戦艦三笠の苦悩   作:樋口晶子

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第2話

「ふぅ…懐かしい景色ね…あれは」

 

「Welcomehome!お帰りなさい三笠先輩!」

 

「ええと…あなたは?」

 

「申し遅れました私、ヴィッカースより今回ImperialJapaneseNAVY視察団の方々をご案内させていただきますドレットノートと申します!以後お見知りおきを」

 

「あなたが…初めまして。次期主力艦建造依頼視察団団長の三笠よ滞在中はお世話になるわね」

 

「存じております!かの日本海海戦で見事な指揮と艦砲射撃で宿敵ロシアのバルチック艦隊を撃滅なさったまさに英雄!同じヴィッカース生まれとしてこんなに光栄なことはありません!」

 

「それはそうとこんなに手厚い出迎えをしていただけるなんて」

 

「いいえ!盟友大日本帝国のしかも三笠先輩がいらっしゃったのです!本当はプリンセスにもお越しいただく予定だったのですが…」

 

「そんな!いいです…早速で悪いのだけれど視察団の技術士官を造船所に案内してもらえないかしら」

 

「かしこまりました!三笠先輩はヴィッカースの本社にご案内いたします!」

 

「ありがとう…ゴホ…ゴホ」

 

「三笠先輩、風邪ですか?」

 

「いえ、なんでもないわ」

 

「ではこちらの車に!」

 

 

 

 

 

「次期主力艦計画…」

 

「ええ、横須賀で薩摩を就役させたばかりなのにごめんなさいね」

 

「ドレットノートですか」

 

「かのイギリスで開発された新鋭艦。どうも我が国の造船技術は1歩遅れているわ」

 

「…日英同盟を建前に英国の技術共用を求める。ということですね」

 

「ええ、戦後のごたごたで後手に回っていたけれど議会の予算案がようやく可決されたの。三笠、あなたには英国に渡ってもらいヴィッカース、アームストロングどちらの建造技術に優位性があるか。そしてこれからの我が国造船技術飛躍のため技術提供の交渉窓口になってもらうわ」

 

「わかりました姉さん」

 

「…私からの忠告。英国のヴィッカースと独のジーメンスには不穏な動きがあるわ」

 

「…といいますと」

 

「私もすべてを把握しているわけではないから確かなことは言えないけれど。この伊号装甲巡洋艦計画落札した三井商事…裏でジーメンス、ヴィッカースとの黒い噂が絶えないわ。価格交渉の際は相手の出方に注意を払いなさい」

 

「どうにも…骨が折れそうです」

 

「出立は2か月後よ。ごめんなさい大病の三笠にこんな役目を」

 

 

 

 

 

 

「今回はアームストロングとうちの一騎討ちだそうですが…どうですか?三笠先輩の下馬評は!」

 

「…唐突に聞いてくるのね」

 

「はい!三笠先輩とはbusiness関係なくお腹を割ってお話したいので!」

 

「私からは何も言えないわ、技術力のある方に依頼する…それだけよ」

 

「三笠先輩は手厳しいですね!ははは…でもでも技術力なら我々ヴィッカースが一枚も二枚も上手です!!」

 

「たしかにそうかもしれないわね」

 

「はい!何を隠そうこの私、世界中に名前が轟いた弩級戦艦第一号なんです!」

 

「ええ、知っています」

 

「あらら…」

 

「排水量18000t最大船速21ノット30.5cm連装砲5基搭載。副砲を排除し片舷戦闘状態で4基8門の主砲砲撃が可能。単純計算で今までの戦艦火力の2倍を有している」

 

「当たりです!流石三笠先輩です私の事を知ってくださっているなんて!!私こんなに嬉しいことはないです!」

 

「でもアームストロングにも八島さん、初瀬姉さん最近では鹿島を発注しているわ彼女の訓練成績はなかなかのものよ。なのにスペックだけですぐにヴィッカースに依頼というのは国費で発注をする以上無責任すぎるわ」

 

「ごもっともです!…しかし…我がヴィッカースが弩級戦艦以上の火力をしかも速度もでる画期的な未来の戦艦を建造しているとしたら…?」

 

「…あなた!」

 

「さあ!つきました!ヴィッカース本社です」

 

「…ありがとう」

 

「いえ!ではまず我が社の取締役インヴィンシブルにお会いしていただきます」

 

「ええ、わかったわ」

 

 

「遠路遥々ようこそいらっしゃいました!アドミラル三笠」

 

「こちらも手厚い歓待ありがとうございますミスインヴィンシブル」

 

「ドレットノートの運転はいかがでしたか?あの子あなたに憧れていて是非案内をと…道中うるさくはなかったですか?」

 

「いえ、おかげで移動中にも有意義な会話ができ私も退屈しませんでしたわ」

 

「それは何よりですアドミラル三笠。早速ですがわが社の技術面は現地で視察されている貴国の方々の調査報告を待って頂いて私からは貴国の要望とご予算について全権であるアドミラル三笠。あなたと意見のすり合わせがしたい」

 

「ええ、こちらから提示させていただく条項は以下の通りよ」

 

一、次期主力戦艦伊号装甲巡洋艦をイギリス国内1社アームストロングあるいはヴィッカースに建造を発注するものである

 

一、伊号装甲巡洋艦は先にヴィッカースで建造された弩級戦艦と同等あるいはそれ以上の性能を有しているものとする

 

一、建造にあたり日本海軍技術士官立ち会いのもと、長期的に建造工程を視察するものとする

 

一、砲塔、機関、設備、船体の設計図を一式日本国内に持ち帰り以後の同型艦建造は日本国内で行う

 

一、建造予算は上限2000万円までとする

 

 

「…これはまた、随分と手厳しい内容ですねー」

 

「我が日本はあなた達の仇敵ロシアに勝利し弱体化させるに至ったわ。今後日英同盟があるかぎり貴国の技術共用を受けお互いに利ある軍事展開ができればイギリスにとっても良いことだと思うのだけれど」

 

「仰ることはごもっともです2項については異論ありません我々としても貴国は大事なお客様ですので、わが社の総力で最高の艦娘を建造いたします」

 

「ええ」

 

「ですが…3、4項につきましては…私としてはyesと今すぐにでもお返事したい!…ですが、これはロイヤルネイビーに確認をとらなければなりません。その結果しだいではご意向に添えないかもしれない」

 

「その点についてはご心配なく、すでにロイヤルネイビーとは折り合いがついているわ。あとは御社の判断次第なのだけれど?」

 

「そうでしたか!流石はアドミラル三笠抜け目がありませんね!…いいでしょう、貴国から提出された設計を元にわが社の技術を盛り込んだ今回の設計図。貴国にお渡しします技術士官の派遣も承認いたします」

 

「ありがとうミスインヴィンシブル」

 

「ですが第5項予算を2000万円ですか…」

 

「ええ、議会の承認を得られた上限一杯よ」

 

「あらあら…ふふふ、おかしいですね?私達の調べでは今回の伊号計画2500万円までの予算が降りたと聞き及んでいるのですが」

 

「ミスインヴィンシブル。どこでそのようなガセネタを掴んだのかは知らないけれど我が国が支払えるのは2000万円までよ。妙な言いがかりは御社の為にもならないと思うのだけれど」

 

「ふふふ…これは失礼いたしました。しかし…弩級戦艦のドレットノートでも日本円に換算して1700万円…これに新鋭技術に技術共用も含めると…弊社は赤字ですよ?アドミラル三笠はこんな無理を言われる方では無い。と信じています」

 

「信じるのはかまわないけれど伊号計画の予算は2000万円までよ。今日はこちらの条項を伝えに来ただけだから長居はしないわ」

 

「ああ、すみませんアドミラル三笠大したおもてなしもできなくて」

 

「いいえ、いいのよ」

 

「しかし…わが社が弩級戦艦をも凌ぐ戦力の開発に成功し、運用技術そして技術共用も視野に入れている…としたらどうです?予算の吊り上げは見込めるでしょうか」

 

「…あなたもなの?ハッキリ言ったらどうなの」

 

「ふふふ…私達ヴィッカースでは弩級戦艦の後継超弩級戦艦の開発に成功しています」

 

「…そんな情報」

 

「もちろんです!これは最重要機密。未だにどこの国にも伝えていない情報ですから…その名もオライオン級戦艦。速力はそのままに主砲34.5cm連装砲5基、10.2cm単装砲16門搭載この意味が…三笠さんにならご理解いただけますね?」

 

「…本人を見ないと信じられないわ」

 

「はい!もちろんです明日はアームストロング視察のお帰りにオライオンと共にお待ちしています」

 

「では」

 

「イギリス視察どうぞごゆっくり…ふふふ」

 

 




1906年12月2日
ドレットノート級戦艦が就役
これ以後戦艦の兵器としての運用が大幅に見直された
艦橋に照準システムを設置する事で同一目標への着弾率が上昇
元来18ノット程度の速力をタービンの革新で21ノットに引き上げ
火力を2倍にした結果
距離の支配権という概念を確立
アウトレンジ先方の先駆けともいうべき革新的な戦艦であった
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