戦艦三笠の苦悩   作:樋口晶子

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第10話

「急な会談要請。ごめんなさいね?」

 

「いえ貴国の性格は重々承知しておりますから、驚くことではありません」

 

「ふふ…日本政府にも貴官宛にも何度も打診したのだけれど明確な回答が得られなかったからこうして直接お話しにきたのよ」

 

「ああ、あの文書ですか…ロイヤルネイビーが何を仰っているのか要領を得なかった為通信障害と判断し返答はいたしませんでした」

 

「三笠司令官はイギリス生まれなのに英語も読めないのかしら?」

 

「そちらの電文に文脈的誤りがあったとお考えになる頭脳をデューク海軍卿は持ち合わせていないようね」

 

「うふふ…そんな態度では日英同盟も風前の灯火のようね。本国では日本との同盟を解消すべきだとの声もあるのよ?日本は英国に同盟国としての責務を果たしていない不誠実な国だとね。そんな議会を抑えているのがロイヤルネイビーだというのにずいぶんな言い様だこと」

 

「イギリスが誠実を語るとは…っ!あははは!」

 

「…」

 

「この三笠、生まれて一番面白い冗談を伺いました…デュークはとても面白いセンスをお持ちのようですね」

 

「金剛と比叡をわがロイヤルネイビーに合流させなさい」

 

「…まぁ、貴国もお困りのようですからお話だけはお伺いしましょう」

 

「わがイギリスはフランスからの要請で連合側としてドイツに宣戦を布告するわ。ロイヤルネイビーの戦力として巡洋戦艦を1隻でも多く戦線に投入しドイツ艦隊を撃破。中央同盟の通商を破壊し勝利を納めるわ。その為に日本の金剛、比叡を貸与してほしいというイギリス政府からの正式な要請よ」

 

「いかなる理由があるにせよ私の一存で決定出来ることではありませんね。この件は私がお預かりして然るべきときに海軍大臣に相談し決裁が頂ければ議会の審議にかけ政権のご支持を頂戴できましたら時期を決定し派遣の部隊を編成して準備をさせて頂きます」

 

「つまりあなたではお話にならないということかしら」

 

「私以外では窓口になり得ないということですが?いかがしますか」

 

「日本も対ドイツ戦参加したいでしょ?」

 

「はて…戦争をしたい国などあるのでしょうか」

 

「強がらなくていいわ!山東半島…青島は日本に譲りたいとイギリスは考えてるのよ?金剛だけでもいいわ今日決裁が貰えるならイギリスの要請ということで日本の参戦を認めてあげるのもやぶさかではないのよ」

 

「貴官は交渉に使えるカードを履き違えているようだ…金剛、比叡は日本政府が国費によって建造したもの。その際民間経済に欧州の論理を持ち込み国防事業から多額の利益を得ようとしていた国が今度は売った艦を貸せと…しかもその見返りが参戦と…ご都合主義にも程があるのではないか!」

 

「勝ち馬に乗るのは貴国も望むところでしょ?同盟国の勤めを果たしなさい!」

 

「長旅になるでしょう。お早めにお帰りなさい」

 

「後悔するわよ」

 

「後悔したことがないの」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ三笠、議会からも陸軍からも海軍の出兵はまだなのかって散々言われてよぉ…俺は胃がキリキリして議会行きたくねぇよぉ」

 

「今、ドイツ領を攻めることは国際法に抵触し我が国は危うい立場に立たされます。陸軍には説得のため鹿島を派遣しておりますので今しばらくご辛抱ください」

 

「しかしよぉ連合に入って参戦するにも当のイギリスは二転三転するしよぉ?もういいんじゃねーか?」

 

「いえ、この戦争必ず日本は参戦しなければこの先未来はありません」

 

「なんでだよ?」

 

「青島の租借権はもちろんのこと戦場のヨーロッパへの物質輸出による特需により日本の経済は急成長できます。そして戦勝国になった場合、世界の覇権を握る一翼となりアジア太平洋地域は日本の統治するところになります。つまり大国になることができる千載一遇のチャンスなのです」

 

「…三笠…」

 

「そのためにもやむ終えず同盟国としての大義名分が参戦には必要になります。どうかご辛抱を」

 

「…だ、だとしたらイギリスがそんな日本の利益になる参戦を許すわけなくねーか?」

 

「遠いアジアの地では何事も日本無しでは達行きませんよ」

 

「大臣!」

 

「入れ」

 

「あら香取なにか動きはあった?」

 

「至急大臣と軍令総長に大本営出席要請です」

 

「姉さん」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

「書記官として海軍戦艦鹿島が読み上げます。本日15時付け発信イギリス政府、宛日本政府。一つドイツ領山東半島青島攻略に当たり同盟国大日本帝国の助力と連合国としての戦争参加を希望する。二つ欧州戦線にも陸上戦力の投入を希望する。三つ太平洋沿岸警備、ドイツ船籍による太平洋上通商破壊を懸念し日本海軍に洋上護衛を希望する以上です」

 

「私は海軍の派遣部隊編成のため席をはずさせていただきます。姉さんあとは宜しくお願いします」

 

「あ、ああ…わかった」

 

「鹿島」

 

「はい!」

 

 

 

「先ずは第2艦隊を旅順に派遣するわよ」

 

「編成はいかがしますか」

 

「周防、石見、丹後、沖島、見島、磐手、八雲、常磐予備戦力として高千穂を編成しなさい」

 

「…それではほぼ主力が接収艦になります!」

 

「まずはあの娘達で様子を見るわ」

 

「しかし…」

 

「イギリスがどう動くけわからないわ戦力は温存するわよ」

 

「…かしこまりました」

 

「オーストラリア方面に伊吹、矢矧。アメリカ方面に肥前、浅間、出雲。欧州方面に駆逐艦隊を派遣する準備をなさい」

 

「はい!」

 

「香取に戻ったら南西諸島の警戒任務に当たるよう」

 

「はい!」

 

「私達も日本海に出るわよ」

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