「…」
「旗艦は三笠。お前だ」
「一つ条件があります」
「艦娘風情が軍の命令に条件だと」
「我々艦娘は一度戦争になれば軍令部の手足となって行動して見せます」
「当然だ」
「しかし現場での駆け引きは私に任せてもらいたい」
「おまえらごときに帝国の興廃を託せというのか」
「私は運の強い女ですから」
「なぁ朝日やっぱりバルチック艦隊は津軽を通ってくるんじゃないか?」
「そうね…今まで何の連絡もないということは…」
「三笠はどこから来ると思うんだ?」
「それは対馬よ」
「どうして」
「敵がここを通ると言って、来る」
「信濃丸より入電読み上げます。203地点ニテ敵艦隊ミユ以上です」
「軍令部に打電。敵艦ミユトノ警報二サイシ連合艦隊ハタダチニ出動コレヲ撃滅セントス。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ送れ」
「いよいよね三笠」
「私達が昼となく夜となく訓練に明け暮れてきたのは実に今日、この時に巡り会うためよ。みんな…覚悟を決めなさい」
「敵、距離13000!」
「旗流用意、Z揚げ!伝達!皇国ノ興廃此ノ一戦二アリ各員一層奮励努力セヨ送れ!」
「もう後がないってか…上等!どこで戦をするんだ、三笠!」
「敵、距離8000!三笠提督!」
「150°左回頭!!全艦我の後に続け!!」
「三笠!!これじゃあ敵の的だぜ!ヤバいって!」
「全砲門開け!目標敵旗艦スヴォロフ」
「照準よろし撃つわよ!三笠!!」
「撃ち方用意…撃て!!!」
「降参だって言っているのに良く撃ってくれたわね?」
「あなた国際法を勉強していて?マストに白旗を揚げただけでは降伏と見なされないわ。機関を停止し主砲を反転させて初めて安全が保証されるもの。見くびらないで頂戴」
「…流石ね、アドミラル三笠いいわ今回は降参しておいてあげる」
「気が進まないのなら私達はあなたたちバルチック艦隊を全滅させるだけよ。言い方にお気をつけなさいな」
「…東洋の猿どもが!!」
「敷島姉さん、朝日姉さん」
「ああ!いつでもいいぜ!」
「照準よろし、目標第三艦隊旗艦ニコライ1世」
「…私達は以後貴官の完全指揮下に入る。」
「よい決断です。無駄に血を流させることは我が連合艦隊も望むところではありません」
「…一つ尋ねてもよろしい?」
「どうぞ」
「我がバルト、黒海艦隊はどうなってしまったの…一切連絡が取れないのよ」
「残念ですが、皇帝ニコライあなたちの艦隊は我々帝国連合艦隊がそのほとんどを撃沈、あるいは拿捕している状態よ…確認が取れているものだけでもスヴォロフ、オスラービア、アレクサンドル3世、ボロジノ、オリョール、ウラル。心中お察しするわ」
「………嘘。よね」
「いずれ公式記録と共に世界中に知られることになるわ」
「あなた達の被害は」
「水雷挺3隻が沈められたわ」
「何よそれ!私達の艦隊は全滅であんたら東洋の猿が無傷!?デタラメも大概にしなさい!」
「無傷なわけあるか!!」
「ぐっ!…」
「貴様らバルチック艦隊が対馬に現れるまで我が国民が旅順で遼陽、奉天でどれだけ死んでいったと思う!初瀬姉さん、八島さん…貴様らの国民もどれだけ死んだと思っている!!」
「…はっ…発言を…て、撤回…する!」
「…申し訳ない、捕虜に対する行いではなかった。ご同道いただきますニコライ1世」
「…感謝するわ」
「…ゴホ…ゴホ…」
「風邪?」
「貴官には関係のないことよ」
「三笠!」
「…敷島姉さん」
「ポーツマス講和成立したみたいだな!小村のおっちゃんもやるじゃんか!」
「…ええ。そうですね」
「浮かない顔だな、どうかしたか?」
「賠償金は取れないでしょうね」
「朝日姉さん…」
「おい、どういうことだよ朝日!俺たちは勝ったんだぞ?日清のときは全国に学校を建てられるくらい儲かったじゃねーか!」
「敷島、私達はロシアに勝ったのではないわ、バルチック艦隊に勝っただけなのよ。あの国の経済力我が日本はすでに借金まみれ、これ以上は戦えない。となると賠償金を手放してでも成立させた講和なのよ」
「なんだよ…それ…借金があるならなおさら金が必要じゃねーか!」
「信じましょう、この国の国民を…それに今回他国の干渉はないでしょう」
「そうね、三笠。これで日本は世界に認められた独立国になるわ」
「独立国か…いい響きだな!」
「姉さん、私はこれからも海軍で仕事をします。ドイツのヴィルヘルム2世彼は危険な男です、今回ロシアが南下政策を推し進めたのも裏に彼がいるはずです」
「そうね、おおよそフランスとロシアを恐れての事だと思うけれど」
「アメリカの動きにも目を見張らなければ」
「テディね…何を考えての仲介だったのかしら」
「彼はリアリストです今は我が国の海軍戦力に勝てない事を知っています…彼の後継にウィルソンが就任することがあれば…世界は悪夢を見るでしょう」
「それもそうだけどよ。一番危険な奴忘れてねぇか?」
「私達の故郷。イギリス」
「世界はかの国に巻き込まれ悲惨な運命をたどっていますインドしかり清国しかり。同盟を結んだ日本はイギリスを信じるべきか手を離すべきか」
「丁度いいわ、私も海軍大臣のポストに就任が決まったの。三笠、あなたはどこに就きたい?」
「後継を育てたく思います」
「ならば横須賀鎮守俯司令として着任はどうかしら。あそこなら最新鋭の艦娘を教育できるわよ」
「ええ、お願いいたします」
「おいおい、俺をおいて話進めるなよな!」
「うふふ、すみません敷島姉さん」
「敷島ももう少し勉強できたら次官くらいには推薦したのだけれど?」
「おい!朝日!そりゃどーいう意味だ!」
「何ってそのままだけれど」
「姉さん達!写真を撮りにいきませんか」
「写真?いいわね!」
「や、やめようぜ…だってあれ魂抜かれるって…」
「もう敷島姉さんたら…いつまでそんな迷信を」
「で、でもよお」
「いいからいいから!」
「お、おい!離せ!三笠!朝日!!」
「おい、まだかかるのか?」
「仕方ないじゃない写真はこういうものよ」
「ふふ、すみません私だけ座らせていただいて」
「やっぱ三笠ずりぃーぞ!俺が長女なんだから俺が座る!」
「ちょっと!敷島!動いた…」
「何回言わせるんだ!!うごくな!!」
「はい!すみません!」
「…ふふふ」
「では撮りますよ…はいもうよろしいです」
「はあ~どっと疲れたぜ…」
「綺麗に撮れているかしら」
「姉さん…私…………」
「どうした三笠…おい!三笠!三笠!!」
「三笠!!」
「…ん…」
「三笠!?」
「…敷島…姉さん…」
「よかった…お前写真の後に突然倒れやがってマジで魂抜かれちまったのかと心配したぜ…」
「…すみません…姉さん…」
「三笠!!」
「朝日…姉さん…」
「よかったわ目を覚まして…」
「すみません…ご心配おかけして」
「それはいいのだけれど…お医者の先生からお話があるそうよ…歩ける?」
「はい…」
「三笠様…救国の英雄にこんな診断を告げねばならないのはとても心苦しいのですが…」
「かまいません、続けてください」
「あなた様は末期の肺癌を患っておいでです」
「お、おい…そりゃ治るんだよな!!」
「…既に転移している可能性もあり…西洋の手術を行っても完治する可能性は…」
「ば、バカなこと言ってんじゃねーぞ!!このヤブ医者が!!」
「敷島!!」
「あ…朝日…信じるのか!このヤブ医者を!」
「…知っていたのね。三笠」
「…はい」
「お、お前!なんでそんな大事なこと俺たちに隠してたんだよ!!」
「三笠は私達に戦争の間心配をかけたくなかったのよ!長女なのにそんなこともわからないの!」
「そんな…そんなよぉ…俺たち…頼りないかよ…三笠?」
「三笠…なんでこんなになるまで放っておいたのよ…戦時中とはいえ。もうこうなってしまってからじゃ…」
「先生…ありがとうございました…ゴホ…ゴホ」
「お、おい待てよ!三笠!!」
「三笠!入院しましょう?漢方や西洋の薬を試すの!何より鎮守俯の仕事なんてさせないわよ!ただでさえ激務なのに、そんな体で!まずは安静にして滋養をつけるの!」
「朝日姉さん、私に残された時間は多くありません」
「だから!」
「ならば、この体。尽きるまで、私は死んでいった仲間のためにも平和に役立てたいのです」
「…三笠ぁ…三笠…なんでだよぉ…なんで俺に言ってくれないんだ…」
「敷島姉さん…姉さんがあのとき私の後に続いて回頭してくださらなかったら私はここにはいません…もう姉さんは私を救ってくださりました」
「…三笠ぁ…」
「朝日海軍大臣」
「…何かしら」
「私に横須賀鎮守俯司令長官の任を」
「…いつも勝手すぎるわよ…」
「お願いします」
「…わかったわあなたに横須賀鎮守俯司令長官の内示をだします」
「ありがとうございます…朝日姉さん」
「三笠!お前一人死なせねぇからな!絶対だぞ!」
「敷島姉さん」
「俺にはお前と朝日だけなんだよ…頼むから二人とも…俺を…一人にするんじゃ…ねぇよ…」
「今日は3人で過ごしましょう…今日だけ…今日だけは3人で」
「…はい」
明治38年(1905年)9月11日 三笠艦内後部弾薬庫にて爆発事故が発生。船体に穴が空き浸水、沈没
死亡2名生存不明者230名を出してしまう