。

大迷宮のコンセプトなどだ。

 

だが、やがて彼女の口から、ここで得られた

神代魔法、『昇華魔法』の真の意味。

そして、全ての神代魔法を手にする事で

実現する『概念魔法』の事を聞く事が出来た。

 

更に概念魔法で生み出されたアイテムである

『導越の羅針盤』を手にする事が出来た。

 

リューティリスの言葉から、これは恐らく

エヒトの居場所を探るための物。しかし

これがあれば私達は元の世界の位置情報を

観測する事が出来る。

 

やがてリューティリスは最後のエールの言葉

を送ると、再び枝となってしまった。

 

それを見届けた私は、手の中にある

羅針盤に視線を落とす。

 

「そう言う事ですか。あの日、ミレディ

 が言っていた意味は。……この羅針盤

 を手にして元の世界の座標を知り、

 そして概念魔法で世界を超える魔法を

 創造する」

「ッ!それじゃあ……!」

私の言葉にハジメや香織、雫や谷口たち

が驚きながらも、その表情に喜びを

浮かべていた。

 

「えぇ。……地球帰還への、明確な

 ビジョンが見えてきました」

そう言って私が笑みを浮かべれば、皆

喜んだ様子だった。

 

ともあれ、私達は新たな魔法を手にした。

ちなみに、私達の中ではルフェア以外が

昇華魔法を手にした。だが、雫達5人は、

雫と蒼司以外これを入手する事が出来なかった。

 

どうやら大迷宮に認められなかったようだ。

まぁ、彼等にはあまり期待していなかった。

付いて来たいと言うから来させただけで、

過度な期待はしていなかった。なので、

予想通り、と言った所だ。

 

「ともあれ、これで大迷宮攻略は完了です。

 一旦ハルツィナ・ベースに戻りましょう。

 皆も私と戦い、疲れたでしょうし、あの

 ゴキブリ共も、かなり精神にダメージを

 与える存在でしたから」

と私が言うと、ハジメ達が苦笑しながら

賛成と言ってくれたので、私達は一度

ハルツィナ・ベースに戻る事にした。

 

そして大迷宮を出る途中で、私は天之河

が小さく、悔しそうな表情を浮かべて

いるのを見逃さなかったのだった。

 

 

ハルツィナ大迷宮を出た私達は、外で

待っていたカム達と合流し、基地

へと帰還した。皆が皆疲れていた事もあり、

基地に戻った直後に解散。それぞれ

思い思いの食事や風呂などを堪能した後、

割り当てられた部屋へと入っていった。

 

 

しかし、そんな中で1人寝付けない

人物がいた。

 

雫だった。

 

彼女は大迷宮から戻ってきた後、何故か

上手く寝付けず、結局まだ夜が明ける前

に青龍を手に部屋を飛び出し、夜の基地内

で警備をしていたハウリア兵から、人気

の無い訓練場の場所を教えて貰い、

そこで今、彼女は青龍を振って鍛錬を

していた。

 

いや、正確に言うのならば、鍛錬に

よって何かを振り払おうとしていた

のだった。

 

『ダメ、ダメ、ダメッ!』

 

何度剣を振って無心になろうとしても、

何度でもその脳裏に浮かぶ2人の男の顔。

 

蒼司と司の顔。

それが彼女を悩ませていたのだった。

 

今、彼女は2人の男への思いで揺れていた。

昨日の大迷宮の中で見た夢は、今も彼女の

中に鮮明に浮かんでいる。

 

心に傷を負っていた自分を助けてくれた

王子様のような2人の言動と思い出は

今も脳裏に焼き付いている。そしてあれは、

『自分が望んだ理想』を夢として見せた

物。つまり雫はあんな光景を心の中で

望んでいた事になる。

 

『私は、司が好き!あの時アルゴの中で

 そう思ったじゃない!じゃあ、それで

 良いじゃないっ!』

そう、心の中で叫ぶ雫。しかし直後、

これまでずっと自分を傍で支えてくれた

蒼司の顔が頭をよぎる。

 

『でも、司にはルフェアちゃんがいるし、

 それに蒼司なら、相手も居ないし。

 あぁでも!あぁもうっ!』

彼女自身、既に司にも蒼司にも、好意を

抱いている事は誤魔化しようのない

事実であった。

 

だが、問題もあった。それは司と蒼司

の2人に対して、同じくらい心を許し、

同じくらいの思いを抱いている事だ。

あの夢の中で、司と蒼司の2人が

同時に現れたのがその証拠だ。

 

やがて数時間、青龍を振っていた雫

だったが、攻略開けで休む間もなく

鍛錬をしていたのだ。肉体にたまった

疲労感は相当な物であり、それによって

彼女の思考は次第にまとまらなく

なっていった。

それもあってか、雫は『今は元の世界に

帰る事が最優先』として自分を何とか

納得させ、結局自分は司と蒼司の

どちらが好きか、と言う問答を半ばで

放棄した。

 

その後、彼女は部屋に戻るために歩き出した。

しかし……。

 

「ん?」

前方の方から声が聞こえてきた。

 

今、雫が居るのは基地の一角にある訓練場だ。

雫はその更にその一角にある運動場で

青龍を振るっていたのだが、今通り掛かった

体育館のような建物の、僅かに開いた

扉から人の声が聞こえてきたのだ。

 

「この声。……蒼司と、司?」

聞き覚えのある声だと分かって、雫は

扉の隙間から中をのぞき込んだ。

 

そこで行われていたのは……。

 

『ズドドドドドドドドッ!!!』

 

超高速の戦闘だった。

 

司と蒼司が、展開された結界の中で、

拳と足だけを武器にして戦っていたのだ。

分身したかと見まがう程の速度で、残像

を残しながら繰り出される拳。

それがぶつかり合う度に火花を散らし、

脚と脚がぶつかり合うだけで爆音が

響き渡る。

 

結界の遮音機能も機能しては居るが、

それでも音が外へと漏れる程だった。

「はっ!これが昇華魔法かよ!すげぇ

 ぜオリジナル!普段の数倍、力が

 漲ってくるぜ!」

「私もだ。……成程、昇華魔法。

 これは使える」

そう言って会話をしながらも2人は

戦った。

 

お互いに蹴り、殴り、攻撃を続ける。

更に攻撃を受けて皮膚が破け血肉が

飛び散る程の重傷を受けても、昇華

魔法で強化された治癒能『力』が

一瞬でそれを再生させてしまう。

 

「また一歩『第10形態』に近づいた

なぁ!オリジナル!」

「えぇ、ここに来て、進化スピードも

 上がってきていますよ」

 

そう言って、最後に拳をぶつけ合った

所で、司と蒼司は構えを解いた。

 

雫は、その圧倒的な戦闘能力に目を

奪われていた。

 

改めて突き付けられた2人の強さに

愕然としながらも、雫は思いだした。

司の真名。ゴジラという単語を。

 

『もしかして、司が強いのって、その

 ゴジラだから?でも今の司は確かに

 人間だし、それに放射能汚染がどうの

 ってあの時蒼司は言ってた。じゃあ、

 司は何なの?人、じゃないの?』

 

そんな悩みを抱えていた雫だったが……。

 

「所で。お~い雫~!」

「ッ!」

突然、中から蒼司に声を掛けられた雫は

ビクッと体を震わせた。

「んな所でのぞき見なんてしてねぇで

 早く入って来いよ~」

そう言って雫の入室を促す蒼司。

 

やがて数秒の間を置き、雫が静かに部屋の

中へと足を踏み入れた。

「き、気づいてたの?」

「あぁ。……俺達の感覚は人のそれを遙かに

 超えるからな。小さな息づかいでさえも、

 俺達は捉える事が出来る」

「ッ」

 

人のそれを遙かに超える、と言う単語が

雫の脳裏にゴジラという名を思い出させた。

 

「ねぇ」

「ん?」

「大迷宮で、蒼司が言ってたでしょ?

 ゴジラがなんなのかって。司は、

 その事を聞こうとした光輝に怒って

 たけど……。私には、教えてくれないの?

 私に、それを聞く資格は無いの?」

 

どこか、悲しげな表情で2人を見つめる雫。

その表情に、蒼司は真剣な表情でオリジナル

である司へと目を向けた。

「司よ。雫は良いんじゃねぇか?」

「えぇ。そうですね。……雫には、私の

 真名について。そしてゴジラについて

 知る権利はあるでしょう」

「ッ、それじゃあ……」

 

「えぇ。お教えしましょう。……私の

 存在の全てを。……かつて破壊神と

 恐れられた獣の話しを」

 

その後、司と蒼司、雫は場所を移し、

人気の無い基地の食堂で話し始めた。

雫は最初、蒼司が作ったココアを飲み

ながら話を聞き始めたが、すぐに

そんな物の存在など忘れてしまう程に

司の話に聞き入っていた。

 

司がそもそも雫達の世界とも違う世界

から来た事。

その世界で放射能汚染に耐えた事で

進化した超進化生命体である事。

やがてゴジラとして人の前に姿を

現し日本を襲ったこと。

人間のヤシオリ作戦の前に敗れた

オリジナルが、急激な進化によって

細胞の一部を異世界、つまり雫達の

世界へと飛ばした事。その細胞の一部が

成長した存在が自分である事。

人との対立を避けるため、今の第9形態

へと進化し、完全な人間への擬態を果た

した事。

 

そして、生きろと囁く本能の声に従い、

あの高校で雫達と出会い、転移される日

まで自分を人と偽り生きてきた事を。

 

その話が終わる頃には、ココアはすっかり

冷めてしまっていた。

 

「そ、そんな。じゃあ、司は、人間じゃ

 無いの?」

「えぇ。……この体は、結局の所人間の

 形をしているだけの事です。

 雫も大迷宮で見たでしょう?あの黒い

 ケロイドが固まったかのような巨躯を。

 ……あれが、第4形態の私なのです」

「ッ!?あれが、第4、形態?」

 

「えぇ。……かつて私のオリジナルは、

 その第4形態の時に人間に敗れました。

 しかし私は、世界を渡った後、その

 反省から海底で進化をひっそりと続け、

 やがて第9形態へと至り、自らを

 隠す意味で人間社会へと紛れ込んだ

 のです」

「じ、じゃあ、前に話してくれた孤児院の

 話しとかは?」

「あれは本当です。私は自ら孤児の

 振りをして、孤児院で保護されたの

 です。……もっとも、私には最初から

 親など居なかったのですが」

そう言って、司は冷えたココアに口を

付ける。

 

しばし、3人が沈黙する。

 

「雫、あなたは以前、帝都でMOAB投下を

 行った時、私を悪魔と言っていましたね?」

「そ、それは、私の勘違いって言うか、その……」

「いいえ。……大勢の人を殺した事が悪魔の

 所業と言うのなら、私は悪魔と呼ばれるに

 相応しい」

「え?」

「私がまだオリジナルの一部であった頃、

 オリジナルは異世界の東京へと侵攻し、

 そこで、万単位の人間を殺したの

 ですよ」

「ッ!」

 

司の言葉に、雫は息を呑む。

 

「東京を焦土に変え、数多の命を奪い、

 やがて私は、オリジナルは倒された。

 その一部が逃れ、成長した姿が私です。

 であれば、私のこの体は、ハジメや雫

 たちと出会う前から、既に血で真っ赤に

 汚れていたのですよ」

「そ、そんな……!」

司の言葉に、彼女は静かに項垂れる。

 

「なぁ、雫。俺達は人間じゃない」

蒼司が静かに雫へと語りかける。

 

「俺達は人間の振りをしているだけだ。

 ……それでも、今は人として、

 オリジナルはハジメ達と共に旅をし。

 俺はお前達と共に戦った。

 それは、事実だ」

そう言うと、蒼司は静かに立ち上がった。

 

「例えこの身が人にあらずとも、俺は

 お前達を、お前を、仲間と思って

 接してきた。……俺を化け物と罵るのも

 構わない。でも、それだけは、覚えてて

 くれ。……俺は、必ず、命に替えても

 お前を守る」

「ッ!」

それだけ言うと、蒼司は食堂を後にした。

雫は彼の言葉に戸惑い、心臓が高鳴る。

 

必ず守ると言う言葉。それは、王子様が

お姫様に囁くような。少女漫画の主人公が

ヒロインに囁くような台詞。

しかし、そこに一切の嘘が無い事は、

これまで蒼司と接してきた雫だからこそ

分かる。

 

 

やがて、司もカップを手に立ち上がる。

「雫。……私は、人間ではありません」

「……うん」

「それでも、私は雫の事を、大切な友人

だと思って居ます」

「ッ。……うんっ」

大切な友人という言葉に、雫は嬉し涙

と悲しみの涙を流す。

その声は、嗚咽に震えていた。

 

ゴジラの名を知るに相応しい存在として

認められている事への嬉し涙。

 

彼にとって自分は『友人』という立場であり、

女として見られていない事への悲しみの涙。

 

やがて、司が歩き出し、しかしすぐに足を

止めた。2人は互いに背を向け合う。

 

「雫、私の真名を教えたと言う事は、

 それは私が貴方のために、時に全力で

 戦うと言う証でもあります」

「……うん」

 

雫は震える声で頷きながら再び嬉し涙を流す。

 

「……雫の言うように、私は悪魔のような

 所業を、罪を犯してきました。それでも、

 今は思うのです。この繋がりを、ハジメ

 や雫達と紡いだ絆を、大事にしたいと。

 ……私は、そんな皆とこれからも 

 一緒に生きていきたいと思って居ます」

 

それだけ言うと、司は歩き出す。

そして食堂を出て行く、去り際……。

 

「だからこそ、雫の未来は、私が必ず

 守ります。例え貴女から怪物と

 罵られようと」

 

そう、語るのだった。

 

1人食堂に残された雫。

「無理、無理だよ。やっぱり……」

彼女は静かに涙を流す。

それは、苦悩の涙だ。

 

「どっちか1人なんて、選べないよ。

 司も、蒼司も、2人とも、好きぃ」

絞り出すような弱々しい本音。

 

司と蒼司は、いつも彼女の傍に寄り添い、

彼女の為に戦った事もある。

 

司は、彼女との絆を守りたいが為に。

 

蒼司は、彼女を守ると言う今ここで

生きる理由の為に。

 

彼等は確固たる決意で雫の傍に

立ち続けた。

そして、これからも命がけで彼女を

守るつもりだ。

 

そんな男達に、一体誰が惚れるなと

言えるのか。

 

いつでも傍に居て、時に愚痴を聞いて

くれた相棒でもある蒼司。

 

例え離れていたとしても、ピンチには

必ず駆けつけてくれた司。

 

今、八重樫雫という少女の中で、

恋心を乗せた天秤は激しく揺れ動いていた

のだった。

 

果たして、彼女と蒼司、司の三角関係は

どうなるのか?

 

それはまだ、誰にも分からない。

 

     第75話 END

 




って事で司と蒼司、雫の三角関係です。まぁ司と蒼司は別にライバルでも
何でも無いんですけど……。
読者様の意見で、蒼司が司の分身なんだから、2人が元に戻ればそれで
丸く収まる、みたいな意見も貰っては居るのですが、それでは
少し面白く無いかなぁ、と思いまして、今後、正確には雪原の大迷宮
の、あの場所で雫がどっちとどうなるか、決まると思います。
お楽しみに。

感想や評価、お待ちしています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。